近年のドローン技術の発展によって、様々な産業でその活用が進んでいます。そんな中、あの人気アニメーション映画『魔女の宅急便』を彷彿とさせる、空飛ぶクロネコによる宅配サービスがついに実現しました。この記事では、その最新技術とサービスについて紹介します。
YAMATO HOLDINGS
ヤマトHDによる次世代イノベーション
ヤマトホールディングス(ヤマトHD)は、日本の宅配便最大手であり、ヤマト運輸をはじめとする物流関連子会社を傘下に持つ持株会社です。本社は東京都港区にあります。
同社は1976年に「宅急便」サービスを開始し、物流に革命を起こすことに成功しました。今では、宅配便事業を中心に、物流・倉庫・荷主向けシステムソリューションの提供、自動車運輸事業、国際輸送事業などを展開しています。また、近年は、ドローンや自動運転技術の研究開発にも力を入れており、新しい物流サービスの開発に取り組んでいます。
ヤマトホールディングスは、顧客の利便性を高めるために、宅配便の荷物の受け取りや返品の方法を多様化し、ネットショッピングの普及に合わせた物流システムを構築しています。また、環境に配慮し、自動車の排出ガスを削減するなど、社会的責任も果たしています。
現在も、ヤマトホールディングスは物流の分野でのイノベーションを追求し、より効率的かつ持続可能な物流サービスの提供を目指しています。
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「空飛ぶトラック」ヤマトホールディングスの新たな挑戦
ヤマトホールディングスは、従来の配送サービスの枠を超え、空陸一体型輸送サービス「空飛ぶトラック」の開発を進めています。これは、大型の無人飛行機を使って物資を空中から降下させることにより、陸上輸送を大幅に短縮し、迅速な配送を実現することを目指しています。
物流倉庫を中心とした空飛ぶトラックの運用
物流倉庫を拠点に半径20キロから40キロの範囲で、常時多数の空飛ぶトラックが運行されることが計画されています。これにより、広範囲にわたる効率的な配送が可能になります。
着陸ポイントと配達員による手渡し配達
空飛ぶトラックは、顧客の家の前に直接着陸するのではなく、家の近くのビルの屋上などのランディングポイントに着陸します。その後、配達員が荷物を受け取り、従来通り手渡しで配達を行います。この方法により、より迅速かつ効率的な配送が実現されると同時に、顧客の安全面やプライバシーも考慮されています。
空飛ぶトラックが解決する物流課題
空飛ぶトラックによる配送は、従来の宅配サービスに比べてさまざまな物流課題を解決することができます。具体的には以下のような点が挙げられます。
- 大型の荷物や長距離輸送に対応できることで、従来の手段では困難だった物流ニーズに対処できる。
- 交通渋滞を回避し、緊急時やピーク時の需要に迅速に対応できる。
- 山間部や離島など、陸上輸送が困難な地域へのアクセスが向上する。
ヤマトホールディングスとベルヘリコプターの協力
2018年10月12日、ヤマトホールディングスは米国テキストロン傘下のベルヘリコプターと「空飛ぶ輸送」を実現するための協力で合意したと発表しました。物量業務のノウハウを活かし、ヤマトがポッドの開発を担当し、機体の設計・開発・製造はベルが主導する形で進められます。
この協力により、ヤマトホールディングスは宅配物のより迅速かつ効率的な配送を実現することを目指して、ベルヘリコプターの技術やノウハウを取り入れることができるようになりました。一方、ベルヘリコプターは、ヤマトホールディングスの物流ノウハウを活用し、より実用的な空飛ぶ輸送システムの開発につなげることができます。
法整備と社会受容の課題
ベルの日本法人担当者は、「空を飛ぶには、法整備に加え、社会全体で受容してもらう必要がある」と語っています。空飛ぶ輸送システムの実現に向けて、法整備や安全面の検討、さらには社会的な受容が不可欠な要素となります。
今後の取り組み
ヤマトホールディングスとベルヘリコプターは、今後も実験を繰り返しながら、関係省庁への働きかけやPR活動を行っていくとしています。これにより、空飛ぶ輸送システムの実現に向けた技術開発や社会的な受容を促進することが期待されます。
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ヤマトホールディングスとベルの協力に対する期待
ヤマトホールディングスの執行役員、牧浦真司は、同社が1世紀近く物流サービスを提供してきた経験をもとに、ベルと協力して次世代のテクノロジーソリューションを利用し、高品質な配送サービスを提供して新たな顧客価値を創造することに貢献できることを喜んでいると述べています。
一方、ベルのイノベーション部門のヴァイス・プレジデントであるスコット・ドレナンは、ここ数年間、ベルのチームが画期的な新時代のソリューションに焦点を絞り、世界中の顧客サービス強化を目指してきたことを強調しています。また、ベルの専門技術を活用することで、既存の民間物流のあり方を変革できることに大きな期待を抱いています。
Scott Drennan, Vice President of Bell’s Innovation Team, shares his vision of the future of the #UAS industry and Bell’s future role in it with @Amsterdamdrone. #avgeek
— Bell (@BellFlight) September 27, 2018
新たな空の輸送モードの実現が現実に!
ヤマトホールディングスとベルの協力により、新たな空の輸送モードの構築が実現されることが期待されています。スコット・ドレナンは、両社の協力を通じて、将来の大規模物流の先例を世界に示すことを切望していると述べています。このような取り組みが成功すれば、物流業界におけるイノベーションの波がさらに加速し、顧客にとっても多くの利点が生まれることでしょう。
空の移動革命に向けた官民協議会への参画
ベルとヤマトホールディングスは、国の「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画しました。この協議会は、経済産業省や国土交通省などが主導し、新たな空の移動手段に関する技術開発や制度整備などを検討するために設置されたものです。
官民協議会の目的と期待
官民協議会の目的は、新たな空の移動手段の実現に向けて、技術開発や制度整備、安全面や環境面の検討を行うことです。また、官民連携により、新しい技術やサービスが社会に広がりやすくなることが期待されています。
ベルとヤマトHDの協議会での役割
ベルとヤマトHDは、協議会において、空飛ぶトラックやドローンによる配送など、空の輸送手段の開発と実用化に向けた技術やノウハウを提供し、制度整備や安全面の検討に貢献することが期待されています。また、両社の協力が、空の移動革命の実現に向けた技術開発や制度整備を促進し、物流業界におけるイノベーションを加速させることにつながるでしょう。
電動垂直離着陸機「eVTOL」
開発される「電動垂直離着陸機・eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)」は、地面と垂直方向で離着陸し、空中で90度機体を傾けて飛行することができます。これは、ヘリコプターのように滑走路がなくても離着陸ができる大型のドローンです。
APT 70の概要と特徴
「APT 70」は、ベルとヤマトHDが共同開発した自律ポッド輸送(autonomous pod transport)システムの一つで、荷物を自律的に運搬することができるドローン技術を応用したポッド型輸送システムです。テイルシッター型のeVTOL機(電動垂直離着陸機)であるAPT 70は、以下のような特徴を持っています。
- 空気抵抗を減らすことで時速160km以上で飛行可能
- 32kgの貨物を積載できる
- 従来のローターを搭載した航空機よりもはるかに速く飛ぶことができ、ローターの向きを垂直から水平に変えて飛行することができる。
APT 70の目標と実証実験
ベルの目標は、APT 70を用いてNASAが開催するSystems Integration and Operationalizationのデモの一環として、商用ミッションのシミュレーションに成功することです。この実証実験は、自律航空機をアメリカでの商業サービスのために準備する上で重要なステップとなります。集中コマンドと障害物の回避技術によって、APT 70がどのように運用されるのかを示すことが目的とされています。APT 70が商用サービスに実際に導入されるためには、このような実証実験を通じて安全性や信頼性の確認が必要です。
大型ポッド型輸送システムの開発
さらに重く大きな荷物を運ぶことができるように、より大型のポッド型輸送システムを開発することが検討されています。具体的には、880ポンド(約400kg)の貨物を載せても飛行できるAPT 880の開発が考えられています。
APT 880の展望
APT 880の開発が実現すれば、より大量の荷物を効率的に空中で輸送することができるようになります。これにより、物流業界における大型荷物の輸送ニーズに対応することができ、さらなる効率化や環境への負荷軽減が期待されます。今後、APT 70やAPT 880などのポッド型輸送システムが普及することで、物流業界全体が大きく変革する可能性があります。
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PUPA70XGと貨物eVTOL機の組み合わせ
PUPA70XGは、APT 70やAPT 880などの貨物eVTOL機に結合して荷物を空輸することのできる貨物ユニットです。試験機は70ポンド(約32kg)までの積載可能重量を持ち、空中での荷物輸送をより効率的かつ柔軟に行うことができます。
「PUPA(Pod Unit for Parcel Air-transportation:荷物空輸ポッドユニット)」は、「サナギ」を意味する英語で、地上を動くイモムシと空を飛ぶチョウの中間の存在として、陸路と空路の輸送をつなぐ存在としての意味が込められています。この名前は、PUPAの変形機構が地上での移動に適した車輪を持つ台車モードと、空中での移動に適した空力特性を備えた飛行モードに変形できることに由来しています。eVTOL機に搭載時には、まさにサナギのような形になる。
PUPAは、変形を可能にするために、旅客機のように車輪を格納できる機構や、着脱可能な取っ手などを備えています。また、陸上に専用の施設や設備を設ける必要がないように、PUPAは独自の車輪を持っており、空港などの地上で簡単に移動することができます。
APT70×PUPA70XG 実証実験を開始!
2019年9月26日に行われたテキサス州フォートワースでの試験飛行は、ヤマトHDとベル・ヘリコプターが共同開発中の無人輸送機の技術的な実証を目的として行われました。この試験では、ベル・ヘリコプターが開発した自律運航型ポッド輸送機「APT70」と、ヤマトHDが開発した貨物ユニット「PUPA」が使用され、成功裏に飛行が実施されました。
ヤマトHDの代表取締役社長である長尾裕氏とベル・ヘリコプターのCEOであるMitch Snyder氏が出席したことは、両社が無人輸送システムの技術開発に対して真剣に取り組んでおり、その成果に期待が寄せられていることを示しています。
大成功!
試験飛行では、APT 70とPUPAを連携させて、実際の空輸システムでの運用を想定したさまざまなテストが行われました。
- APT 70の空力特性を最適化した姿勢での自律飛行
- 飛行中および地上での作業時の高い安全性と可用性
- 空輸からラストワンマイルへのシームレスな輸送形態の遷移
- 荷物の格納と取り出し時の容易な取り扱い
その結果、空輸からラストワンマイルへのシームレスな輸送形態や、荷物の格納と取り出し時の容易な取り扱いなど、技術開発の成果が証明されました。
30kgの荷物を積める機体を、時速150kmで飛行。ヤマトHDがアメリカのヘリコプター製造大手と共同開発中の無人輸送機「空飛ぶトラック」の試作機を試験飛行しました。
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) August 27, 2019
【記事】https://t.co/PUjW17PvzY
【全編映像】https://t.co/3F2AL3EDb4 pic.twitter.com/wH7XLt6Rzf
この結果にヤマトHDとベルは「大きな第一歩」
ヤマトホールディングスの長尾裕社長は、今回の実証実験の成功により、新たな空の輸送サービスを構築するための大きな第一歩を踏み出すことができたとしています。また、ベルの社長兼最高経営責任者であるMitch Snyder氏も、両社でテクノロジーを更に洗練し、安全で効率的かつ機敏な機体を生産することで、民間物流に対する市場のアプローチを変える可能性を秘めた革新的なソリューションを開発していくと述べています。
実現する日は近い!
ヤマトホールディングスとベルヘリコプターが共同開発したAPT 70は、従来のドローンに比べて2倍程度の速度と行動範囲を実現しているとされています。これにより、より大量の荷物をより迅速に輸送することが可能になり、物流業界における効率性の向上が期待されます。
また、今後もAPT 70の改良や実用化に向けた実践的な飛行試験が行われる予定です。これまでの物流ドローンによる自律飛行では、10kg前後の荷物を運ぶ小型機が主流でしたが、APT 70のような大型機の登場により、より大量の荷物をより迅速かつ効率的に輸送することが可能になることが期待されます。
両社は2020年代前半までに導入されることを目指しています。