ベネズエラは、かつては豊かな石油資源で知られる国でしたが、2014年に原油価格の急落が引き金となり、ハイパーインフレや深刻な経済危機に直面するようになりました。企業や家庭の資産が目減りし、失業率が上昇するなど、多くの人々が苦境に立たされています。
さらに、医療や食料などの不足が深刻化し、国内から何百万人もの人々が国外に脱出しています。この記事では、ベネズエラの現状について、具体的な数字や事例を交えて詳しく解説しています。
“ハイパーインフレ”で地獄と化した南米の楽園!石油に呪われた国「ベネズエラ」(1)
Hyperinflation
全国民が同時に破産!「ハイパーインフレ」
ベネズエラ経済の急速な悪化は、いくつかの要因によって引き起こされました。まず、2014年に原油価格が急落し、原油に依存するベネズエラ経済に大きな打撃を与えました。また、政府の財政支出が過剰であり、そのためにインフレが引き起こされたともされています。
このような状況下で、政府は通貨価値の維持に失敗しました。ボリバル通貨は急速に価値を失い、経済は混乱に陥りました。国民は、食料や医療品などの基本的な生活必需品を求めて、通貨の価値が急速に下がる中で苦労しました。
さらに、国内外からの投資が激減し、ベネズエラ経済はさらに悪化しました。企業や家庭は、通貨価値の下落によって資産が目減りし、経済活動が停滞しました。この結果、国内の失業率が上昇し、多くのベネズエラ人が貧困に苦しんでいます。
紙幣の価値が完全に崩壊
ベネズエラのインフレ率が2016年に225%に達したことは、世界的に見ても非常に高い水準であり、南スーダンを除けば最も高かったことが分かります。このようなインフレ率の高さは、国民の生活に深刻な影響を与えていました。
2018年、ベネズエラでは米ドルで1.14ドル相当のチーズ1キロを購入するために、2017年に導入されたばかりの1000ボリバル紙幣を7500枚用意しなければならなかったのです。
これは、通貨の価値が非常に低下していることを示しており、国民にとって負担が大きくなっていました。また、53セント相当の石鹸1つを購入するためにも、同じ1000ボリバル紙幣が3500枚必要でした。
失業率が急上昇
ベネズエラのハイパーインフレによる経済危機は、失業率にも大きな影響を与えています。
インフレの影響で物価が高騰し、企業や家庭の資産が目減りする中、経済活動が停滞しました。これにより、企業は業績が悪化し、リストラや倒産が相次いでいるため、多くの人々が仕事を失いました。また、投資が減少し、新たな雇用の創出も困難になってしまいました。
失業率は2015年には7%台だったのに対し、2018年には38%台まで上昇したと推定されています。この急激な失業率の上昇は、経済が深刻な状況にあることを示しています。
公務員を給料削った結果、職場放棄
税務署から人が消え、学校では教師が不足し、公共料金が徴収されない状況が続いています。これは、公務員の給与が大幅に下がり、何十万人もの欠勤や退職が相次いでいるためです。公務員は、生活費を賄えないほど低い給与収入を諦め、職場を離れています。
スタッフが減少したことで、電力会社や電話会社は停電や技術障害が発生しても対応が遅れることが多くなっています。公務員数十人への取材によれば、カラカスの地下鉄公社は運行数を制限し、国税当局は民間企業に対する厳しい監視を止めています。
このような状況は、国民の生活に悪影響を及ぼし、社会的な不安を増大させています。政府は、公共サービスの改善や公務員の待遇改善に取り組む必要がありますが、経済危機が解決しない限り、これらの問題は容易に解決しないでしょう。
富裕層は犯罪に巻き込まれる
このような危機とは無縁のはずの富裕層にも影響を与えています。チャベス前政権時代から、ベネズエラ政府は企業や富裕層に対する締め付けを強化し、価格統制を実施して貧困層の生活支援を進める政策を推進してきました。これにより、富裕層にも資産の目減りや経済活動の制約が及んでいます。
また、治安の悪化も富裕層に影響を与えています。ベネズエラでは、強盗や押し入られる事件が増加しており、富裕層も安全を確保することが難しくなっています。経済危機が深刻化する中で、貧困や失業が増えることで犯罪が増加し、国内の安全保障が損なわれているのです。
ビジネスを諦め国外へ
このような状況下で、富裕層もベネズエラ国内での生活やビジネスが困難になっています。多くの富裕層や企業は、海外への投資や移住を検討するようになり、資金流出や人口流出が進んでいるとされています。
ライフラインがストップ!
ベネズエラの首都カラカスでは、深刻な経済危機とインフレの影響で、住民の日常生活が厳しい状況に追い込まれています。
停電が慢性的に発生しているため、政府は電気の使用時間を制限し、ショッピングモールは暗闇に包まれることが多くあります。また、一戸建て住宅や集合住宅は日常的に水不足に悩まされています。
カラカスの住民たちは水を求めて山に登り、湧き水を探すことが増えています。しかし、自動車などの移動手段を持たない低所得者層は、生活排水で汚染された川の水を使用せざるを得ない状況にあり、健康被害も懸念されています。
停電の中で略奪が頻発
ベネズエラでの停電が長引くことにより、治安の悪化が世界最悪水準にまで達しています。冷蔵設備が機能しないことで食品不足が深刻化し、食料品店などでは略奪行為が頻発しています。市民の緊張と恐怖感が高まり、治安が一層悪化している状況です。
同国第二の都市である西部マラカイボでは、暴徒化した市民によってショッピングモールが襲撃される事件が発生しました。このような事態は、国内の安全保障が損なわれるだけでなく、経済危機の解決がさらに困難になると懸念されています。
ついにベネズエラの通貨はただの紙切れになった
経済状況は極めて悲惨であり、治安の悪化と相まって国民の生活が大きく脅かされています。2019年1月のインフレ率は驚異的な268万%に達しており、国内経済は混乱しています。このようなハイパーインフレは、ベネズエラの通貨「ボリバル」がほとんど価値を持たなくなる結果をもたらしました。
歴史に残る悲惨なケース
2018年、IMFの高官はベネズエラの物価上昇率が100万%になる見通しを発表した。これはベネズエラの経済危機が、歴史に残るハイパーインフレであることを物語っています。
ハイパーインフレの定義としては、「月間50%以上のインフレ」が一般的に引き合いに出されます。この定義は、1956年に経済学者フィリップ・ケーガンが1920年代の中東欧で起きた歴史的なハイパーインフレを分析する論文で用いたものです。
月50%以上のインフレは、年率換算すると1万%以上のインフレに相当します。20世紀の歴史ではインフレは珍しい現象ではありませんが、年間2桁台のインフレはよく観察されます。しかし、5桁以上のインフレは非常にまれであり、経済史の教科書に載るレベルの珍しい事象とされています。
戦後の日本でもインフレが横行しましたが、ピークだった昭和21年のインフレ率は年率で500%程度でした(東京小売物価指数)。これは確かに恐るべき水準ですが、1万%や100万%のインフレ率と比較すると、その規模はまったく別次元です。
ベネズエラのハイパーインフレは、経済史においても非常に稀有な事象であり、国民の生活や経済活動に甚大な影響を与えています。
「紙幣供給が追いつかない」人々は物々交換でやり取り
ハイパーインフレは市民の購買力を削り、生活を困窮させ、十分な食事がとれない人も増えています。インフレ加速のスピードに紙幣供給が追いつかず、市中で現金不足が生じ、日常の買物の支払いに支障が出ています。慢性的な食料や医薬品の不足に加え、現金の入手も難しく、市民は物々交換に頼る場面が増えています。
ある女性によると、夫が捕ってきた魚が入ったクーラーボックスを手に、海沿いの道を歩きながら、「ここに現金はない。物々交換だけだ」と語ります。彼女は、4人の子どもに食べさせる食料や息子のてんかん治療薬と魚を交換できればと考えています。
タクシー運転手の男性は、信頼できる顧客からは銀行振り込みでの支払いも受け付けることにしました。現金不足のため、単純に出回っている現金が足りないというのが理由です。
もはや政府も金がない
ベネズエラでは、病院の医薬品棚がほとんど空になり、政府は製薬会社に対する50億ドル(約5650億円)の未払い金に悩んでいます。この状況を打開するため、政府は最近、外国のサプライヤー数社に代替手段による返済を提案しました。
具体的には、医薬品の代金をダイヤモンド、金(ゴールド)、コルタンで支払うという方法です。コルタンはレアメタル(希少金属)で、一定の価値があります。
「ハイパーインフレを止めるため」新通貨を発行するも市場は大混乱
2018年8月21日、ベネズエラでは通貨単位を10万分の1に切り下げるデノミネーション(デノミ)が実施され、新しい通貨「ボリバル・ソベラノ」が導入されました。この結果、多くの企業や商店が業務を停止し、労働者も仕事に出かけなかったという状況が発生しました。
経済活動にも通貨切り下げの影響が見られました。例えば、カラカスのあるカフェの経営者は、顧客が150ボリバルのコーヒー1杯を5000ボリバル札で支払おうとしたが、釣り銭がなかったため売るのを断ったと述べました。さらに、現金自動預払機(ATM)では新しい紙幣を扱うことができない状況も発生していました。
紙切れになった紙幣を使って
ベネズエラの通貨であるボリバルは、ハイパーインフレによって価値が著しく低下しました。このため、人々はボリバル紙幣の新たな使い道を見つけています。
一部の人々は、価値の低下したボリバル紙幣を使って、バッグや王冠などの工芸品を手作りしています。これらの製品は独特のデザインや色彩で、観光客に人気があり、外国通貨で取引されることが多いです。
こうした手作りの工芸品は、ベネズエラ人にとって生活の一部を支える手段となっています。しかし、このような工芸品制作は、全てのベネズエラ人にとって十分な収入源とはなりません。
数百万人が自分の国から脱出!
ベネズエラの危機が深まる中、ハイパーインフレや飢餓、犯罪、病気の蔓延などの苦境に直面し、何百万人もの人々が死を逃れるため国外へと脱出しています。2019年6月7日付けで国連が発表した情報によれば、ベネズエラ人の国外流出は把握されているだけでも400万人を超えています。
2015年末時点では、ベネズエラ人の国外流出は69万5000人だったことから、その増加は驚異的です。ベネズエラの総人口は3000万人以上であり、1割以上が国外に流出したということになります。
ベネズエラ人が脱出して向かう先は主に二つあり、隣国のコロンビアとブラジルです。2000キロの国境を共有するコロンビアには、これまでにベネズエラから100万人以上が入国していると言われています。
現在も、毎日およそ35,000人のベネズエラ人がコロンビアに入国しています。歴史は皮肉なものであり、半世紀前には内戦を避けるために仕事を求め、コロンビアからベネズエラへ移民した人々が500万人以上いたのです。当時のベネズエラは、原油輸出によって経済が潤っていました。
しかし、その後の政治的不安定や経済政策の失敗が原因で、ベネズエラの経済は急速に破綻し、今日の危機に至りました。
多くの国際的な支援を受けているにも関わらず、ベネズエラ政府はこれまで十分な改革を実行できず、市民は引き続き厳しい状況に置かれています。ベネズエラ政府と国際社会は協力して、この危機を脱するための解決策を模索しなければなりません。