【ウクライナ危機(8)】2010年大統領選と連合協定!ウクライナ危機下のEUとロシアの対立

この記事では、ウクライナの複雑な政治情勢と重要な出来事を時系列で説明しています。まず、元首相ティモシェンコ氏の逮捕から始まり、彼女と国内外からの反応について追います。次に、2011年のガス契約や裁判の決定に関する論争、さらには2013年におけるEUとロシアの提案によるウクライナの選択に焦点を当てます。

さらに、ウクライナの経済的な困難と財政危機、人口減少の課題、そしてヤヌコビッチ大統領のロシアへの接近といった問題に触れます。これらの背景を踏まえながら、ウクライナ国内で広がる抗議活動やユーロ・マイダン革命のきっかけまでの展開を迫ります。

【ウクライナ危機(7)】ウクライナの天然ガス代滞納により「ロシア・ウクライナガス紛争」が勃発!
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EUは崩壊するのか、それとも…?一九九三年に誕生し、単一通貨ユーロの導入などヨーロッパ統合への壮大な試行錯誤を続けてきたEU(欧州連合)。だが、たび重なるユーロ危機、大量の難民流入、続発するテロ事件、イギリスの離脱決定と、厳しい試練が続いている。なぜこのような危機に陥ったのか、EUは本当に崩壊するのか、その引き金は何か、日本や世界への影響は…。欧州が直面する複合的な危機の本質を解き明かし、世界の今後を占う。(「BOOK」データベースより)

President Yanukovych

「東派と西派の激突再び!」2010年のウクライナ大統領選挙

Συνάντηση με τον Πρόεδρο της  Ουκρανίας, Viktor Yanukovych

2010年のウクライナ大統領選は、オレンジ革命から6年後に開催されました。この大統領選では、東部のヴィクトル・ヤヌコーヴィッチと、天然ガス産業の主要な権力を保持し、「ガスの女王」と称される親西派のユーリヤ・ティモシェンコが立候補し、再び東派と西派が対立しました。

「ヤヌコビッチvsティモシェンコ」決選投票での争いが始まる!

2010年1月17日のウクライナ大統領選挙では、前首相のヴィクトル・ヤヌコビッチが得票数でトップに立ちましたが、過半数には達しなかったため、現職首相であるユーリヤ・ティモシェンコとの決選投票が2月7日に設定されました。両候補のキャンペーンは、他の候補者からの支持を引き付けるための戦略へと転じました。

ユシチェンコ大統領の敗北とロシアへの期待

現職のヴィクトル・ユシチェンコ大統領は、この選挙で広範な支持を得られず、5位に終わりました。ユシチェンコ大統領の敗北は、ロシアにとっては対ロ関係を改善する新たな機会と受け取られ、これからの二国間関係の展望について期待していました。

美しすぎる女性政治家「ユリア・ティモシェンコ」権力とロシア疑惑

ユリア・ティモシェンコは、ウクライナの政治家で、かつてオレンジ革命の顔として知られ、その活動的な姿勢とブロンドの髪を編み上げたウクライナ風の髪形から「ウクライナのジャンヌ・ダルク」と称されました。

彼女は1996年に政界入りし、1999年に副首相になりましたが、2001年には実業家時代の不正蓄財の疑惑が浮上し逮捕されたこともあります。

EPP Summit Lisbone 18 October 2007
ガス契約の闇とティモシェンコ

さらに、ティモシェンコは個人的な利益の追求に問題があり、ロシアとの不当に高いガス輸入契約を結ぶなどして約200億ドル(約2兆円)もの超過払いが疑われていると、新潟県立大学の袴田茂樹教授が指摘しています。

彼の言うところによれば、このような事実を知ったウクライナ国民からは、10年前の民主化要求やオレンジ革命の際の熱狂的な支持は見られず、ただ、彼女が以前投獄されていたという事実から同情票が集まり、反政府リーダーが彼女を支持しているという状況だそうです。

プーチンとの関係と急接近の真相

元毎日新聞モスクワ支局長の石郷岡建氏は、「メディアはティモシェンコを親EU、ヤヌコビッチを親ロシアと色分けしていますが、実際のところはもっと複雑で、ティモシェンコは実はプーチンと仲が良い利権政治家である」と述べています。彼によれば、今回のオレンジ革命を主導した東部の炭鉱の町・ドネツクの労働者たちも彼女に冷めてきているとのことです。

また、2008年9月、グルジア紛争を巡りロシアを「侵略者」と批判したウクライナの大統領派に対して、ティモシェンコ首相派は同調せず、これがウクライナの連立政権内に亀裂を生じさせました。議会では親ロシア派が台頭し、かつて反ロシアの立場を鮮明にしていたティモシェンコ自身も現在ではロシアに急接近していると言えます。

事実、ティモシェンコはモスクワを訪問し、「ロシアは戦略的パートナーだ」と発言、またプーチン首相もウクライナの政治不安に対して「あらゆる助力を行う」と発言しています。

https://www.youtube.com/watch?v=d3CzqLwbSSA
AP Archive/YouTube

「EUかロシアか?」ヤヌコビッチの勝利と国内の対立

2010年のウクライナ大統領選挙は決選投票の結果、僅差でヤヌコビッチが勝利しました。ヤヌコビッチは東部で大きな支持を集める一方で、西部のほとんどの地区ではチモシェンコが支持されました。

この選挙結果は、2004年の大統領選挙で最有力候補でありながら、オレンジ革命の勢いに押されて敗北を喫したヤヌコビッチのリベンジとも見ることができます。しかし、この結果はウクライナの人々が非論理的であるからではなく、民主主義の本質を反映したものです。

民主主義の最大の利点は、人々が望まない指導者を退場させることができるということです。オレンジ革命の同志たちが期待された改革に失敗したことが明らかになると、ウクライナの人々は投票という力を使って彼らを政権から追放しました。これは民主主義国家では当然の展開と言えるでしょう。

この選挙は、「EUかロシアか?」という重大な選択を伴い、ウクライナが直面する経済危機と国内の分裂をさらに深めることになりました。

AP Archive/YouTube

ヤヌコビッチの経済刺激策とロシア・EUとの関係改善

ヤヌコビッチは、ウクライナを景気後退から救い出すための一連の政策を公約に掲げてました。これには、経済を刺激するための減税措置が含まれています。また、彼は約1兆4650億円に相当する164億ドルの救済融資の凍結解除にも取り組むと約束しました。

さらに、ヤヌコビッチはウクライナの国際関係を強化することを重視しています。特に、ロシアと欧州連合(EU)との関係改善は、彼の政策の重要な一部となっています。これにより、ウクライナは国際的なパートナーシップを強化し、その結果、経済的な安定性と成長を実現することを目指しています。

ティモシェンコ首相、辞任要求を拒否し結果を認めない

ヤヌコビッチが大統領に就任後、「国家の再建に全力を尽くす」と誓ったものの、深刻な経済危機の対処という彼の任務は簡単なものではありませんでした。経済の立て直しを急速に進めるという彼の方針にも関わらず、政局の不安定さがその取り組みを阻害しました。

特に、対立候補であったティモシェンコ首相はヤヌコビッチ大統領の辞任要求を拒否し続けていたため、政局は著しく不安定でした。さらに、ティモシェンコ首相側が選挙に対する不服申し立てを行っていましたが、2月25日には大統領就任式が無事に実施されました。

「選挙は改ざんされた」ティモシェンコの主張

ティモシェンコ首相は、選挙後初めてのテレビ演説で、「ウクライナの選挙は改ざんされた」と強く主張しました。さらに、「疑いの余地なく、我々こそが勝利者である」と自信を見せ、「裁判所において投票結果について争う準備がある」と述べました。

さらに「ヤヌコビッチ氏はわれわれの大統領ではない。合法的に選出されたウクライナ大統領になることは、どのような状況下であれ、絶対に無い」と徹底的に争う意向を明らかにしました。

ヤヌコビッチとティモシェンコの選挙結果解釈の相違

一方、ヤヌコビッチはティモシェンコが中央選管の暫定集計で42.80%を得票したのに対し、自身が51.86%とリードしていると主張しました。しかし、ティモシェンコ陣営の選挙対策責任者は、並行集計によればティモシェンコ候補が46.8%で、ヤヌコビッチ候補の46.0%を上回っていると反論し、選挙結果に対する訴訟も辞さないと明言しました。

この状況の中、ヤヌコビッチは、テレビインタビューにて「ティモシェンコ首相は辞任を視野に入れるべきだと考えている。彼女もそのことを十分に理解している」と発言しました。

「ヤヌコビッチの勝利を支持」欧州の選挙監視団が選挙の公正さを強調

そんな中で、欧州各国から派遣された選挙監視団は、選挙の公正さを称賛していました。さらに、バラク・オバマ米大統領、アナス・フォー・ラスムッセンNATO事務総長、ヘルマン・バン・ロンピュイEU大統領をはじめとするアメリカとヨーロッパの指導者たちは、ヤヌコビッチ氏の選挙勝利を祝福しました。それでもなお、ティモシェンコは選挙の不正を訴え続けました。

ウクライナ政府の混乱「ティモシェンコ首相」の内閣退陣と総選挙

2010年3月2日には、期日までに与党連合加盟議員の署名が提出されなかったという理由で、リトヴィン最高会議議長が与党連合の不在を宣言しました。翌3日にはティモシェンコ内閣不信任案が最高会議で可決され、全閣僚は解任となりました。

ティモシェンコ首相の内閣放棄とバカンス

ティモシェンコ首相は、内閣退陣を議会で可決されると、今度は強硬策に出ました。なんとティモシェンコは内閣を放り出し、議会の解散・総選挙を目指し始めたのです。

今の内閣を支える連立は3月初めに解消され、憲法上は4月初めまでに新たな連立を形成する必要があります。その期間中は事実上政府が存在しなくなる状況となります。

あくまで代行と言う名目は置かれるが、これ自体が法律違反にあたるという声も上がっていました。こうした国の混乱をよそに、ティモシェンコはバカンスに出かけてしまいました。

過半数獲得への連立交渉がウクライナを揺さぶる

地域党はすぐにでも、議会での多数与党を結成しなければいけない状況に陥っていました。これは1カ月以上も時間がかかると、議会解散の可能性が現実に迫っていたからです。

地域党はヤヌコビィッチ大統領を支持しており、議会の定数450人のうち171人を占めていますが、過半数を確保するためにはティモシェンコ・ブロック(151人)以外の政党と連立する必要に迫られました。

地域党主導の多数派連立とアザロフ首相の誕生

しかし、その後無事に地域党を中心に議会の多数派連立が形成され、その基盤の上でミコラ・アザロフ首相の内閣が2010年3月に発足されました。

ウクライナとロシアの合意「ハリコフ条約」と黒海艦隊の駐留延長

新大統領ビクトル・ヤヌコヴィッチとロシアの大統領ドミトリー・メドベージェフは、ウクライナの政権交代から僅か2カ月後の2010年4月21日に、ウクライナ東部ハリコフで会談しました。この会談では、「ガス価格の値下げ」と「黒海艦隊基地の駐留期間の延長」を結びつけた「ハリコフ条約(ウクライナ領上ロシア連邦黒海艦隊の駐留問題に関する条約)への署名が行われました。

黒海艦隊駐留延長とガス価格引き下げのバランス

「ハリコフ条約」は、ロシアとウクライナ間で重要な経済的および政治的な合意でした。この条約により、ロシアの黒海艦隊はウクライナのクリミア半島にあるセヴァストポリにて2042年まで駐留する権利を保持し、その対価として、ロシアはウクライナに供給する天然ガスの価格を大幅に引き下げることになりました。

この合意は両国間の相互利益を推進しましたが、その一方でウクライナ国内外からは様々な批判もありました。特にウクライナの一部では、この条約がロシアの影響力を強化し、ウクライナの主権を侵害するものと見なされました。一方でロシアは、この契約によりエネルギー供給を通じたウクライナに対する影響力を維持し、同時に黒海での軍事的存在感を維持することができました。

欧州全体への影響力とエネルギー安全保障の重要性

この条約は、ウクライナとロシアの関係だけでなく、これら二国と他の地域の国々との関係にも影響を及ぼしました。特に、ガス供給と安全保障の問題は、欧州全体にとっても重要な課題であるため、この合意は欧州全体にとっても影響力を持つものとなりました。

ロシアとの関係とEU統合の調和を目指す政府の取り組み

2010年、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権は、ロシアとのハリコフ合意と同時に、EUとの経済的統合を目指す協定の交渉も進めていました。ヤヌコビッチ政権は、これら二つの異なる地域組織、つまりロシアとEUとの間でバランスを取るよう努めていました。

「大統領権限の強化」オレンジ革命後のウクライナ憲法の再構築

ヤヌコビッチがウクライナ大統領に就任した当初が弱い大統領になるとの見方をされていました。しかし、ヤヌコビッチが地域党政権を確立すると、大統領を中心とした集権化が進みました。これは大統領・政府・議会・地域・司法に至るまでの一元的な権力体系の構築を意味します。

この変化は、2010年10月1日のウクライナ憲法裁判所の判決により加速しました。裁判所は2004年の憲法改正に手続き上の違反があったとしてこれを無効にし、それによりウクライナは1996年憲法、すなわち強い大統領権限を特徴とする憲法に復帰しました。

オレンジ革命がもたらした憲法改正の意義

2004年のウクライナの憲法改正は、大統領の権限を縮小し、議会の影響力を強化するものでした。これはオレンジ革命という大きな政治的変革の中で行われました。オレンジ革命は、2004年の大統領選挙での選挙不正を巡る大規模な抗議活動から始まり、政治的な権力構造の変更を引き起こしました。

具体的には、憲法改正により、大統領は一方的に首相候補者を議会に提案することができなくなりました。代わりに、議会の多数派が首相候補者を大統領に提案する権限を持つようになりました(2004年憲法第83条)。その後、大統領はこれに基づいて首相を任命するという方式となりました

この制度変更は、ウクライナの政治システムを大統領主導からより議会主導のものへと変化させました。大統領の権限が縮小され、議会の役割が強化されるという形で、政治のバランスが調整されました。これにより、より多様な政治的意見が反映され、権力の集中を防ぐことを目指すというものでした。

ウクライナの財政再建が引き起こした社会的緊張

このような新たな権力のバランスは、ヤヌコビッチ大統領が政策を迅速に進めることを可能にしました。ウクライナはこの時期に国際通貨基金(IMF)から総額152億ドル(約1兆3000億円)の資金援助を受け、公共料金の引き上げや税制・年金改革など、財政再建に向けた改革を進めました。

しかし、これらの改革は一部で不満を引き起こし、ウクライナ社会内部での政治的な緊張を高める一因となりました。特に、社会的な不公平感や経済的な困難に直面していた一部のウクライナ市民からの反発は強く、これが後の政治的変動につながっていきました。

ウクライナのガス供給ルートの変化とヨーロッパのエネルギー安全保障

ウクライナはヨーロッパへの天然ガス供給ルートとして長らく重要な役割を果たしてきました。特に、ロシアからヨーロッパへのガス輸出の大部分がウクライナを経由していたため、ウクライナの政治的、経済的安定性はヨーロッパ全体のエネルギー供給に影響を及ぼす可能性がありました。

かつては、ロシアからヨーロッパへのガス輸出の80%がウクライナを経由し、残りの20%がベラルーシを経由していました。しかし、2011年から稼働したバルト海を通るパイプライン「ノルド・ストリーム」により、ウクライナ経由の割合は60%まで低下しました。

その後、ノルド・ストリームの稼働率がさらに上がり、ウクライナ経由の割合が下がってしまいました。また、黒海を経由するサウス・ストリームのパイプラインの建設が予定されており、ロシアはこれらの新たなルートの稼働により、ウクライナを経由するガス輸出の割合をさらに減らすことを目指し動いていました。

NordStreamAG/YouTube

ティモシェンコの退陣後の闘い…政治的な思惑と罪状の厳しい現実

2009年1月19日のガス契約に関するユリア・ティモシェンコ前首相の起訴は、ウクライナ国内外から大きな注目を集めました。

ティモシェンコによるガス価格設定と職権乱用の疑い

その中でも特に注目されたのは、彼女が2009年のガス契約に関する決定を巡ってロシアのガス会社ガスプロムとウクライナのナフトガズとの間で取り決めを行ったことによる職権乱用の疑いであり、その契約の価格設定についてウクライナ国内からは不満の声が上がっていました。

一部では、この逮捕がビクトル・ヤヌコヴィッチ大統領が反対派を抑制するための政治的な動きであるとの指摘がありました。これに対してティモシェンコは自身が受けている裁判が、ヤヌコビッチ大統領が来年の議会選挙に向けて反対派を黙らせるために仕組んだものだと主張しました。

euronews/YouTube
ティモシェンコ審理妨害で逮捕、ロシアからも批判的な意見

2011年8月5日、この裁判での審理を妨害したとして、ティモシェンコ前首相が逮捕されました。これは国際的に大きな注目を集め、アメリカや欧州連合(EU)だけでなく、ロシアからも批判的な意見が出されました。

ロシア外務省は声明で、2009年のガス供給契約が「両国の法律を厳守し、両国大統領の指示に基づいて結ばれた」と表明し、ティモシェンコ前首相にかけられている嫌疑を否定しました。これは、ロシアがティモシェンコ前首相の逮捕について、政治的な動きとみていることを示しています。

これにより、ティモシェンコ前首相の裁判は、ウクライナ国内だけでなく、国際社会におけるウクライナの立場にも影響を及ぼす重要な問題となりました。

ティモシェンコ前首相に禁錮7年と巨額賠償命令

2011年10月11日のウクライナの地裁で、ユリア・ティモシェンコ前首相がロシア産天然ガス輸入契約における職権乱用罪で禁錮7年の実刑判決を受け、また約144億円の賠償を命じられました。さらに、裁判所は彼女に対して3年間の公職就任禁止処分も下しました。

この判決は、2010年の大統領選でヴィクトール・ヤヌコビッチ大統領と競り合ったティモシェンコ前首相が、2012年の議会選挙に参加することを阻止する目的があったと広く見られています。

この判決に対しては、米国やロシア、そしてEUからも失望と懸念の声が上がりました。米ホワイトハウスは声明でウクライナ政府の民主主義への姿勢に対する深刻な懸念を表明し、ロシアのプーチン首相はこの判決がロシアとウクライナのエネルギー取引を危険にさらすと批判しました。また、EUのキャサリン・アシュトン外交・安全保障政策上級代表も失望感を示し、今回の判決がEUのウクライナ政策に反映されると指摘しました。

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ティモシェンコに対する新たな横領容疑の捜査が開始

2011年10月13日、ウクライナの国家保安庁(SBU)は、ティモシェンコ前首相に対して新たな横領容疑で捜査を開始したことを発表しました。この発表は、ティモシェンコ前首相が職権乱用罪で7年の禁固刑を宣告された直後のことでした。

新たな捜査は、ティモシェンコ氏が90年代にエネルギー大手「ウクライナ統一エネルギー・システム(United Energy Systems of Ukraine)」の社長を務めていた時期に、約4億5000万ドル(当時のレートで約310億円)を横領した疑いに関するものです。

また、ティモシェンコの盟友であり、90年代後半に首相を務めたパブロ・ラザレンコ氏も同じく捜査対象に含まれています。ラザレンコは、横領とマネーロンダリング(資金洗浄)の罪でアメリカで刑を服しています。

これらの新たな捜査は、ティモシェンコに対する更なる圧力と見なされていました。

ティモシェンコへの追加疑惑は議員殺害への関与

さらに、ティモシェンコに対する追加の疑惑として、ウクライナ検察庁のレナト・クズミン次官が、彼女が1996年に行われた議員イエブヘーン・シェルバンの殺害に関与していた疑いがあると発表しました。

ティモシェンコの娘が母親の命を守るために緊急要請

ティモシェンコの娘であるエフゲニヤ・ティモシェンコは、母に対するこれらの措置を「1人の人間を破壊するための実験」と非難し、「彼らが母を殺したいことは明確だ。わたしの母である、ユリヤ・ティモシェンコを意図的に殺害する行為だ」と訴えました。

エフゲニヤはさらに現大統領ビクトル・ヤヌコビッチとウクライナ当局に対し、「あなた方に何らかの法や規則に従えとは言うつもりもない。なぜならば法律や規則はすでに機能していないからだ。私はただ一つのことだけを要求したい。私の母を殺すなと」と、母親の身の安全を求めました。

ティモシェンコの刑務所での暴行主張とハンガーストライキ

2012年4月、ティモシェンコ前首相が、にウクライナの刑務所で看守から暴行を受けたと主張し、その後ハンガーストライキ(ハンスト)を行いました。彼女はこの暴行の証拠として、腕や下腹部に生じたあざの写真を公にしました。

さらに、ティモシェンコのハンガーストライキと暴行の主張に加えて、ドイツの医師団が彼女の診察を行い、その結果彼女が重度の椎間板ヘルニアに苦しんでいると発表しました。

これらのドイツの医師団は、ティモシェンコの病状が獄中での治療では改善が難しいとし、ティモシェンコが適切な医療ケアを受けられるように国外での治療を訴えました。これは「人道的」な観点からの訴えであり、ティモシェンコの人権の尊重を求める声となりました。

この事件は、ティモシェンコが受けている厳しい刑事処分に対する国内外からの懸念を一層深める結果となりました。特に欧州連合(EU)やアメリカなどの西側諸国からは、ウクライナ政府に対する批判が強まりました。

「東方パートナーシップサミット」協定署名見送りとロシアとの関係深化

2013年11月にリトアニアの首都ヴィリニュスで開催された東方パートナーシップ(Eastern Partnership)サミットが開催しました。

東方パートナーシップはEUが東方の近隣諸国との関係強化を図るための枠組みで、4つのプラットフォーム(民主主義・良好な統治・安定性、経済統合・EUとの政策収斂、エネルギー安全保障、人間の交流)に沿って協力関係を強化し、地域の安定化を目指して実施されています。

EUへの統合と経済自由化への期待とロシアとの経済関係の選択

この日、EUとその東方の隣国6カ国(ウクライナ、ベラルーシ、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア、モルドバ)の首脳が一堂に会し、民主化と経済の自由化に向けたさまざまな具体的な政策や協定について話し合いました。

しかし、ウクライナは予定されていた政治と貿易に関する協定への署名を見送りました。これはEUとウクライナとの関係における重要な瞬間でした。なぜなら、この協定はウクライナがEUへの更なる統合を進め、その経済を自由化し、民主化を深める一歩となると期待されていたからです。

しかし、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領は署名を拒否し、代わりにロシアとの経済的な関係を深める道を選びました。

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ロシアとの経済関係を選んだ理由

2011年にウクライナとEUは連合協定に関して合意し、2012年3月には協定に仮調印を行いました。これはウクライナがEUとの統合を進める一歩とされ、ウクライナに対するEUの要求は、その財政と経済の改革、そしてEUの基準に合った法律の制定と改正でした。EUは、特にギリシャの経済危機の経験から、加盟候補国の経済状態を重視していました。

ロシア中心の関税同盟への参加!ウクライナの選択がもたらした影響

しかし、2012年7月に「深化した包括的自由貿易協定」(DCFTA)に仮署名が行われたものの、その後ロシアのウラジミール・プーチン大統領がウクライナに対し、「ロシア中心の関税同盟」への参加を引き換えに150億ドルの融資と天然ガスの3割引供給を提案しました。これはウクライナにとって非常に魅力的な提案であり、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領はロシアとの経済的な関係を深める道を選びました。

この結果、ウクライナは2013年11月に開催されたEUの東方パートナーシップサミットで、予定されていたEUとの連合協定への署名を見送ることを発表しました。これはEUとウクライナの関係における重要な瞬間でした。なぜなら、この協定はウクライナがEUへの更なる統合を進め、その経済を自由化し、民主化を深める一歩となると期待されていたからです。

ウクライナの決断が揺るがすEUとの関係…失望の声が広がる

この決定はEUとウクライナの関係に大きな影響を与えました。EUの外交安全保障上級代表、キャサリン・アシュトンは、ウクライナの決定を「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望」と述べました。ドイツの外相、グイド・ウェスターウェレは、EUがウクライナとの関係強化に引き続き前向きであることを強調しました。

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ロシアの援助がウクライナ国債に活路!経済再建への期待高まる

ウクライナは2013年までに深刻な財政危機に直面していました。ガスの輸入費だけで毎月約10億ドルを支払い、翌年にはIMFに80億ドル以上の返済が予定されていました。この2年間で外貨準備高がほぼ半分に減少し、GDPは前年比で1.5%減少しました。

さらに、長期的な人口減少という問題にも直面していました。出生率が低く、死亡率がヨーロッパで最も高く、海外への移住者も多かったため、1991年の5160万人から2011年には4550万人に減少し、11.8%もの人口減少がありました。

「金融支援と天然ガス価格引き下げ」プーチン大統領がサプライズを発表

そのような状況の中で、2013年12月17日、ウクライナのヤヌコビッチ大統領とロシアのプーチン大統領の会談がモスクワで開催されました。ヤヌコビッチ大統領は、ロシアを選ぶという政治的な選択をしたため、このモスクワ訪問で国賓級の歓待を受けました。会談の後、プーチン大統領はウクライナへの150億ドルの金融支援と、ロシアからウクライナへの天然ガスの価格を約3分の1に引き下げることを発表しました。

しかし、この債券の購入には「いかなる条件もない」とプーチン大統領は述べ、ロシア主導の関税同盟へのウクライナの加盟問題は、この会談では協議されなかったと強調しました。

このロシアからの支援は金融市場に歓迎され、2014年と2023年の償還を予定するドル建てのウクライナ国債価格は、約2カ月ぶりの高値を記録しました。

経済の再建を目指し、ウクライナはロシアに頼る!

ウクライナは経済の低迷と迫り来るデフォルト危機の中で、EUへの加盟という不確定な未来よりも、ロシアから提供される直接的な援助を選ぶ形となりました。2013年12月23日、ウクライナ政府は「EUとの連合協定調印の延期に関する損得勘定」という2014年度の経常収支試算を公表しました。

この試算によれば、EUとの連合協定に調印した場合、関税同盟国との貿易赤字が増大し、総計で369億ドルの損失が生じるとされました。一方、調印を延期しロシアからの支援を受けた場合、関税同盟国との貿易赤字が緩和され、天然ガスの支払い額が減り、ロシアからのクレジットにより51億ドルのプラスになると見積もられました。

つまり、EUとの連合協定調印によって生じる短期的な貿易減少を、現在のウクライナ経済が耐えることはできず、ロシアに依存し経済の再建に努めるべきだという結論になりました。

2013年末から2014年初頭にかけて、ロシアとウクライナの関係は比較的安定していました。これは、ロシアがウクライナに可能な限りの支援を提供し、親ロシア的な立場をとる当時のヤヌコビッチ政権を支持し続けたためです。

EU棚上げに国民の怒りが噴出!ウクライナ抗議運動の火蓋が切られる

しかし、この政策決定はウクライナ国民から広範囲にわたる反発を引き起こすことになりました。多くのウクライナ人は、EUとの連合協定の棚上げだけでなく、ヤヌコビッチ政権自体に対しても反対の声を上げました。これはウクライナの民主化、開放化への望みを反映しているとされ、特に都市部の若者から強い反発がありました。

この結果、国内で大規模な抗議活動が発生し、後の「ユーロ・マイダン革命」へと発展していきます。

Al Jazeera English/YouTube
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EUは崩壊するのか、それとも…?一九九三年に誕生し、単一通貨ユーロの導入などヨーロッパ統合への壮大な試行錯誤を続けてきたEU(欧州連合)。だが、たび重なるユーロ危機、大量の難民流入、続発するテロ事件、イギリスの離脱決定と、厳しい試練が続いている。なぜこのような危機に陥ったのか、EUは本当に崩壊するのか、その引き金は何か、日本や世界への影響は…。欧州が直面する複合的な危機の本質を解き明かし、世界の今後を占う。(「BOOK」データベースより)
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