【ウクライナ危機(7)】ウクライナの天然ガス代滞納により「ロシア・ウクライナガス紛争」が勃発!

ウクライナとロシアの間で起きたガス供給紛争の真相をお届けします。ガスプロムとナフトガスの関与による利権問題やウクライナの滞納料金の影響、さらにはオレンジ革命の余波など、政治とエネルギーの絡み合いに迫ります。

また、経済的後退による政府の決定の難しさや国内の対立にも触れ、読者の理解を深めます。ティモシェンコの再出馬や親ロシア派の台頭も解説し、現在の政治情勢を網羅的にご紹介します。政治やエネルギー問題に関心のある方におすすめの記事となっています。

【ウクライナ危機(6)】ロシアからの独立の始まり!「オレンジ革命」で起こった驚愕の出来事とは?
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原油価格はなぜ激しく変動するのか? 米中関係はどうなるのか? 地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか? 地政学リスクから第一人者が読み解く『ウォール・ストリート・ジャーナル』ベストセラー エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける国際政治の地図を読み解く衝撃の書。最新情報が満載! 日本人が知らない資源戦争の裏側とは? 米国vsロシア・中国の新冷戦、エネルギー転換の未来を描く!(「Books」出版書誌データベースより)

Viktor Yushchenko 

関係悪化の始まり!ユシチェンコ政権の外交政策

AP Archive/YouTube

オレンジ革命後、ユシチェンコ新政権がクチマ氏の政策を引き継ぎ、外交活動を強化する一方で、その動きがロシア側の反感を買う結果となった。これにより、両国の関係は冷え込み、ユーシェンコ政権は当時の野党からの批判が集中することとなった。

民主化の一歩!ユシチェンコ政権がウクライナのNATO加盟を優先

Associated Press/YouTube

親欧米派のユシチェンコ政権下のウクライナでは、北大西洋条約機構(NATO)への加盟が水面下で推進されていました。ウクライナは欧州最貧国であり、欧州連合(EU)の加盟条件を満たすには10年以上を要すると見られていました。このため、先にNATOへの加盟を図ることで、ウクライナの民主化を逆行させないという戦略が採られていたのです。

ロシアの反発に直面!ウクライナとジョージアのNATO加盟が実現せず

2008年4月、ウクライナとジョージアは、ブカレストサミットにてNATOへの加盟を検討しました。訪問中のブッシュ米国大統領は、ウクライナのユシチェンコ大統領との会談で両国関係の発展やウクライナのNATO への加盟問題などを討論しました。会談後の記者会見では、「ブカレストで開催されるNATO首脳会議にて、アメリカはウクライナとジョージアのNATO加盟を支持する立場にある。この問題に関してロシアの否決権は存在しない」とブッシュ大統領は述べました。

しかし、ロシアの強い反発があり、ウクライナとジョージアのNATO加盟は実現しませんでした。それでも、それ以降、ウクライナとジョージアのNATOに加盟が現実的な問題として認識されるようになりました。

“ウクライナの世論分かれる!NATO加盟に対する50%の反対意見

ちなみに、2008年1月のウクライナ国民に対する世論調査によると、ウクライナ人の50%がNATO加盟に反対の意見を示し、「中立」を望む傾向が見られました。このことは、ウクライナ国内でもNATO加盟については賛否が分かれていたという事実を示しています。

リーマンショックとウクライナ経済の脆弱

Al Jazeera English/YouTube

2008年9月、米国の大手投資銀行リーマンブラザーズが破綻し、これにより世界経済は大混乱に陥りました。このグローバル金融危機によって経済が大きく打撃を受けた国々としてよく知られているのが、ギリシャをはじめとする欧州の諸国です。

しかし、現実の影響はもっと広範囲及びました。2008年9月のリーマンショック直後に最初に経済的な危機に直面した国々は、アイスランド、ラトビア、そしてウクライナでした。これらの国々は、世界的な金融危機の最初の波を直接受け止めることとなりました。

ウクライナの「オレンジ革命」後の挑戦と脆弱な経済基盤

「オレンジ革命」以降のウクライナはIMFが推奨するような「構造改革」に着手し、高い経済成長を享受していた。だが、経済の40%が「地下経済」と言われる「クローニーキャピタリズム」が横行していること、電力等のインフラ整備が不十分であること、人口減少に加え、国外への労働力の流出にも見舞われていることなど、様々な要因が絡み合って形成されている脆弱な経済基盤を変えることは容易ではなかったようだ。

そのためか、リーマンショック後の回復は他の新興国と比較して思わしくなかった。実際、アイスランドは2008年11月19日に21億ドルの融資パッケージ、ラトビアも同年12月23日に23.5億ドルの融資パッケージが決定されました。なかでも、最も早く、また、最も多額の支援が決定されたのがウクライナであり、2008年11月5日に164億ドルの融資パッケージが決定されています。

ウクライナの鉄鋼産業の波乱!バブル景気から世界経済危機への転落

ウクライナにおいて鉄鋼業は経済の中心的な役割を担っています。2000年代に入り、鉄鋼の国際市況は上昇し、特に2008年の前半には異常な高騰を見せました。これによりウクライナは一時的なバブル景気を体験しました。

しかし、2008年夏からは鉄鋼価格が急落し、ウクライナは世界経済危機の影響を深刻に受けることとなりました。ウクライナの基幹産業である鉄鋼と化学は、重厚長大産業の性格上、状況変化に対応するのが難しく、低付加価値で大量の原燃料を消費する特性を持っています。

このため、2008年の世界経済危機で最も大きな被害を受けたのがウクライナでした。輸出依存度の高さ、スポット主体の輸出、そして半製品中心の産業構造が、ウクライナが経済危機から大きな打撃を受ける原因となりました。

経済危機においても親欧米を貫くユシチェンコ大統領

経済危機の中、ウクライナの新たなリーダー、ユシチェンコ大統領と、グルジアのサーカシビリ大統領は、親欧米の民主主義国家との連携を深める動きを示しました。彼らは、2008年8月に「民主的選択共同体」の設立を宣言し、ポーランドやリトアニアなどの国々に参加を呼びかけました。

この一連の動きは、ロシアを除く民主的な国々との連携強化を目指すもので、両国が自身の地域的影響力を強め、自国の民主主義をさらに確立するための戦略でした。

地政学の渦中で繰り広げられたウクライナとロシアの天然ガス紛争

ウクライナのユシチェンコ政権期に始まったロシアとの天然ガス紛争は、地政学的な意味合いが強く含まれています。ユーシェンコ政権は「オレンジ革命」を実施し、NATO加盟を目指す政策を展開しましたが、これはロシアにとって敵対的な行為と受け止められました。

一部の報道では、ロシアがウクライナへの天然ガス供給を停止することで、ウクライナ国民に対してエネルギー支配権をロシアが握っていることを示し、ユシチェンコ政権の弱体化を図り、NATO加盟を阻止しようとする意図があるとの観測がされています。

この紛争は、エネルギー供給という表面的な問題だけでなく、地域の勢力均衡や大国間の外交戦略が複雑に絡み合っていました。

「ガス料金の未払い」と「ガスの抜き取り」ウクライナとロシアの複雑な関係

ソビエト連邦の崩壊後、ロシアはウクライナに対して1994年3月、12月、1997年7月、1999年11月と4回にわたって天然ガス供給を停止しています。これらは、クラフチェク政権(1991年12月~1994年7月)およびロシアとの協調姿勢を見せたクチマ政権(1994年7月~2004年10月)時代の出来事でした。

これらの事例から見ても、ロシアは特定の政権が反ロシア的であるかどうかに関わらず、天然ガス供給の停止という手段を使ってきたことが明らかです。クチマ政権時代の供給停止は、政治的な動機よりもガス料金の未払いが主な理由でした。

しかし、ウクライナとロシア間で繰り返されるパターンとして、ロシアが一方的にガス供給を削減すると、ウクライナは通過タリフ分の引き取りを一方的に増やし、「抜き取り」を行って差し引いてきました。少なくとも、1993年、1994年、1995年、1997年、1998年には同様の問題が起きており、この問題が年中行事のように繰り返されていることが確認されています。

このように見ると、ウクライナとロシアの天然ガス紛争は、政治的な意味合いだけでなく、未払いの問題やエネルギー供給のバランスなど、経済的な側面も含んでいることが明らかになります。

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ロシア帝国やソヴィエト連邦のもとで長く忍従を強いられながらも、独自の文化を失わず、有為の人材を輩出し続けたウクライナ。不撓不屈のアイデンティティは、どのように育まれてきたのか。スキタイの興亡、キエフ・ルーシ公国の隆盛、コサックの活躍から、一九九一年の新生ウクライナ誕生まで、この地をめぐる歴史を俯瞰。人口五〇〇〇万を数え、ロシアに次ぎヨーロッパ第二の広い国土を持つ、知られざる「大国」の素顔に迫る。(「BOOK」データベースより)

Russia–Ukraine Gas Disputes

民主化と内政の混乱『ロシア・ウクライナ ガス紛争』の内幕

 International Partnerships/YouTube

ウクライナでは言論の自由など、民主化が進んみましたが、内政は混乱状態に見舞われました。特に顕著な問題の一つが、2005年に起きたロシア・ウクライナガス紛争です。

この紛争は、ロシア産の天然ガス供給を巡って両国間に生じ、ウクライナのエネルギーセキュリティ、政治状況、そして国際社会との関係に影響を与えました。この出来事は、ウクライナが直面している課題を象徴するものであり、政治の安定化と経済の健全な発展に向けた挑戦を強調しています。

ロシアの独占天然ガス企業「ガスプロム」とプーチンとの緊密な関係

ガスプロムは、1993年に設立されたロシアの半国営天然ガス企業で、天然ガスの生産と供給において世界最大手です。ロシア大統領ウラジーミル・プーチンとは緊密な関係を築き、独占企業としての地位を確立しています。

ガスプロムのビジネスモデルは、パイプライン経由の天然ガス輸出という高採算事業での独占を基盤に、ロシア国内向けのガス料金を低く抑えることによって政治と商業の役割を兼ねています。ロシアという冬の間、大部分が凍りつくような土地では、このようなエネルギー供給の役割はプーチン氏にとって非常に重要な見返りとなっています。

ソ連のガス工業省からガスプロムへ!組織の民営化と政府の変遷

ガスプロムの前身はソ連時代のガス工業省で、ソ連が崩壊すると部門ごとに民営化され、一体化した組織構造を維持しました。これは、同時期にソ連の石油部門が10近くの垂直統合石油会社に分割されたのとは対照的な経緯でした。組織の幹部は一時期、”ガスマフィア”と呼ばれ、ロシア内の大きな勢力を形成していました。

しかし、プーチンのサンクトペテルブルグ時代の信頼者であるアレクセイ・ミラーが社長に、そしてドミートリー・メドヴェージェフが会長に任命されたことで、組織は国の意向をより直接反映する形に変わりました。これによりガスプロムは、ロシア政府の政策方針を具現化すると同時に、エネルギーの供給というビジネス的役割も果たすようになりました。

ウクライナへの優遇措置見直しとガス料金値上げ

ソ連時代から続いているロシア産天然ガスのヨーロッパ向け輸出では、その8割がウクライナのパイプラインを経由しています。これは、ウクライナがヨーロッパへの主要なエネルギー供給路としての重要な役割を担っていることを示しています。

しかし、ウクライナに親欧米政権が誕生したことは、ロシアにとって一変した状況をもたらしました。これまでのウクライナに対する優遇措置を見直すきっかけとなり、その結果、ロシアの国営エネルギー企業ガスプロムは2005年からウクライナに対するガス料金の値上げを始めることになりました。これが後にロシアとウクライナの間で引き起こるエネルギー紛争の一因となります。

親欧米政権のウクライナを優遇するメリットがない

ガスプロムが当初、ウクライナに対して天然ガスを1,000立方メートルあたり50ドルという低価格で供給していたのは、2004年のウクライナ大統領選挙において、ロシア政府が後援していたヴィクトル・ヤヌコビッチ候補を支持するための一環でした。この価格設定は、少なくとも2009年まで続く予定でした。

しかし、ウクライナでオレンジ革命が勃発し、ビクトル・ユシチェンコ大統領が就任すると、ウクライナは親欧米へと変化しました。ユシチェンコ大統領はNATOやEUへの加盟を目指し、ウクライナの外交路線は西側へと傾斜しました。これにより、ロシアは「罰する目的で」ウクライナ向けの天然ガス価格を4倍以上の230ドルへと急騰させることを決定しました。これは欧州の市場価格に近いものでした。

ロシアは以前からウクライナに対してエネルギー資源を安価で供給してきた、つまり補助金の形で支援してきましたが、これがウクライナの親西側路線を変えることはできませんでした。そのため、ロシアはこの補助金制度を終了し、国際市場価格へと移行することを決定しました。これはベラルーシに対しても同様の対応が取られました。

ロシア自体も経済的に厳しい状況にあるため、エネルギー資源の価格をしっかりと取りたいという基本的な考え方が背景にあったと考えられます。これは、ウクライナに対する政治的な意図と、自国の経済状況という二つの観点から理解することができます。

ウクライナは天然ガス代金を滞納し続けている

ロシアから見れば、ウクライナへの天然ガス供給は長年にわたる助成金の一形態であり、ウクライナが支払っている価格は西欧諸国が支払っている代金の3分の1以下に過ぎませんでした。更に、ウクライナの未払い代金は何十億ドルにも膨らんでおり、それにもかかわらず、ウクライナはロシアからの離反を志向している状況でした。

これらの事情を考えると、ロシアはウクライナに対して年間何十億ドルもの規模で安価な天然ガスを供給し続ける義務はないと主張したわけです。この主張は、ロシアが自国のエネルギー資源を市場価格で取引し、自国の経済状況を改善する意図と、ウクライナへの政治的な意向から来ています。

一方で、ウクライナから見れば、このような価格上昇は突然で、甚大な影響を受けます。ウクライナ経済にとって天然ガスは重要なエネルギー資源であり、その価格が大幅に上昇すると、その影響はウクライナ経済全体に波及します。また、価格上昇はウクライナの市民生活にも直接的な影響を及ぼす可能性があります。

ソ連時代に建設されたウクライナのパイプラインを管理下に置きたい

ウクライナ領土を通過する天然ガスのパイプラインは、ウクライナ経済とエネルギーセキュリティにとって極めて重要な存在です。しかし、ロシアもまたそのパイプラインを通じて欧州へ大量の天然ガスを供給しており、その管理権を握ることで、自国のエネルギー外交に大きな影響力を持つことができます。

ウクライナのユシチェンコ大統領は、ソ連時代に敷設されたこれらのパイプラインを「重要な資産(クラウン・ジュエル)」と称しています。これは、そのパイプラインがウクライナのエネルギーセキュリティ、経済、そして国家主権にとって重要な役割を果たしていることを示しています。

そのため、ロシアがウクライナ領内のパイプラインの管理下に置くという目論見があったとしても、ウクライナは交渉すること自体がありえなかったのです。

ウクライナへの輸送費の支払いとリスクを軽減したい

ロシアとウクライナの間での天然ガス供給に関する紛争が深化する中、ロシアはウクライナを迂回する新たなエネルギー供給ルートを模索する必要性に迫られました。これはロシアにとって戦略的に重要な意味を持っていました。

ロシアは、欧州への天然ガス供給の約4分の3をウクライナ経由のパイプラインで供給しており、ウクライナに中継輸送費を支払っていました。

ウクライナを経由しない新たなパイプライン建設は、ウクライナの政治情勢や、エネルギー政策に影響されるリスクを軽減できると期待されていました。

ウクライナの収入源が危機!新パイプライン建設の経済的影響

これにより、ウクライナは大きな経済的挑戦に直面しました。これまで、ウクライナはロシアからヨーロッパへの天然ガス輸送により、重要な収入源を確保していました。しかし、ロシアがウクライナを迂回する新たなパイプラインの建設を進めていることにより、ウクライナの経済的風景は急速に変化しています。

新たなパイプラインの完成により、ウクライナのパイプラインはその価値を大幅に失い、それによる収入も減少することとなります。これは、既に深刻な経済的および政治的課題に直面しているウクライナにとってさらなる打撃となる可能性があります。ウクライナがこれまで依存してきた天然ガス輸送ビジネスの収入減少は、国家予算に大きな影響を与え、社会保障や公共サービスへの投資を圧迫するかもしれません。

「ノルドストリーム」パイプラインが築くロシアと欧州の経済的結びつき

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2005年4月、ロシアのプーチン大統領とドイツのシュレーダー首相(当時)はノルドストリームの建設について合意しました。ロシアは半分を、ドイツ、フランス、オランダが残りの半分を出資しました。また、サウス・ストリームについても、ロシアとドイツ、フランス、イタリアが折半で出資しました。

このようにロシアと欧州主要国との間には、”エネルギー同盟”とも言えるほどの強固な経済関係が存在します。特に欧州は天然ガス供給において、ロシア依存度が約3割に達しています。

資源大国のロシアとしては、資源が売れなければ価値がないため、パイプラインは互恵的かつ双務的(安定供給と安定購入の義務を持つ)な関係を実現する重要な手段となっています。

エネルギーとロシアの圧力がもたらすウクライナの外交政策の変化

しかし、この”エネルギー同盟”の展開は、周辺国、特にウクライナにとっては、外交政策に大きな影響を及ぼしています。ロシアからの圧力を受け、ウクライナのユシチェンコ大統領は2005年9月に、反露姿勢が顕著だったティモシェンコ内閣を総辞職させ、ヨーロッパとロシアとの間でバランスをとる現実的な外交路線を選択せざるを得なくなりました。

燃え上がるエネルギー危機!2006年1月1日、ウクライナへのガス供給が途絶

新年を迎えた2006年1月1日、天然ガスの価格を巡る交渉が行き詰まったロシアのエネルギー大手、ガスプロムはウクライナ向けの天然ガス供給を停止しました。この措置は、長引くガス価格問題に対するガスプロムの最終手段であり、ウクライナがガスプロムからのガス供給に極度に依存している現状を露わにするものとなりました。

ウクライナのガス未払いでロシアとの緊張激化

実は、ウクライナは昔から天然ガスの不払いで、ロシアと揉める度々揉めていました。1990年代だけでも、ロシアはウクライナに対して4回もガス供給を停止しています。これは、ユシチェンコ政権がロシアに反抗的だからというよりも、単純にウクライナがガス料金を支払わなかった結果です。

しかし、ロシアは欧州へ天然ガスを供給するためには、ウクライナのパイプラインを経由するしか方法がありませんでした。

ウクライナの抜き取りが欧州のガス供給に与えた影響

ガス供給停止の際、ロシアはヨーロッパへのガス供給量からウクライナ向けガス供給量を30%削減しました。しかし、ウクライナはこれを無視して、削減された分をヨーロッパへの供給分から補充し続けました。その結果、欧州各国へのガス供給圧力が低下しました。

ソビエト時代から、ウクライナがガスを抜き取っているという事実は周知の事実で、ロシア人の多くはこの状況に対して強い不満を持っています。今回のエネルギー紛争は、この長年の軋轢が爆発した結果とも言えます。

原因はロシア?ガス供給中断で欧州混乱!アメリカも厳しい批判

その結果、欧州は大混乱に陥り、この問題は急速に国際問題へと発展しました。欧州からは、ウクライナへのガス供給中断が自身へのガス供給減少を引き起こしたことに対して、ロシアへの批判が噴出しました。

一方、アメリカもまた、ロシアの行動を厳しく批判しました。特に、ロシアがエネルギーを「政治的武器」に利用しているという点が指摘されました。この状況は、ロシアのエネルギー政策が国際社会の信頼を損ねる要因となり、同国の行動に対する疑念を一層深める結果となりました。

ロシアがウクライナへの天然ガス供給再開

ロシアは、2006年1月3日にウクライナへの天然ガス供給を再開することを余儀なくされました。1月4日には、ロシアとウクライナがガス価格をこれまでの2倍の95ドルに設定することで合意に至りました。詳細な契約期間などは明らかにされていませんが、ロシアの取り分は230ドルを維持し、ウクライナが支払う金額を95ドルにするために、中央アジアからの低価格のガスを混合することが取り決められました。

ただし、ロシアにはウクライナのパイプラインを管理する権限が与えられませんでした。ウクライナ政府は、この「重要な資産」を手放すことはありませんでした。

「ロスウクルエネルゴ」のオーナーと謎の関係性!

そして、ロスウクルエネルゴ社という謎の企業が両国間の天然ガス事業を統括することになりました。

なぜロシアのガスプロムがこの低リスク高利益のガス仲介業を、スイスに登記されたこの会社に譲渡し、さらにはプーチン大統領の黙認を得たのかは不明です。

しかし、ロスウクルエネルゴが2004年に登記され、その直後にロシア・ウクライナ間で中央アジア産ガスのウクライナへの仲介業者として指名されたことから、両国の指導者が関与していた企業であったことは明らかです。

この会社は、ユーシェンコの有力な支持者であるドミトリー・フィルタシが共同オーナーで、ウクライナで16番目に富裕な人物(総資産2億ドル)とされています。

「タンデム体制」プーチンとメドヴェージェフの政治的関係

ロシアでは2008年当時、大統領の連続3選は認められていませんでした。そのため、2期の大統領職を務め上げたプーチンは首相に転じました。彼が後任の大統領として選んだのは、親友でもあるダミートリー・メドヴェージェフ第一副首相でした。

プーチン政権には、旧KGBやその他の情報機関出身の有力者が多い中で、メドヴェージェフはそのどれとも関係がなかった珍しい存在でした。また、彼の政治思想はリベラル派であり、西欧の間での評判も良かった。そして彼は、世界最大のガス会社であるガスプロムの会長でもありました。

この体制は「タンデム(双頭)体制」と呼ばれましたが、実際には、首相であるプーチンがすべての実権を握っているとされていました。2012年にプーチン氏が大統領に再就任すると、メドヴェージェフは首相としてプーチンを支える立場になり、この体制は長く続きました。

滞納料金と停止の発端と結末!2009年のウクライナへのガス供給停止

2009年1月1日、再びロシアからウクライナへのガス供給が停止されました。その発端は、2008年末にロシアのエネルギー企業ガスプロムがウクライナの滞納料金が約21億ドル(罰金を含む)に達したと指摘し、全額返済しなければ2009年1月1日からガス供給を停止するとウクライナ側に警告したことでした。

ウクライナは罰金を除いた約15億ドルの滞納分を2009年1月1日に返済しましたが、罰金の6億ドルの返済については合意には至らず、結果的にガス供給が停止されました。

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ガスプロムの警告!ウクライナによるガス盗難で供給停止が現実に

ガスプロムの広報担当者Sergei Kupriyanovはテレビで「ナフトガスは、過去24時間でさらに2100万立方メートルの欧州向けガスを盗んだ」と述べました。その上で、ガスプロムはウクライナが盗んだとされる分と同量のガス供給を停止せざるを得ないと警告したのです。そして、実際にウクライナ経由のガス供給を2100万立方メートル分停止しました。

VOA News/YouTube
ガスストップ危機…厳しい冬における供給停止の深刻な影響

この2009年のロシアとウクライナのガス供給紛争は長期にわたり、ガス供給が完全に停止した国が東・南欧の7カ国、供給減少を経験した国が合わせて17カ国となり、過去に例を見ない大きな問題に発展しました。

多くのメディアは、ウクライナが反ロシアの軍事同盟であるNATOへの加盟を目指していることや、ロシアの宿敵であるグルジアへの武器供給を行ったことなどを、今回の問題の背後にある原因として報じました。

「厳冬の国々のサバイバル」ガス供給危機と生命の安全確保”

厳冬期のこれらの国々に住む人々にとって、天然ガスが供給されないことは文字通り生死を分ける問題となりました。特に、2009年の冬は例年以上に厳しい寒さが続いており、このような状況下でのガス供給停止は、さらなる混乱を引き起こす要因となりました。

それでも、1月11日までには中継輸送をめぐる国際監視態勢に関する関係国間の合意が見られました。しかし、長期的なガス供給のあり方については未解決のままでした。今後も同様の危機が発生する可能性があり、そのための対策が求められる状況にあるのです。

しかし、驚くべきことに、この2度目の天然ガス危機では、バルカン半島の一部を除いて、供給不足はほとんど発生しませんでした。ウクライナにはすでに潤沢なガスの備蓄があったため、国民は最悪の状況を避けることができました。さらに、西欧諸国も自国のガス備蓄を使うことで、この急場をしのぐことができたのです。

ロシア・ウクライナ紛争と新たな供給ルートの必要性

2009年1月のロシアとウクライナとの天然ガス紛争が一時的に収束した後、欧州では二つの主要なエネルギー供給国に対する不信感が高まりました。ロシアは初めて欧州に対してガス供給を停止し、パイプラインを通過するウクライナは再三にわたりガスを抜き取り、料金の未払いを繰り返しました。この状況は欧州のエネルギー安全保障に対する懸念を深め、ウクライナを迂回する新たなパイプラインの必要性を強く主張する動きを生み出しました。

しかし、新たなパイプライン計画「ノルトストリーム2」は、ポーランド、バルト三国、ウクライナを始めとする東欧諸国から強い反対を受けました。これらの国々は、自国を通過するパイプラインから得られる通過料収入が減少することに加え、新たなパイプラインが西ヨーロッパへの直接供給ルートとなることで、ロシアが自国へのガス供給を停止する可能性が高まると懸念しました。これは、天然ガスが政治的圧力の道具として使われる可能性を高めるという意味でもありました。

安価なガス供給「ノルトストリーム2」の魅力と西欧諸国の期待”

それでも、「ノルトストリーム2」は、ウクライナ経由よりも40%安い価格でガスを供給できると主張されています。これは西欧諸国にとって魅力的で、2本目のパイプラインが供給を開始すれば、ドイツは西ヨーロッパ各国へのガス供給ハブとなると見られています。

一方、ポーランド、バルト三国、ウクライナなどは、「ノルトストリーム2」に対しても同様の理由で強く反対しています。特にウクライナは、国を通過するガスパイプラインから年間20億ドルの通過料収入を得ており、これが減少すると経済が弱体化し、政治が不安定化する恐れがあると報じられています。これらの問題は今後も欧州全体のエネルギー安全保障を左右する重要な課題となるでしょう。

DW News/YouTube

「ウクライナの闇」天然ガスの輸入と輸出、そして支払い滞納の謎

大量のガスを必要とするウクライナが同時にガスの輸出を行っているという事実は、初めて聞くと不思議に思うかもしれません。この背後には、ウクライナとロシアの間での輸入と輸出の価格差を利用した利益が存在します。これは、ロシアのガスプロムとウクライナの実業家が共同株主となる企業により生じる収益で、これには利権問題が絡み、一部で疑問視されています。

しかし、一方でウクライナが大量の天然ガス代金を滞納していることが問題となっています。ウクライナはロシアから欧州への天然ガスの中継地となっているため、ロシアから中継代を受け取っているはずです。2005年の中継代は、1000立方メートルの天然ガスを100キロメートル輸送するあたり1.09ドルでした。これは本来、ウクライナがガス代金を支払うための資金として使用されるはずでした。

しかし、2014年5月時点でウクライナの天然ガス料金滞納額はなんと44億5800万ドルに上っています。これは一体どういうことなのでしょうか?ウクライナのエネルギーセクターの運営と財政状況にはどのような問題があるのでしょうか?これから掘り下げていきましょう。

定期的にガス代を滞納!運賃量を上乗せして帳尻合わせ

ウクライナは1990年代を通じて、ガス代金の不払いを繰り返す形でロシアに巨額の負債を抱えていました。これに対してロシアは供給量を一時的に削減するなどの報復措置を取っていましたが、ウクライナ側は中継料を一方的に増加させることでこれを補ってきました。これは「ガスの抜き取り」と呼ばれる行為で、少なくとも5度以上発生し、年間行事のような状態となっていました。

ロシアの計らいでウクライナへ天然ガス無料供給

ウクライナが抱えるこの巨額の債務は、2004年にロシアとウクライナが集中的にガス問題を話し合った結果、解決に向けた進展が見られました。合意した内容は、2005年から2009年までの間、ウクライナが毎年210億~250億立方メートルのガスをガスプロムの欧州向け販売ガスの通過量として受け取るというものでした。ウクライナを通過するパイプラインについての通過タリフは、1,000立方メートルあたり1.09375ドル、ガス価格は1,000立方メートルあたり50ドルと取り決められました。

これによりウクライナが輸入するガスの半分は、実質的に無料で供給される形となり、その時点では新たな問題は発生しないと関係者は確信していました。

「密かに仲介料を加えて国に売りつける」利権と汚職による高価なガス価格と財政危機

しかし、問題はそこで終わりではなかったようです。調査によれば、ロシアのガスプロムとウクライナのナフトガスとの天然ガス取引は、ウクライナにある財閥を介して行われていました。この財閥はロシアから購入した天然ガスに大量の仲介料を加え、それをウクライナに売りつけていたのです。

関係者はユシチェンコ大統領とティモシェンコ首相

その結果、ウクライナは高騰したガス価格を支払うことができず、借金が増え続ける事態となりました。驚くべきことに、この財閥の関係者にはオレンジ革命の主要人物であるユシチェンコ大統領やティモシェンコ首相も含まれていたという情報があります。これらの人物が国の破綻に一役買っているとは、誰もが信じられない事態でしょう。

二人は天然ガス価格をめぐり対立を続けた

ウクライナの民主化のために共に立ち上がったユシチェンコ大統領とティモシェンコ首相が、今度はロシアからのガス供給を巡る問題で対立しました。2009年1月にモスクワでティモシェンコ元首相がロシアとの価格合意を交渉した際、ユシチェンコ大統領は「ティモシェンコの個人的な決定だ」と非難したのです。

「密約疑惑」プーチンとティモシェンコ

プーチン首相とティモシェンコ首相間の合意にまつわる「密約説」がささやかれる中、ウクライナの国営エネルギー会社ナフトガス社は3月4日に大統領側の治安機関による強制捜査を受けました。このナフトガス社は2009年1月の合意でロシアのガスプロムと交渉を行った企業で、ティモシェンコ首相の指導下にあるとされています。

この事件は、ユシチェンコ大統領とティモシェンコ首相の対立を一層深める結果となりました。この対立にはロスウクルエネルゴが関わっていました。同社は、従来からロシアからウクライナへのガス供給やウクライナからのガス輸出に関与しており、ユシチェンコ統元大統領とのつながりが深いとされています。

ユシチェンコ(ロスウクルエネルゴ社) vs ティモシェンコ(ナフトガス社)

その結果、「ユーシェンコ(ロスウクルエネルゴ社)対ティモシェンコ(ナフトガス社)」という構図が浮かび上がりました。これは、ウクライナのエネルギー政策を巡る緊張を一層高める要素になりました。

「オレンジ革命の幻想」ユシチェンコ大統領の失望とウクライナの政治腐敗

オレンジ革命による数週間の抗議行動の後、ビクトル・ユシチェンコは真の勝者として大統領の座に就くことを認め、ヤヌコビッチは敗北を受け入れました。この革命はソビエト連邦の崩壊後のウクライナにおける初の民主的選挙を示すものでした。

しかし、2010年の現在では、状況は大きく変わっています。ユシチェンコは国民の深い失望感を引き起こしています。厳しい経済的後退がウクライナを襲い、重要な政策決定は進展していません。政府は土地私有化やソビエト時代から続く補助金の廃止に踏み切ることができず、ユーシェンコの評価は低下しています。

ユシチェンコの政治的失策は、オレンジ革命で敗北したヤヌコビッチの台頭を助長し、オリガルヒたちが私腹を肥やす結果となりました。彼の人気が低下する度に、ロシア語の公用語排除や、ロシアがファシストと見なし嫌っているステパン・バンデラを国民英雄にしようとしたなど、反露感情を煽って支持率を回復させようと試みました。これは、ロシアとの関係を不必要に悪化させ、国内の分裂を深める結果となりました。

「オレンジ革命」の真相は、欧米メディアの賛美から大きく逸脱しています。実際には、ウクライナの独立後の長期的な経済低迷から回復したにもかかわらず、その利益を共有できない庶民がウクライナ政治の腐敗と汚職に対して怒りを爆発させたのです。

そんな中……ティモシェンコは次の2010年大統領選に出馬

そして、2010年、前回の大統領選挙で敗北した親ロシア派のヤヌコビッチ氏が再び大統領選挙に挑戦します。この時の対立候補は、でオレンジ革命の英雄、ユリア・ティモシェンコでした。

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