キーウ近郊のブチャで報じられた虐殺事件。この事件に関して、ロシアはその存在や規模を一貫して否定しています。しかし、高度な技術を持つ人工衛星がその現場を捉えた画像は、真実を明らかにしました。この事件は、戦時での情報戦の様相を呈しており、多くの疑問や憶測が飛び交っています。今回は人工衛星の画像と、それをもとにした専門家の分析を通じて、ブチャでの出来事の真実を探っていきます。
【ウクライナ危機(54)】ロシア軍の恐怖!ブチャで明らかになった悲劇の痕跡と虐殺の実態
Bucha are fake?
ブチャの虐殺は嘘!?検証した結果……。
ウクライナは、ブチャなどの地域でロシア軍が行ったとされる戦争犯罪の証拠収集を国際刑事裁判所(ICC)に要請。公開された画像には、虐殺されたとされる民間人の遺体が写っており、国際的に大きな反響を呼んでいます。
これらの画像や情報を受けて、ドイツ、フランス、イタリアなどの国々は、このような行為が戦争犯罪にあたる可能性があるととしてロシアを強く非難しました。
しかし、ロシア側はこれらの指摘や非難に対して強く反論しています。ロシアのペスコフ報道官は、公開されている画像の多くは捏造であるとの立場を示し、ウクライナの主張や証拠を信じることはできないとしています。また、ブチャの地域に関しては、ウクライナ軍が常に攻撃を行っていたと説明。その上で、ロシア側はブチャの住民に対して避難の機会を十分に与えていた主張しました。
ロシアがブチャの事件を「米国の策略」と主張
4月3日、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、ブチャで発見された多数の民間人の遺体に関連する写真や映像が、ロシアを悪く見せるための策略であるとの立場を明らかにしました。さらに、これが米国の「指示」によるものであるとの考えを示しました。
これに加えて、ロシア国防省はこの事件に関連する映像や写真を「仕組まれたパフォーマンス」として非難。実際には、そうした情報は実際の事実を捻じ曲げたものであるとの立場を取っています。
ロシア国防省の主張によれば、「第72ウクライナ心理作戦センター」という組織が、キーウから北西に位置する地域やスムイなどでのプロパガンダ活動を支援しており、ロシアはその証拠をすでに手に入れているとしています。
ペスコフ報道官、キーウ近郊での遺体発見を「恐ろしい捏造」と主張
4月5日、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で発見された多数の民間人の遺体に関して、ロシア軍に対する名誉毀損を意図した「恐ろしい捏造」との立場を明らかにしました。
ペスコフ報道官は、記者団への発言の中で、この事件を「うまく演出された、悲劇的なショー」と表現。さらに、「ロシア軍を誹謗中傷するための捏造」と明言しました。
ペスコフ報道官はこの事件を取り巻く情報や報道に対して警戒心を呼び起こすようにとのメッセージを国際社会に向けて発信。「国際社会に対して、自分たちの頭でしっかりと考え、事実をしっかりと確認するように」との呼びかけを行い、同時に「どれほどの恐ろしい捏造であるかを理解するべきだ」との意見を表明しました。
「ウクライナのプロパガンダ」メドベージェフ元大統領が主張
かつてのロシア大統領である、ドミトリー・メドヴェージェフ安全保障会議副議長は、ブチャの事件について、それは「ウクライナのプロパガンダ」による捏造であるとの立場を明確にしました。
メドヴェージェフによると、ウクライナ軍が自国の市民を殺害することでロシアの評価を低下させようとする考えたと言います。しかし、そのような主張の裏付けとなる具体的な証拠は提示されていません。
メドヴェージェフは、かつてはロシアの民主主義を強化し、西側諸国との関係を改善する”リベラル”な方針を持つ大統領との期待が一部にはありました。しかし、2012年から2020年にかけて首相を務めていた間には、その期待とは裏腹に、プーチン大統領の政策に対しての支持を明確にし、プーチンの”生涯大統領”としての地位の確立に貢献しました。
メドヴェージェフはロシアが2月にウクライナへの侵攻を開始して以来、クレムリンの主張を一貫して支持し、多くの場面で陰謀論的な主張を行ってきました。特に、ブチャでのロシア兵によるとされる事件についても、それが捏造であり、ウクライナ側のプロパガンダであると断言しています。このようなスタンスは、プーチン大統領がウクライナを正統な国家と見なしていないとの立場とも合致しています。
ロシアのメディア環境、情報制御と「フェイクニュース法」
ロシアでは、ウクライナ侵攻後に国内のメディア環境が一層厳格に制御されている。通常の日中やプライムタイムには様々な娯楽番組が放送されるものの、最近ではニュース番組が主流となっており、その内容も戦争に関するロシア政府の立場や見解を強く反映しています。従って、政府の見解に異なる情報や意見は、実質的に遮断されているのが現状です。
さらに、ロシアのメディアの多くは、国営放送局または政府と深い関係を持つ放送局であり、放送内容は政府の公式な立場を強く反映しています。その結果、異なる視点や情報が国内の大多数のロシア国民に伝えられる機会は限られています
このような情報制御の一環として導入されたものでが、侵攻後の3月4日に制定された「フェイクニュース法」です。この法律の下では、ロシア国内で「フェイクニュース」と政府が判断した情報を流布する外国人ジャーナリストに対しては、厳しい刑罰が科されることとなっています。具体的には、最高で15年の禁固刑という、非常に厳しい罰則が設定されている。
ブチャの虐殺へのロシア国内の反応と国営メディアの役割
このような状況の中、ウクライナのブチャにおける残酷な事件に関して、ロシアの国営メディアは独自の見解を国内外に伝えています。その主張はロシア政府の意向を大きく反映しており、事件は「フェイク」や「プロパガンダ」であると断言。これはウクライナや西側諸国の非難に対する反論の一環として展開されています。
一方、多くの国際的な報道機関やNGOなどは、独立した調査を行い、事実を報道しています。しかし、前述の通り、ロシア国内での情報アクセスは制限されており、国営メディアの報道が主流となっているため、真相を知ることが難しくなっています。
国名テレビでは『ブチャの虐殺』を西側諸国の陰謀
4月5日、ロシアの国営放送局“ロシア1”の番組において、ウラジーミル・ソロヴィヨフ氏という扇動家が、アメリカのジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領を巡る言及を行いました。ソロヴィヨフ氏の主張は、バイデン大統領がロシアのプーチン大統領を「屠殺者」(英語:Butcher)と呼んだことは、事実上、NATOによるウクライナのブチャでの虐殺を指示する合図だった、というものです。
この主張の背景には、バイデン大統領が先月、ポーランドを訪問した際の演説で、プーチン大統領を「屠殺者」と非難したことがあります。ソロヴィヨフ氏は、この「屠殺者」の英語の発音(ブッチャー)と、ウクライナの都市「ブチャ」の名称とが類似している点を取り上げ、この二つの言葉の間に意味的な関連性があると主張しました。
さらに彼は、ブチャでの虐殺は「英国のプロフェッショナルたち」によって行われたものだとの見解を示しました。
「私はこんな主張は信じない」ロシアのSNSでの世論の動向
ロシアの軍事行動に関連する出来事を受けて、SNS上のロシア人ユーザー間での議論は非常に活発となっています。多くのロシア人は自国の軍についての負の報道に対して懐疑的であり、情報の信憑性やソースを疑問視しています。これは、多くの国民が自国の兵士たちを信じており、彼らの行動に対する誇りや連帯感を感じているためだと考えられます。
「私たち(ロシア人)の兵士がそんなことをするとは思えない」や「私はこんな主張は信じない」といった投稿がSNS上で散見されるのは、このような感情や信念が背景にあると考えられる。国の行動や政策を批判する外部の報道やコメントに対して、多くのロシア人は自国を守ろうとしているのかもしれません。
一方で、ロシア軍を批判する投稿やコメントには、即座に反論する声も上がっている。
「ウクライナの過激派がやったことだ」ロシアは関与を否定、国連安保理の招集を要請
ロシアは、ブチャでの集団虐殺に関してウクライナの過激派が関与しているとの立場を明確にし、国連安全保障理事会(安保理)の招集を求めました。この要請は、ロシアが国際社会に対して自らの見解を主張し、ウクライナ側の行動を非難するものと見られます。
ドミトリー・ポリアンスキー国連駐在ロシア次席大使はツイッターを通じて、この安保理招集の要請を公表しました。さらに、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官も、ブチャに関する事件はウクライナの過激派によるものであるとの立場を取り、ウクライナ政府の行動を非難しました。
一方、米国はロシアのこの動きを即座に批判。サマンサ・パワー元米国連大使は、ロシアが以前のクリミアやアレッポでの出来事と同様の「脚本」を使っていると指摘。パワーはロシアが国際社会の前で「弁解の余地のないことを弁護する」ための手段として安保理を使用しているとのロシアを強く非難し、多くの国がロシアの主張を信じないであろうと指摘しました。
「フェイク」翌日の国連安全保障理事会でロシア国連大使が主張
4月5日の国連安全保障理事会において、ロシアのネベンジャ国連大使はブチャでの事件について、その責任を「ウクライナの過激派」に求め、公開されている映像や写真が「フェイク」であると主張しました。ネベンジャ大使はこの事件を「偽旗作戦」とし、それはウクライナ政権とその西側の支援者によって実施されたものだとの立場を明確にしました。
さらに、ネベンジャ大使は、この事件の背後にある真実は近い将来にはっきりするとの考えを示しました。
ミス?ある部分で反対に認めるような言動をしてしまう
国連の記者会見で、ネベンジャ国連大使はブチャでの事件に関する質疑応答中、注目すべき言い間違えをした。記者から「目撃者や写真による証拠についてどう答えるのか?」という質問を受け、大使は「あなたが注意深く、ブチャで起きたことを見てみれば、通りに横たわっている遺体が、ロシア兵が到着する前にはなかった……いや、いや、去る前、失礼。ロシア兵が去る前になかった」と発言した。
この「到着する前」と「去る前」という言い間違えは、大使が意図せずにロシア軍の関与を示唆するものとして、多くの人々に注目された。特に、フランスのジャーナリストによって「フロイト的失言」として指摘され、この言い間違えが無意識の中での本音を示しているのではないかという見解が取り上げられた。
この記者会見の映像はSNSで拡散され、80万回以上再生されるなど大きな注目を集めた。ネベンジャ大使のこの言い間違えは、ブチャでの事件に対する国際的な議論や情報戦の中で、新たな焦点となった。
ブチャでのロシア軍の撤退後の情勢と主張の食い違い
ロシア軍軍の後にブチャで見られた残虐な光景は、国際的な注目を浴びています。AFP通信の記者が確認した20人の遺体の情景は、戦場の実態を示しているが、これに関する事実の解釈には大きな食い違いが存在する。
- 白い布の意味について: 遺体の中には白い布で手足を縛られているものや、上腕部に白い布を縛り付けられているものが含まれている。この白い布は、何らかの識別印として使われていた可能性がある。
- ロシアの国営メディア「ロシア通信」によれば、ウクライナの特殊部隊は、この白い布が結ばれている遺体がロシアの工作員やロシア軍と協力していた人々で、ウクライナ側の攻撃の結果死亡したと主張している。
- しかし、ブチャの住民の証言によれば、住民は露軍の命令で白い布を腕に巻くように指示されていた。これは露軍による制御の一環として、住民の動きや行動を監視するためのものであった可能性がある。
- 住民の反応: ブチャの住民の一人であるリュボミルさんは、「露軍の行動原理はよく分からない」と語りながらも、露軍の圧制の下での生活の厳しさや危険性を強調しています。露軍の厳しい統制の下で、住民は露軍の許可なしには外出や移動ができない状況だったと伝えています。
ロシアの否定も戦衛星画像で遺体の存在が証明される
ロシア軍がウクライナのブチャ市を離れた後、様々な情報や映像が世界中に流れ出した。中でも特に注目を集めたのは、市内を走行中の車から撮影された映像だ。その映像には、道路の両側に放置されたとされる遺体が映し出されていた。この映像が一般に公開されると、多くの人々から衝撃と憤りの声が上がった。
カナダのロシア大使館の主張
しかし、映像が公になった後、在カナダのロシア大使館がツイッター上でこの映像についてのコメントを発表。ロシア大使館は「キエフ近郊のブチャで、遺体を偽装したやらせビデオ」との主張を展開し、映っているのは本物の遺体ではないと強調した。
ロシアの国連大使の主張
さらに、ロシアの国連大使であるワシリー・ネベンジャも、ブチャに関する事件を否定する発言を行いました。
ネベンジャによれば、ロシア軍がブチャを支配下に置いていた期間中、地元の住民が何ら暴力的な行動に遭遇することはなかったとのこと。これは、ロシア軍による虐殺や不当な暴力行為を完全に否定するものとなる。
さらに、市内の道路に散乱していた遺体についても触れ、その存在について疑問を投げかけた。彼の主張によれば、ロシア軍がブチャを離れる際、そのような遺体は存在していなかった。しかし、後に突如として道路に遺体が現れ、それが報じられるようになったという。
ラブロフ外相のブチャ事件に関する見解
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、モスクワでのアラブ連盟の会合において、ウクライナ危機と関連したブチャ市における事件に言及しました。
彼は、西側の外交の対応について、デマと憶測に基づく情報を広める傾向があると指摘。特に、ブチャ市における事件を中心に、真実とは異なる情報が意図的に拡散されているとの立場を示しました。ラブロフ外相はこれを「フェイク」と断じ、これまでの例としてマリウポリ市でのフェイク動画を挙げました。ロシアはこれまでの事例で真偽不明の情報を暴露する姿勢を示しており、ブチャ市における事件もその一部とみなしているようです。
さらに、ラブロフ外相はブチャ市に関する具体的な時系列を示しました。彼によれば、ロシア軍が3月30日にブチャを離れた後、市長がテレビでの発言を通じて市の状況が安定していることを示唆していた。その後、ウクライナ軍が到着し、市内の映像が撮影された際、遺体や混乱の痕跡は見当たらなかったとのこと。
ラブロフ外相は、対露の非難が高まる状況について、これは停戦交渉の進展を阻害する意図があるとの立場を示しました。彼は「ウクライナ側が交渉を意図的に破綻させようとしている」と主張し、このような挑発行為が国際的な安全保障を脅かすものとして懸念を表明。最後に、事件の真偽を議論するための国連安全保障理事会の緊急会合の開催を提案しました。
ロシア国防省のフェイク動画主張
ロシア国防省は、ウクライナ軍が「平和を愛する民間人がロシア軍によって殺害された」との情報を広めるために、フェイク動画を製作しているとの立場を明らかにしました。この情報発表は4月5日に行われ、具体的な動画の収録場所としてキーウから北西に約20キロメートル離れたモシチュンという集落を上げ、この動画が西側のメディアに提供される目的で制作されたとの見解を示しました。
さらに、ウクライナの他の都市においても同様の動画の製作が進行中であるとの情報を公表。特に、北東部のスムイやコノトプといった都市がこの動画製作の現場として名前を挙げました。しかし、これらの情報がどのような経路で入手されたのかについての詳細を明かしていません
メディアが検証……ロシアの嘘を暴く!
ロシア国防省のフェイク動画に関する主張に対し、国際的な報道機関が速やかに反論を行いましたその中でも特に注目されたのは、4月4日付けでニューヨーク・タイムズが発表した記事です。同紙は、ロシアの主張とは逆に、ブチャ市内の道路に放置された遺体は既に数週間も前からその場所にあったと伝えた。この主張を裏付ける形で、3月中に撮影されたマクサー・テクノロジー社の衛星写真を公開、この写真には道路上に放置された遺体の姿がはっきりと捉えられていた。
マクサー・テクノロジー社のブチャに関する衛星画像提供
マクサー・テクノロジー社は、ロシアのブチャ侵攻に関する事件の中で、注目を浴びる存在となった。同社の提供する高解像度の衛星写真が、SNS上で拡散されているブチャの遺体の写真や動画を裏付ける重要な証拠として取り上げられている。
マクサー・テクノロジー社とは?
- 業務内容: 通信衛星、地球観測衛星、レーダー衛星などの宇宙技術関連の製造を行う企業。具体的には、地球の監視やブロードバンド通信の提供、宇宙利用の探求と発展を支援する業務を展開。
- 主なセグメント:
- 地球情報事業 – 高解像度の光学・レーダー画像製品や解析技術を提供。
- 宇宙インフラ事業 – 通信衛星や軌道上サービスの設計、構築、統合、テストを行う。
- 特徴的なサービス: 地理空間サービスとして、画像や分析の専門知識、技術を活用し、顧客にインテリジェンス・ソリューションを提供。
ロシアの軍事侵攻以降、同社の提供する衛星画像は報道機関からの要請が急増。1日に約200件の画像提供の依頼を受け取る状況となっていると報告されている。
マクサー・テクノロジー社の広報担当者は、このような状況について、「ブチャを撮影した高解像度の衛星写真は、路上に横たわって何週間も野外に放置されている遺体を示すSNSの写真や動画を検証し裏付けている」とコメントしている。このような技術を持つ同社の存在は、真実を追求するための重要なツールとして利用されている。
衛生写真によって遺体の存在が証明
ニューヨーク・タイムズによる衛星写真の解析により、ブチャの通りでの遺体の存在が明らかとなったことは、その地域の事実を報じるための重要な手段となりました。この報道により、事実として以下の点が明らかになっています。
- 遺体の存在の確認: 3月11日時点での衛星写真において、ブチャの通りに少なくとも11人の遺体が横たわっているのが確認されました。
- 遺体の増加: 3月20~21日以降の衛星写真で、遺体の数がさらに増加していることが示されました。
- 遺体の位置の一致: ロシア軍の撤退後の写真と、衛星写真を比較した結果、同じ場所に遺体が存在していたことが明らかとなりました。このことから、ロシアが主張する「遺体が数週間前から存在していない」という情報が事実ではないことが示唆されました。
- 専門家の意見: 米ミドルベリー国際大学院のジェフリー・ルイス氏のコメントは、ロシア軍のブチャにおける活動と、その後の遺体の存在に関しての一致点を示しています。
ロシアが「ブチャでの集団虐殺の主張は捏造である」との反論を行っていたものの、衛星写真の解析結果や、それを裏付ける専門家の意見により、その反論が信ぴょう性を欠くものであることが示されました。
ロシアの主張に対する国際的な疑問の高まり
ニューヨーク・タイムズの記事は、ブチャ事件に関する真実を追求する火付け役となった。その衛星写真による証拠をもとに、BBCやAFPをはじめとする複数の国際的な報道機関が追跡取材を行い、さらに詳細なファクトチェックの結果を公開しました。これらの報道は、ロシアの主張と実際の事実との間に大きなギャップがあることを浮き彫りにしました。
ロシア国防省の主張は、ブチャの事件に関して民間人の遺体が露軍の撤退後にウクライナ側によって配置されたというものでした。しかし、これらの報道機関が公開した衛星写真やファクトチェックの結果は、その主張を大きく揺るがすものとなった。
世界中の人々は、これらの報道を通じて、ロシアの公式な情報発信が信頼性を欠いている可能性が高いと認識し始めました。特に、ロシアがこれまでにも情報操作やプロパガンダを行ってきた経緯があることを考慮すると、今回のブチャ事件に関する主張も疑念の目で見られるようになりました。
遺体のそばで活動するロシア軍の姿がドローンで撮られる
CNNが単独で入手したドローンによる映像は、ウクライナのブチャでの事件に関するロシアの関与を示す重要な証拠となりました。これまでのロシアの公式の立場は、ブチャでの大虐殺に対する関与を一貫して否定してきました。しかし、この新たな映像が公開以降、ロシアの主張に対しての疑念が深まりました。
この映像が示しているのは、ロシア軍の車両や兵士が民間人の遺体とともにブチャの街路上に存在していたという事実です。具体的には、遺体が映る道路の先でロシアの軍用車両が停まっている様子や、ロシア兵がある家屋の周りにいる様子が捉えられています。これらの映像は、事件発生後の3月12日と13日に撮影されています。
特に重要なのは、CNNが持っている別の映像やマクサー・テクノロジーズによる衛星写真との照合で、同じ遺体が映っていることが確認された点です。これにより、ロシア軍の車両や兵士が、遺体が放置されていた期間にブチャに存在していたことが明らかとなりました。
ロシア大使館の動画投稿に疑念!「死の通り」と主張するも異なる場所での撮影
ロシアのウクライナ侵攻に関する情報戦が激しくなる中、在日ロシア大使館が公開した動画が話題になりました。動画は「ブチャ市の真実」という題名で、ウクライナのブチャでの虐殺事件を「ウクライナの自作自演」と批判する内容となっています。
ロシア大使館のこの動画は、SNSを通じて広範囲に拡散されており、SNSの公式アカウントを通じて4月9日に投稿されました。
この動画は、ブチャの「死の通り」に遺体が存在しないと主張していますが、毎日新聞の詳細な分析によれば、この動画で示された通りは、実際の遺体が見つかった通りとは異なる場所で撮影されたことが明らかになりました。
これは、虐殺現場とは異なる場所の映像を提供し、「ウクライナ側のフェイク」と主張したことになり、ロシア大使館が提供している情報の正確性や信頼性に疑念が持たれることとなりました。
❗️ブチャ市の真実👇🏼
— 駐日ロシア連邦大使館 (@RusEmbassyJ) April 9, 2022
詳細は🔗https://t.co/PrDdJoUCUw pic.twitter.com/PWsxrxNPyJ
ブチャの虐殺は「映画のセット」在仏ロシア大使がTwitterに投稿
フランス政府は、在仏ロシア大使館がウクライナ・ブチャでの惨事に関連する写真に対しての不適切なツイートに反応し、ロシア大使を緊急に召喚することを発表しました。これは、ロシア大使館がSNS上で、ブチャの惨事に関する写真を「映画のセット」としてデマを流布したことに対する厳しい対応を示すものです。
ロシア大使館のツイートは、ブチャで発見された遺体が映った写真を示しており、それを「撮影シーン」と非難するものでした。これに加え、キエフがその遺体を利用して「モンタージュ」を行ったという、モスクワの公式声明を支持するような内容が含まれていました。しかし、このツイートは非常に大きな批判を受け、後に削除されました。
フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相は、この問題に対して、ツイッターで「ブシャの残虐行為についてのフランスのロシア大使館からの連絡のわいせつと挑発を考慮して、私は今朝ロシア大使を召喚することにした」とコメントしました。
ロシア国営メディアの「フェイク」主張に国際的な検証が続々
ブチャで発見された多数の遺体に関連する映像が、ロシア国営テレビ「第1チャンネル」によって「芝居である」という主張とともに放送された。ロシア国営メディアは映像に映った遺体の一部が動いているとし、これを「フェイク」と位置づけました。親ロシア派のSNSアカウントもこの認識を繰り返し拡散し、情報戦の一環として独自の解釈を展開しました。
しかし、多数のファクトチェックメディアや専門家たちがこのロシア国営メディアの主張を検証。結果として、ロシアの主張が根拠不足であることが明らかになりました。
- 遺体が動いている:イタリアのファクトチェックメディア「オープン・オンライン」のデビッド・プエンテや英BBC、ニュースサイト「オーロラインテル」などの検証によると、「遺体が動いている」とのロシアの主張は誤りであると指摘。
- 腕を動かしている:「腕を動かしている」とされたシーンは、車のフロントゴラスに付着した水滴が影響しているだけであり、実際に遺体が動いているわけではない。
- 座り込んでいる:「座り込んでいる」との主張の場面は、ドアミラーの歪みによって生じたものと分析された。
ブチャ事件の背景と死後硬直についての専門家の意見
ロシア国防省は、ロシア軍がブチャから3月30日に撤退した際、市民に対して暴力行為はなかったという証拠に、遺体に死後硬直が見られない点を取り上げ、ウクライナ側の証拠が捏造であるとの立場を示しました。
具体的にロシア国防省の声明文では、ロシア軍が3月30日にブチャから完全に撤退していたとされています。その期間中、ロシア軍の監督の下でブチャの市民は、どのような暴力も受けていないとの主張がなされています。また、ブチャでの「犯罪の証拠」とされるものは、ロシア軍の撤退から4日後にウクライナの情報機関やメディアによって公開されたものであり、その遺体には死後硬直などの兆候が見られないという指摘も行われています。
しかし、法医学の専門家である清水恵子教授は、ロシア側の主張に対して懐疑的な意見を示しています。
死後硬直は、人が亡くなった後、遺体の筋肉が一定の時間硬直する現象を指します。この硬直は、死亡後の時間経過や周囲の環境条件など様々な要因によって異なる経過をたどります。
清水教授は、映像だけで死後硬直の有無を判断することの難しさを指摘しています。映像を通じての観察のみでは、遺体の詳しい状態や発生状況を正確に評価することが難しいとの立場です。
また、ロシア側の「完全撤退から4日後に死後硬直が見られない」という主張に対しても、清水教授は懐疑的な見解を示しています。冬の季節であっても、死後4日経過した段階で硬直が解けるケースは珍しくないとのこと。さらに、春の季節の影響も考慮すれば、3月30日に亡くなった場合、数日後には死後硬直が終わっている可能性が高いとしています。
このような法医学的知見は、遺体の状態や死因を評価する際の重要な指針となります。特に、政治的な背景を持つ事件や疑惑が絡む場合、科学的根拠に基づく客観的な分析が求められます。
⚡ Official Statement by @mod_russia ⚡
— MFA Russia 🇷🇺 (@mfa_russia) April 3, 2022
All the photos and videos published by the Kiev regime in Bucha are just another provocation.
Facts 👉 https://t.co/L91uGBs4r5
❗ This confirms conclusively this is another #hoax by the Kiev regime for the Western media. pic.twitter.com/VO3umSNwkE
「ブチャの虐殺とロシア軍の関連性が高い」ドイツの情報機関が無線を傍受
2022年4月7日、ドイツのニュースサイトDER SPIEGELは、ドイツ当局がウクライナ・キーウ近郊の町ブチャでの残虐行為に関連があるとされるロシア軍の無線通信を入手したと報道しました。この情報は、ドイツの対外情報機関、連邦情報局(BND)によって傍受されたものだとされています。
傍受された通信内容に基づき、ドイツ当局者は、ブチャでの民間人に対する暴力行為が一部の不正規兵士によるものではなく、意図的な戦略の一環として行われた可能性があるとの見解を示しています。特に、通信の中には、自転車に乗っていた民間人を銃撃して殺害したとの発言や、民間人に対する尋問後の銃撃の是非についての会話が含まれていたとのことです。
この情報は、ロシア側がブチャでの民間人の遺体に関して、捏造であるとの立場を取っている中、重要な証拠として注目されています。シュピーゲルによれば、BNDはブチャで発見された遺体の位置と一致する位置データを持っているとのこと。
ロシアのPMC「ワグナー・グループ」の関与の可能性
DER SPIEGELの報道によれば、ブチャでの暴力行為に関わっていたのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル(ワグナー)」の傭兵であった可能性が示唆されています。ワグネルは、シリアや他の国際的な紛争地帯での活動で知られる、プーチン氏の指示の下で動くとされるエリート武装集団です。
目撃者の証言によれば、ウクライナ侵攻の初期段階では、若いロシア兵がブチャに展開していたとされますが、その後、異なるグループの兵士に置き換えられた後で、民間人に対する攻撃が開始されたとのこと。これは、ワグネルの傭兵が後から展開し、暴力行為を実施した可能性を示唆しています。
ロシアの主張を無効にする証拠
ブチャをはじめとする地域での非人道的な行為に対する市民の証言が増える中で、この新たな証拠は、ロシアが「虐殺は捏造である」との主張を反証する重要な情報として評価されています。
「ブチャの虐殺はフェイクだ」ロシア側の嘘に非難が集まる中でプーチンが主張
4月12日に宇宙基地を訪問したロシアのプーチン大統領は、ウクライナ情勢についてのコメントを求められる中、特に感情の色を見せることなく続行する姿勢を示した。プーチンのこのような姿勢は、彼の冷静なリーダーシップスタイルを象徴しているとも捉えられる。一方で、ブチャの事件を「フェイク」と断言する彼の言葉は、国際社会に疑念を抱かせている。
ロシア国内での報道抑制は、3月4日の法改正を通じてさらに強化された。この法改正により、政府が不都合と判断する情報の報道は重い刑罰の対象となり、これによってメディアは自由な報道を行うことが難しくなっている。国際的な観点からも、これは報道の自由を制限する動きとして懸念されている。
ロシア政府が「フェイク」というレッテルを情報に張ることで、都合の悪い情報を否定・抑制しているのは明白である。この動きは、情報戦の一環として、国内の世論をコントロールし、国際社会へのメッセージを一定の方向に持っていくためのものとみられる。政府の情報操作と報道の自由の制約は、今後も国際的な注目を集めるであろうテーマとなることは間違いない。
ウクライナからの避難民についてもフェイクが流布
虐殺を否定するフェイクやその他のプロパガンダ以外にも、ウクライナからの避難民に関しても、真偽不明のネガティブな情報が流れました。
その1つが、ドイツで拡散された16歳の若者がウクライナ人によって殴打され死亡したという動画です。この動画は短時間で多くの人々の間で広まり、憤りや怒りの感情を引き起こしました。しかし、ドイツの警察当局はこの動画について調査を行った結果、「憎悪をかき立てることを目的とした意図的な『偽のビデオ』であると想定している」との公式発表で事実を否定しました。
情報戦とロシアの全否定戦略
ロシアによるウクライナ侵攻は、軍事的な側面だけでなく、情報戦の側面も持っています。この戦争の背後には、物理的な衝突だけでなく、真実の解釈、物語の形成、国際的な印象の操作など、情報とその伝播に関連する要素が数多く存在しています。
ブチャでの出来事を巡るロシアの全否定戦略は、情報戦の一環として理解されるべきです。ロシアが事実を全否定することで、その主張が事実として受け入れられれば、国際的な非難を避けるだけでなく、自国内での支持も固めることができるという計算があるのでしょう。
情報戦における「全否定」戦略は、相手方の主張や証拠を一切認めないことで、情報の流れや受容をコントロールしようとするものです。これにより、公式なメッセージや国際的な印象を操作することが目的となります。疑念や混乱を生むことで、事実の明確な解釈が困難となり、結果的に真実の追求を遅延させることも狙いとしているかもしれません。
しかし、このような情報戦の戦略は、短期的には一部の目的を達成するかもしれませんが、長期的には信用の喪失や国際的な孤立を招くリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
【ウクライナ危機(56)】「ブチャの虐殺調査」ウクライナ危機と関与兵士・部隊の特定動向