冷戦終結以来、多くの国際的緊張状況や対立がありましたが、その中でも特に重大と見られる対応が今回、欧米から示されました。ロシアの一連の行動に対し、世界各国は懸念を示してきましたが、その最終手段として、欧米はロシアを国際銀行間金融通信協会(SWIFT)からの排除を決定しました。
この制裁は、通常「金融の核兵器」とも称されるほどの影響力を持つものです。SWIFTとは、全世界の銀行間での資金移動を円滑に行うための通信システムであり、このシステムからの排除はロシア経済に甚大な打撃をもたらすこととなります。本記事では、この歴史的な決定の背景、その意味、及び今後の展開について詳しく解説していきます。
【ウクライナ危機(49)】ロシアの情報統制とディストピア…プーチン政権の影響下での言論の自由を奪還せよ!
The Financial Sanctions on Russia
金融制裁『SWIFT排除』を発動
ウクライナ国内では、ロシア軍とウクライナ軍との間の戦闘が続く中、両国間の争いだけに留まらず、世界の国々の政治や経済、安全保障に急速な影響を与えました。
このような状況下を背景に、ロシアのプーチン大統領のウクライナに対する行動について、多くの国が非難の声を上げました。特に、米国や欧州諸国はプーチン大統領の外交政策を厳しく批判し、具体的な制裁措置を実施していました。
この中でも、最も影響力のある措置としては、国際的な金融ネットワーク「SWIFT」からのロシア排除が挙げられます。
「制裁の開始」ウクライナ東部問題への対応がエスカレート
侵攻直前の2022年2月21日、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を正式に承認し、国際的な緊張が一層高まりました。これに対応し、アメリカのバイデン米大統領は、ロシアの行動を「ウクライナ侵攻の始まり」と非難し、段階的な制裁の発動を宣言しました。
この制裁の第一段階として、軍事資金の調達を担うロシア国営銀行の米国内での取引が禁止。この取引禁止措置により、ロシアの軍事活動への資金供給が厳しく制限されることが予想されました。
また、ウラジミール・プーチン大統領に近い政権幹部やその家族の個人金融資産の凍結も実施されました。これにより、プーチン政権の中枢に対する圧力がさらに増加していくことが見込まれました。
「先進諸国からの制裁」「ノルド・ストリーム2」の承認を停止
米国による一連の制裁に続き、他の先進諸国もロシアに対する具体的な措置を発表しています。特に注目されるのは、ドイツのオルラフ・ショルツ首相による発表で、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の承認を停止するとしたことです。
「ノルド・ストリーム2」は、ロシアからドイツに向けて天然ガスを供給するための重要なインフラとして注目されており、このプロジェクトの停止は、ロシアのエネルギー輸出に大きな打撃を与えることとなるでしょう。また、ドイツのエネルギー供給に関しても短期的な影響が懸念されますが、ロシアの行動に対する強力なメッセージとして、国際社会に示されました。
「金融制裁が加速」主要カード企業が相次ぎロシア事業停止を発表
2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻は、国際的な金融制裁の波を引き起こしました。まず、3月5日に米国の大手クレジットカード企業、VISAとMastercardがロシアでのカード決済事業を全面的に停止すると発表。これにより、ロシア市民や企業の海外取引が一層難しくなる見込みです。
さらに、3月6日にはAmerican Express(アメリカン・エキスプレス)がロシアおよび同盟国のベラルーシでの全事業を停止すると発表。American Expressの決定は、金融制裁の波が一層の拡大を続けていることを示しています。
そして、3月8日、日本のクレジットカード大手JCBも、ロシアでの業務を停止するとの発表がありました。この決定により、ロシア国内で発行されたJCBカードは海外での利用が不可能となるとともに、ロシア外で発行されたカードはロシア内での使用が制限されることになりました。
JCBはロシア国内で「ズベルバンク」などの大手銀行と提携しており、レストランやスーパーマーケットなど、多くの場所で利用が可能でした。この事業停止は、ロシア国民の生活や観光業、ビジネスへの影響が懸念される中、ロシアへの国際的な圧力が強まる現状を象徴しています。
制裁の影響がどれほどの経済的打撃をロシアにもたらすのか、そしてロシアがこれにどう対応するのか、国際社会からの注目が集まりました。
「金融の核兵器」SWIFTからの排除
ロシアに対する国際的な制裁の中で、最も注目されたのは、ロシアの一部銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されることが決定されたことです。SWIFTは、世界中の銀行間で情報を安全かつ迅速にやり取りするための通信ネットワークであり、国際取引においては不可欠なインフラストラクチャーです。
このSWIFTからの排除は、ロシア銀行の国際取引を大きく制限し、ロシア経済に甚大な影響を及ぼすことが予想されます。フランスのブルーノ・ルメール経済・財務相は、その影響の大きさからこれを「金融の核兵器」と形容しています。
Swift Sanctions on Russia
返り血を浴びる覚悟が試される!?『ロシアのSWIFT除外』
ロシアの主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外される決定は、国際的な金融システムにおけるロシアの位置を大きく揺るがす出来事となりました。SWIFTの役割は、銀行同士の取引情報を安全に、かつ迅速に共有することで、これがなくなることでロシアの銀行は国際取引を行う上で著しく困難な状況に直面することになります、。
特に、外国為替市場における影響は極めて大きいものになりました。2月28日、アジア時間においてルーブルは米ドルに対して一時、3割程度の急落を見せるなど、前例を見ない価格変動が発生。これは、国際市場の参加者たちがロシアの経済と金融の将来に対する不安を強く感じ取り、ルーブルの売却を進めた結果でした。
ロシア中央銀行は、ルーブルの急落を食い止めるために、緊急措置として金利を9.5%から20%へと大幅に引き上げることを決定。このような急激な金利引き上げは、通貨の防衛とともに、外資の流出を抑制し、経済の安定を図る狙いがあるとされています。
「国際金融の要」SWIFT(スウィフト)とは
SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)は、1973年に協同組合の形態で設立された国際的な金融通信サービスです。本部はベルギーに位置しており、世界の銀行や金融機関が出資して運営を支えています。
- グローバルなネットワーク:SWIFTは、200以上の国・地域で1万1千を超える金融機関にサービスを提供しています。このサービスは、国際間の電子的な送金情報のやりとりを行うためのインフラを提供するもので、実質的に国際間の送金の標準となっています。
- 日本との関わり:日本は1981年にSWIFTに接続し、今日では約200の銀行や金融機関がこのネットワークを利用しています。
- 莫大な取引額:驚くべきことに、SWIFTを通じて行われる取引の総額は、わずか3日間で全世界の国内総生産(GDP)の合計1年分に相当します。これは約85兆ドル、日本円にして約9700兆円になります。一日あたりで見ると、日本のGDPの約6倍の金額が動いているのです。
- ベルギーの法律とEU:SWIFTはベルギー法に基づいて運営されており、したがって、ベルギーが欧州連合(EU)のメンバー国としての法的な決定や制裁に従う場合、SWIFTもそれに準じる立場にあります。
グローバルバンキングのメッセージングツール
SWIFTについては、米ワシントン・ポスト紙による「グローバルバンキングのGmail」という表現しており、これはSWIFTの役割と機能を分かりやすく説明する素晴らしい例えだと思います。多くの人々が、SWIFTを単なる国際送金ネットワークとみなすことがありますが、メインの役割は金融取引に関する「メッセージ」の安全かつ迅速な送受信をサポートすることだからです。
送金の背後にある通信
例えるならm日本の企業A社がアメリカのB社にお金を送りたい場合、直接お金を運ぶのではなく、日本のC銀行がアメリカのD銀行に「B社に100万ドルを渡しください」という伝言を送るのがSWIFTの役割です。C銀行とD銀行の間の情報のやりとりをスムーズにし、確実に情報が伝わるようにするのがこのシステムの主な目的なのです。
一言で言うと、SWIFTは銀行間の「伝言ゲーム」をサポートするものと考えることができます。
SWIFTの独自性
国際間の送金を行う際のメッセージは多くの課題やセキュリティのリスクが存在します。異なる言語、異なる通貨、異なる法的制度、さらには異なる技術基盤といった要因が複雑に絡み合っているのです。
SWIFTはこれらの様々な障壁を克服し、確実な情報の伝達を保証するシステムとしてその価値を発揮しています。
SWIFTを構成する2つのシステム
SWIFTは「SWIFTセンター」と「SWIFTNet」の2つのシステムによって成り立っています。
- SWIFTセンター:SWIFTセンターは、SWIFTの運用と管理を担当するコンピューターセンターです。これらのセンターは世界の数カ所に分散配置されており、冗長性を持たせることでシステムの信頼性と持続可能性を確保しています。例えば、一つのセンターが何らかの理由でダウンしても、他のセンターがその役割を引き継ぐことができるようになっています。
- SWIFTNet:
- SWIFTNetは、SWIFTの通信ネットワークです。このネットワークを通じて、金融機関は取引指示や情報を安全にやり取りすることができます。SWIFTNetは高度なセキュリティ機能を備えており、データの機密性、完全性、認証を保証しています。
金融取引のために「SWIFTNet」に接続
金融機関がSWIFTNetに接続することで、国際的な金融取引の情報を安全かつ迅速に交換することができるようになります。
では、具体的にどのように接続されるのでしょうか?
- インターフェース/ゲートウェイ:金融機関は、自らの内部システムとSWIFTNetを繋ぐための特定のインターフェースやゲートウェイを設置する必要があります。これにより、機関内のシステムとSWIFTNetとの間で情報のやり取りができます。
- プロトコル:情報の送受信は特定のプロトコル(通信のルールや手順)に従って行われます。これにより、異なる金融機関間でも情報が一貫性を持って伝達されることを保証します。
- セキュリティ要件:金融取引の情報は非常に機密性が高いため、情報の漏洩や不正アクセスを防ぐための高度なセキュリティ要件が求められます。SWIFTNetに接続するためのゲートウェイやインターフェースは、これらのセキュリティ基準を満たしている必要があります。
以上の要件を満たすことで、金融機関は安全かつ効率的に国際的な取引情報をSWIFTNetを通じて交換することができます。
送金のプロセス
実際に送金処理際には、まず送金元の銀行はSWIFTメッセージを作成してSWIFTNetを通じて受取銀行に送ります。このメッセージには、送金に関する詳細情報(送金額、送金元と受取人の情報、通貨タイプなど)が含まれます。受取銀行がこのメッセージを受け取ると、指示に従って自らの顧客口座に資金を入金するという流れになります。
「SWIFTコード」送金の際に識別するコード
SWIFTコードは、金融機関がSWIFTで国際送金を行う際に使用される固有の識別コードです。このコードは8文字または11文字で構成され、以下のように構成されています。
- 最初の4文字は金融機関を識別します。
- 次の2文字は金融機関の所在国を表します。
- 次の2文字は金融機関の所在地を示します。
- 最後の3文字(オプション)は金融機関の支店を識別します。
例えば、三菱UFJ銀行の主要なSWIFTコードは「BOTKJPJT」で、これにより他の金融機関が三菱UFJ銀行との取引を行う際に、正確かつ迅速に通信できます。
確実に情報伝達が可能
送金元の金融機関がSWIFTコードを使用して送金指示を出すと、該当するSWIFTコードを持つ送金先の金融機関がその指示を受け取ります。これにより、送金元と送金先の金融機関間で取引情報が正確かつ迅速に伝達され、国際送金が効率的に行われます。
海外の銀行同士の送金中継のための銀行「コルレス銀行(Correspondent Bank)」
海外の銀行間での取引や送金には、直接の繋がりがない場合が多いため、コルレス銀行とコルレス契約(Correspondent Agreement)を結び、その条件の下で取引や送金を行います。
コルレス銀行の役割と仕組み
- 中継の役割: コルレス銀行は、2つの銀行が直接取引を行わない場合に、その取引や送金を円滑に進めるための中継的な役割を果たします。
- 資金の流れ: 送金は、日本のA銀行から始めて、一つまたは複数のコルレス銀行を経由し、最終的に目的のB銀行に到達します。コルレス銀行同士は互いに口座を持っており、その口座間で資金のやり取りが行われます。
- メッセージの共有: 国際送金の際には、最終的な送金先や金額、送金の理由などの情報がメッセージとして銀行間で共有されます。これにより、銀行はその送金がどこに向かっているのか、誰が受け取るのかなどの詳細を把握することができます。
コルレス手数料
- コルレス銀行が提供するサービスの代価として、コルレス手数料が発生します。
- この手数料は、送金金額や通貨の種類、コルレス契約の内容、取引の複雑さなどによって変動します。
- コルレス手数料は、送金者や受取人に転嫁されることが一般的であり、このため国際送金を行う際は、コルレス手数料を考慮した金額を送金することが重要です。
SWIFTとコルレス銀行の関係
国際送金の際には、まずSWIFTを通じたメッセージが送受信された後、コルレス銀行を通じて実際の資金移動が行われます。この仕組みによって、国際的な資金移動が迅速かつ安全に行われることが可能となっています。
例えば、日本のA銀行からアメリカのB銀行へ資金を送る際、A銀行はまずSWIFTネットワークを通じてB銀行に送金の指示メッセージを送ります。このメッセージには、送金額、送金元、送金先、用途などの情報が含まれています。
B銀行がこのメッセージを受け取った後、実際の資金の移動が行われます。この際、A銀行とB銀行が直接取引を行うこともあれば、それぞれのコルレス銀行を介して取引が行われることもあります。資金の移動は、通常、コルレス銀行が持つ相手国通貨の預金口座間で調整されます。
つまり、SWIFTはあくまで情報のやり取りを助ける通信システムといえます。
銀行送金システムの歴史
このような銀行送金システムの原型は、ルネサンス時代のイタリアの銀行家たち、特にメディチ家によって築かれた遠隔地間の資金移動の仕組みに起源を持ちます。メディチ家などの銀行家たちは、彼らの支店ネットワークを通じて、ある場所での預金と、別の場所での引き出しという形で、実際に物理的な金や貨幣を移動させることなく、資金を移動させる方法を確立しました。
- 手形:商人や顧客は、一つの都市のメディチ家の銀行で手形を購入することができました。この手形は、別の都市の同じ銀行または提携銀行で現金として引き出すことができました。これにより、資金の物理的な移動や盗賊からのリスクなどを回避しながら、遠隔地での資金移動が可能となりました。
- 簿記:銀行は顧客の預金と引き出しを記録し、それに基づいてバランスを管理しました。これにより、各支店間での資金のバランスを効率的に管理することができました。
このような仕組みは、現代の銀行システムの基盤となり、今日の国際間の送金システムや情報通信技術を活用した送金システムの発展へと繋がっています。現代技術はこのプロセスをデジタル化し、高速化しましたが、基本的な原理や考え方はルネサンス時代から続いていると言えます。
「Swift」が必要とされた背景
SWIFTの導入前、外国為替(外為)での主要な通信手段はTELEX(テレックス、以下TLX.)でした。TLX.はテレタイプライターを用いた通信システムで、現代のインターネット通信に比べて非常に非効率で時間がかかるものでした。
TLX.には「待時(たいじ)コール」というシステムが存在しました。これは、相手国との通信を申し込んだ後、回線が繋がるのを待つ必要がありました。特定の国々との通信ではこの待ち時間が長くなることがあり、効率的な通信が難しかったのです。
さらに、TLX.の通信は時間がかかるため、通話料も高額になりがちでした。そのため、なるべく短時間で通信を完了させる技術が求められました。
1977年にTLX.の代わりに導入されたSWIFTは、電子的なメッセージ交換業務を提供し、銀行間の国際送金を大幅に効率化しました。SWIFTはクローズドネットワークのため、セキュリティが非常に高いです。参加者も金融機関に限定されており、データの送受信には特段の心配がないのが特徴です。
そして、SWIFTのもう一つの大きな利点はスピードです。TLX.時代と比較して、SWIFTを利用した通信は極めて高速で、約15分程度でメッセージが相手に到達することがあるなど、通信の効率性が大きく向上しました。これにより、国際送金の手間が減り、金融取引のグローバル化が一層進展しました。
SWIFT排除された場合のロシアのダメージ
ロシアの銀行がSWIFTから排除される場合、ロシアの企業や個人は、輸入品の支払いや輸出品の受け取り、海外での借り入れや投資が難しくなります。他の通信手段や決済チャネル、例えば電話、メッセージングアプリ、電子メールなどは利用可能ですが、これらはSWIFTに比べると効率性や安全性が低いと言われています。
また、SWIFTを利用できない場合、ロシアの企業や個人は、制裁を科していない第三国の銀行を経由して国際取引を行う必要が出てきます。しかし、このような代替手段を利用することで、取引にかかる時間やコストが増加し、取引量が減少する可能性があります。特に、信頼性や透明性が低下することで、ビジネスのリスクが高まることが考えられます。
史上初のSWIFT排除の具体例
アメリカは、これまでもSWIFTを経済制裁の一部として利用してきました。特に、国際的な非難を受けている国々やテロ関連の資金の流れを止めるために、この手段を活用してきました。
例えば、2001年の9.11テロ事件の後、アメリカは国際的なテロ組織の資金の流れを追跡するために、SWIFTに対してテロ関連の取引情報の提供を要請しました。SWIFTはこの要請に応じ、FBIやアメリカの財務省などの関連機関と協力してきました。
また、北朝鮮、イラン、ベネズエラなど、アメリカと対立する国々に対して、アメリカは経済制裁を強化する手段として、SWIFTからの除外やアクセス制限を盛り込むことがありました。これにより、これらの国々の国際的な金融取引は大きく制約され、経済的な圧力を受けることとなりました。
イランの例では、その影響を特に顕著に見ることができます。
2012年にイランがSWIFTから切断されたことは、イラン経済に大きな打撃を与えました。金融取引が大幅に制限され、これが原油の輸出減少につながったことは、イランの主要な収入源を損なう結果となりました。制裁の影響は深刻で、イラン経済の多くの部分に悪影響を及ぼしました。
その後、2015年の核合意によって一時的に制裁が緩和されましたが、この合意は後にアメリカによって破棄され、2018年には再び厳しい制裁が導入されました。
ウクライナと関連して、ゼレンスキー大統領やクレバ外相らがSWIFT制裁の導入を欧米諸国に要請しているとの情報もあり、これが示すように、SWIFT制裁は、国際的な外交政策の中で非常に重要なツールとして位置づけられています。特定の国に対して最大の圧力をかける手段として、この制裁は過去の例からもその効果を証明しています。
「SWIFT制裁を実施」ロシアへの国際的な対応
2022年2月26日、米国、欧州連合(EU)、英国などはロシアに対する制裁を強化する形で、共同声明を発表。この声明には欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカの首脳が署名しました。
共同声明の発表前、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事介入を開始。これに対し、欧米諸国はこの行動を強く非難し、ウクライナの主権国家・国民への行動を「選択の戦争」として糾弾。また、首脳たちはロシアのこの行動を第二次世界大戦以降の国際ルールに対する前代未聞の攻撃と位置づけ、その行為に対して厳しい制裁を課す決意を示していました。
制裁内容
- SWIFT制裁: 特定のロシア銀行をSWIFT通信システムから排除。これにより、これらの銀行は国際金融システムとの接続が遮断され、世界的な活動能力が著しく低下することが予想される。
- 外貨準備の制限: ロシア中央銀行が外貨準備を活用することを制限する新たな措置が導入される。これはロシアの経済的な安定性をさらに揺るがす可能性がある。
- ゴールデンパスポート制限: ロシアの富裕層が他国の市民権を獲得する「ゴールデンパスポート」制度の利用を制限。これにより、ロシアの富裕層が他国の金融システムを利用することが難しくなる。
- 資産凍結とタスクフォース: 対象となるロシアの個人や企業の資産を凍結することで、金融制裁の実施を強化。また、資産の隠匿を阻止するための国際タスクフォースも設立されることとなった。
「イラン・モデル」
米政府当局者は、ロシアに対するSWIFT締め出し措置に言及し、「ロシア中央銀行による自国通貨ルーブル防衛が困難になる」との見通しを示しました。さらに、当局者はこの措置を「これはいわゆる〝イラン・モデル〟である」と表現しました。〝イラン・モデル〟とは、2012年にイランが核開発計画に着手したことに反応して、米欧主要国がイランをSWIFTシステムから除外した事例を指します。この措置の影響で、イランは原油収入のおよそ半分と対外貿易収入全体の3分の1を失いました。このような影響から、SWIFT締め出しは「金融の核爆弾」とも揶揄されることがあります。
今後の見通し
この制裁措置により、ロシアの金融機関は国際的な取引が困難になり、国の経済に大きなダメージを与える可能性があります。イランのケースと同様に、ロシアも重大な経済的打撃を受ける可能性があります。特に、原油などのエネルギー資源の輸出がロシアの主要な収入源であることを考えると、この種の制裁がロシア経済に与える影響は甚大と言えるでしょう
ジョンソン首相とゼレンスキー大統領の協議
2022年2月26日、SWIFT制裁が決定される前に、英国のジョンソン首相とウクライナのゼレンスキー大統領は、電話での協議を通じて、ロシアに対する強力な制裁の必要性について語り合い、SWIFTからロシアの主要な金融機関を排除することの重要性について確認していました。
ロシアのウクライナ侵攻を受けてすぐ、ゼレンスキー大統領は国際社会に対して、ロシアをSWIFTから締め出すようにとの訴えを繰り返していました。
また、英国のジョンソン首相も、ドイツなどの国々とともに、SWIFTからのロシアの排除に関する意欲が高まっていることを歓迎する立場を取っていました。
SWIFT制裁とウクライナの勝利
「SWIFT」からロシアを排除する決定を受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領が国民向けのビデオメッセージを発表しました。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ外交官らの継続的な努力の結果、多くの欧州諸国がこの重要な制裁措置に賛成したと語りました。また、「これは重大な勝利である」との立場を明確にし、この決定がロシア経済に及ぼす影響の大きさを強調しました。
事実、ロシアはこの制裁の結果、数十億ドルの損失を被るという予測がされていました。
元々、ウクライナ政府はロシアに対する制裁を強化するための他の手段も模索しており、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は、Googleに対して「Google Pay」のロシアでのサービス提供停止を求めていました。これに関しては、今回SWIFTからロシアが排除されることによりって、ロシア国内でのGoogle PayやApple Payの使用が困難になるため、結果的にはこの制裁も実行されることになりました。
日本のロシア制裁への参加と国際的評価
西側諸国によるロシアへのSWIFT制裁に対し、日本も参加の意向を明らかにしました。岸田文雄首相は、2月27日に首相公邸での記者会見を通じて、欧米諸国からの要請に応える形で、ロシア制裁に参加することを公表。これに伴い、ロシア政府関係者に対する資産凍結といった新たな制裁措置の実施を発表した他、ウクライナに対して1億ドル(約115億円)の緊急人道支援を行うことも発表しました。
米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は、日本が米欧の制裁行動に加わることを「歓迎する」と高く評価しました。特に日本政府による独自の声明発表は異例であり、その中で「岸田文雄首相と日本政府はプーチンのウクライナ攻撃を非難するリーダー」との位置づけがなされました。米側は「G7全体がプーチン大統領らへの制裁を支持する」との見解を示し、今後の協力を強調しました。
さらに、アントニー・ブリンケン米国務長官も日本の追加制裁措置を高く評価。日本の取り組みを「日米や他のG7諸国の結束と決意を示すもの」とし、岸田首相及び日本政府の断固たる措置は「ロシアに重大な代償を科し、その戦闘能力をくじく」との立場を明確にしました。
「G7と中国の反応」ロシアに対する制裁の展開
G7の首脳たちは、ロシアの行動に対する連携と結束を強化するため、新たな声明を発表。この中で「この戦争はプーチン・ロシア大統領にとって戦略的失敗である」とのメッセージを明確に打ち出しました。G7諸国、米欧日は、ロシアの国際的孤立化を一層進める方針を鮮明にし、ロシア経済や金融市場に対する圧力を強化する意向を示唆しています。この措置の背景には、ロシアの貿易の停滞を引き起こし、それに伴うインフレや通貨の大幅な下落といった経済的ダメージを誘発することが目的とされています。
一方、中国はG7諸国とは異なるスタンスをとりました。米欧や日本がロシアの銀行を国際銀行決済取引網「SWIFT」から排除する方針を明らかにしたことについて、中国外務省の汪文斌副報道局長は疑問を投げかけるコメントを発表。「制裁による問題解決には賛成しない」との立場を取り、中国としてはSWIFTのロシア銀行排除に同調しない意向を公にしました。このような姿勢は、中国とロシアの関係や両国の国際的立場を考慮すると、ある程度は予想されていました。
「欧州連合による追加制裁」ロシア金融機関のSWIFT排除
3月2日、欧州連合(EU)は、ロシアに対するさらなる圧力手段として、重要な金融制裁を発表しました。具体的には、ロシアの主要7つの金融機関を国際的な金融通信ネットワークである「SWIFT(国際銀行間通信協会)」から排除するとの決定です。
この制裁対象となる金融機関は、VTBバンク、VEBバンク、バンクロシア、オトクリティ銀行、ノビコムバンク、プロムスビャジバンク、ソブコムバンクの7行となります。これらの金融機関の総資産は、ロシアの全金融機関の資産のうち、2~3割を占める規模です。また、これら7行がロシア国内で設立された子会社で直接・間接的に過半数以上を所有するものも制裁の対象とされます。
EUのフォンデアライエン欧州委員長は、この措置について「これはEUの歴史上、最大の制裁措置だ」と述べ、その重要性と影響力を強調しました。
制裁発動については、発表から10日以内に実施される予定で、ロシアの今後の行動に応じて、さらに他のロシア銀行を制裁リストに追加する可能性も示唆されました。
ロシア最大手銀行「ズベルバンク」「ガスプロムバンク」の制裁見送りについて
欧州連合(EU)がロシアの7つの金融機関をSWIFTから排除するという追加の経済制裁を発表した中、注目すべきは、ロシア最大の金融機関であるズベルバンクと3位のガスプロムバンクが制裁リストから除外されていたことです。この背景には、欧州、特にドイツなどがロシアとのエネルギー取引、特に天然ガスの輸入における深い経済的な関連性があるとされています。
ズベルバンクとガスプロムバンクの除外は、欧州がロシア経済に致命的なダメージを与えつつも、その影響が欧州自体に及ばないようにするという戦略的な配慮からきていると考えられます。特にドイツは、天然ガスの輸入におけるロシアへの依存度が高く、これによる経済的な副作用を避けるために、制裁の「部分排除」を求めていたとの情報もあります。
一方で、ズベルバンクとガスプロムバンクが完全に制裁の対象外というわけではなく、EUの幹部からの情報によれば、これら2つの銀行には異なる形の制裁措置が検討・適用される可能性が示唆されていました。
ロシア最大の銀行「ズベルバンク」
ズベルバンクはロシアの銀行業界において資産規模で約3分の1を占める。その巨大な規模から、同行への制裁はロシアの金融セクター全体に大きな影響を及ぼす可能性がりました。
EU加盟国、特にポーランドはズベルバンクなどの他の銀行もSWIFT排除の対象にすべきだと声を上げてました。これについて、EUの高官はズベルバンクを制裁の対象から外すことに関して、一部の加盟国から失望の声があったことを明らかにしています。そんな中で、将来的にはズベルバンクを制裁の対象に含める可能性も検討されていました。
ズベルバンクと制裁の「抜け道」問題:
ズベルバンク制裁に伴う主要な懸念として、他のロシアの企業がズベルバンクへと口座を移転させることで、制裁を回避し取引を続ける可能性が指摘されていました。この動きが実現すれば、制裁の意味が薄れる可能性があったのです。
しかし、EUの高官はこの「抜け道」に関しては楽観的に見ていました。具体的には、企業が大々的にズベルバンクへと移行することには信用リスクが伴うため、そのような動きが大きく広がるとは考えにくいとの立場を取りました。
欧州のエネルギー依存問題
欧州のエネルギー供給に関する問題は、この議論の中で非常に中心的な役割を果たしています。欧州はロシアからのエネルギー供給に大きく依存しており、そのために貿易の決済網の維持が必要とされています。この状況の中で、ズベルバンクに対する厳しい制裁を行うことの是非が議論されていました。
米国の独自制裁
一方、米国はすでにズベルバンクに対してドル決済の禁止という独自の制裁を実施していました。この制裁は、ズベルバンクだけでなく、関連する多くの銀行や企業にも影響を及ぼしました。ロシアの預金の約2割が外貨建てであることを考慮すると、ドル取引の禁止はロシア経済にとって大きな打撃となると予測されていました。
ロシアの国営エネルギー関連企業「ガスプロムバンク」
もう一つの欧州の制裁の対象にいらなかった企業は、ロシアの国営エネルギー企業ガスプロムの関連企業「ガスプロムバンク」でした。制裁対象から排除された背景には、欧州のエネルギー依存が影響していました。
ロシアの天然ガスの代金の送金が出来なくなり、ロシアからの天然ガス供給が途絶えることは欧州にとってはあまりにもハイリスクだったのです。
欧州の天然ガス依存
この頃の欧州連合(EU)は、天然ガスの供給の約4割をロシアに依存していました。この事実は、EUのエネルギー政策や制裁に関する議論の中で避けては通れない問題でした。
化石燃料の輸入継続
ロシアの軍事行動にも関わらず、EUはロシアから化石燃料を滞ることなく輸入し続けていました。特に、ガスプロムはウクライナのパイプラインを経由して天然ガスの輸出を継続しており、これはEUとロシアのエネルギー関係の強さを示していました。
EU諸国がロシアに支払う天然ガス輸入代金は、毎日約6億ユーロであり、原油購入代金は3億5000万ユーロとされています。これを合わせると、EUは毎日約1300億円をロシアに支払っているという計算になります。
天然ガス価格の上昇とロシアへの支払い
さらに、天然ガス価格は上昇しており、3月2日のロシアへの天然ガス支払額は6億8900万ユーロで、これは史上最高の額となりました。
2022年3月12日 ロシアの7大手銀行を情報システムから排除
このような状況の中で、3月12日に国際銀行間通信協会(SWIFT)が、その情報システムからロシアの大手7銀行グループを正式に排除すると発表しました。この措置によって、ロシア国境を越える送金業務において、これらの銀行の取引が大幅に困難になりました。
SWIFTは、ホームページ上でこの決定に関する声明を公表。その中で「EUが英国、カナダ、米国と協調して取った外交的決定は、SWIFTの金融メッセージサービスから特定の銀行を除くことでこの危機を終わらせようとするものだ」との立場を示しました。
SWIFT排除に備えていた!?ロシアの対抗策
実は、今回のような措置はロシアにとっては初めてのことではありませんでした。
2014年にロシアがクリミアに侵攻した際、英国はロシアをSWIFTから切り離すことを欧州の指導者たちに訴えました。この動きに対し、当時のロシアのメドヴェージェフ首相は、SWIFTからの排除は「宣戦布告に等しい」と発言し、この制裁措置の重大性を示しました。この訴えもあってか、最終的にSWIFTからの排除は実施されませんでした。
しかし、この一連の出来事はロシアにとって深刻な懸念材料として残りました。それ以来、ロシアはSWIFTから締め出される可能性に備え、対応策を練ってきました。
- 外貨準備の増加:ロシアは金融制裁などのリスクを考慮し、近年外貨準備を増やしています。2015年末から70%以上増加し、6,200億ドルを超える外貨準備を持つことで、ロシア通貨ルーブルの安定性を維持しています。
- ドルからの脱却:ロシアは米ドルに依存するリスクを軽減するため、外貨準備のドル比率を減少させてきました。具体的には、2020年6月末時点でのドルの比率が22%から、2021年には約16.4%まで低下しています。その一方で、ゴールドやユーロ、人民元などの比率を増やしています。
- 国内決済インフラの強化:ロシアは自国のクレジットカード決済サービス「Mir(ミール)」を立ち上げ、国内の決済インフラを強化してきました。これは、クリミア併合に伴う経済制裁の影響を受け、国際ブランドが使えなくなった経験を基にしたものです。「Mir」は現在、デビットカード、クレジットカード、公共料金の支払いなど、多岐にわたる機能を持っており、順調に普及していますが、国際ブランドとの競争は依然として厳しいです。
ロシア版SWIFT「SPFC」
特に注目されるのが、ロシアが国際金融システムからの締め出しを警戒する中で、国が独自の金融メッセージングシステムを開発したのが「SPFS」です。
しかし、その実力と国際的な位置づけはSWIFTに比べてどのようなものなのでしょうか?
SPFSの概要
- 創設の背景: 2014年のクリミア危機を契機に、ロシアはSWIFTからの排除のリスクを受け、独自の金融通信システムの必要性を感じてSPFSを設立した。
- 参加銀行: SPFSはロシア国内外の400以上の銀行が参加しており、国内の金融取引の20%がこのシステムを経由して行われている。
SPFSの限界
- 国際的な接続性: 現時点でSPFSと接続している国はベラルーシやカザフスタンなど、ロシアの近隣国に限られている。このため、グローバルな金融取引における影響力は限定的である。
- クロスボーダー取引の課題: SPFSは国内取引をサポートする力はあるものの、国際的なクロスボーダー取引に対応する能力はまだ十分ではない。特に、主要な経済大国との取引においては、SPFSだけでは対応が難しいとされる。
今後の展望
ロシアはSPFSの更なる強化を目指しており、より多くの国との接続やシステムの改善を進めているとの報道もあります。しかし、SWIFTのような国際的な信用と普及度を築くには、時間と努力が必要とされています。
「CIPS」中国の国際決済システムとその限界
ロシアがSWIFTから排除される中で、前述のようにロシア版SWIFTであるSPFSには限界が指摘されている一方で、中国の国際決済システム「CIPS」がその解決策として注目されました。しかし、CIPSにも様々な課題と限界が存在しました。
CIPSの概要
- 設立背景と目的: 中国人民銀行により2015年に設立されたCIPSは、人民元を国際通貨として更に普及させるための国際銀行間決済システムです。
- 参加金融機関: 2021年時点で、CIPSには103カ国からの1280の銀行・金融機関が接続しており、その数は増加傾向にある。
CIPSの限界と課題
- 市場シェアの小ささ: 人民元の国際金融市場におけるシェアは、米ドルの40%に対してわずか2%未満です。これにより、CIPSの決済量もSWIFTの0.3%に過ぎない。
- SWIFTとの強い結びつき: CIPSは設立当初からSWIFTとの連携を深めており、システムの識別コードにもSWIFTの「BIC」を使用しています。さらに、2021年3月にはSWIFTと合弁の金融ゲートウェイサービス会社も設立しています。
- 制裁違反のリスク: もしロシアがCIPSを通じて国際決済を行うことが認められれば、それはSWIFT遮断の制裁を迂回する形となり、制裁違反に問われる危険性があります。
このように、CIPSがSPFSの限界を補う可能性はあるものの、現状ではその機能がSWIFTに匹敵するものではない。加えて、CIPSとSWIFTとの深い結びつきや制裁違反のリスクから、ロシアにとってCIPSが真の助け船となる可能性は低いと考えられています。
「戦略と欧州の二重のジレンマ」SWIFT排除の裏側
欧米によるロシアの主要銀行のSWIFTからの排除は、戦略的な決定として行われました。この「金融の核兵器」とも形容される戦略は、ロシアの対外決済の能力を制約し、ロシアの貿易と資本取引を停止させ、ロシア通の貨や国際収支の危機を引き起こすというものでした。
しかし、この戦略には双刃の剣とも呼ばれる状況が存在していました。ロシアとの経済的な結びつきが深い国々は、ロシアの経済活動が停滞することによって、その影響を直接受けることになります。
そのため、ヨーロッパの主要国、とりわけドイツ、イタリア、オーストリアは、その影響を直接的に受けるリスクが高いため、この計画に反対の立場を取ってきました。
SWIFTの排除は、支払いの遅延や決済ネットワーク内での大規模な貸越しのリスクを伴う可能性があります。これは、2008年の「リーマン・ショック」や2020年の新型コロナウイルスのパンデミックによる金融市場への大きな衝撃と同じような影響をもたらす恐れがありました。
さらに、欧州諸国においては、ロシアからの天然ガスの輸入は生活の基盤でもあり、その支払いはSWIFTを利用して行われていました。欧州の冬の寒さの中、ロシアからの天然ガス供給が遮断されることは、家庭の暖房や電力供給に深刻な影響をもたらす可能性がありました。つまり、既に高まっている生活費がさらに上昇するのではないか?という懸念が存在していました。
この懸念についてドイツ政府の報道官は、SWIFT遮断後も、ロシアからの天然ガスの購入に関しては、SWIFTを使用して取引が可能であるとの声明を発表しました。これは、このような状況下にあっても欧州諸国とロシアとの経済的な関係は維持されるという表明でもありました。
SWIFT排除と世論の急変
ロシアがウクライナに侵略を始めてからも、このような強硬な措置を取ることについて躊躇する動きがありました。多くの当局者や専門家は、SWIFTからのロシア排除は「最後の手段」として考えられていることを指摘していました。その理由は、前述の通り、この措置がもたらす経済的・政治的な影響の大きさや、その影響がロシアだけでなく、ロシアと深い経済的な関係を持つ他国にも及ぶ可能性があったためでした。
しかし、ロシアの行動とそれに伴う国際的な反応の変化が、この状況を一変させました。メディアを通じて伝えられるロシア軍の残忍な行為の詳細は、西側諸国の世論を大きく動かす要因となったのです。人々の感情や意識が変わるにつれて、政府に対する圧力も高まり、より厳しい措置を求める声が増加していきました。
この強い世論の後押しを受け、西側諸国はSWIFTからのロシア排除という、それまで「最後の手段」とみなされていた措置を採る方向へと舵を切ることとなりました。この過程は、国際政治や経済の中で、どれだけ民意や世論が政策の方向性に影響を与えうるかを示す一例と言えるでしょう。
SWIFT排除の要因の1つにゼレンスキー大統領の演説力
また、ゼレンスキー大統領の感動的な演説が、西側諸国、特に当初、SWIFTからのロシア排除に消極的であったドイツのショルツ首相に大きな影響を与えたと言われています。大統領の言葉「私が生きている姿を見るのは、これが最後かもしれない」は、欧州各国の関係者の心を深く打ち、彼らの決意を固める要因となりました。
この「わずか5分のスピーチ」によって、ドイツをはじめとする欧州諸国は、SWIFTからのロシア大手銀行排除という、歴史的な大規模金融制裁への道を選ぶこととなりました。これは、ゼレンスキー大統領の説得力と、言葉を通じた人々の心の動かし方の優れた例と言えます。
ウクライナのEU加盟に対する慎重な姿勢は変わらずとも、この一連の出来事は、ゼレンスキー大統領のリーダーシップと交渉術が、国際的な危機状況において、どのように方向を導くことができるかを明示しています。ゼレンスキーの演説は、まさに、超一流の交渉に値するものでした。
「ロシア政府の考え方に変化がもたらせれれば」制裁はロシアの一般国民にダメージが……。
SWIFT排除後のロシア市民への影響
国際的な銀行間通信協会であるSWIFTからのロシア排除は、世界の経済と銀行業界に大きな影響を及ぼしました。しかし、その影響は特にロシアの一般市民の生活にも大きく波及しています。
公共交通への影響: 市民の間で増えているのが公共交通の利用制限です。特にモスクワでは、VTB銀行を通じた地下鉄の決済システムが使用できなくなったため、多くの人々が乗車カードを新たに購入する必要が生じました。また、一部の小売店でも携帯決済が利用できなくなるなど、日常の生活にも支障が出ています。
金融の不安定さ: SWIFTの排除による最も顕著な影響は、金融の不安定さです。多くの市民は、ATMでの引き出し制限や外貨の不足に直面しています。特にルーブルの価値が急落し、デジタル製品などの輸入品の価格が急騰する中、生活必需品までの価格上昇が進行しているという報告が相次いでいます。
市民の心境の変化: 経済の混乱は、市民の心境にも影響を及ぼしています。不安定な経済状況と将来への不透明感から、多くの市民が預金の引き出しや生活必需品の買いだめを始めるなど、不安を感じている様子が伺えます。また、多くの人々が戦争の終結と平穏な日常を切に望んでいます。
SWIFTからのロシアの排除は、国際的な金融市場だけでなく、ロシアの一般市民の日常生活にも大きな影響を及ぼすことになりました。制裁の背景には、政治的な意図があるものの、その結果として多くの無関係な市民が苦しんでいる現状は、国際社会にとって重要な課題となっています。
【ウクライナ危機(51)】侵攻に抗議の声、国際大会排除・イベント延期、欧米企業のロシア市場撤退に揺れる国際舞台