【ウクライナ危機(49)】ロシアの情報統制とディストピア…プーチン政権の影響下での言論の自由を奪還せよ!

暗い雲がロシアメディアを覆い始めました。それは、一部の言葉が日常の言語から取り除かれ、声を上げる者には厳しいペナルティが待ち構えるという現実でした。政治的背景を持つ言葉「戦争」や「侵攻」は、ただその言葉を使っただけで、罰金や懲役といった厳しい罰則が科せられるようになってしまったのです。

これは単なる情報の統制を飛び超え、言論の自由そのものに対する明確な脅迫でした。プーチン政権下でのこの変化は、国際的な議論を巻き起こしています。一方で、ロシア国内にいるとこの真実に気づくことが極めて難しいのが現状です。

本記事では、このディストピアとも言えるロシアの状況の背後にある事実と、その影響について詳しく見ていきます。

【ウクライナ危機(48)】平和の声をあげた市民、老人と子供が拘束を受ける国
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ユヴァル・ノア・ハラリ、トマ・ピケティ、ノーム・チョムスキー、フランシス・フクヤマ、ジョージ・ソロスなど世界の賢人12人によるウクライナ戦争についての最新論考を緊急出版。戦争が起きた背景、プーチンの狙い、これからの世界秩序について、日々の報道では見えてこない深い視座を得られるだろう。(「Books」出版書誌データベースより)

Russia’s Now Totally in Putin’s Hands

情報統制の中でプーチンのロシア

Reuters/YouTube

2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を突如開始しました。この出来事は世界を震撼させたと同時に、ロシア国内における情報統制と言論の自由への脅威の始まりでもありました。侵攻以降、すでに厳格だった情報統制はさらに厳しさを増し、ロシアのメディアは政府の意向に沿った報道をすることが要請されましたた。

具体的には、連邦政府の監督機関、「ロスコムナゾール(連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁)」の監督下で、ロシアのテレビ局は、政府の公式見解のみを伝えることが義務付けられたのです。その結果、政府が許可するのは国営放送局のみという状況に陥りました。

そして、この国営放送局ではウクライナに軍事攻撃を仕掛けている現状を「戦争」としては報じることはありませんでした。政府の言い分をそのまま伝えるこの放送局では、ロシア軍の活動は、あくまで「非軍事化作戦」または「特別(軍事)作戦」として表現しました。

デモや集会で反戦意見を公然と表明する者は、警察に拘束されるのが当たり前となり、さらに驚くべきことに、ウクライナでの軍事行動を「戦争」と呼ぶことすら法律で禁止されました。

これらの弾圧は政府や警察の活動だけにとどまりません。一般市民の中にも、政府の公式見解を異にする「裏切り者」と認識された者への嫌がらせや脅迫を行う人々も出てきました。

このような状況の中で、多くのロシア市民が、非公式の圧力や社会的排除を恐れて、自らの意見や感情を封じ込めるようになりました。今では、公然と反戦の声を上げたり、ウクライナ侵攻に反対する声を上げることは極めて困難になりました。

「情報統制のエスカレーション」ウクライナ侵攻とメディアへの圧力

2022年2月24日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始すると、国内のメディア報道に対する政府の介入が一段と強まりました。

この日、「ロスコムナゾール(連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁)」は、全メディア機関に対して一斉に通知を発し、ウクライナに関する報道において国の公式発表のみを情報源として使用するよう指示を出しました。

この指示は、単なる勧告や要請ではありません。違反したメディア機関に対しては、その活動を停止させるためのウェブサイトの閉鎖や、最高で6万2600ドル(約720万円)という罰金が課せられるとの警告も同時になされたのです。この巨額の罰金は、多くのメディアにとって破滅的なものであり、これによってメディアは自分たちで検閲を強いられることとなりました。

この指示の影響はすぐ現れました。特に、Ekho MoskvyやTV Rainのような独立系放送局は、この新たな方針の最初の犠牲となりました。これらの放送局は、政府の公式見解とは異なる情報や意見を発信する場として、ロシア国内で数少ない存在でした。しかしこの日を境に、これらのメディアも政府の情報統制の手が及ぶところとなり、報道の自由が一段と狭められることとなったのです

この動きは、国際的な非難を浴びるものとなりましたが、ロシア政府は情報統制を緩めることは決してありませんでした。

独立系メディアへの圧力と国営メディアの台頭

2022年3月3日、ロシアの国内最後の独立系ラジオ局、エコ・モスクビーが、「ロスコムナゾール(連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁)」によって「過激派」や「偽情報の発信源」との理由をつけられ、閉鎖される事態に追い込まれました。

エコ・モスクビーはロスコムナゾールの指示に従い、ウェブサイトへのアクセスが遮断され、ラジオ放送も即座に中止。その代わり、国営のラジオ・スプートニクがその放送枠を埋める形になりました

このような事態は、ロシア国内の他の独立系メディアに対しても続いています。

2022年2月26日、ロスコムナゾールは、ウクライナでのロシアの軍事活動を「戦争」や「侵攻」といった言葉で報じたメディア10社に対して記事の削除を命じました。中でも特筆すべきは、2021年に編集長ムラトフがノーベル平和賞を受賞したことで国際的に知られる独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」が対象となったことでした。

当局は、「事実と異なる情報を信頼できるものとして報じた」との理由でこの措置をとったと発表。また、記事を削除しない場合、ウェブサイトへのアクセス制限や最高500万ルーブル(約520万円)の罰金が科されると警告しました。

さらに、外国メディアの記事をロシア語に翻訳して公開する際も、原文中に「戦争」や「侵攻」という言葉が含まれていても、これを使用することが禁じられているようだ。ロスコムナゾールはメディアに対して「現実に即した信頼できる情報のみを伝えるよう」要求、その背後には、大規模な戦闘の事実やプーチン政権の戦略的な意図を隠蔽する狙いが見え隠れしています。

このような情報統制は、ロシア国民だけでなく外国人もその対象となっており、事実上、メディアが「侵攻」や「戦争」といった言葉を公然と使用することは許されていない状況になりました。

メディアへの圧力と「戦争」の言葉の禁止

2022年2月24日以降、ロシア政府の情報統制が急速に拡大し、国民の情報アクセス制限は主要ソーシャルネットワークにまで及びました。

主要なソーシャルメディアプラットフォーム、特に「ツイッター(Twitter)」、「フェイスブック(Facebook)」および「インスタグラム(Instagram)」へのロシア国民のアクセスが制限されたり、完全に遮断されるなどの措置が実施されました。

言論・表現の自由に対する圧力と公然の抑圧

2月27日のロシア検察庁が出した声明は、国際的にも注目を集めるものになりました。声明では、外国の政府、国際組織、団体やその代表者が、ロシアの安全に対して脅威となる活動を支援する場合、それは国家反逆罪として取り扱われると警告。これは、批判的な声を持つ人々や団体に対する一種の「黙れ」というメッセージとして受け取られました。

ウクライナ侵攻直後から、ロシア国内では数多くの反戦デモが全土で行われた。しかし、これに対し政府は強硬な手段で対応。警察は武力をもってこれらのデモを鎮圧し、ロシアの人権団体OVDインフォの情報によれば、わずか4日間で67の市や町で合計5,900人以上が警察に拘束されたといいます。

これらの中で、特に衝撃的だったのは、著名な政治哲学者グリゴリ・ユディンさんが警察の手により暴行を受けた事件です。2月24日、ユディンさんは警察によって殴打され、その影響で意識を失い一時入院するという深刻な状態となりました。

このような事態は、ロシア国内での情報統制と並行して、自由な意見・表現の場が圧迫されつつある現実を示しています。

欧米のメディアへのアクセス制限

3月4日、ロスコムナゾールは新たな措置として、欧米の主要な国営ニュースサイトへのアクセスを遮断する決定を下しました。これはロシア国内の情報統制を一段と強化する動きとして注目され、国際的な非難の対象となりました。

この措置の結果、ロシア国内のユーザーは英国放送協会(BBC)、アメリカの国営放送ボイス・オブ・アメリカ、ドイツの公共放送ドイチェ・ヴェレなどの欧米の主要なニュースサイトを閲覧することができなくなりました。これらのメディアは、従来から多くのロシア市民にとって信頼性の高い情報源として利用されており、そのアクセス遮断は多大な影響をもたらすことは明白でした。

ロシア政府のこの決定は、国内での情報の一元化と、外部からの情報へのアクセスを制限することで、国民の意識や認識を統制しようとする意図が背後にあると見られています。

「報道に対する厳格な罰則」虚偽情報拡散者への懲役最長15年を新法で定める

3月4日、ロシアのプーチン大統領が新法「フェイクニュース法」に署名し、その内容は国内外で衝撃を与えた。この法律は、ロシア軍に関する情報を虚偽として流布する者に対して最長15年の懲役を科すというもので、さらに対ロシア制裁を外国政府に訴える行為も違法として、その違反者には最長3年の禁錮刑を科すことが定められている。

この法律の導入の背景には、ウクライナ侵攻後、ロシア国内で広がりを見せる反戦デモへの対応がある。政府は、この法律を通じてデモや批判の声を封じ込める狙いがあるとみられています。

しかし、この法律は、言論の自由や報道の自由に対する大きな脅威として受け止められました。真実に基づいた情報であっても、それがロシア政府や為政者にとって都合の悪い内容であれば「フェイクニュース」とみなされ、厳格な罰則が適用される可能性があったのです。

国際的な人権団体や批評家は、この法律の存在がロシア国内のメディアやジャーナリストの自由を制約するとともに、外部からの真実の情報を遮断することにつながるとして、懸念を示しました。

ロシアのメディア制約と「白鳥の湖」の象徴

中でも、独立系メディアの代表とも言えるテレビ局「ドーシチ」の行動は、この法律とそれに対する反対の声を象徴する出来事となりました。新しい法律への抗議の意味を込めて、職員たちは放送終了とともにチャイコフスキーの「白鳥の湖」を流しました。この選曲は、ただの美しい音楽としての意味だけでなく、深い歴史的背景を持つものです。

「白鳥の湖」は、ソ連時代に政治指導者が死去した際、暗黙の知らせとして国営放送で流される慣例となっていました。また、この曲は1991年のソ連崩壊時にも流れ、歴史的な変革や政治的な緊急時を象徴する音楽として、ロシア人にはよく知られています。

ドーシチのこの行動は、現政権の方針に対する批判や抗議の意味を込めて、その歴史的背景を活用したものであり、ロシア国内外で多くの反響を呼び起こしました。

WION/YouTube
報道制約とメディアの自粛

ロシアの新法は、ロシア国内の外国人や外国メディアをもその範囲に含め、報道活動を制約するものとなり、欧米や日本の大手メディアに深刻な影響を及ぼしました

BBCは、ロシア国内でのサービス提供を停止する決定を下しました。その理由として、「独立系ジャーナリズムを違法とする以上、仕事を停止する以外の選択肢がない」としており、今後のサービスはロシア国外から提供される予定です。

アメリカの大手メディアも同様の判断を下しており、ニューヨーク・タイムズ、CNN、ワシントン・ポスト、ブルームバーグ、ABCニューズ、ディスカバリーなどが、新法を理由にロシアでの事業休止を表明しています。ブルームバーグのジョン・ミックレスウエイト編集長のコメントは特に印象的で、「ロシア国内での取材を停止することを残念に思っているが、この法律のもとでは通常のジャーナリズムは維持できない」との見解を示しています。

ロシアの独立系新聞であるノーバヤ・ガゼータも、新法の影響を受けて記事を削除するという異例の措置を取りました。「記者の安全を守るため」という理由のもと、侵攻に関するいくつかの記事を削除したと公表しています。ノーバヤ・ガゼータは、政府に対する批判的な報道を行ってきた結果、これまでに6人の記者が暗殺されるなどの重大な犠牲を払ってきました。このような背景を持つ同紙が、政府の圧力を受けて記事を削除するという決断を下すのは、新法の影響の深刻さを物語っています。

TikTok、ロシアの新法に対応してコンテンツ共有とライブストリームを停止

「フェイクニュース法」の影響を受け、ソーシャルメディア巨人TikTokは、同国内でのライブストリーム配信とコンテンツの共有を停止すると発表しました。

TikTokは2022年3月6日に公式ウェブサイトを通じてこの決定を公にしました。同社は、「人々が計り知れない悲劇と孤立に直面している戦闘の中で救済と人のつながりを提供する存在」としての役割を自認しています。しかし、新法の施行を受けて「ロシアでのコンテンツを停止する以外の選択肢がない」と述べており、法律の影響とその制約が極めて大きいことを示しています。

TikTokはまた、ユーザーや従業員の安全を最優先事項と位置づけており、新しい法律のもとでのサービス提供には慎重な姿勢を取っています。同社の声明には「当社の最優先事項は、当社の従業員とユーザーの安全であり、ロシアの新しいフェイクニュース法を考慮すると、この法律の影響を検討する間、ロシアにおける当社の動画サービスへのライブストリームと新しいコンテンツ配信を停止せざるを得ない」と記載されています。

Hindustan Times/YouTube

ロシアの新法」報道機関だけでなく、文化・芸術の世界も影響を受ける

ロシアの「フェイクニュース法」の影響は、報道機関だけでなく、広範な領域に及んでいます。文化や芸術の界隈も、この厳しい制約の波に飲み込まれています。

多くの文化・芸術団体は、自らのウェブサイトやSNS上の反戦メッセージを含む投稿を削除させられており、それは独特の自由な表現を守るという彼らの立場を脅かしています。また、個人のSNSユーザーも過去の投稿の削除を強いられる中、その中には自らのアカウント自体を削除してしまう人も増えていると報告されています。

これらの行動は、多くの人々が表明していた反戦の声や感情を、まるでそれらが一度も存在しなかったかのように消し去るものとなっています。インターネット空間の記録は一掃され、大量の情報が消失しているのです。

さらに、悪化する情勢の中で、ロシア政府はインターネット回線そのものの制限も検討しているとの噂も流れていました。

反戦」の検索が著しく減少!?ロシアの検索トレンド

ウクライナへの軍事侵攻が始まった際、ロシア国内のインターネットで「反戦」に関するキーワード検索が急増したことが明らかになっています。

「シミラーウェブジャパン」というネット上のアクセスデータ分析企業の調査で、ウクライナや反戦に関するキーワードの検索トレンドが変化したことが判明しました。

「ウクライナ」に関する検索は、主に「最新ニュース」などと組み合わされる形で検索されており、2月の推計では520万回以上と、前月の13倍以上に急増していた。しかし、4月にはその数は半分以下の220万回ほどに減少。

さらに、政府の弾圧を受けやすい「反戦」のキーワードに関しては、2月には推計96万回となり、前月と比べて約10倍増加しました。しかし、その後、このキーワードの検索は減少し、4月には11万回程度となり、2月の時点の8分の1以下に落ち込んでいる。

この変化に、専門家はロシア政府の情報制御や反戦運動への取り締まりが影響していると分析しています。

ロシアの世論と西側との対立

ウクライナ侵攻以降、ロシア国内のメディア報道は海外のメディアと大きなギャップを見せている。特に、多くのロシア国民がアクセスする主要メディアは、政府の方針を支持し、または中立的な立場を取っていることが多い。これは、情報の受け取り方や国民の意識に影響を与えている。

1. 政府寄りのメディアの影響 ロシア国民の多くが、政府に好意的なメディアを通じて情報を得ている。これは、世論調査の結果にも反映されている。例えば、VTsIOMの調査によれば、プーチン大統領の支持率は2月27日までの1週間で6%ポイント上昇し、70%に達している。同様に、FOMの調査でも、大統領の支持率は7%ポイント上昇して71%となっている。

2. ロシアと西側諸国の対立の影響 ウクライナ侵攻後、ロシアと西側諸国との対立はさらに深まっている。経済制裁などの外交的な影響や、情報戦の中でのメディア報道の違いは、ロシア国内の人々にも影響を与えている。一部の人々は、これらの対立や不安定な状況を懸念し、ロシアを離れようと考えている。

このような状況は、情報の受け取り方、国民の意識、そして行動に大きな影響を与えている。今後のロシアの国内情勢や、ロシアと他国との関係にも注目が集まっている。

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Dystopian Russia

ディストピアとロシア文学

Stage Russia HD/YouTube

「ロシア人は常に真の愛国者とクズや裏切り者を区別することができ、誤って口に飛び込んできたブヨ(小さな虫)のように歩道に吐き出すだけだ」

これはウクライナ侵攻後の2022年3月16日、プーチン大統領の発言です。

ディストピア、すなわち理想とは逆の悪化した未来を描いた物語は、文学の中で常に人々の不安や恐怖、そして社会への批判を表現する手段として使われてきました。ロシア文学においても、特定の政治的、社会的背景の中でディストピア的な要素が取り上げられることが多々あります。

上記のプーチン大統領の発言は、そのような背景を反映しているかもしれません。

ロシア文学におけるユートピア/ディストピアの進化

ロシア文学の歴史において、ユートピアやディストピアというジャンルは長らく主流ではなく、自然主義やリアリズム、心理的な探求など、他のテーマやジャンルで豊富な作品を生み出してきました。それでも、ユートピアやディストピアの作品が完全に存在しないわけではありませんでした。

初期のユートピア/ディストピア

19世紀には、チェルヌイシェフスキーの『何を為すべきか』が生まれました。この作品は、理想的な社会を描写するユートピア的な小説として知られています。また、20世紀初頭には、ザミャーチンの『われら』が登場し、ディストピアの要素を取り入れた作品として注目されました。

ソビエト時代

ソビエト時代には、国家による検閲が強化され、多くのテーマや意見が制限されました。このため、公然とディストピア的なビジョンを描写することは困難な状況に陥りました。しかし、間接的な方法や比喩を用いて、ストルガツキー兄弟やプラトーノフなどの作家たちがその制約の中で作品を生み出しました。

ソ連崩壊後

ソ連が崩壊し、検閲がなくなると、ロシア文学におけるユートピア/ディストピアのジャンルは新しい興隆を迎えます。表現の自由が広がる中で、多くの作家がこのジャンルに挑戦し、国外でも高く評価される作品を生み出しました。

このように、ロシア文学は、政治や社会の変動に応じて、ユートピア/ディストピアのジャンルを取り入れ、新しい表現方法やテーマを探求してきたました。今では、このジャンルはロシア文学の重要な一部として定着しているのです。

「ディストピアの先駆者としての影響」ウラジーミル・ソローキン

ウラジーミル・ソローキンは、ロシア文学の大物としてその名を馳せています。彼のディストピア小説は、近未来を描きながら現代の社会や政治に対する鋭い風刺を交えたもので、多くの議論を呼び起こしてきました。これは「風刺」か「予言」か、その答えは読者の解釈に委ねられています。

ソローキンの背景

ソローキン氏は2000年代以降、ディストピア小説の執筆で特に名を馳せています。彼の作品には、帝政の復活や言論の弾圧といったディストピア的な要素が散りばめられており、これが現実の出来事、特にウクライナ侵攻との間に驚くべき共通点を持つことから、多くの注目を集めています。

彼の芸術的ルーツはモスクワのアンダーグラウンドにあり、過去のソビエト時代、特にペレストロイカ期には、彼の過激な作品は公然と出版されることは許されませんでした。しかし、ソ連の崩壊後の90年代に国内での出版が許可され、彼の作品は広く受け入れられるようになりました。過去40年にわたり、ソローキンはロシアの様々な政治的・社会的タブーを打破してきました。

『親衛隊士の日』とその影響

2006年の『親衛隊士の日』は、ソローキンの作品の中でも特に注目に値するものです。この小説では、2028年の帝政復活したロシアを舞台に、親衛隊士たちが新たに生まれ変わった「白の広場」を支配する様子が描かれています。

ソローキンはこの作品で、イヴァン雷帝の時代の親衛隊の虐殺行為を再現しつつ、当時のプーチン体制の統制強化を批判しています。また、ロシア語と中国語が混在する描写は、ウクライナ侵攻後のロシアが将来的に中国に依存する可能性を示唆しています。

この小説は、その独特な世界観と鋭い洞察力で、多くの賞を受賞しており、2013年には国際ブッカー賞にノミネートされるなど、国際的にも高い評価を受けています。

「過去からのモンスター」プーチンとロシアの現状に対する痛烈な批評

ウラジーミル・ソローキンは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に強い反発を示し、その心情と見解を『文藝』の2022年夏号に掲載されたエッセイ「過去からのモンスター」で明らかにしました。このエッセイは、ロシアの現指導者であるウラジーミル・プーチンと、彼が持っている権力に対する痛烈な批判を展開しています。

ソローキンはエッセイの中で、プーチンが最初は健全な指導者として登場したにもかかわらず、権力と時間が経過するにつれ、16世紀のイワン雷帝のような権力のピラミッドを築き上げ、その絶対的な権力に取り憑かれて変わっていった様子を描いています。

イワン雷帝は、偏執病や多くの悪徳に取り憑かれた野心的で残酷なツァーリとして知られており、ソローキンはこの比喩を用いることで、プーチンの現在の権力への執着や、彼の統治下でのロシアの方向性に対する懸念を強調しています。

エッセイの終わりには、ソローキンがプーチンの未来に対する予測を述べています。彼は、プーチンが現在進行している方向性は、自由と民主主義の世界とは完全に相容れないものであると指摘しています。プーチンが求める「新しい中世」や「腐敗」、「嘘と人間的自由の蹂躙」は、彼の破滅を意味するとソローキンは警告しています。彼の結論は、プーチンは「過去」であり、その過去からのモンスターが現在のロシアを導いているというものでした。

ソローキンのこのエッセイは、その鋭い洞察力と文学的な表現力を持って、現代のロシアの政治風景とその背後にある力の構造に対する深い理解を読者に提供しました。

21世紀ロシア文学の変容と「プーチンのロシア」

21世紀初頭、ロシア文学は新たな局面を迎えました。ソ連の崩壊後の「自由」の喪失と、市場経済の導入による文学のビジネス化は、純文学の地位を低下させるとともに、作家たちの社会的・道徳的影響力も減少させました。しかし、プーチン政権の台頭とそれに伴うメディアの統制強化は、再び文学を政権批判のツールとしての役割に立たせるきっかけとなりました。

プーチン政権下でのメディア統制は、独立系のテレビ局や新聞が次々と国家の管理下に置かれ、公然とした政権批判が難しくなる状況を生み出しました。こうした背景の中で、作家たちは再び文学を用いて社会批判や政権の将来像について考察し始めました。

直接的な政権批判は困難であったため、多くの作家はフィクションを通じて「プーチンのロシア」に対する懸念や予測を描き出しました。ディストピアや寓話、象徴的な物語を通じて、権力の中心となる一人の人物やその政策、そして国家全体の方向性に対する疑問や批判を織り交ぜた作品が生まれました。

こうした文学の動向は、ロシアの歴史的背景と深く結びついています。歴史的に、ロシアの作家は社会の道徳的な指針としての役割を果たしてきました。ドストエフスキー、トルストイ、ソルジェニーツィンなど、多くの作家が社会の問題や権力と向き合い、彼らの言葉を通じて国民の意識や価値観を影響させてきました。

21世紀のロシア文学も、この伝統を受け継ぎつつ、新しい時代の課題や問題に対して、独自の視点と声で応えています。プーチン政権下のメディア統制が進む中で、文学は再び社会批判の場としての役割を果たしているのです。

ロシアの文化界からの反戦の声

自国がウクライナに侵攻したのを受けて、ロシア国内のアーティストや美術館は戦争への抗議の声を上げました。

  1. オープンレターへの署名: 多数の美術関係者が反戦のオープンレターに署名をし、公然と戦争への反対の意思を示しました。
  2. プーシキン美術館の抗議: プーシキン美術館の副館長らが戦争に対する抗議の意を表明し、その後、職を辞任しました。
  3. ガレージ現代美術館の展示活動休止: モスクワに位置するガレージ現代美術館は戦争を理由に「日常が続いているという幻想を支持できない」と公表し、展示活動を終戦まで休止する決断を下しました。
  4. プーシキン美術館からの声明: プーシキン美術館は公式のSNSチャンネルを通じて声明を発表。美術館としての役割を強調しながら、平和と相互尊重を基盤にした対話の重要性を訴えました。

このような動きは、ロシアの文化界が国の政策に対して一線を画す姿勢を強く示していることを反映しています

ロシア文化界の戦争反対運動の変遷

ロシアのウクライナ侵攻に関連して、ロシア国内の文化・アート界も大きな影響を受けている。

しかし、3月4日に可決された「フェイクニュース法」によって反戦の意見を持つアーティストや美術館も表現の自由を大きく制限されました。その結果として様々な変化を余儀なくされました。

  1. 法案の影響: 「虚偽情報」を広める行為への罰則強化に伴い、多くのアーティストや市民が自身や家族の安全を考慮し、反戦メッセージをSNSやウェブサイトから削除する動きが広まった。
  2. 抵抗するアーティスト: パーヴェル・オジェリノフのように、制裁の恐れを背にしても反戦のメッセージを発信し続けるアーティストも存在した。彼らは、直接的な反戦メッセージよりも比喩的な表現を多用し、作品を通じて悲しみや絶望を表現した。
  3. 表現の再開: 戦争が長引く中で、多くのアーティストが再び明確な反戦の意志を表現し始めた。それまで戦争についてのコメントを避けていた者たちも、公然と戦争批判の作品やテクストを公開するようになった。

ロシアの文化界におけるこれらの動きは、国の政策や法律の変更、そしてそれに対する市民の反応という相互作用の中で進行していることがわかります。多くのアーティストや文化人が、自らの表現を通じて社会的・政治的なメッセージを伝える役割を果たしているのです。

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Marina Ovsyannikova 

ディストピア下で国営テレビスタッフが生放送中に反戦を訴える!!

Guardian News/YouTube

2022年3月14日、ロシアの国営テレビの生放送において、一件の驚くべき事件が発生した。ディストピアと化しつつあると見られる国内の状況の中、放送中のニュース番組で突如現れた一人の女性が反戦を訴える行為を行ったのです。

「生放送中の抗議」ロシア国営テレビに現れた反戦の声

この女性は、生放送中のキャスターの背後に現れ、ロシア語と英語で「戦争反対。戦争をやめろ。プロパガンダを信じるな。この人たちはあなたにウソをついている」と書かれたプラカードを掲げた。彼女はさらに、「戦争やめろ。戦争反対」と高らかに叫ぶ姿が放映された。

この出来事は非常に驚きを持って受け止められた。なぜなら、ロシア国営メディアは厳格な統制の下で放送が行われており、このような抗議活動がテレビで放送されることは極めて稀であるからだ。

事件を受けて、ロシア大統領府のペスコフ報道官はコメントを発表。「この女性に関する限り、これはフーリガン行為だ」と述べ、公式の立場を明らかにした。

第1チャンネルのスタッフ「マリーナ・オフシャンニコワ」

この出来事が起きたのは、ロシア国営第1チャンネルのニュース番組「ブレーミャ」とう、ソビエト連邦時代から現在まで続く、約半世紀の長い歴史を持つ番組でした。その名前は、「時間」や「時代」を意味する言葉であり、ソ連時代には、政府の公式な立場や情報を伝える主要なプラットフォームの一つとして機能しており、プロパガンダの目的でも利用されていました。

抗議を行ったのは、番組のエディターであり、ジャーナリストのマリーナ・オフシャンニコワ(44歳)という女性であることが後からわかりました。彼女は2人の子供の母親でもあり、夫は国際放送局「ロシア・ツデー」(RT)に勤務している。彼女の行動は、国営メディアの厳しい統制下での抗議行動としては非常に稀有なものであり、多くの注目を集めたました。

警察当局に拘束

放送後の出来事は、さらに緊迫した展開を見せることとなりました。マリーナ・オフシャンニコワが放送中の行動を取った後、複数の報道機関が彼女が警察当局によって拘束されたとの情報を伝え始めたのです。また、第1チャンネルの関係者は「職務上の調査を行っている」との声明を発表しました。

オフシャニコワのビデオメッセージの拡散

マリーナ・オフシャンニコワが拘束された直後、事前に録画していた動画がインターネット上に公開されました。このビデオメッセージは独立系ニュースサイト「メドゥーサ」の編集者ケヴィン・ロスロックによってツイッターに投稿されたもので、瞬く間に拡散されました。

メッセージは以下。

「ウクライナでの出来事は犯罪で、ロシアはその侵略者です。

この侵略の責任を負うのは、ウラジーミル・プーチンという一人の人物です。 私の父はウクライナ出身、母はロシア出身ですが、二人は決して敵同士ではありませんでした。 私が首につけているこのネックレスは、ロシアが戦争をすぐに終結させるべきで、我々はまだ和解の道を探ることができるという信念の証です。

実を言うと、過去数年間、私は「チャンネルワン」での仕事をしていました。 クレムリンのプロパガンダを広める役割を果たしてきましたが、テレビでの虚偽の伝播を黙認し、ロシアの人々を惑わせてしまったことを深く後悔しています。

2014年の初めに、私たちは声を上げることができませんでした。 ナワリヌイ氏が毒殺されたとされる事件の際も、私たちは反対の声を挙げなかった。 私たちは、この非人道的な政権の行動を黙って見てきました。

今、世界中が私たちを避けており、数世代にわたってこの戦争の影響を払拭することはできないでしょう。 我々ロシア国民は理知的で、この状況を打破する力を持っています。

抗議活動に参加しましょう。恐れる必要はありません。彼らが私たち全員を逮捕することはできないのです」

この動画メッセージは、ロシア国内外で数多くの反響を呼び起こしました。オフシャンニコワ氏の行動は、戦争とクレムリンのプロパガンダに対する公然たる非難として受け取られ、彼女の勇気ある行動は世界中の人々から賞賛されました。

ナワリヌイの広報担当者からの反響

ロシアの反体制派であり、多くの人々にとっての民主主義のシンボルであるアレクセイ・ナワリヌイの広報担当者は、オフシャンニコワ氏の行動に対してツイッターで公然と称賛の声を上げました。このツイートは、ナワリヌイ氏の支持者や国際的なメディアの間で急速に拡散されました。

ナワリヌイ氏の広報担当者が投稿したオフシャンニコワ氏の動画は、公開されるやいなや、瞬く間に再生回数が増えていき、260万回を超える再生を記録しました。これは、多くのロシア人や国際的な視聴者がこの事件に強い関心を持っていることを示しています。

各国のリーダーからのの賞賛と支援

オフシャンニコワの抗議行動は、世界中で話題となり、多くの国のリーダーたちから賞賛の声が上がりました。ウクライナのゼレンスキー大統領は3月14日のビデオ演説で彼女の行動を称賛し、「真実を広め続けるロシアの人々、そして第1チャンネルのスタジオで抗議行動を行った彼女に感謝している」と述べました。これは、ウクライナとロシアの緊張した関係の中で、異なる立場にある国民間の連帯と協力の重要性を強調するものと言えます。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領もオフシャンニコワさんの行動を支持し、彼女への保護を提案。フランス大使館での保護や亡命を通じた安全な場所の提供などの措置を検討していると公表しました。さらに、マクロン大統領はロシアのプーチン大統領との次回の会談でこの件について提案する意向を示していました。

国連からのロシア当局への要請

オフシャンニコワさんの抗議行動に対する国際的な反応が大きくなっている中、国連も公式にロシア当局に対する声明を出しました。3月15日に行われた国連人権高等弁務官事務所の記者会見で、報道官はオフシャンニコワの行動について触れ、「彼女は表現の自由の権利を行使したことに対して報復やペナルティを受けるべきではない」との立場を明確にしました。

この発言は、表現の自由を保護する国際法の原則を再確認するものとなり、オフシャンニコワさがその権利を行使したことに対して、国際社会がその保護を強く求めていることを示しています。さらに、報道官は「今後もロシア当局の対応を注視する」との姿勢を強調し、国際社会が今回の事件に対する関心を継続していることを示しています。

ロシア国内では報道規制によって正確に伝わらず

報道を厳しく規制する現行法の制約にも関わらず、ロシア国内の一部メディアはマリーナ・オフシャンニコワの抗議活動について触れる方法を模索しました。独立系新聞ノーヴァヤ・ガゼータなどは、彼女の反戦メッセージを読めない、もしくは隠蔽する手段を取りながら、彼女の行動そのものを伝えることで、その事件の重要性をロシア国民に知らせようとしました。

このような制約の中での報道を受け、ロシアの市民からも様々な反応が寄せられました。若い男性は彼女の行動を「とても大胆」と評価し、「尊敬に値する」との声を上げました。しかし、高齢の女性からは「何の感想もない。彼女はバカだ」といった厳しい意見も聞かれるなど、意見は分かれました。

また、一部の市民はこの問題に触れることを避ける姿勢も見受けられ、「その話題は話したくない」と避ける意見も存在しました。これは、現在のロシアの政治的・社会的状況の中で、市民が感じるプレッシャーや恐怖を反映しているとも解釈できます。

オフシャンニコワさんへの裁判の結果とその後の反応

3月15日、ロシアの裁判所はマリーナ・オフシャンニコワに対し、抗議活動に関する法律に違反したとの理由で罰金刑を科しました。具体的には、3万ルーブル(約280ドル・3万3000円)の罰金が科されました。

裁判の結果を受け、彼女は報道陣の前で自身の経験を公然と話しました。「私自身による反戦の決意です。ロシアが侵略を始めたのは許せません。非常に残酷でした。尋問が14時間以上続きました。家族や親族との連絡も許されませんでした。今日はただ休みたい」という彼女の言葉から、拘束された際の厳しい待遇や心身ともに大きな負担を感じていることが伺えます。

また、彼女が一連の抗議行動を起こした後、ほぼ24時間にわたり行方不明になっていたため、国内外から彼女の身の安全を懸念する声が上がっていました。

Guardian News/YouTube
罰金だけで終わりじゃない?訴追される可能性

彼女は釈放された後も、ロシア政府からの厳しい取り締まりの対象になっていました。特にウォロジン下院議長が「あらゆる厳格さをもって」の訴追を要求しており、彼女の安全と自由に大きな懸念をもたらしていました。

モスクワの複数のメディアは、今回の罰金刑は彼女に対する罰の第一段階に過ぎないと報道。これは、新たに施行された「フェイクニュース法」の下では、ウクライナ侵攻に関するとされる「偽情報」を広めた罪で最大15年の禁錮刑を受ける恐れがあったためです。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)はセルゲイ・バダムシン、モスクワの弁護士会会長のコメントを紹介しました。それによると、バダムシンは、彼女が受けた罰金刑はテレビ放送を中断した行為ではなく、彼女がデモの理由を説明するために事前に録画した映像によるものだと主張しています

「英雄ではないが、人々には目を開いてほしい」インタビューで名言

3月16日、オフシャンニコはロイター通信とのインタビューで、自身の行動についての思いと、ロシアとウクライナの人々に向けたメッセージを語りました。

オフシャンニコは、自らの行動を英雄的なものとは考えておらず、抗議によって政府のプロパガンダに騙されているロシアの国民が目を覚ますことを望んでいました。その上で、「今、私が直面している問題の深刻さをしっかりと理解しており、自身の安全に非常に危機感を感じている」と自らの危機についてもコメントしました。

また、メディアや政府のプロパガンダの影響を受けて、ロシア人とウクライナ人が分断され、敵意を持ち合う状況に憂慮を表明。ロシアを去る意向はないものの、今回の行動によって刑事責任を追及されないようにしてほしいと願いました。

オフシャンニコワはウクライナ人の父を持ち、子供の母としても、自身の行動による影響を考える余地がありました。もともとロシアの大統領府近くでのデモを検討していたが、その方法では意味があまりないと感じ、より多くの国民に直接アピールする方法を選んだと言います。

このインタビューの最後に、ロシアの国民に向けて「情報を単に受け入れるのではなく、自ら分析する能力を身につけるように」とのメッセージを送り、さらに「国営テレビだけでなく、他の情報源も探ることが重要」と強調しました。

フランスのマクロン大統領が支援を表明

ロシア国内の抗議活動家やジャーナリストに対する圧力の高まりを背景に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はマリーナ・オフシャンニコワに対して明確な支援の意向を示しました。マクロン大統領は3月15日に、彼女がフランスへの亡命を希望する場合、その申し出を受け入れる用意があると公言しました。

この支援表明は、彼女んがロシアの国営テレビでの抗議活動を受けて法的なリスクや圧力を背負っていることを受けてのものであり、国際的な注目と共感を集めています。マクロン大統領は、フランスの大使館を通じて彼女の保護や、必要に応じて亡命の手続きを提供する意向を示しています。

また、マクロん大統領は、近いうちにロシアのプーチン大統領との会談の際に、オフシャンニコワの件について提案し、その解決を図るとも述べています。彼女の安全と自由に関する情報提供を求める姿勢を持っていることも明らかにしており、国際的な問題としての認識が高まっていることを示しています。

マクロン大統領がこのコメントを行ったのは、フランス西部のウクライナ難民受け入れ施設の視察の際で、ロシアのウクライナ侵攻によって多くの難民がヨーロッパ各地に流入している現状を直視しながらのものでした。

L’Obs/YouTube
ロシアに残ることを表明

しかし、フランスのマクロン大統領の亡命の受け入れの申し出を受けたにもかかわらず、オフシャンニコワはフランスメディアとのインタビューで、フランスへの亡命を考慮せず、「提案は受け入れない。私は愛国者。家族と一緒に暮らしたい」と発言し、ロシアにとどまる決意を明らかにしました。

ロシア国内で「偽情報」を拡散したとされ、そのために最大15年の禁錮刑が科されるリスクが高まっている中での彼女のの発言は、さらに注目を集めることになりました。オフシャンニコワはそのリスクに対して「非常に恐れている」と述べた後、「社会のクズになることを選ばなかった」と、自身の行動の背後にある政権のプロパガンダへを強く批判しました。

また、「核戦争のようなことになる前に、この狂気を止めなければならない」「息子が大きくなったら私の行動を理解してくれると思う」と自身の強い意志を表明しました。

さらに、「ロシアにも戦争に反対する人がいることを西側諸国の人々に知ってもらいたかった」とも語りました。

FRANCE 24 English/YouTube

国際メディアとのインタビューで、ロシアの侵攻を「兄弟国に対する戦争」と批判

世界的に注目されたオフシャンニコワは、多くの外国メディアからのインタビューを受け、自らのバックグラウンドやロシアのウクライナ侵攻に対する見解を公にしました。

ドイツの著名な雑誌「シュピーゲル」とのインタビューでは、ソ連時代にウクライナの南部、オデッサで生まれたと明かした。この経歴は彼女の反戦メッセージに更なる深みを持たせるものとなりました。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻を「兄弟国に対する戦争」と位置づけ、強力に停戦を求めるメッセージも発信しました。

さらに、米国のCNN、英国のBBC、ウォールストリート・ジャーナル紙、ガーディアン紙など、世界中の主要メディアとのインタビューを行い、自らの考えや行動の背景、そして現在の状況について詳しく語りました。

これらのインタビューは、国際社会におけるロシアの行動に対する懸念をより一層強化する要素となった。オフシャンニコワさんの訴えは、多くの国民や国際的なオピニオンリーダーに影響を与え、ロシア政府への圧力を高める要因となりました。

アメリカのメディアABCの番組に出演

米国のテレビ番組ABCに出演した際には、自らの抗議行動の背後にある動機や考え、そして現在の状況について詳しく語りました。

彼女は、抗議行動は他人との共謀ではなく、独自の判断に基づいて行ったものであると明かし、一方で彼女の勤務先である国営テレビ局内では、多くのスタッフがロシア政府やその方針に強い不満を抱いていることも強調。特に、テレビ放送における政府のプロパガンダは、時と共にさらにゆがんでいると感じていると述べました。

また、街頭での抗議活動に参加することも最初は考えていたが、他の抗議者たちが次々と拘束され、その上で刑事罰を受ける様子を目の当たりにして、その方法は採らないことを決意したと明らかにしました。

彼女は、その代わりにテレビ放送を通じて直接的なメッセージを送る方法を選択。ロシア国民の中には戦争に反対する多くの人々がいるという事実を国際社会に伝え、またロシア国民自体に政府の放送がプロパガンダであることを認識させるチャンスをつかもうと考えたた語りました。

ABC News/YouTube
CNNインタビューでロシアのプロパガンダと「検閲法」への懸念を強調

CNNとのインタビューでは、ロシア政府の情報操作やプロパガンダに対して、年々強まる不満と矛盾を抱いていたことを公然と語りました。彼女は、自らの信念や真実への追求と、彼女が放送で伝える内容の間に存在する「不協和」を強く感じていたと述べました。

特に、ロシアによるウクライナ侵攻は彼女にとって、もはや沈黙を続けることができない、そして黙っていることへの耐え難さを感じるきっかけとなりました。オフシャンニコワさんのこの行動は、ただの一時の感情の爆発ではなく、長期間にわたる心の葛藤と政府の情報操作への不満が背景にあったことが明らかとなったのです。

彼女の勇気ある行動は、当然、ロシアの政府当局からの反応を引き起こしましたが、その結果として、30,000ルーブルの罰金を科されることとなってしまいました。しかし、さらに深刻な問題はロシアの「フェイクニュース法」でした。この法律によって、彼女は最大で15年の禁錮刑が科される可能性があったのです。

CNN/YouTube
BBCのインタビューでロシア国営テレビでの抗議行動の背景を語る

英BBCに対して取材では、多くのロシア国民がプーチン政権が放送するプロパガンダや一方的な情報を鵜呑みにしている現状に強い危機感を感じていたと述べました。今回の行動の背景には、国民が偏向された情報のみに基づいて判断を下していることへの懸念があったと言い、この懸念が抗議行動を取る決断を下す大きな要因となったと語りました。

BBC News/YouTube
ドイツの週刊誌シュピーゲルでもロシアに残る意向を表明

ドイツの週刊誌シュピーゲルとのインタビューで、自身の愛国心を明確に表現。彼女は「この国を離れたくない。私は愛国者だ」と強調し、ロシアを離れることなく、現状の情勢を変えるための行動を起こすことが必要だと感じていることを示唆しました。

さらに、彼女は今回の抗議行動が個人の取り組みであったことを明言しました。しかし、多くのテレビ局の同僚たちが公然とは示さないものの、彼女の行動や思いに共感していると感じていることも語りました。これはロシアのメディア環境や情報操作の厳しさを背景に、多くのメディア関係者も真実を伝えることの重要性や現状の懸念を内心で感じていることを示唆しています。

反戦メッセージを隠し持ちスタジオ入り – ノーバヤ・ガゼータが報じる

独立系新聞ノーバヤ・ガゼータは3月21日、ロシア政府系テレビ「第1チャンネル」の番組編集者であるマリーナ・オフシャンニコワが、反戦メッセージを掲げるために、上着の袖にメッセージを隠してスタジオに入ったと伝えました。

「計画は90%成功しないと思った」と彼女は明かしており、その行動には「恐ろしさ」が伴ったものの、「(政権のプロパガンダを報じる)番組を止めなければならないという強い衝動に駆られた」と語りました。

また、ウクライナ侵攻開始後、欧米の情報に接触し、その後、辞職と抗議行動を決意。抗議行動で多くの市民が拘束される中、「より効果的な方法を考えた」と説明しました。英語で「戦争反対」、ロシア語で「プロパガンダを信じないで」と書いた理由について、欧米人に対してはロシア人の反戦の意思を示し、ロシア国民に対しては、目を覚ますように訴えるためだったと話しました。

「国とわれわれを裏切った」チャンネル1の非難

一方で、チャンネル1の報道部門のトップであるKirill Kleimyonov氏は、オフシャンニコワが抗議活動の前に英国大使館と連絡を取っていたと主張。彼女を「国とわれわれを裏切った」と非難しました。

日本テレビでの単独インタビュー

日本テレビがマリーナ・オフシャンニコワさんに実施した単独インタビューでは、彼女がロシア国営テレビで反戦メッセージを放送するまでの背景や心境が明らかにされました。

オフシャンニコワさんはインタビューで「不満がどんどんたまっていました」と語り、その不満が積もる中で、ある日彼女はコートの中に隠し持ったプラカードを持ち込み、スタジオに駆け込むときに取り出して、プラカードを広げ、反戦メッセージを伝えるという行動を取ったのだと説明しました。

ロシアの抗議デモは治安当局の取り締まりが厳しく、多くの参加者が拘束されるリスクが高いため、彼女はデモに参加する方法では「効果がない」と感じていました。この背景から、より大きな影響を与えることができる国営テレビの生放送中にそのメッセージを発信する方法を選択したのです。

しかし、この行動の後、オフシャンニコワさんはロシア国内のメディアで「イギリスのスパイ」として報道されるなど、多くの非難を受けることとなりました。彼女自身もこのような報道により、身の危険を感じているとインタビューの中で明らかにしました。これにより、彼女の行動の背後には強い信念と勇気があったことが伺えます。

ドイツ大手メディアのフリーランス特派員として契約

4月11日、オフシャンニコワは、ドイツの大手メディアグループ『アクセル・シュプリンガー』発行の『ディ・ヴェルト』紙とフリーランス特派員として契約を結んだことを発表しました。

オフシャンニコワは、ロシアとウクライナからの報道に携わるとのことで、これに関して彼女は「現在、ウクライナにいる勇敢な人々が強固に守ろうとしているもの、つまり自由を支持している。その自由を守ることはジャーナリストとしての私の責務だと思っている。ディ・ウェルトのためにそれができることをうれしく思います」とコメントしました。

一方、ウェルト紙のポシャルト編集長は「国家の抑圧にもかかわらず、ジャーナリズムの最も重要な倫理を守った」とオフシャンニコワを称賛。彼女の勇気ある行動を非常に高く評価しました。

ニューヨーク・ポスト紙は、オフシャンニコワの写真と共に彼女がなぜ反戦を訴える行為に至ったのかやロシア政府のプロパガンダについて記した最初のコラムを一面に掲載。この中で彼女は、反戦抗議が自身の人生をどのように変えたのかについて説明しています。

ドイツ国内では、彼女がロシアのテレビでの抗議活動を行った直後から「素晴らしい女性」という声や「なんとかドイツで保護できないか」という意見が多数上がっていたとのことです。オフシャンニコワがドイツのメディアで働くことになった今、「ほかのメディアでは知り得ない現実を知ることができる」「思い切って事実を伝えてほしい」との期待の声が多く寄せられました。

ヴァーツラフ・ハヴェル人権賞を受賞

5月25日、オフシャンニコワは、オスロでヴァーツラフ・ハヴェル人権賞を受賞しました。この賞は、個人や団体が人権擁護や自由を守るための卓越した行為を称えるものとして、欧州評議会の議会により、毎年授与されています。

彼女の一連の抗議行動は、多くの人々に勇気と希望を与えるものと高く評価され。その果敢な行動と献身的な姿勢が、欧州評議会により、賞賛を受けるに値するものと認められたのです。

ヴァーツラフ・ハヴェル人権賞は、チェコの元大統領であり、作家・人権活動家でもあったヴァーツラフ・ハヴェルの名前を冠しており、彼の人権と民主主義に対する不屈の精神を称えるものとして設立されました。オフシャンニコワ氏の受賞は、彼女が自らのリスクを冒して真実を伝えるジャーナリストの精神を体現していることの証明となります。

Радио Свобода/YouTube

2022年6月、オフシャンニコワ、ウクライナでの複雑な受容

2022年6月、オフシャンニコワは独WELTの記者として自らウクライナに入りました。しかし、期待とは裏腹にウクライナ当局からの歓迎を受けることはありませんでした。

彼女はSNS上で親ロシア派、親ウクライナ派の双方からバッシングは受けました。これは彼女がロシアの国営テレビで反戦メッセージを掲げた後の行動として国際的に注目されたこと、そして彼女の背景や訪問の目的の不明瞭さが影響していると考えられます。

彼女の父親がウクライナ人で、オデーサの出身であるという事実も、彼女がウクライナでどのような立場で受け入れられるべきかという論争を生む材料となっています。

また、彼女の訪問の目的の本心が不明であるため、ウクライナの一部の報道関係者や市民からの疑念が生まれています。その証拠として、インターファクス・ウクライナ通信がキーウでの彼女の記者会見の開催を発表したところ、不適切であるとの声が上がり、会見は中止となりました。

オフシャンニコワ自身もこの複雑な状況に心を痛めているようで、彼女のSNSの投稿からはその胸中の複雑さがうかがえます。特に「私はロシアとウクライナ、どちらで投獄されるべきか」という投稿は、彼女が現在置かれている状況の難しさと、その心境を強く表していました。

再び抗議活動!クレムリン前でのデモに自宅軟禁命令

マリーナ・オフシャンニコワは、前回の抗議活動では罰金刑で済んだものの、2022年7月には再び反戦の声を上げました。彼女はクレムリン前で「プーチンは殺人者だ」と書かれたプラカードを持ち、その様子を動画で公開しました。

この抗議行動に対し、彼女は「ロシア軍に関するニセの情報を広めた」として8月に起訴され、2か月間の自宅軟禁が命じられました。法廷では、感動的なシーンとして、彼女が「殺された子どもたちの夢を毎晩あなたたちは見る」と書かれたプラカードを掲げる場面も見られました。

しかし、10月3日、オフシャンニコワさんは自宅軟禁を守らなかったとしてロシア内務省により指名手配されました。オフシャンニコワさんの元夫によれば、彼女は10月1日に娘を連れて自宅を出たことが明らかになっています。

Reuters/YouTube

SNSでの訴え!プーチン大統領を起訴すべきだと主張

2022年10月5日、オフシャンニコワさんは自身のSNSに動画を公開し、ロシア当局とプーチン大統領への批判を強めました。彼女は「私は完全に無実だ」と明確に自身の立場を示すと同時に、ロシア政府の法律への不従順さを指摘しました。そして、自らに科された拘束措置に従う理由がないとの主張を続けました。

特に注目すべきは、彼女がプーチン大統領を起訴すべきだという訴えです。オフシャンニコワさんは、電子監視ブレスレットを象徴として挙げ、「このブレスレットをプーチンにつけてください」と強く要求しました。そして、ウクライナの市民への虐殺と、ロシアの男性への部分的動員による犠牲について触れ、その責任は彼女ではなくプーチン大統領にあると訴えました。

オフシャンニコワ、フランスに亡命 – 国境なき記者団の支援を受けて

2023年2月10日、フランス・パリ。有名なジャーナリスト、マリーナ・オフシャンニコワさんが、国際的に認知されたジャーナリスト団体「国境なき記者団」の支援の下、フランスに亡命したことを公表しました。

彼女は、予定されていた判決の直前に自宅から逃亡。もし有罪となった場合、最大懲役10年の刑が待っている可能性があったため、命の危険を感じ、弁護士の助言を受けて逃亡を決断したいいます。

命を賭けた逃走

逃亡を決意したマリーナ・オフシャンニコワは国境なき記者団のサポートを受けるも、彼女と彼女の娘の安全は保証されていませでした。

彼女は当局の注意を逸らすため、周知の事実として治安当局員が飲酒をする金曜の夜を狙って行動を開始。7台もの車を乗り継ぐ過程で、当局から強制装着されたGPS付きの電子腕輪を外し、逃走を続けました。

国境近くではさらなる危険が待ち構えていた。当局や警備員の監視を避けるため、彼女は車から降りて密林を歩いて進むことを選択。しかし、深い森の中では道を見失い、一時は絶望の淵に立たされました。「自宅に戻って刑を受ける」という考えが彼女の心をよぎったといいます。

しかし、夜空に輝く星たちが彼女の羅針盤となり、方向を示してくれました。何時間にもわたる徒歩の逃走の末、ついに彼女は待機していた協力者たちと合流し、安全な場所へと脱出することができました。

新たなスタートを決意

会見後、彼女は仏ニュース専門テレビBFMに出演し、その中で自身の過去の行動に対する決意や現在の心境を赤裸々に語りました。

彼女は、ロシアのプロパガンダを糾弾するために、身の危険を覚悟で行動を起こした。その結果、彼女の人生は大きく変わってしまいました。自分の行動が原因で、家族との関係が壊れ、特に母親や息子との関係は疎遠に。さらに、彼女は自宅や仕事を失いました。

しかし、彼女はこのような状況になっても、自分の選択を後悔していないと断言しました。真実を語ることの価値は、彼女にとって他の何よりも価値があると感じているからです。その信念は、彼女の行動や決断を支えてきたものと言えるでしょう。

会見の最後に、彼女は「真実を語るため、私はすべてを失った。今は、ゼロからやり直さなければならない」と述べました。これは、彼女がこれからの新しい人生に対する決意を示す言葉でもありました。

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ユヴァル・ノア・ハラリ、トマ・ピケティ、ノーム・チョムスキー、フランシス・フクヤマ、ジョージ・ソロスなど世界の賢人12人によるウクライナ戦争についての最新論考を緊急出版。戦争が起きた背景、プーチンの狙い、これからの世界秩序について、日々の報道では見えてこない深い視座を得られるだろう。(「Books」出版書誌データベースより)
【ウクライナ危機(50)】「金融の核兵器」発動!?ロシアへの欧米の制裁決定、SWIFT排除

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