この頃、モスクワの広場には通常の日常風景とは違う、緊迫した雰囲気が漂っていました。数千人のデモ隊が集まり、「STOP PUTIN」というスローガンを掲げて平和を求める声を一斉に上げていたのです。彼らの目的は明確で、ロシアの最近の政策や行動に対する不満を声高に訴えることでした。
しかし、この平和を求めるデモが始まって数時間後、重装備の特殊部隊が突如として集まった群衆に突入。人々は驚きと恐怖に打たれながらも、その場を離れようとしたが、多くの人々が拘束されてしまいました。そして驚くべきことに、その中には老人や子供といった無害な市民も含まれていたのです。
このデモの背景や、なぜこんなに多くの市民が反政府の声を上げるようになったのか、そして政府はこれにどのような対応をするのか。本記事では、ロシアで急増している反戦デモの実態とその背後にある事情をお伝えしたいと思います。
【ウクライナ危機(47)】「北京2022年パラリンピック」 ウクライナのアスリートが伝える平和のメッセージとメダルの背後にあるストーリー
Protests against the 2022 Russian invasion of Ukraine
ウクライナ侵攻に対する国際的な反戦運動
ロシア軍のウクライナ侵攻が国際的な波紋を呼び起こす中、多くのロシア国民が平和を求めて声を上げてました。
ウラジーミル・プーチン大統領の故郷であるサンクトペテルブルクでさえ、反戦デモの舞台となりました。これは、多くのロシア人がこの戦争を支持していないことを示していると言えます。しかも、この声はロシアだけでなく、世界中で響いていました。
アメリカのニューヨーク、ロサンゼルス、イタリアのローマやミラノ、スペインのマドリード、トルコのイスタンブール、インドのニューデリーやムンバイ、そして日本の東京や大阪など、国を問わず多くの都市で、市民たちが「STOP WAR」というメッセージを掲げて街頭に繰り出しました。これらのデモに参加する人々は、政治的背景や宗教、国籍に関係なく、平和への願い「戦争の終結」を求めて結集しました。
ロシア政府の行動は、国際的な非難の的となっており、多くの国々が経済制裁や外交的な手段を通じて対応を強化しています。しかし、最も力強いのは、これら一般市民の声なのかもしれません。
「国際的連帯」ロシアのウクライナ侵攻への抗議
2022年2月の終わり、ロシアのウクライナ侵攻を巡る緊迫した国際情勢は、世界中の都市で反戦デモとして具体的な形を取り始めました。
- ベルリン:ドイツの首都で10万人以上が集結。参加者たちは「第3次世界大戦は避けよう」とのスローガンを掲げ、ウクライナの国旗の色を身に纏い、連帯の意志を明確に示した。
- マドリード:スペインの首都には4万人が集まり、「プーチンはウクライナから出て行け」と訴える声が上がった。
- プラハ:チェコの首都では7万人が平和を求めて街頭に繰り出した。
- ワシントンD.C.:米国の首都のホワイトハウス前では、バイデン政権に対し、一層の厳しい対ロシア制裁の実施を訴える市民たちが集まった。
- ニューヨーク:タイムズスクエアでは、多くの人々が気勢を上げて抗議。中でもアンドレイさん(33)のような、ウクライナとロシアの混血を持つ市民は、特に情熱的に「ロシアには政権交代が必要」と主張した。
- カナダ・バンクーバー:北米でも抗議の声が上がっており、多くの市民がデモに参加。
- ブラジル・サンパウロ:南米最大の都市でも、ロシア人とウクライナ人が手を取り合って、共同で抗議デモを実施。
- タイ:2月27日と28日、バンコクとチェンマイでのデモのほか、ロシア大使館前での抗議活動には、在住の欧米人、タイ人、日本人など多国籍の市民が参加した。
これらの国際的な抗議活動は、世界中の人々が戦争と暴力にNOという共通の願いを持っていることを示しています。
渋谷での「STOP WAR」ウクライナを支持する声が上がる
2022年2月26日、東京都渋谷区のJR渋谷駅前には異様な熱気が溢れていました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻に抗議する声を上げるため、ウクライナ国籍の人々を中心に、2000人近くの人々が集まっていたのです。国籍を問わず、多くの在日外国人や日本人が一堂に会したその姿は、平和を求める強烈なメッセージを発していました。
SNSを通じて急遽開催されたこのデモの影響は大きく、参加者たちは青と黄色のウクライナの国旗を持ち、終始「STOP WAR」「STOPプーチン」といったスローガンを叫び続けました。渋谷の中心で、平和を訴えるこの動きは多くの通行人にも大きな印象を与えるもになりました。
デモの最中、ウクライナのバンドが歌う「戦わずにやめるわけにはいかない」という曲が流れ、その後ウクライナ国歌が参加者全員によって熱唱。場を盛り上げる中、ウクライナ出身のスピーカーがマイクを取り、英語と日本語でのスピーチを通して、彼らの思いや現地での状況を訴えました。
この日初めてデモに参加した今井櫻子さんはウクライナ人の友人を持ち、その友人の安全やウクライナの平和を真剣に願い、「無力さを痛感しながらも、私たちにできることは声を上げること。しかし、いつまで声を上げ続けるべきか、その答えを探している」と語りました。
この日のデモは、日本の中でもロシアの軍事行動に対する国際的な懸念を象徴するものとなりました。
日本在住ロシア人も「戦争反対」の声を上げる
同日、東京の新宿駅前でも、ウクライナへの軍事侵攻に反対する声が上がりました。しかし、この集会の特筆すべき点は、声を上げたのがウクライナ人だけでなく、ロシアの市民も含まれていたことです。
日本在住6年のロシア人女性は、この戦争に対する自身の考えを「恥ずかしい」と表現。彼女は「ロシアの大多数の市民がこの戦争を支持していないことを、人々に知ってほしい」と語った。また、同じくロシア出身で東京在住の27歳の女性も、「ロシアはウクライナに侵攻するべきではなかった。対話をするべきだ」と話しました。
SNSを活用して呼びかけた結果、新宿駅前にはロシア人を中心に100人以上が集まりました。彼らは「私たちはロシア人だが、戦争に反対する」というメッセージを掲げ、「ウクライナに平和を!」と連呼しました。これはロシアの人々が、自国の軍事行動に賛同していないことを示す重要な証となった。
ユーリ・ジュラブリョブさん、ロシア人グループの一員で集会の呼びかけ人の一人は、「ロシアが行っていることに対し、声を上げずにはいられなかった」と訴えました。
集会に参加した日本人大学生(23)は、キエフに住む3歳のいとこを心配し、参加を決意。「戦争はロシアもウクライナも望んでいない」と話し、戦争以外の解決策を模索していることを示唆しました。
この集会は、国境を越え、異なる背景を持つ人々が共通の思いで結束した一例となりました。
広島・長崎両市長がプーチン大統領に抗議文を送る
2022年2月28日、日本の広島市長および長崎市長は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する懸念を強く表明しました。二つの都市は、1945年の原子爆弾の投下により多大な被害を受けた場所として、核兵器の恐ろしさと戦争の破壊力を痛感しています。
両市長は連名で、ロシアのプーチン大統領に対し抗議文を送信。その中で、「地球上に、広島、長崎に続く、第三の戦争被爆地を生むことは絶対にあってはならない」という強いメッセージを伝えました。さらに、軍事的な侵略行為を直ちに中止し、平和的な解決のための道筋を探るよう強く求めました。
広島と長崎の歴史は、戦争の悲惨さと平和の大切さを世界に伝える証として、常に多くの人々の心に刻まれています。このため、両市長の声明は、日本国内だけでなく、国際的にも大きな影響を及ぼすと考えられました。
日本の宗教団体、ロシアのウクライナ侵攻に憂慮の声
日本の宗教界も、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して憂慮の声を上げている。全日本仏教会、世界宗教者平和会議日本委員会、曹洞宗、真宗大谷派、浄土真宗本願寺派、浄土宗、臨済宗妙心寺派、カトリック正義と平和協議会、キリスト教プロテスタントの複数の連合体など、多くの宗教団体が即時の停戦と暴力の停止を強く求める声明を発表しています。
これらの宗教団体は、戦争や暴力、そして社会の不平等や不正義に対して、常に非暴力の立場から声を上げてきた歴史があります。特に日本は、広島・長崎の原爆投下や福島第一原発事故といった大きな災厄を経験してきた国として、核の恐ろしさや戦争の破壊力を身をもって知る国民が多数います。そのため、これらの宗教団体の声明は、多くの日本国民から共感を得ました。
ロシアのプーチン大統領が、核兵器の使用に前向きな姿勢を示していることに対しても、多くの宗教団体が深い憂慮を表明している。これは、原爆や原発事故の被害を経験した日本の声として、国際社会においても重要な意義を持つになりました。
ゼレンスキー大統領、Zoomを通じてヨーロッパ各地の反戦デモに演説
3月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ヨーロッパ各地で開催された反戦デモに対して、Zoomを通じて直接演説を行いました。このデモは、スロヴァキアのブラチスラヴァ、ドイツのフランクフルト、チェコのプラハ、スイスのリヨン、ジョージアのトビリシ、オーストリアのウィーンなど、多くのヨーロッパの主要都市で行われました。
ゼレンスキー大統領は、ロシア軍によるウクライナへの侵攻に関して強い憂慮を示し、「ウクライナがロシア軍の手により陥落すれば、ヨーロッパ全体が立ち行かなくなる」と警鐘を鳴らしました。
この演説は、ヨーロッパ各地のデモ参加者たちにとって、ウクライナの現状と未来の危機を直接伝えるものとして、非常に大きな影響を与えることになりました。ゼレンスキー大統領の強い決意とヨーロッパへの訴えは、多くの人々に対する連帯感を高め、更なる支援や行動を促すきっかけとなったのです。
ゼレンスキー大統領、フェイスブックを通じて世界中に平和を訴える
3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアのウクライナ侵攻から1ヶ月を迎える直前に、フェイスブックを通じて世界中に平和を訴えました。これまでの演説とは異なり、訴えは全て英語で行っており、そのメッセージは全世界に向けられたものでした。
ゼレンスキー大統領は、「ロシアによる戦争は、ウクライナだけの問題ではない。それは全人類、特に自由を愛する人々への挑戦である」と語り、ロシアの侵攻は自由に対する攻撃であるとの立場を明確にしました。
また、この演説では単にウクライナの状況を訴えるものではなく、自由、平和、人権といった普遍的な価値を中心に据え、全世界の人々に対して行動を起こすことの重要性を強調していました。特に特徴的だったのが、翌日の3月24日を「立ち上がる日」として、世界中の人々に平和を求める行動を呼びかけたことでした。
これらのメッセージは、政治家やリーダーだけでなく、普通の市民、学生、労働者といったさまざまな立場の人々へ向けられていました。ゼレンスキーは、個々の人々が一致団結し、その声を大にして平和を求める行動をとることの重要性を訴えたのです。
ゼレンスキー大統領のこの訴えは、多くの人々にとって心に響くものであったと考えられます。一人一人の市民が平和のための行動を起こすことこそが、各国の政府や組織を動かすことができ、真の国際的な連帯と圧倒的な平和を求める大きな力になるからです。
Anti-war protests break out across Russia
ロシアの抗議運動と政府の取り締まり
ロシア国内では、拘束のリスクの中でも多くの市民が戦争反対の声を上げ続けていました。
では、なぜ拘束されるのでしょうか?このようなロシアの社会的背景を理解するためには、近年の政治的な変遷や、市民と政府との間の関係を考慮する必要があります。
2012年にプーチンが再び大統領に就任後、ロシア国内の政権への権力の集中は一気に進みました。その結果、市民の表現の自由や集会の自由などの基本的な権利が制約されることが増えてきました。
抗議運動に対する取り締まりは、さまざまな形で行われています。集会の許可が厳しく制限され、多くの場合、抗議活動が非合法とされています。さらに、抗議活動の組織者や参加者には高額な罰金や拘留が科せられることもあります。
インターネットもまた、政府の監視と制御の対象となっています。多くのウェブサイトやソーシャルメディアプラットフォームがブロックされ、言論の自由が制限されています。
そして、2020年以降の新型コロナウイルスの感染防止を名目に、集会や抗議活動への取り締まりがさらに強化されました。これにより、政府のポリシーや行動に対する批判や不満を持つ市民が声を上げることが一層困難になりました。
このような状況の中にあっても、多くのロシア市民は静かに留まることなく、平和を求めて戦争反対の声を勇敢に上げ続けました。
2022年ウクライナ侵攻後のロシア国内の反応
2022年2月24日のウクライナ侵攻は世界の注目を集めましたが、特にその影響はロシア国内でも大きく、多くの市民が公然と声を上げました。
反戦デモの様子
侵攻直後の2月24日には、多くの都市で「戦争反対」の声が上がりました。独立系放送局「ドシチ」の報道によれば、国内52都市で数千人がデモに参加しました。SNSを介して急速に情報が拡散され、多くの人々が「戦争反対」と書かれたプラカードを持って参加しました。モスクワでは、特に大規模なデモが行われ、「プーチン以外、誰も戦争を必要としていない」というメッセージが強く打ち出されました。
市民の声
デモに参加した市民たちは、戦争への不安や反発の気持ちを露わにしました。特に、ロシアとウクライナの間の深い絆や歴史を背景に、多くの市民がこの戦争を強く批判しました。また、2014年のクリミア半島併合やウクライナ東部への介入時にも反戦デモが行われましたが、今回の「開戦当日」のデモの規模はそれを上回るものでした。
メディアの反応
独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長は、プーチン大統領の核兵器使用に関する言及を受けて、「地球上の命を救えるかは反戦運動にかかっている」とコメントしました。
SNS上の反応
SNS上では、侵攻を称賛する声もあるものの、否定的なコメントが圧倒的に多かった。多くのユーザーがプーチン大統領を批判し、戦争を開始する理由とされる「生存圏」や「自国民保護」といった言葉の背後に隠された真意を問いかけていました。
反戦デモを弾圧
これに対応する形で、プーチン政権は厳重な治安体制を敷き、機動隊をモスクワ市内に展開。デモに参加している市民を一律に、老若男女を問わず拘束しました。政権がこのような厳しい対応を取った背景には、自国の世論が反発して大きな動きに発展することへの恐怖や危機感があったと考えられます。
市民の目撃談
ある女学生は、治安部隊とデモ参加者との対立を目の当たりにしました。
その女学生によると、地下鉄の駅を出た瞬間に怒号と悲鳴が響き渡っていたといいます。目の前では治安部隊が一般市民らしき人々を無差別に捕らえ、逮捕される人々。その中で特に印象的だったのは、20歳前後の小柄な女性が何もしていないのに治安部隊の警棒で打たれ、苦痛の叫び声を上げていたことでした。
周囲の混乱と恐怖に駆られて、すぐにその場から駆け戻り、乗ってきた地下鉄に飛び乗りました。安全を求めて列車の中に身を隠しながら、涙が止まらなかったと回想しています。
翌日、国営メディアはそのデモの内容を「米国が仕組み、参加者は金をもらっていた」と報じていたのを見て、彼女はさらに驚いたと語っています。
ロシア国内で広がった弾圧行為
このような出来事は他のロシアの都市でも起きていました。サンクトペテルブルクでは、デモの現場で当局との間にもみ合いが発生。デモ参加者は当局者に頭を押さえつけられるなど、厳しい取り締まりが行われました。
また、エカテリンブルクでは、治安当局者がデモ参加者に対して「バスに入れ」と指示。さらに拡声器を使用して「尊敬する市民の皆さん、この場所の解放を要求します」との呼び掛けが行われました。
全国的な取り締まり
ロイター通信による報道では、ロシア全国での拘束者数は50余りの都市で合計1400人を超えるとされています。これは、国内各地でのデモ活動が広がっていることを示しています。
SNS上の情報
SNS上では、治安当局がデモ参加者を暴力的に取り扱う様子の動画が多数投稿されています。これらの映像からは、当局がデモの拡大に強いいらだちを感じ、それを手荒く抑え込む姿勢が伺えます。
ベラルーシの反体制派、ルカシェンコ政権とロシアの協力に抗議
このような動きはベラルーシでも起きていました。
ベラルーシのルカシェンコ政権がロシアの軍事作戦に協力する中、ベラルーシ国内の反体制派活動家はその動きに反対を表明し、国民投票の結果に異議を唱えました。また、政権への抗議と共にウクライナへの支援をSNSで訴えました、。
反体制派の声はネットメディアを通じて広がりを見せてます。インターネット上のメディアやSNSは、このような政治的な動きや意見の交流にとって重要な役割を果たしているのです。しかし、この声を上げる市民や活動家に対する政府の弾圧も強まっており。ミンスクを中心とした複数の都市で、抗議活動に参加した80人以上が治安当局に拘束されました。
ロシアの反戦運動の鎮圧とプロパガンダ活動
ロシアの侵攻に関して国内からの反対の声が高まる中、ロシア政府は反戦運動を鎮圧するための様々な手段を用いてきました。主要都市、特にモスクワ市内では、警察車両の巡回が強化され、警官隊が威圧的に立ち並ぶ姿が目立つようになっています。
特に、反体制派やデモ隊からの集会の場として知られるプーシキン広場は、金属のバリケードで囲み、集会の機会を取り上げる動きが見られました。政府は、デモへの参加を公に非難し、その結果として前科がつくこと、自らの将来に深刻な影響を及ぼす可能性を警告している。
プーチン大統領や彼を支持する政府関連のメディアは、自らの政策を公に批判する機会を与えることはなく、逆に反ウクライナの宣伝活動を積極的に展開しています。
特に、国営や政府寄りの新聞、雑誌、ウェブサイト、テレビ局は、ロシアの兵士たち、つまり彼らの兄弟や息子、夫がなぜ戦争に送り出され、遠くの地で命を落とすリスクを負うのか、その理由を正当化する内容を繰り返し放送しました。
レニングラード包囲戦の生存者の逮捕
クライナ侵攻に対する抗議の波がロシア国内でも広がっている中、一人の高齢の女性が注目を浴びています。エレナ・オシポワさんは、サンクトペテルブルクの街中で、自らの手書きのポスターを掲げて反戦を訴える姿で多くの市民の共感を呼び起こしました。
彼女の背景には、第二次世界大戦中の「レニングラード包囲戦」という壮絶な歴史があります。この戦闘では、ナチス・ドイツの軍によってレニングラード(現サンクトペテルブルク)が900日間近くも包囲され、多くの市民が餓死するなどの悲劇が起きました。オシポワさんは、その恐ろしい戦争の中で生き抜いた一人として、再び戦争の狭間に国が巻き込まれることを強く訴えていました。
彼女の抗議活動は英国のガーディアン紙など、多くの海外メディアでも取り上げられており、ロシア国内外で彼女の行動が称賛されています。
しかしその一方で、ロシアの警察当局は彼女を連行し、現場からの立ち退きを命じるなど、反戦の声を封じ込めようとする動きも見られる。彼女の行動は、ロシア国内における反戦の声と、その声を鎮圧する政府の動きとの間で、現在の緊張状況を象徴する出来事となりました。
児童までが取り締まりの対象「ロシアの反戦抗議」
ロシアのウクライナ侵攻が進む中、反戦の声を上げる市民への取り締まりは厳しさを増しています。そして、その対象が子供たちにまで及ぶ事態が発生したことで、国際的な非難の声が高まりました。
3月1日、ウクライナ侵攻から6日目の出来事でした。エカテリーナ・ザビシオンさんとオルガ・アルターさんは、5人の子供たちと共にウクライナ大使館へ献花をするために出かけていました。しかし、彼女たちが手にしていた反戦のプラカードがモスクワ警察の目を引き、母親たちと共に子供たちまでが拘束され、警察署に連行されました。
この事件は、アルキポワさんがフェイスブックに投稿した動画を通じて広く知られることとなりました。動画には、警察署の檻の中で泣きながら女性たちに助けを求める子供たちの姿が映し出されている。彼らの無邪気な姿と、逮捕の事実は多くの人々の心を打ち、ロシア政府の取り締まりの厳しさを改めて浮き彫りにしました。
This is the kind of “Russian world” the occupiers want to bring to #Ukraine. pic.twitter.com/ibEqvJ393T
— NEXTA (@nexta_tv) March 2, 2022
児童が護送車に押し込められ連行
侵攻が始まってから一週間が経過した3月2日、ロシアの反戦活動家たちは、50都市で約7,000人が逮捕または拘束されたことを発表しました。
この中で特に物議を醸したのが、小学生とみられる3人の児童が護送車に連行された様子を写した写真です。この写真がインターネット上に広がり、多くの人々の間で大きな非難の的になりました。
この写真をSNSに投稿したロシア野党の政治家、イリヤ・ヤシンによると、3人の児童はうつろな表情をしており、特に2人の女の子は明らかに驚きや恐怖を感じているようでした。児童たちの手には、クレヨンで書かれた「нет войны(戦争はノー)」という文字が描かれたプラカードが握られており、その横には花の絵が添えられていました。
これらの児童たちは、ウクライナ大使館に花を捧げるために出かけていた最中に、警察に捉えられてしまったのです。児童らが連行された護送車の頑丈な鉄格子の中に座らされている姿は、多くの人々に強烈なショックを与え、ロシア政府の対応に対する批判を強める要因となりました。
反戦ステッカーを製作し配布するも拘束される
ロシアの若き活動家アレクサンドル・テプリャコフは独自の方法で反戦の声を上げました。
テプリャコフは政府の厳しい取り締まりによる逮捕の恐れがある中で、ウクライナ戦争に反対するメッセージを伝えたいと考えていました。そのため、ロシアとウクライナ双方の国旗を取り入れた反戦ステッカーを制作し、モスクワ市内でこれを積極的に配布、貼り付ける活動を始めました
しかし、この平和的な活動すら警察の目に留まり、3月1日にはプレスネンスキー地区警察署に連行されてしまいました。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が入手した警察の記録には、警察官の一人による頭部への暴行や、別の警察官による脅迫が記録されていました。これにより、テプリャコフは重大な人権侵害を受けた可能性が指摘されています。
ロシア語署名サイトでウクライナ戦争反対署名が100万人を突破
3月1日、ロシア語のオンラインでの署名サイトで、ウクライナでの戦争に反対する署名活動が行われており、100万人以上の人々が署名しているとCNNが報じました。
この署名活動は、ロシア国民だけでなく、ロシア語を話す地域の市民や、世界中のロシア語話者からの広範な支持を受けていることを示しており。この数字は、ロシア国内での反戦の意識の高まりを示す強力な指標になりました。
ロシア議会が情報統制を強化し反戦活動家への圧迫を加速
3月4日、ロシア議会は「軍の虚偽情報を広める活動を行った個人に最大15年の懲役を科す」という法案を可決。これにより、ロシア国内での反戦情報の拡散が厳しく制限されることになりました。この新たな法律は、ウクライナ侵攻を始めたロシア政府の情報統制の強化を意味しており、反戦運動を行う市民やジャーナリストへの圧迫が強まることが懸念されました。
この法案の背景には、ロシア政府の国内の声を統一する試みが見受けられます。市民たちや独立したメディアはこの法案を「思想弾圧」と非難。言論の自由や報道の自由が侵害されているという声も上がりました。
様々な方法で反戦のメッセージをあげるロシアの人々
この法律によって、多くの市民や活動家はオープンな反戦運動から手を引くケースが増加した一方で、市民たちは新たな方法で戦争反対の声をあげる手法を模索し始めました。
SNS上では暗号化されたメッセージを用いたり、アートや音楽を通じてメッセージを伝える方法も編み出されました。また、遠回しな表現や比喩を使用して情報を拡散するなど、さまざまな方法でが試みられています。
「二つの単語」という単語を掲げだけで拘束されるロシアの現状
SNSを通じて、ロシアの厳しい情報統制と警察の強硬な取り締まりの現実が浮き彫りとなっています。特に、注目されれたのが「2つの単語」だけを掲げたプラカードを持った活動家が、わずか数秒の間に警察に拘束される様子を捉えた動画です。
動画に映し出された活動家は、単純なメッセージのプラカードを持ちながらカメラに向かって「これで逮捕されるでしょうか?」と尋ねます。しかし、その問いかけが終わると同時に、警察によって身柄を拘束されていました。
この一連の出来事は、ロシア政府が反戦や反政府のメッセージをどれだけ厳しく取り締まっているかを示す象徴的な瞬間として、多くの人々の間でショックをもって受け止められました。
さらに驚くべきことに、この動画の後半部分では、侵攻に反対しない立場の別の人物が、その背景や理由をカメラに語りかける様子も収められています。しかし、この人物もメッセージを完全に伝えることなく、警察によって連れ去られてしまいました。
この動画はSNSを通じて瞬く間に拡散され、ロシア国内外で大きな反響を呼び、言論の自由がこれほどまでに制限されているロシアの現状に憂慮しました。
白紙だけで警察に拘束される男性
シベリアの首都ノボシビルスクでは、さらに驚き出来事が起きました。男性が何も書かれていない白紙のプラカードを路上で掲げていただけで、警察官によって拘束・連行されてしまったのです。
具体的には、この男性が白紙を掲げている最中、警察官が近づいてきて「何をしてるんだ」と尋ねました。男性は冷静に「白い紙を見せてるだけですよ」と返答。しかし警察官は彼の行為を違法と判断し、「違法行為を直ちにやめることを要求する」と警告を出しました。
男性は勇敢にも「いえ、私は継続します」と答えた。その瞬間、警察官たちは彼の両脇を抱え、その場から連れ去ってしまいました。
この出来事は、特定のメッセージやスローガンが書かれていない白紙を掲げるだけで、警察に拘束されるロシアの厳しい情報統制や言論の自由の制約を示す象徴的な例として、多くの人々に知られるようになりました。
Суд в Ростове-на-Дону арестовал активистку Анастасию Николаеву на восемь суток. В суде ее интересы защищал адвокат Сергей Ковалевич, сотрудничающий с ОВД-Инфо.
— ОВД-Инфо (@OvdInfo) February 25, 2022
Николаеву признали виновной по статье о неповиновении полицейскому из-за одиночного пикета с пустым листом. pic.twitter.com/PpAYZPH04Q
Police in Nizhny Novgorod arrested a demonstrator today for protesting with a blank sign. Welcome to Russia in 2022. pic.twitter.com/YprwDqex8V
— Kevin Rothrock (@KevinRothrock) March 12, 2022
「緑のリボン」静かなる抗議の新しいシンボル
ロシアの厳格な言論統制の下で、市民たちは自らの声を上げる方法を模索しています。当初の白紙のカードによる無言の抗議は、警察による拘束のリスクが増えてきたため、代わりの方法が求められていました。そこで登場したのが、緑のリボンです。
緑のリボンの背後にある意味
- ウクライナ国旗の色の混合:ウクライナの国旗の青と黄色を混ぜると緑になります。緑は平和と自然を象徴し、この緑のリボンはロシア市民がウクライナの人々と連帯していることを示しています。
- ゼレンスキー大統領への敬意:ウクライナの現大統領、ゼレンスキーの名前には「緑」を意味する部分が含まれており、緑のリボンは彼への敬意や支持を示すものとしても解釈されています。
街中の柵や手すりに緑のリボンを結ぶ行為は、単純ながら非常に効果的な抗議方法です。これにより、多くの人々が自らの意思を示すことができるようになりました。リボンを結びつけることで、それを見た人々に対しても反戦や平和を求めるメッセージが伝わることでしょう。
さらに、リボンを結びつけた後、すぐにその場を離れることで、警察や当局による拘束のリスクを避けることができます。これにより、多くの市民が安全に抗議活動を続けることができるようになったのです。
このような緑のリボンの抗議は、言論の自由が制約されている中でも、革命的な思考と独自の手法で人々の声を上げる方法がいつも存在することを示しています。
「静かなデモ」ロシアの繊細な抗議の声
多くのロシア市民が選択しているのが“静かなデモ”です。壁や紙幣、小銭に「戦争反対」や「平和を」といったメッセージの落書きをすることで、彼らは非暴力的で繊細な方法での抗議を選び、自らの声を上げています。
この手法は、取り締まりを避けつつも、日常の中で他の市民と連帯を感じ、共感を得ることができるため、非常に効果的であると言われています。また、紙幣や小銭といったものは日常的に人々の手に渡るため、このようなメッセージが広がりやすいという利点もあります。
この”静かなデモ”は、ロシアの市民が現政府の方針や行動に対して持つ不満や懸念を、静かでありながらも力強く伝える方法として、多くの支持を得ていることを示しています。
一部のロシア人の間で、反戦スローガンを書いたルーブル紙幣を流通させる行為が密かに行われているとか。 pic.twitter.com/32FenUGhlS
— イッヌ (@Seelowe200214) April 14, 2022
ルーブル紙幣に反戦メッセージを書くことは今までも見かけたけど、こんなに巧みになってきた「金はすべて戦争に使われている」 pic.twitter.com/O7pgo19ZMg
— SatokoTakayanagi (@SatokoTakayanag) April 21, 2022
ナワリヌイ、ウクライナ侵攻への抗議を呼びかけ
3月2日、服役中のロシア反体制派のリーダー、アレクセイ・ナワリヌイがインスタグラムにて、ロシア国民に対しウクライナ侵攻への抗議活動を行うよう呼びかける声明を発表しました。
ナワリヌイは、ロシア国民に、平日は毎日19時、週末や祭日には14時に各都市の中心にある広場に集まるよう求めました。このメッセージは力強く、国民に沈黙や恐怖を捨て、立ち上がるよう促していますナワリヌイ。彼はロシアの現政権を批判し、ロシアのリーダーであるプーチンを「明らかに正気を失ったわれわれの皇帝」と表現しました。
ナワリヌイは、「怖がって沈黙する人々の国にだけはならないようにしよう」という強い決意を示し、「ウクライナへの侵略戦争に、気付かぬふりをする臆病者にならないように」とのメッセージを送りました。また、国民にむけて「平和のために闘おう」と呼びかけ、国民の結束を促しました。
3月6日のロシア全土でのデモと拘束
3月6日、日曜日にロシアの多くの都市でウクライナ侵攻に対する抗議デモが行われました。ロシアの人権団体の集計によれば、49都市でのデモに参加した2,582人が拘束されたとされています。しかし、タス通信によると、拘束された人数は3,500人以上とされており、実際の数はもっと多いかもしれません。
大規模な反体制運動や政権打倒のムーブメントが強力に展開されているわけではありませんが、市民の不満や抗議の声は確実に高まっています。特に、ウラジーミル・プーチン大統領の出身地であり、ロシアの第二の都市であるサンクトペテルブルクでも、多くのデモ参加者が拘束されたことが報じられたことがその証拠です。
また、SNS上では、治安当局がデモ参加者を手荒な手法で拘束する動画が数多く投稿され続けています。
ナワリヌイの呼びかけと3月13日の反戦デモ
「ロシア人が戦争に反対することが、最も早く常軌を逸したプーチン大統領を止める方法だ。3月13日の午後、あなたの住む町の中央広場に出向き、声を上げよう」
ナワリヌイは、SNSを通じてロシア国民に戦争に反対するデモを13日に行うよう呼びかけました。
この強烈なメッセージに触発され、実際に3月13日にはロシアの各地で反戦デモが実施されました。これらのデモは、ロシアのウクライナ侵攻に対する国内の不満と反対の声を示すものであり、国内外の注目を集めている。
ロシア国内での抗議活動はハイリスクであり、多くの活動家やデモ参加者が拘束されていますが、それにもかかわらず、ナワリヌイの呼びかけに応じて声を上げる市民の数は増え続けました。これは、戦争に対する国民の深刻な懸念と、民主主義と自由を求める願いを示すものと言えます。
抗議デモの参加者を次々と拘束
3月13日の反戦デモとロシア当局の取り締まり
3月13日、多くのロシア市民が反戦の意思を示すために街頭に繰り出しましたが、ロシア当局はこれに厳しく対応。特にモスクワをはじめとする37都市で、合計で850人以上のデモ参加者が治安当局に拘束されました。
中でも、赤いマフラーを巻いた女性が立ち去ろうとした際、警察官に拘束される場面が目撃されました。彼女は抵抗しながら「ほっといて!」と叫びましたが、治安当局に連行されました。
この日のデモには、以前よりもさらに巧妙な方法で抗議の意思を示す市民が目立ちました。多くのデモ参加者が、「戦争反対」と直接書かれたプラカードを持つのを避け、代わりに緑色のリボンを着用するなどして、さりげなく抗議の意志を示しました。しかし、これらの参加者も治安当局の目に触れると、拘束される場面が相次ぎました。
ただし、3月6日に実施された前回のデモと比較すると、今回のデモは都市数が約半分に減少しており、治安当局の強力な取り締まりが、多くの市民の参加を抑える結果となった可能性が考えらました。
ロシアの反戦デモと厳しい取り締まり
ロシアの反戦デモは、政府による厳しい取り締まりの影響を受けて、徐々に規模が縮小していきました。これは新たな法律が導入されたことで、軍の信頼を傷つけるような行為が刑事罰の対象とされ、多くの市民が「自主規制」を余儀なくされたからです。
この新たな法律によって最初に有罪判決を受けたのが、ベラ・コトワという女性でした。彼女は3月11日、クラスノヤルスクでレーニンの銅像の足元の雪に「戦争反対」とハートマークとともに書き込んみました。なんと、これが罪とされ、8時間の拘束の後、3万ルーブルの罰金刑を受けてしました。
この事件以降、彼女だけではなく多くの市民がこのような表現に対する取り締まりを恐れ、抗議活動を控えるようになっていきました。多くの市民が自分や家族の生計や、雇用が脅かされるのではないかという危機を感じ始めたのです。
3月13日こそ、ナワリヌイの呼びかけで大規模な反戦デモが開催されましたが、その後、公の場での反戦の声はほぼ消え去ってしまいました。ロシアの人権団体の報告によれば、ウクライナへの侵攻が開始されてから3月31日までに、1万5000人以上の市民が治安当局に拘束されたことが確認されています。
このような状況は、ロシア政府が国内の反戦の声を封じ込めるための取り組みの一環として、強硬な措置を取っていることを示しており、ロシア国内で表現の自由が大きく制限されていることを浮き彫りにしました。
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