2022年、北京がオリンピックとパラリンピックのスポーツの祭典を主催する中、世界は平和の息吹を期待していました。古来、オリンピックは戦闘の中断と和解のシンボルとされてきました。
しかし、この伝統が突如として破られる出来事が発生しました。習近平主席が中国の威信をかけて開催する大会期間中、ロシア軍が予期せず一方的に侵攻を開始。この行動は国際的な驚きと非難を呼び起こし、中ロの友好関係に深刻な影を落とすことになりました。
【ウクライナ危機(45)】原子力発電所を標的にした軍事作戦…世界を戦慄させた出来事
China’s place in the Russia-Ukraine war
五輪の平和を乱す宣戦布告
2022年2月2日から2月20日までの19日間、世界の目は第24回冬季オリンピック北京大会に注がれていました。
この期間中、スポーツの力で結ばれた国際的な友情と連帯の姿が多くの人々に示されました。しかしその平和の背後で、国際的な政治的緊張が高まっていました。
オリンピックの閉幕の翌日の2月21日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部における親ロシア派武装集団が一方的に宣言しているドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を独立国家として公式に承認するという大統領令に署名しました。
この決定は、国際的な議論と緊張をさらに引き起こしました。
そして、さらなる驚きをもって受け止められたのが、2022年2月24日の出来事でした。ロシアは、ウクライナへ公然と侵攻を開始しました。
この侵攻は、北京冬季オリンピック・パラリンピック中に国連で採択された休戦決議の期間中に行われ、多くの国際的な協定や合意を無視するものとして広く非難されました。
ウクライナ侵攻の舞台裏…中国と北朝鮮の影響
ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻の決断は、多くの国際的な分析家や専門家を驚かせました。しかし、その背後には、アジアの大国、中国と北朝鮮の動きも重要なポイントとして浮上してきました。
ロシアの軍事侵攻から約2ヶ月前の2021年12月3日、米国の著名な新聞、ワシントン・ポストは、ロシアがウクライナ国境に約17万人の兵力を集結させ、2022年1月から2月にかけてのウクライナ侵攻を計画している可能性があると報道してました。
一方、アジアの動向も注視されていました。ブルームバーグ通信が報じたところによると、中国の習近平国家主席は、五輪期間中のウクライナ侵攻をプーチン大統領に対して要請しており、その期間中は静観する姿勢を見せていました。このことから、中国とロシアの間には深い戦略的連携が存在するのではないかとの憶測が飛び交っています。
更に問題になったのが北朝鮮でした。もし中国と北朝鮮が連動しロシアの侵攻とともに動き出すなら、台湾、沖縄県・尖閣諸島、朝鮮半島が戦場になる可能性があったからです。これらの地域が“火の海”と化す最悪のシナリオを防ぐためには、国際的な連携と対話が不可欠とされていました。
“事実無根?ウクライナ侵攻計画に対する公式反論
ロシアと中国は公式発表で、ウクライナ侵攻の報道は事実無根であるとの立場を強く示しました。
ワシントン・ポストが報道したウクライナ侵攻計画について、ロシア外務省のザハロワ報道官は、「米情報機関がばらまいた偽情報」と強く反論。その計画そのものが存在しないとの立場を明確にしました。
同様に、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官もこの報道を否定し、「このような情報は空虚で根拠のないもの。ロシアは誰にも脅威を与えていない」と明言。しかし、ペスコフは、ロシアの行動を正当化するための挑発行為が起こる可能性については明確に否定しませんでした。
中国側も同様にこの報道を否定しており、外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は、「中ロの相互信頼に挑戦する試みは徒労に終わる」とコメント。こは、中国とロシアとの関係の強固さを再度強調するものでした。
“国際舞台での疑念…ロシアの五輪と侵攻の歴史
しかし、プーチン政権下のロシアでは、オリンピック開催期に2度の軍事進攻が行われていたため、国際社会の疑念を払拭することはできませんでした。
2008年夏、北京五輪の開幕日、ロシア軍はジョージアとの間で戦闘を開始しました、多くの国際的な目が北京に集まっている中、突如として勃発したジョージア戦争は、世界中を驚かせました。この戦闘は、ロシアが南オセチアとアブハジアのジョージアからの独立を支持している背景がありました。
さらに、2014年3月、ソチ五輪の閉幕直後にロシア軍はクリミア半島に侵攻しました。この行動により、短期間のうちにクリミアは事実上ロシアの支配下に入りました。この時も国際社会の緊張が高まりましたが、ロシアは自国の利益や安全保障を優先し、国際的な非難を気に求めませんでした。
そのため、プーチンも出席する北京の国家体育場(通称:鳥の巣)での五輪開幕式の日、つまり2022年2月4日に、ロシア軍がウクライナに向けて侵攻を開始するのではないか?とまことしやかに噂されていました。
プーチン政権の戦略に関する専門家の見解
ロシアの政治情報センターのアレクセイ・ムーヒン所長の指摘によれば、「今のウクライナ情勢を見れば、誰もが08年と14年を思い出す」という現状評価がなされている。さらに、政治評論家のドミトリー・オレシキンもプーチン氏に関する鋭い観察をしており、「プーチン氏は五輪の意義など気にしない」と述べ、オリンピック期間中やその直後の軍事的行動の可能性を主張していました。
「オリンピック休戦」は守られるのか?
2022年の北京オリンピックは、そのような背景の中で開催されることとなったのです。世界各国はオリンピックの理念として「世界平和」を重視しており、もし期間中にロシアが軍事行動を起こすようなら国際的な非難を招く可能性は必至でした。
そのため、ロシアは「オリンピック休戦」という形を重視し、もしロシアがウクライナ侵攻を行うとすれば、北京オリンピック終了後との予測が主流となっていました。
国威の象徴!習近平の北京五輪戦略!!
中国は古来から「面子」を非常に重視する国として知られています。習近平指導部の下、中国は世界のステージでの存在感を一層高めるべく、北京五輪に多額の投資を行いました。このオリンピックは、中国が超大国としての地位を国際社会にアピールする絶好の機会となっていました。
このような背景の中で、もしロシアが北京五輪の期間中にウクライナに侵攻すれば、これは中国にとって大きな面子を失うことになるのは確実でした。
オリンピック、特に「平和の祭典」と称されるこのイベント中に隣国が軍事行動を起こすことは、中国が世界に向けて発信しようとしていたメッセージとは大きく異なるものだったのです。
もし、この期間にロシアがウクライナ侵攻を行った場合、中ロの友好関係は大きな影響を受ける可能性があります。
また、中国が長年築き上げてきた外交戦略さえも揺るがしかねないものになります。中国は独自の外交戦略を維持するため、様々な国々との均衡をとってきました。ウクライナ侵攻は、そのバランスは崩す可能性があったのです。
事実、中国外務省はウクライナ情勢に関して「話し合いによる解決」を求めていました。これは、軍事的行動をとらないよう、あるいはそのような行動を制約するようなメッセージとも受け取れます。
もしロシアがこのような中国の立場を無視して行動を起こすなら、中ロ関係はこれまで通りとはいかないものになると予測されていたのです。
「中国とウクライナ」複雑な外交の舞台裏
中国はウクライナとの関係において、ロシアとは異なるスタンスを取っていました。この数年の間に、中国とウクライナの関係は目覚ましく進展してしていました。
ウクライナは、中国の大規模な経済プロジェクトである「一帯一路」を強く支持しており、両国の協力の象徴として位置づけられています。さらに、ウクライナは中国に対して兵器の輸出も行っており、2019年にはウクライナの最大の貿易相手国としてロシアを追い越していました。
新型コロナによるパンデミックの中でも、ウクライナは中国製のワクチンを受け入れることで、その連携の強さを示しました。
そして、2022年1月5日には国交樹立30周年を迎え、両首脳はこの特別な日を祝って電報を交換。ゼレンスキー大統領は、ウクライナと中国の関係が今後も進展することに強い期待感を示しており、習近平主席もその意志を明確にしている。
このように、ウクライナの政策の中での中国との関係の深化は、親欧米的な政権になっても続いています。このため、ロシアが2014年にクリミアを併合した際には、中国はこのロシアの動きを承認しない立場を取っていました。
ドーピング問題とロシア代表の五輪不参加
2022年の北京五輪の開幕前、ロシアのドーピング問題が、スポーツ界の大きな論点の一つとなっていました。
2014年のソチ冬季オリンピック後、独立した調査により、ロシアが組織的なドーピングを行っていたことが明らかとなりました。この結果、国際オリンピック委員会(IOC)をはじめ、多くのスポーツ団体がロシアに対して制裁を科しました。
その中でもIOCの制裁は特に厳しく、ロシアの国旗や国歌の使用、そして公式名称の使用が禁止されました。しかし、その一方で、IOCは無実の選手たちの権利を守るため、ドーピングに関与していないことが証明された選手たちが「ROC」として、個人資格で大会に参加することを許可しました。
これにより、多くのロシアのアスリートたちは、国の名の下ではなく、「ROC」としてオリンピックに参加することになりました。この措置は、罰としての側面と、無実の選手たちの権利を尊重するという側面の両方を持っています。
プーチン大統領は多額の報奨金を用意し、ロシアのアスリートたちへのサポートを強調、国の代表としての誇りとメダルを求める強い意志を示していました。
外交ボイコットと北京冬季オリンピック
北京冬季オリンピックへの対応は、国際的な政治の舞台でも大きな焦点となりました。
西側諸国の中には、中国における人権問題、特にウイグル族弾圧を理由に、政府要人の派遣を控えるという外交ボイコットの動きが見られました。
一方、中国側は外交ボイコットの動きに強く反発。国営の新華社通信は外交ボイコットを「2022年最大の国際的な笑い話」と指摘し、中国の立場を鮮明にしました。
北京冬季オリンピックと外国要人の参加
オリンピックは、古代から現代にかけて、スポーツを通じての国際的な友好と理解の強化を目的として開催されています。このため、政治とスポーツの境界線を明確にし、その両者を分離する必要があるとの立場を多くの国々がとってきました。
そのため、2022年北京冬季オリンピックでも、外交ボイコットの呼びかけにもかかわらず、多くの国々がその伝統を守り、開会式に国家元首や政府首脳を派遣することを決定しました。
中国外務省によると、30人以上の高官、国家元首、政府首脳、王室、国際機関のトップが出席を予定していました。この中で特に目立ったのは、組織的なドーピング問題で制裁を受けていたロシアのプーチン大統領の参加でした。
プーチンの北京訪問は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)の制裁を受けていたにも関わらず、特例措置として実現しました。CASの制裁によれば、政府関係者や国会議員などのオリンピック開催地への入国は禁じられていましたが、開催国からの正式な招待があれば例外として訪問が可能でした。
この度、中国の習近平国家主席は、中露関係のさらなる強化を目指して、プーチン大統領を招待。この招待を受けてプーチン大統領は北京を訪れ、開会式に参加することになりました。これは、2012年ロンドンオリンピック以降、外国のオリンピック開催地への高官の訪問としては初めてのことであり、その意義は深いものがあります。
プーチン大統領の中国訪問の時系列
訪中直前、プーチン大統領は、ロシアと中国との外交の調和の重要性を強調し、その基盤として両国の外交政策の合致を挙げていました。
プーチンは「世界および地域の問題解決に向けた密接かつ一致した立場が基礎になる」との認識を示しました。
さらに、現在の複雑な国際情勢を背景に、ロシアと中国が国際的な安定化の役割を果たすとともに、国際関係の民主化を推進し、公平で包摂的な関係を構築する意欲を明らかにしました。このコメントは、特にウクライナを巡る緊張を考慮に入れると、その重要性が増してきます。
中ロ首脳が実際に対面で会談するのは約2年ぶり。その中での特筆すべき点は、新疆ウイグル自治区の人権問題に対する欧米のスタンスでした。
外交ボイコットによって、欧米諸国の首脳の多くが参加を見送る中、プーチン大統領は開会式に出席することを選択しました。そして、プーチンはスポーツを政治的な目的のために利用する動きに対して、批判的な立場を採りました。
プーチンは、「一部の国家が自国の利益のためにスポーツを政治問題化する試みが強まっている」と指摘し、近年の国際的なスポーツイベントにおける政治的な動きを明確に批判しています。さらに、五輪憲章の精神や原則に反しているとの考えを強調しました。
「国際的な訪問の幕開け」プーチン大統領、北京への到着
2月4日午後2時11分、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が北京首都国際空港に到着しました。約5833kmの距離を離れたモスクワからの到着となります。プーチン大統領は空港から直接、市内西部に位置する釣魚台国賓館に移動しました。
プーチン大統領と習近平主席の北京会談
2月4日午後3時10分、北京の釣魚台国賓館芳華苑で、ロシアのウラジーミル・プーチン氏と中国の習近平国家主席が笑顔で対面しました。プーチン氏は北京到着後、直ちに国賓館を訪れ、待機していた習氏との会談を開始しました。
この会談は、新型コロナの影響で中止されていた首脳外交の再開として、両国間の深い関係を再確認する場となりました。習氏は、約2年間の対面を控えた後の再開相手として、38回目となるプーチンを選びました。
プーチンは「ロシアと中国は最も重要な戦略パートナーであり、志を同じくする友人だ」と強調。この言葉に、習氏は頷きました。
さらに、プーチンは「中国との協力を一層緊密にし、主権と領土保全を守ることを互いに支持したい」との意向を示しました。これに対して習近平も「中国とロシアは志を変えず、背中合わせの戦略協力を深めていく」との立場を明確にしました。
首脳の親交!プーチンと習近平の夕食と開会式
会談の終了後、習近平国家主席プーチンは一緒に早めの夕食をとりました。その後、二人は北京五輪の開会式が盛大に開かれる国家体育場「鳥の巣」へと向かいました。
「鳥の巣」は、2008年の北京オリンピック開会式でも使用された象徴的なスタジアムであり、この日も多くの国々からの首脳や代表が集まっていました。
ウクライナ選手団入場とプーチン大統領の態度
2月4日、北京オリンピックの開会式が氷点下の寒さの中、国家体育場で開催されました。開会式の間には、数々の重要な出来事や発言があったが、中でも注目を集めたのは、IOC会長、トーマス・バッハのスピーチと、いくつかの国の選手団の入場時の様子でした。
バッハはスピーチの中で、「この壊れやすい世界では分断や紛争が増大している。ライバルとも平和的に生き、尊敬し合えることを世界に示そう」と訴え、オリンピックの理念に基づいた平和と団結のメッセージを強調しました。
組織的ドーピング問題を背景に、東京五輪に続き、ロシア・オリンピック委員会(ROC)の名のもとに参加しているロシアの選手団の入場時には、ウラジーミル・プーチン大統領が彼らを温かく迎え入れ、場内からは大きな歓声が聞こえました。
一方、現在ロシアとの緊張が続くウクライナの選手団の入場時には、彼らは勇敢な態度でスタジアムを歩き、多くの観客やネットユーザーから「勇姿」として称賛されました。
しかし、欧米のメディアはプーチン大統領の態度に焦点を当てました。彼はウクライナ選手団の入場時に目を閉じ、体の前で手を合わせていました。この様子が「寝たふり」ではないかとの声や、からかいの意味合いで取り上げられるなど、様々な反応が寄せられました。
北京オリンピック開会式の感動と興奮”
2時間20分にわたった開会式が終わり、日付が変わった2月5日未明、北京の国家体育場の明かりが徐々に消えていきました。オリンピックの開会式に集まった観客たちが、感動と興奮の中でスタジアムを後にしていた。露出した息は寒空の中で白い煙のように見え、冷え切った空気がそれぞれの感情を静かに包み込んでいました。
都心のホテルやバー、レストランでは、開会式のハイライトや驚きの演出、アスリートたちの入場など、多くの人がその話題で盛り上がり、テレビやSNSでも、オリンピックの開会式に関するコメントや感想が次々と流れていました。
開会式に参加した各国の首脳や選手たちは、ホテルや選手村へと戻り、次の日の競技に備えていました。彼らの心には、五輪の神聖な舞台での競技と、それを取り巻く政治的な緊張が入り混じっていたでしょう。
中露の共同声明「国際的な友好と共通の立場」
北京オリンピックの開会式を前に、スポーツを通じた国際的な友好や団結の期待が高まっていた中、国営新華社通信社が突如として5000字を超える中露の共同声明を発表、多くの専門家や国際的な観察者を驚かせました。以下は、その主要なポイントと背景です。
- 外部勢力による干渉の拒絶
両国は、外部勢力が自国の安全や安定を脅かすこと、特に主権を尊重しない形での内政干渉に強く反対する立場を明確にしています。これは、特定の国や連合に向けられたメッセージであり、具体的な事例や緊張を背景にしたものと解釈されます。 - NATOの拡張に対する反対
両国は、NATOの拡張に対して反対の立場を鮮明にしています。これは、特にロシアが感じている安全保障上の懸念を反映していると考えられ、この懸念はウクライナや他の旧ソ連諸国との関係にも影響を及ぼしています。 - 冷戦時代のイデオロギー放棄の呼びかけ
この部分は、冷戦後の国際的な対立構造やイデオロギー対立を超えて、新しい国際的な協力関係を築こうというメッセージとも取れます。しかし、その背後には、米国や西側諸国との関係の中での緊張を緩和させる意向もあると考えられます。 - 中国のNATO拡大反対の支持
中国がロシアのNATO拡大反対の立場を明確に支持したことは、両国の連携を強化する意味合いが強い。これは、米国や西側諸国との関係における戦略的な位置付けや対抗策としての意味も持っています。
この声明を通じて、中国とロシアは、共通の利益や懸念を共有していることを世界に示すと同時に、自国の立場や意向を明確にすることで、国際的な議論や交渉における自らの立場を強化しようとしていると言えるでしょう。
スポーツで訴える平和!ウクライナ選手の感動的な瞬間
ロシアとウクライナの政治的緊張が高まる中、北京五輪スケルトン競技で、ウクライナの状況に対する深い関心と関与を示す特別な瞬間がありました。
その中心にいたのは、ウクライナのウラジスラフ・ヘラスケビッチ選手。彼は競技中に、自国の状況を世界に知らせるための大胆なステートメントを行いました。
2月11日夜、ヘラスケビッチ選手は3回目の滑走を終えた後、ウクライナの国旗の色を模した紙に「NO WAR IN UKRAINE=ウクライナに戦争はいらない」と書かれたメッセージを掲示し、それをテレビカメラに向けました。この行動は、ウクライナの状況と、ロシアの軍事的圧力が高まる中での彼の強い立場を示していました。
そして、最終的に4回目の滑走で素晴らしいパフォーマンスを見せ、1分1秒45のタイムを記録。総合18位で競技を終えると、その後のインタビューで彼の動機と考えについて深く語りました。
ヘラスケビッチ選手は、「ウクライナの現状や軍事的な問題に関する報道が多いが、このような状況は21世紀にはあり得ない」と強調しました。また、「私は戦争を嫌っており、自国と世界の平和を望んでいる。だから、この大会で自分の意見を示すことを決めた」と述べ、その熱意と決意を明らかにしました。
ウクライナ選手の行動に対するIOCの反応
ウクライナのウラジスラフ・ヘラスケビッチ選手が掲げた「NO WAR IN UKRAINE」のメッセージに関して、国際オリンピック委員会(IOC)が反応を示しました。
IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長は、ヘラスケビッチ選手の行動に理解を示し、「“NO WAR”は多くの人が共感できるメッセージであり、戦争で苦しむ人々にとって特に重要である」と述べました。さらに、五輪の平和の精神に触れ、「アスリート同士が選手村で手を取り合い、相互の尊重を持って接することは、五輪の和平のシンボルである」との考えを示しました。
しかしながら、IOCのマーク・アダムス広報部長は、競技や表彰式が政治的ステートメントの場であるべきではないとの立場を強調しました。IOCは五輪憲章第50条に基づき、競技会場や表彰式での政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁止しています。その背景には、五輪の中立性を維持するという基本的な原則があります。
一方で、前回の東京五輪では、特定の国や個人を標的にしない限り、選手入場や紹介時に行われる表現行為を一部許容するガイドラインの変更が行われました。この点に関して、アダムス広報部長は、「五輪から政治的要素を排除することが我々の基本的な方針であり続ける」との立場を再確認しました。
国境を越えた絆!ウクライナとROC選手の感動的な瞬間
フリースタイルスキー男子エアリアル決勝では、ウクライナのオレクサンドル・アブラメンコ選手とROC(ロシアオリンピック委員会)のイリア・ブロフ選手がそれぞれ2位と3位に入賞しました。この両選手の間には、競技を超えた深い絆と尊敬が感じられる瞬間が訪れました。
アブラメンコ選手がウクライナ国旗を持って喜びを表現していると、ブロフ選手が背後から近寄り、温かいハグを交わしました。その後、両選手は手を固く握り合い、笑顔でお互いの健闘を称え合いました。
ロシアのスポーツ解説者、ゲオルギ・シェルダンツェフはこの光景に驚き、「2022年2月16日にこのようなことが起きるのは驚き。ロシアとウクライナが一緒にいる」とコメント。さらに、ロシアの主要スポーツメディアでも、この心温まる瞬間の写真や記事が取り上げられ、大きな話題となりました。
実は、4年前の平昌五輪でも、アブラメンコ選手とブロフ選手は共に表彰台に立っており、その時もウクライナの国旗を持つアブラメンコ選手が、ブロフ選手を包み込むようにしてハグを交わしていました。
ウクライナとロシアの選手たちの距離
一方では、ウクライナとロシアの選手同士の交流が極端に少ないことが注目されました。背景には、ウクライナ体育当局が五輪に派遣される選手や関係者に対して、「ロシアの選手やコーチとの交流を避けるよう勧告していた」事実があると報じられています。
この勧告の影響か、大会序盤のフィギュア団体戦ではウクライナの選手がロシアの選手たちと出会った際に、あえて顔を背けて通り過ぎるような場面が確認されました。この姿勢に、ロシアの政治家らからは不快感が示され、「スポーツに政治を持ち込むべきではない」との声が上がりました。
オリンピックは、さまざまな国の選手が一堂に会し、競技を通じて友情や相互理解を深める場としての側面も持っています。今回のような政治的背景がスポーツの場に影響を及ぼすことは、多くの人々から残念に思われることでしょう。
「北京五輪の感動瞬間」ウクライナ選手団の閉会式参加
2022年2月20日、北京冬季がオリンピックが終了しました。この大会は、世界がロシアによるウクライナ侵攻の可能性を警戒する中での開催となりましたが、ウクライナの選手たちは最後までその活躍と存在感を示し続けました。
閉会式の夜、国家体育場(鳥の巣)でのセレモニーにはウクライナ選手団も参加。旗手として選ばれたのは、バイアスロン女子リレーに出場したオレーナ・ビロシュク選手でした。
ビロシュク選手はベージュと青の防寒ウェアを身にまとい、元気にウクライナの国旗を振りながら入場しました。他のウクライナ選手たちも、リラックスした笑顔を見せながら次々とスタジアムに入場しました。
北京五輪でのウクライナの総獲得メダルは1つ。46名の選手たちが参加し、その中で様々な競技で戦いました。ロシアとの緊張関係が背景にある中での出場となりましたが、選手たちはスポーツマンシップを大切に、最後まで精一杯のパフォーマンスを見せてくれました。
ロシアのウクライナ侵攻
北京冬季オリンピック閉幕の日、プーチン大統領は隣国ベラルーシでの軍事演習の延長を発表しました。この動きは国際社会に警戒を呼び起こしました。そして翌日の2月21日、プーチンはウクライナ東部にロシア軍の派兵を指示、状況は急激に悪化しました。
そして、2月24日にはプーチンが「軍事作戦」の開始を宣言。ベラルーシを起点としてウクライナの北、東、南の3方向からの侵攻を開始しました。
ロシアのウクライナ侵攻とスポーツ界の反応
ロシアのウクライナ侵攻は、北京冬季オリンピック・パラリンピック中の国連での休戦決議期間中に行われたことで、多くの国際組織やスポーツ関連団体から非難の声が上がりました。
国際オリンピック委員会(IOC)
IOCはロシアの行動を「強く非難する」と明言。バッハ会長は北京五輪の開閉会式でのメッセージを引用し、休戦の重要性を再確認し、「休戦を守り、平和にチャンスを」とのメッセージを発信しましたた。また、ウクライナのオリンピック委員会メンバーへの人道的支援を提供する方針を示しました。
国際パラリンピック委員会(IPC)
パラリンピックの開幕を控えて、IPCはIOCと同様の立場をとり、ロシアの五輪休戦協定違反を非難する声明を出しました。パーソンズ会長はウクライナ・パラリンピック委員会の会長との対話を持ち、五輪休戦決議の順守を各国の指導者たちに求めました。
【疑惑】中国がウクライナ侵攻の引き延ばし要請
「北京冬季五輪の閉幕前に侵攻しないよう、ロシア側に求めた」
2022年3月2日、ニューヨーク・タイムズ紙は、中国がロシアのウクライナ侵攻の計画について事前に知っていた可能性があると報じました。この報道は欧米の情報機関の報告書をもとにしており、多くの欧米当局者の証言が取り上げられています。
中ロ関係の詳細
- 中国とロシアが具体的にどのレベルで交渉ややりとりを行っていたのかは不明。
- 20222月4日には、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が北京で会談を行った。しかし、この会談が侵攻計画に関連したかどうかは不明。
米国からの情報提供
- 米国は昨年の2011年11月中旬から、ロシア軍がウクライナ国境に集結している情報を中国側に提供。
- 米国はその情報から、中国の王毅国務委員兼外相らを通じて、複数回、ロシアへの説得を試みた。
- 米国はウクライナ侵攻の直前も、秦剛駐米大使と会談が行ったが、中国側はロシアが実際に侵攻するかどうかについて懐疑的な立場を崩さなかった。
欧米の情報機関の評価
- 欧米の情報機関は、2022年2月上旬に中国とロシア間の通信情報を入手。
- 欧米当局者はこの情報を信頼性が高いものとして評価。
- 情報が中ロ双方のトップレベルの交渉を示すものかどうかは不明。
これらの情報から、ニューヨーク・タイムズ紙は、中国がロシアのウクライナ侵攻計画やその意向について事前に一部把握していた可能性があると報じたのです。
中国の反論
中国はロシアのウクライナ侵攻計画を事前に知っていたとする報道に対して、数回の公式なコメントを通じて真っ向から反論しています。
中国駐米大使の反論
2023年3月15日、中国の秦剛駐米大使は米紙ワシントン・ポスト(電子版)への寄稿において、これらの観測を「デマだ」として否定。秦氏は「切迫する危機を事前に知っていれば、防ぐために最善を尽くしただろう」との立場を明らかにし、ウクライナ国内には侵攻時に6,000人以上の中国人がいたとの情報も伝えた。中国はロシアとウクライナ双方との間に深い経済的関係を持ち、秦氏は「両国間の紛争は中国の利益にならない」と断言。また、中国がどちらの国にも「偏っていない」との立場を取った。
中国国防省の声明
その後の3月24日、中国国防省からも公式の反論がなされた。彼らは「中国がロシアによるウクライナ侵攻を事前に認識していた」という報道は全くの誤りであり、中国に対する中傷だとしてこれを否定。米国からのロシアのウクライナ攻撃の可能性に関する警告を中国が無視したとの報道に対しても反論を行い、米国が「責任逃れと中国への中傷」を目的としているとの立場を示した。
【疑惑】ウクライナ侵攻と中国のサイバー攻撃
侵攻計画を知ってか知らずか、ウクライナでは侵攻の前に、中国からのサイバー攻撃が急増していました。
背景
英国の「タイムズ紙」による2023年4月1日の報道によると、ウクライナの情報機関は、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以前から、中国が自国の軍事施設や核施設を含む多数のウェブサイトへのサイバー攻撃を組織化していたと非難している。
攻撃の詳細
中国はウクライナの国防省、国立銀行、鉄道をはじめとする600を超えるウェブサイトに対し、数千件のハッキング攻撃を実施。
これらの攻撃は、2022年2月2日から20日の北京冬季オリンピック期間中に開始され、2月23日、ロシアがウクライナに侵攻する前日にピークを迎えた。
一方、ロシアもこの時期にウクライナのさまざまな組織をサイバー攻撃の対象にしていたが、使用されたツールや手法から、中国の攻撃を判別することが可能だったとされる。
英米情報機関の動き
英国および米国の情報機関もこの情報を把握しており、一部の専門家は「ロシアがウクライナ侵攻の計画を中国に伝えていた可能性がある」との見解を示している。「タイムズ紙」は、この情報を裏付けるための情報機関のメモを入手していると報じている。
中国への疑念が深まる
この報道により、中国がロシアのウクライナ侵攻を事前に把握していた可能性に関する新たな疑念が浮上しました。
ウクライナ侵攻の背後に潜む複雑な要因
一方、ウクライナ侵攻の背景や目的は複雑で、中露関係のみならず、ロシアのNATOに対する懸念やウクライナ東部の状況、ロシア国内の政治的背景など、多岐にわたる要因が絡み合っています。そのため、侵攻のタイミングがオリンピックと重なったことは一因に過ぎない可能性も考えられます。
侵攻を受けて、「ウクライナに滞在していた6000人の中国人の避難が遅れた背景には、北京側のウクライナ侵攻に対する予測の誤りや、複雑な現地状況など、様々な要因が考えられます。中露の首脳間での具体的な会話内容や合意事項については公には明らかにされていないため、正確な情報を基にした分析が必要です。
中国とウクライナの関係に亀裂
1つ確実なことは、ウクライナとの外交関係がこれまでのようにはいかなくなったということです。
長い間、中国はウクライナと有益な経済的および外交的関係を築いてきました。しかし、ロシアによる最近のウクライナ侵攻は、その関係に深刻な亀裂を生じさせています。ウクライナ側からは、中国が真の友人であるかどうかの疑問が提起されています。
国際社会の期待
ロシアがウクライナを侵攻した際、中国がロシアの主要な友好国であることから、国際社会は中国に仲裁の役割を果たすことを期待していました。しかし、そのような動きは中国から見られていない。
中国の対応
習近平国家主席は、ウクライナ侵攻開始から1ヶ月の間に多くの国の首脳と協議を重ねてきました。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領との対話はまだ行われていないとされています。3月23日の北京での中国外務省の記者会見で、この事についての質問が提起された際、汪文斌報道官は「中国は安全保障の不可分性を擁護する全ての国を支持する」と述べました。
ウクライナの呼び掛け
ゼレンスキーの側近であるアンドリー・イェルマクは、習近平氏との意見交換を「すぐにでも」行いたいと公然と呼び掛けていました。
「ロシアとウクライナ」両国との友好関係の狭間で
このように、ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナとも友好的な関係を持つ中国を困難な立場に置かれることになりました。中国は、NATOの東方拡大に反対するロシアの立場に共感を示しつつ、同時にウクライナの主権と独立を尊重する姿勢を取っています。
その結果、中国は外交的なバランスをとることを強いられ、それぞれの国に自制と対話による解決を呼び掛けました。
習近平の懸念
多くのアナリストは、習近平が最も望んでいないのは、ロシアが西側諸国との間で国際的な安全保障危機を引き起こし、中国の外交的な「晴れ舞台」に影を落とすことだと指摘しています。この頃、習近平は国内での前例のないの3期目を目指しており、国内での威信を高めるため奮闘していたのです。
前述の通り、プーチンのウクライナ侵攻のタイミングは、北京冬季オリンピックの閉会後とパラリンピックの開会前という微妙な時期でした。習近平は、オリンピックとパラリンピックの成功を国内外に大きくアピールするはずでしたが、この侵攻によって計画が狂ってしまったと考えられます。
事実、パラリンピックではウクライナ選手団が注目を浴び、習近平が望むような報道の方向性とは異なる展開となっていました。
「プーチンリスク」の浮上
今回のウクライナ侵攻を通じて、中国国内でもロシアとの関係を考え直すべきという議論も出てきていました。一部の中国の専門家たちは、習近平が「プーチンリスク」という新たな要因を意識するようになったと指摘しています。
中国のウクライナ問題に対する外交的スタンス
中国の外交政策の基本は、1954年に周恩来首相が表明した以下の「平和五原則」にもとづいています
- 相互尊重主権および領土完全性
- 相互不侵攻
- 相互不干渉内政
- 平等および相互利益に基づく関係
- 平和的共存
これらの原則は、冷戦時代に東西対立の中で中立的な立場をとる非同盟国との関係を築くためのものであり、今も中国は、基本的には他国の内政干渉や領土侵略を認めない立場をとっています。
中国の態度
2014年のクリミア危機時、中国は五原則にもとづき、公然とロシアの行動を支持することはしませんでした。しかし、経済的・政治的な利益を背景に、明確な非難も避けました。これは、中国が世界の大国としての役割と、国際的な利害関係のバランスをとることを示している。
2022年のウクライナ侵攻においも、中国はロシアの行動について直接的なコメントを避けつつ、西側諸国が打ち出した制裁措置に対しての非難は行っています。
中国のこの態度は、国際的な対立を避け、ロシアとの関係を維持しつつ、自国の利益を最大化しようとする現実的な外交政策を反映しています。
ウクライナ侵攻が露呈させた中露関係の複雑性
このように、ウクライナ侵攻に関するロシアの一連の行動は、国際政治の舞台において深刻な波紋を引き起こしました。特に中露関係は、これを契機に新たな局面を迎えることとなったのです。
北京冬季オリンピックとパラリンピックの間という微妙なタイミングでの侵攻は、中露関係の複雑さを一層浮き彫りにしています。一方で、習近平国家主席とプーチン大統領との間の密接な関係やそれに伴う誤算も指摘されており、それが実際の戦局や避難行動にどれほど影響したのかは、今後の詳細な情報や研究が待たれています。
この一連の出来事は、単なる地域問題に留まらず、大国間のパワーバランスや国際的な安全保障体制、そしてそれに関連する外交政策の方向性に対する多大な影響を及ぼすこととなるでしょう。今後の中露関係、そしてそれに続く国際社会の動向を、私たちは注視していく必要があります。
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