【ウクライナ危機(41)】プーチン政権を脅かす民主化運動の波がモスクワまで迫ってきていた……。『ウクライナ侵攻の要因?“カラー革命”』

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【ウクライナ危機(40)】ロシアは国を上げて同性愛者を迫害している……。ウクライナ侵攻もう一つの背景『LGBTQ問題』
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世界は、戦争と革命によって動いてきた!中東戦争、湾岸戦争、フランス革命、ロシア革命…。人類の運命を動かしてきた様々な「戦争と革命」を辿ることで歴史の流れがすっきりつかめる!ニュースの「なぜ?」がわかる!超人気予備校講師による熱狂的ドラマチック世界史講義!(「BOOK」データベースより)

Color revolution

世界各地で巻き起こる民主的な革命!!「色の革命」

Eurasia/YouTube

「プーチンの攻撃は、民主主義や自由主義の価値観に対するもの」

「ロシアが勝てば闇」 ウクライナのLGBTQ兵が命を懸ける理由/Forbes JAPAN.2022

戦争は、ウクライナ人を結束させた。民主主義・自由主義の価値観を守ることが、国民の決意の大きな源となっていることは明らかだ。

「ロシアが勝てば闇」 ウクライナのLGBTQ兵が命を懸ける理由/Forbes JAPAN.2022

プーチンと民主主義の関係

プーチン大統領は、なぜウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのか。
その心理を読み解く鍵となるのが、プーチン氏と民主主義との関係だ。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022
民主化の波が押し寄せる……ソ連が崩壊

ソ連を構成する15の共和国が相次ぎ国家独立を宣言する中、ペレストロイカ(改革)でソ連延命を図ったゴルバチョフ大統領は敗北した。91年8月の保守派クーデターで求心力を失っていたゴルバチョフ氏は12月25日、テレビ演説で辞任を表明するしかなかった。89年の冷戦終結から2年後。米国との核軍拡競争や資源価格の低下に疲弊し、民主化運動の波が押し寄せたソ連はあっけなく崩壊し、米ソ2極体制は終わりを告げた。米主導の西側は湾岸戦争にも勝利し「歴史の終わり」に酔った。

ソ連崩壊30年、大国ロシア復活の野望と摩擦/日本経済新聞
民主主義をかかげ歩み出したロシアは空前の混乱と貧困に襲われる

民主主義を掲げた新生ロシアのエリツィン初代大統領は、30年前の1992年1月から「ショック療法」と呼ばれる急進的な市場経済化を行った。

【一筆多論】民主化ロシアの苦い味 遠藤良介/産経ニュース.2022

ただ、ソ連崩壊後のエリツィン政権の急進的な経済自由化が、肝心の政治的自由の空洞化を招いた側面は否定できない。

<視点>変貌したロシア ソ連崩壊30年 権威主義は必然か 外報部・常盤伸/東京新聞 TOKYO Web.2022

 普通の市民らにとっては経済が極度に落ち込んだ90年代の記憶は、空前の混乱と貧困だった。

<視点>変貌したロシア ソ連崩壊30年 権威主義は必然か 外報部・常盤伸/東京新聞 TOKYO Web.2022

ロシアではエリツィン大統領が権力闘争の末に最高会議(議会)ビルを戦車で砲撃した「モスクワ騒乱事件」も発生した。性急な市場経済への転換と民主化は挫折を味わい、国民の生活と意識に深い傷痕を残す。

ソ連崩壊30年、大国ロシア復活の野望と摩擦/日本経済新聞

ロシアの多くの国民が、ロシアがどうなってしまうんだろうという、いわば「アイデンティティークライシス」のような状況にまで追い込まれてしまったのだと思われます。国民のほとんどが「変化」は悪いことしかもたらさない、自由や民主主義よりも「安定」が欲しいと思うようになりました。

【詳しく】ロシアのプーチン大統領どんな人? 石川解説委員分析/NHK国際ニュースナビ.NHK NEWS WEB.2022
大統領に就任したプーチンは欧米と協力しようとしていた

プーチン氏は1999年、当時のエリツィン大統領に大統領代行に任命されましたが、当時は今と同じ世界観を有していたわけではないと思います
彼の思考は、徐々に変化していきました。彼は今でこそ、ソビエトの崩壊に反対だったと主張していますが、崩壊後の10年間、崩壊に導いた人々のために働いていました。
当時は、欧米志向で市場原理に基づく考えを持ち、私たちは協力し合えると考えていました。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022
徐々に権力が集中……民主的な思考から独裁的に変わっていった

しかし2011年、当時、首相を務めていたプーチン氏は、アメリカの副大統領だったバイデン氏と会談し、「ロシア人は欧米の人々とは違う。異なる文化や歴史を有している」と述べ、欧米との違いを強調するようになっていました。
プーチン氏は、ロシア人はヨーロッパの人たちと異なると主張することで、ロシアをより独裁的な手法で統治することを正当化したかったのでしょう。
プーチン氏が民主的な志向から一夜にして独裁者になったというのは、間違いです。
時間をかけて、独裁者へと変わっていったのです。
そして、独裁的になればなるほど民主主義からの挑戦を受けるようになったのです。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022
「プーチンの戦争」

 ウクライナ戦争につき「これはロシアの戦争ではない。プーチンの戦争だ」という見方がある。確かにその側面は強いが、ロシアのシステム、社会の問題も大きい。ロシアが民主主義であったならば、今回の侵略のようなことは起こらなかったであろう。

ウクライナ危機はやはり自由主義を守る戦争/Wedge ONLINE.2022

民主化運動「カラー革命」

主導するNATOのミッションにロシアが参加したり、ロシアがNATOの「パートナー国」となったり、NATOロシア協力理事会が存在した時期が21世紀に入ってあった。しかし、こうした友好ムードが吹き飛ばしたのは2000年代にNATO周辺国で連続して起きた、民主化のための「カラー革命」だった。

<ウクライナ危機>NATO再び拡大へ―フィンランド、スウェーデンの加盟、年内にも実現/Record China.2022

カラー革命は(中略)ソ連から独立した国家で反政府デモが起こり、親ロ政権が転覆した事件を指す。

プーチン大統領「カラー革命、容認しない」、 旧ソ連諸国への影響力示す/東亜日報.2022

2000年、セルビアの独裁者ミロシェヴィッチ大統領を市民運動が退陣に追い込んだのが、一連の民主化の幕開けだった。続いて2003年、グルジアで市民がバラの花を手に集まり、腐敗の著しいシェワルナゼ政権を倒す「バラ革命」が起きた。2004年にはウクライナで「オレンジ革命」が起き、オレンジ色をシンボルカラーに抱いたユーシェンコ民主政権が誕生した。これらの無血革命は「色の革命」「花の革命」と総称され、2005年キルギスの「チューリップ革命」から、2011年チュニジアでの「ジャスミン革命」、さらにはアラブ各国での独裁終結へとつながる大きな流れを築いた。 

「色の革命」は褪せたのか――旧共産圏の「民主化」と「親欧米」/新潮社 Foresight.2012

ロシア政府にとって、この結果は「色の革命」が政権の存亡に関わる重大な脅威になりうることを示していた。

「ウクライナと露」エネルギーから見る危機の歴史/東洋経済ONLINE.2022

「カラー革命」をロシアは、「アメリカによるロシア勢力圏の切り離し工作」と捉えました。

1から分かるウクライナ情勢 バイデンの対露強硬路線はなぜ愚策なのか 【HSU河田成治氏寄稿】(前編)/The Liberty Web.2022

アメリカのブッシュ大統領は退任後この出来事について「民主化の第一歩」

アメリカのブッシュ大統領は退任後に発表した回顧録で、これら一連の出来事を「民主化」の第一歩だともてはやした。

プーチン大統領は「何を恐れて」ウクライナに侵攻したのか? その「思想と思惑」を読み解く/現代ビジネス | 講談社.2022

「彼らはわれわれをだました」プーチンからみるたカラー革命はアメリカの陰謀

UKRAINE TODAY/YouTube

他方、ロシア側の説明はまったく異なる。プーチン大統領や側近たちによると、この「カラー革命」にはアメリカなどの財団が親欧米を掲げる候補者に資金援助した結果生じたのであり、アメリカを中心とした外国勢力による内政干渉だという。

プーチン大統領は「何を恐れて」ウクライナに侵攻したのか? その「思想と思惑」を読み解く/現代ビジネス | 講談社.2022

「彼らはわれわれをだました」とプーチンは何十年も言い続けている。「NATOは猛烈に、あからさまに(中央ヨーロッパに)進出している」。これがプーチンの世界観だ。

プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官/Newsweek.202
ソ連崩壊からこの見方は加速していった

過去30年間に主として非暴力的な形を帯びていた一連のカラー革命は、当事者にとっては汚職や圧政への自然発生的な反抗だった。実際、1974年のポルトガルの「カーネーション革命」や1986年のフィリピンの「黄色革命」は、米国が支持していた独裁政権に対する蜂起だ。ところが1989年のチェコにおける「ベルベット革命」で、旧共産圏の崩壊が加速して以降は、こうした革命は米国が裏で糸を引いている、というのがロシアの見方になっている。

コラム:香港に「カラー革命」の様相、警戒感強める中ロ両国/REUTERS.2019

「カラー革命(民主化)」と同時にロシアの方にNATOが拡大してくる

さらに由々しいのは、オレンジ革命をきっかけにNATO──すでにバルト諸国が加盟していた──がウクライナのロシア国境に部隊を派遣する可能性があったことだ。これはロシアの安全保障にとって「直接の脅威」になると、プーチンは述べた。

「ウクライナと露」エネルギーから見る危機の歴史/東洋経済ONLINE.2022

実際、サーカシヴィリやユーシェンコといった親欧米派の指導者は北大西洋条約機構(NATO)への加盟を望み、ロシアを刺激し続けた。

プーチン大統領は「何を恐れて」ウクライナに侵攻したのか? その「思想と思惑」を読み解く/現代ビジネス | 講談社.2022
当時のアメリカのブッシュ大統領を「民主化」の流れを歓迎

当時のブッシュ大統領もNATO拡大を推進して「民主化」を押し進める必要性を説いた。

プーチン大統領は「何を恐れて」ウクライナに侵攻したのか? その「思想と思惑」を読み解く/現代ビジネス | 講談社.2022
プーチンは一連の出来事をアメリカの策略と感じていた……。

プーチン氏は、NATOは米国の策動の手段であるとみなすようになったという。そしてプーチン政権にウクライナ侵攻を決断させたのは、同国がNATO加盟に向けた動きを加速させようとしたことがあるとみられる。

<ウクライナ危機>NATO再び拡大へ―フィンランド、スウェーデンの加盟、年内にも実現/Record China.2022
さrないカラー革命がモスクワまで広がる可能性

加えて、「色の革命」が伝播して、モスクワの赤の広場まで広がるリスクもあった。

「ウクライナと露」エネルギーから見る危機の歴史/東洋経済ONLINE.2022
アメリカが自分を滅ぼそうとしている!!プーチンがブチギレ

多くの独裁者と同様、プーチンも国家と自分自身を混同し、アメリカは自分を滅ぼしたいのだと考えている。特に、11年のロシア下院選挙では自分を権力の座から追い落とすために、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)が主導してCIAが陰謀工作を仕掛けたとして怒りを爆発させた。

プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官/Newsweek.2022

当時の東ヨーロッパとロシアは、「カラー革命」と呼ばれる大規模な民主化運動の真っただ中にあった。(クリントンは)ロシアの反体制派に政権打倒のシグナルを送ったと、プーチンは言う。

プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官/Newsweek.2022

ついにロシアにもカラー革命の流れがやってきた!プーチンは陰謀の確信を深める

Associated Press/YouTube

ロシアにも同じように民主化の波が襲う。11~12年にはプーチン体制の長期化に反発する市民による「反プーチン運動」が拡大した。政権による毒殺未遂疑惑がある反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が21年1月に逮捕されると、再び大規模な反政権デモが展開された。

ソ連崩壊30年、大国ロシア復活の野望と摩擦/日本経済新聞

「これは我々にとって教訓であり警告だ」。プーチン氏は「カラー革命」をロシア復活を望まない米欧の陰謀とみなす。

ソ連崩壊30年、大国ロシア復活の野望と摩擦/日本経済新聞
プーチンは恐怖を感じた?

プーチン氏が強い恐怖を感じたのは、エジプトでもウクライナでもジョージアでもチュニジアでもなく、まさに足元のロシアで自身が率いる政権に対する大規模なデモが起きたことです。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022

そして、民主主義やその支持者に対し、病的なほどに疑い深くなりました。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022
プーチンは国防対策についての論文で「カラー革命」の脅威を示す

プーチン大統領は2012年に発表した国防政策についての論文で、一連のカラー革命や「アラブの春」を「焚き付けられた紛争」と表現したほか、2013年に旧ソ連の同盟国と合同で実施した平和維持演習では「強力な政治・経済的同盟に支援された武装勢力が資源利権を確保するために村を占拠した」という想定が導入された。

ロシアにとって譲れない一線、ウクライナ プーチンの思惑/WEDGE Infinity.2014
ウクライナで『2014年ユーロ・マイダン革命』で政権が交代……プーチンの不信感はMAXになった

そして、とどめの一撃が2014年、ウクライナで大規模な市民の抗議活動でロシア寄りの政権が崩壊した「マイダン革命」です。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022

プーチン氏は、「アメリカの支援を受けたネオナチによる政権奪取だ」と非難しています。

【詳しく】「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析/NHK NEWS WEB.2022
すぐ隣のベラルーシも民主化の流れがきた

 その民主化がベラルーシに飛び火するのも恐ろしいことだ。アレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」と呼ばれてきた。だが、2020年8月の大統領選で、ルカシェンコ大統領が6選を果たした際、反政府側が投票に不正があったとして選挙結果の受け入れを拒否し、首都ミンスクなどで大規模な抗議活動が広がった。大統領側は、反体制の活動家や独立系メディアへの弾圧を強めたが、民主化運動は今も続いている。

自由民主主義がベラルーシまで浸透すると、ロシア国内が危ない/ダイヤモンド・オンライン.2022

 今後、民主化運動が勢いを増して、ルカシェンコ大統領が倒される事態となれば、ウクライナに続き、ベラルーシも自由民主主義陣営に進もうとするだろう。ロシアは、ベラルーシとウクライナの旧ソ連領だった部分まで失うことになる。

自由民主主義がベラルーシまで浸透すると、ロシア国内が危ない/ダイヤモンド・オンライン.2022

「カラー革命を容認しない」プーチンが2022年カザフスタン反政府デモにロシア軍を派遣

日テレNEWS/YouTube

カザフスタンでは2022年が始まった直後、旧ソ連からの独立後30年間で最も激しく暴力的な抗議デモの嵐が吹き荒れた。

カザフ騒乱 なぜ暴徒化? なぜロシア軍? 今後どうなる?/Newsweek.202

中央アジアのカザフスタンの主要都市・アルマトイで1月6日、燃料価格高に端を発する抗議デモの参加者が、再び治安部隊と激しく衝突した。

ロシア主導軍事同盟、カザフスタンに部隊派遣 抗議デモ参加者2000人以上拘束/Newsweek.2022
色の革命を恐れたプーチンがロシア軍を派遣

ロシアとしては、カザフでそれらの政変が再現されるのは何としても阻止しなければならない。親欧米政権が誕生すれば、キルギスタンやトルクメニスタンのような近隣の不安定政権にも「ドミノ現象」が及び、中央アジア全体が反ロシア化するおそれがあるからだ。

カザフ騒乱に見る米中ロ「21世紀のグレート・ゲーム」の本格化。「国内の権力闘争、一件落着」は安易すぎる/Business Insider Japan.2022

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」はデモ鎮圧への支援要請に応じ部隊派遣を決め、ロシアは空挺(くうてい)部隊を送り込んだ。

ロシア主導軍事同盟、カザフスタンに部隊派遣 抗議デモ参加者2000人以上拘束/Newsweek.2022

ロシアのプーチン大統領は10日にオンライン開催された旧ソ連諸国でつくる集団安全保障条約機構(CSTO)の緊急首脳会議で、中央アジア・カザフスタンの暴動について「われわれは『カラー革命』を容認しない」と述べ、外部勢力による政権転覆の試みだったとの見方を示した。

「カラー革命」容認しない/北國新聞.2022

ウクライナに侵攻の理由は『カラー革命』を脅威に感じたから!?

 米陸軍士官学校准教授のロバート・パーソンと元駐ロ大使のマイケル・マクフォールは、プーチンがウクライナに軍事侵攻を行った目的はNATO拡大を阻止することではなく、同国への民主主義の拡大を防ぐことであったと論じる[Robert Person and Michael McFaul, “What Putin Fears Most(プーチンが最も恐れるものとは)”, Journal of Democracy, February 22, 2022]。

「プーチンの戦争」が誘発する国際秩序の再編(2022年3・4月-2)/新潮社 Foresight.2022

 ロシアにとって最も脅威となったのは、「アメリカの支援を受けていた」とロシア側が説明する一連の「カラー革命」であり、とりわけ2004年のオレンジ革命によってかつての旧ソ連圏に民主主義の波が襲ってきたことであった。それは、旧ソ連圏でロシアの勢力圏を再確立しようとするプーチンの構想の足元を揺るがすものであった。また、ロシアと文化的および宗教的に近いウクライナ人が自由のために立ち上がるのであれば、どうしてロシアでも同じような民主化が起きないと言えようか。プーチンは民主化されたウクライナを何よりも怖れており、これこそが今回のロシアによるウクライナ侵攻のプーチンの本当の理由である。プーチンの長期的な戦略目標が、ウクライナや旧ソ連圏地域での民主化の拡大阻止にあることは明白だ、とパーソンとマクフォールは論じる。傾聴に値する鋭い分析である。

「プーチンの戦争」が誘発する国際秩序の再編(2022年3・4月-2)/新潮社 Foresight.2022
「プーチンはモスクワのカラー革命に関してパニックに陥っている」イギリスのジョンソン首相が発言

ジョンソン首相は、ブラックプールにおける保守党の会議におけるスピーチで、「私たちが2014年に行ったようなプーチンとの関係正常化の試みは、同じ過ちを犯すことを意味する」と発言した。

プーチンはパニックに陥っている。彼が失敗することが重要」=ジョンソン英首相/ウクルインフォルム通信.2022

同氏はまた、プーチン氏はウクライナで止まらないとし、ウクライナにおける自由の終わりは、ジョージアやモルドバの自由への希望も消し去ることを意味するとし、「それは東欧全体、バルト海から黒海までの脅迫の時代のはじまりを意味することになる」と発言した。

プーチンはパニックに陥っている。彼が失敗することが重要」=ジョンソン英首相/ウクルインフォルム通信.2022

さらに同氏は、現在の状況は世界にとっての転換点なのであり、自由と抑圧の間の選択なのだと指摘した。

プーチンはパニックに陥っている。彼が失敗することが重要」=ジョンソン英首相/ウクルインフォルム通信.2022

また同氏は、プーチン氏の行動は、ロシアにて革命が生じる可能性に恐れをなしたことで説明可能だとの見方を示した。同氏は、「彼は、モスクワにおけるいわゆるカラー革命に関して完全なパニックに陥っている。そのため、彼は、ウクライナの自由の火をあれほどに残酷な形で消そうとしているのであり、だからこそ、彼が失敗することが非常に重要なのだ」と発言した。

プーチンはパニックに陥っている。彼が失敗することが重要」=ジョンソン英首相/ウクルインフォルム通信.2022

世界中で民主化支援をしてきた国「アメリカ合衆国」

アメリカは歴史的に、民主主義や人権の追求を、外交の中で重視してきた。こうした姿勢は、民主党・共和党の違いに関係なく、歴代政権が長らく継承してきたものである。もちろん、政権によってこの問題に対する熱意に差があったのも事実であり、また、アメリカの民主化・人権促進に対しては、様々な角度から批判も示されてきた。例えば、ある国で民主化を支援しておきながら、別の国では支援を控えるといったいわゆる二重基準(ダブルスタンダード)の問題がある。また、中国やロシアからは、民主主義や人権を口実に、アメリカは自身の国益を追求しているだけであるといった批判も投げかけられた。また逆に、アメリカ国内では、価値の追求に力を入れるあまり、アメリカの国益が犠牲にされているとの指摘もあった。

トランプからバイデンへ ―民主化・人権促進、アメリカ価値観外交の現状― /東京財団政策研究所.2021
香港の雨傘運動にアメリカが支援!?
South China Morning Post/YouTube

雨傘運動とは、 2014年9月26日から2014年12月15日まで香港行政長官選挙をめぐって起こった大規模なデモです。

香港の雨傘運動とは?経緯や失敗した原因を簡単にわかりやすく解説/ニュース日本

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は15日の論説で、香港は安定と混沌のどちらかを選ばなければならないと警告するとともに、抗議活動を「テロリズム」と断定し、現在の騒乱は西側諸国が支援する「カラー革命」の新たな例だとの見方を示した。

コラム:香港に「カラー革命」の様相、警戒感強める中ロ両国/REUTERS.2019

香港の抗議運動に参加しているグループには、全米民主主義基金(NED)から資金援助を受けているものがあるということも度々報じられてきた。

中国共産党が恐れる「香港デモ」でのCIAの暗躍/PRESIDENT Online.2019
民主主義を拡げるために活動するNPO「全米民主主義基金(NED)」
National Endowment for Democracy/YouTube

親米の民主主義を広げるため、世界中のメディアや労働組合、人権団体に資金提供を行ってきたNPOだ。

トランプ政権「世界の民主化運動を支援するお金はもうない」/Newsweek.2018

レーガン政権は、人権がらみの民主化というより反共産アジェンダとして民主化支援を行った。 さらに、議会決議を経た政府拠出の民間機関として、1983年に全米民主主義基金(NED) を設 立し、非政府組織という大義による民主化支援を進めることにより、独裁国家への支援と並行し て民主化リーダーへの支援をすることが可能になり、また、これまで隠密裏に進めてきた活動を 公に、政府の政策とは別の独立した活動として行うことが可能になった。

米国議会調査局レポート民主化推進:米国対外援助政策の目的/Democracy for the Future – Japan Center for International
偶然から始まった!?ドイツの支援によりスペインとポルトガルが民主化に成功

民主化支援はいつ始まったのかについてですが、英語のserendipity(偶発的な幸運)という単語に見られますように、これは歴史の偶然なのです。民主化支援は70年代半ばにポルトガルとスペインで始まりました。1970年代のポルトガルとスペインには全体主義的な体制が残っており、それに対して民主主義への道が求められる必要がありました。そのような時に、ドイツの政党の財団があったのです。その財団は、ドイツ政府からドイツにおける市民教育、民主主義を教育する役割を担っていました。財団としての組織・予算が既にあり、そういった能力を使ってスペインとポルトガルの民主主義を支援しなければならないと彼らは考えました。そして民主主義が確立した後のスペインとポルトガルのリーダーたちは、ドイツの助けを借りて民主主義を確立させることができたと強調しています。民主化支援は、このように偶然に始まったのです。

3 全体会 「民主化支援とは何か」 基調講演 「国際的な民主化支援の価値」 (pp.9-10)/国連民主主義基金(UNDEF)事務局長 Roland Rich 氏
この成功事例を見たアメリカが同じような組織を作る
Reagan Library/YouTube

この出来事を見たワシントンの政策立案者たちは、民主化支援の考え方を進展させました。レーガン大統領がイギリス議会で演説をし、その翌年に全米民主主義基金ができました。その初めの時期、中央ヨーロッパや東ヨーロッパにおいて民主化支援を隠密にやったことでアメリカは批判されました。

3 全体会 「民主化支援とは何か」 基調講演 「国際的な民主化支援の価値」 (p.10)/国連民主主義基金(UNDEF)事務局長 Roland Rich 氏
NEDは昔ならCIAがやっていたことを当たり前のように実行している

さらに、全米民主主義基金が公然と民主化支援を行うようになったことに対しても批判が起こりました。以上のように、偶然に始まった民主化支援を、アメリカがより本格的に展開したのです。

3 全体会 「民主化支援とは何か」 基調講演 「国際的な民主化支援の価値」 (p.10)/国連民主主義基金(UNDEF)事務局長 Roland Rich 氏

「今我々がやっていることは、25年前にCIAが秘密裏にやっていたのと同じことだ」と、NEDのデービッド・イグナシウス会長代理は1991年のインタビューで語っている。「当時と今の最大の違いは、大っぴらに活動しているので、後で批判される可能性が少ないということ。オープンであることは即ち、自己防衛だ」

トランプ政権「世界の民主化運動を支援するお金はもうない」/Newsweek.2018
CIAのフロント機関とも言われる

実際のNEDは、反米的な国の政権交代(あるいは体制転覆)を支援するために、その国の反対派に資金援助などを行ってきたのであり、CIAのフロント機関とも呼ばれている。

中国共産党が恐れる「香港デモ」でのCIAの暗躍/PRESIDENT Online.2019
NEDからの支援金は民主化を目指す別のNGO・NPOへ……そのお金は革命に使用される

アメリカ国務省から資金を受け、国際共和協会(International Republican Institute:IRI)、全米民主国際研究院(National Democratic Institute for International Affairs:NDI)、国際民間企業センター(Center for International Private Enterprise :CIPE)、米国国際労働連帯センター(American Center for International Labor Solidarity :ACILS) の4つの組織の内のいずれかを通して資金を分配している。

香港デモ、背後にAIIBの米中暗闘――占領中環と全米民主主義基金NED/Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN.2015

NED は毎年米国家予算から資金提供を受けている。そのうちには国務省の米国国際開発局(United States Agency for International Development:USAID) 向けの予算も含まれているが、非政府組織の扱いを受けている。2004年9月の会計年度における NED の歳入は8,010万米ドルであり、そのうち7,925万米ドルが米国政府部局から、60万米ドルが他の寄付収入などであった。

香港デモ、背後にAIIBの米中暗闘――占領中環と全米民主主義基金NED/Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN.2015

 NEDは、その資金を、IRI(共和党国際研究所)、NDI(国際民主研究所)などに提供する。資金はさらに、「反米国家」の「NGO」「NPO」に流れ、「民主化」という名の「革命運動」に使用されていくというわけだ。

「香港デモの黒幕は、米国である!」ロシアで流れる「米国陰謀論」の信憑性/ダイヤモンド・オンライン.2014
プーチンはロシア国内のNGOの活動を規制する法案を成立

「カラー革命」とは、2003年11月グルジアの「バラ革命」、2004年末ウクライナの「オレンジ革命」、2005年春キルギスの「チューリップ革命」等をさす言葉だが、これらはいずれも市民革命の様相を呈して政権交代をもたらしたものだった。しかしこの「革命」の背後にはCIAのような特務機関を含む欧米の組織の働きかけがあったことは公然の事実だった。同じことが自国に生じることを恐れたロシアは、その対抗措置として、国内におけるNGOの活動を規制する法案を成立させた。

ロシアの対外政策と日本の立場(p.157)/河原地 英武
「民主化のために独自判断で動く」結果アメリカ政府が追い込まれることもある

これら団体は、米国政府の指揮で動くわけではない。NGOが海外で騒動を起こし、米国政府を難しい立場に追い込むこともある。米国政府は、「民主化」と言われると表向きは支持せざるを得ないのだが、軍を送って失敗したイラクの二の舞は金輪際したくないからだ。

香港デモの陰でうごめく「無責任な外国諜報機関」の存在に注意せよ/現代ビジネス | 講談社.2019
支援した国が革命やクーデターで崩壊するケースも発生

政権転覆に成功しても、民主化や力強い経済発展は起きていない。多くの場合、政権転覆の結果、新しい権力者が国内の利権を手に収めて、腐敗した強権政治を続けることになるのである。

香港デモの陰でうごめく「無責任な外国諜報機関」の存在に注意せよ/現代ビジネス | 講談社.2019

最悪の場合には、「民主化」で国内の微妙な力、民族、クラン、利権のバランスが破壊され、血で血を洗う内戦状態となる場合もある。イラク、リビア、シリアの場合がそれである。そしてその時には、西側のNGOは何の責任も取らないし、取る能力もない。

香港デモの陰でうごめく「無責任な外国諜報機関」の存在に注意せよ/現代ビジネス | 講談社.2019
闇が深すぎる工作活動の世界

物事にはウラがあり、そのウラには果てしがない。米国のNGOを非難するロシアや中国も、米国を上回る資金をつぎ込んで、世界中で工作活動を展開している。

香港デモの陰でうごめく「無責任な外国諜報機関」の存在に注意せよ/現代ビジネス | 講談社.2019
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