ロシアとウクライナの関係は、近年、領土紛争や政治的な問題を引き起こしてきました。その影響は、宗教的なコミュニティにも波及しており、特にキリスト教の世界において深刻な問題をもたらしています。
ロシア正教会とウクライナ正教会は、長い歴史を持つ伝統的な宗教団体で、多くの信者に影響を与えてきました。
しかし、最近、世界中のキリスト教団体がロシアを批判し、ウクライナ正教会がロシア正教会との関係を断絶する方向に動いています。この動きは、ロシア正教会の国際的な孤立を加速させる可能性があり、その結果、宗教的、政治的、そして社会的な影響が予想されます。
この記事では、この問題の背景、世界中のキリスト教団体の立場、および今後の可能性について詳しく検討します。
【ウクライナ危機(38)】キリル総主教が支持するウクライナ侵攻!ロシア正教会の聖戦宣言とは?
The Russian Orthodox Church’s Isolation
『孤立するロシア正教会』
ロシアによるウクライナ侵攻は、キリスト教の3大教派の一つである「東方正教会」に衝撃を与えました。ロシア正教会は、最大の信徒数を誇り、正教会の盟主を自任していますが、そのキリル総主教が侵攻を支持する立場を明らかにしたのです。
これに対して、世界各国の正教会や、ロシア正教会内部からも侵攻を批判する声が上がりました。侵攻によってロシアは国際的な孤立を深め、ロシア正教会も正教会内での立場が苦しくなっていきました。
このような状況の中で、ウクライナ正教会は、ロシア正教会との関係を断絶する方向に進み始めました。
世界各国の正教会から批判の声が上がる
オランダ・アムステルダムの聖ニコラス正教会はこの戦争をきっかけに一歩を踏み出しました。教区司祭は礼拝でキリル総主教を祝福するフレーズを使用するのを止め、それは露骨な抗議行動と解釈されています。
さらに、ギリシャ正教会のイエロニモス大主教(ギリシャ・アテネ)は2022年3月14日にキリル総主教に対して、政治的な動きや戦争計画に反対するよう訴えました。イエロニモス大主教の言葉には、正教会内で戦争を推進する行動がキリスト教徒としての信ぴょう性を損なうという重要な警告が含まれています。
また、日本正教会も独自の立場を示しました。ロシア正教会に属するこの自治教会は、3月に「あらゆる暴力行為と破壊に反対」という声明を発表しました。日本にはカトリック教徒やプロテスタントが多く、正教徒は少数派です。しかし、その少数派からも反対の声が上がっています。東京大主教区、東日本、西日本主教区の3教区があり、約1万人の信者が属しています。
ロシア国内での反対運動
ロシア国内では、ロシア政府のウクライナ侵攻に対しても異議を唱える動きが見られます。「平和を支持するロシアの司祭」というグループは、ウクライナで進行中の「非常に残忍な命令」を非難する書簡に約300人の正教徒が署名しました。
この書簡では、ロシア政府とウクライナ政府の板挟みになっている数百万人についても触れており、「ウクライナの人々は、西からも東からも圧力を受けることなく、銃口を突きつけられることなく、自らの意志による選択を行うべきだ」と訴えています。
東方正教会の分裂の兆し
ロシアのウクライナ侵攻は、東方正教会の首長格であるバルトロメオ1世総主教(コンスタンティノープル正教会)と、ロシア正教会のキリル総主教との間の葛藤を激化させています。この対立は、東方正教会が分裂する可能性を高めています。
バルトロメオ1世総主教はあるインタビューで、「キリル総主教はプーチン大統領と多くを同一視するべきでなかった。ウクライナ侵攻を『神聖なもの』と呼ぶべきではなかった」と指摘しました。さらに、「正教会は戦争、暴力、テロを支持していない。キリル総主教は正教会全体の名誉を失墜させている」と痛烈に批判しました。
コンスタンティノープルの大司教は「平等の中で第一」と見なされていますが、他の総主教の管轄権に対する直接の権限はありません。それにもかかわらず、ウクライナ侵攻に対しては、ロシア正教会のキリル総主教を除いて、ほとんどの指導者が非難の声を上げています。
ウクライナ国内の2つの正教会が結束
ウクライナでは、キエフ総主教庁とモスクワ総主教庁の両方に属する正教会聖職者が「戦争反対」という立場で結束しています。この結束は、教会内部での分裂を回避し、地域的な安定を支援する可能性があります。
キーウのオヌフリイ府主教、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教は、2022年2月24日にウクライナ国内の信者向けに、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」と呼び、「我々は、もともとキーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族である。我々が互いに戦争をしていることは最大の恥だ」と述べました。
更に、創世記に記述されている、人類最初の殺人、カインによるアベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「カインの殺人だ」と述べました。このメッセージはロシアとウクライナの正教会の両方で大きな波紋を呼び起こしました。
米キリスト教指導者からのキリル総主教への要請
3月11日、100人以上のアメリカのキリスト教指導者、複数の教派を含む、はキリル総主教に宛てて書簡を送り、ウクライナへの侵攻を止めるために影響力を行使するよう要請しました。キリル総主教はロシア正教会の最高指導者で、彼の立場と発言は、ロシアとその信者に多大な影響を与えます。
書簡では、「私たちはレント(四旬節)の精神に則り、この戦争がもたらした恐ろしい人的苦痛のために、あなたが表明したこの戦争への支持について、祈りつつ再考することを求めます」と記されていました。
世界教会協議会(WCC)とロシア正教会の緊張関係
世界教会協議会(WCC)は、信仰と聖餐の交わりにおける目に見える一致を目指し、1948年にアムステルダムの第1回総会で創立された国際的なキリスト教の組織です。現在、110カ国以上、349の教団および教会の連合体、約5億6千万人の信徒が加盟しています。ロシア正教会もWCCのメンバー教会の一つです。
2022年3月2日、WCCの暫定総幹事でルーマニア正教会の神父であるイオアン・サウカ師は、ロシアのウクライナ侵攻に対し、キリル総主教に宛てた公開書簡で反戦の声を上げるよう要請しました。しかし、キリル総主教は数日後、反論し、戦争の責任はロシアではなく、西側諸国とロシアの関係にあると主張しました。
このやり取りは、ロシア正教会とWCCとの、時に険悪な関係を反映しています。過去に、ロシア正教会はWCCがリベラルな方向に進んでいると非難し、1997年にWCCを脱退すると脅しました。
また、ジュネーブに本部を置くWCCから、「ロシア正教会をWCCメンバーから追放すべきだ」という声が高まっています。WCCのサウカ暫定事務局長は、除外の決定は中央委員会に委ねられており、8月31日から9月8日にドイツのカールスルーエで開催されるWCC第11回総会の準備をする中央委員会が、関係教会の除外問題を決定すると述べました。
世界福音同盟(World Evangelical Alliance, WEA)とその対応
世界福音同盟(WEA)は1846年に設立された、福音派プロテスタント教会と組織を代表する国際的なネットワークです。
当初、イギリスのロンドンで開催された集会には、11カ国から52教派、約800人の福音派指導者が参加しました。設立当初から、異なる教会や組織に所属するクリスチャンが一つにまとまるというビジョンを掲げています。
現在では、WEAは143カ国において約6億人の福音派クリスチャンを代表する組織となっており、教会と信仰に関する多様な問題、信教の自由、児童労働、人権など、社会的に重要なテーマについても積極的に意見を発表しています。特に近年では、国連との関係を強化しており、国連経済社会理事会に対する特別協議資格も得ています。
WEAは、欧州福音同盟(European Evangelical Alliance, EEA)と連携して、ロシアの国際法違反を公然と非難。ウクライナに対する攻撃の即時停止と、世界中の教会に平和の回復を祈るように呼びかけました。
WEAのトーマス・シルマッハー総主事は、「ヨーロッパは過去に戦争の恐ろしさを目撃しており、武力紛争と軍事占領は苦しみと荒廃をもたらすだけである」とコメントしています。
このような発表は、世界教会協議会(WCC)とは異なる立場を示すものとなり、宗教団体が国際的な紛争に対してどのようなスタンスを取るべきかという問題に更なる燃料を投じています。
特に、WEAとWCCがそれぞれ異なる方向性で行動を起こしている現状は、宗教団体内外での対話と協調が今後いっそう重要になることを示しています。
世界福音同盟が欧州福音同盟と連帯してロシアを批判
ロシア福音同盟のヴィタリィ・ヴラセンコ総主事は、2022年3月12日に、世界の福音派に宛てた公開書簡で、軍事紛争の結果として苦しんでいるすべての人々に対して謝罪。
ヴラセンコは「私は自分の国が最近、主権国家であるウクライナに軍事侵攻したことを嘆いている」「市民として、そしてロシア福音同盟の総主事として、この軍事紛争の結果として苦しんでいる、愛する人や親戚、居住地を失ったすべての人々に謝罪する」と述べました。
ヴラセンコは、侵攻の前日にもプーチンに戦争回避の書簡を送っており、平和のため国際的な祈りや難民の人道的支援を行っています。
実は、この声明が出される一週間ほど前、3月4日にロシア議会は刑法を改正し、軍の「信用を落とす」とされる「フェイクニュース」を流した場合、最長15年の禁固刑が科されることになりました。
この改正法の影響で、正教会の司祭が説教で軍隊を貶めたとして、ロシアの裁判所から35000ルーブル(261ドル)の罰金の支払い命令が出されました。この罰金はヴラセンコの信徒が支払う手助けをしました。
実際に正教会の司祭が説教で軍隊を貶めたとして、ロシアの裁判所が35000ルーブル(261ドル)の罰金の支払い命令を出されていました。ヴラセンコの信徒が罰金を支払う手助けをしています。
WCRP/RfP国際委員会のウクライナ情勢に関する声明
2022年2月28日、WCRP/RfP国際委員会はウクライナ情勢に関する声明を発表しました。
(「WCRP世界宗教者平和会議(World Conference of Religions for Peace)」は、1970年に発足した国際NGOで、国際諸宗教の叡智を集結し、宗教協力と国際連帯のもとに、平和構築活動を行なっている)
この声明では、非暴力による解決と戦争放棄に向けたWCRP/RfPの強い意志を示すため、欧州宗教指導者評議会のメンバーが中心となり、各地域委員会の意向を踏まえて作成されたものでした。
声明では、平和への深い宗教的信念に基づき、いかなる暴力も断固として拒否する意向を表明し、暴力的な紛争は決して建設的な結果をもたらさないと強調。今回の軍事衝突に反対するとともに、紛争に巻き込まれた一人ひとりのために心から祈りを捧げることを明示しました。
さらに、暴力は暴力を生むとした上で、ロシアとウクライナの各宗教宗派の信者に向けて、全ての宗教の根本的な目的を思い出し、共に平和を求めて立ち上がり、声を上げるように呼びかけました。
政治指導者に対しても、人間の命の尊さを思い起こし、この無意味な暴力を直ちに停止するよう求めました。
さらに、国際委員会は諸宗教人道支援基金を使って、避難民を援助する諸宗教の取り組みの提案を募集すると表明しました。
日本委員会の声明
3月2日には、WCRP/RfPの日本委員会が植松誠理事長(日本聖公会主教)名の声明を公表しました。この声明では、2月24日に開始された軍事侵攻により人道的危機が起きていることを伝え、紛争によって大きな犠牲を強いられるのは無辜の市民であり、脆弱な立場にある人々であると強調されています。
さらに、核戦力への懸念を示し、「核兵器使用絶対反対」を強く訴え、いのちの平等なる尊厳性を認識し、平和とすべての人々の心の安寧が一刻も早くもたらされるよう真摯に祈りを捧げるとしています。
ローマ教皇(バチカン)は停戦を呼びかける
世界に13億人を超える信者を持つ、ローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ教皇フランシスコは、ロシアによるウクライナ侵攻に関連して、多くの犠牲者が出ていることを非難し、侵攻前から停戦を求め続けていました。
ローマ教皇フランシスコとウクライナ問題
ローマ教皇フランシスコは、2021年12月12日、バチカン広場で行われた正午の祈りで、ロシアがウクライナ国境に軍を集結させ、緊張が急速に高まっている状況について言及しました。
教皇は、「ウクライナとその周辺での緊張が、武器ではなく、国際的な交渉によって解決されることを願っている」と述べました。
さらに、武器の生産が昨年(2020年)よりも増加しているという最近の統計に「苦痛を感じている」と明言し、この状況を非難し、「武器は、(平和への)道ではない」と力説しました。
12月17日には、教皇がロシアのウクライナ侵攻を予期し、アレクサンダー・アドヴェエ大使を通じて、一般市民、特に子供たちと病人などの苦しんでいる人々にも影響を与える戦争への恐れを表明しました。教皇は、特に子供たちの保護と、苦しんでいる人々の救護について強調しました。
「1月26日を“ウクライナ平和祈願の日”」ウクライナ危機について声明
ウクライナ侵攻の1ヶ月前の2022年1月23日、ローマ教皇フランシスコはバチカン広場で行われた正午の祈りの席上で、緊迫するウクライナ情勢について言及、この状況が欧州大陸の安全保障を疑問視させるだけでなく、より広い地域にも影響を与えるとして、緊張の高まりを憂慮する旨を表明しました。
また、教皇は「全ての善意の人々(信徒)」に、政治的な活動やイニシアチブが一方的な利益ではなく、人類の友愛に奉仕するよう、全能の神に対して祈りを捧げるよう呼びかけました。
さらに、他者に害を与え自分の目的を追求する人々を非難しました。教皇はこれらの行動は、人間が全て兄弟として創造されたことを無視し、人間としての使命を侮辱するものであるとしました。
教皇は、ウクライナにおける緊張の高まりを考慮し、1月26日を「ウクライナ平和祈願の日」とすることを提唱しました。
その日、教皇はバチカンで行われた一般謁見の席上で、「ウクライナの地で友愛の花が開き、傷痕、恐怖、分裂を乗り越えることができるように」と願い、信徒に祈りを捧げるよう呼びかけました。
これについて教皇は、当日の祈りと嘆願が天に届き、地上の政治的な責任者の頭脳と心を動かし、対話が優先され、一部の人々に偏らないよう、全ての人々の利益となることを願ったと述べています。
教皇フランシスコの平和への行動
このように、ローマ教皇フランシスコは、ロシアによるウクライナ侵攻に対して非常に厳しい立場を取り続けています。教皇は、毎週日曜日に行われるアンジェルス(天使の祈り)で、戦争を強く非難し、その早期終結と世界平和を強く願っています。
侵攻が始まった2月24日には、戦争解決のための最初の提案を行いました。教皇のそれは単なる言葉だけではなく、具体的な行動も伴わせていました。
教皇は、戦争が始まるや否や、ウクライナの東方典礼カトリック教会首位大司教であるスヴィアトスラフ・シェブチュックに電話をかけ、「平和のためにできることは全て実行する」と伝えています。
侵攻から2日後の2月26日には、ローマにあるロシア大使館に自ら出向き、戦争に対する深刻な懸念を伝えました。
さらに、教皇はSNSでロシア語とウクライナ語で「我々は皆きょうだいである」と述べ、「戦争は政治の破滅であり、人類の破滅である」と強く訴え、平和のメッセージを発信しています。
また、3月2日の「灰の水曜日」(痛悔の日)に、信仰者や無神論者を問わず、全世界の人々に対してウクライナの和平と断食の日を提唱しています。
教皇のメッセージは、戦争の終結と平和の回復を強く願うもので、国籍や信仰を問わず、全人類に向けられたものでした。
ゼレンスキーと電話会談
教皇フランシスコは、ロシアのウクライナ侵攻の直後にウクライナの大統領ヴォロディミール・ゼレンスキーと電話で会談しました。この事実は、バチカンがこの地域の緊張の高まりに深く関与し、積極的に解決を図ろうとしていることを示しています。
バチカン・ニュースの報道によれば、教皇は2月26日にゼレンスキー大統領と電話で会談しました。駐バチカンウクライナ大使館は、「教皇は私たちの国で起きている悲劇的な出来事のために、深い悲しみを表した」とSNSに投稿しました。これに対して、ゼレンスキー大統領も、「教皇がウクライナの平和と停戦のために祈ってくれたことに感謝した。ウクライナ国民は教皇の精神的支えを感じている」と投稿しました。
キリル総主教に連絡し「市民の犠牲」を避けるように要請
教皇フは、この危機を解決するために、すべての関係者、ロシア正教会のキリル総主教とも連絡を取り、平和への努力を重ねています。教皇は、「市民の犠牲」を避ける努力をするようキリル総主教に要請しました。これは、教皇がこの危機において中立的な立場を取り、すべての当事者に対して平和と対話を求めていることを示しています。
2022年3月6日の一般謁見の際には、教皇はウクライナ侵攻について次のように述べました。
「ヴァチカンはできることは何でもする」
「特に平和の維持のため、戦争の終結のために働く」
「戦争当事者の間に同じ距離を持って立つ」
「我々は死者を生み出す戦争そのものを中止させたい」
「ローマには太陽が燦々と注ぐ日に、ウクライナでは、血が流され、涙が流れているのだ」
この発言は、教皇が平和と和解のために努力を惜しまないこと、そして、紛争に関わるすべての当事者に対して中立的な立場を取っていることを示しています。
「時代錯誤の権力者が戦争を引き起こしている」プーチンを非難
教皇フランシスコは、ロシアの大統領、ウラジーミル・プーチンを名指しで非難することこそありませんでしたが、その言葉からは強い怒りと失望が感じられます。
2022年4月に地中海の島国マルタを訪問中、演説の中で「時代錯誤の権力者が戦争を引き起こしている」と述べ、その後もプーチンの批判を続けました。
教皇は「東欧から戦争の暗闇がやってきた」と述べ「戦火に引き裂かれたウクライナ」からの避難民が増加していると強調しました。
これに続いて、プーチンがウクライナへの軍事攻撃を開始し、核兵器運用部隊に戦闘警戒態勢を取るよう命じたことを考慮し、「他国への侵攻や核による脅迫は大昔のおぞましい記憶だと思っていた」と非難しました。
また、教皇は、戻りの飛行機の中での記者会見でも、プーチンに対する批判を続けました。「全ての戦争は常に不正義から生まれる」とし、正当化できる戦争は存在しないと明言しました。
教皇は、第二次世界大戦後に広島と長崎に原爆が投下されたことを受け、核兵器の廃絶に向けた機運が高まったにも関わらず、「70年、80年後に何もかも忘れてしまった。われわれは戦争に取りつかれており、学ぶということがない」と嘆きました。
「プーチンの言いなりになるな」キリル総主教に呼びかけ
フランシスコ教皇とロシア正教会のキリル総主教との間で、ウクライナ侵攻についての意見の相違も明らかになっています。
2022年3月16日、教皇はZoomでキリル総主教と40分ほどの会談を行いました。
会談の冒頭でキリル総主教は、戦争を正当化する理由を20分間にわたって読み上げました。
しかし、フランシスコ教皇は、その理由のいずれも理解できないと述べ、国家が任命した聖職者でなく、神の聖職者であること、そして政治の言葉ではなく、イエスの言葉を使うべきだと指摘しました。また、キリル総主教がプーチン大統領の侍者、つまり、言いなりになってはいけないとも述べています。
一方、ロシア正教会の対外関係部門は、フランシスコ教皇の発言に対して、キリル総主教との会談内容を間違った観点から捉えているとし、遺憾であるとの声明を発表し、教皇そのような発言は、ローマ・カトリック教会とロシア正教会の建設的な対話の構築にも寄与しないとの苦言を呈しました。
ウクライナ正教会とロシア正教会の関係断絶
ウクライナで戦火が広がる中、ウクライナ正教会(モスクワ聖庁)がロシア正教会との関係を断絶するという歴史的な決断が下されました。
この重要な決定が成されたのは、2022年5月27日にキーウ近郊の聖パンテレイモン修道院で開催されたウクライナ正教会の評議会においてでした。
評議会では、「ウクライナでの軍事作戦を擁護するロシア正教会トップ、キリル総主教の立場には同意しない」と明言し、さらに「ウクライナ正教会の完全な独立」を宣言しました。
これによって、ウクライナ正教会はロシア正教会からの宗教的な依存を断ち切るとともに、政治的なメッセージも強く発信したのです。
ウクライナ正教会モスクワ聖庁は、ウェブサイト上でこの聖会議の決定を公表し、「私たちは、全ルーシ・モスクワ総主教キリルのウクライナにおける戦争に関する立場への不同意を表明する。会議は、ウクライナ正教会運営憲章への関連の追記と変更を採択した。これらは、ウクライナ正教会の完全な自立と独立を示す」との声明を発表しました。
聖会議の決定とその意味
聖会議では、今回の戦争を聖書の教えに反するものとして非難し、戦争の被害を受けた全ての人への同情を表明しました。
また、ウクライナとロシアの政権に対して、「協議を継続し、流血を止め得る強力かつ懸命な言葉の模索」を要請しました。
しかし、すべての教区がこの決定を受け入れたわけではありません。クリミアを管轄する教区は独立を宣言した一派に反対し、ロシア正教会の管轄下に残ると5月28日に表明しました。
ロシア側もこの決定に対しては即座に反応しました。ロシア正教会トップのキリル総主教は5月29日、「ウクライナの教会が今日、苦しんでいることを完全に理解する」との声明を発表し、モスクワの救世主ハリストス大聖堂でその立場を表明しました。
ウクライナ正教会のロシア正教会からの独立宣言は、ウクライナが自国の主権と独立を強化しようとする意図の表れであり、ロシアの影響力を一層削減する一環であると解釈されます。
しかし、これには様々な反応が見られました。特に、クリミアの教区がこの決定に反対したことや、ロシア正教会トップのキリル総主教がウクライナの教会の苦しむ姿を理解すると述べたこと、これらはこの問題が未だ複雑であることを示しています。
ウクライナとロシアの関係は、これからも世界の注目を浴びるでしょう。特に、ウクライナの教会の独立が両国の関係、そして全世界の正教会にどのような影響を与えるかは、非常に興味深いポイントであり、今後の動向に目を光らせることが必要です。
【ウクライナ危機(40)】ロシアで続くLGBTQへの差別、ウクライナ侵攻との関係を探る