情報の時代において、私たちが日常的に受け取るニュースや情報の背後には、さまざまな意図や背景が隠されていることが少なくありません。特に、国際的な紛争や政治的な動きが関わる場面では、情報の真実性を問うことが一層重要となります。
ウクライナの侵攻を巡る報道は、世界中のメディアで大きな注目を集めていますが、その中でも特に注目すべきは、SNSを通じた情報の流布や操作の動きです。今回は、SNS上での情報発信を中心に、情報がどのように形成され、拡散されているのかを探る試みをしてみたいと思います。
【ウクライナ危機(34)】ウクライナ正規軍の中のネオナチがロシア系住民をジェノサイド!?侵攻の口実「アゾフ連隊」
Ukrainian bioweapons labs
プーチン大統領の新たな主張!ウクライナの大量破壊兵器開発
侵攻後、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナが核兵器や生物兵器といった大量破壊兵器の開発を進めている」という主張を強調し始めmした。これは新たな展開を迎えるロシアの対ウクライナ政策を示すものとして、国際社会の注目を浴びることになりました。
当初、ロシアはウクライナ侵攻の主たる理由として露系住民の保護や、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対する自衛を強調していました。しかしその主張は、露国民や国際社会からの強い支持を受けることはできず、国際的な非難を浴びる結果に繋がっていました。
この新たな「大量破壊兵器開発」の主張は、ロシアが侵攻の正当性を強化し、国民や国際社会に対して新しい「大義」を提示しようとしているとの見方が強まっています。多くの専門家や有識者は、この主張も証拠が乏しいと指摘し、ロシアが侵攻を正当化するために新たな口実を探しているのではないかとの懸念を示しています。
これらの動きに対し、ウクライナ政府や関連国際機関は強く反発し、プーチン大統領の主張を根拠なくするものとして非難を強めました。
ウクライナが“ダーティーボム”を製造?原発の制圧理由
侵攻を開始したロシア軍は、まずチェルノブイリを制圧し、その後ウクライナ南部に位置するザポロジエ原子力発電所を手中に収めました。この制圧に際して、ロシア軍が原発に対して砲撃を行ったとの報告がウクライナ当局から上がっており、原子力施設への攻撃を強く非難しています。
ウクライナの非難に対し、ロシア側はウクライナがザポロジエ原発内で放射性物質を利用して「ダーティーボム(汚い)」を製造しようとしていたとの主張を行いました。ここで主張されたダーティーボムは、通常の爆発物と放射性物質を組み合わせて作られる兵器で、爆発によって放射性物質を拡散させるものでした。
さらに、ロシアの国営ニュースエージェンシー、タス通信は、「ウクライナが数カ月以内に核兵器を獲得する」との露当局者の話を伝えました。しかし、これらの主張に対して明確な証拠は提示されませんでした。
アメリカが資金援助する生物兵器研究の“証拠”を発見…ロシアの発表と嘘
2022年3月6日、露国防省報道官は、ロシア軍がウクライナのロシア国境近くで、アメリカからの資金提供を受けたとされる生物兵器研究の痕跡を発見したとの声明を発表しました。この発表によると、「ウクライナの生物学研究所から、ペスト、炭疽、野兎病、コレラなどの危険な病原体の緊急処理に関する文書がロシア側に入手された」という。
報道官の発表では、キエフ政権がアメリカ国防総省の資金援助を受けて、このような研究を行っていたとの主張がなされています。また、ウクライナ保健省が、全ての生物学研究所に対して危険な病原体の迅速な廃棄を命じたという文書も発見されたとのこと。
現在、これらの文書はロシアの核・化学・生物保護部隊の専門家によって分析中とのこと。しかし、ロシア側はすでに、ロシア国境から近い位置にあるこの研究所が、生物兵器の構成要素の開発を行っていたとの結論を下していると発表しました。
ロシアと中国がアメリカを非難
3月7日、ロシアの放射線・化学・生物学的防衛の責任者は、米国出資のリビウやハルキウなどの研究所が炭疽、ペスト、サルモネラ菌などの生物兵器を破壊しているとの主張を展開。ロシアは、これらの研究所が証拠を提供しないまま生物兵器を破壊しているとして、非難の矢を放った。
3月8日には中国外務省報道官もこの問題に言及。アメリカが生物兵器計画のためにこれらの研究所を使用しているとし、情報の開示をアメリカに要求。露国営メディア、RTも中国の報道官の発言を大々的に取り上げ、ウクライナにおけるアメリカの生物兵器施設の存在に対する疑念とその危険性を強調しました。
更に、3月9日には、露国防省報道官が「ウクライナの民族主義者がハリコフ北西の村に80トンのアンモニアを運び込んでいる」との発言を行い、その意図に関する疑問を投げかけました。
ホワイトハウス、ロシアの「生物兵器」主張に対して警戒を促す
3月9日夜、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、ロシアの最近の声明についてツイートを行い、国際社会に警戒を促しました。ロシアはウクライナ内の研究所でアメリカが資金提供する生物兵器研究の証拠を発見したと主張しています。
サキ報道官のツイートでは、ロシアのこのような虚偽の主張について触れるとともに、中国もそのプロパガンダを支援していると指摘。また、ロシアがウクライナで生物化学兵器を使用する可能性や、偽旗作戦の恐れについても言及しました。
「今やロシアはこうした虚偽の主張を行い、どうやら中国もそのプロパガンダを支援するようになった。ロシアがウクライナで生物化学兵器を使用する可能性や、それらを使った偽旗作戦を警戒する必要がある。それが明白なパターンだからだ」と、サキ報道官は強調しました。
ウクライナの公衆衛生研究所の実態と疑惑
確かに、ウクライナ国内には、病原体の研究や公衆衛生の脅威を軽減する目的で運営されている公衆衛生研究所が数十ヶ所存在しています。これらの研究所は、感染症の拡大を防ぐためや新しい治療法の開発など、様々な目的での研究活動を行っていることが知られています。
特に注目すべきは、これらの研究所の一部が、アメリカや欧州連合(EU)、世界保健機関(WHO)などの国際組織からの資金や技術的な支援を受けている点です。このような国際的な協力は、公衆衛生の向上や疾病の拡大防止のための共同の取り組みとして評価されています。
しかし、最近のロシアとの緊張の中で、ロシアはこれらの施設を「秘密の研究所」として、異なる目的で運営されているとの主張を展開しています。ロシアの主張は、これらの施設が生物兵器の開発や研究を行っているという疑惑を投げかけています。
一方、アメリカ大使館の公式ホームページでは、アメリカがウクライナの研究所にどのような支援を行っているかの詳細が公開されています。公開情報によれば、これは公衆衛生の向上や協力強化のための透明な活動であり、いかなる秘密活動や危険な実験を行っているとの事実は確認されていません。
アメリカの「生物兵器脅威削減プログラム」の背景と真実
ソヴィエト連邦の崩壊後、1990年代に新たに独立した国々、特にウクライナやカザフスタンなどは、多くの軍事的資産や研究施設を相続しました。この中には、核兵器や生物・化学兵器に関連するものも含まれていました。
アメリカは、これらの新たな独立国が経済的に困難な状況にあることを認識し、「共同脅威削減(CTR)プログラム」を立ち上げました。このプログラムの初めの目的は、これらの国々に残された核兵器やミサイルを安全に破壊し、再利用されることのないようにすることでした。
カザフスタンのステプノゴルスクのような場所には、地球上の全人類を殺す能力を持つ巨大な炭疽菌工場が存在していました。このような施設の安全な破壊や、関わっていた科学者たちの再雇用など、リスクの拡散を防ぐ取り組みが行われました。
その後、このプログラムは生物・化学兵器のリスク削減にも焦点を当てるようになり、アメリカは2005年からウクライナの公衆衛生研究所との連携を強化しました。これは、感染症のアウトブレイクの脅威に対抗するためのものであり、アメリカ大使館はこれらの研究所が生物兵器の製造に関与しているという証拠は一切ないと明言しています。
2022年1月、アメリカは再度、このプログラムの真の目的を強調し、「生物兵器拡散の脅威を減少させること」であると公式に表明しました。
2022年ロシアの米国とウクライナに対する生物兵器研究の主張
2022年3月、ロシア及び中国のニュースメディアは、米国とウクライナの生物兵器に関する研究活動についての注目すべき主張を公表しました。これらの情報は国際的な緊張の原因となり、多くの議論と懸念を引き起こしました。
イーゴリ・キリロフ中将(放射能・化学・生物防衛部隊長官)の声明
- 米国、NATO、ウクライナの共謀による、渡り鳥を利用した致死性の高いウイルスの拡散研究を指摘。
- ウクライナ国防省が、バージニア工科大学や米国地質調査所との連携のもとで、コウモリやデング熱などの生物兵器に関する研究を行っているとの主張。
- COVID-19の大流行に関連し、これが米国やNATOのウクライナにおける研究の結果である可能性を示唆。
観察者網の報道
- 米国のウクライナでの生物兵器実験を取り上げ、「旧日本軍の731部隊のようだ」というロシア軍関係者のコメントを紹介。
- アメリカが、ウクライナの鳥を利用して、高致死率の疾病をロシアに拡散させる計画に取り組んでいるとの指摘。
キリロフ中将のその他のコメント
- 米国がキエフ、ハリコフ、オデッサの実験室から資料を持ち出し、ポーランドへの移動も示唆。
- 731部隊の活動との類似性を強調し、731部隊のメンバーが戦後、米国に保護されたとの情報を提供。
米ウクライナ、ロシアの生物兵器指摘に反論
米国とウクライナは、ロシアが主張する生物兵器の疑惑に対して明確に否定をし、反論の声明を発表しました。
ゼレンスキー大統領の公式声明
ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上でウクライナが生物兵器や大規模殺傷兵器の開発に関与したことは一切ないとの立場を明確にし、「これは国際社会が知っており、ロシア人自体も認識している」とのコメントしました。
米国側の反論と説明
米国側は、生物兵器の疑惑に対し、連日のように明確な反論を行いました。
ヌーランド国務次官は、ウクライナに存在する生物学研究施設に対するロシア軍の関心を懸念する発言を行ったが、その後米政府は研究施設と米国との関連を即座に否定しました。この点に関して、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「ロシアと中国の陰謀」との見解を示しています。
また、米国務省のプライス報道官は、ウクライナでの鳥に関する生物実験について「虚偽のプロパガンダ」と位置づけ、米国がウクライナに生物実験施設を所有しているとの主張を退けました。さらに、ウクライナが国際的な協定を完全に順守しているとの立場を強調しました。
米国防総省とCIAの見解
米国防総省はロシアの主張を「不条理」と一貫して退けている。CIAのウィリアム・バーンズ長官は、ロシアのこの主張が、将来的に自国が化学や生物兵器を使用する可能性の伏線であるとの見解を示し、米軍やウクライナ軍に対する非難の矛先が意図的に向けられている可能性を指摘しました。
ロシアの陰謀論「ピジョン計画」から現代の主張
ロシアの主張はかつて実在したアメリカのとある計画に基づいています。
第二次世界大戦中のアメリカの研究開発プロジェクト、「ピジョン計画」は、ハトを用いた爆弾誘導の試みとして始まりました。この計画の存在は、後にロシアによって様々な陰謀論の根拠とされることとなりました。
ピジョン計画の背景
第二次世界大戦中、アメリカはさまざまな技術や方法を試みて戦争を有利に進めようと努力していました。その一環として、「ピジョン計画」は爆弾の精密な誘導を目的として研究されました。しかしこの計画は、実戦での利用はなく1953年に中止されました。
ロシアの陰謀論の誕生
それから数十年後、ロシアは突如としてアメリカがウクライナで鳥、コウモリ、爬虫類を利用した生物兵器の研究をしているとの主張を展開しました。特に、「コウモリ由来のコロナウイルス」の研究に関する情報が引用されることが多く、この主張は証拠が示されずに伝えられました。
一方、ウクライナ侵攻が始まってから発表したイーゴリ・キリロフ中将の陰謀論は、ウクライナに米軍の細菌戦争研究所が存在するというものです。この陰謀論は、ロシアが数年前から唱えてきた陰謀論を再燃させる要因となりました。
国連安全保障理事会、ロシアのウクライナに関する生物兵器主張を審議
2022年3月11日、国連安全保障理事会の緊急会合がロシアの要請で開催され、ウクライナでの生物兵器開発プログラムに関するロシアの主張が焦点となりました。しかし、会合での多くの発言は、ロシアの主張を支持しないものでした。
ロシアの主張
ネベンジャ国連大使によると、ウクライナはアメリカの支援を受けて、生物・化学兵器計画を進めているとのこと。特に、ウクライナがコウモリからヒトへの感染を研究している30の施設が存在すると主張した。しかし、具体的な証拠は示されていない。
反論と懸念
日本人女性初の国連事務次長で軍縮担当上級代表の中満泉(なかみつ いずみ)は、国連がウクライナでの生物兵器開発を認識していないと明言。英国のウッドワード国連大使は、ロシアの主張を「陰謀論」として批判。
アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使も、アメリカがウクライナで生物兵器を支援していることを否定し、ロシアが「偽旗作戦」の準備をしているのではないかとの懸念を示しました。また米国が新型コロナウイルス対策として医学研究を支援してきたことを強調しました。
他の安保理メンバーからも、ロシアの主張は「ナンセンス」との声が上がり、ロシアが民間人を標的にしているとの非難がなされました。ウクライナのキスリツァ大使は、ロシアの情報発信が新たな「偽旗作戦」の前兆である可能性があるとの懸念を示しました。
一方で、ロシアはこれらの非難に対して、「私たちは戦争を終わらせたい」と反論しました。
ロシアの主張、 ハンター・バイデン氏のウクライナ生物研究所への関与
その後、ロシア国防省や他のロシアの役人たちは、ジョー・バイデンの息子「ハンター・バイデン」がウクライナにおける米国防総省の軍事生物プログラムに関与していたとの主張を展開しました。
イーゴリ・キリロフ中将の主張
2022年3月24日、イーゴリ・キリロフ中将は、ハンター・バイデンの投資ファンドがウクライナでの米国防総省のプログラムの資金提供に関与していたと主張しました。
アレクサンドル・バスティルキン議長の指示
ロシア連邦検察委員会のアレクサンドル・バスティルキン議長は、ウクライナでの生物兵器開発の資金源を調査するよう指示しました。
ドミトリー・ペスコフ報道官の声明
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ハンター・バイデン氏の関与の報告を受け、米国側に説明を要求すると明らかにしました。
キリロフ中将の記者会見
タス通信によれば、3月31日にキリロフ中将がモスクワで記者会見を開き、ハンター・バイデン氏がウクライナの生物兵器開発に関与していたことを示す書簡が見つかったと主張しました。キリロフ中将は、ハンター・バイデンが関連施設の資金提供で主要な役割を果たしていたとも述べました。
信ぴょう性について
しかし、これらの主張の信ぴょう性や証拠の具体性については明確でなく、さらなる検証や詳細な情報提供が求められる状況となっています。
国連本部でロシアが生物兵器を巡ってアメリカを批判
さらに、ロシア国防省の代表は4月6日、「アメリカがウクライナで生物兵器の開発を進めている」と主張し、バイデン大統領の息子のハンター・バイデンらが、これに関係する企業に投資するなどして関与していると発表しました。
また、中国外務省の調査を元にアメリカが国外で336の生物兵器の研究所を管理し、中国とロシアの国境近くに60の施設があると強調しました。
さらに、「ドローンに病原体を持つ蚊を乗せてロシアに拡散させる計画も明らかになった」としています。
アメリカはこの会合に参加しておらず、出席したアルバニアの代表は「この会合はロシアのウクライナでの残虐行為から目をそらすためのものだ」と批判しました。
生物兵器陰謀論の期限ははソ連時代!KGBによる情報工作
1980年代初頭、世界はエイズの拡大に直面していました。この恐ろしい新しいウイルスに対する恐怖と知識の欠如は、様々な誤解や推測を生み出す温床となりました。ソビエト連邦はこの機会を利用し、エイズがアメリカ軍の生物兵器研究の産物であるという偽情報を拡散し始めました。これは「インフェクツィオン作戦」として知られるようになります。
KGBとパトリオット紙
1983年、ソビエトの諜報機関KGBは、インドの新聞「パトリオット紙」を使用して、エイズの起源に関する誤った情報を広めました。この論文は広範囲にわたり拡散され、多くのメディアがその内容を信じて報道しました。
KGBが情報を掲載した「パトリオット紙」は、ソビエトの影響下にあった。この情報は、ソビエトや親ソビエトのメディアに広く取り上げられ、その結果、情報作戦は大きな成功を収めることになります。
目的は反米感情を高めること
エイズの起源に関するデマは、西側、特にアメリカのイメージを悪化させるために広められました。その背景には、アフリカや開発途上国といった、両大国間での影響力拡大をめぐる競争があった。
ソ連は、これらの国々で反米感情を煽り、自国の影響力を強めることを狙っていました。デマを広めることで、アメリカの信用を低下させ、ソ連や社会主義陣営への接近を促進するというのがその狙いでした。
アメリカの生物研究
実際にアメリカは、1975年に発効した生物兵器禁止条約をアメリカが署名する前、生物兵器に関する研究が行われていました。また、その後も、アメリカは対生物剤に関する研究を続けています。
1970年代には、米中央情報局(CIA)がフィデル・カストロ最高指導者の暗殺を試みるなど、さまざまな秘密工作を実施していました。これらの事実を考慮すると、アメリカを疑問視する人々にとって、エイズ起源の陰謀論が信じられるものとして受け入れられる可能性が高かったのです。
このような歴史的背景を考慮すると、ソ連が展開したプロパガンダは、非常に効果的だったと言えます。
ソ連の戦略
一方で、ソ連自体も生物兵器の研究や製造を進めていたことが、その後明らかになりました。このような背景の中で、ソ連は先制してアメリカを非難し、自国の行動を正当化するための材料として、エイズのデマを利用したのです。
ソ連崩壊後のロシアの情報戦
ソ連が崩壊した後、新たに成立したロシアは、国際的な舞台での自国の影響力を維持・増強するために、情報の戦略的な使用を積極的に進めてきました。
ロシアはソ連時代の秘密の情報戦技術や方法論を引き継ぎつつ、新しい技術やメディア環境に適応させていきました。この活動は、他国の弱点や機密情報の収集だけでなく、自国の政策や立場を有利にするための情報操作も含まれています。
現代のデジタル化された社会において、SNSは情報の拡散ツールとして非常に有効であったため、ロシアは国の統制下にあるメディアを活用して、特定の情報や視点を国内外に広める手法としてSNSを利用し始めました。
COVID-19と陰謀論
過去には、エイズがアメリカの生物兵器研究所で作られたというデマが広まりましたが、COVID-19に関しても、アメリカが関与したという陰謀論が広がりました。これらの情報は、公的な確認や証拠が存在しないにも関わらず、SNSを通じて迅速に拡散されていきました。
ロシアの国営放送であるRTなどは、このような情報を積極的に報道しました。その結果、この情報の信頼性が高まったかのように感じられ、一部の人々はこのような陰謀論を信じてしまい、さらに情報拡散に加担する人も出てきました。
このようなロシアの戦略は、前述のソビエト時代のエイズ起源の陰謀論と類似した手法であり、特定の国や団体に対する疑念や不信を煽ることを目的としていると考えられます。
これらの陰謀論の情報源が国の統制下にあった場合、その情報内容が客観的かどうかを判断するのは難しく、個人個人がリテラシーをもって情報の信頼性や出所を常に検証することが重要になっています。
ロシアが主張する生物兵器研究所説をQアノンが拡散!?
「ウクライナに米国支援の生物兵器研究所が存在する」というロシアのプロパガンダ情報は、陰謀論集団「Qアノン」を通じてさらに広まっていきました。
Qアノン、反ワクチン運動、そしてプーチン大統領のイメージ
Qアノンは、いわゆる「ディープステート(DS)」と呼ばれる影の政府が実質的に世界を支配しているとの信念を持つ集団です。この「ディープステート」は彼らにとって悪の象徴となっており、彼らはその打倒を目指しています。
一方、反ワクチン運動は、ワクチンに対する疑念や誤情報を広める運動ですが、Qアノンとは異なる背景を持っています。しかし、両者は政府や大企業への疑念という共通の敵意を持ち、その点で相互作用が見られています。
また、Qアノンの一部の支持者にとって、ロシアのプーチン大統領は「ディープステート」に立ち向かって戦っている英雄として描かれています。これは彼らの独自の情報解釈と信念に基づいています。したがって、ウクライナにおける軍事作戦などの行動も、彼らのフィルターを通して解釈されるため、一般的な報道や認識とは異なる解釈がされることがあります。
陰謀論の連鎖…偽情報の共有が変遷する仕組み
今や陰謀論や偽情報は、単なる噂話の域を超え、国際的な情報戦に影響を及ぼすほどの力を持っています。SNSの時代に、情報は瞬く間に拡散し、その影響は国境を超えて広がっているのです。その中で、偽情報の源泉や流通経路の分析は、現代社会における重要な課題となってます。
- 偽情報の変遷
米大統領選、ワクチン、ウクライナといった 一見すると無関係なトピックでも、特定のグループやネットワークが陰謀論を拡散しているという指摘がある。これらの情報は、異なるテーマにも関わらず、共通の情報源から発信される傾向がある。 - 情報の背後にある意図
ウクライナ侵攻の際に、対ロシア批判が強まる中で、SNS上のプーチン政権擁護の投稿が増加。これは、特定の偽情報ネットワークが意図的に情報操作を行っている可能性を示唆している。 - データからの警告
一見、無関係に見える陰謀論に次々と傾倒していく人々の動き。この傾向は、社会の一部が真実と偽りの境界を見失いつつあることを示しており、偽情報の拡散とその影響をより深く理解する必要がある。
日本のSNSにおける偽情報の拡散
国際的な情報戦の背景で、SNS上で「ウクライナ政府はネオナチ」というロシアの主張が日本の情報空間で拡散されている現象が明らかになっています。この主張は海外のパターンと同じく、特定の陰謀論者や情報源を通じて流布されています。
鳥海不二夫教授の調査結果
- 調査期間中、約1万のアカウントがこの主張を計3万回拡散。
- このアカウントの約47%はQアノン独特の言葉を含む投稿を拡散していた。
- さらに、約88%がワクチンに関する否定的内容を拡散していた。
拡散された主張の一部
- プーチンは悪くない!ウクライナ政府とDS(ディープステート)は腐っている。
- ロシアはウクライナの米国ディープステート支援の生物学研究所を爆撃。
- ウクライナ軍は自国民を攻撃し、それをロシア軍がやったことにしている。
鳥海不二夫教授の見解
鳥海不二夫教授によると、ロシアの主張やQアノンの主張を拡散しているアカウントは大部分が重複している可能性があり、これらの主張間に親和性がある可能性が高いと考えられるという。一方で、自分が知っていると思った真実の背後に潜む誤情報や偽情報には注意が必要と警鐘を鳴らしています。
橋元良明教授の指摘
また、東京女子大の社会心理学者である橋元良明教授によると、ウクライナやワクチン、Qアノンなどの話題には社会的な関心が高く、これらのテーマについて投稿することで承認欲求が満たされ、自己満足を得やすいといます。
陰謀論の親和性
これらのテーマは真実が明確でない部分が多いため、陰謀論が入り込みやすく、これらのテーマ間には高い親和性があると指摘しています。
以上のように、SNSの情報空間におけるこれらの主張や陰謀論の拡散は、現代社会の情報収集や意見形成において多くの課題を生む可能性があります。専門家たちはこのような情報の流れに注意を払い、情報の質や背後にある意図を理解することの重要性を強調しています。
仙台のセキュリティ会社が見たSNS内の陰謀論の内幕
2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻と共に、SNS上には様々な情報が飛び交い始めました。その中でも、仙台市のインターネットセキュリティー会社Sola.com(ソラコム)の情報分析担当者は、「ウクライナには米国主導の生物兵器研究所がある」という投稿に目をつけました。
ソラコムの調査発見
- 該当の投稿はフォロワー数が1万人を超える20近い大きな影響力を持つアカウントから拡散されていた。
- ソラコムは、真偽不明の情報や陰謀論を拡散している日本語のアカウントの分析に取り組んできた。
- 従来、米国の極右系陰謀論「Qアノン」や新型コロナウイルスのワクチンに関する誤情報の拡散が中心だったが、ロシアのウクライナ侵攻前から、ロシア政府の主張に基づく投稿の拡散が増えていた。
驚くべきデマの拡散
- ウクライナ侵攻はVFXやクライシスアクターによる偽装だというデマが一部で信じられている。
- このようなデマは、西側のマスメディアが共謀しているという主張と合わせて拡散されている。
- ウクライナの首都キーウ近郊のブチャでの虐殺事件に関しても、ロシア政府が自作自演との主張をしている。加えて、「遺体が動いた」という動画も同時に拡散されている。
ロシアのQアノン支持者の動き…侵攻と陰謀論の関係
ロシアのウクライナ侵攻が起きた時、全世界のQアノン支持者たちとロシア内部の支持者たちとで、異なる反応が見られました。特に、ロシアのQアノン支持者たちの反応は、世界的なQアノンの動きとは異なる部分があることが注目されています。
ロシアのQアノン支持者たちの変化
- ウクライナ侵攻の開始を境に、バイオ研究所陰謀論が急速に沈静化した。
- アメリカがウクライナの戦争を裏で操っているとの主張もほとんど見られなくなった。
これに対し、カナダ系米メディアの『ヴァイス』は、ロシアの陰謀論支持者たちが、プーチン主導のウクライナ侵攻をどのように受け止めたかについて分析しています。『ヴァイス』の指摘によれば、これまで信じてきた陰謀論が実際のウクライナでの行動を正当化する流れとなってしまったことに、多くの支持者たちは困惑を感じているようです。
さらに、それまでプーチンの行動や侵攻を支持していたQアノン・チャンネルの中からも、プーチンに対する批判の声が上がってきました。例として、10万人のフォロワーを持つ『Big Shock Theory』は、プーチンを英雄として持ち上げる声に対して、「彼は英雄などではない」との考えを表明しています。
「Sola.comの調査」ソーシャルメディアにおける情報操作とデマの拡散
ロシアのウクライナへの侵攻が始まった2022年2月、様々な情報や誤情報がソーシャルメディア上で拡散されていました。その中で、日本・仙台市のインターネットセキュリティー会社Sola.com(ソラコム)が目をつけたのは、「ウクライナには米国主導の生物兵器研究所が存在する」という情報でした
ソラコムの調査の背景
Sola.comは、2021年からSNS上での真偽不明の情報や陰謀論の拡散を分析するプロジェクトを開始。特に、ツイッター上での投稿内容や拡散の経路、それを拡散するアカウントの特性などに焦点を当てて研究を進めていました。このプロジェクトの背景には、ソーシャルメディア上での情報操作やデマの拡散が増加している現代において、正確な情報の提供とデマの拡散防止が急がれていた当時の状況が関係しています。
主な調査結果
Sola.comの調査によれば、上記の「生物兵器研究所」に関する情報は、フォロワー数が1万人以上の大手アカウントを中心に拡散されていました。さらに、驚くべき結果が判明しました。
これらのアカウントは過去に米国の極右系陰謀論「Qアノン」や新型コロナウイルスのワクチンに関する誤情報を中心に情報を拡散していたが、ウクライナ侵攻直前から、突然ロシア政府の立場や主張に沿った情報の拡散を始めたいたことでした。
「どっちもどっち」論とウクライナ侵攻のデマ
この中でも、「どっちもどっち」論を利用した情報操作が問題視されています。
「どっちもどっち論」とは、2つの異なる立場や意見が同等に正当であり、結論を出すのが困難であるとする考え方を指します。このような論法は、特定の情報や意見が真実であるかどうかを混乱させ、人々の判断を難しくする効果があります。
ウクライナ侵攻に関しても、驚くべきデマが拡散しています。例えば、ウクライナ侵攻そのものがVFX(視覚効果)やクライシスアクター(被害者を演じる役者)によって作り上げられた虚構であるという主張。さらに、西側のマスメディアがこれに加担しているという主張まであります。
信じられないことですが、これらの荒唐無稽とも言えるデマは、一部の人々にとっては真実の物語として受け入れられているのです。
「ブチャの虐殺」と自作自演説
例えば、首都キーウ近郊のブチャでの虐殺は、多くの死者が発生した悲惨な事件として国際社会の注目を集めました。詳細な状況や背景は明らかにされていないものの、その後の情報戦の中でさまざまな説が出回ることとなりました。
特に、ロシア政府の主張によれば、遺体はロシア軍が撤退した後に現場に置かれたものであるとされました。この主張を裏付けるような動画も一部で拡散され、その中には「遺体が動いた」とするシーンを含むものもありました。これにより、事件の真相がより一層不透明となり、真実を追求することが難しくなったと感じる人々も少なくありませんでした。
「遺体が動いた」という動画が真実であるのか、あるいは操作されたものであるのか、その確証は難しく、結果としてさらなる混乱と疑念を招くこととなりました。情報の真偽を確かめるための独立した調査や、第三者による検証が求められましたが、政治的・軍事的な緊張の中で、真相の究明は困難を極めました。
在日ロシア大使館のSNS活動とウクライナ侵攻
ソラコムの分析によれば、日本語のSNSでは、在日ロシア大使館のアカウントも、ウクライナ侵攻を正当化する情報が広がる起点の一つとなっていた。
ウクライナ政権を「ナチス」になぞらえ、「日本は100年も経たぬ間に二度もナチス政権を支持」などと日本政府を批判する投稿もあった。
ザポリージャ原子力がロシア側に砲撃された後は、本国の見解を元に「ウクライナのナチストが核爆弾を手にしたらいったい何が起こるのか、想像することもできません」「ウクライナのナチからなるアゾフ大隊の戦闘員らはハリコフ物理技術研究所の原子炉に爆発物を仕掛けた」などと、もはや陰謀論を地で行く展開に。
在日ロシア大使館のSNS活動とウクライナ侵攻
在日ロシア大使館のSNSアカウントが、ウクライナ侵攻を正当化する情報拡散の拠点となっていたことが、専門家や関係者の間で指摘されています。
本来、在日ロシア大使館のアカウントは、通常外交関係や国際問題に関する情報発信を行う場として利用されています。しかし、ウクライナへの侵攻が始まった後、同アカウントからは侵攻の正当性を主張する投稿が頻繁に行われるようになりました。
「ナチス」なぞらえの政治的影響
同アカウントがウクライナの現政権を「ナチス」となぞらえ、「日本は100年も経たぬ間に二度もナチス政権を支持」との投稿を通じて日本政府を批判しました。この事例は、政治的な比喩と情報操作の側面を考える上で注目すべきものです。
「ナチス」という用語は、第二次世界大戦中のホロコーストや人道的犯罪と結びつき、非常に強いネガティブなイメージを持っています。政治的な比喩は、特定のイメージや連想を喚起し、一定の視点を強調する手法です。こうした比喩を使用することで、感情的な反応を引き出し、受け手の意識を操作しようとする意図が考えられます。
また「日本は100年も経たぬ間に二度もナチス政権を支持」との主張は、歴史的な出来事を引き合いに出して政府の行動に疑問を投げかけるものです。歴史的な事実と現在の政治的な立場を結びつけて、政府の信頼性を揺さぶる意図が含まれていると考えられます。
陰謀論と情報の歪曲
ウクライナのザポリージャ原子力発電所がロシア側に砲撃された際、同アカウントからの投稿が、ウクライナの政治的状況や出来事に対する陰謀論的な主張を含むものとして注目されました。
「ウクライナのナチストが核爆弾を手にしたらいったい何が起こるのか、想像することもできません」
「ウクライナのナチからなるアゾフ大隊の戦闘員らはハリコフ物理技術研究所の原子炉に爆発物を仕掛けた」
同アカウントはこのような投稿行い、原発への攻撃を正当化しようとしました。
専門家の見解
専門家によると、在日ロシア大使館のSNSアカウントがこうした情報を拡散することで、日本国内の一般市民に対して情報操作が行われている可能性があると指摘されています。情報操作の手法は、情報の歪曲や一部の情報のみを強調することで、特定の立場や視点を強化し、世論を操作することを意図しています。
一方で、SNS上では情報の真偽を確かめることが難しく、特に感情的な投稿や主観的な意見が拡散されやすい傾向があります。これにより、在日ロシア大使館のSNSアカウントの投稿が真実であるかどうかを判断することが難しくなっています。
🇷🇺国防省:
— 駐日ロシア連邦大使館 (@RusEmbassyJ) March 7, 2022
‼️ 🇺🇸#米国国防省 の資金援助のもとに🇺🇦#ウクライナ で進められていた #生物兵器プログラム の証拠隠滅
⛔️2月24日に行われた #ペスト、#炭疽症、#野兎病、#コレラ、その他 #致命的疾病病原菌 の #緊急破壊 に関する #文書 が、生物研究所職員により提供された
👉https://t.co/y1eKyoaQ42 pic.twitter.com/clo2cr21hb
信頼できる情報源で情報判断
ウクライナ侵攻に関する国際的な情勢が続く中、日本国内でも情報の正確性と客観性を保ちながら、適切な情報判断を行うことが重要です。私たちは今、複数の信頼性のある情報源を参考にし、情報を総合的に判断する姿勢が求められています。
【ウクライナ危機(36)】プーチンを振り払いEU加盟への決意!侵攻の要因「ユーラシア連合」