ウクライナの政治的および軍事的状況は、東部での紛争が続く中、多くの国際的な議論の的となっています。特に、ウクライナ正規軍の一部とされる組織の中に、ネオナチ的な背景を持つとされる「アゾフ連隊(大隊)」が存在するという情報が中心的な議論の1つとなっています。
「アゾフ連隊」は、ウクライナ政府によって公式に支持されているか?それとも独自の目的のために行動しているのか? ロシア系住民に対する実際の行動はどのようなものなのか?
そして、この組織は、ウクライナとロシア間の紛争の中で、どのような役割を果たしているのか? この記事では、これらの疑問を検証し、事実とフィエクの間で、真実を明らかにしていきます。
【ウクライナ危機(33)】西側がウクライナの“ファシスト”を支援している!?侵攻の口実「ネオナチ」
Azov Regiment
『アゾフ連隊(アゾフ大隊)』
アゾフ連隊は、2014年のドンバス紛争中に、ウクライナの極右団体「ウクライナの愛国者」の指導者、アンドリイ・ビレツキーによって設立されました。
ドンバス紛争は、ウクライナのクリミア半島がロシアに併合された後に起こりました。これはウクライナ政府と親露派分離主義者との間の武力衝突であり、アゾフ連隊はこの紛争の中で活動する準軍事組織として結成されました。
部隊の名前「アゾフ」は、ウクライナ南部のアゾフ海に由来しています。最初の大規模な戦闘をアゾフ海沿岸で行ったため、この名が採用されました。
「民族主義に凝り固まったネオナチ」ウクライナ侵攻での攻撃を正当化
「アゾフ」はロシアの軍勢に対抗するための戦力として注目を集めているが、一部のメンバーが極右やネオナチの思想を持つとの指摘も存在します。
ウクライナに侵攻したロシアは、アゾフ連隊を「民族主義に凝り固まったネオナチ」というレッテルを貼り、侵攻を正当化の理由として挙げました。更に、ロシアはアゾフ連隊を制圧することを大きな戦果としてPRし、国際的な批判をかわすための材料として利用しようとしました。
マリウポリ攻撃とアゾフ連隊の影
ロシア軍のウクライナ侵攻は、南東部の港湾都市マリウポリでの激しい戦闘に焦点を当てる形で進行している。その背後には、ウクライナの民族主義を掲げる武装組織「アゾフ連隊」の存在が大きな要因として指摘されている。
マリウポリの市街地におけるロシア軍の攻撃によって、多くの民間人の死傷者が出ています。その中でも特に注目されるのが、市民の避難先となっていた劇場や産科小児科病院への空爆です。これに対してロシアは、病院がアゾフ連隊の活動拠点として使用されており、患者や職員は存在していなかったとの主張を展開しています。
また、民間人の死者についても「アゾフが市民を盾として利用した」という説を持ち出し、責任の転嫁を試みている。
アゾフ連隊の存在の重要性
プーチン大統領は、アゾフ連隊の存在を「ウクライナのナチズム」として非難しています。これは反ウクライナ民族主義、特に反ロシア的な思想を持つ組織への強い敵意を示すものです。
アゾフ連隊の打倒は、プーチン大統領にとって国内外に向けての「非ナチ化の実現」という戦果として位置付けられているのです。
『ユーロ・マイダン革命』の後の『『2014年クリミア危機』……そして『ドンバス紛争』が始まった
2014年「ユーロ・マイダン革命」によってヤヌコヴィッチ大統領が国外へ脱出するなど、ウクライナ政治は非常に不安定な状況に陥りました。この時期、ウクライナの軍事力はまだ整備中であり、親ロシア派武装勢力やロシア軍との対抗するのは非常に困難でした。
ロシアは瞬く間にクリミアを併合し、ウクライナ東部では親ロシア派武装勢力によって、ドネツク州、ルガンスク州の2州が一方的に独立を宣言しました。クリミア併合後の一連の流れから、ロシアが裏で糸を引いているのは明白でした。
このような混沌の中、ウクライナ国内のオリガルヒ(新興財閥)らによって、多くの民兵組織ボランティア組織が次々と結成され、ウクライナ東部の紛争の前線に立ちました。
その中でも特に、東部での直接的な対立が激化する中、極右組織「ウクライナの愛国者」の元指導者であるアンドリイ・ビレツキーが率いる組織は統率がとれており、この組織は、ドネツク州のマリウポリ市で「アゾフ連隊(大隊)」と名乗り、即戦力として戦いました。
アゾフ連隊のメンバーの多くは、「ユーロ・マイダン革命」に従事していた者や、ウクライナの独立と主権を強く信じる者たちでした。
しかし、その中には「反ロシア派」「極右」「フーリンガン」の姿があり、それが後に国際的な論争の原因となりました。
アゾフの躍進!資金、英雄賛美、そして外国人戦闘員の流入
戦争の舞台裏で、アゾフの台頭は多方面からの支援と共に加速していた。金属産業界の大物であり、かつてドネツク州の知事だったユダヤ人実業家のセルゲイ・タルタはその一例にあげれます。彼はアゾフに資金と装備の援助を行い、その果たした役割を評価して「皆が去った後も彼らは戦線を維持した」と述べました。
国民的英雄の誕生
2014年、アゾフの指揮官たち、特にビレツキーはその勇敢さと戦場での奮闘から、ウクライナ国内で英雄としての評価を高めていた。当時のウクライナ大統領、ペトロ・ポロシェンコは公の場で「彼らは我々の最高の戦士だ」と絶賛し、「最高のボランティアだ」とも称えた。
海外からの戦闘員
驚くべきことに、アゾフへの参加を希望する者たちはウクライナ国内だけに留まりませんでした。欧州や米国からも多くの戦闘員がアゾフに参加するためにウクライナへと足を運びました。これらの外国人戦闘員の中には、母国でのネオナチ組織との関わりやそれに伴う犯罪歴を持つ者も少なくありませんでした。しかし、ウクライナ当局は彼らを歓迎し、彼らの中にはウクライナの市民権を得る者も現れ出しました。
「アゾフ連隊の台頭」ウクライナの戦局を変える新星
アゾフ連隊、ビレツキー氏の指揮のもとで設立されたこの部隊は、ウクライナの軍事界における新星として急速にその名を広めました。国家からの支援とオリガルヒたちの資金援助によって、彼らは一気に戦力を増強しました。特に、ユダヤ人実業家イホル・コロモイスキー氏の資金援助は、連隊の活動を大きく後押ししましたが、その一方で米国との関係で揺れ動く側面も持ち合わせていました。
アゾフの戦場での活躍
アゾフの兵隊たち、特に極右思想を持つ兵士たちは、旺盛な士気で戦場を駆け巡りました。その総数一万五千人という兵力は、東部の戦略的要地、マリウポリ近郊での戦いで大きな影響をもたらしました。これまで連続して敗北を喫していたウクライナ軍ですが、アゾフ連隊の参加により、初の勝利を収めることができました。
アゾフのリーダーたちへの国民的評価
金属王にして前ドネツク州知事、セルゲイ・タルタは、戦争初期にアゾフに資金や装備を提供していました。彼は、「皆が撤退した後も、彼らは戦線を維持し続けた」と絶賛しています。その勇敢な行動から、アゾフの指揮官たちは国内で国民的英雄として称賛され、2014年の授賞式では、ペトロ・ポロシェンコ大統領自らが「彼らは我々の最高の戦士だ」と認め、「最高のボランティア」とまで評価されました。
アゾフ連隊は「国家親衛隊」へ!新たな役割への変遷
アゾフ連隊は勇猛さと戦果が認められ、正規軍に編入される名誉を得ました。しかし、その活動はここで終わりませんでした。彼らはさらに「国家親衛隊」という特設された特殊部隊に編入され、この新たな部隊の中核としての役割を担うこととなりました。
「国家親衛隊」は内務省の管轄として設立され、国民の生命と財産の保護、治安維持、対テロ活動、そして重要施設の防護などを主な任務としています。さらに、ウクライナ軍と連携しての軍事作戦や武力による侵略の撃退、領土防衛もその役割に含まれています。
アゾフ連隊のメンバーたちは、国家親衛隊の一員として、新たな役割に適応し、その後もマリウポリの防衛に奮闘し続けています。彼らの行動は、ウクライナ国民からの信頼と尊敬を得ており、その存在は国の治安と安全を守る重要な柱となりました。
アゾフ連隊の象徴とその背景
アゾフ連隊が取得した新しい地位と権限は、彼らが取り組むべき課題や責任を増やしたのと同時に、彼らの持つイメージや象徴に関する議論を巻き起こす要因ともなった。特に問題視されるのは、一部の隊員が採用する極右思想やネオナチに関連する記章です。
アゾフ連隊が使用する多くのシンボルやエンブレムの中には、ナチスが利用したものと類似しているものがある。代表的なものとして、「黒い太陽」という異教的なシンボルや、「ヴォルフス・アンゲル(狼の罠)」という極右過激主義者によく採用されるシンボルが挙げられます。ドイツの放送局、ドイチェベレによれば、アゾフ連隊が使用するエンブレムは、ナチスドイツのシンボル、特にハーケンクロイツ(かぎ十字)に似ていると報じられています。
さらに、この隊が使う「黒い太陽」のエンブレムは、ウクライナの極右が採用する「イディヤ・ナツィイ(Ідея нації/国家思想)」という概念に関連している。これは1991年にウクライナ社会民族党(Соціал-національнапартіяУкраїни)が採用し始めたもので、その起源は「ダス・ライヒ」に由来すると言われています。ただし、このエンブレムのデザインはラテン文字のIとNの組み合わせという形で表現されており、ナチスとの直接的な関係は否定されています。
サッカーと極右…アゾフ連隊の起源とヨーロッパの歴史的背景
アゾフ連隊が今日知られるような軍事組織としての顔を持つ前、彼らのルーツは意外にもスポーツ、特にサッカーにあった。ハルキウに本拠を置くサッカークラブ、FCメタリスト・ハルキウのウルトラスとして1982年に設立された彼らの組織は、ウクライナだけでなくヨーロッパ全体のサッカーシーンと極右過激派との関連を象徴するものであった。
サッカーと政治、特に極右の結びつきはヨーロッパの歴史の中で深く、古くから見られる。例えば、イタリアのファシスト独裁者ベニート・ムソリーニは、1934年のワールドカップを政府の宣伝ツールとして利用した。また、スペインの独裁者フランシスコ・フランコは、サッカークラブレアル・マドリードを政権の支持基盤として利用したことでも知られる。
現代のヨーロッパにおいても、サッカーの試合を取り巻くフーリガンと呼ばれる過激なサポーターの存在やその暴力行為は、主催者や一般のファンにとっての悩みの種となっている。サッカー自体が人々を暴力的にするわけではない。しかし、その熱狂的な雰囲気や競技の性質上、強烈な愛国心や集団のアイデンティティを感じることが容易となる。経済的に困難な状況や政治的な不安が背景にある国々では、このようなムードは特に強まる傾向にある。
結果として、サッカーの試合や関連イベントは、一部の過激派グループにとって、社会的な不満を抱える若者を新たに動員する絶好の機会となっている。アゾフ連隊もその一例として、サッカーの熱狂的なサポーターグループから、現在のような政治的・軍事的な組織へと変貌を遂げていったのである。
アゾフは結成初期には凶悪な事件を引き起こした
2014年、ウクライナの歴史の中で特に緊張が高まった時期に、アゾフ連隊はその名を轟かせる存在として登場します。結成初期のアゾフは、現在の様々な評価や認識とは異なり、多くの凶悪な事件を引き起こしていました。
ウクライナの社会的・政治的背景を考慮すると、アゾフの行動や存在がどのような影響を持つのか、またその動機や背後にある力とは何であったのか、これらの疑問は避けて通れないものとなっています。
『オデッサの惨劇』
中でも2014年5月のオデッサでの火災事件は、ウクライナの近年の歴史の中でも最も悲惨で議論を呼ぶ出来事の一つである。アゾフ連隊の影響と関与についての憶測と共に、この事件は東欧の地域的緊張と国際的な対立の中心に立っている。
事件の発端は、市街地でのサッカーファン同士の激しい口論だった。ロシア系を嫌うウクライナ人の一人が射殺され、その結果、親ロシア派の分離主義者たちはオデッサの労働組合会館に避難することとなった。しかしその後、火炎瓶が投げ込まれ、労働組合会館は大火となり、多数の死者を出した。
アメリカのメディアで放映された映像は、サッカーの試合に関連したフーリガンを装った人々が、親ロシア派を労働組合会館に押し込めて放火した様子や、逃げ出そうとする人々を銃で撃ち、何人かが建物から飛び降りるシーンを捉えていた。
事件の影響は大きく、犠牲者は合計で46人にも上り、この事件はヤヌコビッチ政権の崩壊後に起きた両勢力の衝突としては最も悲惨なものとされている。
この火災事件に関する様々な憶測や疑惑が飛び交った。ロシア側は新政権と欧米を非難し、近づいていた大統領選についての質疑を投げかけた。一方で、ウクライナ側は外部勢力、特にロシアの関与を指摘した。さらに、死亡した人々がオデッサの住民ではなく、隣国モルドバとの国境地帯である「沿ドニエストル共和国」のパスポートを持つ人々であったという疑惑が浮上した。
オデッサの火災事件は、地域の複雑な政治的・社会的背景、アゾフの暗部、そして大国間の緊張関係を象徴する出来事として、長く記憶されることでしょう。
ウクライナの極右組織による襲撃…アゾフとドニプロ大隊
2014年はウクライナでの緊張がピークに達した年であり、極右組織の襲撃がその象徴とも言える出来事であった。中でも特に注目されたのが、ネオナチ政治組織「社会国民会議」と「急進党」の協力の下、組織されたアゾフによる襲撃、および「ライト・セクター」とオリガルヒ知事イホル・コロモイスキーに支援された「ドニプロ大隊」の活動であった。
アゾフのマリウポル襲撃
2014年5月9日、アゾフはマリウポルの地区警察本部を襲撃した。この襲撃は、警察官や一般市民に多数の死傷者を出す事態となった。アゾフの背後には、極右の思想を持つ「社会国民会議」が存在しており、この襲撃は彼らの政治的な意向を反映したものと広く見られていた。
ドニプロ大隊のクラスノアルミスク襲撃
別の極右組織である「ドニプロ大隊」も2014年5月に活動を活発化させていた。特に、5月初旬のドネツク州クラスノアルミスクにおける襲撃は注目を浴びた。この襲撃には、「ライト・セクター」とオリガルヒ知事イホル・コロモイスキーの協力のもとで組織されたドニプロ大隊が関与していたとされる。
これらの極右組織の活動は、ウクライナ内部の政治的な緊張と対立をさらに高める要因となった。ロシアとの対立やクリミア併合を背景に、国内の各勢力が激しい権力闘争を繰り広げていたこの時期、極右組織の襲撃はその一部として記憶されるだろう。
アゾフ連隊の疑惑とテロ組織認定の検討
アゾフあまりの残虐性には国際的な懸念が高まっていきました。特にその残虐性については多くの報道機関や国際組織から指摘され、彼らの行為が国際的な基準に照らして適切であるかどうかを問う声が上がりはじめたのです。
英ザ・タイムズの報道
英国の有名新聞、ザ・タイムズによれば、アゾフ連隊はドンバス戦争の中で親ロシア派の捕虜を拷問していたという報道がなされました。具体的には、マリウポリに連行された捕虜に対して、水と電気を使った拷問が行われていたとのことです。このような報道は、アゾフ連隊の行動に対する国際的な批判をさらに加速させる要因となりました。
国連の指摘
国際的な人権組織である国連人道問題調整事務所(OCHA)も、アゾフ連隊に関する報告を発表しています。2015年11月から2016年2月の期間に、アゾフ連隊の兵士たちが民間の建物に武器や兵力を配置し、住民を略奪したり、強制的に追い出したりしたという疑惑が指摘されています。これらの行為は国際人道法に違反しているとの見解が示されました。
アメリカでのテロ組織認定の動き
アゾフ連隊の行動に対する懸念は、アメリカでも共有されていました。2019年には、米国下院において、民主党の議員40人がアゾフ連隊をテロ組織に指定する提案を行いました。これは、アゾフ連隊の行動が国際的なテロリズムの定義に当てはまるとの判断からであると考えられます。
アゾフ連隊による人権侵害とその背後
実際にアゾフ連隊の行動に関する懸念は多く、国際的な人権団体やメディアが度々指摘を行っています。特に、彼らの行動の中で明確な人権侵害が繰り返されているとの声が上がっていました。
国連からの指摘
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、アゾフ連隊は拉致、拷問、略奪、性的暴力などの犯罪行為を行ってきたとの報告があります。特に住宅街での民間人に対する無差別な暴力行為が指摘されており、その行動には強い懸念が示されています。
ソーシャルメディアでの侮辱行為
2022年2月には、ウクライナ国家親衛隊の公式ツイッターアカウントに、アゾフ連隊の兵士とみられる人物がイスラム教徒を侮辱する動画を投稿したとの情報があります。このような公然とした差別行為は、彼らの態度や思想の一端を示すものとして、非難の的となっています。
社会的少数者への攻撃
アゾフ連隊は、LGBTやロマなどの社会的少数者への襲撃を行ってきたとされています。特にLGBTやロマは社会的にマイノリティであるため、彼らへの攻撃はさらなる人権侵害として国際的な非難を浴びています。
アゾフ連隊内の極右思想
2015年に、当時のアゾフ連隊報道官、アンドリー・ディアチェンコ氏は、「アゾフの新兵のうち10~20%がナチス主義者である」と公言しました。これは、アゾフ連隊内部における極右やナチス主義的な思想の存在を示す証拠となっています。
これらの行動や発言は、アゾフ連隊が持つ極端な思想や行動様式を如実に示しており、その存在に対する国際的な懸念をさらに高めています
アゾフ運動と国際的な白人右翼
アゾフ連隊の活動が国際的に注目される背景には、ウクライナ国内での影響力の増大、そしてその先進国での白人右翼との繋がりがあります。これは現代の安全保障問題における新たな脅威として捉えられています。
アゾフ連隊は、ウクライナ政府との密接な関係を持つ一方で、その行動に対する批判や指摘も少なく、首都キエフに位置する本部は政府すらが介入できない「白人右翼の聖地」とも称される場所となっています。
アゾフ運動は、結成当初から白人至上主義を掲げる外国の戦闘員を引き入れる活動を行っています。特に、2022年のロシアのウクライナ侵攻やゼレンスキー大統領の外国人義勇兵への呼び掛けは、新たな白人右翼戦闘員の参加を後押しする結果に繋がりました。
欧米白人右翼との連携
2010年代後半から、欧米諸国では白人右翼によるテロや暴動が増加する一方で、それに伴い強力な取り締まりも行われてきました。その結果、行動の場を求める白人右翼の中には、アゾフ運動やウクライナの混乱を新たな戦場と捉える者が急増しました。例として、2019年のNZクライストチャーチのテロ犯B.タラントがウクライナ行きを希望していたこと、アゾフ基地で50カ国以上から17,000人以上が訓練を受けているとの報告がありました。
国際的な懸念
ソウファン・センターのコリン・P・クラーク上級研究員は、ウクライナでの実戦経験を積む極右活動家たちが、その経験を元に欧州でのテロ攻撃に利用する可能性に懸念を示しました。また、米バズフィードによると、米国のネオナチ集団「アトムワッフェン師団」の2名がウクライナでの実戦経験を目指していたことが明らかになり、ウクライナ政府が国外退去処分にしたと報じられています。
これらの事実は、アゾフ連隊が国際的な白人右翼運動の一部としての役割を果たしていることを示しており、ウクライナだけでなく、国際的な安全保障の観点からも深刻な問題として捉えられています。
アゾフ運動の多岐にわたる活動
アゾフの活動は、単なる軍事的な組織にとどまらず、広範な社会的・文化的イベントを通じて、多方面での存在感を示しています。
もともと民兵組織として結成され、以来、多くの戦闘員を養成するための準軍事的な訓練拠点を持つアゾフは、それに加えて、子どもたちを対象としたサマーキャンプを開催することで、若い世代への影響力を試みています。
これらの活動を通じて、アゾフは将来の戦闘員の確保や、イデオロギーを広める基盤を築いているのです。
アゾフ運動は、単なる武装組織としての側面だけでなく、極右の文化を広めるための様々なイベントを手掛けています。彼らは音楽祭や政治イベントを開催し、総合格闘技大会のようなスポーツイベントも主催することで、幅広い層へのアピールを図っています。
また、自らを国際的な極右の場として位置づけ、そのネットワークの中心として機能している。様々な国からの支持者やシンパサイザーと連携することで、国際的な極右の動きとアゾフ運動の関係を深化させている。
ネオナチ・極右思想が分離で現在のアゾフ連隊は健全化?
確かに、アゾフ連隊は、その結成当初から極右思想と深い関係を持っていましたが、時が経つにつれてその傾向は変わっていきました。
前述の通り、アゾフ連隊の結成当初、隊のトップや多くの隊員には極右思想を持つ人物が多かった。これは、アンドリー・ビレツキー氏といった極右思想の指導者が連隊の立ち上げに関与していたことが大きな要因でした。
主要メディア、例えばザ・タイムズやドイチェベレは、アゾフ連隊が正規軍として成長するにつれ、その極右傾向が弱まっており、特に極右活動からの分離、および極右思想を持つ兵士の摘発といった動きが、その極右色を薄める要因となっていると報じました。
ウクライナ政府との関係
ウクライナ政府は、アゾフ連隊の極右色に懸念を抱き、その正規軍への編入を進める中で「非政治化」を求めました。この結果、ビレツキーを始めとする極右思想の指導者たちはアゾフ連隊から退隊することとなりました。
ビレツキーと極右政治
ビレツキーは、アゾフ連隊を退隊した後、極右政党「ナショナル・コープス」を立ち上げました。この政党は、アゾフ連隊の関係者を中心とした支持基盤を持ち、アゾフ連隊とのつながりを保っています。ビレツキー自身も、過去に「ウクライナで民族浄化を断行すべきだ」という極端な主張をしていたと伝えられています。
アニアのシンボルマークとネオナチの否定
アゾフ連隊のシンボルや紋章にも問題が指摘されてきました。
ヴォルフス・アンゲル(Wolfsangel)は、歴史的には古代のゲルマン民族のシンボルとして使われてきましたが、20世紀に入り、特に第二次世界大戦中にはナチスドイツの部隊のシンボルとしても使用された。このため、現代ではネオナチや極右団体がこのシンボルを採用することが少なくありません。
アゾフ連隊の紋章にも、このヴォルフス・アンゲルに似たデザインが含まれているため、連隊がネオナチの思想を持つのではないかという疑惑が持たれてきました。しかし、アゾフの指導部はこれを一貫して否定しています。彼らはヴォルフス・アンゲルの「N」と「I」は「国家理念」を意味すると説明しており、ネオナチとの関連を明確に否定しています。
しかし、公式な声明とは裏腹に、アゾフ連隊やその関連団体が持つ極右の思想や活動は、国際社会や報道機関によってさまざまに取り上げられ、議論の的となりました。その真偽を確定するのは難しいものの、少なくともアゾフ連隊という組織はその思想や背景、活動において複雑な立場にあり、その評価は一概には定められないでしょう。
「援助」「懸念」「連携」アゾフ運動と欧米との関係
アゾフ運動の拡大とともに、欧米との関係も注目されるようになってきた。特にアゾフの戦術や戦略がFacebookなどのSNSを活用した情報発信を通じて国際的に広まる中で、その影響力の拡大は欧米諸国にとっても無視できない問題となっています。
アゾフ運動と欧米との関係:援助、懸念、そして連携
アゾフ運動の拡大とともに、欧米との関係も注目されるようになってきた。特にアゾフの戦術や戦略がFacebookなどのSNSを活用した情報発信を通じて国際的に広まる中で、その影響力の拡大は欧米諸国にとっても無視できない問題となっています。
欧米の議論と法案
2015年、アメリカ議会はアゾフ連隊を「ネオナチの民兵」と明記し、その支援を禁止する法案を可決。この時期、米国はウクライナのロシアとの対立をバックアップしており、軍事的な支援や訓練を提供する動きが加速していきました。しかし、アゾフの極端な立場や活動に対する懸念から、援助の対象から外れることになりました。
援助の停止と再開
2018年まで米国の公式なアゾフへの軍事援助は停止していました。しかし、ウクライナ東部でのロシアとの対立の激化や、アゾフ連隊の地域での抑止力としての役割から、米国の支援策が変わることとなった。さらに、アゾフが自らを「ネオナチ団体ではない」と主張し、ロシアのウクライナ侵攻を前に、これまでの議論や懸念は次第に影を潜める形になりました。
欧米での訓練と交流
ジョージワシントン大学の研究によれば、アゾフやその関連団体のメンバーは、アメリカや欧州諸国での訓練を受けるなど、国際的な結びつきを強化したとされています。特に注目すべきは、イギリス王室にゆかりのあるサンドハースト王立陸軍士官学校に留学した者も存在するとの指摘です。これにより、アゾフのネットワークがどれだけ広範に及んでいるのか、その実態が明らかにされつつあります。
このように、アゾフ運動と欧米との関係は、援助や訓練の観点からだけでなく、その思想や活動の拡散という側面からも、今後の国際政治における重要な要因として考慮されるべきだといえます。
「2022年ロシアのウクライナ侵攻」マリウポリの戦闘とアゾフの役割
2022年にロシアがウクライナに再度侵攻を開始した際、マリウポリはその主要な戦場のひとつとなりました。アゾフや他のウクライナ軍部隊は、マリウポリを中心にロシア軍との戦闘に臨みました。
マリウポリの戦略的意味
マリウポリは、アゾフ海沿岸の重要な港湾都市であり、経済的な価値だけでなく、軍事的・戦略的にも非常に重要な位置にある。そのため、この都市の制御は、ロシアとウクライナ双方にとって大きな意味を持っていました。
アゾフの活躍と批判
アゾフは、市内での防衛を主に担当しており、その戦術や戦闘能力は高く評価されています。しかし、その過激なイメージや過去の歴史から、一部の市民や国際的な観察者からの批判も確かに存在しています。
ロシア軍との戦闘の中で、マリウポリの市民は大きな犠牲を払うことになりました。いくつかの報告によれば、アゾフやウクライナ軍の行動が市民の犠牲を増加させる原因となったとの指摘もあります。ただし、具体的な状況や詳細については、さまざまな情報源や視点があり、真実を確定することは困難になっています。
ロシアのプロパガンダとアゾフ
ロシアのウクライナ侵攻は、多岐にわたる情報戦やプロパガンダの渦中にある。その中心には、アゾフが置かれている。
「ネオナチからの解放」の主張
ロシアはウクライナ侵攻を「ネオナチからの解放」として正当化しようとしている。特にアゾフ連隊の存在は、ロシアのこの主張を補完する材料として利用されてきた。露軍の一連の攻撃、特にマリウポリの産科や劇場への攻撃は、アゾフ連隊が基地として使用していたとの根拠で正当化されている。
誤情報と捏造の拡散
情報の真偽を確かめることなく拡散する行為は、現代戦争の特徴の一つである。ロシアメディアは、特定の写真や記事を利用して、「ファシズムとの戦い」の大義名分のもとで義勇兵を募集している。しかし、これらの情報の多くは捏造されたものであり、真実とは異なるケースが多い。
マリウポリの被害とロシアの主張
マリウポリはロシア軍の包囲下で大きな被害を受けている。避難所としての劇場や病院が空爆された結果、数多くの市民が命を失っている。しかし、ロシア軍はこの被害について、アゾフ連隊やウクライナ軍が原因であると主張している。
「真実への闘いと民族の結束」アゾフ連隊のロシア向けメッセージ
ロシアのプロパガンダを受けて、アゾフ連隊はテレグラムチャンネルを通じてロシアへ向けた重要なメッセージを発表した。このメッセージでは、クレムリンの誤導情報と実際の事実についての彼らの立場を明確にした。
アゾフ連隊の主張
アゾフ連隊はナチズムとスターリニズムを軽蔑していることを強調した。彼らは、これらの全体主義体制とイデオロギーによってウクライナが長い間苦しんできたことを指摘しました。クレムリンはアゾフをナチやファシストとしてラベル付けし、自分たちを解放者と称しているが、現実はロシアがウクライナ領土を侵略していると彼らは説明している。
現代の「真実」の戦争
連隊は現代を大きな嘘と短命な真実の時代として描写している。彼らは、偉大さの幻想を育て、非人間的な「ロシアの世界」のアイディアを推進するために何十億ドルもの資金が使われていると指摘した。この「ロシアの世界」がもたらす災厄と恐怖についても語っている。
アゾフ連隊の多様性
アゾフ連隊の結成背景、多様な隊員の出自や信仰についても明らかにされた。彼らは、異なる民族や宗教を持つ人々が結束して戦っていることを強調し、ナチズムの誤ったラベル付けを反論している。
ナチズムへの挑戦
アゾフ連隊は、ナチズムの本質についての独自の見解を示している。それは他の民族を支配し、略奪する欲求であり、そのような考えを持つ者たちに警鐘を鳴らす形で疑問を投げかけている。
【ウクライナ危機(35)】危機の中で真偽不明の陰謀論が広がる…。侵攻の口実「生物化学兵器」