【ウクライナ危機(32)】モスクワまで数分!NATOのミサイル防衛システムがウクライナに配備。侵攻の口実「MDシステム」

ウクライナ危機が深まる中、ロシアがNATOのミサイル防衛システムへの懸念を示し、緊張が高まっています。ウクライナへの配備により、NATOミサイルはモスクワまでわずか数分で到達できると言われています。更に、極超音速ミサイルの登場は、迎撃の難しさと核均衡の変化をもたらしました。

ミサイル防衛の歴史は60年代の米ソ対立から始まり、今日の体制へと発展。アメリカのポーランド・チェコ配備計画はロシアとの緊張を引き起こしました。今回は世界の平和と安全保障に大きな影響を及ぼすウクライナ危機と、ミサイル防衛の問題の舞台裏を解説します。

【ウクライナ危機(31)】ベルリンの壁崩壊以前からの緊張の連鎖!侵攻の口実「ウクライナのNATO加盟」
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マッハ5以上のスピードでコースを替えながら飛翔する「極超音速ミサイル」は、迎撃は不可能といわれており、中国とロシアではすでに開発、配備されたと考えられている。この「極超音速ミサイル」の登場が、第2次世界大戦後、70年以上にわたって続いた核を搭載した弾道ミサイルによる『恐怖の均衡』という時代の終焉を意味すると言われている。それは、日本の安全保障にとっても大きな転換期となることは間違いない。バイデン大統領が正式に就任し、世界と日本の安全保障環境にも新しい常識が生まれるだろう。日本の平和はどう守っていくのか? フジテレビで防衛問題を担当する報道局上席解説委員の能勢伸之氏による解説で、その行方を考えるヒントとなる1冊だ。(「Books」出版書誌データベースより)

Missile Defense System

ミサイル防衛網『MD』

Washington Post/YouTube

モスクワ、ロシア – ウクライナとの緊張が増す中、ロシアはNATOのミサイル防衛システム(MDシステム)についての懸念を表明していました。この高度な軍事技術がウクライナに配備されれば、NATOのミサイルはモスクワまでたった数分で到達可能となるのです。

緊張高まるアメリカのミサイル防衛システム

プーチン政権の下で、ロシアと西側諸国との対立がより顕著になった要因はいくつかあります。まず第一に、かつてソビエト連邦の軍事的経済的な衛星だった多くの東欧諸国がNATOやEUに加盟し、「西側」の勢力圏に統合されるようになったことです。

第二に、元ソ連諸国では反ロシア政府が頻繁に登場するようになりました。例として2004年のウクライナの「オレンジ革命」があります。これにより、親西側のユシチェンコ大統領が就任しました。

第三に、アメリカのミサイル防衛システム(MD)の設立も緊張を高める要因となっています。

核兵器とMDシステム(ミサイル防衛)の歴史

ミサイル防衛(MD)の歴史は、核ミサイルの登場まで遡ることができます。1960年代には、アメリカとソビエト連邦の両国が、着弾する弾道ミサイルを迎撃するための対弾道ミサイル(ABM)システムの開発を進めていました。

その後、1980年代のレーガン政権時代には、戦略防衛構想(SDI)としても知られる「スター・ウォーズ」プログラムが構想されました。このプログラムは、宇宙に防衛ネットワークを展開し、さまざまな技術を用いてアメリカ本土を狙う敵の弾道ミサイルを迎撃・破壊することを目指していました。

しかし、当時の技術的課題から、「スター・ウォーズ」計画の完全な実現は困難でした。利用可能な技術の範囲内では多くの部分が実現不可能とされ、最終的に計画は完全な形での展開には至りませんでした。

1993年、クリントン政権下でSDIは「National Missile Defense(NMD)」と「Theater Missile Defense(TMD)」の2つの要素に再構築されました。これはそれぞれ、国内防衛と同盟国や海外のアメリカ軍部隊の防衛を指すものでした。新しい弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、SDIの主眼であった宇宙展開から離れ、海上および陸上システムを重視する形に変化しました。

さらに進んで2001年、ブッシュ政権は大量破壊兵器と弾道ミサイルの拡散に対応してBMDシステムを強化しました。このとき、NMDとTMDの間の区別はなくなり、「Missile Defense(MD)」の枠組みが全体の概念となりました。これにより、アメリカとその同盟国を潜在的なミサイルの脅威から守るための防衛能力が強化されました。

AT&T Tech Channel/YouTube

1972年「ABM条約」米ソが弾道弾迎撃ミサイルを制限

1972年5月に、アメリカとソビエト連邦の間で「対弾道ミサイル条約(ABM条約)」が締結され、同年10月に発効しました。この条約の目的は、戦略的な弾道ミサイルを迎撃するためのミサイル防衛システムの開発と展部を制限することでした。初めは各国が2カ所にのみそのようなシステムを展開できることが明記されていました(後に1974年の議定書により、各国は1カ所に減らされました)。アメリカの制限された場所はノースダコタ州のICBM基地であり、ソビエト連邦の場所は首都モスクワでした。さらに、各展部地点には100基を超える迎撃ミサイルを配置することは許可されませんでした。

ABM条約の目的は、アメリカまたはソビエト連邦が相手の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に対して包括的な防御を獲得することを防ぐことでした。両国とも、一挙に相手の核兵器を無力化する能力(「槍」)と同時に、核報復に対する効果的な防御システム(「盾」)を有することは、不安定で危険な状況を作り出すと理解していました。

ABM条約は、対弾道ミサイル(ABM)システムの展部を制限することにより、戦略的なバランスと相互の脆弱性を維持し、相互抑止力を強化することを目指しました。両国が核攻撃後も報復能力を維持できると知っていれば、最初に核攻撃を行う可能性は低くなるという考え方です。ABM条約は、冷戦時代の全体的な核軍縮枠組みの重要な要素でした。

しかし、ABM条約は挑戦に直面し、2002年にアメリカが条約から脱退したことで最終的な終焉を迎えることになります。

ABM条約の撤退と新しいMD政策の開始

2001年5月、ジョージ・W・ブッシュ大統領は国防アカデミーの卒業式で、新政権の弾道ミサイル防衛(MD)計画を発表しました。ブッシュは、冷戦の終結により、アメリカとソビエト連邦間の核戦争の脅威が消えたと認めつつ、新世紀の開幕に伴い新たな核の安全保障枠組みの構築が必要だと主張しました。

さらに、対弾道ミサイル条約(ABM条約)からの撤退を表明し、ロシアにこの決定を通知しました。

ABM条約は1972年にソビエト連邦と締結され、双方のミサイル防衛システムの開発と展開を厳しく制限し、核抑止のバランスを維持することを目的としていました。しかし、ブッシュ大統領は、この条約が時代遅れであり、ミサイルと大量破壊兵器(WMD)の開発を進める潜在的な敵国に対抗するためのアメリカの対応能力を妨げていると主張しました。

ブッシュ大統領はABM条約がこれらの国からのアメリカへの攻撃から国民を守る努力を阻んでいるとし、革新的な考え方に基づいた新たなミサイル防衛システムの構築が必要だと述べました。

その3ヶ月後には、テキサス州での夏休み中にABM条約からの撤退意向を改めて確認しました。ブッシュ大統領は、同年11月に予定されているロシアのプーチン大統領との会談で合意が得られない場合、、アメリカは一方的に条約から離脱する意向を示しました。

ロシアの反応とMD政策に対する懸念

2000年、ウラジーミル・プーチンがロシアの大統領に就任した時点で、母国であるロシアはアメリカとの関係を核兵器を通じて維持し、戦略的な安定性を保つことが必要だと認識していました。

特に前年のコソボ危機の後、アメリカの他国に対する「傲慢さ」を制限する手段として、ロシアは戦略的な安定性を強く求めてはじめました。

その中で、対弾道ミサイル条約(ABM条約)は、アメリカのミサイル防衛システムの無制限の開発によって戦略的な安定性を損ない、アメリカに世界情勢での優位性を与えることを防ぐための保証になっていました。

そのため、ブッシュ大統領が宣言したABM条約からの脱退とミサイル防衛(MD)システムの開発は、ロシアにとって強い懸念を引き起こしました。

9.11以降、一気にABM条約脱退へ動き出す

2001年9月11日の朝、4機のハイジャックされた旅客機がニューヨークの超高層ビルとアメリカ国防総省に激突しました。これらの攻撃は、過激派イスラム主義組織であるアルカイダによって実行され、その日だけで約3,000人の犠牲者を出しました。これらの攻撃は、アメリカだけでなく、世界全体を変える転換点となりました。

アメリカは「テロとの戦い」を開始し、アフガニスタンとイラクで軍事作戦を展開しました。これらの攻撃は国家安全保障政策、国際関係、そしてテロリズムに対する世界の認識に深い影響を与えました。その日の出来事は、国家安全保障、外交政策、そしてテロとの闘いに関する議論を今でも形成し続けています。

CNN/YouTube
9.11でプーチン(ロシア)はアメリカを援助

9.11の直後、ロシアはアメリカへの援助を申し出ました。

プーチン大統領は攻撃直後にブッシュ大統領に連絡を取り、アメリカがテロに対して何らかの措置を取る際の報復は行わないと伝えました。これは対米関係をより協力的な方向へ進めるというロシアの意図を明確に示していました。

特にアメリカがアフガニスタンでの軍事作戦を開始すると、ロシアはソビエト時代の情報を提供し、ウズベキスタンの軍事基地の使用も許可しました。

ロシアがアメリカのテロ対策に協力する背後には、自国内のチェチェン問題などの課題がありました。そのため、ロシアにとっては国際的なテロ対策に参加することは論理的な選択となりました。

2001年12月 アメリカがABM条約から脱退

しかし、ロシアとアメリカとの協力関係は長続きしませんでした。ブッシュ政権は2001年12月に対弾道ミサイル(ABM)条約からの離脱を決定し、ロシアの反対を無視しました。

この決定の正当化は、「ローグステート(ならずもの国家)」と呼ばれる国々によるテロリズムの脅威から自国と同盟国を守ることだったとされます。

核戦略の枠組みの変動と新たな課題

アメリカの反弾道ミサイル(ABM)条約からの離脱により、米露間の戦略的バランスが揺らぎました。この条約は、相互確証破壊(MAD)の原則を基盤として、米露間の戦略的安定性を保証する枠組みとなっていました。

この枠組みが崩れることで、核兵器の管理と戦略的バランスがどのように変化するのか、そして新たな戦略的枠組みがどのように構築されるべきかが、世界の平和と安定に影響を及ぼす重要な課題として注目されるようになりました。

しかし、プーチン大統領はアメリカのこうした行動は予想されていたことであり、「誤り」と考えていたものの、ロシアの安全保障に直接的な脅威をもたらすものではないと冷静に応じました。

そして、戦略攻撃兵器の弾頭数削減に関しても、米露間の合意を目指していく考えを明らかにし、2002年5月24日に、プーチン大統領とブッシュ大統領は戦略的核兵器削減条約を署名しました。

この条約は、両国の配備されている戦略的核弾頭の数を2012年までに1,700から2,200に削減することを目指すというものでした。

2002年5月24日にプーチン大統領とブッシュ大統領が戦略的核兵器削減条約を署名する結果をもたらしました。

AP Archive/YouTube

ポーランドとチェコへの『MDシステム』配備計画にロシアが反発

2000年代初頭、ブッシュ政権下のアメリカは、ポーランドとチェコにミサイル防衛システム(MDシステム)を展開する計画を発表しました。

この計画は、ポーランドに10基の地上配備型ミサイル迎撃システムと、チェコにXバンド・レーダーを設置することを含んでいました。これらの配備は、イランなどからの潜在的なミサイル攻撃を防ぐためとアメリカは説明していました。

この計画に対して、ロシアは自身が使用しているアゼルバイジャンのレーダーベースの共同利用、またはロシア南部に新たにアメリカのイラン監視用施設を建設することを提案するなど、さまざまな代替案を提示しました。

このような、提案は「MD計画は自分たち(ロシア)を対象にしているのではないか?」という疑念から提案されたものでした。

しかし、アメリカがこれら提案に対して好意的な反応を示さなかったため、ロシアの疑念は確信に変わっていきました。

特に、ロシアは、ポーランドとチェコに配置される計画のMD施設を、自国の安全保障に対する深刻な脅威と捉えたのです。

この一連の出来事は、核戦略に関する枠組みだけでなく、ミサイル防衛システムについても、米露間の緊張と議論の焦点となりました。

Voice of America/YouTubw

悪化した米ロ関係修復!オバマ大統領が「リセット」を宣言!!

この問題は、バラク・オバマ大統領のリセット政策により大きく進展することになります。

2009年1月に大統領に就任したオバマは、その政策の一部として米露関係のリセットを宣言しました。これにより、両国間の関係は大幅に改善され、新たな道が開かれました。

The Obama White House/YouTube
『新START 調印』

2010年4月には、旧START I条約の代替となる新START条約に両国が署名しました。さらに、同年6月には、経済と技術分野での協力が強化されました。

それまで抵抗的だったイランへの制裁についても、ロシアが協力することを決め、また、ロシアの影響下にあるキルギスの米軍基地の継続も黙認しました。

このリセット政策は、米露関係の新たな指針となりました。核大国としてのアメリカとロシアは、核拡散を防ぐための協力を強化するという共通認識に達ししたのです。新START条約の署名は、まさにその象徴的な出来事でした。

The Obama White House/YouTube
MDシステム配備計画の中止も含まれていた

確かに、短期的な視点から見れば、このリセット政策は効果を発揮しました。特に、ブッシュ政権時代から続いていたミサイル防衛(MD)システムの配備計画は中止され、米露間の様々な問題が大幅に改善されていきました。

『MDシステム(低レベル)』ポーランド・ルーマニアに配置

しかし、2011年には、ポーランドとルーマニアに移動式の、より低レベルのMDシステム(迎撃ミサイル)の配備が決定されました。

さらに、ミサイル発射を捕捉する早期警戒レーダーの設置地点としてトルコが選ばれました。これらの決定は、アメリカのミサイル防衛戦略の再考と新たな方向性を示すものでした。

これらの決定は米露間の緊張を再び高める要因となりました。特に、ウクライナ危機後には、ミサイル防衛システムの展開に関する新たな動きが目立つようになり、この問題は再び両国間の緊張を引き起こす重要な要素となりました。

アメリカが新たなミサイル防衛システムの展開を決定した背景には、新たな地政学的なリスクや脅威が存在しました。しかし、これらの決定はロシアを不快にさせ、米露間の新たな緊張を引き起こしてしまったのです。

新たなミサイル防衛システムの影響と反応

アメリカの新たなミサイル防衛システムの展開計画は、新たな地政学的リスクと脅威を背景に進められました。しかしこの決定はロシアを不快にさせ、米露間の緊張を新たに引き起こしました。

2011年、東欧に北大西洋条約機構(NATO)のミサイル防衛(MD)システムを配備する計画に対抗するとして、ロシア政府は短中距離弾道ミサイルの配備を警告しました。

これに対しNATOは、MD配備計画は「ならず者国家」から欧州を防衛するためのものであり、ロシアを念頭に置いたものではないと主張しました。

しかし、ロシアの最新型のイスカンデルミサイルがNATOの新MDシステムに対して使用される可能性があり、アメリカやポーランドなどのロシア近隣諸国からは懸念の声が上がりました。

米国務省のマリー・ハーフ副報道官は、地域の不安定化につながる行為を避けるようロシアに求める声明を発表しました。

一方で、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、イスカンデルの配備は「国際条約や合意に何ら違反するものではなく、西側から批判される言われはない」と主張しました。

2016年 ルーマニアに『MDシステム(イージス・アショア)』が配置!運用はNATO

2016年5月12日、ルーマニアのデベゼルに設置された欧州ミサイル防衛(MD)システムの地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」システムが稼働を開始しました。このシステムの建設には8億ドルが投じられ、米国が主導して建設を行いましたが、運用はNATOに移管されました。システムの目的は、飛来する敵ミサイルをSM-3ミサイルで迎撃することで、海軍兵士約130人が配置されました。

アメリカは、この運用開始は(既に和解したはずの)イランを対象としており、ロシアを対象としていないと強調しました。しかしながら、ルーマニアのヨハニス大統領はNATO戦力を東欧に確保することの重要性を強調し、自国だけでなくウクライナと接する黒海にもNATOの海軍部隊を常駐させるよう訴えるなど、状況は明らかにロシアを意識したものとなっていました。

ルーマニア基地のMDシステムは、アメリカ主導の欧州MD計画の一部となっていますが、ロシアのプーチン大統領はこれを「弾道ミサイルを追跡する艦載イージスシステムを地上に設置したもの」と強調し、「迎撃ミサイルの代わりに短・中距離の弾道、巡航ミサイルを装備するのは容易で、『アメリカは既に実質的に中距離核戦力全廃(INF)条約から離脱している』」と主張しました。

これに対し、プーチン大統領は「欧州にアメリカの対ミサイル防衛システムが配備されることは、盾などではなく、核潜在力の拡大である」と指摘し、「こうしたアメリカの行為は、中距離及び短距離ミサイルに関する条約に明らかに違反する」と批判しました。

さらに、2016年5月13日にアメリカはポーランドで、二番目の地上配備型迎撃ミサイル基地の建設を始めました。

USA Military Channel/YouTube

ロシアの新兵器開発とその地政学的影響

ロシアは、西側諸国によるミサイル防衛(MD)システムの配備により、自国の核兵器が無効化され、核抑止力が機能しなくなることを懸念しました。

そのため、超音速飛行、低高度飛行、飛行中の方向転換、そして長射程などの特徴を持つ新兵器を開発して、従来のMD能力を突破しようと考えました。

2018年3月には、ウラジーミル・プーチン大統領は、「サルマート」「アヴァンガルド」「キンジャル」「ブレヴェストニク」「ポセイドン」など、5つの新型兵器を発表しました。これらの兵器は、アメリカ国内および国外で展開されているMDシステムを回避する能力を持つとされています。

プーチン大統領は、これらの「迎撃回避」兵器の開発計画について、約14年間透明性を保ちつつ進めてきたと述べました。この透明性は国際パートナーとの対話を促進することを意図したものでした。

また、これらの兵器の開発は敵対行為を意図したものではなく、経済的、財政的、防衛産業に関する複数の課題に直面しても、ロシアが核大国としての地位を維持するためのものであると強調しました。

特に、大陸間核ミサイル能力を持つ魚雷「ポセイドン」は、プーチン氏の「超兵器」の一つとされています。

これらの新兵器の開発と配備は、ロシアとNATOの間の緊張を引き起こしました。

CNN/YouTube
大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」
Минобороны России/YouTube

サルマトはロシアが数年間にわたって開発を行ってきた新型の重量級ミサイルで、ソビエト時代のヴォエヴォダミサイル(西側でのコードネームは”サタン”)の後継として位置付けられています。サルマトはロシアの核抑止力の中核を成す兵器です。

この大陸間弾道ミサイル(ICBM)は液体燃料を使用し、射程は18,000キロメートルにも及びます。その打ち上げ重量は208.1メトリックトンで、全長は35.3メートル、直径は3メートルに達します。サルマトは「重量級」のICBMとされており、最大10トンのペイロードを搭載できます。

このミサイルは、多様な弾頭オプションを選択することが可能で、最大10個の大型弾頭、16個の小型弾頭、多弾頭(MIRV)、またはグライドビークルを搭載できます。特に注目すべきは、ミサイルから分離後も追跡可能な軌道を持つとされる新型の超音速弾頭「Object 4202」を搭載可能な点です。この弾頭は音速の5倍の速さで飛行し、サルマトはまた15メガトン(TNT爆発力100万トン相当)クラスの独立目標再突入(核)弾頭(MIRV)を搭載することもできます。

2022年4月 ウクライナ侵攻中もサマルトの発射実験

2022年4月20日、ロシア国防省は初めての次世代大陸間弾道ミサイル「サルマト」の発射実験に成功したと発表しました。ロシア国防省によると、サルマトはロシア北部のプレセツク宇宙基地から発射され、模擬弾頭が極東のカムチャツカ半島にある演習場に着弾したとされています。

この発射実験は、ウクライナ侵攻で苦境に立たされているロシアが、欧米に対して武力行使の可能性を示す意図があったとみられています。ウラジーミル・プーチン大統領は、「サルマトは最高水準の戦略的・技術的な特性を持ち、最新のミサイル防衛にも対応できる」と述べました。彼はさらに、「同様のものは世界になく、長く現れないだろう」と強調し、欧米に対する警告とも取れる言葉を投げかけました。

サルマトに搭載されるとされる核弾頭の威力は、広島に投下された原子爆弾の2000倍とも評価されています。ロシアは、サルマト一基でフランス全体やアメリカのテキサス州ほどの地域を焼け野原にできると主張しています。

アメリカ側は、新戦略兵器削減条約(新START)に基づいてロシアから実験計画の事前通告を受け取っていたと発表しました。米国防総省のジョン・カービー報道官は「このような実験は日常的に行われている。米国や同盟国への脅威ではない」とコメントしました。

ICBMに関しては、米国も核弾頭を搭載可能な「ミニットマン3」の発射実験を予定していましたが、ロシアを挑発しないためにこの実験は中止となりました。これに関して、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「ロシアの発射実験を受けてミニットマン3の実験を再調整するか」との問いに対して、「事前に予告するものではない」と述べ、詳細なコメントは避けました。

Bloomberg Markets and Finance/YouTube
極超音速滑空体「アバンガルド」

アバンガルドは、ロシアが開発した極超音速滑空ミサイルで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭として機能します。このミサイルは核兵器を運搬する能力を持っており、弾頭が切り離された後は自身の推進力を持たないため、滑空することで進行します。この特性が赤外線レーダーによる追跡を難しくしています。

「極超音速」とはマッハ5以上の速度を指し、現在進行中の極超音速兵器の実用化には、極超音速滑空ミサイルと極超音速巡航ミサイルの両方が含まれます。これらの兵器はマッハ10~20の速度を出すことが可能で、その違いは滑空ミサイルが戦略レベルの兵器で、射程が約1万キロであるのに対し、巡航ミサイルは数千キロの射程を持つ戦術、作戦(戦域)レベルの兵器であるという点にあります。

アバンガルドの特徴的な「売り」は、従来の核弾頭よりもはるかに低い高度を飛行し、地上のレーダーから探知されにくいことと、飛行軌道を複雑に変化させることで、ミサイル防衛(MD)システムからの迎撃を避けやすいことです。このような特性は、従来型の核弾頭をより迎撃されにくい形に改良したもので、古典的な戦略核抑止力に対する新たな手段と見なすことができます。

ロシアの国防省は、アバンガルドが音速の20倍以上の速度で不規則に飛行し、米国のミサイル防衛(MD)システムを突破できるとしています。ロシアは2019年12月27日に、大陸間弾道ミサイル「SS-19」2基にアバンガルドを搭載して配備しました。また、2027年までに同型ICBM12基がアバンガルド搭載型に改修される見通しであるとの情報もあります。

アバンガルドは、「ミサイル防衛を克服する手段」であり、その内部に搭載される核弾頭の出力は800キロトン~2メガトンとされ、これは広島型原爆の約130倍に相当すると報じられています。

Russian Military Capability/YouTube
極超音速ミサイル「キンジャル」

キンジャルという名前は、ロシア語で両刃の短剣を意味します。このミサイルはMiG-31戦闘機に搭載され、公式発表では最大速度マッハ10、射程2000kmとされています。陸上目標だけでなく、海上の移動目標も攻撃可能であるとされています。ただし、射程は搭載母機の戦闘行動半径が含まれている可能性が高く、また最高速度も実際にはマッハ10に達しないと推定されています。

朝日新聞社/YouTube
ウクライナ侵攻で使用

2022年3月19日、ロシア国防省はキンジャルミサイルを使用してウクライナ西部のイワノフランキフスクにあるウクライナ軍の地下弾薬庫を破壊したと発表しました。ウクライナへの侵攻に際して、キンジャルを含む新兵器の使用がロシア国防省により発表されましたが、その一方で、米国防総省の高官は、そのことについて「米国としては否定もできないが確認もできない」と述べました。

同時に、米国防総省の高官は、極超音速ミサイルの軍事的な実用性について疑問を投げかけました。「それほど遠くない距離から建物を攻撃するのに極超音速ミサイルが必要だったのか疑問に思う」と述べ、その必要性と効率性について疑問視しました。

TBS NEWS DIG Powered by JNN/YouTube
原子力推進式巡航ミサイル「ブレヴェスニク」

ブレヴェストニク(Burevestnik)、NATOでの呼称ではSSC-X-9 Skyfall、はロシア軍が開発中の核動力を持つ実験的な巡航ミサイルです。これは本質的に無制限の射程を持つミサイルで、核熱ロケットと固体燃料ブースターエンジンによって動力を得ます。さらに、熱核弾頭を搭載することが可能です。

ブレヴェストニクの特性としては、レーダーの検知を避けるために低高度で飛行することが挙げられます。その結果、理論的には地球上のどこにでも1時間以内に攻撃することが可能になるとされています。従来の大陸間弾道ミサイル(ICBM)が成層圏へ上昇し、予測可能な飛行経路を辿るのと異なり、ブレヴェストニクは低高度で飛行することで、事前の警告なしに攻撃を可能にすると考えられています。

このミサイルの特徴的な点として、核炉によって動力を得るという前例のない技術が採用されています。これにより、前例のない射程と持続性を持つ巡航ミサイルの利点を提供しています。ただし、これまでに行われた試験はすべて失敗に終わっています。

ブレヴェストニクは、その運用特性だけでなく、ミサイルの推進に必要なミニチュア化された核動力発電所による環境や生態系への影響が懸念されています。そのため、このミサイルはロシアの対抗国にとって大きな懸念材料となっています。

CRUX/YouTube
超大型の原子力水中ドローン「ポセイドン」

ポセイドンは、最小でも2メガトンの核弾頭(これは、米軍が長崎攻撃に使用した原爆のおよそ100倍の爆発威力に相当)または高性能爆薬弾頭を搭載した水中ドローン(無人機)です。米海軍協会(USNI)ニュースは、ロシア海軍の最新型原子力潜水艦「ベルゴロド」が6発のポセイドンを装備していると伝えています。

ポセイドンはもともとNATO側で戦略核魚雷「Status-6カニヨン」として知られていましたが、ロシア国防省がウェブ投票で名称を公募し、2019年3月23日に「ポセイドン」に改名されました。

し、2019年3月23日に「ポセイドン」に改名されました。ポセイドンは異常な大きさを持つ超大型核魚雷で、ロシア国防省はこれを「海洋多目的システム」と銘打っています。人間の大きさと比較しても、その直径は約2メートルで、通常の魚雷が直径53cm程度であることを考慮するとその規模の巨大さがわかります。

この原子力核魚雷ポセイドンは、原子力推進によりほぼ無限の航続距離を持ち、60ノット(約110キロ)の速度で自律航行することが可能です。専門家らは、ポセイドンが太平洋や大西洋を自律航行し、核装置を運搬する能力を持つと指摘しています。その高速性は探知を困難にし、最大深度は約1,000メートルと推定されています。これは米国のMK-50魚雷の運用深度を超える深さで、その存在は事実上の無敵とも言えます。

CNN/YouTube
搭載する核は「ツァーリ・ボンバ」の2倍!?核爆発で核津波を引き起こす!?

さらに、ポセイドンは有名な水素爆弾「ツァーリ・ボンバ」の2倍の威力を持つ、100メガトンの熱核弾頭を搭載可能であることが明らかになりました。

アメリカ海軍の関係者の間では、この核弾頭を搭載したポセイドンが米海軍の原子力潜水艦基地や軍港に突入し、これらの巨大施設を一気に破壊する可能性に対する警戒が高まっています。

しかし、このような直接的な攻撃よりも、より強力かつ破壊的な攻撃手段が危惧されています。それは、「核津波」攻撃です。

このシナリオでは、ポセイドンは敵の軍港や主要都市の沖合に到達し、深海で核爆発を引き起こします。爆発エネルギーにより巨大な「核津波」が発生し、攻撃目標の軍港や都市などの一帯を襲う可能性があります。巨大津波の恐ろしさは、東日本大震災などの経験から、世界中の人々が理解しています。

現在の報道では、弾頭の規模は2メガトンとされていますが、これでもヒロシマ型(15キロトン)の核爆弾の100倍以上の規模となります。一部には、ポセイドンが大規模な津波を引き起こす可能性があるとの説もあります。

ただし、東日本大震災のエネルギー量が広島型原爆の31,000倍と推定されていることから、2メガトンの爆発では大規模な津波を発生させるには不十分とも考えられます。

より可能性が高いのは、ポセイドンが米国の重要な港湾近くで核爆発を引き起こし、その直接的な破壊力で港湾施設や係留艦艇を破壊するとともに、放射能を含む海水を広範囲に散布することにより経済的損失を引き起こすというシナリオです。

Reuters/YouTube

トランプ大統領が「INF条約(中距離核戦力全廃条約)」廃棄へ

2018年10月20日、アメリカのトランプ政権は、ロシアに対し、中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)の撤回を発表しました。この発表は、冷戦後の核兵器管理体制に大きな影響を及ぼすものでした。トランプ政権は、ロシアが長年にわたってINF条約を違反していると主張し、この撤回を正当化しました。ロシア政府に対し、その意向が後日正式に伝えられました。

Washington Post/YouTube
INF全廃条約の詳細

INF全廃条約は、1987年にアメリカとソビエト連邦(現在のロシア)の間で結ばれた歴史的な協定であり、その正式名称は「Treaty Between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of Their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles」です。この名称は、「アメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連邦との間の中距離及び短距離ミサイルの排除に関する条約」を意味します。

INFという略称は「中距離核戦力全廃条約」を指し、その名称にもかかわらず、この条約は「核弾頭を搭載した中距離ミサイル」だけを制限したものではありませんでした。むしろ、この条約はより広範にわたる制限を設け、地上から発射される中距離及び短距離の弾道ミサイルや巡航ミサイル、核弾頭の有無にかかわらず制限の対象としていました。この包括的な制限が、冷戦時代の核軍縮努力における重要な一環となりました。

ただし、地上から発射されるミサイルに限定されており、航空機や水上戦闘艦、潜水艦から発射されるミサイルは制限の対象外でした。

この条約の結果、アメリカとソビエト連邦は、それぞれの国内に存在した合計2,692基のミサイルを廃棄しました。これは、世界の核戦力を大幅に削減する結果をもたらし、冷戦期の核軍縮の重要な一部となりました。

ソビエト連邦が崩壊した後、ロシアはこの条約を引き継ぎ、その制限を維持しました。これは、世界の核軍縮努力を持続させるための重要な一歩であり、新たに独立した国々との間でも条約が適用されることで、より広範な核兵器の拡散を防ぐ役割を果たしました。

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米国とロシアのINF条約離脱への経緯

長年にわたり、米国政府はロシアがINF条約に違反し、地上発射型の新型巡航ミサイル「9M729」(北大西洋条約機構の識別コードは「SSC8」)を開発したと主張してきました。ロシアがこれを保有すれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をごく短時間で核攻撃できる能力を持つことになります。トランプ政権はこの問題を指摘し、「自分たちはできないのにロシアだけが兵器を自由に作れる」状況を容認しないと述べました。

さらに、トランプは、「オバマ前大統領がなぜ交渉や離脱をしなかったのか理解できない」と述べ、ロシアが「何年も条約を違反してきた」と主張しました。事実、2014年にはバラク・オバマ前大統領がロシアの地上発射型巡航ミサイルの発射実験をINF条約違反として抗議しています。しかし、オバマ氏は当時、欧州の各国首脳から軍拡競争再開につながる可能性があるとの圧力を受け、条約に留まる決断をしました。

一方、ロシアの国営メディアRIAノーボスチは、ロシア外務省の情報源を引用し、「米国政府は世界唯一の超大国として存在する“一極化世界”を夢見ており、そのために条約から離脱する方針である」と報じました。このような経緯を経て、米国はロシアへのINF全廃条約の破棄を発表しました。

米国によるロシアのINF条約違反認識の変遷とウクライナ危機

米国がロシアによるINF条約違反を認識し始めたのは、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2008年とされています。しかし、米国がロシアの条約違反を公然と批判し始めたのは2014年以降であり、その背後にはウクライナ危機による米露関係の悪化が影響していると考えられます。この時期以降、米露間の緊張が高まり、それが後のINF条約破棄へとつながる端緒となりました。

2019年にアメリカがINF条約を正式に廃棄を宣言

2019年2月1日、アメリカはロシアにINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を正式に通告しました。これを受けてロシアも同日、条約で定められた義務履行の停止を表明しました。これにより、INF条約は6か月後に正式に失効することとなりました。

ロシアは対抗措置として、「アメリカがポーランドとルーマニアに配備を進めるイージス・アショアこそ条約違反だ」と反撃しました。イージス・アショアは、イージス艦に搭載されているレーダーやミサイルを発射するための垂直発射管(Mk41VLS)などを陸上に移植した施設で、構造上はイージス艦と同様、多種多様なミサイルを発射することが可能です。ロシアが特に懸念しているのは、イージス・アショアのMk-41VLSからINF条約で禁止されている地上発射型巡航ミサイル「トマホーク」(射程2500~3000km)が“理論上”発射可能である点です。

INF条約では射程500~5500kmの中距離ミサイルが全廃の対象となっているため、ロシアの主張は一定の根拠を持っています。なお、アメリカはBGM-109G型トマホークを実戦配備していませんが、同条約の対象外である地上発射型以外のトマホーク(艦船、潜水艦、爆撃機搭載型)を大量に保有しています。これにより、両国間の対立はさらに深まり、INF条約の終焉を決定的なものとしました。

Associated Press/YouTube
実はロシアも廃棄したかった?2007年の問題提起

実はINF全廃条約における不平等性については、アメリカよりロシアのほうが先に問題提起を行っていました。

2007年にロシアのプーチン大統領は、「もはやINF全廃条約はロシアの利益に適わない」と述べ、条約離脱の可能性を示唆しました。これは、米国によるミサイル防衛(MD)システムの欧州への配備と、ロシアの隣国が中距離核ミサイルを開発していることを背景にしたものでした。

その後、ロシアは条約の多国間化を提案しましたが、中国などの新興核保有国が同条約に加わる可能性が低いとの理由から、実質的にはINF条約に反する形でイスカンデル・ミサイルの増強に着手したと考えられています。

地上配備型の中距離ミサイルの開発や配備に熱心なのは、ユーラシア大陸国家であるロシアであり、地上発射は海空発射よりも費用がかからないという事情もあります。

このような事情を背景に、ロシアはINF全廃条約が不平等であると訴えていたのです。

新戦略兵器削減条約(新START)とその延長

INF全廃条約の失効により、米ロ間の核軍縮の枠組みは新戦略兵器削減条約(新START)だけとなりました。しかし、新STARTは2021年が期限であり、延長されなければ失効する可能性がありました。この事態に対して、ロシアのラブロフ外相は、新STARTが延長されるなら、ロシアは開発中の2つの最新戦略兵器を条約の規制対象に含める用意があると述べました。

提案された2つの最新戦略兵器は、マッハ20(音速の20倍)以上で飛行可能な極超音速兵器「アバンガルド」と、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」で、これらは米国のミサイル防衛(MD)システムを突破できるとロシアは主張しています。

そして2021年2月3日、米露両政府は新STARTを5年間延長することで合意しました。アメリカのブリンケン国務長官は「バイデン大統領は軍縮と核不拡散で米国のリーダーシップを取り戻し、核の脅威から米国民を安全にすると約束した。今日はその第一歩だ」と声明を発表しました。ロシア外務省も声明で「戦略的な安定を維持し、機能させるメカニズムが保障された」としました。

新STARTを5年間延長する批准法案は、プーチン大統領が1月26日に下院に提出し、たった1日で下院と上院を通過し、1月29日のプーチン大統領の署名により法案が成立しました。米国はロシアとは異なり、新START延長に議会の承認を必要としない。ロシア大統領府は新START延長の手続きが完了したことについて「新STARTはロシアの国益に合致し、米ロ間の戦略的関係を予測可能に保つことに役立つ」とコメントしました。

DW News/YouTube

ロシアのプーチン大統領は2021年12月21日、今年の軍の活動を総括する国防省の会合で「西側諸国が攻撃的路線を続けるなら、軍事技術的な対抗措置を取る」と警告し、安全保障に関するロシアの提案を受け入れるよう欧米諸国に迫った。

さらに、ウクライナ国境周辺の軍備増強には触れず、「米国とNATOがロシア国境付近に軍を展開して演習を繰り返し、深刻な懸念を生んでいる」と主張。「緊張が高まるたびロシアは対応せざるを得ず、状況は悪化する一方だ」と述べ、NATO不拡大の「法的な保証」が必要だと改めて強調した。

また、「米国は何らかの理由を付けて、関心がなくなった国際条約から簡単に脱退している」と根強い不信感もあらわにした。

ロシアが巡航ミサイル発射能力を持つと主張する陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」が、NATO加盟国のルーマニアに配備されていることも批判。

ポーランドでも計画が進む同システムが隣国ウクライナに配備されれば、「(ミサイルは)発射後7~10分でモスクワに届く。極超音速兵器なら5分だ」とも話した。

欧州安全保障に関する新たな条約案を米国に、NATOの東方拡大の停止や核兵器配備を自国内に限定することなどを一方的に求めたのです。

2021年12月「ウクライナの『MDシステム』配備について」プーチンが安全保障を要求

2021年12月21日、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、西側諸国が攻撃的な姿勢を続ける場合、ロシアは軍事的対抗措置を取ると警告しました。これに加えて、ロシアの安全保障に関する提案を欧米諸国に受け入れるよう促したのです。プーチン大統領は、ロシアの国境近くでアメリカとNATOが軍隊を展開し、演習を行っていることに対して深刻な懸念を示しました。

プーチン大統領は、NATO加盟国であるルーマニアに配置された陸上ミサイル防衛システム「イージス・アショア」を強く批判しました。彼は、このシステムが巡航ミサイルの発射能力を持っていると主張しました。さらに、彼はポーランドに同じシステムを展開する計画についても懸念を表明しました。プーチン大統領は、このシステムがウクライナに配置されると、ミサイルがモスクワに到達するのにわずか7から10分、そして超音速兵器を使用すればさらに短い5分で到達すると警告しました。

バイデン政権のNATOとロシアに対する方針

これに対して、バイデン政権は、NATOへの新規加盟国の受け入れを制限することはないと明言しました。その一方で、米露間の「戦略的安定対話」や欧州安全保障協力機構(OSCE)を通じて、双方の安全保障上の懸念に対する合意や協定を検討する意向を示しました。

具体的には、バイデン政権は、ロシアとアメリカがウクライナ領内に攻撃用のミサイルシステムを配備したり、兵力を常駐させたりしないことを提案しました。さらに、バイデン政権は、ポーランドとルーマニアに設置されているイージス・アショアに、ロシア本土まで到達可能な巡航ミサイル「トマホーク」を搭載しないことを提案しました。これと引き換えに、ロシアには国内の2つのミサイル基地の兵器配備状況について透明性を確保するよう要請しました。

「ウクライナがMDシステム(THAAD)をハリコフに配備要請」ロシアが発表

2022年2月7日、ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナ政府がアメリカにTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense)のハリコフへの配備を要請したとの情報があると明らかにしました。

これに対し、2月9日、ロシアのリャプコフ外務次官は、西側諸国がウクライナを支援し、武器や弾薬を供給することによってロシア政府への政治的圧力を強めていると非難しました。国営ロシア通信(RIA)によると、リャプコフ次官は、ウクライナへの軍備供給は西側諸国による「恐喝と圧力」に相当すると主張し、ウクライナへの装備、弾薬、殺傷兵器などの供給はロシアに対する「一段の政治的圧力」と「軍事技術的な圧力」をかけようとする試みだと述べました。

さらに、ウクライナ政府が米国に最新鋭迎撃システムであるTHAADを要請したという報道を挙げ、「これは挑発だ」と強調しました。米政府がTHAADの供給を真剣に検討するなら、政治的・外交的解決に至る確率が低下すると警告しました。

Defense Updates/YouTube
THAADミサイル防衛システム

THAAD(Terminal High Altitude Area Defense)は、米陸軍と航空宇宙大手のロッキード・マーティン社が共同で開発した先進的な弾道ミサイル迎撃システムである。このシステムは、ミサイルの発射、飛翔、および落下の各段階において、敵の弾道ミサイルを迎撃・破壊する能力を有しており、米国の多層的なMD(ミサイル防衛)体制の重要な一部を形成している。

具体的には、THAADは地上配備型の迎撃システムとして設計されている。このシステムの主要な特徴は、「ヒット・トゥ・キル(直撃破壊)」技術によって敵の弾道ミサイルを迎撃・破壊することで、都市や軍事施設などの重要な目標を弾道ミサイルの脅威から守る能力を持つことです。

この技術は、迎撃ミサイルが弾道ミサイルに直接衝突し、その衝撃力によって破壊するもので、核、生物、化学兵器のような特定のペイロード(弾頭部分の積載重量)を持つミサイルが目標に到達する前にこれを無効化することができる。

USA Military Channel/YouTube
ロシア国境に近いハリコフに設置するメリットがない……プロパガンダ

THAADシステムは弾道ミサイル防衛能力が高いですが、ロシアの複数の軍事能力に対する迎撃機能を持ちません。そのため、ロシアに対抗する目的でTHAADを配置することには疑問があります。

さらに、THAADのTPY-2レーダーは追尾・探知能力が高いですが、ハリコフなどの前線に配置することは戦略的に意味を成しません。ハリコフはロシアの国境から非常に近く、重砲や多連装ロケットの射程内に位置しています。重要な機材をこのような地点に配置することは、実際の軍事戦略としては合理的ではないと考えられます。

このような背景を考慮すると、ロシア政府のTHAADに対する主張は現実的な軍事的リスク評価からは乖離していると言えます。このような情報は、情報操作やプロパガンダの一環として広まることがありますが、冷静に事実関係を検討することが必要です。

2022年2月24日 ウクライナ侵攻のスピーチでプーチンが『MDシステム』に言及

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの戦線布告の演説を行いました。その中で彼は、アメリカによる中距離核戦力全廃条約(INF条約)の破棄後の米軍の動きに対する深い懸念を表明しました。

プーチン大統領は、ペンダゴンが5500kmの射程を持つ地上攻撃兵器の開発を進めていると主張し、これがウクライナに配備されると、ロシアの欧州部分全域が標的となると述べました。具体的に、モスクワへの巡航ミサイル「トマホーク」の飛行時間は35分以下、ハリコフからの弾道ミサイルは7〜8分、そして極超音速攻撃兵器では4〜5分とされています。これにより、ロシアは戦略的な脅威に直面しているとの見解を示しました。

さらに、プーチンはNATOの東方拡大や軍事インフラのロシア国境近くへの移動を批判し、西側諸国がロシアの懸念や警告を無視して行動を続けていると強調しました。

この演説は、ロシアの安全保障上の懸念を背景として、ウクライナへの軍事行動を正当化するものとして行われました。しかし、国際的な背景や関係国間の緊張を考慮すると、この動きは極めて複雑な要因によって形成されたものと考えられます。

Associated Press/YouTube

オリバー・ストーンの『オリバー・ストーン オン プーチン』とNATOの脅威

さかのぼること2017年6月、あるドキュメンタリーシリーズが放送され、アメリカのメディア業界に衝撃を与えた。

それが『プラトーン』や『JFK』などの映画で知られるオリバー・ストーンが、2年間にわたりロシアのウラジーミル・プーチン大統領との対話を中心としたドキュメンタリー作品、『オリバー・ストーン オン プーチン』です。

特に注目を集めたのは、プーチンがNATOに関する見解を明かした部分でした。プーチンはNATOの存在意義を疑問視し、組織としてのまとまりや存続性を否定的に捉えています。その懸念の根底には、NATOがそのメンバー国に対する米国の影響力の下で、ロシアに対する脅威となり得る軍事システムを配備する可能性があるという考えがあります。特に、ABMシステムや新たな軍事基地、攻撃用システムの配備に関する考え方を強調しています。

プーチンの警告は、もしNATOがそのような措置を取るならば、ロシアもそれに対して対抗措置を取る必要があり、ミサイルシステムの照準をNATOの施設に合わせることになるというものでした。彼はこのような緊迫した状況を引き起こすことの危険性を指摘し、そのような事態を望むのは誰なのかという問いを投げかけました。

このドキュメンタリーは、プーチンの独特の視点と、彼がロシアのリーダーとしての立場から見た国際的な問題に対する考えを知る上で貴重な資料となりました。

Wall Street Journal/YouTube

「ミサイル防衛(MD)とロシアの懸念」軍事的考察と対応

ロシアは長らく、ミサイル防衛システム(MD)が攻撃ミサイルの配備拠点として使われる可能性があるとの懸念を表明してきました。しかし、その背後にある軍事的な理論や事実に基づいた懸念については多くの専門家から疑問が呈されています。

  1. 固定式の配備拠点の問題点: 固定された拠点に攻撃兵器を配置することは戦略的にリスクが高い。一度その位置が判明すれば、敵国からの先制攻撃のターゲットとなり易く、持続的な脅威に晒される。このため、現代の軍事戦略としては非効率的であるとの指摘がある。
  2. ウクライナのNATO加盟とMDシステムの現状: ウクライナのNATOへの加盟や、ウクライナ国内へのMDシステムの配備は現在のところ具体的な動きが見られません。これらの事実を考慮すると、ロシアの示す「脅威」の実態が不明確であると言えます。
  3. 軍備管理と対話の必要性: もしロシアが真にこれらの脅威を感じているのであれば、軍事的手段に訴える前に、軍備管理や対話を通じての解決を模索すべきである。軍事的行動は最終的な手段としてのみ考慮されるべきで、先に外交的手段を尽くすべきである。

このような背景から、多くの国際的な専門家や評論家は、ロシアのMDシステムに対する懸念が、実際の脅威よりも政治的な意図や他の戦略的考慮に基づいているのではないかとの見方を示しています。

ウクライナのMDシステムとロシアの緊張関係

ミサイル防衛(MD)システムの問題は、軍事的・政治的な観点から非常に複雑かつ敏感なものとなっています。近年、この問題は米国、ロシア、ウクライナ、さらにはNATOを巻き込んで、国際的な関心を集めるテーマとなっています。

特に、ウクライナのMDシステムの配備問題や、それに関連するロシアとの緊張関係は、多層的な要因に起因しており、単純に「防衛」や「攻撃」の問題として捉えることは難しい。一方で、ロシアの主張はしばしばプロパガンダ的要素を含むとの批判も受けており、真実を探ることは容易ではありません。

しかし、何より重要なのは、軍事的手段に訴える前に、対話や外交的解決を優先させるべきだという共通の認識です。これらの国際的な緊張は、大規模な武力衝突や紛争を引き起こす可能性があるため、最大限の努力をして平和的な解決を追求する必要があります。

オリバー・ストーンのドキュメンタリーや他のメディア報道を通じて、多様な視点や意見を理解し、より深くこの問題を考察することが、真の平和を築く第一歩となるでしょう。

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マッハ5以上のスピードでコースを替えながら飛翔する「極超音速ミサイル」は、迎撃は不可能といわれており、中国とロシアではすでに開発、配備されたと考えられている。この「極超音速ミサイル」の登場が、第2次世界大戦後、70年以上にわたって続いた核を搭載した弾道ミサイルによる『恐怖の均衡』という時代の終焉を意味すると言われている。それは、日本の安全保障にとっても大きな転換期となることは間違いない。バイデン大統領が正式に就任し、世界と日本の安全保障環境にも新しい常識が生まれるだろう。日本の平和はどう守っていくのか? フジテレビで防衛問題を担当する報道局上席解説委員の能勢伸之氏による解説で、その行方を考えるヒントとなる1冊だ。(「Books」出版書誌データベースより)
【ウクライナ危機(33)】西側がウクライナの“ファシスト”を支援している!?侵攻の口実「ネオナチ」

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