世界の緊張が高まる中、ウクライナのNATO加盟問題が新たな焦点となっていました。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのNATO加盟を「レッドライン(超えてはいけない一線)」と位置づけ、その一線を越えた相手に対して「非対称的かつ苛烈な返答で後悔させる」と警告しました。
この記事では、ウクライナ危機の新たな局面、プーチンの警告、そしてウクライナのNATO加盟と「レッドライン」について詳しく解説します。
【ウクライナ危機(25)】ベラルーシからの難民流入により揺れるEU …ウクライナ危機の新たな局面
Red line
プーチンの警告!ウクライナのNATO加盟と「レッドライン」
ウクライナ情勢が緊迫する中でのウィリアム・バーンズ元CIA長官の分析は、非常に興味深い視点を提供しています。バーンズは、国務省出身で、中東とロシアの担当という長いキャリアを持っています。
彼が指摘する米ロ関係の急激な悪化の原因は、超大国の地位を失ったロシアの鬱屈感、KGB出身のプーチンの猜疑心と強権体質、そしてアメリカ外交の「思慮のなさ」であります。
1990年にブッシュ父政権のジェームズ・ベイカー国務長官が「NATOは1インチたりとも東に伸張させない」と約束した背景には、ソ連のドイツ統一への賛同を取り付けるという目的がありました。しかし、ソ連崩壊後の1991年にアメリカが旧ソ連の一部であったジョージアやウクライナのNATO加盟を支持し始めたことは、ロシアにとって明らかな背信行為と受け取られました。
バーンズ自身、当時モスクワ大使館の幹部職員として、このような状況を目の当たりにしていました。米国がNATO拡大を強力に推進していく姿勢は、「よく言えば時期尚早、悪く言えば不必要に挑発的」と彼は評しています。
彼は更に、「いかなるロシアの指導者も、ウクライナのNATO加入の動きを黙認することはあり得ない。それはロシアへの敵対行為だ。全力を挙げて阻止する」と述べています。
プーチンの怒りは明らかで、「ウクライナが不安定で政治的に未熟であり、NATO加盟が非常な分裂を招く問題であることを米政府は知らないのか。ウクライナは実在する国ですらない。一部は、実際には東ヨーロッパ、一部は実際にはロシアだ」と彼は主張しました。
バーンズによれば、その後のプーチンの行動は、アメリカの「陰謀」を深読みし、ロシアの国益だけでなく、西側が重視する問題に対しても挑発的な態度を取るようになっていった。
そして、プーチンはウクライナの将来的なNATO加盟を「レッドライン(超えてはいけない一線)」と明確に位置づけています。彼はこの「一線」を越えた相手に対して、「非対称的かつ苛烈な返答で後悔させる」と警告してきたのです。2021年9月には、NATOによるウクライナ支援の拡大もこの「一線」に含まれるとプーチンは認識を示しました。
レッドラインを越えた動き…ウクライナとジョージアのNATO加盟とロシアの反応
ロシアのプーチン大統領が設定した「レッドライン」は、旧ソ連圏でNATO加盟を望んでいるウクライナとジョージア(旧名グルジア)に対するものであり、これらの国がNATOに加盟することはロシアの安全保障に直接的な脅威となると見なしています。
2008年にウクライナとジョージアはNATO加盟を申請しましたが、その同じ年に、ロシアはジョージア国内の民族紛争に軍事介入しました。これは、ロシアがジョージア紛争を通じて、NATO加盟に対する自身のレッドラインを示したと言えます。しかし、2014年にウクライナで反政権デモが起こり、親欧米政権が誕生した結果、NATOへの加盟も目指しかねないという状況にロシア側は強い懸念を抱くことになりました。
プーチン政権は先手を打ち、ロシア軍が駐留するウクライナ南部のクリミア半島を制圧しました。そして、クリミア以外のウクライナ東部を紛争地帯化することで、ウクライナのNATO入りを阻止しようとしました。しかし、「ロシアはクリミアを得たが、ウクライナを永遠に失った」とウクライナ側では指摘されています。このロシアの軍事介入の結果、親欧米から親ロシアへの政権交代の可能性がほぼ消滅したウクライナは、今やNATOとの軍事演習に積極的であり、2015年のミンスク停戦合意を完全には履行せず、米国製の対戦車ミサイルやトルコ製ドローンの調達を進めています。
2017年6月、ウクライナ議会は戦略的な外交・安全保障政策の目的としてNATOのメンバーシップを復活させる法律を採択し、2019年にはウクライナの憲法の対応する改正を発効させました。2020年9月、ゼレンスキー大統領はNATO加盟を目指すNATOとの独自のパートナーシップの発展を規定した新国家安全保障戦略に署名しました。
この一連の動きは、2014年にクリミア半島の帰属を巡りロシアとウクライナ間で起こった「ウクライナ危機」の影響を受けたものです。この危機を受けて、米国を含むNATOに加盟する国々は、2016年のワルシャワサミットでバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)およびポーランドへの部隊配備を決定しました。これらの動きは、プーチン大統領が設定した「レッドライン」を巡る緊張を高め、NATOとロシア間の関係に新たな局面をもたらしています。
バイデン政権下のNATOとウクライナ「多国間主義への回帰」
2021年1月にアメリカで成立したバイデン政権は、国際協調と多国間主義への回帰を掲げました。
バイデン大統領はオバマ政権の副大統領時代からウクライナに深く関わり、ウクライナの民主化を支援してきました。2009年7月にウクライナを訪れたバイデン大統領は、「ウクライナがNATO加盟を選択するなら、米国は強く支持する」と伝えていました。当時、ウクライナではNATO加盟論が少数派であったため、この発言は目立つものでした。
新政権においては、同盟関係の重視が特に強調されています。とりわけ、トランプ前大統領の言動により傷ついたNATOにおける米国の指導力や信頼性の回復は喫緊の課題となっています。
トランプ政権下では、NATOの結束が揺らぎました。トランプ前大統領は、ドイツなどの加盟国の軍事支出が少ないとして、北大西洋条約第5条で定められた集団的自衛権の行使について疑問を投げかけ、さらにはNATOからの離脱を検討しました。また、政策決定についての加盟国との事前協議を軽視した結果、欧州各国に不信感が広がりました。これを受けて、マクロン仏大統領は2019年11月に英誌のインタビューで「NATOは脳死状態だ」と批判しました。
バイデン政権の下で、米国が再び多国間主義を採用し、NATOの中心的な役割を担うことで、これらの問題が解決されることを期待する声が高まっています。特に、ウクライナとの関係強化やNATO加盟を支持するというバイデン大統領の方針は、その一環と見ることができます。
<アマン21>10年ぶり!ロシアとNATOが共同訓練を実施!!
2021年2月11日から16日までの6日間、パキスタン海軍が主催する多国間演習「アマン21」が行われました。この演習は日本国内では大きく報道されませんでしたが、パキスタン海軍の他に日本、中国、ロシア、スリランカ、インドネシア、イギリス、アメリカの7ヶ国から海軍艦艇が参加しました。さらに、トルコが航空機を派遣し、式典には全世界から45ヶ国が参加するという大規模なものとなりました。
ロシア海軍が北大西洋条約機構(NATO)加盟国と共同で訓練を行うのは10年ぶりのことであり、その意義は大きいです。専門家によれば、演習の公式的な目的は全世界の共通の敵であるテロとの戦いであるとされています。この目的は、西欧諸国と接点を見出す機会をすべての参加国(ロシアを含む)に与えるものであり、特にNATO非加盟国であるロシアにとって重要なものとなりました。
パキスタンは、テロの脅威の発生源となりうるアフガニスタンと国境を接しており、重要な海上輸送路が通過するインド洋上に位置しています。21世紀におけるこの海域の重要性は増しており、ここでの演習はアジア太平洋地域の軍事的な緊張を緩和し、地域の安定化に寄与する可能性を秘めています。
また、演習地が近くに中距離・短距離ミサイルのインフラが設置される予定地であることから、ロシアは自身の軍事力を見せつける機会を得ました。アジア太平洋諸国との連携行動を訓練することは、パキスタンでの演習に参加したすべての国にとって有益な経験となることが期待されました。
さらに、訓練の開始を前に、米国がロシアとの間で結んだ新戦略兵器削減条約(新START)の延長を決めたことが明らかになりました。これは、ロシアとNATO加盟国との間にある緊張を緩和し、国際的な安全保障環境を改善するための一歩と言えます。
オンラインでバイデンが演説「米国は戻ってきた」
2021年2月19日にオンラインで開かれたミュンヘン安全保障会議(MSC)は、この年も注目を集めました。MSCは1963年から毎年開催されており、かつては冷戦下の東西陣営の対話に大いに貢献していました。現在ではNATOとEUを中心に、政界や経済界の重鎮が集まる重要な世界会議となっています。最近ではロシア、中国、インド、日本なども定期的に参加し、昨年は日本から河野太郎防衛相、茂木敏充外相(いずれも当時)が参加しました。
今年の会議のハイライトは、アメリカのジョー・バイデン大統領の基調講演でした。通常、アメリカの現職大統領がMSCに登壇することは稀で、欧州勢はその出演に大いに期待を寄せていました。2年前のMSCでバイデンは、政権交代後の新方針を約束し、「アメリカは戻ってくる」と述べていましたが、この年の講演ではその約束を果たした形となり、「アメリカは戻ってきた」と宣言しました。
<2021年ミュンヘン安全保障会議>バイデン大統領の対欧州アプローチ
バイデン大統領は、前任者であるドナルド・トランプとは対照的に、ロシアのサイバースペースでの安定を損なう行動を非難し、プーチン大統領が欧州を不安定化させようとしていると批判しました。さらに、トランプが要求したドイツ駐留米軍の撤収を停止し、欧州の防衛強化にとって重要な決定と位置づけました。また、北大西洋条約機構(NATO)やNATO条約第5条が定める集団防衛への支援を改めて表明しました。
これらの発表は、バイデン政権が欧州との連携を重視し、前任者の孤立主義的な方針からの転換を強く打ち出したもので、国際社会にとって重要なメッセージとなりました。
NATO事務総長の2021年ミュンヘン安全保障会議での警告
2021年2月19日、ミュンヘン安全保障会議にてNATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグが演説を行い、新たな国際秩序への懸念を表明しました。ストルテンベルグは、欧州、アメリカ、カナダに対し、国際ルールに基づく秩序を維持するよう呼びかけました。特に彼は、中国とロシアが自己の利益に基づいて国際ルールを書き換えようとする動きを警戒するべきであると指摘しました。
ストルテンベルグ事務総長は、中国の台頭が大西洋を横断する社会、特にNATOの安全、繁栄、生活様式に影響を及ぼす可能性があると強調しました。NATOはロシアを主要な敵として位置づけていますが、中国の軍事的影響力拡大に対応するため、中国を戦略的構想に組み込むことを検討しています。これは、ロシアへの対応を続けつつ、中国の台頭による新たな課題にも目を向けるという新たなアプローチを示しています。
さらに、ストルテンベルグ事務総長は、ヨーロッパで見られる現状が東アジアでも起こり得ると警告しました。彼は特に、中国が台湾に対して軍事的行動をとる可能性について警鐘を鳴らしました。彼は西側の同盟国がこの問題に対して統一した対応を取るべきであると強調し、NATOの同盟国とパートナーがウクライナの安全と領土の完全性を支持するべきだと主張しました。
プーチン大統領が年次演説で西側諸国への「レッドライン」についての警告
2021年4月21日、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は連邦議会に対する年次演説を行いました。この演説で彼は、西側諸国に対して「赤い線」を越える行動を取らないよう警告し、そのような行動には「速やかで厳しい反応」があるだろうと述べました。
プーチン大統領は、ロシアが自制心を保ちながらも、敵対的な行動には注意深く注視していることを明らかにしました。彼は、ロシアに対する敵意を持った行動が絶え間なく存在していると指摘しました。
また、ロシアが良好な関係を求めており、修復が困難な状況を作り出すことは望んでいないと述べました。しかし、ロシアの善意が無関心や弱さと誤解され、取り返しのつかない状況が生じる場合、ロシアは適切に対応すると強調しました。
「私たちは誰もが赤い線を越えないことを望んでいます。その線が具体的にどこに引かれるかは我々が定める」とプーチン大統領は語り、国家の主権と国益を脅かす挑発的な行為を行う者たちは、これまで経験したことのないほどの後悔を感じるだろうと警告しました。
これらの発言は、プーチン大統領のロシアの主権と国益に対する強い意志と、西側諸国との尊重に基づく関係への期待を明らかにしています。この演説は、国際政治におけるロシアの立場を再確認し、西側諸国に対するそのメッセージを強く伝えるものでした。
年次教書演説の前には10万人のロシア軍が国境に集結
このプーチンの演説より少し前の2021年3月下旬、ロシアは「演習」を装った軍事増強を既に開始していました。欧州連合(EU)の外交・安全保障政策上級代表であるジョゼップ・ボレルは、最大10万人の軍人が動員されたとの見方を表明し、「前例のない」と評されました。これにより、西側からはロシアの挑発行為と見なす声が高まりました。
ウクライナ危機とロシアの軍事活動…バイデン政権の対応とプーチンの譲歩
2021年4月2日、ウクライナとロシアの国境付近でのロシア軍の増強による緊張の高まりを受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はアメリカのジョー・バイデン大統領と電話で会談しました。ロシアの脅威に直面して、ゼレンスキー大統領はアメリカからの「断固たる支援」の約束を得ました。アメリカは、NATOとの協議も進行中であることを明らかにしました。
2021年4月28日、バイデン大統領はウクライナへの軍事援助とその他の対策のために、米国議会に対して330億ドル(約43兆円)の追加予算を要請しました。これは長期化するロシアの攻撃を見越した対策で、これにより3月に可決された2022会計年度予算の136億ドルに対し、ほぼ倍増の要請となりました。「安価ではありませんが、行動しないともっと多くの費用がかかるでしょう」とバイデン大統領は警告しました。
しかし、4月末にロシア軍は撤退を開始しました。これはウラジミール・プーチン大統領が年次演説を行い、その中で一部には批判的な内容を含んだ直後のことでした。
ロシアが撤退を決定した理由については複数の説がありますが、一つの主要な説として、バイデン大統領が4月13日の電話会談で提案した米露首脳会談の影響が大きかったとされています。ロシアの軍事増強の具体的な意図は未だ明らかではないが、ウクライナへの圧力やバイデン政権へのメッセージの一環であった可能性も考えられます。しかしながら、プーチン大統領はバイデン大統領との電話会談を成功させ、首脳会談の提案を確保することができました。
<2021年NATOサミット>中国とロシアに対する共同対抗とウクライナの不満
2021年6月14日に開催されたNATOサミットでは、中国の断固たる政策による「制度的な挑戦」とロシアの国際法無視に対抗するための協力が宣言されました。これはジョー・バイデン大統領が就任して以来、初めてのNATOサミットでした。
サミット前、バイデン大統領はNATOがアメリカにとって重要であることを強調し、前任のトランプ大統領の在任中に緊張が高まったNATO加盟国との関係を修復する意向を示しました。また、「10カ国以上が目標を達成し、他の国も目標達成に向けて進んでいる。これは重要だ」と述べ、防衛予算の増額に努めるよう他の加盟国に促しました。
しかし、サミットにはウクライナが招待されませんでした。これに対してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は不満の声を上げました。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナがNATO加盟に向けて可能な限りの努力を尽くしていることを強調し、ウクライナが多くの欧州連合(EU)加盟国よりもNATO加盟に準備が整っていると主張しました。ロシアがウクライナの国境付近で軍事的存在感を増強する中、ゼレンスキー大統領はNATO加盟国に対し、ウクライナの加盟プロセスを加速させるよう訴えました。
バイデン大統領、ウクライナのNATOメンバーシップとプーチンとの会談について語る
サミット後の記者会見で、ジョー・バイデン大統領はウラジミール・プーチン大統領との予定された会談について質問を受けました。具体的な議題を公にすることは避けたバイデン大統領ですが、この会談で「赤い線」が存在する範囲を明確にする意向を示しました。
会見ではまた、ウクライナのNATOメンバーシップの可能性についても言及しました。
バイデン大統領は、ウクライナがNATOのメンバーシップ条件を満たすかどうかは複数の要素に依存すると述べ、その中でも汚職問題の解決やNATOメンバーシップ計画の採択に必要な他の基準を満たすことの必要性を強調しました。さらに、ウクライナのNATOメンバーシップは他の加盟国の投票結果に依存すると述べました。
東ウクライナでの緊張がウクライナのNATOメンバーシップの可能性を損なうかどうかの問いに対しては、「いいえ」と明確に回答しました。
ゼレンスキー大統領、NATOの「曖昧な」ウクライナ加盟計画を批判
サミット後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、Twitterを通じてNATOの指導者たちによるウクライナの将来的な加盟の承認を歓迎する意思を表明しました。彼はEU加盟の決意を再確認し、「ウクライナはヨーロッパであり、私たちはヨーロッパ人です。ウクライナは間違いなくヨーロッパ連合(EU)に加盟する」と強調しました。
ウクライナとロシアの間で国境付近での軍事的な緊張が高まって以来、ゼレンスキー大統領は欧州や西側諸国の指導者との複数の会議や電話協議に参加し、NATOへの加盟行動計画への参加を主張してきました。
しかし、ゼレンスキー大統領はNATOに対してウクライナの加盟計画が「曖昧」であるという不満を表明しています。彼はウクライナの加盟に対する明確なタイムラインを求めています。その欠如は「ばかげている」と述べ、NATOの指導者たちに対する厳しい批判を投げかけました。
クレムリン、ウクライナのNATO加盟は”レッドライン”と警告
レムリンの報道官、ドミトリー・ペスコフは、ウクライナのNATO加盟に関する議論に対して不快感を示し、これを「越えてはならない”赤い線”」と称しました。この発言はラジオ番組中に行われました。
ペスコフはさらに、NATOがウクライナを急速に加盟させることに警鐘を鳴らし、ウクライナの軍事同盟への加入は長期間にわたって潜在的な問題を引き起こす可能性があると警告しました。クレムリンは、ウクライナがNATOに加盟することはヨーロッパの安全に対して深刻な脅威をもたらすと主張し、その結果として厳しい対応が必要とされると述べています。
ペスコフはまた、ウクライナのNATO加盟は最も混乱を招く問題の一つであり、これが長期間にわたる潜在的な問題となる可能性があると指摘しました。
バイデンとプーチン、ジュネーブでの首脳会談で「レッドライン」を確立
2021年6月16日、アメリカのジョー・バイデン大統領とロシアのウラジミール・プーチン大統領は、スイスのジュネーブで初の首脳会談を行いました。18世紀の別荘、「ラ・グランジュ」での会談は厳重な警備のもと、約4,000人の警察官、兵士、セキュリティスタッフにより守られ、約3,000人のジャーナリストが出席しました。
これは、1985年11月のレーガンとゴルバチョフの会談以来、ジュネーブでの両国の最高指導者による初の会談でした。
首脳会談では、「赤い線」の確立とその線を越えた際の対抗措置について宣言され、明確なルールが設定されました。プーチン大統領は、アメリカの石油パイプライン会社や世界最大の肉加工会社への身代金要求型サイバー攻撃にロシアが関与していないと主張しました。また、アメリカが最も多くのサイバー攻撃を行っている国であり、次いでカナダとイギリスが続くとも述べました。
これに対して、バイデン大統領は、エネルギー、水システムなど16のセクターがサイバー攻撃の標的にされてはならないとするリストをロシア側に提供したと明らかにしました。これら16のセクターは「赤い線」として設定されました。
バイデンとプーチン、新たな冷戦を回避しつつ協力関係を模索
ジュネーブでの首脳会談後の記者会見で、アメリカのジョー・バイデン大統領は、新たな冷戦を望んでいないと強調しました。彼は誰も利益を得ない新たな対立を生むべきではないと述べ、既に緊張している米ロ関係を更に悪化させることを否定しました。関係構築について肯定的なコメントをし、自身のアプローチと前政権のプーチンとの緊密な関係をアピールする姿勢との違いを強調しました。
バイデン大統領は、人権問題や国益について妥協するつもりはないと強調しましたが、会議前に設定した「赤い線」により、軍縮などの協力可能な分野での対話に合意を得ました。
プーチン大統領もまた、会議が「建設的なものであった」と述べ、両首脳がサイバーセキュリティや軍縮についてのさらなる協議を行うことに合意したと報告しました。プーチン大統領はまた、アメリカとロシアがそれぞれの大使の復帰について合意に達したと発表しました。この大使たちの復帰はそれぞれの任務地で行われ、具体的な時期は純粋に実務上の問題であるとされました。
しかし、会談は友好的な雰囲気ではなく、専門的な性格があったと報じられました。未解決の重要な問題について、特にウクライナ、人権問題、アメリカへのサイバー攻撃などについては重大な突破口は見られませんでした。
しかし、バイデン大統領とプーチン大統領はそれぞれ「指導者間の直接の対話には代替手段はない」、「非常に建設的で実利的だった」と述べ、会議の重要性を強調しました。また、サイバーセキュリティと軍縮に関する協議の開始や、大使の復帰、さらには北極からアフガニスタンまでの相互関心のある分野での協力についても合意しました。
会談に繋がる緊張と軍事行動…バイデンの「殺人者」発言とその影響
2021年の春、米国大統領ジョー・バイデンのロシア大統領ウラジミール・プーチンを「殺人者」と発言したことが、この両首脳の会談に繋がる一連の出来事を引き起こしました。発言は3月中旬のテレビインタビューで行われ、その結果、ロシアはクリミアと東部国境地域での軍事存在を強化し、大規模な軍事演習を開始しました。
この動きにより、欧州全体での緊張が急速に高まり、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は緊張が前例のないレベルに達していると警告しました。この状況に対処するため、アメリカは2隻の艦船を黒海に展開すると発表しました。ロシアはこれに対抗し、カスピ海艦隊から15隻の艦船を両海を結ぶ運河を通じて黒海に急速に展開しました。これに対し、アメリカは急遽艦船の展開計画を中止しました。
緊張が高まる中で、バイデン大統領は4月中旬に、ヨーロッパの第三国でプーチン大統領との首脳会談を提案しました。両首脳は電話で話し合い、その結果、プーチン大統領はバイデン大統領を「経験豊富な政治家」と形容し、バイデン大統領の「殺人者」発言に対する説明に満足したと述べました。これが、後の首脳会談への道筋をつけた出来事でした。
ゼレンスキー大統領の不満と緊張
6月14日、バイデン大統領とプーチン大統領の会談が行われる前に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、バイデン大統領と自身の間で会談が実現しなかったことについて不満を表明しました。ゼレンスキー大統領は、「事前に会談できたら良かったのに」と述べ、その機会を逸したことを遺憾に思ったことを明らかにしました。バイデン大統領は7月にゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招待しましたが、ウクライナのリーダーは依然として不満を示しました。
「シーブリーズ2021」黒海での多国間海洋軍事演習とロシアの反応
6月28日、アメリカとウクライナが共同主催する多国間海洋軍事演習「シーブリーズ2021」が黒海で開始されました。この演習には、NATO、イギリス、ジョージア、トルコなど32か国が参加し、多数の艦船、航空機、部隊が参加しました。これらの軍事力は上陸戦や海上封鎖作戦など、多様な演習を実施しました。この演習の目的は海上の安全と安定を向上させ、情報共有とパートナーシップの強化を図ることでした。
しかしこの演習に対して、ロシアは批判的な立場をとりました。ロシアはこの演習をウクライナの軍備拡大と地域の不安定化を加速させる行為とみなしました。特に、ウラジミール・プーチン大統領はこの演習をイギリスとアメリカによる挑発と名指し、ロシアが反撃に出ても第三次世界大戦は引き起こされないだろうと主張しました。
ロシアの批判にもかかわらず、演習は計画通りに続行されました。日本の防衛省と自衛隊も演習が行われていることを認め、海上自衛隊の一人をオブザーバーとして派遣し、演習に参加しました。これは日本が「シーブリーズ2021」に対する支持を明確に示す行動となりました。
「ウクライナへの支援とNATO参加問題について」バイデンとゼレンスキーの会談
2021年9月1日、ホワイトハウスでジョー・バイデン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との間で会談が行われました。2時間にわたるこの会談は、バイデン大統領の就任以来初めてのものであり、ゼレンスキー大統領にとっては、2019年にドナルド・トランプ前大統領との会談を要請して以来、実現を待ち望んでいたものでした。
会談の冒頭、バイデン大統領はロシアの侵略に対抗するためにウクライナの主権と領土完全性を強力に支持する意向を強調しました。これに対し、ゼレンスキー大統領は感謝の意を示し、「世界とアメリカにとって困難な時期に時間を割いていただき感謝しています」と述べました。
会談ではバイデン大統領が、対戦車ミサイルを含む6000万ドル(約66億円)の軍事支援をウクライナに約束しました。さらに、バイデン大統領は、ウクライナが懸念を抱く「ノルドストリーム2」ガスパイプラインの問題にも言及し、エネルギー供給の多様化に向けた支援を表明しました。
ウクライナのNATO加入問題
ジョー・バイデン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談では、新型コロナウイルスワクチンの寄付と、新たに発表された6,000万ドル(約66億円)の安全保障支援パッケージに対する感謝の意がゼレンスキー大統領から表明されました。また、ゼレンスキー大統領はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への協力をバイデン大統領に要請しました。
しかしながら、ウクライナのNATO加入に関して大きな進展は見られませんでした。ホワイトハウス報道官のジェン・サキは、アメリカがウクライナのNATOメンバーシップを支持していることを明らかにした一方で、ウクライナがNATOへの加入を達成するためにはまだ行うべきことがあると指摘しました。
サキは、「ウクライナはそれを知っている」としつつ、ウクライナが取るべき行動には法の支配の進展、国防産業の近代化、経済成長の拡大などが含まれていると説明しました。これらの要素は、NATO加盟の要件として重要な要素であるとされています。
そして、アメリカは「要件を満たし、ユーロ大西洋地域の安全に貢献できる志願者に対して、NATOメンバーシップのドアを開いておくこと」を支持していると述べました。これは、ウクライナだけでなく他の国々にも適用される方針であり、NATOへの加入はその国が達成するべき基準と貢献度によるという考えを示しています。
天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」についてガス確保の支援を発表
ジョー・バイデン大統領とウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談の一部は、ロシアからドイツへの天然ガス輸送を担うノルドストリーム2という水中パイプラインプロジェクトに焦点を当てて行われました。このプロジェクトは、ヨーロッパのエネルギー供給に対するロシアの影響力を増大させる可能性があり、特にウクライナなどの国々にとって懸念材料となっています。
バイデン大統領は、アメリカがウクライナが異なる供給源からガスを確保することを支援するという立場を明確にしました。これは、ウクライナのエネルギーの多様性を高めることを通じて、ロシアからのエネルギー供給に過度に依存するリスクを減らすという目的が含まれています。
さらに、バイデン大統領は、ウクライナのエネルギー供給の多様化へのアメリカの支持を明確にしました。これは、ウクライナがエネルギーの自立を達成し、潜在的なエネルギー供給の中断に対する耐性を強化するための重要なステップとなります。エネルギーの多様化は、経済の安定性を保証し、国家の安全保障を強化するための重要な戦略です
ウクライナ、NATOとヤルタ欧州戦略会議でのゼレンスキー大統領の主張
2021年9月10日、キエフで開催された「ヤルタ欧州戦略(YES)会議」において、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナのNATO加盟をめぐる課題について、アメリカやヨーロッパの高官や知識人への重要なメッセージを伝えました。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナの改革が遅いという理由でNATO加盟が拒否されるのは不誠実であると述べました。彼は、ロシアの影響力の増大を阻止するためには、ウクライナがNATOに加盟する必要があると主張しました。彼のこの発言は、ウクライナの西洋との結びつきを強める一方で、東方の隣国ロシアとの緊張を高める可能性があります。
その後、ロシア政府はウクライナとNATOが黒海での不安定化行動を行っていると非難しました。これは、ロシアが自身の地政学的影響力を保つために、ウクライナの西向きの動きに反対していることを示しています。
「ヤルタ欧州戦略会議」は、ウクライナのヨーロッパへの未来とグローバルな文脈について討論するための重要なフォーラムであり、ウクライナを世界と結びつける新たなアイデアの創出を促進しています。この会議は2004年から毎年開催されており、ウクライナと国際的な政治、ビジネス、その他の分野のリーダーがウクライナの未来と世界における位置について議論する重要な場となっています。
「ザーパド2021」 ロシアとベラルーシによる大規模軍事演習
2021年9月10日から16日までの間、「ザーパド2021」軍事演習がロシアとベラルーシの軍隊により共同で実施されました。大規模なこの演習は、膨大な数の軍人と装備を動員し、ロシア連邦国防省によれば約20万人の軍人、80機以上の軍用機や最大760台の装備、そして15隻の艦船が参加しました。
「ザーパド」は、4年ごとに行われる伝統的なロシアの西部軍管区を中心とした指揮・参謀演習であり、演習地点はロシアとベラルーシの様々な訓練場に及びました。この演習の戦術的な概念は防御的な性格を持ち、ヨーロッパ共同体全体または特定の隣国に対して直接的な脅威を与えるものではありません。
衝撃的な規模と力の展示
特に注目を集めたのは、西部ニジェゴロド州の演習場での展開でした。演習が始まると、その場所の平和な風景は一変し、一面は煙と炎に包まれました。新型の火砲やロケット砲など、合計140門以上の武器が、仮想の敵部隊に対して次々と火を噴きました。これらの部隊は、味方陣地の近くまで侵攻していたとされました。
また、約2万5000平方メートルの面積を一発で破壊できるという短距離弾道ミサイル「イスカンデル」も発射されました。イスカンデルの巨大な爆炎が上がるたびに、観察席にいた報道陣まで衝撃が届いたと言います。
この軍事演習は、ロシアとベラルーシの軍事力の展示とともに、その戦略的な能力を証明する一方で、その驚異的な規模と力がどれほどの影響力を持つのかを観察者に示しました。
ロボット兵器「ウラン-9」の初展開
「ザーパド2021」では、攻撃および偵察用の多数のドローンが展開され、遠隔操作型無人戦闘車両「ウラン-9」などのロボット兵器が初めて使用されました。これは、近代化されたロシア軍の攻撃能力の進化を示す象徴的な事例と言えるでしょう。
ウラン-9は、2キロ先の目標を識別し、遠隔操作によって砲撃やミサイル発射で攻撃することができます。30mmオートキャノン、機関銃、対戦車ミサイル、および火炎放射器を搭載しています。このロボット兵器は、以前にシリア内戦で試用された際には十分な性能を発揮しなかったと報告されていますが、その後収集されたデータに基づいて改良が行われ、現在は量産が可能な状態となっています。
ウラン-9は、その機能と外観からロシアの独立系新聞によってハリウッド映画のサイボーグ暗殺者「ターミネーター」と喩えられています。また、将来的には完全に自律的な行動を示す可能性があり、ミサイル発射などの決定も人工知能(AI)によって行われる可能性があるとされています。
「ザーパド2021」演習でのウラン-9および他のロボット兵器の使用は、ロシアが無人システムの開発と展開に注力していることを示しています。訪問していた外交使節団の一部は、これらの無人システムの展開により、ロシアが大規模な紛争に備えているように見えると述べました。
NATO加盟国の招待除外とその影響
ロシアが主催した「ザーパド2021」は、さまざまな国や国際組織から100人以上の代表を招待して実施されました。しかしながら、この招待の中にはNATO加盟国は含まれておらず、これはロシアによるNATOの意図的な排除と解釈され、注目を集めました。
特にバルト三国やポーランドなどのNATO加盟国からは、この状況について深い懸念の声が上がりました。NATOは一貫してロシアに対し、欧州の国境近くで行われる大規模な軍事演習について透明性を求めてきました。そのため、その要請を無視しNATOを排除する形を取ったロシアの対応は、多くのNATO加盟国から不信感を引き起こしました。
一般的には、モスクワに駐在する各国の軍事駐在員は大規模な軍事演習に招待されることが通例です。しかし、「ザーパド2021」ではNATO加盟国の軍事駐在員が招待されなかったため、「NATOの明白な排除」との批判が生じました。
NATOのロシア外交官追放とその波紋
2021年10月6日、北大西洋条約機構(NATO)はロシアの在ブリュッセルNATO代表部に所属する8人を「未申告の情報部員」、すなわちスパイと認定し、これを理由に追放処分を下しました。更に、同代表部における外交官の認可人数も、現状の最大20人から10人へと半減させることを決定しました。
この代表部要員の半減は今月末に発効予定であり、NATO加盟の全30カ国からの承認を得ています。NATOの関係者は、「NATOの対ロシア政策に変更はない。ロシアの攻撃的な行動に対し、我々は抑止力と防衛力を強化している。同時に、意義ある対話は常に受け入れている」と語っています。
英Sky Newsの報道によると、この度の外交官追放の背景には、2014年にチェコで起きた死者を伴う爆発事件へのロシアの関与が明らかになったことがあるとされています。また、NATOは2018年にも、英南部で発生した元ロシア情報機関員への神経ガス攻撃事件に対する反撃として、7人のロシア外交官を追放しています。
ロシア外務次官アレクサンダー・グシュコは、ロシアの新聞コメルサンに対して、「NATOの首脳陣は前日にロシアとの緊張緩和の重要性と、ロシア-NATO評議会の再開を支持することを強調していた。しかし、今日、その誠実さを信じる人はいないだろう。彼らの真の意図は誰にとっても明らかだ。アフガニスタン撤退後のドラマチックな終結の後、彼らは “ロシアの脅威” なしでは生き残れない」と述べています。
ロシアは2002年に設立されたNATO-Russia評議会の一環として、共通の安全保障分野での協力を促進する目的で観察員代表部を設置していました。しかし、ロシアはNATOには加盟しておらず、主導権はあくまで米国が握っています。この一連の事件は、ロシアとNATO間の緊張関係を一層激化させる可能性があり、今後の展開に注目が集まっています。
ロシア、NATOへの報復措置として外交使節団の活動停止とNATO連絡事務所閉鎖
2021年10月18日、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)への外交使節団の活動を停止し、モスクワのNATO連絡事務所の閉鎖を命じました。10月29日にはNATO看板の文字は消され、連絡事務所の活動が停止しました。これはNATOがロシア外交官の追放を決定したことへの報復措置で、既に冷戦水準にまで降下している東西関係に更なる打撃となりました。
ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは10月18、NATOのロシアにおける軍事ミッションの活動を停止し、2021年11月1日から同ミッションのスタッフの許可証を回収すると発表しました。ラブロフはさらに、NATOは平等な立場での対話に関心が無く、ロシアとNATOのコミュニケーションはロシア大使館を通じて行うことができると述べました。
NATOの報道官オアナ・ルンゲスクは、NATOがロシアの措置を遺憾に思い、ロシアがNATOのモスクワにおける軍事連絡ミッションおよび情報ミッションを停止し、閉鎖する決定を認識したと述べました。
一方、ロシア外務省は別の声明で、NATOの決定を批判し、対等な対話を促進し、軍事的な緊張を緩和する意欲の欠如を指摘しました。ロシアへの敵対的な行動が予測不可能な結果をもたらす可能性があると警告しました。
アレクサンダー・グルシュコ副外相は、NATOがロシアの緊張緩和提案を無視していると非難し、これが紛争につながる可能性があると警告しました。彼は現在の状況がモスクワにとって「容認できない」ものになっていると強調しました。
NATOの広報担当者は、NATOがロシアの攻撃的な行動に対して抑止力と防衛力を強化し続ける一方で、NATO-Russia Councilを通じた対話も継続すると述べました。NATOのロシアでの軍事任務を一時停止する決定は遺憾であるとしながらも、NATOのロシアに対する政策は一貫していると強調しました。
NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグは対話の再開と将来の会議スケジュールの検討が必要であると認め、軍事的なインシデントの防止方法、サイバー脅威の削減、ミサイル配備の制限、軍備管理の取り組みについて話し合うことの重要性を強調しました。
ウクライナ国境に9万人以上のロシア軍が集結、紛争緊張を引き上げ
2021年11月2日、ウクライナ国防省は、ウクライナ国境近くのロシアのスモレンスク州に約9万人のロシア軍が集結していると発表しました。これは、2014年以来、ロシアがウクライナ国境付近での恒久的な軍事力を増強し続けている中での新たな発展であり、国際的な懸念を高めています。
米国国務長官アントニー・ブリンケンとNATO事務総長イェンス・ストルテンベルグは、ともにロシアの「異常な軍事増強」について懸念を表明しています。ロシア軍のウクライナ国境付近での増強は長期にわたり続いており、衛星画像によりウクライナ周辺での軍事装備や展開の増加が確認されています。
一部の情報筋によれば、アメリカの情報機関は、ロシアが最大17万5千人の兵力を投入したウクライナへの大規模な軍事攻勢を計画しているとの評価を行っています。これは、ロシアと西側諸国との緊張を一層高める動きであり、特にウクライナ東部での紛争とウクライナのNATO加盟への懸念があることから、関心が集まっていました。
アメリカ海軍艦船の黒海進入とロシアの反応、地域の緊張増大
タイトル: アメリカ海軍艦船の黒海進入とロシアの反応、地域の緊張増大
2021年11月4日、アメリカ海軍の第6艦隊旗艦であるUSSマウント・ホイットニーがウクライナ南部の黒海に進入しました。これに伴い、ロシア軍は警戒レベルを引き上げました。既に10月30日にはトマホーク巡航ミサイルを搭載したUSSポーターも黒海に入っていました。
同じ日に、ロシアのプーチン大統領は、黒海艦隊の拠点であるクリミアのセヴァストポリを訪れました。彼は「国家統一の日」の儀式で演説し、「クリミアとセヴァストポリは永遠にロシアとともにある」と述べ、クリミアの返還を拒否するロシアの立場を再確認しました。大統領は会議でロシアの軍事関係者に監視強化を指示しました。
この状況は、西側の政府関係者の間で懸念を引き起こしており、米国務長官ブリンケンやNATO事務総長ストルテンベルクはともにロシアの「異常な軍事増強」について懸念を表明しています。ロシア軍のウクライナ国境付近での増強は長期にわたって続いており、衛星画像ではウクライナ周辺の軍事装備や展開の増加が確認されています。
アメリカの情報機関は、ロシアが最大17万5千人の兵力を投入したウクライナへの大規模な軍事攻勢を計画していると評価しています。一方、ウクライナのクレバ外相は同日、ツイッターで「ようこそ。私たちはアメリカとNATOとの関係を強化する準備ができています」と述べました。
ウクライナとアメリカ、戦略的パートナーシップ協定に署名
2021年11月10日、ウクライナの外相ドミトリー・クレバは、アメリカ国務長官アントニー・ブリンケンとの共同記者会見で、侵略的なロシアを抑止するためには、ウクライナの力をロシア政府に明確に示すだけでなく、ウクライナには強力な同盟国がロシアと対峙するために立ち上がっていることを明確にする必要があると述べました。
同日、アメリカとウクライナの外相は戦略的パートナーシップ協定に署名しました。この協定は、両国がウクライナの主権、独立、領土の完全性に対する揺るぎない責任を強調しています。この協定は、両国間の関係強化とロシアに対する共同の立場を明確にするもので、地域の安定化に向けた重要なステップとされています。
アメリカ国務省は、機密情報の共有、軍事技術の開発の調整、ウクライナ武装軍への投資など、両国間の戦略的パートナーシップを維持する意向を表明しています。これは、ロシアによるウクライナへの脅威に対抗するための具体的な行動と解釈されます。
ロシア外務省、アメリカのロシア軍動員主張を否定
ロシア外務省は、アメリカが提出したロシア軍の動員に関する主張を「フェイク」と断固として否定しました。この主張は、ウクライナと国境を接するロシアの3つの地域に戒厳令を発令し、全面的な動員を発表したとされるラジオ演説に関連しています。
ロシア政府は、このラジオ演説はフェイクであり、独自に検証することができないと述べています。ロシアの立場としては、アメリカの軍事動員についての情報は誤解や誤情報に基づいていると主張しており、ロシア国内での実際の状況とは大きく異なるとされています。
これらの発表は、ウクライナとの国境をめぐる緊張が高まる中、米国とロシアの間の情報戦の一部となっていました。
プーチン大統領、ウクライナのNATO加盟を「レッドライン」と警告
2021年11月18日にロシア外務省の役人と開催された会議で、プーチン大統領はウクライナのNATO加盟が「赤線」であり、西側諸国が越えてはならないラインであると述べました。彼は、冷戦の終結とドイツ再統一の際に行われた約束にもかかわらず、西側諸国がこの約束を無視していると主張しました。
プーチン大統領は、もしウクライナのNATO関連で彼らの「赤線」が越えられれば、ロシアが行動を起こすことになると警告しました。彼は、ウクライナの土地に一部の攻撃的なミサイル能力が展開されれば、それをトリガーとみなすだろうと述べました。また、彼はNATOが将来的にモスクワにたった5分で到達可能なミサイルをウクライナの領土に展開する可能性に懸念を表明しました。
その後のテレビ演説で、プーチン大統領は西側諸国の爆撃機がロシア国境から20キロメートル以内で飛行することについて懸念を表明しました。彼はロシアがこれについて何度も懸念を表明してきたが、西側諸国はロシアの「赤線」に関する警告を表面的にしか理解していないと述べました。また、プーチン大統領は米国による東欧でのミサイル防衛システムの建設やNATOによるロシア外交官の追放についても批判しました。
プーチン大統領はさらに、NATOがロシアの警告や懸念を無視して南ウクライナの黒海地域で軍事活動を続けていると強調しました。彼は、ロシアはこのような重大な対立に対して適切な対策を取ると警告しました。また、NATOが問題解決を目指した対話のメカニズムをすべて破壊しているとして、NATOを批判しました。
しかし、プーチン大統領はまた、米国との建設的な対話の機会があると述べ、対話を続ける意欲を表明しました。この発言は、ロシアが西側との対話を続ける意志があることを示しているとも解釈できまが、この「レッドライン」の警告は、今後のウクライナとNATO、そして西側諸国との関係における緊張を高める可能性がありました。
「レッドラインだ」国境に17万5000人のロシア軍が集結
2021年12月3日のワシントン・ポストは、ロシア軍は2022年初頭にウクライナに対して175,000人の兵力を動員した大規模な軍事攻勢を計画してると報道しました。
この計画には175,000人の兵員を擁する100個の戦術大隊が広範な移動を行い、装甲車両、砲兵、装備品も含まれていました。ロシア政権は、ウクライナのNATO加盟とNATOの兵器システムがロシアの国境に進出することが、ロシアが許容できない「赤い線」であると主張しました。米露の指導者間での反復した交渉にもかかわらず、緊張は2022年1月6日を過ぎても高まり続けました。
ロシアがウクライナ侵攻の意図を否定、米国への要求に対する建設的な対応を求める
2022年2月17日、ウクライナ情勢の悪化に対応して、ロシア政府はアメリカ合衆国に対し書面で回答を発表しました。この文書では、ロシアはウクライナへの軍事侵攻の意図を否定しました。しかし、ロシアはアメリカ政府が要求に建設的に対応しなかったことに不満を表明しました。
これらの要求には、ロシアが主張する「赤線」であるNATOの東方への拡大の停止が含まれています。これは以前にプーチン大統領が強調したポイントで、ウクライナのNATOへの加盟が「赤線」であると語っていました。ロシアは、その要求が無視された場合、自身が行動を起こすことになると警告しています。
さらに、ロシアはアメリカ軍の東ヨーロッパからの撤退とウクライナへの武器供給の停止を要求しました。ロシアは、これらの行動が地域の安定化に対する重大な妨げとみなしています。
この文書は、ロシアとアメリカ、そしてNATOとの間で高まる緊張を反映しています。一方で、ロシアがウクライナへの軍事侵攻の意図を否定したことは、一部では戦争の可能性を和らげる信号とも解釈できました。
ロシアがウクライナへの全面的な侵攻を開始
2022年2月24日、ロシアは約19万人の兵力を動員してウクライナへの全面的な侵攻を開始しました。プーチン大統領は早朝のテレビ演説で、ウクライナ軍に武器を捨てて退却するよう呼びかけ、ウクライナを「占領」する意図はないと述べました。
プーチン大統領は、ウクライナの軍事力を支持し、「ウクライナを人質にした」勢力に対する防衛行動として、この軍事行動を正当化しました。彼はまた、アメリカとその同盟国がNATOの東方拡大によりロシアの「赤い線」を越えたと非難し、さらなるNATOの拡大やウクライナに軍事基地を設立する試みを強く否定しました。
彼はまた、NATOをアメリカの道具と見なし、問題の根本はウクライナで広がる反ロシア感情と主張しました。彼はこれを外部からの支配とみなし、NATO軍の展開や最新兵器の獲得が行われていると指摘しました。
この軍事行動は、ロシアの封じ込め政策であり、ロシアの存在と主権に対する脅威であるとプーチン大統領は強調しました。彼は、アメリカとその同盟国がロシアの「赤い線」を越えたと主張し、それがロシアの生存と未来において決定的な要素であると警告しました。
これにより、国際的な緊張が一段と高まり、ウクライナ情勢は新たな局面に突入しました。
【ウクライナ危機(27)】プーチンの憤り爆発!NATOによる信じられない裏切りとは?