ベラルーシからの大量の難民・移民がポーランド国境に押し寄せるという新たな問題が浮上し、欧州全体の緊張が高まっています。
この記事では、ウクライナ危機の深層を理解するための重要な情報を提供します。ベラルーシの政治的危機、EUとロシアの影響力、そしてベラルーシがEUに対する報復措置として移民問題を「兵器化」しようとしている可能性について詳しく解説します。
【ウクライナ危機(24)】新たな激震!ロシアの「ノルド・ストリーム2」が引き起こす欧州エネルギー危機
EU refugee issue
ウクライナに危機の中……。周辺国で新たな重大問題が発生
ウクライナの危機が深まる中、これまでに見たことのない新たな危機が、すでに混乱の渦中にあるヨーロッパをさらに脅かし始めました。1991年8月にソ連から独立したベラルーシは、東ヨーロッパにある内陸国であり、東はロシア、南はウクライナ、西はポーランド、北西はリトアニアとラトビアと国境を接し、北部ではエストニアと小さな国境を共有しています。
そのベラルーシから隣国ポーランドへ大量の移民が押し寄せており、ヨーロッパ全体の緊張が高まっています。
2021年11月18日、ポーランドは国境を突破した移民200人を拘束しました。ベラルーシの特殊部隊が移民の越境を裏で支援しているとの主張がポーランド側からなされました。このポーランドとベラルーシ間の摩擦は、EU全体への影響を及ぼす可能性があります。
選挙不正と反政府抗議…ベラルーシの「欧州最後の独裁者
2020年8月の大統領選挙後、ベラルーシは深刻な政治的危機に見舞われました。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、選挙の結果に対する国民の広範な抗議に直面しました。彼は力を使って抗議を抑え、メディアを弾圧し、退陣要求デモに立ち向かいました。
ヨーロッパ連合(EU)は、政権側が反政府派の立候補を阻止し、さらに選挙結果が偽造されたと結論付けました。その結果、EUはルカシェンコの任期が切れる2020年11月6日以降、彼を正統な大統領とは認めないとの立場を明らかにしました。
これらの動きは、ベラルーシ国内の政治的不安定性を増幅させ、国際的な緊張を高めました。
ベラルーシの独裁にEUが制裁!
ルカシェンコ大統領の独裁的な統治に対して、ヨーロッパ連合(EU)は経済制裁を科すことを決定しました。制裁対象は選挙の不正や、反政権派の弾圧に関与する約40人の当局者で、EU域内への入国禁止や資産凍結が行われました。
ロシアの援助が存続を支える
しかし、ベラルーシはこれまでロシアから年間50億ドルから100億ドルもの実質的な補助金を受け取ることで存続していました。2020年の大統領選挙後、国民が大規模な抗議デモを行った際には、ロシアはベラルーシが「第二のウクライナ」になる事態を懸念しました。プーチン大統領はルカシェンコ支持を表明し、ベラルーシに金融支援を行いました。
ガス供給が浮かび上がらせる緊張
ロシアとベラルーシの関係は、ガス供給でも明らかになっています。ウクライナが欧州経由でロシア産ガスを百万BTUあたり34ドルで購入しているのに対して、ロシア国営ガスプロムはベラルーシに対して国内向けとほぼ同じ3~4ドルで供給しています。このことからも、ロシアがベラルーシに対して大きな影響力を持っていることがわかります。
さらに、クレムリンはベラルーシを再びロシアへ統合したいと考えています。しかし、これはベラルーシの主権と独立を脅かす可能性があり、更なる国際的な緊張を引き起こす可能性があります。これからのベラルーシの行方と、EUやロシアの影響力の行方に注目が集まっています。
『ライアンエアー機事件』逮捕のためのハイジャック劇!
2021年5月23日、ベラルーシのジャーナリストで活動家のロマン・プロタセヴィチと彼のロシア人のガールフレンド、ソフィア・サペガは、リトアニア行きのライアンエアーの旅客機がベラルーシのミンスクに強制着陸させられた後に逮捕されました。
偽の爆弾予告と護衛戦闘機
この着陸は、ギリシャからリトアニアへ向かう途中の航空機に対する偽の爆弾予告によって引き起こされました。プロタセヴィチはリトアニアで亡命生活を送っていたが、ミンスクに着陸した際に逮捕されました。
しかし、実際には爆弾は存在せず、ベラルーシ政府の当局者が脅迫をでっち上げたものであったと起訴状で明らかにされました。被告の1人が情報の出どころを尋ねたパイロットに「脅迫メールが空港に届いた」と伝えていたが、そのメールも計画の一環として捏造されたものでした。
さらに、ベラルーシ政府はMiG-29戦闘機を出動させ、最も近い空港ではないにもかかわらず、ライアンエアーの航空機をミンスクの空港まで護衛しました。プロタセヴィチの逮捕の経緯は国際的な憤りを引き起こし、ベラルーシのルカシェンコ大統領に対する欧州連合の制裁措置を引き起こしました。
プロタセヴィチは後に、大規模な騒擾を組織する罪、公の秩序を重大に侵害する行為の準備、ベラルーシに対する制裁の呼びかけ、過激派グループの創設または指導、権力掌握の共謀などの罪状で8年の懲役刑を宣告されました。
公開された「自白」ビデオに浮上する疑念
「ライアンエアーの航空機強制着陸事件」の後、ベラルーシの当局はロマン・プロタセヴィチとソフィア・サペガの「自白」ビデオを公開しました。プロタセヴィチはビデオで自分が公正に扱われていると主張していますが、彼の額には明らかな打撲痕があり、首の一部には化粧が施されているように見えました。
サペガもまたカメラに向かって話しているビデオが公開されました。これらのビデオは、プロタセヴィチとサペガの扱いやビデオが強制的に作られた可能性に関して国際社会から大きな懸念を引き起こしました。
FBIの調査とEUの追加制裁!ライアンエアー事件の国際的な影響
ベラルーシによるライアンエアーの旅客機強制着陸事件は、欧州連合(EU)や欧米諸国から「国家によるハイジャック」と非難されました。この事件の調査は、米連邦捜査局(FBI)が中心となり、ポーランド、リトアニアの治安当局からも捜査の支援を得ました。
ベラルーシが内政問題として処理しようとし、ロシアが後ろ盾となっていることから、「ベラルーシについては仕方がない。我々の影響力には限界がある」というEU側の諦念が見え隠れしていました。しかし、このライアンエアー機事件により、EUは否応なしにベラルーシ問題の当事者として前面に出ざるをえなくなりました。
事件の翌日、2021年5月24日のEU首脳会議では、ベラルーシに対する追加制裁を導入する方針が決定されました。この事件は、国際的な航空法に対する重大な侵害と見なされ、ベラルーシに対する国際的な圧力を増大させる要因となりました。
国際的な非難とプーチン後ろ盾
2021年5月28日、ベラルーシのアレクサンダー・ルカシェンコ大統領はロシアのソチを訪れ、ウラジーミル・プーチン大統領との会談を行いました。この訪問は事前に計画されていましたが、ライアンエアーの航空機がミンスクに強制着陸させられ、ジャーナリストのロマン・プロタセヴィチが逮捕された事件についての国際的な非難の中で行われました。
プーチン大統領は、ルカシェンコ政府の行動に理解を示し、両国間の関係強化を称賛しました。さらに、プーチン大統領は西側の反応を「感情の爆発」と一蹴し、ルカシェンコへの支援を示すことで、その西側との対立における彼の対応を支持しました。
この会談は、ルカシェンコに対する国際的な非難を浴びていた中で行われ、プーチン大統領の支持がルカシェンコ政権にとって重要な後ろ盾となりました。
ルカシェンコ大統領の対抗手段は移民問題の「兵器化」
ベラルーシによる民間航空機の強制着陸事件を受けて、欧州連合(EU)は2023年6月24日に経済制裁を発動しました。これに対し、ベラルーシのルカシェンコ大統領は直後に、ベラルーシ側からの不法越境の取り締まりを拒否すると宣言しました。
ルカシェンコ大統領のこの発言は、ベラルーシからEU各国への移民の流入を許容するという意味を含んでいると広く解釈されました。これは、ベラルーシがEUに対する報復措置として移民問題を「兵器化」しようとしている可能性を示唆しています。この発表は、EUとベラルーシとの間の緊張をさらに高め、地域の安全保障情勢に新たな懸念を投げかけました。
「リトアニアの移民・難民問題」ベラルーシからの流入による非常事態宣言
2023年の夏、バルト三国の一つであるリトアニアは、予想外の難民・移民問題に直面しました。この問題は、ベラルーシからの不法移民・難民流入が6月以降急増し始めたことから始まりました。ロイター通信によると、7月の最初の一週間だけで約780人の不法移民・難民が確認され、これは前年全体で拘束された81人を大幅に上回る数でした。
この流入の急増は、リトアニアの移民・難民問題を一層深刻化させ、社会・政策への大きな衝撃を与えました。リトアニア政府は、この状況に対応するため、7月2日に非常事態を宣言しました。この非常事態宣言は、国内の公的資源を集中的に活用し、この異常な流入に対応するとともに、国内の安全と秩序を維持するためのものです。
非常事態宣言は、一般的には自然災害や大規模な社会的混乱など、国家が通常の手段では対応できないような状況に対して行われます。今回のリトアニアの非常事態宣言は、ベラルーシからの移民・難民流入がそのような状況を生み出したということを示しています。
この非常事態宣言により、リトアニア政府は流入の制御、移民・難民への対応強化、さらには国内の公的資源の配分を調整することが可能になります。しかし、長期的な視点から見れば、リトアニアだけでなく、EU全体が、移民・難民問題とそれに関連する多くの課題に対して適切な対策を講じなければならない状況が続いています。
“ベラルーシの移民利用疑惑に対するEUとリトアニアの対応
ベラルーシが意図的に不法移民をEUに送り込む手法を使っているのではないかという指摘が、EUの指導者から強くなっています。特に、ベラルーシとEU加盟国であるリトアニアとの国境問題が注目されています。
2021年7月5日、ミシェルEU大統領はリトアニアを訪問し、「ベラルーシ当局は非正規の移民を使って、EUに圧力をかけている」と批判しました。ベラルーシは欧州連合から経済制裁を受けており、これを受けて報復としてEU加盟国に移民を組織的に送り込んでいる可能性が指摘されています。
リトアニアのギターナス・ナウセーダ大統領も同様に、ルカシェンコ政権が「政治的道具として移民を故意に送っている」と非難しました。EUのミシェル大統領もこれに同調し、「ベラルーシがリトアニアを含むEUを試す目的で、不法移民を利用して圧力をかけているのは明らか」と述べました。
リトアニア当局によると、流入している移民・難民の中にはイラク、シリア、トルコなどから来ている人々が多く含まれているという。さらに、ベラルーシの「旅行会社」が首都ミンスクへの航空便を斡旋するなどして、これらの国から意図的に移民・難民を呼び込んでいるとされています。
難民処理の迅速化と権利制限の改正法
これに対してリトアニアは法的手段を講じることに決めました。リトアニアのギターナス・ナウセーダ大統領は、7月21日に「外国人の法的地位に関する法律」(Law on the Legal Status of Aliens)の改正法に署名しました。
この改正法は、7月13日に議会で可決され、難民認定処理を迅速化する一方で、難民申請を目的にリトアニアに入国した者の中で入国が違法だった場合、当該難民申請者を拘束したり、収容施設から離れる権利を剥奪するなど、一部の権利を制限する内容となっています。
これらの動きは、EUとベラルーシとの間の緊張を一層高めており、今後の両者の関係や、欧州全体の移民・難民問題への対応に影響を及ぼす可能性があります。
この法改正は、リトアニアが移民・難民問題に直面する中で取るべき具体的な対策として立法されたものですが、これによって生じる難民申請者の権利制限については、国際社会からの批判も予想されます。
フェンス建設と移民抑止法案の可決
2021年8月10日、リトアニアの議会はベラルーシとの国境に高さ4メートル(13フィート)の金属製のフェンスを設置し、イラク、アフガニスタン、および他のEU非加盟国からの移民の流入を阻止するための法案を可決しました。このフェンスの建設には約1億5200万ユーロ(1億2800万ポンド、1億7800万ドル)の費用が掛かる見込みです。
リトアニア国境警備隊は、ベラルーシからリトアニアに向かう違法移民の数が既に4000人を超えていると報告しています。リトアニアは2021年から移民や難民の押し戻しを開始し、数千人がリトアニア、ラトビア、ポーランドを経由して欧州連合への入国を試みたとされています。
公式の統計によれば、2021年8月3日以降、リトアニアの国境警備隊は20150人の移民の入国を拒否しました。この押し戻しは、閣僚決定により最初に許可されたものです。
ラトビアも非常事態宣言!移民危機に直面し国境警備を強化
リトアニアだけでなく、ベラルーシと国境を接するラトビアやポーランドでも同様の移民危機が発生していました。ラトビア政府は2021年10月8日、増大する移民の流入に対応するため非常事態を宣言しました。その後、10月11日から11月10日までの緊急事態宣言を発動。軍などを動員し、国境警備を強化することを発表しました。
EUがベラルーシの移民問題に懸念表明「ハイブリッド攻撃」を非難
2021年8月18日、欧州連合(EU)はベラルーシからラトビア、リトアニア、ポーランドへの移民の大量流入に強い懸念を表明しました。EUは、加盟27カ国を不安定化させる目的で、ベラルーシ政府が展開しているとされる「ハイブリッド攻撃」を非難しました。ハイブリッド攻撃とは、正規の軍事行動ではなく、謀略、サイバー攻撃、フェイクニュースの流布、民兵や特殊部隊の使用などを組み合わせた敵対的行為を指します。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はこの問題に対して黙認の態度をとっています。さらに、ベラルーシ政府はEUへの移民希望者をベラルーシに誘致するよう奨励しているとされています。ルカシェンコは「我々は誰もEUに渡るのを止めない」と述べ、「彼らの行き先は人権意識が高く、人々が温かく居心地の良いEUなのだから」とコメントしています。
この状況は、15年前の難民危機を彷彿とさせています。当時、中東やアフリカの紛争や内戦から逃れた約100万人の難民が欧州に殺到し、EU全体で政治的な混乱を引き起こしました。ルカシェンコの言動からは、あたかもこれらの出来事を再現しようとしているかのように見えます。
アフガニスタン危機でさらなる難民問題が勃発
その頃、遠く離れたアフガニスタンでも重要な局面が訪れていました。2021年8月15日、アフガニスタンの反政府勢力であるタリバンが首都カブールに進攻し、大統領府を占拠しました。これにより、アフガニスタンの政府は事実上崩壊しました。
しかし、その影響は国内にとどまらず、難民問題として世界に波紋を広げました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2021年だけでも少なくとも40万人のアフガニスタン人が戦闘によって家を追われ、避難生活を余儀なくされています。これらの難民たちは、生活を立て直すために安全な受け入れ先を必要としています。
この状況下、ベラルーシやリトアニア、ラトビア、ポーランドへの難民流入問題が一段と複雑さを増すことが予想されました。これらの国々は、国内外の難民や移民問題に対してどのように対処し、対応するべきかについて再考する必要に迫られました。
難民流入の懸念…ポーランドとバルト3国がベラルーシを非難
アメリカをはじめとする外国駐留軍がアフガニスタンから完全に撤収したことを受け、タリバンの強権的な統治から逃れるアフガン難民の大量流入を恐れるポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)の首相らは、2021年8月23日に重要な声明を発表しました。
彼らは、「ベラルーシのルカシェンコ大統領が意図的に隣接するポーランドなど4カ国に不法移民を送り込むよう仕掛けている」と非難したのです。彼らはこの行為が、欧州連合(EU)の国境の安全を脅かす可能性があるとして、深刻な懸念を表明しました。
また、この4カ国の首相たちは、他のEU加盟国の協力を呼びかけ、ベラルーシに対しても厳しいメッセージを送りました。彼らは、ベラルーシに対して、これ以上の関係悪化を避けるよう、政治犯の釈放を求め、迅速に自由で公平な選挙の再実施を求める声明を発表しました。
移民の群れはポーランド国境を目指した
次に移民の大群が目指したのはポーランドの国境でした。しかし、ポーランドは伝統的に難民の受け入れに消極的であり、今回もベラルーシが難民条約に基づいて受け入れるべきだと主張しました。
ポーランドは本来、難民の受け入れに消極的であり、ベラルーシが国際的な難民条約に基づいて受け入れるべきだと主張していました。しかしながら、ベラルーシからポーランドとの国境を違法に越境しようとする移民の数はここ数週間で増加しました。
ポーランド内務省によれば、2021年8月だけでも、アフガニスタンおよびイラク出身者が多数を占める約3,000人が違法にポーランドへの入国を試みました。これは、国境のセキュリティと難民の人道的扱いの間で複雑なバランスを求めることを余儀なくされているポーランド政府にとって、大きな挑戦でした。
ポーランド国境地帯での難民悲劇
さらに、悲劇的な状況も発生しました。EUを目指して来たアフガニスタン人24人が、ベラルーシとEU加盟国であるポーランドの国境で立ち往生し、困窮する状況に陥りました。これらの難民は、国境地帯の森林に取り残され、ポーランドの保護を切実に求めていました。
さらに、季節の変化により、越境する際のリスクが増している可能性があります。8月には少なくとも4人が国境付近で死亡し、うち3人は低体温症によりポーランド側で死亡したと報告されています。これらの事例は、移民たちが直面している厳しい状況を物語っています。
ポーランド、国境付近の緊張を受け緊急事態宣言
2021年9月2日、ポーランド政府はベラルーシとの国境問題に対処するため、3か月間の緊急事態宣言を発動させました。
これにより、数千人の兵士がベラルーシとの国境沿いに派遣され、有刺鉄線のフェンスが設置され、国境付近から報道関係者や慈善団体が締め出されました。
これらの厳重な警備措置の結果、警備隊は国境を越えようとする移民や難民を押し返すといった強硬な手段を取るようになり、ポーランド政府への批判が増えました。NGOからは、現地の状況がますます危険になっているとの警告が出されています。
また、ベラルーシとの国境に近いポーランドの町々では、移動が厳しく制限されている。観光客、援助活動家、ジャーナリストなど、地元に住んでいないか、恒常的に働いていない人々は、これらの町に入ることや通り抜けることができなくなってしまいました。
ポーランドとリトアニア、ベラルーシの反体制派保護地から難民問題への転換
ポーランドとリトアニアは、ベラルーシのルカシェンコ政権から逃れる反体制派の人々にとって、重要な避難地と情報発信の場になっています。これらの国は歴史的にベラルーシと対立しており、政治的な抑圧を逃れた亡命者に対して保護を提供してきました。
ベラルーシの秘密警察KGBに追われる反体制派は、国境検問所を避けてポーランドやリトアニアの森林を通じて逃げ込んできたのです。
しかし、中東からの難民の大量流入により、状況は一変しました。国境警備の強化に伴い、ベラルーシの反体制派は越境が困難になってしまいました。ポーランドやリトアニアは、難民の流入を防ぐためにベラルーシ国境に壁を建設する方針を決定しましたが、これは“ルカシェンコの計画通り”という指摘があります。
ルカシェンコ自体は、ソビエト連邦時代に国営農場で働いていた経歴を持っており、1994年に大統領に初当選すると野党の弾圧や言論の規制を強化しました。ソビエト連邦の崩壊から30年以上が経過した現在でも、ベラルーシは国営企業が多く、秘密警察KGBが市民を拘束するなど、ソ連時代の弾圧手法が続いている。
ベラルーシの反体制派指導者、移民危機を人道的な災害と警告
2021年10月5日、ベラルーシの反体制派指導者スヴャトラーナ・ツィハナウスカヤは、ベラルーシ大統領アレクサンドル・ルカシェンコにより引き起こされた移民危機を人道的な災害と称しました。
ツィハナウスカヤはポーランドのワルシャワで開催された安全保障フォーラムでの演説で、冬が近づく中で、数十人から数百人の亡命希望者が集団で亡くなる可能性があると警告し、「ルカシェンコは凍えるような状況で女性や飢えた子供たちに歩かせるでしょう。国連と国際社会は人道的な災害を防ぐために行動を起こさなければなりません」と述べました。
その一方で、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は、2021年10月6日の記者会見で、政府がベラルーシ政府に対して人道支援を求める文書を送ったことを発表しました。「私たちはベラルーシから来る亡命希望者を助けたいと思っています」と彼は述べました。しかしながら、ベラルーシ政府は同じ日にポーランドの人道支援の申し出を拒否し、国境に押し戻された亡命希望者への援助を受け入れないことを表明しました。
ポーランド国境危機…移民と亡命希望者への厳しい扱いが深刻化
2021年に始まったポーランドとベラルーシの国境での危機は、両国の国境当局による移民や亡命希望者への厳しい扱いにより、ますます深刻化しています。イラク、シリア、イラン、イエメン、アフガニスタン、キューバなどの国々からの数百人の人々がEUでの亡命を求め、両国の厳しい国境地帯に取り残されています。
取材を受けた人々は、ポーランドの国境警備隊が彼らをベラルーシに押し戻し、時には暴力を伴い、亡命の嘆願にもかかわらず正当な手続きなしに行われたと述べています。一方、ベラルーシ側では、国境警備隊による暴力、非人道的かつ侮辱的な扱い、およびその他の強制手段が報告されています。子供を含む家族、高齢者、健康問題を抱えた人々などの弱者グループも、ベラルーシに押し戻される側に含まれています。
ポーランド、移民流入防止のため国境沿いに壁建設法案を可決
2021年10月30日、ポーランド国会は、ポーランドとベラルーシの国境沿いに100キロ以上にわたって壁を建設する法案を可決し、成立させました。
この壁の建設は、移民の流入を防ぐための措置とされています。壁の建設費用は、3億5300万ユーロ(約465億円)で、センサーや監視カメラも設置されることが予定されています。
壁の建設は、ポーランドを含むEU加盟12か国が、EUと北大西洋条約機構(NATO)の東端を守っているため、資金を分け合うのは当然だとの立場を示し、国境の「障壁」建設費の負担をEUに要請しています。
しかし、欧州委員会は壁の建設が難民や移民の権利を侵害する可能性があると懸念しており、その費用の支援には消極的です。加えて、欧州委員会は壁建設の背後にロシアの影響があるとの疑念を持っています。このため、EUの統合と安定を維持するために、欧州委員会は壁の建設を黙認しながらも、その費用負担には否定的な立場を保持しています。
ポーランドとベラルーシの国境に建設される壁は、移民の流入を防ぐための措置とされています。ポーランドは、中東からベラルーシ経由でEUを目指す難民・移民らが国境付近に集結したことを受け、有刺鉄線を突破しようとする難民や移民の流入を防ぐために、壁の建設を決定しました。動体検知機能の付いた監視カメラも設置される予定です。
「警察増派と国境フェンス建設」ポーランドの国境問題がエスカレート
2021年11月8日、シリア人移民の大規模なグループとクルド人数千人が、武装したベラルーシの治安部隊に同行し、ベラルーシとポーランドの国境に押し寄せました。
治安部隊は移民を森を通じて案内し、公式の国境検問所を回避してポーランドに不法に入る手助けをしました。この事件は問題をさらに悪化させました。ベラルーシが意図的に移民を輸送しているとして。ポーランドはベラルーシを非難し、移民を国境に送り込む行為を敵対行為とみなしました。
この事件を受け、ポーランド警察は緊急会議を開き約1万2000人の警官を派遣しました。
状況はますます不安定になっており、一部の移民がポーランド側に向けて石を投げるなどの暴力行為に訴えています。一方で、ポーランドは国境線に100キロ以上に及ぶ有刺鉄線のフェンスを建設し、催涙弾や高圧ポンプによる放水で移民の国境侵入を防いでいます。
多くの亡命希望者はポーランドの国境警備隊によって逮捕され、不法にベラルーシへと押し戻されています。アムネスティ・インターナショナルやヘルシンキ人権財団などの人権団体は、ポーランドが国境を越えた移民を不法にベラルーシ領域に押し戻していると非難しています。
これらの移民は、家族連れも含め、2000人から4000人と推定され、国境地帯に滞在し続けています。欧州委員会によると、ベラルーシにはまだ1万5000人の移民がおり、そのうち約2000人がポーランド、リトアニア、ラトビアとの国境付近にいるとされています。
ポーランド、国境検問所を閉鎖
2021年11月9日の朝、ポーランド当局は多数の移民が集まっていたクシニツァ国境検問所を閉鎖することを発表しました。この閉鎖は、移民の一部が国境を強行突破しようとしたために行われたものです。
報道によれば、現地の状況は穏やかでしたが、ポーランド警察は可能な限りその地域を排除しようとしており、フェンスのベラルーシ側にいる移民は、閉鎖されたクシニツァ検問所の北と南にある有刺鉄線を突破しようとしていました。
ポーランド当局はこの場所での集まりを抑制し、移民の収束を図るために兵士、警官、そして国境警備隊約1万4000人を展開しました。
ポーランドとベラルーシの国境付近の状況は数週間にわたって非常に深刻であり、数百人が数週間にわたって凍えるような環境で立ち往生し、多くの亡命希望者がポーランドの国境警備隊によって繰り返し逮捕され、ベラルーシに押し戻されてきました。
寒さと壁に阻まれる…移民・難民:人道問題が悪化
ベラルーシから隣国ポーランドへの入国を目指す数千人規模の移民たちは、厳しい寒さを背景に入国を阻まれ、深刻な状況に直面しています。寒さによる死者も出ており、これは人道的な観点から看過できない事態に発展しています。
難民が押し寄せるポーランド・ベラルーシ国境には、両国の治安部隊が対峙し、有刺鉄線が張り巡らされています。この状況は、自由な行き来を不可能にし、更なる緊張を生じさせています。
BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ特派員に対し、一人の女性難民は「私たちはサッカーの試合のボールのように扱われている」と述べました。彼女によれば、ベラルーシの部隊は移民に対して、真夜中に有刺鉄線の柵を切断し、ポーランドに違法入国させようとするという。
しかしながら、ポーランド側の森で発見された移民たちは、ベラルーシ側に送り返されています。このような事態が、移民たちの間で混乱と絶望を増大させ、彼らの苦境をさらに深めています。
移民への暴力と拘束が人道的危機を悪化”
ポーランドとベラルーシの国境に滞在している移民たちは、深刻な苦難に直面しています。彼らの中には、ベラルーシの国境警備隊からの暴力を受けたと訴える人々もいます。報道によれば、彼らは母国への帰還を試みる際に身体的虐待を受け、警備隊によって再入国を拒否されています。
移民たちはさらに、ポーランド当局によって設定された指定地域に「閉じ込められている」と述べています。彼らがポーランドに入ろうとすると、ポーランド当局によって強制的にこの地域に連れ戻されます。しかし、一方で彼らがベラルーシへ戻ろうとすると、ベラルーシの関係者によって妨害され、攻撃されるとの報告もあります。
シリアからの移民であるユースフは、「彼らは私たちを殴りました。友人の鼻が折れました。お金とパスポートを奪われました。私はただシリアに帰りたいだけです。空港に行って祖国に戻りたいと思っています」と、アルジャジーラのインタビューで証言しています。
深刻な食糧・水不足
ポーランドとベラルーシの国境状況は、難民や移民にとって非常に困難なものです。彼らは「レッドゾーン」と呼ばれる地域に閉じ込められています。報道によれば、これらの人々はポーランドとベラルーシの国境警備隊からの暴力や非人道的な扱いを受けています。
特に、ポーランドの国境警備隊は、ベラルーシから国境を越えようとする人々を組織的にまとめ上げ、暴力的に押し戻しています。一部の報道では、銃を使って脅すなどの過激な手段も使われていると伝えられています。家族連れや高齢者、健康上の問題を抱えた人々など、弱者もベラルーシに強制送還される対象となっています。
この連続的な押し戻しは、2021年5月にベラルーシ政府が計画したものと関連しています。その結果、押し戻された人々は再びベラルーシに送り返され、食料や水が不足するといった絶望的な状況に置かれています。ベラルーシ赤十字は食料や水の提供をしていますが、供給が不十分で安定していない状況です。
この困難な状況が続く中、国境地域の人口は1週間以内に5,000人増える見込みです。これらの移民たちは互いに助け合いながら生き延びようとしていましたが、押し戻されて帰国させられる可能性があると分かると、共同体のつながりが断たれてしまいました。
この人道的危機は人権団体から非難されており、特に子供たちが必要とするミルクやおむつが不足していることが深刻な問題となっています。ある男性は鉄条網越しに重武装したポーランド軍に向かって、「子供たちはミルクとおむつを求めて泣いています。何もありません。お願いです、助けてください」と訴えています。
深刻な人道的危機…冬の過酷な状況と死者の増加
報告によれば、ベラルーシとポーランドの国境地域で遺体が発見され、人道的危機が深刻化していることが明らかになっています。少なくとも13人が亡くなったと報じられていますが、実際の死亡者数は報告されている以上に多い可能性があります。特に、ドイツなど他の国への移住を試みる際に国境警備隊から身を隠すため、報告されない死者が存在する可能性があります。
移民志望者の証言によれば、ベラルーシ当局によって携帯電話を取り上げられ、隣国に向かうように命じられたと報告されています。さらに悪いことに、国境地域では昼間でも氷点下の気温となり、凍死したと確認されたケースも複数あります。
ポーランド語で「Grupa Granica」と呼ばれる団体によれば、国境地域で少なくとも37人の死亡が確認され、ポーランド・ベラルーシ国境での危機が始まって以来、約300人が行方不明になっています。冬の数ヶ月間、国境地域の状況は極めて危険であり、数百人が数週間にわたって極寒の状況に閉じ込められました。
特に2021年から2022年初めの冬季には、少なくとも24人がベラルーシからEUへの国境越えの試みで命を失ったと報告されています。これらの数字は、この地域での生存がいかに困難であり、あらゆる年齢の難民や移民にとって冬季が特に危険な時期であることを明確に示しています。
ポーランド政府の制限により、国境なき医師団が国境での援助活動を中止
2022年1月7日、国境なき医師団(MSF)は、ベラルーシとポーランドの国境で行っていた移民・難民支援のための医療チームを撤退させると発表しました。この撤退は、ポーランド政府が2021年9月にベラルーシとの国境近くで緊急事態を宣言し、援助団体などの立ち入りを禁止したことによるものです。その結果、国境なき医師団も数カ月間にわたってアクセスが阻止され、活動の継続が不可能となりました。
この地域は森林に覆われた国境地帯であり、氷点下の気温下で生き延びている人々が医療・人道援助を切実に必要としています。しかし、MSFのチームが3ヶ月前に援助活動を開始したものの、ポーランド当局による制限地域への立ち入りの繰り返しの妨害により、活動は困難を極めました。
MSFは、援助団体の立ち入り制限を課す現行の政策により、さらに多くの移民・難民が命を失うことを懸念しています。これらの政策は、国境で保護を求める人々を意図的に危険な状況に追い込むものだと批判しています。
ポーランドでは、すべての援助団体、NGO、ボランティアグループが国境地域への立ち入りを禁じられたため、移民や難民への援助は制限地域の住民に委ねられています。しかし、住民ボランティアの中には、当局から中傷や脅迫を受け、財産を破壊された者もいます。
制限地域をなんとか越えることができた移民・難民は、地元のNGOや団体、個人からの人道援助を受けています。MSFは、こうした団体を支援する一方で、制限地域を越えた人々に対して直接的な医療や心のケアなどの人道援助を提供しています。しかし、ポーランド政府による立ち入り制限は、必要な人道援助を提供する上で大きな障壁となっています。
「プーチンが後ろで糸」ポーランドが国家テロと非難
2021年11月10日、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相はベラルーシとの国境付近で進行中の難民危機を「国家テロリズム」と表現し、ベラルーシ政府を非難しました。首相は記者会見で、「現在の危機は明らかに国家テロリズムの行為であり、その背後にはプーチン大統領がいる」と述べ、ベラルーシの独裁者アレクサンダー・ルカシェンコ大統領を非難し、プーチン大統領がルカシェンコ大統領の背後で影響力を持っていると主張しました。さらに、首相はプーチン大統領を移民危機の黒幕として非難し、ベラルーシ国境の移民危機が「より悪い何か」の前触れである可能性を警告しました。
移民の数は2015年の移民危機に比べてはるかに少ないですが、ポーランド当局はこの状況を完全な危機と国家の安全に対する脅威として扱っています。
ヨーロッパ連合(EU)もまたベラルーシを非難し、ベラルーシが中東から数千人の移民を飛行機で送り込み、EUやNATOのメンバー国であるポーランド、リトアニア、ラトビアへの移民流入を強制していると指摘しました。EUはこれをヨーロッパへの制裁に対する反応と見なしています。
ヨーロッパ評議会はポーランドに対して連帯の意志を示し、一部の国境資金を提供しました。ヨーロッパ評議会の議長であるシャルル・ミシェルはワルシャワを訪れ、モラヴィエツキ首相と会談しました。これらの行動は、欧州がこの危機にどのように対応し、自身のメンバー国を支援する意志があることを示しています。
ロシアがポーランドの移民問題に対し反論、EUの姿勢を批判
同日、モラヴィエツキ首相によって問題の「黒幕」と名指しされたロシアは、ベラルーシからポーランドの国境地帯に押し寄せる中東などからの移民の問題について反論しました。ベラルーシに入国した中東などからの移民や難民が欧州連合(EU)を目指してポーランドの国境に押し寄せている問題に対し、ロシアのドミートリー・ペスコフ大統領報道官は「欧州は以前、難民受け入れという高尚な人道的理念を掲げていたが、今回はそうしようとしない」と述べ、難民の流入阻止に向けた対策を強化しているポーランドやEUを批判しました。
ペスコフはまた、ポーランドがベラルーシとの国境封鎖を検討していることについて「ベラルーシを窒息させる試みだ」と述べ、友好関係にあるベラルーシを擁護しました。ベラルーシが移民をEUに対する「政治的武器」として使っており、ロシアも背後で関与しているとのEU側の見方について、ペスコフは「無責任で受け入れられない」と反発しました。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれまで移民問題はロシアに関係ないと表明しており、ドイツのアンゲラ・メルケル首相との電話会談でEUがベラルーシと直接協議するよう提案しました。
メルケル首相とプーチン大統領が移民問題で異例の連続会談
2021年11月10日と11日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はロシアのウラジミール・プーチン大統領と電話で会談し、中東や他の地域からの移民がベラルーシを経由してポーランドの国境に不法に入ろうとする問題について話し合いました。この状況の悪化に対応して行われた連続した2日間の会談は異例のものでした。
メルケル首相はベラルーシに対して移民の「非人道的な」利用を停止するよう求めました。これに対してプーチン大統領は「EU加盟国とミンスク(ベラルーシの首都)との直接の接触を通じて問題を議論すること」を提案し、両指導者はこの問題についての話し合いを続けることで合意しました。
ルカシェンコ大統領がEU制裁への報復として天然ガス供給の停止を警告
2021年11月11日、ベラルーシのアレクサンダー・ルカシェンコ大統領は、ヨーロッパ連合(EU)が制裁を強化した場合、自国を通じてヨーロッパに供給されているロシア産天然ガスのパイプラインを止める可能性があると警告しました。これに先立ち、EUはベラルーシが意図的に中東などからの移民をEUへ送り込んでいるとして、10日に制裁を強化すると発表していました。
ルカシェンコ大統領は国営通信ベルタを通じて、「ヤマル・ヨーロッパ」天然ガスパイプラインについて言及しました。「ヤマル・ヨーロッパ」はロシアからベラルーシ、ポーランドを経由してドイツに至るルートです。「欧州を暖めているのはわれわれだというのに、彼らは国境を閉鎖すると脅している」とルカシェンコ大統領は発言。
「われわれが欧州へのガス輸送を止めたらどうなるだろうか。ポーランドやリトアニアの指導者など頭が空っぽの連中はみな、考えてから口を開いた方が良い」と語りました。
この行動は、ベラルーシがエネルギー供給という重要な手段を使ってEUの対ベラルーシ制裁に反撃するとも言えます。
しかもこの頃、欧州の天然ガス価格が過去最高値を記録していた。もし、ベラルーシが天然ガスの輸送を停止すれば、その影響は計り知れないものになると予測されていました。
天然ガス供給停止脅しに対し、EUは団結を強調
ベラルーシのルカシェンコ大統領の脅しともいえる発言に対して、欧州委員会のパオロ・ジェンティローニ経済担当委員は、加盟各国に対して「怯んではいけない」と訴えました。
リトアニアに亡命しているベラルーシの野党指導者、スヴェトラーナ・チハノフスカヤは、ルカシェンコ大統領が「虚勢を張っている」と批判。しかし、ヤフィマヴァ博士は「EUがベラルーシに厳しすぎる対応を取れば、ベラルーシは脅しを実行するかもしれない」と述べ、その結果、イギリスを含む欧州全体の天然ガス価格がさらに高騰する可能性に言及しました。
一方、EU(欧州連合)は早ければ11月15日にベラルーシに制裁を科す予定で、これには移民を運ぶ国際線の首都ミンスクへの到着を阻止する措置が含まれる可能性があります。また、ロシアの航空会社アエロフロートに対しても、移民をベラルーシに運んでいるという疑惑があるため制裁が検討されています。ただし、アエロフロートはこの疑惑を否定しています。
ロシアとベラルーシの軍事行動が国境情勢を緊迫化させる
ベラルーシが引き起こした移民危機と並行して、ロシアは軍事的な手段を用いてEUへの圧力を増大させています。2021年11月12日、ロシア軍は空挺部隊をベラルーシとポーランドの国境近くに派遣し、ベラルーシ軍と共同で軍事演習を実施しました。ベラルーシ軍はこの演習を、「ポーランドが国境近くで軍事力を増強している状況への対応」と説明しています。さらに、空挺部隊は敵の違法行為に対する訓練も行ったと公表されています。
同様に、ロシアはウクライナの国境に大規模な軍事力を展開しており、ウクライナのゼレンスキー大統領はその規模を「約10万人」と評価しています。これらの行動に対し、EUのバルト三国は共同声明で、ベラルーシやロシアの挑発行為が軍事的な衝突に発展する可能性があると警告しています。
一方、EUはベラルーシからのさらなる「ハイブリッド攻撃」を阻止するために、移民希望者の出発地である中東諸国と協力を求めています。具体的には、トルコは2021年11月12日から、ベラルーシ行きの民間旅客機に搭乗できる人数を制限し始めました。その結果、シリア、イラク、イエメンの市民は、トルコ経由でのベラルーシ行き便に搭乗することができなくなりました。
プーチン大統領、難民問題を生み出したのは欧米であると主張
ロシアのプーチン大統領は、ベラルーシが近隣の欧州連合(EU)加盟国に中東からの移民・難民を送り込んでいると批判されている問題について、「難民問題を生み出したのは欧米だ」と主張し、ベラルーシのルカシェンコ政権を擁護しました。これは、11月13日に公表された国営テレビとのインタビューで明らかにされました。
プーチンは、「ベラルーシが始めたのか? そうではないだろう」と指摘し、アフガニスタン、イラクなどへの欧米の軍事介入が難民問題の原因だと主張しました。さらに、ベラルーシには、人々の目的地とされるドイツと協議する意思があるとし、「話し合いでの解決を望む」とも述べました。
一方で、ルカシェンコがEUに対する制裁が強化された場合、ロシアから欧州への天然ガスパイプラインを止めると警告したことについて、プーチンは「事前に聞いていなかった」としつつも、このような行動がロシアとEU、さらにはロシアとベラルーシの関係にも悪影響を及ぼす可能性があると指摘し、自制を求めました。
プーチン大統領はまた、「殴ったり、威嚇発砲したりするのは人道的とはいえない」と述べ、ポーランドの対応を批判しました。そして、ベラルーシとEU諸国が直接対話し、双方の利益となる解決方法を探すべきだと強調しました。
最後に、プーチン大統領は、「我々はこの問題と一切関係ないことを知ってもらいたい。何の理由がなくても、いつも我々に責任を負わそうとしている」と述べ、ロシアを問題の“黒幕”と見なす意見を否定しました。また、「われわれに関係することがあれば、あらゆる手段を尽くす」と表明し、問題解決に向けて支援する意志があることを示しました。
しかし、ルカシェンコ政権がEUの制裁に対抗し、イラクやアフガニスタンからの移民・難民を組織的にリトアニアやポーランドの国境に送り込んでいるとのEU側の主張については、インタビュー中にプーチンが具体的に触れることはありませんでした。
EU、ベラルーシへの包囲網強化を模索、制裁対象拡大で人道問題に対抗
11月15日、欧州連合(EU)の外相理事会では、ベラルーシへの対応策が議論されました。
EUのボレル外交安全保障上級代表は声明で、「この非人道的かつ違法な行為に対抗する」と述べ、ルカシェンコ政権への圧力を強める意向を示し、「まずは人の流れを止めて解決策を模索する」と述べました。
中東諸国はベラルーシへの航空便を停止する動きが見られており、イラク当局はベラルーシに渡った移民・難民を母国に送り返す航空便の運航を発表していました。この動きについてボレルは支持を表明しました。
さらに、プーチン大統領のベラルーシ問題への関与否定について、ボレルは記者会見で、「ベラルーシがロシアの支援なしにこれを行っているとは考えにくい」と述べ、ロシアがベラルーシを支援しているとの見解を示しました。
移民送り込みに関与する航空会社や旅行会社を制裁対象に、資産凍結や渡航禁止も
この日、EUはベラルーシがポーランドなどEU加盟国に移民・難民を送り込み、国境地帯で深刻な人道問題を引き起こしているとして、ルカシェンコ政権の関係者や関連企業に対する追加制裁を決定しました。
移民・難民の送り込みに関与する旅行会社や航空会社も制裁対象となる可能性があります。ボレル外交安全保障上級代表は詳細には触れませんでしたが、「近日中に制裁を実施し、多くの人物や企業が制裁対象となるでしょう」と述べました。
報道によれば、約30人の政権関係者や旅行会社などが制裁対象となり、EU内の資産凍結やEUへの渡航禁止の対象となる可能性があります。
ボレルは外相理事会の前に、中東などからベラルーシへの移民の移送に関与する航空会社や旅行会社を制裁対象として検討する方針を示していました。EUはさらに、移民の出身国や経由国に対して、ベラルーシへの渡航を阻止するよう働きかけています。
ルカシェンコ大統領、EUの追加制裁に反対の姿勢を示す
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、政府会議において、ベラルーシの関与を再度否定しました。EUによる追加制裁に対しては「厳しく反応する」と対決姿勢を強調しました。
国境問題についてルカシェンコ大統領は「移民を帰国させる用意がある」と語りました。ポーランドとの国境付近に大勢の移民が押し寄せて緊張が高まっている問題に対して、ベラルーシ大統領府によれば、ルカシェンコ大統領は政府内の会合で「国境での衝突は望んでいない」「移民を帰国させるための飛行機に乗せる用意がある」と述べ、問題解決に向けた前向きな姿勢を示したとされています。
ルカシェンコ大統領は「移民は自発的に国境地帯にとどまっているだろう」と述べ、移民が自らの意志で滞在していることを強調しました。これは、ヨーロッパ連合(EU)がベラルーシが意図的に移民をEU側に送り込もうとしていると主張している中で、批判の矛先をかわす意図があると考えられます。
ドイツのミュンヘン市が移民を受け入れる意向を示したことに対して、ルカシェンコ大統領は「ポーランドが国境を通過させないのであれば、ベラルーシの国営航空を使って直接送ることができる」と述べました。
国際的な努力の一環として、EUとロシアが難民問題を協議
ドイツのアンゲラ・メルケル首相とベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は電話会談を行い、ベラルーシ国境付近で中東からの多数の難民と移民がEUに入ろうとしている問題について話し合いました。対話による解決を模索する一方で、EUとベラルーシ間の緊張は依然として続いています。
同じ日、ロシアのウラジミール・プーチン大統領とフランスのエマニュエル・マクロン大統領も、不法移民の問題について電話で協議しました。ロイターの報道によると、プーチン大統領はマクロン大統領に対し、この危機を終息させる必要性を理解していると伝えたとされています。このやり取りは、地域の緊張を和らげるための国際的な努力の一環とみられます。
バルト3国、ベラルーシの人身売買行為を非難
リトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国は11月15日、ベラルーシが中東からの移民・難民を欧州連合(EU)との境界付近に押し寄せさせている問題について、ルカシェンコ大統領に対する人身売買の責任を問う共同声明を発表しました。
ベラルーシは中東のイラクから人々を募り、民間機でベラルーシまで運び、バスでポーランドなどの国境地域に送り届けるという、人身売買に近い行為を行っていると非難されています。
このルートを通じてEUを目指す人々の多くは、イラク内で暮らすシリア難民やイラクの国内避難民と見られていますが、コンゴ民主共和国やカメルーンなど遠方の国からの人々も含まれているとされます。
イラク北部の街、シラーズでEUへの不法越境を仲介する業者によると、ビザ発給から飛行機での移動、そしてEU越境後の移動までを含めて、全体の費用は約12,000米ドル(約140万円)とされています。
多くのイラク人が、未来の見通しが立たない現状から脱出し、EUで新たな生活を始めることを夢見てこのルートを選択しています。一部の人々は、親族などから借金をして渡航費を捻出しているという話もあります。
移民・難民が暴動!ポーランドが催涙ガスや放水で鎮圧
ポーランドは11月16日、隣国ベラルーシから多数の移民が押し寄せる中、投石する移民に対して治安当局が催涙ガスや放水銃を使用したと発表しました。
ポーランド国境警備当局によれば、現在ベラルーシとの国境で最大4000人の移民が極寒の条件下で野営しています。ポーランド国防省は、移民が兵士や警官を石で攻撃し、ポーランドに入るためにフェンスを破壊しようとしていると説明した動画をTwitterに投稿しました。また、治安当局が移民鎮圧のため催涙ガスを使用したとも説明しています。
ポーランド警察によると、警察官1人が移民から投げつけられた物で重傷を負い、頭蓋骨損傷の疑いで病院で治療を受けています。また、ベラルーシ部隊が移民に音響閃光弾を提供し、ポーランド部隊が攻撃されているのを見て見ぬふりをしていると警察は批判しています。
これに対し、ベラルーシと同盟関係にあるロシアは、ポーランドが移民に対して催涙ガスや放水車で対応したことを「まったく受け入れられない事態」と非難しました。
ポーランドが国境で200人の移民を拘束、ベラルーシの関与を指摘
11月18日には、ポーランドはベラルーシ国境を突破した200人の移民を拘束したと発表しました。これに対し、先進7ヵ国(G7)の外相たちは共同声明で、ベラルーシ政府が国境での対立を煽り、移民危機を引き起こしていると非難し、解決を求めています。
ポーランド国防省によれば、国境地帯で前日に発生した出来事について、「ベラルーシ軍が偵察を行った後、有刺鉄線の柵を破壊した可能性が高い」と指摘。さらに「ベラルーシ側がポーランド軍兵士の注意をそらすために移民に投石させ、越境の試みは数百メートル離れた場所で起きた」と説明しました。
ベラルーシが国境の移民キャンプを撤去、移民を施設に収容
11月18日、ベラルーシ当局はポーランドとの国境に設置された移民キャンプを撤去したと発表しました。この仮設キャンプには数週間にわたり大量の移民が集まっており、長期間にわたる事態が膠着状態がしていました。
ベラルーシ国境警備隊は、16日夜時点でキャンプにいた1000人以上の移民全員が、自らの意思で物流センターに移ったとテレグラムで発表しました。
具体的には、約800人の移民が氷点下の気温に耐えながら野営していたが、天候の悪化を受けて、無事全員が施設に移ったとのことです。施設では温かい食事、暖かい服、基本的な生活必需品が提供されています。
ベラルーシがイラク人移民を送還、ドイツへの人道回廊要求は拒否
同日、数百人のイラク人がベラルーシの首都ミンスクの空港からイラクへと出国しました。イラク運輸省は声明で、ベラルーシの国境からミンスクへと移送されたイラク人400人以上がイラク航空機で送還されたと発表しました。ベラルーシ国営のベラビア航空は、ウズベキスタンの首都タシケントからミンスクへ向かう便に、アフガニスタン、イラク、レバノン、リビア、シリア、イエメン国籍の人の搭乗を禁止しました。
ベラルーシ政府は、国内に存在する移民は約7000人で、希望すれば約5000人を帰国させる責任があると説明しました。その上で、残りの約2000人の移民に対しては、ドイツへの「人道回廊」の設置を欧州連合(EU)に要求しました。しかし、ドイツ政府はこれを即座に拒否しました。ドイツ政府筋は、移民問題は欧州全体が直面する問題であり、ドイツ単独で対応するものではないと強調しました。
ベラルーシ大統領の報道官は、一部の移民は帰国に同意しているが、多くの移民は主にドイツなど西側諸国への移動を認めてほしいと主張していると指摘しました。彼はまた、「我々は誰にも強制的にイラクやシリアなどの国へ帰国させることはない」と述べました。
ベラルーシの移民施設で肩を寄せ合う家族と子供たち
ベラルーシ政府が設けた避難施設は、物流倉庫を利用したもので、コンテナが上下2〜3段に並べられており、その1区画ごとが約2メートル四方のスペースとなっています。ここには、複数の家族が毛布を持ち込んで肩を寄せ合っています。
仮設のトイレや給水所が設けられ、タンク水を用いて食器を洗うことが可能で、昼頃になると食事の配布が始まり、子供たちが順番を待ちながら広場に集まります。
この施設には子供たちが多く、その理由は、今回の移民ルートが、地中海やエーゲ海を通じた危険な海上渡航を必要とせず、正規のビザを取得し、航空機でベラルーシに入る形を取ったためです。出発地からベラルーシまでは法的に旅行し、多くの移民はポーランドとの国境に到達するまでホテルに滞在していました。
しかし、国境地域の状況は依然として緊迫しており、不法移民やベラルーシの国境での移民危機への具体的な対策はまだ明らかになっていません。この問題に対し、欧州連合(EU)は深刻に受け止めており、危機のさらなる悪化を防ぐための解決策を模索しています。
ルカシェンコ大統領が移民問題の関与を認める
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が、中東や他の地域からの多数の移民がポーランドとの国境で押し寄せている問題に関与している可能性を認める発言をしたことで、現状を一層複雑にしていました。
ルカシェンコ大統領は、「全くあり得る」と認め、その上で「私たちはスラヴ人です。私たちは心を持っています。この国の力が移民がドイツを目指していることを知っています。誰かが助けたかもしれませんが、私自身はこの問題を調査するつもりはありません」と述べています。この発言は、ベラルーシが移民の流れを抑制する意思がないことを示しており、さらに問題を深刻化させる要素となっています。
加えて、ルカシェンコはEUに対し、「私たちは国境で移民を拘束しません。もしもっと来るならば、私たちは彼らを止めません。彼らは私の国を目指しているのではなく、あなた方の国を目指しているのです」と述べ、彼自身は移民を招待したわけではないと主張しています。
また、2021年7月以降にベラルーシで活動を停止せざるを得なくなった270の非政府組織について問われた際、ルカシェンコ大統領は「西洋諸国が財政支援を提供しているゴミのような人々を、私は皆殺しにするつもりだ」と発言しました。
ベラルーシの移民問題がウクライナ危機と結びつき、再び複雑化
ベラルーシが近くの物流倉庫に約2,000人の移民を収容し、移民危機が一時的に収束した一方で、国際社会の目はすぐに隣国のウクライナ情勢に移っていきました
米ワシントン・ポストは2021年12月3日、米情報機関の報告に基づき、ロシアが翌年初めに最大175,000人の軍隊を動員してウクライナに侵攻する計画があると報じた。その後の12月7日の米露首脳間の電話会談が行われたものの、依然として地域の緊張状態は続いている。
この一連の状況の中で、ベラルーシは移民危機とウクライナの状況を関連付ける動きを見せていた。ベラルーシ大統領のアレクサンドル・ルカシェンコは、国境の避難所を訪れた際、アフガニスタンからの移民がベラルーシやウクライナに押し寄せると、ヨーロッパがその対応に苦しむことを示唆した。
さらに、ルカシェンコは11月30日、ロシアによるクリミアの併合を認め、ウクライナの状況におけるロシアの立場を支持することを明確に表明した。12月1日には、欧州への天然ガス供給の中断の可能性に再度言及し、これまでの移民危機だけでなく、エネルギー供給の観点からもヨーロッパの状況を複雑化させている。
冬季の到来により、ベラルーシの移民危機の対処がより困難になる中、米国やEU、ロシアが同じ地域で複雑に絡み合うウクライナ情勢の中で、国際社会から再び注目されることになります。
ポーランドのウクライナ難民への歓迎姿勢が高く評価される
2022年ロシアのウクライナ侵攻以降、ポーランドのウクライナからの難民に対する歓迎姿勢は、多くの人々から高い評価を受けています。
ニューヨーク・タイムズによると、過去12ヶ月間に約1,000万人のウクライナ人がポーランドの国境を越え、そのうち150万人以上がポーランドに滞在している。
この寛容な姿勢は、アメリカのジョー・バイデン大統領からも賞賛され、「ポーランドの寛容さ、心と家を開く意思は非常に素晴らしいものだ」と述べられました。また、ウクライナの難民には最大3年間のEU居住権が与えられます。
このポーランドの歓迎姿勢は、以前は反移民政策を採っていた右派ポピュリスト政権によるものです。中央・東欧政治の専門家、ジャック・ルプニクは、このポリシー転換の背景には、ウクライナが「外国」ではないというポーランド人の認識があると説明します。
ウクライナとポーランドは長い歴史、共通の言語、文化的なつながりを共有し、また、双方ともロシアの侵略を経験してきたことから、ポーランド人の間にウクライナ人に対する共感が強まっています。
しかし、ポーランドのウクライナ難民受け入れは、人道的な観点だけでなく、経済的な要素も含んでいます。ルプニクは、ウクライナの難民がポーランドの労働力不足を解消する可能性があると指摘し、さらに、ポーランドがEUからの大規模な支援資金を目指しているとも述べています。
ポーランドのウクライナ難民受け入れ、人種差別を巡る議論に
その一方で、この対応は「人種差別」との批判も受けています。
これまで中東からの難民に対するポーランドの対応はかつて厳しいものでした。特に2015年の欧州難民危機後、シリアなどからの難民に対しては抵抗感を示し、EUの難民受け入れ制度を拒否していたことが指摘されています。
ウクライナからの難民に対する対応が、これまでのポーランド政府の難民に対する態度と大きく異なっているためで、「金髪で青い目の」という「洗練された」と「ヨーロッパ的な」人々に似ているウクライナ人への対応と、シリアやパレスチナから来る人々との対応の違いが指摘されたのです。
ポーランドの多文化社会への変革とウクライナ難民の受け入れ課題
ロシアのウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以降のヨーロッパで最大の人道危機を引き起こしました。この結果、数多くのウクライナ人が難民となり、その中でも236万人がポーランドに留まっています。この難民の大量流入により、ポーランドは均質な社会から多文化社会へと変貌しました。しかし、その受け入れ能力には限界があり、「受け入れの限界に達している」との声が上がっています。
特に、教育面での問題が深刻化しています。ウクライナからの学生が増える一方で、ポーランドの教育制度はすでに教師や学校のスペースに不足を抱えています。国連児童基金(UNICEF)によると、ポーランドに居住するウクライナの子どもたちの半数未満しか学校に在籍していません。言語の問題もあり、年齢が上がるにつれて在籍者数が減少しています。この長期間の避難生活はウクライナ人に大きな負担をかけており、多くのウクライナ難民は戦争が終わるとすぐに帰国したいと表明しています。
さらに問題となるのが、人種差別や差別的な行為の存在です。ウクライナから逃れる一部の黒人や有色人種の人々は、ウクライナ難民と同じ扱いを受けていないと報告しています。これに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の長官は「醜い現実」に抗議しています。
ポーランドはこれまでに150万人以上のウクライナ難民を受け入れており、多くの難民はポーランドの民間の家庭でホストされています。しかし、ポーランドでの非白人難民への暴力や人種差別の報告も増えています。
この状況を踏まえると、ウクライナの戦争がポーランドに与えた影響は大きく、国の人口統計が大きく変化しています。ポーランドはウクライナ難民に対して大きな支援を行っていますが、その一方で非白人難民に対する差別や暴力の問題も存在します。これらの問題に対処するための解決策が求められています。
【ウクライナ危機(26)】NATO加盟か否か、プーチンの最終警告「レッドライン」とは?