「ドンパス紛争」は、ウクライナとロシアの間の紛争であり、その始まりは2014年にロシアがクリミアを編入したことにより激化しました。この記事では、紛争の経緯や背景について詳しく解説しています。
また、ウクライナ東部のドンバス地域の重要性や石炭埋蔵量、石炭産業の衰退、親ロシア派勢力の独立宣言、軍需産業の拠点としての役割などについても触れています。さらに、ウクライナとロシアの政治的な混乱や軍事的緊張、親ロシア派の排除、内戦の懸念についても取り上げています。この記事を通じて、読者はドンパス紛争の背景や重要な出来事について深く理解することができます。
【ウクライナ危機(10)】”安全保障に迫る重大な脅威「2014年クリミア危機」とロシア軍派遣
War in Donbass
「ドンパス紛争」クリミア編入から始まった闘い
ウクライナとロシアの間の紛争は、2014年にロシアがクリミアを編入したことで激化しました。これは国際社会によって広く非難され、多くの国がこの行動を非合法とみなしました。ロシアのクリミア編入は、ウクライナとロシアの間の関係を大きく悪化させ、両国間の政治的緊張を高めました。
同年、ウクライナの東部ドネツクとルガンスク州では親ロシア派武装勢力が独立を宣言し、ウクライナ政府との間に軍事的な衝突が起きました。親ロシア派武装勢力はロシアからの支援を受けていると広く信じられていますが、ロシア政府はこれを否定しています。
NATOはこの状況を非常に深刻に受け止め、ウクライナに軍事的及び非軍事的援助を提供しました。また、多くの西側諸国は経済制裁を通じてロシアに圧力をかけました。これに対し、ロシアは自らを「義勇軍」をウクライナに派遣するという形で反応しました。
エネルギーの要所!ウクライナの石炭埋蔵量が輝く「ドンバス」地域
ウクライナの東部は、その豊富な石炭埋蔵量で知られています。この地域は「ドンバス」(ドネツ炭田とも呼ばれる)としても知られ、ウクライナ国内で最も石炭が豊富り、経済的に発展している地域の一つです。
ドネツク州 + ルガンスク州 = ドンバス地方
一般的に、「ドンバス地方」は東部に位置するドネツク州とルガンスク州のエリアを合わせたエリアの総称として呼ばれています。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国は、それぞれ推定で230万人と150万人の住民を抱えています。
これはクリミアを除くウクライナ全体の人口の約1割に相当します。これらの地域の住民の大半はロシア語を話し、文化的、民族的にロシアと深いつながりを持っています。
「ドンバス炭鉱」は老朽化!補助金でなんとか継続していた事業
ドンバス地方の石炭産業は、長年にわたり老朽化と国際的な競争力の低下に直面してきました。その結果、政府の補助金に依存する形で運営されてきました。事実、ドンバスの石炭の価格はロシア炭の約2倍であったにもかかわらず、政府がその半分の費用を負担し、国内で消費されてきました。
この補助金は、「エネルギー自給率の向上」の名目で正当化されましたが、中央政界に強い影響力を持つ石炭業界のロビーの存在も無視できません。補助金で支えられた石炭産業と、政府が低価格で供給していた天然ガスを活用した鉄鋼産業が、ドンバス地方の経済を支えていました。
革命で追い出された「ヤヌコビッチ前大統領」の支持基盤!
前ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権は、これらの石炭産業と鉄鋼産業をその支持基盤としていました。しかし、現在の政権は、国際通貨基金(IMF)の指導の下で構造改革を推進しており、その一環として補助金が削減されています。この結果、ドンバス地方は表面的な生産力を大幅に失っていきました。補助金に依存していた産業が縮小または閉鎖され、雇用や経済的安定性が脅かされたのです。
「ソ連時代は一大工業地帯」 ロシア人労働者が集結!これが親ロシア派のルーツ
ソビエト連邦時代、ウクライナ東部と隣接するロシア地域は、「ドニエプル・コンビナート」という一大工業地帯を形成していました。この地域は豊富な石炭(ドネツ炭田)、鉄鉱山、水力発電を背景に、ドネツク、ドニエプロペトロフスク、そしてロシアのハリコフなどで鉄鋼、機械、化学工業が発展しました。
ロシアからも多数の労働者がこの地域に移住し、これがウクライナ東部のロシア系住民の比率が高い一因となりました。このため、東部の住民、特に「親ロシア派」は、「ウクライナの経済は我々が支えている」という強い自負を持つ傾向があります。
それに対して、農業が主体で親欧米派が多いウクライナ西部との間には、意見の相違点があります。これが、「ウクライナの東西対立」と称される事態を生むことになりました。
ロシア軍の装備を供給する軍需産業の拠点としての役割
ウクライナ東部は、ロシアの軍需産業にとって重要な地域であるとともに、その戦略的な要素も含んでいます。この地域には、ロシア軍の装備を供給する工場が数多く存在し、その中には一部の戦略兵器の製造も含まれています。
例えば、ロシアの主力の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「RS-20B」の設計を行ったのは、ウクライナ東部ドニエプロペトロフスクに位置するユージュノエ社です。同社はこのミサイルの保守や修理も担ってきました。したがって、ロシアはユージュノエ社との関係が続かない場合、自力で修理するなどの対応が必要になります。
また、ミサイルの誘導装置の製造も、ウクライナ東部ハリコフの企業が行っています。さらに、ウクライナ東部ザポロジエのモートル・シチ社は、Mi-24などロシア軍のほとんどのヘリコプターにエンジンを供給しています。
さらに、ロシア艦船のガスタービン装置も、ウクライナ企業の存在が際立っています。これらの企業や施設がロシアの影響下にあることは、ロシアにとって戦略的に重要な意味を持っています。そのため、ロシアはウクライナ東部を重要視し、その地域への影響力を保持し続けたいと考えられています。
ウクライナの2014年…政治的混乱と地域的な緊張の連鎖
2014年はウクライナにとって政治的に混乱した年でした。年初にはウクライナの首都キエフで「ユーロマイダン」と称する大規模な抗議行動が発生し、それに続いて2月にはウクライナの大統領が国を逃れるという政治的な危機が起きました。
その後、ウクライナ南部のクリミア半島に対するロシアによる一方的な併合が行われたのです。これに対して国際社会からは大きな反発がありましたが、ロシアはこれを強行しました。
そのような中、ウクライナ東部のドンバス地域では親ロシア派グループの反発が強まり、武力衝突へと発展していきました。
「ドネツク人民共和国」親ロシア派武装勢力の独立宣言
2014年4月7日にドネツク州で親ロシア派武装勢力が「ドネツク人民共和国」の創設を宣言しました。この出来事は、ウクライナ政府と親ロシア派勢力との間の緊張を一層高める一方で、その地域の政治的不確実性を引き起こしました。
親ロシア派はドネツク州の州政府と議会の建物を占拠し、さらにホルリフカの警察署も占拠したと報じられていました。その後、デモ隊が独自に会議を開き、ドネツク共和国の主権宣言書を採択したとロシアのリアノーボスチ通信は報じました。
「ロシア編入と建国のため!」住民投票の実施を表明
2014年4月にドネツクで親ロシア派勢力が「ドネツク人民共和国」の創設を宣言した後、彼らはさらに住民投票を実施して共和国の創設を正式に決定し、ロシアへの編入を求める動きを見せました。これはロシアのプーチン大統領に対して平和維持部隊の派遣を要請するもので、親ロシア派勢力が新設した議会が全会一致で決定しました。
しかしこれらの動きは、正式な議会手続きを踏まないという理由から違法と見なされ、州住民の支持を得られるかどうかは不透明でした。
その他の地域でも、親ロシア派勢力の活動が見られました。ルガンスクやハリコフでも、親ロシア派勢力が自治権の拡大や連邦制への移行を求め、デモを続けていました。ルガンスクでは治安機関の武器を奪い、親欧米派勢力との衝突で15人が負傷したとの報告がありました。ハリコフでは親ロシア派勢力と州政府側との交渉が続き、状況は緊迫していきました。
「ハリコフ人民共和国」親ロシア派デモ隊の独立宣言
2014年4月7日、親ロシア派のデモ隊がハリコフ州でも「ハリコフ人民共和国」の樹立を宣言しました。これはドネツク州での「ドネツク人民共和国」の宣言に続くものでした。これらの行動は、ロシアとの連携を求める地域内の政治的テンションを高めました。
ハリコフでは親ロシア派の活動家が警察の警備網を突破し、複数の行政庁舎を占拠していました。また、ルガンスクでは約1000人以上の人々が親ロシア政治団体の指導者、アレクサンドル・ハリトノフの釈放を要求しました。ハリトノフはデモを先導していたが、憲法秩序破壊の疑いで先月逮捕されていました。
この他にも、ウクライナ東部のルハンシクではデモ隊が政府庁舎を占拠し、ロシア国旗を掲げて新政府の樹立を宣言していました。
ロシアの連邦制度導入要求と政治的混乱
ウクライナの政治状況が混沌としていた時期に、ロシアの外務省がウクライナに連邦制度の導入を求めました。この制度は各自治体により広範な権限を与え、ロシアはこれによってウクライナの東部と南部のロシア系住民の影響力を増すことを望んでいたと推測されます。
ウクライナの政治状況が混沌としていた時期に、ロシアの外務省がウクライナに連邦制度の導入を求めたとのことです。この制度は各自治体により広範な権限を与え、ロシアはこれによってウクライナの東部と南部のロシア系住民の影響力を増すことを望んでいたと推測されます。
増大する軍事的緊張…ウクライナの国境に展開するロシア軍
この時期のウクライナとロシアの緊張状況は、国際的な懸念を高めました。ロシアがウクライナの国境に大規模な軍部隊を展開していたこと、それがクリミアの併合後も撤退しなかったことは、特に注目されました。北大西洋条約機構(NATO)はこの状況を深刻に受け止め、その幹部であるブリードラブ最高司令官やラスムセン事務総長からもロシアに対する懸念が示されました。
彼らはロシアの兵員が約4万人規模であり、それらが訓練ではなく、実際の戦闘の準備をしているとの見解を示しました。さらに、彼らはロシアの部隊がウクライナに侵攻する場合、3〜5日でその目的を達成できるだろうとの見通しを示しました。これはロシアが国境に展開していた軍部隊が、全面的な侵攻能力を持っている可能性を示しています。
これに対して、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は強く反発しました。彼は親ロシア派のデモ隊が「ロシアに操られた分離主義集団」と非難し、クリミアのシナリオが再現されようとしていることを警戒しました。さらに、彼はロシア軍がウクライナ国境から30km以内に展開し、撤退の兆候がないと指摘しました。
ウクライナ警察の親ロシア派の排除と内戦の懸念
2014年4月8日、ウクライナ警察は親ロシア派の住民が占拠していた東部ハリコフの地方政府庁舎を奪還しました。その一方で、ドネツクとルガンスクでは、抗議行動が続き、武装グループがバリケードを築いて立てこもっていました。
ウクライナの新政府は、こうした行動を通じて権力を示そうとしていました。しかし、ロシア側はウクライナがデモ隊を力で排除することは、国内に内戦の可能性をもたらすと警告しました。
親ロシア派を「テロリスト認定」トゥルチノフ大統領代行の最後通告
ウクライナのオレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行は2014年4月8日に、国内東部の都市で行政庁舎を占拠している親ロシアの分離派を「テロリスト」と認定し、法律の全力を用いて彼らを訴追すると公表しました。
この声明は議会の会合で発表され、トゥルチノフ大統領代行は「自動小銃を手に庁舎を占拠している分離派およびテロリストは、憲法と司法に従ってテロリストや犯罪者と同様に扱う」と親ロシア派に対する法的な追求を明らかにしました。
「投降しなければ強制排除」期限は4月11日の夕方
4月11日、ウクライナ東部のドネツクなど、ロシア系住民が多い地域では、デモ隊が地元政府庁舎などを占拠し、ロシアへの編入を求める行動が続いていました。一方、ウクライナの暫定政権は対話を通じて問題解決を試みており、ヤツェニュク首相がドネツクを訪れました。
しかし、デモ隊側は徹底抗戦の姿勢を保持し、暫定政権のアワコフ内相は、同日夕方までに投降しなければ強制排除に乗り出す可能性があることを示唆していました。これにより、新たな衝突が発生する可能性が高まりました。
ドネツクやルガンスクでは、親ロシア派が地方自治権の拡大を求め、連邦制の導入を訴え続けており、ウクライナ当局が設定した投降期限の4月11日を過ぎても投降しませんでした。一方、当局の強制排除もおこらず、緊迫した状況は続いていました。
その頃、ロシア側はウクライナに対して自治権の確立と中立宣言を基にした憲法修正を求めていました。これに対して米国務省のマリー・ハーフ報道官は「ウクライナ政府が決めることだ」と述べ、ロシアに決定権はないと主張しました。
「対テロ作戦の実行」最後通告期限は4月13日の午前9時
ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は2014年4月13日のテレビ演説において、行政施設を占拠し続ける集団に対し、2014年4月14日午前9時までに武装解除し、施設から退去するよう最後通告しました。
トゥルチノフ大統領代行は、国民に向けて「クリミアのようなシナリオが東部ウクライナで再現されることは許されない」と強調しました。この「シナリオ」とは、ロシアがクリミア半島を一方的に併合した経緯を指しています。
また、この通告に従わない「テロリスト」に対しては、軍が「対テロ作戦」を展開すると警告しました。ただし、期限までに武器を置き施設から退去する者に対しては、罪は問わないと明言しました。
さらに、トゥルチノフ大統領代行は親ロシア派の要求に一部応じる形で、地方の権限拡大や自治制度の改革を検討する用意があるという柔軟な姿勢を示しました。
「国連安保理の緊急会議」それぞれの立場と意見の衝突
2014年4月13日に開催された国連安全保障理事会の緊急会議において、各国から様々な意見が出されました。
ロシアの国連大使、ヴィタリー・チュルキンは、現状が極めて危険であり、事態のさらなる悪化を避ける必要があると述べました。彼はまた、ウクライナが内戦状態に陥るかどうかは「西側諸国次第だ」との見解を示しました。これは、西側諸国がウクライナの親ロシア派に対する姿勢を柔軟にすることで、内戦の防止が可能だとする立場を表しています。
一方、アメリカの国連大使、サマンサ・パワーはロシアがデマを流し、ウクライナの情勢を不安定化させていると指摘しました。パワー大使は「市民の生命が危険にさらされている」と述べ、ロシアの行動を強く非難しました。
ウクライナのユーリー・セルゲイエフ国連大使は、武装した「テロリスト」に対する作戦の準備が進行中であると明かしました。これは、ウクライナ政府が親ロシア派に対する強硬姿勢を維持し、必要ならば武力行使も辞さないことを示すものでした。
「最後通告無視」ウクライナ軍による強制排除が開始
4月14日、ウクライナ東部の親ロシア派は、ウクライナ政府の最後通告の期限午前9時をまわっても、行政庁舎や警察署への占拠行動を継続しました。ドネツク州の主要な都市を中心に、これらの勢力は拠点施設の掌握を進め、ホルリフカでは少なくとも100人が警察本部を攻撃しました。親ロシア派の活動は10都市に広がり、政府庁舎や警察本部などが占拠される事態になりました。
これを受けて、トゥルチノフ大統領代行は軍による強制排除を開始する大統領令に署名しました。これは対テロ作戦の一環と位置づけられており、親ロシア派勢力が占拠している施設からの排除を目指すものでした。
テロリズムに対抗する作戦の開始を告げる演説
トゥルチノフ代理大統領は4月15日、議会での演説にて、「ドネツク州北部でテロリズムに対抗する作戦が始まった。しかし、この作戦は段階的に実施され、ウクライナ市民を保護することが主要な目的である」と宣言しました。
東部クラマトルスクでは、親ロシア派の武装勢力に向けた「特別作戦」が開始されており、現場近くでは戦闘機の急降下が確認され、飛行場からは銃声が響き、ウクライナ軍の兵士がヘリコプターから降下する様子が目撃されていました。
そして、トゥルチノフ代理大統領は、クラマトルスクの飛行場の奪還を発表しました。一方で、近隣のスラビャンスクでは、「反テロ作戦」が武装勢力に対して進行中であると、治安当局から報告されていました。
「ウクライナで再び血が流れている」ロシア側の指導者の警告と瀬戸際の状況
ロシアは、ウクライナ政府がロシア系住民の権利を無視し、緊張状態を増幅させたと批判を強めました。亡命中のヤヌコビッチ前ウクライナ大統領は「内戦が始まった」と明言し、メドヴェージェフ首相は、ウクライナで再び血が流されている事態をフェイスブックで指摘し、「ウクライナは内戦の瀬戸際に立っている」と述べました。
「ウクライナ政府は悪くない」国連と欧米の反応
国連がこの日公表した報告書では、「ロシア系コミュニティーに対する攻撃も一部で見られたが、組織だったものではなく、大規模に行われてもいない」と記されており、これはロシアが主張するロシア系住民が著しく脅かされているという状況に疑問を投げかけるものとなりました。
一方、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は、ルクセンブルクで開催された欧州連合(EU)の国防相会合で、「ロシアがウクライナ危機に深く関与しているのは明らかだ」と批判し、「ロシアはウクライナの親ロシア派に対し、暴力行為を支持しないと明言するべきだ」と述べました。
また、オバマ米政権は、ウクライナ東部の各地で政府庁舎を占拠している分離主義的な親ロシア派武装勢力の強制排除にウクライナ政府軍が着手したことについて、支持を表明しました。米政府当局者は、「ウクライナ政府はこれまで慎重に事を運んできたが、親ロシア派武装勢力が騒動を起こしたために、政府の抑制的な立場が維持できなくなった」と語りました。
「ウクライナ内戦から代理戦争へ」アメリカとロシアの対立の深まり
ウクライナの政情不安は、実際にはウクライナとロシアだけの問題ではなく、国際的な緊張と対立を引き起こしています。
ロシアのニュース番組は「CIA長官がウクライナ新政府に武力行使を命令」と報じ、ロシアのチュルキン国連大使は国連安保理で「(米国の)バイデン副大統領は、いつものようにウクライナの大統領に電話し、『武力行使をやめろ!』というべきだ」と主張しており、米ロ間の対立構造になっていました。
さらに、欧米側は「ロシアがウクライナ東部の暴動を扇動している」と主張し、ロシア側は「米国が新政権に対して、ロシア系住民虐殺指令を出した」と主張するなど、情報戦が展開されました。ウクライナの内戦のはずが、欧米とロシアの間の“代理戦争”の様相を帯びていたのです。
紛争の激化!初の犠牲者と内戦の現実味
4月15日、ウクライナ東部クラマトルスクの軍用空港でウクライナ軍と親ロシア派勢力との間に銃撃戦が発生し。親ロシア派から4人が死亡し、ウクライナ軍が空港を制圧しました。また、近郊のスラビャンスクには、規模500人の部隊が作戦を遂行中との報道も出ていました。
ウクライナ暫定政府のトゥルチノフ大統領代行は、この作戦について「段階的でバランスの取れたものになる」と述べ、被害を最小限にとどめる意向を示した。これに対し、アメリカ政府はウクライナ暫定政府の対応が慎重であるとの理解を示しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は、「明確に非難すべき」との声明を発表。親ロシア派からの犠牲者が出たことで、この地域の緊張は一層高まりました。治安部隊が親ロシア派のデモ隊を排除し、死傷者が出たことに対しロシアは強く反発したのです。
緊迫したウクライナ情勢を受け、ジュネーブで4者協議が開催!
4月17日、ジュネーブで開催された4者協議にて、ウクライナ問題の主要関係国が一堂に会し、緊張状態の解決策を模索しました。出席者には、アメリカのジョン・ケリー国務長官、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相、EUのキャサリン・アシュトン外務・安全保障政策上級代表、そしてウクライナのアンドリー・デシツァ外相が含まれていました。
これは、ウクライナにおける緊張の高まりと関連した対話の場で、各国はその解決策を模索するために協議に臨みました。この協議では、ウクライナ東部における親ロシア派勢力とウクライナ政府との対立や、ウクライナの政治的未来を巡る議論が主な焦点になりました。
「支援するな」vs 「支援していない」4者協議でロシア支援に関する意見対立
4者協議が始まった直後に、一つの難問が浮かび上がりました。それは、“話が前に進まない”という状況でした。アメリカ、ウクライナ、EUの三者は、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力へのロシアの支援を非難し、その停止を強く求めました。しかしながら、ロシアはこれらの支援行為の存在そのものを断固として否定しました。
協議後の記者会見でロシアとアメリカの対立が浮き彫りに
協議の結果、全ての参加者に対して暴力、威嚇、挑発の自制が強く求められました。その上で、違法な武装集団の武装解除と、占拠地の合法的所有者への返還も呼びかけられました。協議ではさらに、武器を放棄すれば免責されることや、ウクライナ全土で対話を促進していくことについても合意されました。
協議終了後の記者会見で、ロシアの外相ラブロフは「非合法な武装勢力の武装解除が必要だ」と主張しました。ラブロフはまた、ウクライナ東部で庁舎などを占拠している親ロシア派勢力について、「占拠されている建物は、合法的な所有者に戻されるべきだ」と述べました。さらに、彼は「すべての勢力が暴力を控えるべきだ」との立場を明確にしました。
一方、アメリカのオバマ大統領は緊急会見を開き、「ロシアが協議で合意した内容を尊重して行動することを期待している」と述べました。また、オバマ大統領は、今後数日間でヨーロッパと協力してロシアの行動を監視することを明言しました。そして、もしロシアが合意に従わなければ、制裁措置を取るという方針を強調しました。
協議の成果に反し、ドネツクの占拠勢力がキエフの要求に抵抗
しかし、ウクライナ東部のドネツクで庁舎を占拠している親ロシア派勢力は、抗戦の姿勢を崩していません。協議ではウクライナ国内で不法に占拠されている建物の明け渡しについて合意がなされましたが、「ドネツク共和国」の指導者は、「キエフの広場から親ウクライナ派のデモ隊が撤退し、大統領代行などが辞任しない限り、我々も撤退しない」と述べています。
東部での銃撃戦!4者協議後も武装勢力の影響力は依然として残る
4者協議で武装勢力の退去要求について合意が見られたにも関わらず、ウクライナからの分離を主張する武装勢力は、ウクライナ東部で依然として数多くの町を掌握し続けていました。そして4月20日には、ウクライナ東部スラビャンスク近郊で銃撃戦が勃発し、襲撃した側から1人、親ロシア派武装集団から3人の計4人が死亡しました。
親ロシア派は、襲撃したのはウクライナ系住民が多い同国西部を拠点とする極右連合「右派セクター」であると主張しています。しかし、「右派セクター」は襲撃を否定し、ロシアの特殊部隊が関与したと非難しました。
一方、ロシアのメディアはこの事件を反ロシアの極右集団による襲撃と報じ、ロシア外務省も「過激主義者の武装解除への希望がないことが証明された」としてウクライナの暫定政権を非難しました。しかし、ウクライナの暫定政権はこの事件を「ロシアの謀略」と反論しています。
バイデン副大統領、親ロシア派の建物占拠をロシアに警告
4月22日、ジョー・バイデン副大統領はウクライナの首都キーウを訪問し、トゥルチノフ大統領代行およびヤツェニュク首相と順次会談しました。
会談後の会見で、バイデン副大統領は4者協議で建物の明け渡しについての合意がなされたにもかかわらず、ウクライナ東部で親ロシア派による建物占拠が依然として続いている状況について、ロシアが親ロシア派に明け渡しを促すように求めました。その上で「これ以上の挑発はさらなる孤立を招く」とロシアに釘を刺しました。
ウクライナ政府の「強制排除作戦再開」にロシアの反応は警戒と懸念
東部での親ロシア派による建物占拠が続く中、4月24日にウクライナ暫定政府は強制排除を再開しました。この作戦において、警察と軍はスラビャンスク近郊で、親ロシア派の武装勢力が設置していた3つの検問所を破壊しました。報道によると、この作戦で武装勢力側には少なくとも5人の死者が出ています。
また、マリウポリでは、数十人の武装した人々が親ロシア派に占拠されていた市庁舎を解放し、その後ウクライナ警察が現場に展開したと暫定政府は報告しました。
この強制排除の再開について、ロシアのプーチン大統領は、「自国の市民に軍を使うことは深刻な犯罪であり、暫定政権はそれに対して報いを受けるだろう」と強く警告しました。また、ロシアのショイグ国防相はウクライナとの国境近くでロシア軍が演習を開始したと公表しており、再び緊張が高まっていきました。
プーチン大統領がロシア国籍取得を容易にする大統領令に署名
プーチン大統領が4月24日、ウクライナ東部のドネツクとルガンスクの両州で、親ロシア派武装勢力が一部地域を実質的に支配している住民が、簡易な手続きでロシアの国籍を取得できるようにする大統領令に署名しました。
この大統領令はそれから3日後に受け付けが開始されており、ウクライナ側は懸念を強めていきました。この大統領令によってこの2州がロシアに編入される可能性が浮上したからです。
G7首脳がウクライナ危機緩和のためロシアへの追加制裁を合意
G7の首脳たちは、4月26日に、ウクライナに関する緊張状態を緩和するために、ロシアへの追加制裁を即時に実施することで合意、その後実施しました。
国大統領補佐官のベン・ローズは、これらの制裁が大きな影響を持つと予想していることを記者団に伝えました。
また、オバマ大統領は、欧州の4人の首脳との電話会談で、迅速な行動が必要であることを強調しました。さらにローズ副補佐官は、アメリカと欧州連合(EU)がそれぞれ個別に行動する可能性があり、各国の制裁が完全に一致する必要はないことを示唆しました。
ローズ副補佐官はまた、制裁の対象となる可能性があるのは、エネルギー、銀行などのロシア経済の特定のセクターに影響力を持つ個人や企業であることを明らかにしました。ホワイトハウスが発表したG7首脳声明では、新たな制裁はウクライナ危機に対する国際的な合意を尊重していないロシアを罰する目的があると述べられています。
親ロシア派が報道公正を求め、テレビ局占拠
4月27日、親ロシア派がドネツク市中心部の広場で開催した集会で、自治権の拡大を求める住民投票がテレビで報道されていないとの批判が出ました。
そして、「正しい報道を求めて」数百人の親ロシア派が州営テレビ・ラジオ局へと向かい、彼らはそれぞれの建物を占拠しました。その後、テレビ局のチャンネルがロシア国営のニュースチャンネル「ロシア24」に切り替えられました。
親ロシア派がルガンスクの庁舎を占拠、ウクライナ国旗を撤去
4月29日、東部のルガンスクにおいて、30人ほどの親ロシア派武装勢力が。数百人の群衆を率いて地方政府庁舎と検察局庁舎を襲撃して占拠しました。彼らは庁舎のウクライナ国旗を降ろし、誇らしげにロシア国旗を掲げました・
ウクライナ、緊急事態!徴兵制度復活で状況打開を図る
ウクライナの国歌分裂の危機が一段と深まる中、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、ロシアによるクリミア半島の一方的な編入と、その結果として失われた軍事力の回復を目指し、5月1日に徴兵制の即時復活に署名しました。クリミア半島には約1万8千人のウクライナ軍が駐在していましたが、その多くがロシアに寝返り、海軍本部や艦船、海兵隊の拠点も喪失しました。
新たに発令された徴兵令は、18歳から25歳までの男性予備役兵を対象とし、「東部と南部での状況悪化」に対抗することを目的としています。
昨年の2013年に、ウクライナのヤヌコビッチ大統領が志願制への移行したばかりでした。2013年当時のウクライナ軍の兵力は約16万8千人であり、今後5年間で7万人規模に縮小することも検討されていましたが、ロシアとの関係悪化を受けて、方向転換が必要とされました。
ウクライナの危機が頂点に!ロシア軍侵攻の可能性に備え戦闘態勢へ
ウクライナの暫定政権は、東部で起きている一連の出来事について、ロシアが裏で糸を引いているとして強く非難しました。同時に、親ロシア派の勢力を抑えることができていないという状況についても認識しています。
トゥルチノフ大統領代行は、4国境付近に2ヶ月以上にわたり集結しているとされる約4万人のロシア軍部隊がウクライナへの侵攻の可能性があるとし、ウクライナ軍の13万人の兵士に「完全な戦闘態勢」をとるよう命じました。
この命令は、ウクライナが国内の分裂状態を抑え、さらなるロシアの干渉を防ぐための一環と見られています。しかし、緊張状態が続く中で、ウクライナ軍がどこまで効果的に対応できるか、そしてロシアがどのように反応するかは不透明なままでした。
親ロシア派が勢力拡大!ウクライナ東部での独立宣言に国際的な懸念
ウクライナ東部のドネツクとルガンスクの両州で、親ロシア派の勢力が行政庁舎や警察署の占拠を続ける中、5月11日に事実上の独立を問う「住民投票」が行われました。投票結果によれば、親ロシア派の支持は圧倒的で、ドネツク州では89%が独立を「承認」し、ルガンスク州では96%が「承認」の票を投じました。
これにより、5月12日には親ロシア派勢力が両州の独立を宣言しました。
また、ドネツク州の親ロシア派はロシアへの編入を検討するよう求める声明を発表しましたが、中央選管委員長のリャギンは「ロシアへの編入」を問う「2回目の住民投票」はないと言明しました。
一方で、最新の世論調査では、ロシアへの編入支持は27%にとどまるとされていました。ただい、親ロシア派勢力は政府との対立が続けば、ウクライナ南部クリミア半島のようにロシアとの統合について検討するという方針を示しました。
投票の陰に不正の影!ウクライナ東部での投票手続きと結果に疑義
この住民投票について、不正投票疑惑が相次ぎました。ウクライナ保安局は、「賛成」の印があらかじめ付けられた投票用紙1万枚を押収しました。また、一部の有権者が何枚も投票している二重投票の事例も報告されました。
投票の手続きも問題があり、投票用紙は白黒のコピー紙であり、偽造防止の手段が取られていませんでした。また、旧来の選挙人名簿に基づく有権者の確認が行われるとされていましたが、実際には個人情報を記帳するだけで誰でも投票できる状況で、一人の有権者が投票所を巡回し、何度でも投票できる形になってました。
さらに、投票率についてもウクライナ政府と親ロシア派勢力の間で大きな違いがあり、親ロシア派勢力によると、投票率はドネツク州、ルガンスク州ともに約75%であったとのことですが、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、それぞれ約32%、24%だったとの独自の調査結果を公表しています。
国際的な批判が続出!トゥルチノフ大統領代行や欧米各国が非難
ウクライナの中央政府や欧米各国からは、この住民投票への厳しい批判が相次ぎました。
ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、住民投票を「宣伝のための茶番」と非難し、「ロシアが大統領選の失敗と政権転覆を狙って発案したもの」で、「法的な有効性は全くない」と明言しました。彼はウクライナ政府が投票結果を認めない姿勢を再度強調し、地域ごとの住民投票がウクライナの憲法に違反していると指摘しました。
一方、アメリカ側もこの住民投票を強く非難しています。ジェイ・カーニー米大統領報道官は、「住民投票は違法であり、ウクライナをさらに分断し、無秩序を引き起こす明白な試みだ」と述べました。彼は重複投票や事前に印が付けられた投票用紙の使用、子供による投票などがあったと指摘し、「投票結果を認めない」と強調しました。
北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も、「違法な住民投票に効力はない」と言い、「混乱した運営やあいまいな設問」を批判しました。彼は、本当に重要なのは5月25日に予定されているウクライナの大統領選挙だと強調しました。
ロシアの歓迎と親ロシア派の意志!住民投票の背景
プーチン大統領は5月7日に、東部ウクライナの分離独立派に対して、住民投票を延期するよう要求し、5月25日に予定されているウクライナの大統領選挙を支援する意志を示していました。これに対して、「ドネツク人民共和国」の設立を宣言した親ロシア派の指導者、デニス・プシリン氏は、「われわれはプーチン大統領に多大な尊敬を抱いている。同大統領が(投票の延期が)必要と考えるのなら、当然われわれは延期を検討する」と述べていました。
ウクライナのヤツェニュク首相は、プーチン大統領の発言を信用していないと述べ、アメリカのホワイトハウスは、予定されている住民投票が「違法」であり、延期ではなく完全に中止されるべきであるとの立場を示していました。
プーチン大統領の提案に背いての住民投票も歓迎を声明
しかし、最終的にドネツクとルガンスクの親ロシア派勢力はプーチン大統領の提案を受け入れず、住民投票を予定通り実施しました。政治アナリストは、親ロシア派がプーチン大統領の提案を拒否したことは、プーチン大統領自身が予想していた可能性があり、親ロシア派がプーチン大統領の指示に従っていないというメッセージを国際社会に送る目的があったと指摘しています。
だが、この住民投票の結果をロシアは歓迎し、「ドネツク、ルガンスク両州の住民の意思を尊重し、投票結果が分別ある方法で実現されることを望む」と声明を発表しました。
親露派指導者が要請!「ドネツク」「ルガンスク」のロシアへの編入を検討
デニス・プシリン(親露派の自称ドネツク州知事)は、「ドネツク人民共和国」のロシア連邦への編入を検討するようロシアに要請すると表明しました。また、5月25日に予定されていたウクライナ大統領選については、ドネツク州では実施されないと宣言しました。
また、ルガンスク州は「圧倒的多数の住民が自決権に賛意を示した」と述べ、ウクライナの暫定政権に対して、国の政体を早急に「連邦」にすることが国を保全する唯一の選択肢であり、最後のチャンスだとする声明を発表しました。
「ノヴォロシア」成立!独立宣言後のドネツク・ルガンスクの統合
ドネツクとルネツクの2州が自称「人民共和国」として独立宣言を行った後、5月24日には両「人民共和国」を統合して「共和国連合」を成立させる文書に署名をしたとの情報、ありがとうございます。「ノヴォロシア」(新ロシア)という名称が採用されたようです。
「ノヴォロシア」という言葉は、18世紀エカテリーナ2世の時代に、オスマン帝国から統治権を奪回した黒海沿岸地域を指す言葉として使われました。19世紀には、この地域の行政の中心地となったオデッサを指して使用されました。かつてはロシア正教会の教徒が多く住むウクライナの大部分も、「リトル・ロシア(MalayaRossiya)」と呼ばれたことがあり、これは14世紀後半からロシア革命のころまで、教会の資料などで使われ、後に政府文書でも言及されるようになりました。
「ノヴォロシア人民共和国連邦」プロジェクトの保留と凍結
「ノヴォロシア人民共和国連邦」は、ロシアへの編入を求めていましたが、ロシアや国連はこれを認めませんでした。そして、2015年1月1日に新ロシアプロジェクトが保留となり、同年5月20日にはプロジェクトの凍結と政治構造の廃止が正式に発表されました。
ロシア関与の証拠?ウクライナの分離主義勢力との結びつきが浮上
ウクライナの暫定政権や欧米は、ロシア軍の特殊部隊がウクライナの分離主義勢力を主導し、賃金を支払って人員を雇っていると批判しています。クリミアに展開していた武装勢力と同じスタイルの武装勢力の存在、武装占拠の方法がプロフェッショナルなものであるなど、その根拠となる情報が報じられています。一方でロシアは、これらの疑惑に対して一貫して関与を否定しています。
「FSB(旧KGB)・GRU」ドネツク人民共和国リーダーはロシアの工作員だった!?
ドネツク人民共和国のリーダーとされるのはアレクサンドル・ボロダイとイゴール・ストレルコフです。両者ともにモスクワ出身で、ボロダイはモスクワ大学、ストレルコフはモスクワ国立歴史古文書大学の卒業生です。
ボロダイ氏は1990年代にジャーナリストとして、ストレルコフはロシア軍人として北カフカスからダゲスタンにかけてのチェチェン平定作戦に従事していました。そこで2人は出会い、その後プーチン大統領の出身母体であるKGBの後継機関であるロシア連邦保安庁(FSB)で働いていました。また、ストレルコフはロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の工作員だったことが公になっています。
英雄か殺人鬼か…ウクライナ東部の指導者「イーゴリ・ストレルコフ」
イーゴリ・ストレルコフ(本名:ギルキン)は、クリミア半島のロシアによる併合に関与し、その後ウクライナ東部の紛争で中心的な役割を果たしました。彼の活動はウクライナ政府から強く非難されており、特にウクライナのアバコフ内相はストレルコフを「殺人鬼」と非難し、「対テロ作戦の標的」とも述べています。
しかし、ウクライナ東部のロシア系住民の中には、彼と彼の指導する軍事組織をウクライナのナショナリストから自分たちを守る存在と見なす者もいます。
戦況の悪化と評価の下落
ストレルコフは親露派の重要な拠点であったスラビャンスクで指揮を執っていましたが、ウクライナ軍との戦闘で親露派はスラビャンスクを失い、ストレルコフの評価も下がりました。
「マレーシア航空機撃墜事件」での関与
その後、2014年7月17日にマレーシア航空機が撃墜された事件で、ストレルコフ氏が自身のSNSで「軍用機を撃墜した」と発言し、その後すぐに投稿を削除したことが報道されました。これが親露派がマレーシア機を撃墜した証拠だと、世界中のメディアで報じられました。
戦況が不利になり辞任
親露派の状況はさらに悪化し、ルガンスク州とドネツク州の親露派勢力の支配地域が分断されました。そして2014年8月14日、ストレルコフとルガンスク州の親露派組織のリーダーが同時に辞任を発表しました。
これらの出来事は、ウクライナ東部の紛争が進行中であり、解決には時間がかかる可能性があることを示しています。紛争の根本的な問題、すなわちウクライナとロシア、そしてそれぞれの国内の分裂という問題が解決されない限り、この地域の未来は依然として不確定性に包まれています。
「親ロシア派はロシアの操り人形」辞任後にプーチンを批判
辞任後、ストレルコフが親露派指導部は「ロシア政府の操り人形」であり、彼自身もロシア政府からの圧力を受けて現地を離れたと毎日新聞のインタビューで証言しました。
このような発言は、ロシア政府がウクライナの親ロシア派武装勢力に深く関与しているという証言を提供しており、これはプーチン政権が紛争への関与を一貫して否定している状況とは対照的です。
ストレルコフは戦線から離れた後、プーチン政権に批判的な立場に転じ、モスクワで政治活動を続けているとのことです。これはウクライナ東部の情勢におけるロシアの役割について新たな視点を提供しています。
彼の発言が真実であるとすれば、それはロシアがウクライナの親ロシア派武装勢力を裏から操っているという主張を裏付けるものとなり、これによりウクライナの紛争が更に複雑なものとなる可能性があります。ただし、ストレルコフの発言が必ずしも全ての事実を反映しているわけではないかもしれませんので、その解釈には慎重さが必要です。
ウクライナの新たなリーダー「ポロシェンコ」が大統領に就任
2014年5月25日のウクライナ大統領選挙の結果、ペトロ・ポロシェンが勝利しました。
選挙は本来2015年に予定されていましたが、ヴィクトル・ヤヌコビッチ政権の崩壊により前倒しとなりました。この政権交代は、国内外の緊張を高め、ウクライナ東部での親ロシア派の反乱を引き起こす要因の一つとなりました。
23人が立候補したこの選挙で、ポロシェンコは第一回目の投票で過半数を獲得し、当選が確定しました。これはウクライナの政治状況に一定の安定性をもたらし、新政権の早期成立を可能にしました。
「主権を守りつつロシアとの対話」親欧米派の大統領のバランス外交
ポロシェンコは親欧米派として知られており、ロシアとの関係についてはウクライナの「主権と領土の一体性」を尊重する立場を明確にしました。さらに、彼はロシアによるクリミアの占領を認めないという強い姿勢を示しています。
しかし、同時にポロシェンコは現実的な視点も持っています。ウクライナがロシアに依存している天然ガス供給という実情を考慮して、ロシアとの妥協点を見つける必要があるとの認識を示しました。
これは、ウクライナがロシアとの関係を完全に断ち切るわけではないということを示しています。ポロシェンコはロシアのプーチン大統領との会談を「確実」とし、これはロシアとの対話を通じて、ウクライナの安定を求めていることを示唆しています。
大統領選挙での「クリミア」「東部」の過激な選挙妨害による影響
ウクライナの2014年の大統領選挙においては、クリミアとセバストポリ市は、その時点でロシアに編入が事実上決定されていたため投票に参加していませんでした。また、ウクライナ東部のドネツクとルガンスクの両州では、親ロシア派による選挙妨害が報告されました。これにより、投票所が正常に開設されたのは34の選挙区域のうちわずか9つに留まったとされています。
この選挙妨害行為には、ドネツク市での投票所への武装勢力による襲撃や、監視員や記者団が滞在していたホテルの占拠などが含まれていました。また、南部の主要都市オデッサでは、投票所に対して火炎瓶が投げ込まれる事件も報告されています。
ドネツク、ルガンスク両市、及びドネツク州のスラビャンスクでは、これらの選挙妨害行為により、選挙が完全に中断され、投票ができない状況に陥っていました。
「ポロシェンコ大統領の二面性」経済的成功と東部地域の反発
新しくウクライナ大統領に選出されたペトロ・ポロシェンコは、政界での多面的な経験とビジネス界での成功により、非常に独特な人物でした。彼の経歴は彼が豊富な経験を持っていることを示しており、同時にそれは彼が国内外の多くの要素と対話し、多くの場合、対立する要素と対話する能力を持っていることを示しています。
しかし、彼が大富豪であることは、特に親ロシア派が多い東部地域の市民の間で反感を引き起こしました。彼らにとって、ポロシェンコの選出は、財政的に裕福な少数派が親ロシア派を抑圧する手段と見られていたのです。
ポロシェンコは、外交や経済の分野での政治的経験を持つ一方で、そのビジネスの成功により「チョコレート王」という異名を持っています。これは彼が菓子製造・販売事業で巨万の富を築いたことに由来しています。彼は政治家として、親ロシア派と親欧州派の両方の陣営に所属した経験があります。
ポロシェンコは親ロシア派のヤヌコビッチ元大統領が設立した「地域党」の創設メンバーの一人であり、親欧州派のユシチェンコ元大統領の政党「我がウクライナ」にも参加しました。また、2004年に起こったオレンジ革命の主要人物の一人で、ユシチェンコ元大統領は彼の子供の名付け親にもなりました。その後、彼はティモシェンコ元首相の下で外務大臣を務め、さらに短期間ながら経済開発・貿易大臣も務めました。
ドネツク国際空港での激戦!親ロシア派の占拠にウクライナ政府軍が空爆
ウクライナ東部のドネツク国際空港では、大統領選挙の翌日から戦闘が激化しました。親ロシア派の武装集団が5月26日に空港を占拠したため、ウクライナ政府軍は空爆を実施しました。この行動は、空港のターミナルが親ロシア派の支配下に入ったことを受けてのもので、ウクライナ当局は全ての空港の便の運航を停止しました。
限定的な軍事作戦とポロシェンコ大統領の対話志向
ウクライナ政府は親ロシア派に対して退去を最後通告しましたが、それを無視されたため攻撃に踏み切ったのです。この軍事作戦は暫定政権によるもので、それ以前に行われた会見で新大統領のポロシェンコは、「東部での対テロ作戦は効果的かつ短期的に行わなければならない」と述べ、限定的な軍事作戦を容認する姿勢を示していました。
さらに、ポロシェンコは勝利宣言でも親ロシア派との対話の姿勢を示していました。
ウクライナとロシアの緊張が一層深まる
ロシアのラブロフ外相は選挙後、ウクライナ国民の意思を尊重するとして新大統領との直接対話に応じる姿勢を示しました。しかし、一方でウクライナが軍事作戦を展開すれば「最大の過ちになる」と警告しました。
そのような状況の中で、ウクライナ軍は軍事作戦を開始しました。ドネツク市当局者によれば、ドネツク空港周辺の空爆と戦闘によって48人が死亡したとのことです。この戦闘は、4月上旬から反乱行為を続ける親ロシア派を掃討するための政府軍の作戦の中で最大のものとなりました。
現地の親ロシア派武装勢力のリーダーは27日に「ドネツクは破局の寸前にある」と述べ、ロシアに武器供与を含む支援を求める意向を示しました。このような状況は、ウクライナとロシアの間の緊張をさらに高めました。
G7サミットが開幕!ウクライナ情勢が議題の中心となる
6月4日、G7がベルギーの首都ブリュッセルで開始されました。元々はロシアのソチでG8として開催される予定でしたが、ロシアがウクライナ南部のクリミアを併合したことに抗議し、ロシアを除外して開催することになりました。7カ国だけで行われたサミットの初日は、2時間40分のうち大半がウクライナ情勢についての討議に費やされました。
日本の北方領土問題とロシア制裁、中国への厳しい姿勢に注目
日本では、北方領土問題の交渉が続いており、ロシアとの関係を悪化させたくないという考えが存在します。そのため、安倍首相はG7会合で、ロシアへの制裁の方向性については同意しつつも、「ウクライナに対してロシアか西側かの選択を迫るべきではない」と述べ、ロシアの過度な孤立化が国際社会の不安定化につながるとの考えを示しました。
中国に対しては、安倍首相は厳しい姿勢で議論を主導しました。EU諸国は基本的にウクライナの状態が悪化する場合、ロシアに対する追加的な措置を検討する立場を持っています。しかし、ロシアと経済的に依存関係にある点から、各国の対応にはばらつきが見られます。
オバマのメッセージとプーチンの皮肉!サミット後の発言が注目を集める
一方で、オバマはサミット終了後の記者会見で「プーチン・ロシア大統領は国際法の道に戻ってくるチャンスだ」と強調し、「(制裁で)停滞していたロシアはより弱体化した」と指摘しました。しかし、プーチン氏は自分が除外されて開かれたサミットについて記者団に感想を聞かれると、「『どうぞ、よい食事を』と言いたい」と強調しました。
ノルマンディー上陸作戦70周年の節目に緊張緩和の道筋
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのペトロ・ポロシェンコ次期大統領が、2023年6月6日にフランスで行われた短時間の会談にて、両国間の緊張緩和に向けた措置について話し合いました。
プーチンとポロシェンコがウクライナ東部の戦闘停止に合意
この日は、第二次世界大戦の転機となった「ノルマンディー上陸作戦」から70年目の記念日でした。これにはロシアのプーチン大統領、米国のオバマ大統領、ウクライナのポロシェンコ次期大統領ら18カ国の首脳と3000人の退役軍人が出席しました。
式典の合間に、プーチン大統領はメルケルドイツ首相、キャメロン英首相、およびオランドフランス大統領と個別に会談しました。これらは、クリミアのロシア編入以降初めての西側諸国との会談でした。
プーチン大統領とポロシェンコ次期大統領は、対立解消に向けた協議のために15分程度会談し、この会談は数週間にわたる裏取引の調整を経て、オランドフランス大統領とメルケルドイツ首相の仲介によって実現しました。
フランス大統領府によれば、プーチンとポロシェンコは互いに握手を交わし、ウクライナ東部での政府軍と親ロシア派による戦闘停止に関する協議を数日以内に開始することで合意しました。
ロシア政府の報道官は、「ウクライナ南東部における流血の事態、および双方の戦闘を即時停止するよう」求めたと発表し、「平和的な政治解決しか方法はないとの認識が確認された」と述べました。
米ロ首脳の9ヶ月ぶりの対話!オバマがプーチンに制裁方針を伝える
この日はオバマとプーチンも約15分間対話しており、ウクライナ問題について非公式に協議しました。この米ロ首脳の接触は昨年9月以来約9ヶ月ぶりで、ウクライナ危機後は初めてでした。ブリュッセルでのG7首脳会議では、オバマは「ロシアの挑発が続けば、G7の各国はロシアに追加制裁を科す」と述べており、この方針をプーチンに伝えたと考えられます。
ポロシェンコ大統領が停戦案を提示!東部の戦闘終結を目指す
ウクライナのポロシェンコ大統領は、6月18日に、東部ウクライナでの戦闘を終結させるため、一方的な停戦を宣言する和平案を提示しました。この停戦計画では、重大な犯罪を犯していない者を恩赦の対象とし、武器を捨ててウクライナを出国する者には退路を確保します。また、武装集団に対しては人質の解放と占拠している建物の返還を求め、ウクライナとロシアの国境封鎖と地方分権のための憲法改正も提案しています。
停戦呼びかけにロシアから批判の声!米国は協力の必要性を指摘
しかし、この提案に対し、ロシアのラブロフ外相は、「ロシア系住民に対して国から出ていけというのであれば、民族浄化に近い」として批判しました。ポロシェンコ大統領は、ウクライナ政府軍は攻撃された場合のみ応戦し、親ロシア派勢力に対しては、停戦が終了する6月27日までに武器を捨てるよう促しました。
米国からは、国務省のサキ報道官がポロシェンコ大統領の停戦案を歓迎しましたが、「この計画には当然ながら(ロシア側の)パートナーが必要だ」と指摘しました。
ポロシェンコ大統領の停戦提案にロシアの反応が変化
ウクライナのポロシェンコ大統領は、2023年6月20日に、ウクライナ東部での政府軍と親ロシア派の間での一時停戦を発表しました。これは6月27日までの1週間にわたって実施され、ポロシェンコ大統領自身が策定した和平計画に正式に着手できるとの見解を示しています。
プーチン大統領の支持と停戦実施の課題
しかし、この停戦に対してロシア政府は批判的で、ポロシェンコ大統領の対話の姿勢が見られず、親ロシア分離派への最後通告と捉えています。ロシア政府は、「ウクライナ大統領の提案が和平と交渉への呼びかけではなく、ウクライナ南東部の民兵組織に対する降伏への最後通告であり、交渉開始への提案という大事な要素が抜け落ちている」と述べました。
その後、6月22日には一変してプーチン大統領は停戦命令について支持する考えを表明しました。プーチン大統領は、「停戦は疑いなく最終的な解決において重要な意味を持つ。停戦をしなければ何も合意することはできない」と述べ、停戦命令を支持しました。しかし、彼は停戦後もウクライナ軍側から攻撃があったと指摘し、全ての戦闘の中止を求めました。これは、停戦が完全に実施されていないとの見解を示していました。
「4者対話」歴史的一歩!ウクライナ東部での停戦合意が実現
6月23日にウクライナ東部の親ロシア派勢力が停戦に同意し、ウクライナ政府、親ロシア派勢力、ロシア政府、およびOSCE(欧州安全保障協力機構)の各代表者が参加した初めての4者対話が開催されました。
ウクライナ東部の親ロシア派勢力は、ウクライナのポロシェンコ大統領の停戦提案を受け入れることを表明しました。これらの動きにより、ロシア軍によるウクライナ侵攻の可能性が減少し、ウクライナ東部の情勢は緊張緩和に向かう兆しが見えてきました。
翌日の24日、ロシアのプーチン大統領は、ロシア軍をウクライナに派遣することを可能にしていたロシア上院の決定を取り消すよう要請しました。さらに、「ウクライナ政府が発表した7日間の停戦では不十分だ」と述べ、停戦期間を延長し、ウクライナ政府と親ロシア派勢力が実質的な対話に入るよう促しました。
また、上院の決定を取り消すよう求めた理由について、プーチン大統領はポロシェンコ大統領が「和平プロセスに向けて重要な一歩を踏み出したからだ」と述べました。
その後、プーチンの要請を受けたロシア上院が25日、軍派遣の決定を撤回しました、これにより、大統領が国外に軍を派遣する法的根拠が失われることとなりました。
和平プラン崩壊!ポロシェンコ大統領が攻撃再開を宣言
ウクライナのポロシェンコ大統領は、東部地域での混乱が続く中で、停戦の期限を6月末まで延長していました。しかし、7月1日未明に期限が過ぎた時点で、親ロシア派が和平プランに従わなかったこと、そして期間中にも戦闘が続いたことから、ポロシェンコ大統領は停戦を延長せず、親ロシア派への攻撃を再開する意向を示しました。「我々は攻撃に転じ、我々の土地を解放する」と大統領は、6月30日から7月1日にかけての夜の国民への演説で述べました。
しかし、ポロシェンコ大統領は同時に、停戦に先立って発表した平和に向けてのロードマップが依然として有効であることを強調しました。
これは、プーチン大統領が停戦の継続を条件に、ウクライナが長らく批判してきたロシアからウクライナへの違法な武器流入を防ぐため、ロシア-ウクライナ国境のロシア側でのモニタリングを目的にOSCEとウクライナ政府の代表の常駐を許可するとの提案を行い、独仏両政府から支持を受けて、これを文書で発表した直後のことでした。
プーチン大統領の警告!ウクライナ停戦放棄で紛争激化の責任はポロシェンコ?
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのポロシェンコ大統領が停戦体制の継続を放棄したことに怒りを露わにしました。「停戦体制継続を放棄したウクライナのポロシェンコ大統領は、国の南部・東部での紛争激化に対する責任を自ら負った」と述べ、ロシアは国際法の枠内でウクライナと世界中のロシア語系市民の利益を擁護するだろうと警告しました。
また、プーチン大統領は「西側が、この地球を『世界兵舎』に変えようと、他の国々に自分達の原則を押し付けるのを止めるよう望む」と発言し、ロシアは対外政策において対決ではなく、協力と歩み寄りを通じて問題解決を模索する立場に堅く立脚すると述べました。
プーチン大統領は、ポロシェンコ大統領が停戦を放棄した背景には米国の思惑があると考え、そのメッセージを米国に向けて発信したのです。
【ウクライナ危機(12)】衝撃の航空史上最悪の事件!マレーシア航空17便撃墜の真実