「ハンガー・ゲーム」と現実の社会運動のつながり ── 映画で登場する三本指のハンドサインが抗議の象徴になった理由とは?

ハリウッド映画「ハンガー・ゲーム」シリーズで描かれる、民衆が政府に対する抵抗を象徴する3本指のハンドサインが、現実の社会運動でも使用されるようになっています。タイや香港、最近ではミャンマーでもこのサインが広まり、民主主義や自由を求める市民たちの連帯を示しています。

しかし、これらの地域では政府による弾圧が続いており、人々が命をかけて抗議を続ける中、ハリウッドの関係者たちからは心配の声が上がっています。この記事では、「ハンガー・ゲーム」シリーズの背景や、3本指サインが社会運動に与える影響について解説しています。

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 全米の若者から熱狂的に支持されたスーザン・コリンズの同名ベストセラー・シリーズの映画化第1弾にして、全米で空前の大ヒットを記録したティーンズ・サバイバル・アクション。はるか未来の独裁国家を舞台に、テレビ中継の下で最後の一人になるまで殺し合いを繰り広げる戦慄のサバイバル・ゲームに、妹の身代わりとなって参加したヒロインの過酷な運命をスリリングに描く。主演は「ウィンターズ・ボーン」のジェニファー・ローレンス、共演にジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース。監督は「シービスケット」のゲイリー・ロス。(「allcinema」データベースより)

Three Finger Salute

抵抗の「三本指のハンドサイン」

The Thaiger/YouTube

「三本指のハンドサイン」は、抵抗や反抗のシンボルとして使用されることがあります。このハンドサインは、親指、人差し指、および中指を立て、残りの指を握ることで形成されます。

特に、2014年のタイのクーデター後、タイの抗議者がこのシンボルを使用し、抵抗の象徴として広く認識されるようになりました。また、2019年に始まった香港の抗議運動でも、このハンドサインが抵抗の象徴として使用されました。

元々は『ハンガーゲーム』で登場した“別れのハンドサイン”

このサインは、「ハンガー・ゲーム」シリーズで、三本指のハンドサインはもともとカットニス・エヴァディーン(ジェニファー・ローレンス)の出身地である第12地区固有のもので、感謝や敬意、愛する人への別れを示す目的で使用されていました。

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大ヒット映画「ハンガー・ゲーム」

「ハンガー・ゲーム」シリーズは、スーザン・コリンズの同名のベストセラー小説を原作として映画化され、世界的な成功を収めました。原作は52の言語に翻訳され、世界中で1億部以上が売れるほどの人気を博しました。

映画版も大変なヒットとなり、全世界で累計興収は3000億円以上を記録しました。

主人公カットニス・エヴァディーンを演じたジェニファー・ローレンスは、シリーズの人気により、ギネス世界記録で「最も興行成績を上げたアクション映画のヒロイン」として認定されました。

その成功は、ローレンス自身のキャリアにも大きな影響を与え、彼女は米経済誌フォーブスが発表した「2014年最も興行収入を稼いだ俳優」ランキングで1位を獲得し、14億ドル(約1689億円)を記録しました。

Movieclips Trailers/YouTube
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独裁国家を舞台に反乱と革命のストーリー

「ハンガー・ゲーム」シリーズは、文明崩壊後の独裁国家パネムを舞台にした物語で、シリーズの進行によって異なるテーマが描かれています。

シリーズ1作目「ハンガー・ゲーム」と2作目「ハンガー・ゲーム2」では、12歳から18歳までの男女が、最後の一人が残るまで互いに戦うという残酷な競技「ハンガー・ゲーム」が主題となっています。この競技は、国家が支配層による支配を維持し、下層民に恐怖を与えるために行われています。

シリーズの完結編は、前編「ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス」と後編「ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション」からなり、主人公カットニス・エヴァディーン(ジェニファー・ローレンス)と仲間たちが、独裁政権に対する反乱と革命をリードする物語が描かれています。カットニスは、反乱軍のシンボル「マネシカケス」として立ち上がり、民衆を勇気づけ、統一する役割を果たします。

このシリーズを通じて、権力に対する抵抗、個人の勇気、友情、愛、そして自由を求める闘いが描かれており、多くの観客に感動を与えています。

KADOKAWA映画/YouTube

「革命のハンドサイン」物語が進むにつれ意味合いが変化

劇中、最年少プレイヤーの第11地区の少女ルーを弔った際に、カットニスがこの三本指のサインをカメラに向かって行ったことから、徐々に革命のシンボルとして広まりました。シリーズ後半では、このハンドサインが民衆の心を統一し、政府に対する革命の象徴として描かれています。

「ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス」では、民衆の心を一つにするための革命シンボル「マネシカケス」としてカットニスが奮闘します。この物語の中で、民衆はカットニスに勇気づけられ、政府に対する抵抗運動を展開していきます。

政府は反乱を鎮圧しようとして爆撃を仕掛けますが、それによって犠牲となった人々が、革命のサインとして3本指を掲げるシーンが描かれています。このシーンは、革命の炎がパネム国内で燃え広がっていく象徴的な瞬間であり、カットニスやその仲間たちとともに、国家に対する反乱の勢いが加速していくことを示しています。

Movieclips/YouTube
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そして今!それは現実の世界の「抵抗のサイン」

現実の世界でも、映画の影響を受けてこの三本指のハンドサインが抵抗のシンボルとして広く認識されるようになりました。タイや香港の抗議運動で見られるように、今ではこのハンドサインは映画から現実世界へと影響を与え、抵抗の象徴として使用されています。

はじまりは2014年「タイの軍事クーデター」

2014年にタイで起こったクーデターに抗議する若者たちが、ハンガー・ゲームの3本指のハンドサインをデモで使い始めたことが、現実の抵抗のシンボルとしての始まりでした。

プラユット陸軍司令官(現首相)が主導したクーデターに対する抗議行動の中で、このサインは映画と同じく独裁に対する抵抗の意味で使用されました。

SNSを通じて急速に拡散し、タイのデモ隊は3本指のサインにさまざまな意味を与えました。一部はフランス革命の理念「自由、平等、博愛」を象徴するとし、他の人々は「選挙、民主主義、自由」と解釈しました。

最初にこのサインを使ったとされるタイの運動家シラウィズ・セリティワットは、ハンガー・ゲームの映画で使われた反権威主義的なサインが、当時の若者の抗議者たちの共感を呼んだと説明しました。また、彼は「当時の反クーデターの状況が、映画『ハンガー・ゲーム』の中で人々が(独裁者)スノウ大統領に向かって3本の指を立てるシーンに似ていると感じたことも理由の一つだった」と述べています。

Washington Post/YouTube
このハンドサインを掲げた人は逮捕

2014年11月、『ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス』の公開に合わせ、民主主義を支持する学生たちがタイの映画館で3本指のサインを掲げる抗議行動を行いました。しかし、彼らは覆面警察に連行され、拘束される事態となりました。

この事件を受けて、タイの一部の映画館は政治的な意図を疑われたくないという理由から、『ハンガー・ゲーム』の新作の公開を中止しました。それでも、学生たちは立ち上がり、逮捕されることを覚悟して多くの抗議者が映画館に足を運びました。

この出来事は、ハンガー・ゲームの3本指サインが現実の抵抗運動に影響を与え、シンボルとして使われるようになったことを象徴しています。

The Telegraph/YouTube

「雨傘運動(香港)」運動の象徴的なハンドサイン!

2014年には、香港で民主化を求める若者たちによる抗議行動「雨傘運動」が起こりました。この運動では、ハンガー・ゲームの3本指サインが象徴的なサインとして用いられました。抗議者たちは、このサインを使って自由と民主主義を求めるメッセージを伝えるとともに、連帯を示すために使用しました。

新政党“香港衆志(デモシスト、Demosisto)”のポスターが「ハンガーゲーム」

2016年、雨傘運動の学生リーダーたちは新政党「香港衆志(デモシスト、Demosisto)」を結成しました。この政党は、香港の将来に関する住民投票を実施し、独立の可能性を含めた議論を求めました。

創立者の一人である黄さんは「これは私たちの重要な政策だ。もし私たちが自決権を求めて戦わなければ、私たちの未来は中国共産党が決めてしまうだろう」と語っています。

新党のポスターは、『ハンガー・ゲーム』のポスターを模したデザインで、共同創立者のアグネス・チョウさんがヒロインに扮し、「人民が町を包囲するだろう」とのスローガンが記されていました。このポスターを通じて、ハンガー・ゲームの反権威的なメッセージが香港の政治運動に取り入れられ、抵抗のシンボルとして機能していたことがわかります。

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「ミルクティー同盟」タイの学生たちが各国の民主化運動家と連帯

タイの学生たちは、香港や台湾の民主化運動家とともに、「ミルクティー同盟」を結成しました。この名前は、それぞれの国や地域でミルクティーを飲む習慣があることから来ています。

ミルクティー同盟は、民主主義と自由の追求を理念としています。

世界各地で、民主主義と自由を追求するミルクティー同盟への応援活動が行われており、台湾在住のタイ人たちは台北駅に集まり、タイの民主運動への支持を示しました。

3本指サインの普及は、アジア地域の若者たちが独裁体制に反旗をひるがえし、互いの運動を支援する姿を示しています。香港の民主化デモは、軍が後ろ盾となっているエスタブリッシュメント(支配層)に抵抗するタイの民主運動の手本となりました。

インターネット上では「#ミルクティー同盟」のハッシュタグが拡散。台湾からミャンマーまでアジアの民主活動家が互いに結束を示す象徴となりました。

DW News/YouTube

「ミャンマー国軍のクーデター」三本指を掲げ抵抗の意思を示す!

2021年2月1日にミャンマーで国軍がクーデターが発生し、軍が全権を掌握しました。軍は前年に行われた総選挙での与党NLD(国民民主連盟)による不正を主張し、アウンサンスーチー国家顧問らを拘束しました。

Global News/YouTube
連日の抗議活動

ミャンマー国内では市民による抗議活動が連日発生し、ミャンマー全土に抗議の波が広がっています。

治安維持にあたる警察官の中にもデモに参加する者がおり、約40人の警察官が「我々は市民の警察官だ」と書いた横断幕を持ち、3本指を立てて行進する動画が拡散されました。

職場を放棄する「不服従運動」に呼応した公務員らも3本指のポーズで主張しています。

3本指サインは、アジア地域での民主主義と自由の追求を象徴し、ミャンマーの抗議活動でもその意義が強調されています。これにより、ミャンマーの市民や警察官たちも、自由と民主主義を求める声を上げていることが伝わってきます。

The Telegraph/YouTube
医療従事者が3本指のサインをかかげた

英国の新聞『ガーディアン』によると、ミャンマーで3本指サインは最初に医療従事者によって使用されました。その後、若者たちの抗議者たちもこのサインを使用し始めたということです。

ひどすぎる……ミャンマー国軍の国民に対する残酷行為

ミャンマー国軍は、抗議する市民に対して容赦なく銃口を向け続けており、国軍記念日にも弾圧がエスカレートし、100人を超える犠牲者が出ました。SNS上では、治安部隊の残虐な行為を撮影した映像が拡散され、国際社会から厳しい非難の声が上がっています。

タイに避難する国民

ミャンマーの東部カイン(カレン)州では、国軍による市民の弾圧が続く中、隣接するタイへの越境する住民が相次いでいます。これは、州内にある少数民族武装勢力であるカレン民族同盟(KNU)の拠点が国軍に空爆されたためです。

この状況を受けて、国際社会はミャンマー国軍の行為に対して懸念を示し、市民の安全や民主主義の回復を求めています。

ミルクティー同盟にミャンマーも参加!

ミャンマーのSNS上では、クーデター後に「MilkTeaAlliance」(ミルクティー同盟)というキーワードが広がりました。ミャンマーもこの連携に加わり、香港やタイのSNS利用者からデモを支持する声が上がっています。

米外交誌ディプロマットによると、「同盟結成」によって連携が生まれたことで、「抗議者は戦術を共有し、お互いの主張を拡大しやすくなった」と分析されています。

Shot by Ethan/YouTube

国連でミャンマー国連大使が三本指のハンドサイン!

ミャンマーのチョーモートゥン国連大使は、国連総会での演説において、国軍によるクーデターを終結させるために国際社会に「あらゆる手段」をとるよう訴えました。彼は感情を込めた12分半の演説を行い、最後に「反独裁」の象徴であり、ミャンマーのデモで使われている「3本指」のポーズをとりました。これによって、彼は抗議の意志を明確に示しました。議場では、各国代表から長い拍手が彼を称える形で響きました。

CNA/YouTube
ミャンマー軍は大使を反逆罪で訴追

国軍側は、チョーモートゥン大使が「国を裏切った」として、彼の解任を発表しました。しかし、後任とされたティンマウンナイン次席大使は、代理大使の任命を拒否し、辞任しました。チョーモートゥン氏は現在も国連大使に留まっており、国軍側は彼を反逆罪で訴追しています。国軍側は、外国のミャンマー大使館に通知を出し、同氏と「一切関わるな」と指示しているとされています。

「私は市民の側にいる」

チョーモートゥン氏は、国軍側による訴追について、「感謝している」と述べました。彼は、「ミャンマーには独裁的な軍と罪なき市民という対立がある。軍が私を訴追したということは、私が軍側ではなく、市民の側にいることを証明してくれたようなものだ。誇りに思っている」と語りました。この発言は、彼が市民の側に立ち続ける決意を示しているとともに、国軍側の圧力に屈しない強い意志を表しています。

日本でも三本指で抗議運動!「ミャンマーに公正を」

日本でも3本指のサインはかかげられた。

2021年、関西周辺で暮らすミャンマー人らが大阪市中央区の大阪城公園でクーデターに抗議する集会を開きました。関係者によると、約400人が集まり、拘束されたアウン・サン・スー・チー氏の解放や日本政府の支援を求める声を上げ、「ミャンマーに公正を」と訴えました。

参加者は、拘束されたアウン・サン・スー・チー氏の肖像画が描かれたビラや、国民民主連盟(NLD)を象徴する赤のハチマキや服を身につけました。さらに、人権、平等、団結を意味する3本指を立ててシュプレヒコールをし、早期解放を訴えました。

このような集会は、ミャンマー大使館前、外務省前、東京の国連大学前でも開かれた。

朝日新聞社/YouTube

三本指のサインは世界的な抵抗のハンドサインに!

タイでは、民政移管が行われたものの、軍の影響力が強く残る政体に対する不満が高まり、2020年には市民らによるデモが頻発し、非常事態宣言が発令される事態となりました。現在も国民の抵抗は続いています。

香港では、中国政府が香港国家安全維持法を土台にして民主勢力を根絶やしにしようとする弾圧が苛烈さを増しています。これに対して、街頭で決然と、あるいは心中で、無数の三本指のサインが掲げられている。

South China Morning Post/YouTube

「ハンガーゲーム」を製作したハリウッド関係者が語る

ハリウッドの関係者からは、海外の民主化運動に『ハンガー・ゲーム』の3本指サインが使われることに興奮を覚えつつ、事態の成り行きを案じる声があります。フランシス・ローレンス監督は2014年のインタビューで、映画の中で起きたことが、人々にとって自由や抗議のシンボルになることに興奮を感じる一方で、自分の映画と同じことをした人が逮捕されることに心が痛むと語っています。

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 全米の若者から熱狂的に支持されたスーザン・コリンズの同名ベストセラー・シリーズの映画化第1弾にして、全米で空前の大ヒットを記録したティーンズ・サバイバル・アクション。はるか未来の独裁国家を舞台に、テレビ中継の下で最後の一人になるまで殺し合いを繰り広げる戦慄のサバイバル・ゲームに、妹の身代わりとなって参加したヒロインの過酷な運命をスリリングに描く。主演は「ウィンターズ・ボーン」のジェニファー・ローレンス、共演にジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース。監督は「シービスケット」のゲイリー・ロス。(「allcinema」データベースより)

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