【Qアノン陰謀論(3)】パンデミック禍のワクチンデマとビル・ゲイツ陰謀論

新型コロナウイルスのパンデミックの中、根拠のない主張が拡散され、公衆の安全と公衆衛生が脅かされる現象が急増しました。特にQアノンや5G関連、ビル・ゲイツに関する陰謀論などは、多くの人々に影響を与えました。

このような根拠のない主張は、科学的な研究や信頼できる情報源に基づく情報と比べて、公衆衛生に対するリスクを高める可能性があります。

そのため、WHOや科学界の専門家が提供する情報の重要性がますます高まっています。

【Qアノン陰謀論(2)】「エプスタイン事件」の真実!陰謀論を超える現実とQアノン信者の急増
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2020年1月、中国の武漢にはじまった新型コロナウイルスの世界的なパンデミック。未知のウイルスに対する恐怖、医療崩壊の危機、繰り返される緊急事態宣言…。新型コロナウイルスによって、私たちの生活は一変した。 そんな中で問題になったのが、新型コロナウイルス、そして新型コロナワクチンにまつわるデマ・陰謀論である。 「新型コロナウイルスはそもそも存在していない」「PCR検査は信用できない」「新型コロナワクチンを接種すると、磁石人間になる」「新型コロナはビル・ゲイツの陰謀」など、怪しい言説が〝医師〟や〝自称専門家〟による書籍などを通じて拡散。まことしやかに語られるようになったのである。 はたしてそれらの言説は信じられるのか。間違えているとしたら、なにが違うのか。 これまで数々の怪しい情報の真相を暴いてきた「ASIOS」(「謎解き超常現象」シリーズ)が、桑満おさむ医師、名取宏医師、峰宗太郎医師、宮原篤医師、森戸やすみ医師、安川康介医師とともに、新型コロナとワクチンのデマ・陰謀論を検証。信じるに値する「本当のこと」を明らかにする。(「Books」出版書誌データベースより)

QAnon conspiracy theories about the coronavirus pandemic

Qアノンとデマ!パンデミック時代の不安と陰謀論の影響

BBC News/YouTube

2020年に始まったコロナパンデミックは、世界中の人々に大きな影響を与えました。しかし、この混乱の時期には真実とはかけ離れたデマや陰謀論も広まり、さまざまな議論を引き起こしました。

そして2021年、Qアノンという極右陰謀論グループはアメリカ国内だけでなく、世界中にその影響力を拡大しました。

このグループは新型コロナウイルスを「偽りのパンデミック」であり、「新世界秩序」の一部として主張しました。

これらの主張は証拠に基づいていないにもかかわらず、感染症の不安と政治的な分裂が混ざり合った結果、多くの人々がこれらの主張を信じるようになりました。

不安の高まりとデマの連鎖

不安とは、自分が危険に晒されているかもしれないと感じながらも、はっきりとした証拠が不足している状況で生じる感情です。

一方で、明確な脅威がある場合、感情は恐れに変わり、行動は素早く単純になります。

コロナパンデミックのような状況では、情報が日々変わり、未知のウイルスに対する理解が進行中であるため、多くの人が不安を感じています。この不安が、デマや誤情報に対して耳を傾ける土壌を作っているのです。

QAnonの急増と不安の関係

新型コロナウイルスの流行とともに、QAnon関連コンテンツのネット上での増加が報告されています。

イギリスのシンクタンクの報告によれば、フェイスブック上でのQAnonコンテンツは175%、Twitter上では約63%増加したとされています。

この増加は、人々の不安が高まり、彼らが「真実」を探し求める傾向が高まっていることと関連していると考えられます。

論理の飛躍と連鎖反応

QAnonの主張は、単純なものから急速に複雑かつ極端なものへと発展していきました。

例えば、「マスクを着用しない個人の権利を守る」から「政府の外出制限は個人の権利を奪い、全体主義への道を開く」と進み、「ワクチンは悪であり、世界はジョージ・ソロスやユダヤの陰謀によって支配されている」とまで拡大し、最終的には、「悪魔崇拝者と小児性愛者が支配する深層国家(ディープステート)と闘え」という、極めて極端な主張になっていきました。

Qアノンの信者が「医師」「メディア」などを攻撃

ソーシャルメディアは、情報の拡散と共有のための強力なプラットフォームであると同時に、フェイクや陰謀論の拡散の場でもあります。

Qアノンの信者たちは、これを利用してワクチンに関するフェイクを広め、メディアや公的機関を攻撃しています。

彼らは、ワクチンの危険性を主張する動画や画像を共有し、人々の恐怖心を煽る行動を行いました。

さらに、医師個人に対して罵声を浴びせることで、医師の社会的信認を下げようとしました。彼らは製薬会社の利権や工作員の存在を主張し、医師たちは金銭的な動機によってワクチンを推奨していると非難しました。

日本においても、このような情報操作の影響が見られます。

ネット上での「電凸」と呼ばれる行為が増え、自治体が若者へのワクチン接種を決定すると、抗議の電話が自治体に殺到しました。

これらの電話には、「ワクチンが危険だ」と主張するだけでなく、「人殺し」と罵る声や「殺す」という脅迫まで含まれていました。

こうした行為を促す一部の個人たちは、SNSを通じてつながり、電話番号を共有して「行動しましょう」と呼びかける行動を行いました。

これらの人々は、ネット上で拡散される反ワクチン思想の誤情報に接触し、それを真実と信じて行動しています。

ヨーロッパでのQアノンの広がり

Qアノンの陰謀論はヨーロッパでも広まりを見せ、公衆衛生と社会の安定に対する重大な脅威となっています。

ヨーロッパ版Qアノンの信者たちは、新型ウイルスのパンデミックが世界のエリートたちによるワクチン接種計画の一環であると主張しています。

彼らはビル・ゲイツなどの富裕層や権力者が人々にワクチンを強制するためにパンデミックを利用していると信じています。

これらの信念は、誤情報や陰謀論が混乱と不信を生み、科学的なエビデンスや公衆衛生専門家の助言に対する信頼を損なう可能性があることを示しています。

特に、パンデミックの真っただ中で、これらの誤情報は、ワクチン接種の普及を阻害し、感染症の防止策に対する抵抗を引き起こす可能性があります。

また、Qアノンの支持者の中には、感染予防策としてのソーシャル・ディスタンシングがCIAの拷問手法であると主張する者もいます。

彼らはこれらの主張を裏付ける証拠や科学的な根拠を持っていませんが、それにもかかわらず信じ込んでいます。

ソーシャルメディアの規制とQアノンの移動

大手ソーシャルメディアプラットフォームがQアノンのアカウントを制限・禁止した結果、その信者たちは閉鎖的なフォーラムや地域型の陰謀グループに移行しました。

これらの場所では、コミュニケーションがより制限され、一般的な監視や規制から離れることが可能になります。

これにより、信者たちが自己の信念を強化し、同様の考えを持つ人々との交流を増やす機会を得ることができました。

Qアノンの思想と欧州の現状

これらのフォーラムやグループでは、欧州での移民の増加、新型ウイルスによる経済的恐慌、個人の自由の損失など、関心の高い社会的問題に対して、Qアノン的な解釈が加えられました。

彼らはこれらの問題をエリート層や政府の陰謀と結びつけ、権力者が国民をコントロールするためにこれらの問題を利用していると主張しました。

Qアノンと英国の抗議行動

イギリスでは、「子供たちを救おう」をスローガンに掲げたQAnonに影響を受けた抗議活動が展開されました。

これには、女性や右翼思想を持たない一般の人々も多数参加し、QAnonの影響力がどのように社会の広範な層に及んでいるかを示しています。

Qアノンとドイツ

一方、欧州でQAnonの影響が最も大きいのはドイツで、ここでは推定20万人の支持者が存在するとされています。

これは世界で最も大きなQAnonのグループであり、ベルリンでの大規模な反コロナデモにおいてもその存在感を示しました。

彼らは、YouTubeやFacebook、Telegramといったソーシャルメディアプラットフォームを通じて迅速に支持者を増やしていきました。

ドイツ政府の対応と懸念

ドイツ政府は、QAnonの語る「ディープステート」との戦いやドナルド・トランプが悪魔崇拝者や小児性愛者によって組織されたとする陰謀論が国内で広まることに困惑しました。

これらの陰謀論が広まることで、社会に不安や混乱が生じる恐れがあるからです。

具体的には、これらの誤情報やデマが広まることで、国民の間に深刻な対立や分断が生まれ、治安維持や公秩序の維持が困難になる可能性がありました。

VICE News/YouTube

5Gと新型コロナウイルスのデマの広まり

「5Gが新型コロナウイルスの発生原因である」という主張は、QAnonの信者の間で拡散されています。

インドでは、このようなデマが急速に広まり、結果としてインド政府の通信IT省が緊急声明を発表する事態に至りました。

具体的には、「5G通信のテストで出した電磁波がインド型変異株の感染爆発を引き起こした」というデマが広まったのです。

しかし、事実としては、インドではまだ5Gのテストすら行われていませんでした。

Qアノンの5Gと新型コロナウイルスに関する主張

さらに、QAnonの信者の中には、「COVID-19の症状は5Gに暴露した時の状態に類似している」や「イタリアでの流行は5Gの展開と関連している」と主張する人々も存在します。

しかしこのような主張には、科学的な根拠や信頼性のある証拠は存在していません。

BBC/YouTube
5Gと新型コロナウイルスの噂の広まり

「5Gが新型コロナウイルス感染の原因である」というデマは、FacebookやNextdoorなどのソーシャルネットワーキングサービスを通じて急速に広まりました。

このデマは、5Gが初めて導入された中国の武漢で新型コロナウイルスが発生したという事実を元に、他の都市でも5Gの導入が新型コロナウイルス感染拡大の原因であると誤解されていました。

健康被害に対する懸念

このような5Gと新型コロナウイルスの関連づけは、まったく根拠のない話であり、突拍子もないものと思われるかもしれません。通常ならば笑い話として片付けられるべきです。

しかし、5Gが及ぼす健康被害に対する懸念が以前から存在していたため、武漢で新型コロナウイルス感染が広まったタイミングで、人々がこれを真に受ける傾向が増えたようです。

5Gと新型コロナウイルス陰謀論のバリエーション

新型コロナウイルスと5Gの関係についての陰謀論は、実際にはさまざまなバリエーションが存在しています。

  • 「5Gネットワークが放射線を生み出し、それが新型コロナウイルスのトリガーになる」
  • 「COVID-19の感染爆発が5G電波塔の設置された場所で特に顕著に起こっている」
  • 「5Gと新型コロナウイルスは全人類の人口を削減するための計画の一部である」

これ例外にも様々な荒唐無稽の陰謀論が拡散されました。

陰謀論の拡散と誤解

これらの陰謀論は世界的に広まっており、日本でも一部の人々や政治家が関連する主張を行っていることが報じられています。

例えば、自民党県連の重鎮である県議会議長が「ワクチンを打てば5年で死ぬ」と主張しているという報道がありました。

しかし、これらの陰謀論は科学的に根拠のない主張であり、誤解を招くものです。

5Gが免疫系の働きを抑制することによって新型コロナウイルスのパンデミックを助長するという主張には、証拠も理論的な根拠も存在しません。

科学的な研究や専門家の評価によれば、5Gは免疫系に直接的な影響を与えることはありません。

5G関連の攻撃事件

新型コロナウイルスと5Gの関連を示す陰謀論が広がる中、一部の地域では5G関連の攻撃事件も発生しています。これらの事件は主に、5Gの電波による健康被害への懸念が背後にあるとされています。

イギリスでの攻撃事件

イギリスでは、2020年3月30日以降、携帯電話の基地局アンテナに対する放火事件が77件発生し、携帯電話のインフラに関与する作業員が嫌がらせを受けた事件も180件報告されています。

また、放火未遂や他の方法によるネットワークへの妨害行為も13件報告されています。これらの事件と新型コロナウイルスとの関係は明確ではありませんが、5Gと健康被害への懸念が動機であるとされています。

オランダでの攻撃事件

オランダでも同様に5G基地局への放火事件が発生しています。これらの事件についても、新型コロナウイルスとの関連は明確ではありません。

フランスでの攻撃事件

フランスでは、カトリック教会の超保守派、カプチン修道会の2人の修道士が5G基地局に放火したとして起訴されました。彼らは5Gの電波による健康被害への懸念を訴え、その表現手段として放火を選択したと主張しています。

南アフリカでの事件

新型コロナウイルスと5Gの関連を示すデマは世界中で広まっており、南アフリカでも同様の問題が見られました。

2021年1月11日には、南アフリカの通信当局が5G技術と新型コロナウイルスを関連付けるデマに対して否定の立場を明確にしました。それにも関わらず、デマの影響は既に深刻でした。

クワズール=ナタール州では、デマの影響により、地元の通信事業者VodacomとMTNが所有する4つの基地局が破壊されました。

これらの事件は5Gと健康被害についての懸念が深まる中で発生しており、5Gと新型コロナウイルスに関する誤った情報や誤解が一部の人々に影響を与えていることを示しています。

ANNnewsCH/YouTube
世界保健機関(WHO)による反論

WHO(世界保健機関)は、「5G陰謀説」を含む新型コロナウイルスに関するデマについて明確な立場を取っています。WHOは、ウイルスが無線または携帯電話のネットワークを介して広まることはないと明言しています。

また、新型コロナウイルスは5G通信網が存在しない多くの国でも広範囲に拡散しているという事実が、5Gと新型コロナウイルス感染との間に関連性がないことを証明しています。

これらの主張は、科学的な研究や専門家の評価に基づいているため、信頼性が高いといえます。一方、フェイクやデマは根拠のないものであり、科学的な検証を受けていません。

したがって、WHOの主張を信じ、科学的な根拠に基づく情報のみを信用することが重要です。

デマ動画の事実検証と真相

しかし、WHOの発表後も、新型コロナウイルスと5Gの関連を主張するデマは広まり続けました。

デマは、疑惑を煽る形で広まることが多く、誤った情報がさまざまなメディアを通じて素早く拡散するためです。その一例として、「5G機器に”COV-19″の文字が刻まれている」と主張する動画が出回った事例があります。

しかし、事実検証サイトのSnopesによると、この動画は完全な虚偽であることが確認されました。

動画にはマスクとヘルメットを着用した男性が登場し、彼が手に持った回路基板に「COV-19」という文字が刻まれていると主張しています。

しかし、その回路基板は実際には古いテレビのセットトップボックスのもので、「COV-19」の文字も偽装されていたのです。

この回路基板の製造元である台湾のHannstar社も、自社が5G機器を製造していないことを明言し、動画の主張を否定しました。

このような例は、情報が簡単に拡散されるインターネット時代において、どれだけ注意深く情報を検証する必要があるかを示しています。

フェイクやデマは、科学的根拠や信頼性のある証拠なしに拡散されることが多く、これが社会に混乱や不安をもたらす原因となります。

そのため、情報の信憑性を確認し、信頼性のあるソースからのみ情報を収集することが重要です。

SNSでの陰謀論の拡散と削除

陰謀論は何度削除されても、SNSやYouTube上で次々と新しい投稿や動画がアップロードされ続けるという特徴があります。

この中には、極めて危険な行動を奨励するものも含まれており、例えば5G基地局への襲撃を扇動し、具体的な破壊方法まで紹介する投稿があると報じられています。

これらのフェイクの拡散に対処するため、SNSプラットフォームはユーザーや専門家からの通報を元に該当するグループや投稿を削除するなどの対策を行っています。

しかし、これらの対策が取られても、未だに多くの人々が5G電波塔への攻撃を訴える投稿を続けているとの報告があります。

米国メディアThe Vergeの報道によると、5Gと新型コロナウイルスの陰謀論の拡散はイギリスだけでなくアメリカでも見られます。

さらに、これらの陰謀論の拡散が”ロシアによるデマ拡散キャンペーン”とともに語られることが増えていると報じられています。

ビル・ゲイツとフェイクニュース「真実と誤解」

インターネット上では様々な情報が飛び交い、それに含まれるものには真実だけでなく誤情報やフェイクニュースも多く存在します。

その一例が、ビル・ゲイツと新型コロナウイルスパンデミックに関する誤解です。

フェイクニュースの拡散

YouTube上には、ビル・ゲイツが新型コロナウイルスパンデミックを予知し、さらに利益を得るためにワクチンを作成し、そして世界の人口を削減するためにウイルスを作り出したとする、根拠のない主張が拡散されています。

これらのフェイクは、ゲイツが2015年のTEDトークで行った発言を根拠にしています。ゲイツはその中で、「人類最大のリスクは核戦争ではなく、数百万人の生命を奪う可能性のある大規模な伝染病である」と警告しました。

真実の歪曲

しかし、このフェイクニュースは、ビル・ゲイツの真の主張を理解していない、あるいは意図的に誤解を広めるものです。

ゲイツの発言は、新型コロナウイルスのような大規模な伝染病の可能性を警告し、それに対する備えを促すものでした。

TED/YouTube
ビル・ゲイツと感染症対策「無私の寄与と長期的ビジョン」

感染症対策への関心が高いゲイツは、新たな感染症への備えを訴え続けており、感染症対策に何億ドルもの資金を投じてきました。

これには新しいワクチンをより早く開発する方法を見つけることや、疫病の追跡システムを作ることへの注力も含まれています。

特にエボラ出血熱が大流行したときには、ゲイツはアメリカの疾病予防管理センター(CDC)の幹部と会見し、次の大規模な感染症はさらに感染力と毒性が強くなる可能性があると警告しました。

そして、適切な準備により大災害を防ぐことができると訴えました。これは、医療設備が十分でない最貧国で感染が大きく広がりやすい現状を踏まえ、世界全体の感染症対策にとって重要であるというゲイツの考えから来ています。

ビル・ゲイツの寄付と公衆衛生活動!ワクチンと陰謀論の対照的な物語

ビル・ゲイツは、自身の財団であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を通じて、新型コロナウイルスに対する対策に尽力し、特にワクチンの普及に重点を置いて10年以上にわたり努力を続けています。

この財団の主要な活動の一つは、新型コロナウイルスの新規感染者数の増加が続く発展途上国に対し、世界的ワクチンメーカーであるインドのSerum Institute of Indiaへの1億5000万ドル(約159億円)の寄付を行うことでした。

この目的は、1回あたり3ドル以下の費用で、1億回分のワクチンを貧しい国々に提供することです。これらの活動の目的の一つは、ワクチンを用いて乳幼児の死亡率を下げ、それにより人口増加を抑制することです。

ゲイツ財団は特に、「多死多産」の状態にあるアフリカなどの発展途上国に対する支援を積極的に行っています。

しかし、そのような公衆衛生に対する真摯な取り組みにもかかわらず、ゲイツはコロナウイルスを人為的に広めたとする陰謀論の中心人物にされてしまいました。

これは、ゲイツが感染症によるパンデミックを警告し、それに備えるための資金を投じたゲイツの公的な活動を歪めたもので、事実を覆すものであり、真実を理解することが重要です。

GatesFoundation/YouTube

マイクロチップ陰謀論

コロナウイルスパンデミックとその対策に対する陰謀論の中で最も広まったものの一つは、「ビル・ゲイツが新型コロナウイルスワクチンを通じて人々にマイクロチップを埋め込む計画がある」というものでした。

この陰謀論は、ソーシャルメディアや一部のウェブサイトで急速に広まり、多くの人々がこれを信じるようになりました。

フェイク情報の影響

事実とは全く異なるこのフェイクは、非科学的な主張と誤解を組み合わせたものであり、マイクロチップはゲイツや他のエリートたちが個々の市民を追跡するための手段として利用されると主張しています。

このようなフェイクは、新型コロナウイルスワクチンの受け入れを阻害し、パンデミックの終息を遅らせる可能性がありました。

2021年のある世論調査によれば、アメリカ国民の約20%が、新型コロナウイルスワクチンの接種により自分たちを監視するマイクロチップが埋め込まれると信じていました。

ワクチン追跡陰謀論の拡散と誤解の危険性

この誤解は、各国政府や大企業が新型コロナウイルスを利用して、ワクチン接種を受ける数百万人の人々を追跡する目的があるという主張から来ていました。

オザークス・ヘルスケアのCEOであるトム・ケラーは、「誰も医者の話を聞かず、皆がソーシャルメディアを信じている。

フォロワー数100万人のユーザーが突然、ワクチン忌避の専門家を名乗り始める」と述べ、こうしたフェイクの危険性について指摘しています。

ミズーリ州南部では、実際にこのようなフェイクがワクチン接種率を低く保つ一因となってしまい、新型コロナウイルスのデルタ変異株の急激な感染拡大の中心地となってしまいました。

VICE News/
ワクチンと生殖能力、及びマイクロチップについての偽情報

新型コロナウイルスのワクチンに関する多くのフェイクや陰謀論が存在しますが、その中には「ワクチンが生殖能力に影響を与える」とか、「ワクチンには監視用のマイクロチップが含まれている」といったものも含まれます。

まず、「ワクチンが生殖能力に影響を与える」という主張についてですが、これを裏付ける科学的証拠やデータは存在せず、実際の調査でも、ワクチン接種によって流産が増えたという証拠はありません。

さらに、「ワクチンが卵巣に蓄積して不妊になる」という説は、ラットを用いた実験からも否定されています。

次に、「ワクチンには監視用のマイクロチップが含まれている」という主張についても、これは事実無根です。

まず、現在の技術レベルで、ワクチンの注射針(23ゲージの針で、内腔が0.35ミリ)を通過し、しかも体内で機能を発揮できるようなマイクロチップを量産することは不可能です。

また、ワクチンの内容物はすべて公開されており、そこにはマイクロチップなどの監視デバイスは含まれていません。

「あまりにもバカげた話……」ビル・ゲイツのコメント

ビル・ゲイツは、自身に関する上記のような陰謀論に対して明確に否定の立場を表明しています。ゲイツは「私はいかなる種類のマイクロチップにも関与したことがない」とし、これらの陰謀論を「あまりにもバカげた話や奇妙な話」と呼んでいます。

ゲイツはまた、SNS上で拡散される彼に対する陰謀論の多さに「非常に驚いている」と表明しており、これらの誤情報がワクチンの普及を妨げる可能性に深い懸念を示しています。

さらに、「私はマイクロチップ関連の事案に一切関わりを持たない」と繰り返し強調しています。また、こうした偽情報を公然と否定することが困難であるとも述べています。

その理由として、「こういった非常にくだらない、奇妙な話を打ち消すのは難しい。なぜなら、この話題に言及することが話に信憑性を与えてしまうからだ」と指摘しています。

陰謀論者たちからの理不尽なバッシング

ビル・ゲイツが「ありがとう、医療従事者のみなさん」と書かれたサインを持つ動画をインスタグラムに投稿した際には、その投稿が激しい批判を浴び、多くの陰謀論が投稿されました。

ゲイツに対する陰謀論は様々ですが、その一部は彼が党派色が強い人物であり、人道に対する罪を犯したとするもの、ワクチンや世界保健機関(WHO)に関する陰謀説に彼を関連付けるものなどが含まれます。

これらの陰謀論の中には、彼がバイオテロの容疑でFBIに逮捕されたとするものや、彼がアフリカの人々を毒殺しようとする欧米の陰謀を支持しているとするものもあります。

過去にもゲイツは、2015年のブラジルのジカウイルス流行に関連して責任を問われるなど、様々な陰謀論のターゲットになってきました。ゲイツの正体が実はトカゲだとする陰謀論もネットで流布されています。

しかし、これらの陰謀論の根底には共通のテーマがあります。それは、ゲイツが新型ウイルスの危機を利用して人々を支配したり、ワクチンを通じて金儲けをしたりしているという非難です。

これらの主張は、科学的な根拠や証拠に基づいていないことが多く、主にSNSやインターネット上で拡散されています。

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僕たちはどうすれば、感染症の世界的大流行=パンデミックのないコロナ後の世界を構築できるのだろうか。慈善家として20年以上にわたり世界の健康問題や疾病撲滅に取り組んできたビル・ゲイツが、最新科学とデータをもとに実現可能な希望の未来を提示する。(「Books」出版書誌データベースより)

COVID-19: Fake News

他にも多種多様なワクチンのデマが拡散している

nature video/YouTube

かつてFBIは、Qアノンなどのグループが広める陰謀論を「国内の潜在的なテロの脅威」と呼びました。しかし、彼らが引き起こす情報の洪水、いわゆる「インフォデミック」は、現在では公衆衛生上の脅威にまで発展しています。

インフォデミックと公衆衛生への影響

インフォデミックとは、ネット上で大量の情報が氾濫し、その中には噂やデマも含まれることで、現実社会に深刻な影響を及ぼす現象のことを指します。この用語は、新型コロナウイルス(COVID-19)が2019年12月に中国で最初の症例が発覚し、数ヶ月後には世界的大流行(パンデミック)を引き起こす中で、特に注目を集めるようになりました。

元々は新型コロナウイルス危機前から存在していた言葉であるインフォデミックですが、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が2020年2月に「我々は感染症だけではなく、『インフォデミック』とも戦っている」と言及し、「フェイクニュースはウイルスよりも速く、より簡単に拡散する」と警告したことで、一躍世界の注目を浴びることとなりました。

今日、インフォデミックは公衆衛生を深刻に脅かすものとなっています。それは、新型コロナウイルスパンデミックの最中に、誤った情報や陰謀論が拡散し、公衆の間で混乱を引き起こし、ワクチンの接種や他の予防策に対する信頼を失わせる影響があるからです。

TBS NEWS/YouTube

SNSで広がったワクチン実験マウスとネコの死亡デマ

2021年4月頃、新型コロナウイルスのワクチンを注射した実験用のマウスが、2年後にすべて死んだという情報がSNSで拡散されました。しかし、この情報はすぐに専門家から否定されました。

まず、実験用マウスの平均寿命は約2年であり、その期間が経過すれば自然に死亡することが多いという事実があります。また、新型コロナウイルスのワクチンが開発されてから、2年以上経過していないという時間軸の矛盾も指摘されました。

その後、同様のデマは「ワクチン接種された実験用のネコが全て死亡した」という形で再度拡散しました。しかし、人間に対する研究の前段階としての動物実験では、ネコは一般的には使用されません。特に、ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンの開発にはネコは使用されていませんでした。

ワクチンの臨床試験と安全性への不信感

「臨床試験がまだ完了していないためワクチンの安全性は保証されていない」という噂が世間に広まりました。この情報を聞いた人々の半数以上がその噂を信じたり、少なからず疑問を抱いたと言われています。それらの人の中から「なんで臨床試験が終わってないワクチンを使用するのか」という怒りの声も上がりました。

新型コロナワクチン開発のスピードと科学者たちの協力

しかし、この考えは完全なる誤解です。新型コロナウイルスワクチンの開発は確かにこれまでにないスピードで進みましたが、それは世界中の科学者たちが、人類史上でも見たことのないレベルの国際的な協力と資源を集めた結果です。

通常のワクチン開発プロセスが数年から10年以上もかかるのは、しばしば資金調達、試験参加者の募集、製造能力の制限等の実務的な問題によるものです。しかし、これらの障壁は新型コロナウイルスワクチンの開発では大幅に縮小されました。

ワクチンの迅速な承認と科学的な手続きの厳密さ

類を見ない速さで承認されたことについても、基本的な手続きが省略されたわけではありません。基礎研究・動物実験・臨床試験(第1〜3相)は全て実施され、ワクチンのリスクを上回る有効性が科学的に証明されています。現在進行中の治験とは、ワクチンの有効性がどの程度続くのか、理論的には考えにくいですが長期間を経て出現するような副反応が本当にないのかを調査するためのものです。

また、ワクチンの長期的な安全性について心配する声もありますが、これまでのワクチンに関する経験から、副反応は接種後2か月以内に出現することがほとんどであり、接種から6週間の観察で出現しない新たな副反応が、それ以降に突如出現する可能性は極めて低いとされています。

新型コロナワクチン開発と公衆の安全確保

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たち人類が通常の速度でワクチンを開発し、それを広く使用するまで待ってくれるだけの時間を与えてはくれませんでした。しかし、前述の通りワクチンの開発と承認のスピードが向上したとしても、その背後には厳格な科学的検証と規則が存在しています。公衆の安全を確保するために、ワクチンは厳しくテストされ、効果と安全性が確認された上で承認されているのです。

mRNAワクチンと遺伝情報に関する誤解

新型コロナウイルスのワクチンが広く接種される中で、「体内にワクチンの成分が残り、政府に都合がいいように遺伝情報が書き換えられる」との噂が一部で広まりました。これは、特にmRNA(メッセンジャーRNA)ベースのワクチンに対する誤解から生じたと考えられます。

mRNAワクチンの仕組みと遺伝情報への影響に関する説明

mRNAワクチンは、ウイルスのスパイクタンパク質の遺伝情報を体内に送り、それによって体がウイルスに似たタンパク質を作り出し、免疫系が反応を学ぶという仕組みで作用します。しかし、「遺伝情報が書き換えられる」という噂は科学的な根拠に欠けています。

mRNAは、その名前が示す通り、遺伝情報をメッセージとして運ぶ役割を果たしますが、それ自体が体内の遺伝情報(DNA)に組み込まれることはありません。mRNAは、ワクチンとして体内に入れられると、短期間で細胞内で分解されます。また、このmRNAが核(遺伝情報が保存されている部分)に入ることは通常はありません。

日本の厚生労働省も、「注射されたmRNAは体内で短期間で分解され遺伝情報に組み込まれることはない」と公式に発表しています。このような専門的な見解は、ワクチンに関する不安を和らげ、科学的根拠に基づいた知識を提供する役割を果たします。

mRNAワクチンと不妊についてのデマ

「mRNAワクチンが不妊を引き起こす」というデマも広まりました。しかし、これは科学的に裏付けのない主張であり、現在までに公にされているデータによれば、mRNAワクチンが不妊を引き起こすという事例は確認されていません。

ワクチン接種と不妊の関連性についての科学的見解

動物実験レベルでも、ワクチンが妊娠に悪影響を及ぼす事例は確認されていません。観察されていれば、そのワクチンはヒトを対象とした臨床試験に進むことはできません。ヒトを対象とした臨床試験でも、妊娠に対する悪影響は確認されていません。

臨床試験では、通常、妊娠中の女性は参加できませんし、参加中は妊娠を避けるように求められます。しかし、臨床試験に参加した何万人もの人々の中には、試験期間中に妊娠してしまうケースもあります。これらのケースを集計し、分析した結果、プラセボ(偽薬)群と比較しても差異は認められませんでした。

また、「ワクチン接種が不妊を引き起こす」という誤情報は、歴史的にみても存在していますが、これまでにワクチン接種が不妊の原因となったという報告はありません。アメリカ産科婦人科学会やアメリカ生殖医学会などは、「ワクチンが生殖能力の喪失につながるという証拠は存在しない」と共同声明で発表しています。日本産科婦人科学会なども同様の声明を発表しています。

SNSにおけるワクチン不妊誤情報の拡散力と影響力

しかし、SNSを通じた情報の拡散力は非常に強力で、日本経済新聞の調査によれば、7ヶ月間で約11万件もの「ワクチンが不妊につながる」との投稿がツイッター上で確認され、その約半数がわずか29アカウントからの投稿だったとのことです。これはSNS上の情報がどれだけ迅速に広まり、そしてその一部が誤情報であっても影響力を持つかを示しています。

CNBC Television/YouTube

mRNAワクチンの接種と遺伝子組み換えデマ

「ワクチンを接種すると遺伝子が組み換えられる」というデマも拡散されています。しかし、これは科学的に誤った情報であり、mRNAワクチンの接種が遺伝子組み換えを引き起こすことはないと厚生労働省や専門家は説明しています。

mRNAワクチンの細胞内分解と長期残存の否定

駐車されたmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、数分から数日という短い時間の経過とともに細胞内で分解されます。つまり、このmRNAが体内に長期間残存するということはありません。

mRNAワクチンとDNAの関係における情報の取り込みと一方通行性の解明

さらに、mRNAが人間の遺伝情報(DNA)に取り込まれるということもありません。私たちの体の細胞では、通常の生物学的プロセスによりDNAからmRNAが生成され、これがタンパク質を合成する指示を出す仕組みがあります。

この情報の流れは一方通行であり、これは生物学の中心法則(Central Dogma)として知られています。つまり、DNAからRNAへ、そしてタンパク質へと情報が流れるという流れがありますが、逆にmRNAからDNAが作られることはありません。

従って、mRNAワクチンを接種したからといって、そのmRNAの情報が長期間体内に留まったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれるということはありません。

mRNAワクチンの目的と免疫システムへの働きの解説

あくまでmRNAワクチンの目的は、ウイルスの特定の部分を模倣したタンパク質を細胞が生産するように指示することです。そのタンパク質は免疫システムの警告信号となり、体はそれに対する防御反応を作り出します。この一連のプロセスを通じて、mRNAワクチンは新型コロナウイルスに対する免疫を助けているのです。

日テレNEWS/YouTube

ワクチン接種と”マグネットチャレンジ”の嘘

さらにSNS上では、「マグネットチャレンジ」という、ワクチン接種後の腕に磁石がくっつくと主張する実演動画が拡散されました。これらの動画は、ワクチンにマイクロチップが含まれている、あるいは腕の中に針が残っていることを証明しようとしているとされています。しかし、実際にはこれらの動画は単なるトリックであり、根拠は全くありません。

磁石の固定は皮膚特性によるものであり、ワクチン接種とは無関係

磁石は、テープや軟膏を使用して皮膚に簡単に固定することができます。さらに、磁石やコインを肌に強く押し付けると、皮膚のテクスチャーによってはくっつくことがあるのです。これはワクチン接種とは何の関係もなく、単に皮膚の表面の性質によるものです。

また、COVID-19ワクチンを接種する際に使用される注射針は非常に細く、磁石を引き付けるために必要な金属の量を含むことは物理的に不可能です。CDC(米国疾病対策センター)も、ワクチンには磁気を帯びる成分が含まれていないと明確に説明しています。

このような悪質なデマは、科学的根拠に基づかない情報を拡散することで、公衆のワクチンに対する理解を混乱させようとする意図が垣間見えます。

BBC News Japan/YouTube

ワクチン接種と自閉症の関連性によるデマ

「ワクチン接種は自閉症の発症につながる」という話も広がりましたが、これもデマです。

ウェイクフィールドの嘘をルーツとするデマ情報

このデマのルーツは1998年に遡ります。その年、一本の衝撃的な論文が医学界を揺さぶりました。それは、当時の英国の医師アンドリュー・ウェイクフィールドが著し、はしか、おたふく風邪、風疹の三種混合(MMR)ワクチンが自閉症の発病に関係している可能性を示唆したものでした。この論文は、自閉症患者の増加という背景を持ち、不安を抱える親たちにとって一種の「原因の説明」となり、大きな反響を呼びました。

当時はまだソーシャルメディアが普及していなかったにも関わらず、このウェイクフィールドの説は急速に広まりました。そして、その結果として多くの親たちは、自閉症の発病リスクを恐れ、子どもにワクチンを接種することを避けるようになりました。ワクチン接種の拒否は英国をはじめ、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの国々で急増し、接種率が大きく低下しました。

ウェイクフィールドの研究の背後に隠された真実

ウェイクフィールドの論文が公表されるタイミングで行われた記者会見では、彼は「自閉症と腸管の炎症が合併する新症候群」を発見するきっかけが「患者の母親からの相談の電話」だったと述べました。しかしこの説明は、後に嘘だったことが判明します。

実際には、彼が問題の研究をまとめるきっかけは「弁護士からの依頼」であったことが明らかにされました。これは、ワクチンに対する訴訟に関与していた弁護士たちからの依頼であり、ウェイクフィールド自身も反ワクチン団体から資金を受け取っていたのです。

この驚愕の事実が欧米のメディアによって大々的に報じられると、多くの公的機関や大学がウェイクフィールドの論文を検証するための調査を開始しました。そして、その結果、MMRワクチンと自閉症との間には何の関連性も見られないことが明らかになりました。更に、彼の論文のデータには捏造があることが判明しました。

「倫理違反と資金の問題」 ウェイクフィールドの闇

ウェイクフィールドには長年、倫理規定違反の疑惑がついて回り、その一部が最終的に公になりました。2004年、英国の新聞『サンデー・タイムズ』はウェイクフィールドの研究に参加した被験者の中に、ワクチン製造メーカーを相手取った裁判の依頼人の子どもが含まれていたことを指摘しました。これは重大な利害関係の問題を示しており、研究結果の公平性と客観性を疑わせるものでした。

さらに、公的機関であるリーガル・エイド・ボードからウェイクフィールドが資金援助を受けていたことも発覚しました。彼は、裁判に関連する研究のために、なんと55000ポンドもの資金を受け取っていたのです。このような資金源の問題は彼の研究の信頼性をさらに低下させる要因となりました。

これらの事実が明らかになった結果、ウェイクフィールドの行動は医学研究の倫理に重大な違反であるとの非難を浴びました。

論文の撤回とウェイクフィールドの医師免許取り消し

ウェイクフィールドと共同で研究を行っていた13人の研究者のうち、10人は早くも2004年にワクチンと自閉症の関連性を否定していました。しかしながら、主要執筆者であったウェイクフィールド自身はその後も研究結果を撤回することを拒否し続けました。

この状況は2010年に大きな転換点を迎えます。論文を掲載していた『ランセット』誌がついにウェイクフィールドの論文を撤回しました。この撤回の理由は、長年にわたって指摘されてきた科学的な間違いではなく、研究が倫理基準に違反していたという事実でした。特に、被験者の選定や資金援助の問題がこの決定に大きな影響を与えたとされています。

そして、この撤回の後にはさらなる衝撃が続きました。ウェイクフィールドの行為は深く厳しく審議され、結果として彼は医師免許を剥奪されることになりました。この一連の出来事を受けて、ウェイクフィールドはアメリカへと移住しました。

反ワクチン運動と新型コロナウイルスパンデミック

ウェイクフィールドの誤った主張が科学界から退けられたにも関わらず、反ワクチン論者たちの矛先は収まることはありませんでした。「ワクチンに添加されている成分が害をなす」「乳幼児期に接種されるワクチンの量が原因である」といった、科学的根拠に欠ける扇動が続けられました。さらに困難な状況となると、彼らは陰謀論を持ち出すことがあります。具体的には、巨大製薬会社や先進国の政府が共謀して真実を隠し、研究者たちが金を受け取り、ワクチンと自閉症の関連を否定する研究結果を捏造しているという主張です

新型コロナウイルスのパンデミックが発生した中で、このような誤解とデマはさらに拡散しています。新型コロナウイルスのワクチンと自閉症の関連を示す科学的な報告は一切存在しないにも関わらず、専門外の人々がこれらの情報を拡散し続けていると指摘されています。

こうしたデマの拡散により、アメリカなどでは新型コロナウイルスのワクチン接種をためらう人々が出てきています。一方で、専門家らはこれらの主張が事実無根であることを繰り返し説明し、ワクチン接種の重要性を訴え続けています。

陰謀論の説得力!人の感情を利用したトランプの情報操作

人々が陰謀論を信じ、広める一因として、その情報が感情に訴え、人々の不安や恐怖を掻き立てるという点があります。

たとえば、2016年のアメリカ大統領選で、当時共和党候補だったドナルド・トランプは、子供のMMRワクチン接種と自閉症に関連があるという有名な「疑似科学」を自説として展開しました。

「私に言わせてもらえるなら、自閉症は今や流行病ですよ・・・小さな可愛らしい赤ん坊を連れてきて、注射をする 子供用なんかじゃなくて、その注射器は馬に使うようなばかでかいものに見える。つい先日二歳の子が、二歳半の可愛らしい子供が、ワクチンを受けに行った一週間後に高熱を出しました。その後ひどく悪い病気になり、いまでは自閉症です。」

前述の通り、科学的にワクチンと自閉症の関連性は否定されています。しかし、トランプの発言は、親たちのワクチン接種に対する不安を巧みに利用し、感情に訴えることで説得力を持つように見せました。

コントロールの喪失に対する不安

人間は自分の生活や状況をコントロールしたいという根源的な欲求を持っています。しかし、新型コロナウイルスのような未知の疾患や、それに対する新しいワクチンの出現は、そのコントロールを失う不安を引き起こします。トランプの発言は、その不安を巧みに利用しました。

感情の誘発

トランプは具体的なエピソードを持ち出し、「つい先日二歳の子が、二歳半の可愛らしい子供が、ワクチンを受けに行った一週間後に高熱を出しました。その後ひどく悪い病気になり、いまでは自閉症です。」と語ることで、聴衆の感情を誘発しました。このようなストーリーテリングは、事実に基づいた論理的な議論よりも、人々の心に強く響くことがあります。

視点の同調

トランプの話は、彼自身の視点を通じて世界を見るように人々を誘導しました。これにより、彼の説明が説得的に感じられる可能性が高まります。

これらの戦略を理解することで、陰謀論がどのように広まり、どのように信じられるようになるのかを理解する手助けになります。また、それは情報リテラシーを高め、自分自身が誤情報や陰謀論に惑わされないようにするための一助となります。

「ワクチンの長期的副反応とリスク」科学的な視点からの誤解とフェイク

一部の人々は、「ワクチンの長期的副反応はわかっていないのだから、遺伝子が書き換えられたり、不妊になったりすることのリスクはゼロではない。したがってデマだと決めつけるのはおかしい」と主張します。しかし、この主張は誤解や誤情報に基づいていることが多く、科学的な観点から見ても根拠の薄い主張と言えます。

科学的な証拠の重視

ワクチンの長期的な副反応については、実際には数多くの研究が行われており、その結果は公に公表されています。ワクチンによって遺伝子が書き換えられる、あるいは不妊になるという証拠は現在のところ存在しません。したがって、このような主張は科学的な根拠に欠けています。

リスク評価の誤解

すべての医療処置にはリスクが伴いますが、それはワクチンも例外ではありません。しかし、ワクチンのリスクを評価する際には、そのリスクが特定の疾患に罹患するリスクと比較して非常に小さいことを理解することが重要です。

「ワクチン接種後の健康上の問題」データ評価と因果関係の科学的判断

しかし、ワクチン接種後に重篤な副反応や死亡例の報告があることは事実です。しかし、これらの報告はその全てがワクチンが原因であると示すものではありません。副反応や死亡に至る事象はワクチン接種と時間的な関連性があるだけで、必ずしも因果関係があるわけではないのです。

疾病管理や公衆衛生当局は、ワクチン接種後の全ての健康上の問題を非常に厳密に追跡します。そして専門家がこれらのデータを評価し、ワクチンと副反応・死亡との間に因果関係があるかを科学的に判断します。

例えば、新型コロナウイルスワクチンについても、一部の稀な副反応(例えば、アストラゼネカワクチンとジョンソン&ジョンソンワクチンの接種後の非常に稀な血栓形成)が指摘され、それがワクチン接種後の死につながっている可能性があります。

ワクチンのメリットと新型コロナウイルス感染のリスク

大半の場合、ワクチンによるメリット(疾病、入院、死亡の防止)は、新型コロナウイルス感染によるリスクをはるかに上回ります。例えば、新型コロナウイルスに関しては、ワクチン接種が無い場合、感染し重篤化する可能性があり、最悪の場合死亡するリスクが高まります。しかしワクチン接種によりこれらのリスクを大幅に下げることができるのです。

SNSにおけるワクチン偽情報の拡散と規制の試み

Facebookは2021年8月10日に、AstraZenecaとPfizerの新型コロナウイルスワクチンに関する誤情報を投稿したとして、Instagramを含む308の偽アカウントを削除しました。2020年11月と12月には、「AstraZenecaのワクチンを打つとチンパンジーになる」という誤解を招くミームやコメントが投稿されました。

さらに、複数のフォーラムサイトで誤解を招く請願や記事が作成され、その中には「AstraZenecaが新型コロナウイルスワクチンの臨床試験データを操作し、未確認の技術を使ってワクチンを開発した」という主張も含まれていました。

このような活動は、ヘルスケア関連のインフルエンサーに対し、反ワクチンのメッセージを拡散するためのコンテンツを共有するよう求めるものもありました。そのため、Facebookはこれらの誤情報を広める偽アカウントの削除に踏み切ったのです。

この一方で、YouTubeもまた誤情報の拡散対策に取り組んでいます。YouTubeは、陰謀論や差別、憎悪行為、児童虐待や大量虐殺の映像といった様々なタイプの誤情報の拡散を防止するため、2021年9月29日にワクチンに関する誤情報に対する新たなガイドラインを発表しました。

新型コロナウイルスに関する誤情報を広める100万本以上の動画を削除したことで知られるYouTubeは、今後はワクチンの安全性や有効性、成分に関する誤情報を広めるコンテンツも削除すると述べています。

どれだけ規制しても止まらないデマ投稿

しかし、誤情報の投稿は未だに後を絶たず、この問題は永遠に続くモグラたたきのように見えます。例えば、科学的な事実に基づいた情報に対して反ワクチンのコメントがつけられることがあります。また、英国の非営利組織Center for Countering Digital Hate(CCDH)は、SNS上のワクチン誤情報の65%が12人によって発信されているという調査結果を2021年3月に発表しました。これらの課題に対処するため、SNS各社は引き続き努力を重ねています。

TBS NEWS/YouTube

ワクチン接種義務化と陰謀論者の団結

欧州では新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療従事者を中心にワクチン接種の義務化が進みました。イギリス、フランス、ドイツなどの主要国では、感染初期からワクチン接種に力を入れてきましたが、全体の接種率が約70%に達した段階でペースは停滞してしました。

そこで、各国はさらなる接種率の向上を目指し、様々な戦略を展開しましたが、うまく接種率は向上させることは出来ませんでした。

これはワクチン接種の義務化に対する反対の声も強く、接種を恐れる人々の存在が挙げられています。彼らの心配や恐怖を深刻に受け止める必要があるとの意見もありました。

反ワクチン派の信念と社会的懸念

反ワクチン派の存在も無視できません。WHOの顧問であるディッキー・ブディマン博士は、「選択の余地がない接種の義務化は、ワクチンを取り巻く“陰謀論”信者たちの信念を強くする可能性がある」と指摘していました。

また、政府の政策に対する反発が強まると、極右勢力が「ワクチン反対」を掲げて選挙に勝利する可能性があり、その結果、政府のワクチン政策自体が破棄される可能性があるとの懸念もありました。これらの複雑な社会的要素が、ワクチン接種率向上の課題となっていたのです。

世界各地の抗議運動と陰謀論者

2021年3月20日、新型コロナウイルスに関連する抗議運動が世界各地で展開されました。米国、オーストリア、スイス、カナダなどでデモが行われ、これらのデモには陰謀論を信奉する集団「Qアノン」やワクチン反対論者、および元米国大統領ドナルド・トランプの支持者らが参加しました。

抗議運動は、主に3つの異なる集団で構成されていました:

  1. 一般市民:彼らは自由と仕事の安全について心配し、政府のコロナ対策に疑念を抱いていました。
  2. 陰謀論者:新型コロナウイルス否定論者や反ワクチン主義者など、自らの主張を拡散させようとしていました。これらのグループは、新型コロナウイルスやワクチンに対して根拠のない陰謀論を広めていました。
  3. 政党の党員:これらは通常、小規模な政党であり、抗議運動を次の選挙での票田にすることを目論んでいました。
TBS NEWS/YouTube
ドイツとオーストラリアの抗議運動の例

ドイツでは、「Querdenken」(直訳すると「水平思考者」)という名の抗議運動グループが登場しました。新型コロナウイルスを策略と見なす人々に支持されていたこのグループは、極右政党AfD(ドイツのための選択肢党)からもデモの支持を受けました。AfDは抗議者の主張の一部を認める姿勢を示しました。

一方、オーストラリアでも2021年7月24日に類似の抗議運動が起こりました。この抗議運動に参加したのは、政府の支援が不十分だと感じる労働者たち、新型コロナウイルスを「グレートリセット」のための言い訳だと主張するFacebookやTelegramの新型コロナウイルス懐疑グループのメンバーたち、そして支持を集めたいと考える非主流の政治家たちでした。

シドニーでは警察によれば最大1万人が集結し、その中にはドナルド・トランプ前米大統領に扮した人物がデモ参加者に語りかける姿も見られました。幸いにも衝突の報告はありませんでした。参加者たちの立場は多様でしたが、反ワクチンや陰謀論を訴える演説や、そのような主張が書かれたプラカードが多く見られました。

極右派と反ワクチン主義者の存在とジャーナリストへの攻撃

2020年5月、ベルリンでは街中で取材撮影中のジャーナリストたちが襲撃され、驚くべきことに1週間で2度も事件が発生しました。被害者の中には入院を余儀なくされるほどの重傷を負った人々もいました。さらに、ドルトムントでは極右勢力によるジャーナリスト襲撃事件も発生し、社会は混乱に陥りました。

このようなデモや襲撃事件には、左派やリベラル派の参加者もいるものの、極右派や新右派が本来平和的であるべき集会を煽り立てているのが大きな問題となっていました。さらに懸念されたのが、陰謀論者と反ワクチン主義者の存在です。彼らの中には、新型コロナウイルスと次世代通信規格「5G」の関連性を主張する者や、ビル・ゲイツを新型コロナウイルスの問題に結びつける者がいたことです。

彼らはメディアが流す情報を一切信じず、「フェイクニュース」と断じていました。その結果、ジャーナリストへの攻撃の増加に繋がっていったのです。

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2020年1月、中国の武漢にはじまった新型コロナウイルスの世界的なパンデミック。未知のウイルスに対する恐怖、医療崩壊の危機、繰り返される緊急事態宣言…。新型コロナウイルスによって、私たちの生活は一変した。 そんな中で問題になったのが、新型コロナウイルス、そして新型コロナワクチンにまつわるデマ・陰謀論である。 「新型コロナウイルスはそもそも存在していない」「PCR検査は信用できない」「新型コロナワクチンを接種すると、磁石人間になる」「新型コロナはビル・ゲイツの陰謀」など、怪しい言説が〝医師〟や〝自称専門家〟による書籍などを通じて拡散。まことしやかに語られるようになったのである。 はたしてそれらの言説は信じられるのか。間違えているとしたら、なにが違うのか。 これまで数々の怪しい情報の真相を暴いてきた「ASIOS」(「謎解き超常現象」シリーズ)が、桑満おさむ医師、名取宏医師、峰宗太郎医師、宮原篤医師、森戸やすみ医師、安川康介医師とともに、新型コロナとワクチンのデマ・陰謀論を検証。信じるに値する「本当のこと」を明らかにする。(「Books」出版書誌データベースより)
【Qアノン陰謀論(4)】驚愕の数字!反ワクチンビジネスが巨額利益を生む裏側とは?

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