「Qアノン・シャーマン」として知られる謎のバッファローマンは、2021年1月6日のアメリカ連邦議事堂襲撃事件の際に登場し、その奇抜な外見と行動で注目を浴びました。
彼は連邦議事堂内に侵入し、その際に議事堂の床にメモを残すなどの行動を行い、事件の象徴的な存在となりました。
【Qアノン陰謀論(20)】平和的な抗議だった…死傷者を出す事件にもかかわらずフェイクが拡散
QAnon Shaman
2021年アメリカ議会議事堂襲撃事件と「Qアノン・シャーマン」
2021年1月6日、ドナルド・トランプの支持者たちはアメリカ議会議事堂を襲撃しました。その中にはQアノンの信者も含まれていたと確認されています。
Qアノンは、極右の陰謀論を唱えるグループで、この事件について様々な誤解や誤情報が広まっています。
この襲撃事件において、西部カリフォルニア州の退役軍人であり、トランプ支持者であるとともにQアノンの信奉者でもあった35歳の女性が警察官によって撃たれて死亡し、その死は多くの議論を巻き起こしました。
さらに、議事堂内でアフリカ系アメリカ人の警察官が1人で暴徒に対峙し、上院本会議場の入り口と反対方向へ誘導した映像が広く拡散されました。
この警官の行動は多くの人々から称賛され、その中には彼の名前を冠したハッシュタグも生まれました。
この事件に参加していた侵入者の中には、Qアノンのシンボルが描かれたTシャツを着ていたアイオワ州デモイン在住の41歳の男性、ダグ・ジェンセンも含まれていました。
ジェンセンは侵入者集団の先頭に立っており、その行動が広く報じられ、批判を浴びることとなりました。
このようなQアノン信者たちの中でも特に目立った存在だったのが、ジェイク・アンジェリでした。
異彩を放った上半身裸にタトゥーのバッファローマン
ジェイクは、バッファローのような角のついた毛皮の帽子を被り、赤、白、青の顔のペイント、上半身裸、茶色のパンツからなる服装で、米国議会議事堂に入場する様子が目撃されました。
さらに、全長約180センチの槍(槍様)を持ち、槍先のすぐ下にアメリカ国旗が結ばれていました。
もう一つ、特徴的だったのは、ジェイクの腹部に描かれていた北欧神話の神・トールのハンマー(ミョルニル)の図像と、ヴァイキングのシンボルである「ヴァルクヌト」でした。
ヒースニズムのシンボルがナショナリズムとナチスに結びつく理由
これらのシンボルは、ヒースニズムという宗教運動に由来しています。
ヒースニズムは、古代のゲルマンや北欧の異教信仰を元にした新しい宗教運動で、特にミョルニルとヴァルクヌトは、その信奉者たちによって重要なシンボルとして用いられています。
しかし、それらは19世紀のヨーロッパのナショナリストや20世紀のナチスなどによって復活され、歪曲される形で用いられることもありました。
ミョルニルは、ヒースニズムに帰属する個人のアイデンティティの象徴であり、白人至上主義に由来する過激な運動と関連付けられることがあります。
また、ヴァルクヌトのシンボルは、新ナチス主義者や白人至上主義者に悪用されており、オーディニズムやヴォータニズムといった、人種差別的または白人至上主義的なネオ・ノース信仰の実践者たちによって利用されています。
ヴァイキングのシンボルの闇と光
バージニア工科大学の宗教文化学部の学部長、マシュー・ガブリエルによれば、極右過激派によるヴァイキングと十字軍のイメージの採用は、「二重の郷愁」を反映しています。
これは、約千年前の中世への郷愁と、現代に出現した白人至上主義運動への郷愁を表しています。
ヴァイキングのシンボル、特にバルクヌトやイグドラシルなどは、遠右過激派によって悪用されていますが、その本来の意味や北欧神話、スカンジナビア文化における重要性を無視するべきではありません。
ヴァルクヌトはゲルマン異教信仰から私たちに伝えられた最も広く知られたイメージの一つで、学者たちの間でもその実際の意味について意見が分かれていますが、現代のヒースニズム運動では宗教的なシンボルとして用いられています。
一方、イグドラシルは宇宙の構造と秩序を提供し、概念的な境界を示す重要な象徴で、生命と再生を表す存在です。
ヴァイキングについては、複雑な航海者として描かれる古代の物語が多く存在しますが、彼らが「純粋な」血統を持つ独自の民族や地域集団であったとする神話が根強く存在します。
しかし、これは19世紀末のヨーロッパで高まったナショナリスト運動によって創り出された有害な神話に過ぎません。
この神話は、ヴァイキングの優越性を通じて憎悪を正当化し、固定観念を永続させようとする白人至上主義者の中で称賛され、利用されています。
これらのシンボルの極右過激派による悪用は、北欧神話やスカンジナビア文化の元々の意味や重要性を歪曲しています。
これらのシンボルの使用は、19世紀中頃のドイツの民族主義運動に根ざし、ワイマール時代を経て、ナチス党によるヒトラーの第三帝国での古ノルド神話とイメージの広範な使用に至る一形態の文化的な悪用です。
正体はイギリスのアーティスト「ジェイ・ケイ」なのでは!?
ジェイク・アンジェリの独特な姿が報道されると、SNS上で彼がジャミロクワイのリードボーカリスト、ジェイ・ケイに似ているという話題が広がりました。
この誤解はエスカレートし、ジェイ・ケイ本人が自身の無関与を明確にする必要が生じました。
ジェイ・ケイは、Twitter上でフォロワーに向けた動画を公開しました。
彼は南部のアクセントを模倣し、「世界中の皆さん、おはようございます!」と挨拶しました。
そして彼は憶測について触れ、「一部の人々は昨夜、私がワシントンにいたと思っているかもしれませんが、残念ながら、私はあの変な人々とは一緒ではありませんでした」と述べました。
このエピソードは、SNS上の情報が速やかに拡散し、真偽を問わず人々の間に広まることが可能であるという事実を示しています。
事実を確認せずに情報を広めることが、特に重要な出来事や危機時にどれだけ混乱を生むかを改めて示すものでした。
ジェイク・アンジェリ(本名ジェイコブ・アンソニー・チャンズリー)の概要
ジェイク・アンジェリ(本名ジェイコブ・アンソニー・チャンズリー)は、アリゾナ州グレンデールに居住しており、2021年の議会議事堂への襲撃事件の際には33歳でした。
「Qが私を送った」ジェイクの存在感とQアノン信者の象徴!
ジェイクは自身を「Qシャーマン」と呼び、一連のトランプ支持者の集会に頻繁に参加していました。彼の存在感は、特に彼の衣装と、彼が持つ「Qが私を送った」と書かれた標語からくるものでした。
これらは、彼が自分自身をQAnon陰謀論の信者として公に示していた証です。
ジェイクのQアノン活動
2020年5月に行われたアリゾナ・セントラル新聞とのインタビューで、ジェイクは自身がなぜヴァイキングの格好をしているのかを説明しました。彼
によれば、その目的は注目を集め、人々にQAnonの信念や彼が真実だと信じていることについて語る機会を得ることでした。
ジェイクの活動は、ネット上でも活発でした。2020年12月には、ジェイクは保守派のソーシャルメディアアプリ「Parler」に投稿し、「私たちはアリゾナの最前線での愛国者です。
私たちはポジティブなエネルギーをワシントンにもたらしたいのです。」と述べていました。
彼はFacebookやTwitterなどのプラットフォームでも活動しており、トランプに反対する民主党と共和党の議員や政府関係者を攻撃する投稿を頻繁に行っていました。
その主張はしばしば極端で、政府関係者が子供を性的に虐待し、悪魔を崇拝していると主張するなど、Qアノンの一般的な主張を反映していました。
また、「裏切り者たちが絞首台に吊されるまで、真の希望はない」という強烈な発言も行っていました。これらの主張も、Qアノン一部の信者が共有している、極端な信念と行動を示すものでした。
アメリカ議会襲撃の中心に立つジェイク・アンジェリ!その日の出来事を振り返る
2021年1月6日、アメリカ議会議事堂への襲撃が発生した際、ジェイク・アンジェリはその中心人物となりました。彼は襲撃の中で印象的な姿を見せ、その後の報道で頻繁にその名が取り上げられました。
特に、ジェイクが副大統領マイク・ペンスの講演台に手書きのメモを残したことは、その日の襲撃に関する最も強烈なイメージの一つとなりました。
「時間の問題です。正義が訪れます」という彼のメモは、混乱と暴力の中で残された物理的な証拠として議事堂内部を揺さぶった。
NBCニュースとのインタビューでは、「もし(議員たちに)ガスマスクを装着して地下(壕)に避難させることができれば、私たちは勝利した」という彼の言葉が引用されました。
これらの発言は、ジェイクが議事堂の襲撃においてどのような役割を果たしていたのかを示しています。
しかしながら、後日「60 Minutes+」のインタビューで、1月6日の行動について問われた際、ジェイクは自身の行動を弁護しました。
「私の行動はこの国への攻撃ではありません。それは嘘です。私は歌を歌いました。これはシャーマニズムの一部です。私は神聖な議場にポジティブなエネルギーをもたらしています」と彼は主張しました。これは彼が信じるQアノン陰謀論の視点から見たときの、その日の出来事に対する彼自身の解釈であったと考えられます。
自ら自首するもトランプ大統領からの恩赦に期待
2021年1月9日、ジェイク・アンジェリは連邦当局に自首し、アリゾナ州で拘束されました。
逮捕後の彼の供述によれば、彼が1月にワシントンD.C.に入った理由は、当時の大統領ドナルド・トランプの要請に応え、他の「愛国者」たちと共にワシントンに来るようになったからだと述べました。
逮捕後、ジェイクの弁護士は、クライアントがトランプ大統領が彼を恩赦すると信じていたとAZCentralとのインタビューで明らかにしました。
彼らはさらに、議事堂襲撃事件の多くの参加者がトランプによって扇動されたと主張しました。
しかし、トランプ大統領は結局、元同僚や個人的な関係者に対してのみ恩赦を行い、ジェイクには恩赦を与えませんでした。これにより、ジェイクは「何が起こっているんだ」という驚きと疑問を抱くこととなりました。
「オーガニックしか食べない」結果、拘置所で断食生活
ジェイクの勾留中の食事については、多くのニュースメディア(AZCentral、Politico、CNNなど)で大きな話題となりました。
彼の指名弁護士は、ジェイクが宗教上の理由から厳格な食事制限を守っており、そのために彼が食事を取れていないと裁判官に伝えました。
ジェイクの母親であるマーサ・チャンズリー氏は、息子が有機食品を食べないと体調を崩すと説明しました。
その後、彼の弁護士は裁判所の文書において、ジェイクが非有機食品を拒否し、その結果、約1週間で約9キログラムも体重が減少したと記述しました。
最終的にはオーガニックの食事を食べることができた
これらの報告を受けて、米国地区裁判所のロイス・ランバース判事はジェイクの厳格な有機食事要求を認めることにしました。
この決定は、彼がアリゾナの拘置所で有機食品を提供されていた事実と、シャーマニズムの信仰を守るという彼の主張によって裁判官を説得した結果となりました。
しかし、ワシントンDCの刑務所は当初、がDCに移送されて起訴された後も、有機食品のみを食べるという彼の要求を拒否しました。
刑務所の法務顧問は、ジェイクが食事を摂っていないという反論をし、また彼が入所時に自身の信仰や信念を示していなかったと主張しました。
さらに、刑務所の宗教サービスは、「シャーマニズムの実践者の下での有機食品や食事に関連する宗教的な根拠を見つけることができなかった」と述べました。
妨害の罪を認める「議会に入ったのは間違いだった。弁解の余地はない」
ジェイクは裁判中、公式な手続きの妨害罪を認め、「議事堂に入ることは間違いだった。言い訳はできない」と述べました。しかし、「私は反逆者ではありません。決して国内テロリストではありません」と主張しました。
この裁判でジェイクは裁判官を称賛し、イエス・キリスト、マハトマ・ガンディ、ブッダ、最高裁判事クラレンス・トーマスなどの人物を挙げ、長時間にわたって支離滅裂な発言をしていました。
仮釈放申請の繰り返し…Qアノンやトランプへの支持を否定し、釈放を求める
ジェイクの弁護人であるアルバート・ワトキンスは、ワシントン連邦地裁に対し、ジェイクは「暴力を振るうことはなく、穏やかで、精神衛生上の実際の問題を抱えている」と述べ、情状酌量を求めました。
8カ月間の拘束中も何度も仮釈放の申請を行っており、この時点でジェイクは、Qアノンやトランプを支持していないと主張していました。
禁錮41か月の刑が宣告!検察官の求刑よりも短い刑期
ジェイクは2021年9月に公式な議会手続きの妨害罪を認め、2021年11月17日に禁錮41か月の刑を宣告されました。
検察官は連邦地方裁判所のロイス・ランバース判事に対して、ジェイクに対してより長い51か月の刑を求刑してました。
しかし、ランバース判事はジェイクに対して41か月の刑を宣告しました。これは連邦検察官が推奨した刑期よりも10か月短いものです。
ジェイクは、公判中に有機食事を提供してくれたことに対して判事に感謝の意を示しました。
ジェイクの弁護士であるワトキンスは公判中の陳述書で、被告が「QAnon」との関係を断ち切り、将来の言及で「Q」という文字を使用しないように要求したと述べました。
「裏切られた気分になった」トランプ弾劾裁判の証人として申し出る
2021年に入り、ジェイクは、かつての盲目的な忠誠心から一変、自身がトランプ元大統領から「裏切られた」と感じるようになりました。
そして、彼はトランプ元大統領の弾劾裁判で証言するために再び議事堂に立つことを望んでいました。
チャンズリーの弁護士、アルバート・ワトキンス氏はAP通信に対して、「クライアントはかつてトランプに非常に献身的だった。
しかし、恩赦を受けられなかったことで、彼は大統領に裏切られたと感じている」と述べています。
ジェイクの意向は、自身の裁判だけでなく、トランプ元大統領の弾劾裁判にも影響を及ぼす可能性があります。
しかし、現時点では、ジェイクが実際に証言台に立つのか、そしてジェイクの証言がトランプ元大統領に対する弾劾裁判の結果にどのような影響を及ぼすのかは不明でした。
しかし、この新たな展開は、今後のアメリカの政治情勢とトランプ元大統領の弾劾裁判の行方に大きな注目が集まりました。
【Qアノン陰謀論(22)】Qアノン信者だけじゃない!連邦議事堂襲撃に関与した様々な組織の存在