【Qアノン陰謀論(1)】Qアノンの前兆「ピザゲート」の闇と陰謀の連鎖

この記事では、Qアノンの信者たちが主張する「ディープ・ステート」について詳しく解説します。また、陰謀論が広まる背景やその社会的影響についても触れます。ピザゲート陰謀論やウェイフェアゲートの関連も紹介し、陰謀論の拡散と規制への対応についても取り上げます。

さらに、Qアノンが引き起こす犯罪行為やFBIの対策にも触れ、陰謀論の危険性を警鐘します。デマや陰謀論の社会への影響について知りたい方は、ぜひこの記事をお読みください。

【Qアノン陰謀露(0)】ネット掲示板発の陰謀カルチャーに迫る!
created by Rinker
現代アメリカを覆う、Qアノン陰謀論の謎の真実に迫る!大好評の『みんな大好き陰謀論』でユダヤ陰謀論を徹底的に解明して見せた著者が現代社会で隠然たる影響力を持っているQアノンについて見事に解き明かした。これを読めば、現代の陰謀論がよくわかる! なぜ、いつも陰謀論が流行るのか?(「Books」出版書誌データベースより)

QAnon’s Deep State Conspiracy

「ディープ・ステートの陰謀」Qアノンの信じる世界の秘密と影響力

Newsy/YouTube

陰謀論者が主張する、ディープ・ステート(DS)とは、政府やその他の公的な機関の中に存在するとされる、影の力です。これは、公には見えない秘密の組織が、実際の政策をコントロールし、全世界を操っているという理論です。

Qアノンの世界観において、ディープ・ステートは中心的な役割を果たしています。さらに多くのトランプ支持者が信じているとされるこの陰謀論によれば、クリントン元大統領夫妻やオバマ前大統領、FBI、CIA、伝統メディア、政府官僚たちが国家内国家を形成し、世界的な児童誘拐や売春を展開しているとされています。更に、一部ではユダヤ系財閥もその背後に関与しているとされています。

「ディープステート」の元々の意味

「ディープ・ステート」という用語は、かつて1950年代のアイゼンハワー政権で「軍産複合体」と言われたような、軍隊、軍需産業、官僚機構、諜報機関などが結びついた「選挙で選ばれた国民の代表者ではない集団」によって国家の基本政策が決定されている状態を指します。

政治家に圧力をかける闇の存在がいる……。という陰謀論

これは、トルコやパキスタンのような非民主的な国家で頻繁に発生する軍事クーデターと同じような概念で、アメリカにも民主的に選ばれた政治家に圧力をかける「闇の存在」があると信じられています。

「ネオコン」とは

ブッシュ政権時代のイラク戦争を煽り立てたネオコン派はまさにその先駆者であるとされます。彼らは、9/11以降のブッシュ政権の外交・防衛政策を主導し、単独行動主義に傾斜したネオコンサーバティブ(新保守主義)グループを形成しました。彼らは1980年代にソ連との和解に反発し、レーガン大統領に共感した外交専門家たちでした。

ディープ・ステートの知名度を高めたエドワード・スノーデン

「ディープ・ステート」という用語が広く知られるようになったのは、元NSA(国家安全保障局)とCIA(中央情報局)の局員、エドワード・スノーデンの告発がきっかけでした。スノーデンは、アメリカ政府が組織的に国民に対して監視活動を行っていることを世界に明らかにしました。

彼は、行政権力が法や倫理を無視して無制限に監視・統制を強めている現状を「ディープステイト」と呼び、この用語を一般に広めました。スノーデンの告発は、国民が個々に抱いていた疑念や不安を具体的な形にしたため、多くの人々が彼の告発に共感し、ディープ・ステートについての認識が広まる結果となりました。

The Guardian/YouTube
Qアノンの解釈は“秘密結社の脅威”

しかし、Qアノンの陰謀論は、これまで述べたような一般的な権力システムへの批判とは異なります。Qアノンは、明らかに政府内に存在するとされる特定の陰謀集団を想定しています。これは新しい考え方ではありません。実際、建国以来、アメリカ人は「秘密結社の脅威」に取り憑かれてきました。

19世紀にはフリーメーソンリーやイルミナティに対する恐怖が広まり、20世紀にはコミュニストやUFO、そして21世紀に入ってからはディープ・ステートに対する恐怖が広まりました。これらの恐怖は、政府やエリートに対する疑念、不信感を象徴しています。

Qアノンの陰謀論は、この長い伝統を継承していると言えます。しかし、それは事実に基づいていない信念であり、社会の分裂を深め、無用な恐怖を煽る可能性があります。そのため、これらの陰謀論については慎重に扱うべきでしょう。

「ピザゲート」ヒラリー・クリントンの疑惑とSNSの暴走

ピザゲートの発端は、2016年10月28日、大統領選挙の投開票直前に、連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官が、ヒラリー・クリントンを巡る私用メール問題の再捜査を発表したことから始まります。この再捜査発表の原因となったのは、未成年者に性的な写真を送っていた民主党のアンソニー・ウィーナー元下院議員のコンピューターから新たに見つかったメールでした。

ワシントン・ポストによると、その後、何者かがツイッターに「これらのメールは小児性愛者グループと関連しており、その中心にヒラリー・クリントンがいる」という内容を投稿しました。その投稿は6000回以上リツイートされ、あっという間に拡散しました。これがピザゲート陰謀論の火付け役となったのです。

このツイートが拡散された結果、インターネット上ではヒラリー・クリントンが児童性愛者グループの中心人物であるという、根拠のない主張が広まりました。これは事実無根であるにも関わらず、インターネットの匿名性とSNSの速度感が相まって、一部の人々に信じられ、大きな社会的な混乱を引き起こしました。

The Young Turks/YouTube

「Infowars」の役割…ヘイトスピーチと陰謀論の拡散による社会への影響

「ピザゲート」の無根拠な陰謀論は、多くの右派ブログによって拡散され、その中でも特に影響力があったのが、トランプ支持者であるアレックス・ジョーンズが運営する「Infowars(インフォ・ウォーズ)」でした。「Infowars」は、トランプ礼賛とともにヘイトスピーチや陰謀論を主力とする動画および音声配信チャンネルです。

題性と広告収入による中堅メディアの地位確立

初期段階では、驚くべき話題で視聴者を引きつけ、広告収入を得るというビジネスモデルを採用していました。その結果、年商は推定15億円程度に達し、中堅メディアとしての地位を確立しました。しかし、その後、「Infowars」は社会の不安を煽り、信者に向けた強壮剤を販売するという垂直統合型のビジネスモデルに移行し、その結果、通常のメディア業界の枠組みを超越した存在へと成長しました。

司会者がクリントンのデマをYouTubeに投稿

そして、2016年11月4日には、「Infowars」の番組司会者が、「ヒラリー・クリントンが自ら子供たちを殺し、切り刻み、レイプした」という事実無根の陰謀論を広める動画をYouTubeに投稿しました。「この真実はこれ以上隠せない」と番組司会者は語っていますが、これは全くの虚構であり、その危険な言論は社会に混乱をもたらしました。

陰謀論の急先鋒「アレックス・ジョーンズ」と「Infowars」

「Infowars」の管理人であるアレックス・ジョーンズは、トランプ大統領の熱心な支持者で、大統領とのつながりも深い。彼は自身のプラットフォームを利用して、度重なる無根拠の主張と攻撃的な発言で、特に民主党やマイノリティに対する激しい批判を展開しています。

民主党大会の最中の特別番組でジョーンズはヒラリー・クリントンについて、「不気味な魔女だ、悪の側に回った」などと発言しました。「あの顔を見ろよ……肌が緑になれば完璧だ」とまで言い放ちました。同じ番組内でジョーンズは、クリントンの笑い声をハイエナと比較するビデオも流しました。

ジョーンズは、2001年の同時多発テロや2012年の銃乱射事件が陰謀によるものだと主張するなど、社会的な出来事についての極端な見解で知られています。彼の発言は、陰謀論を現代社会に浸透させる役割を果たしており、南部貧困対策法律センターはジョーンズを、「現代アメリカで最も精力旺盛な陰謀論者」と評しています。

あらゆる極右の陰謀論が絶え間なく垂れ流される「Infowars」は、それでもなお、アメリカでは人気番組のひとつとなっています。

The Young Turks/YouTube

ウィキリークスとポデスタメール!陰謀論を煽り立てた内部告発の影響力

さらに内部告発サイト「ウィキリークス」が公表したジョン・ポデスタのメール流出は、陰謀論をさらに煽りたてました。ポデスタはヒラリー・クリントン陣営の選対責任者でしたが、彼のプライベートメールがハッキングにより公開されました。

ポデスタ自身は、このハッキングをロシア政府の仕業と主張し、さらには共和党のドナルド・トランプ陣営がハッキングを事前に承知していたと非難しました。これが後に「ロシアゲート」と呼ばれる一連のスキャンダルの始まりとなりました。

ポデスタのメールが公開されたことは、既に不穏な陰謀論が飛び交っていたインターネット上に新たな火種を投げ込む形となり、さらに泥沼の混乱を深めることになりました。

ABC15 Arizona/YouTube

陰謀論者がメール内容を独自解釈した結果 は「チーズピザ」

全ての始まりは、ジョン・ポデスタのメールの中に見つけられた「cheese pizza(チーズピザ)」という単語です。この言葉が、なんと「child pornography(児童ポルノ)」の隠語と解釈されました。これはインターネット上の特定のコミュニティで、チーズピザの頭文字 “CP” を児童ポルノの頭文字と一致すると考えられたからです。

この解釈は、陰謀論を生み出し、その後無数のオンラインユーザーによって拡散されました。

ピザ店「コメット・ピンポン」が陰謀論の標的に

インターネットの掲示板である「4chan」がピザゲート陰謀論の拡散に一役買ったことは否めません。「4chan」は利用者が匿名で何でも自由に書ける掲示板として知られていますが、過激な内容や悪質な嫌がらせ行為で一部から非難の声も上がっています。

ジョン・ポデスタのメールについての解釈が浸透していくと、この掲示板のユーザーたちは「関連事実」や憶測を次々と投稿し始めました。特に注目を集めたのは、ワシントンD.C.にるピザ店「コメット・ピンポン」のオーナー、ジェームス・アレファンティスのインスタグラムアカウントでした。

アレファンティスのアカウントや店内の美術作品の画像を根拠に、4chanのユーザーたちは「コメット・ピンポン」が有力政治家や献金者が出入りする小児性愛者グループの一大拠点であると主張しました。これらはすべて証拠に基づかない推測であり、ピザゲート陰謀論の拡大を助長した要素の一つとなりました。

washingtonianonline/YouTube
コメット・ピンポンの地下室を巡る根拠のない主張

「ピザゲート」の陰謀論が一人歩きを始めたのは、特に「コメット・ピンポンの地下室に子供たちが監禁されている」という根拠のない情報が広まった時点でした。

地下室の嘘とピザゲート

このピザ店に地下室は実際には存在しないにも関わらず、この情報は右翼の偽ニュースサイトを通じて拡散し、ソーシャルメディアに出回りました。

これらの偽情報の中には、”クリントンが性犯罪を行っている”という虚偽の主張も含まれており、これによってピザゲート陰謀論はさらに広まりました。このような情報を拡散した人物の中には、10万人以上のフォロワーを持つマイケル・フリンがいました。フリンは、この時点でドナルド・トランプ大統領から国家安全保障問題担当の大統領補佐官に任命されていました。

「脅迫」と「抗議」陰謀論が引き起こした個人と地域社会への脅威

コメット・ピンポンの経営者ジェームズ・アレファンティスは、この陰謀論を繰り返し強く否定しましたが、デマはネット上でさらに拡散を続けました。アレファンティス自身と彼の従業員たちは、陰謀論者たちからソーシャルメディアを通じて度々脅迫を受け、彼らの生活は深刻な影響を受けました。

アレファンティスは、これらの脅迫がエスカレートし始めると、偽ニュースを削除させるために、地元の警察やFBIなどの連邦当局に相談しました。しかしながら、ワシントンポストによると、この対応は効果的ではなく、脅迫は止まることはありませんでした。最終的には、近隣の店や企業も脅迫の対象になりました。この一連の事象は、偽ニュースとその拡散がどれほど害悪を及ぼすかを示す一例となりました。

ソーシャルメディアのプラットフォームであるInstagramやFacebookでも、アレファンティスに対する脅迫メッセージが大量に投稿されました。さらに、店の外では、「ピザゲート」を信じている人々による抗議行動が行われました。このような行動は、個人の生活を脅かすだけでなく、地域社会全体の平和をも乱すものでした。

メディアの反論が逆効果? 「ピザゲート」陰謀論の広がり

デマの拡散を食い止めるために、ワシントンポストやニューヨークタイムズなどの主流メディアは一斉に「ピザゲートは事実無根」という記事を発信しました。彼らは事実に基づくジャーナリズムの伝統に従って、誤情報の拡散を食い止めようと努めました。しかし、これらの試みは不首尾に終わり、デマの拡大は止まらないばかりか、メディアがピザゲートを取り上げたことでこの陰謀論はさらに全国的な認知を獲得しました。

これは、社会的な現象としての「リアリティ」の成立について示唆する事例となりました。つまり、事実に基づかない情報であっても、それが広範囲に知られ、人々がそれについて語り合うことで、その情報が社会的な「リアリティ」を持つようになるという現象です。これは特に、ソーシャルメディアが情報の拡散に大きな役割を果たす現代において顕著に見られます。

大統領選前後に過激化する脅迫メッセージ…従業員に危険が及ぶ

経営者のジェームズ・アレファンティスは何度も「ピザゲート」のデマを否定していましたが、ネット上の嫌がらせや脅迫は止まりませんでした。2016年の大統領選の投票日が近づくと、ネット上にさらに過激な脅迫メッセージが書き込まれました。

そして投票日前後には、過激差が最高潮に達します。従業員のSNSは特定され、従業員の家族の写真が拡散されました。この危険な状況に従業員の2名が店を辞めました。

デマが現実の暴力につながる…陰謀を信じた男がピザ店を銃撃!

そして、2016年12月4日、ついにデマが現実の暴力行為へとつながりました。

この日、28歳の男性、エドガー・マディソン・ウェルチは自宅のあるノースカロライナ州から約500キロ離れた首都ワシントンへと車を走らせました。彼は娘二人に向けたビデオメッセージを撮り、「私たちには自分を守れない人々を守る責務がある。いつの日か理解してほしい」と述べました。

WUSA9/YouTube
事件の衝撃!陰謀論の危険性が浮き彫りに

その後、ウェルチはワシントン市内のピザ店「コメット・ピンポン」に乱入し、持ち込んだAR-15型アサルトライフルを発砲しました。この事件による直接的な犠牲者は出ませんでしたが、フェイクニュースや陰謀論がもたらす深刻な社会的影響とその危険性が全米に示される結果となりました。

ウェルチは後に警察に対し、「自分は”ピザゲート”の真実を究明しようとした」と供述しました。彼はネット上で流れるデマによって、自らが子供たちを「救う」ための行動を起こすべきだと誤解していたのです。

陰謀が現実の暴力にエルカレートとした事例

この事件は、フェイクニュースが人々の行動を左右し、現実の暴力行為へとエスカレートする可能性を全米に示しました。近隣の店主の一人は「最悪の恐怖でした。誰かが一連の話を読んで、銃を持ってやってくるだろうと心配していましたが、それが現実となったのです」と語りました。

この事件を通して、「ピザゲート」のようなフェイクニュースがもたらす危険性が明らかになりました。デマや誤情報が社会的な混乱や実際の暴力行為へとつながることを示す、重要な事例となりました。

CNN/YouTube
トランプの政権移行チームの「フリン・ジュニア」の投稿が非難を浴びる

エドガー・マディソン・ウェルチによる銃撃事件から2日後、マイケル・フリンの息子であり、ドナルド・トランプの政権移行チームの一員であったマイケル・フリン・ジュニアは、「ピザゲート」関連の投稿のために更迭されました。フリン親子は「ピザゲート」のデマが浮上した当初から、SNSを通じてその拡大を助長する投稿をしていました。

事件が発生した夜、フリン・ジュニアは「#ピザゲートは虚偽だと証明されるまでニュースとして存在し続ける。左翼は#ポデスタメールと、それにまつわる数多くの”偶然の一致”を忘れてしまった」とツイートしました。この投稿に対し、多くの非難が集まりました。

「ピザゲート」に対する彼の投稿や持論が発砲事件に影響を与えたとの指摘があったため、フリン・ジュニアはトランプの政権移行チームから除外されることとなりました。

「地下室なんかない!」コメット・ピンポンの証明にも攻撃が続く

「コメット・ピンポン」は銃撃事件の後も、様々な脅迫や嫌がらせに直面し続けました。さらに2019年には放火事件まで起きました。しかし、これらの困難にも関わらず、地元の人々のサポートにより、店の経営は続けられていると、8年間ウェイターとして働いているマイケルは語っています。

それでも、店には「地下室はどこだ?」という「ピザゲート」陰謀論を自分の目で確かめようとする人々が時折訪れます。それに対し、マイケルは笑顔で、「地下室なんてないから、どうぞ自分で確認して。そう言ってやるんだ」と語っています。

「ピザゲート」のアップグレード版!Qがヒラリー・クリントン逮捕を主張

Qアノンは、「ピザゲート」のアップグレード版と言えます。

2017年10月28日に4Chanの掲示板に初めて現れたQアノンは、その後の数年で急速に成長し、陰謀論を含む様々な主張を広めるネットワークとなりました。

Qアノンの出所は、ID「gb953qGI」を使用した匿名のインターネットグループであり、その初めての投稿は「2017年10月30日、月曜日、東部標準時間の午前7時45分から8時30分の間にヒラリー・クリントンは逮捕される」というものでした。

この投稿は、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプの対立候補であった民主党のヒラリー・クリントンが、国外逃亡に備えて、複数の国と身柄引き渡し協定を結んでいると主張していました。もちろん、これは事実ではありません。

「小児性愛者」「人食い人種」「DS」Qアノンの極端な陰謀論

Qアノンの信者たちは、極端な陰謀論も主張しています。それによれば、小児性愛者や人食い人種、「ディープステート(DS)」と呼ばれる秘密の政府機関、民主党の重鎮たち、ハリウッドの著名な俳優、および一部のユダヤ人エリートたちは、米国民を取り込もうと画策し、子供たちの人身売買を行っているとされています。

また、彼らは主流メディアがこれらの活動を全て覆い隠し、公の知識からこれらの事実を隠蔽していると主張します。これは、「メディアは真実を報じない」または「メディアは信用できない」という疑念を強化し、信者たちにより深い陰謀論へと引き込むための手段として使用されます。

しかし、これらの主張は科学的根拠や具体的な証拠によって裏付けられていません。それどころか、一般的な調査や報道によれば、これらの主張は大部分が事実とは異なり、また多くの場合、現実の出来事や状況とは一致しないものです。

「アドレノクロム」と「児童売買」

Qアノンの信者の中には「アドレノクロム(adrenochrome)」という言葉を使った、非常に奇怪な陰謀論を主張する者もいます。アドレノクロムとは、一部の信者たちが延命や若返りの効果があると主張する化合物です。彼らの主張によれば、この物質は恐怖を感じている子供たちの血から抽出されるとされ、一部の有名人や政治家がこれを秘密裏に摂取しているとされています。

Qアノンの信者たちがWeb上で拡散している記事では、アドレノクロムを目的とした児童売買組織、子供が拷問されて血を抜かれて殺される話、著名人がアドレノクロムに関する秘密を知って自殺を偽装されたという話、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマ元大統領がアドレノクロムのヘビーユーザーであるという話など、根拠のない主張が数多く出回っています。

Qアノンが利用する虚構と情報の隙間

これらの話は、客観的な証拠や信頼性のある情報源に基づいていないことがほとんどです。また、「アドレノクロム」という言葉自体、過去にはあまり一般的ではなく、一般の人々の間であまり知られていなかったため、Qアノンの信者たちはこの「情報の隙間」を利用して、自分たちの陰謀論に都合の良い物語を創作し、それを拡散しました。

巧みな情報操作!検索エンジン最適化を利用した陰謀論の拡散

Qアノンの信者たちは、このような陰謀論をオンラインで広めることにより、一部の検索エンジンでの結果ランキングに大きな影響を与えることができました。つまり、「アドレノクロム」や他の関連するキーワードを検索すると、Qアノンnが提供する情報が最初に表示される可能性が高くなります。

これは、「検索エンジン最適化(SEO)」と呼ばれる技術を利用したもので、特定のキーワードやフレーズが検索エンジンで上位に表示されるようにコンテンツを調整するものです。しかし、Qアノンの信者たちはこれを利用して偽情報や陰謀論を広め、人々が信頼性の低い情報に触れる機会を増やすことに成功しました。

Qアノンが信じる救いのヒーロ「ドナルド・トランプ」

Qアノンの信者たちは、国際的な陰謀組織に関与すると主張する人々には、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ジョージ・ソロス、ロスチャイルド家、さらにはハリウッドの著名人たちが含まれると述べています。そして、この恐ろしい計画から世界を救うことができるのは、彼らが主張するところのドナルド・トランプ元大統領だけだとしています。

Qアノンの陰謀論は前述のように、「CIAやFBI、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマは悪魔崇拝の小児性愛者集団『ディープステート(またはカバール、闇の政府とも)』の手先であり、国際的な人身売買に手を染めている。世界のセレブリティはこうして攫った子どもの生き血から抽出した『アドレノクロム』を摂取して若さを保っているのだ」というものです。

そして、Qアノンの信者たちは、この”闇の勢力”に対抗する勢力が米軍内に存在し、その中でドナルド・トランプが擁立されたと主張します。彼らにとって、トランプは闇の勢力と闘う”救世主”であり、その証拠として2018年10月6日のトランプ大統領の言葉「嵐の前の静けさ」を引用しています。これは「嵐」すなわち国際犯罪組織の摘発を暗示するものだと信じられています。

政治運動としてQアノンの始まり

もちろん、ヒラリー・クリントンが逮捕されることはありませんでした。そもそも、このような不気味な投稿には当初は誰も注意を払っていなかった。しかし、投稿を行った匿名の人物が自分自身について徐々に明かし始めたとき、人々の関心が急速に集まり始めた。これが、その後広く注目され、特にドナルド・トランプ支持者による政治運動として知られるようになる「Qアノン」の始まりでした。

Qアノンがこれほど大きな注目を浴びるようになったのは、匿名の投稿者が内部情報に精通しているとされる政府関係者(“Q”クリアランスを持っていると主張)であるという神秘的なイメージが、人々の好奇心を掻き立てたからだと考えられます。この“Q”が投稿するメッセージは、しばしば暗号的であり、フォロワーたちはそれを解読し、彼らなりの解釈を共有するのが一種の儀式のようになっていきました。

ついにQアノンがネットの闇から表舞台に出現!

Qアノンの投稿が始まったのは2017年10月。当初、その存在は4chanや8chan(現8kun)、Redditなどの掲示板に集まるAlt-Right(極右)指向のユーザー間でしか知られていませんでした。Redditはその特性上、ユーザーが陰謀論の調査や証拠の分析に時間を投資することが容易で、Qアノンの陰謀論が繁栄するのに適した環境でした。その結果、2018年までには数万人ものユーザーがQアノン関連のサブレディット(スレッド)に参加していました。

しかし、Qアノンが一部のオンラインコミュニティから大きな注目を集めるようになったのは、2018年の夏でした。2018年7月31日にフロリダ州タンパで開かれたドナルド・トランプの集会に、「Q」の文字を掲げたプラカードを持つ人々や、「Q」の文字を印刷した帽子やTシャツを着た人々が現れ始めました。この出来事をきっかけに、大手メディアがQアノンを取り上げるようになり、一般の人々の間でその存在が知られるようになりました。

2018年は米国の中間選挙の年でもあり、Qアノンの動向は選挙の要素の1つとして注目されたのです。その結果、Qアノンの情報が流れる場所は4chanのような特定のコミュニティから、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアに移り変わり、より広範な人々の目に触れるものとなっていきました。

インターネットの闇から表舞台に登場したQアノンは、その後さらに世界的な注目を集める現象へと成長してくことになります。

「ウェイフェアゲート」Qアノンの陰謀論が大手ネット通販企業に広がる

それから数年後の2020年、Qアノンは「ウェイフェアゲート」と呼ばれる陰謀論を拡散しました。これは、ネット通販会社「ウェイフェア」が人身売買に関与しているという根拠のない主張が展開されたものです。

ウェイフェアは家具や家庭用品を扱う大手のECサイトで、2002年に創業。当初は270ものニッチなECサイトを運営していましたが、2011年にホームグッズの総合サイトへと脱皮し、2014年にはニューヨーク株式市場に上場しました。

その規模は、2020年のアメリカの小売EC売上ランキングにおいて、1位のAmazon(シェア38.7%)、2位のウォルマート、3位のeBay、4位のApple、5位のホーム・デポに続き、6位に位置していました。つまり、ウェイフェアは米国内のネット通販業界で大きな影響力を持つ企業の一つということになります。

輸送コンテナと子どもの名前

ウェイフェアの大手ネット通販業界での地位を考えれば、その関連する噂は一気に注目を集めることは必然でした。この一件は、「ウェイフェアゲート」として知られるこの陰謀論の根源は、ウェイフェアが一部のキャビネットの価格を通常よりもはるかに高く設定し(1万2699ドル99セント~1万4999ドル99セント)、その商品名がYaritza、Alivya、Samiyahといった特異なものであったという事実にありました。

これらの要素が合わさり、陰謀論者の間で、これらのキャビネットが実際には人身売買のための「輸送コンテナ」であり、商品名は「被害に遭った子どもたちの名前」だという推測が広まりました。この情報は陰謀論を展開するRedditサブレディットで瞬く間に拡散し、特にQアノンの信者たちからの注目を集めました。

ピザゲートとの類似性

ウェイフェアゲートは、その構造と拡散パターンからして、ピザゲートという以前の陰謀論と非常に似ていました。ピザゲートは、ワシントンDCのあるピザレストランが、左派政府関係者によって運営されている児童売春組織の隠れ家だという、根拠のない主張から始まりました。

このような噂は、Qアノンの信者たちの間で特に広まりやすい傾向がありました。なぜなら、その信念体系は、エリートや権力者たちが児童を害し、または利用しているという考えに基づいているからです。

噂と陰謀論の対応、信じる人々の認識と抵抗

ウェイフェア側は、噂が広まり始めるとすぐに反応しました。彼らはこの誹謗中傷が全くの虚偽であると明確に声明を出し、問題となっていたキャビネットをウェブサイトから削除しました。しかし、これらの行動にも関わらず、噂はすぐには収束せず、陰謀論の投稿は数カ月にわたってSNS上で続けられました。

これは、陰謀論が一度広まってしまうと、その信じている人々から見れば「抑圧された真実」になり、否定する行動は「真実を隠蔽しようとするエリートの策略」であると解釈されることが多いからです。そのため、陰謀論は根絶やしにすることが非常に難しく、その影響は長期にわたって続くことが多いのです。

BBC News/YouTube

「#SaveTheChildren」Qアノンによるハッシュタグの乗っ取り

Qアノンの信者は、社会的な問題に対する人々の意識を利用して陰謀論を広める手法を採用しています。「#SaveTheChildren」はその一例であり、本来は子どもたちの人権を守り、児童販売に反対するためのハッシュタグとして、非営利団体が使用していました。

しかし、このハッシュタグがQアノンの信者たちによって乗っ取られ、小児性愛に対する陰謀論の拡散に利用されました。この結果、元々の意味から大きく外れたメッセージが拡散され、ハッシュタグの使用を開始した団体がその使用を否定する声明を出すほどの事態となりました。

Qアノンの信者たちは、人々が共感しやすい社会問題を挙げて関心を引きつけ、その上で自身の説を組み込むことで、徐々に信者の陰謀論に対する受容性を高めていきます。毒への耐性が身につくように、徐々に陰謀論に触れることで、それが「通常の」情報として認識されるようになるのです。

この戦略により、Qアノンは様々な人々を巻き込み、その思想を広めていきました。

CNN/YouTube
SNSの規制をくぐり抜けるQアノンの戦略

SNS(ソーシャルメディア)は、誰でも自分の意見を自由に発信できるプラットフォームを提供していましたが、同時に、不正確な情報や陰謀論が拡散するための場ともなってしまいました。

このような問題に対処するため、FacebookとInstagramはQアノン関連の投稿やアカウントを全面的に禁止しました。また、Twitterも同様に2020年7月にQアノンの投稿の表示を制限し、トレンドから排除する措置をとりました。

しかし、Qアノンの信者らは一見無害なハッシュタグを使って投稿を拡散するという手法を採用し、規制を巧妙に回避しました。その一例が「#SaveTheChildren」の運動で、この運動は元々反児童売買の正当なチャリティとして始まったものでしたが、Qアノンの信者によって乗っ取られ、そのメッセージが拡散されることとなりました。

これにより、反児童売買に関係する一部のFacebookグループはQアノンのコンテンツで埋め尽くされ、そのメンバー数は7月以降に3,000%以上も増加したと報じられています。

Facebookの規制に対する反発とTwitterにおける存在感

この現象に対応するため、Facebookは一時的に「#SaveTheChildren」のハッシュタグをブロックしました。これに対してQアノンの支持者からは大きな反発が出ました。

ハッシュタグはその後復旧されましたが、Facebookはコミュニティ規約に違反するコンテンツに対する監視を継続しています。

しかし、このような措置にも関わらず、Qアノンの信者たちは引き続き、表面上は無害そうなハッシュタグを利用して陰謀論を拡散し、そのメッセージを広く伝え続けています。その結果、Qアノンの影響力は依然として強く、特にTwitterではその存在感を示しています。

K-POPファンとアノニマスが共闘!Qアノンの乗っ取りへの抗議運動

活動家の集団「アノニマス」は、K-POPのファンと力を合わせてQアノンのハッシュタグを乗っ取るという独自の戦略を開始しました。これは、Qアノンの支持者がしばしば使うハッシュタグ、特に#WWG1WGA(「われら一丸となって共に進まん」の略)をターゲットにしたものです。

2020年6月3日、700万人以上のフォロワーを持つアノニマスのツイッターアカウント @YourAnonNews に、「匿名のすべてのK-POPの仲間たちよ!地球をハックしよう!」というメッセージが投稿されました。また、5月31日には「われわれはみんなにBlack Lives Matter(BLM、黒人の命は大事)を理解してほしいし、BLMキャンペーンのために、あらゆる手を尽くすつもりだ。問題は警察の残虐行為であり、不当な人種差別のシステムだ」というメッセージが投稿され、最終的に10万件以上の「いいね」を集めました。

さらに、アノニマスの別のアカウント @YourAnonCentral は、「ファシストのハッシュタグは、今やKPOPやアニメの投稿であふれ、何がなんだかわからない状態になっている。アノニマスの#OpFanCam部門は第2ラウンドに進む。陰謀ファシストの連中をもう一度懲らしめよう」と、Qアノンのハッシュタグを再び標的にすると宣言しました。

この共同キャンペーンは、K-POPファンとアノニマスが一体となって行動し、Qアノンのハッシュタグを乗っ取るという新たな形の抗議活動を展開しています。こうした取り組みにより、陰謀論の拡散阻止に向けた新たな戦略が模索されています。

Qアノンの狂信者が凶悪犯罪を引き起こし始める

Qアノンの活動は、その信念の一部が犯罪行為につながる場合があるという深刻な懸念を引き起こしています。過去には、Qアノンの信者がテロ行為を行ったり、殺人を犯したり、さらには自身の子供を誘拐したりする事件が発生しています。

2018年6月には、Qアノンの信者である男性がフーバーダムの道路を武装した車両で封鎖し、逮捕されました。この男性は2020年2月にテロ容疑で罪を認めました。また、2019年3月にはニューヨークでマフィアのボスを殺害した罪で起訴された男性がQアノンの支持者であると主張し、法廷で手のひらに描いたQのマークを公に示しました。男性の弁護士によると、彼はQアノンとその他の極右思想に狂信的で、その後彼は公判に耐えられない状態と認定されました。

さらに、複数のQアノン支持者である女性が自身の子供を誘拐した罪で起訴されています。彼女たちは、自分たちが人身売買から子供たちを守っていると信じていたとされています。

8 News NOW Las Vegas/YouTube
「Qアノン」と「イルミナティ」二つの陰謀論の影響を受けた凶行

2022年8月11日、南カリフォルニア在住の男性がメキシコで2人の子供を殺害した罪で起訴されました。訴追状によれば、この男性は「子供たちがモンスターに成長すると信じていたため、殺さなければならなかった」と供述しています。また、「Qアノンとイルミナティの陰謀論に啓蒙され、幻影や啓示を受けるようになった」と述べ、子供たちが妻から「蛇のDNA」を受け継いでいるとの啓示を受け、「モンスターから世界を守る」ために犯行に及んだと述べています。

Qアノンは、トランプ前大統領が悪魔崇拝を行う小児性愛者からなる秘密結社と戦っているという極右の陰謀論を広めています。この陰謀論では、この秘密結社は有名な民主党の政治家やリベラル派の著名人によって構成されているとされています。

一方、イルミナティは秘密結社が世界を牛耳っているとの陰謀論で、この男性が言及した「蛇のDNA」は、世界が人間の形をした爬虫類の結社によって秘密裏に運営されているという長年存在する陰謀論を指している可能性があります。

この事件は、Qアノンやその他の陰謀論がどれほど危険で、特に精神的に脆弱な人々にとってどれほど誤導するものであるかを示しています。陰謀論は現実から逸脱し、その信者を違法で危険な行動に駆り立てる可能性があります。

FOX 11 Los Angeles/YouTube

FBIが陰謀論を国内テロの脅威と位置付ける

陰謀論を動機とする暴力事件の増加を受けて、FBIは陰謀説を国内テロの脅威と見なすようになりました。2019年5月30日のFBIの文書では、特に「Qアノン」と「ピザゲート」に言及しています。文書によれば、これらの陰謀論はグループや個人の過激派を犯罪や暴力行為に駆り立てる可能性があります。

Qアノンとは、ドナルド・トランプ前大統領が悪魔崇拝と小児性愛者からなる影の政府と戦っているという陰謀論を広める極右の運動で、特にオンラインで広まっています。一方、ピザゲートは、ワシントンD.C.のピザ店がヒラリー・クリントン前国務長官と民主党高官による子供の性的搾取の場であるという、全く根拠のない陰謀論です。

これらの陰謀論は、信者による実際の暴力行為を引き起こす可能性があり、その危険性が広く認識されています。これに対応するため、FBIは国内テロの脅威として陰謀説を位置付け、その対策に取り組んでいます。

Global News/YouTube
created by Rinker
現代アメリカを覆う、Qアノン陰謀論の謎の真実に迫る!大好評の『みんな大好き陰謀論』でユダヤ陰謀論を徹底的に解明して見せた著者が現代社会で隠然たる影響力を持っているQアノンについて見事に解き明かした。これを読めば、現代の陰謀論がよくわかる! なぜ、いつも陰謀論が流行るのか?(「Books」出版書誌データベースより)
【Qアノン陰謀論(2)】「エプスタイン事件」の真実!陰謀論を超える現実とQアノン信者の急増

You might be interested in …

当サイトではプロモーションが含まれています。また、利用状況の把握や広告配信などのために、GoogleやASP等のCookieが使用されています。これ以降ページを遷移した場合、これらの設定や使用に同意したことになります。詳細はプライバシーポリシーをご覧ください

X