【Qアノン陰謀論(0)】ネット掲示板発の陰謀カルチャーに迫る!

過去100年以上にわたり根強い存在感を示してきた陰謀論。その中でもオンライン空間から現実社会へと広がったQアノンは、信者たちが謎めいたメッセージ「Qドロップ」を解読し、深層の真実を追求する過程で注目を浴びています。

驚くべきことに、全米の14%にも及ぶ可能性のある3000万人以上がQアノン信者とされ、彼らはトランプ大統領を崇拝し、真実の目覚めによって社会を転換すると信じています。しかしこの陰謀論の広がりは社会に大きな脅威をもたらす可能性があります。本記事では、アメリカの陰謀論とQアノンの深刻な影響力と、真実を追求する彼らの行動に迫ります。社会の闇を探り、驚愕の真実に踏み込んでみましょう。

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現代アメリカを覆う、Qアノン陰謀論の謎の真実に迫る!大好評の『みんな大好き陰謀論』でユダヤ陰謀論を徹底的に解明して見せた著者が現代社会で隠然たる影響力を持っているQアノンについて見事に解き明かした。これを読めば、現代の陰謀論がよくわかる! なぜ、いつも陰謀論が流行るのか?(「Books」出版書誌データベースより)

QAnon conspiracy theory

ネット生まれの陰謀論「Qアノン」

HBO/YouTube

陰謀論は新たな概念ではなく、歴史を通じて常に存在してきました。マイアミ大学のジョー・ウシンスキー教授が書いた「American Conspiracy Theories(アメリカの陰謀論)」という書籍によると、陰謀論は少なくとも過去100年間にわたり、社会の影の部分で常に存在感を示してきたと言います。

ロンドン大学ゴールドスミス・コレッジのクリス・フレンチ教授(心理学)によると、「人口の統計データを分析すると、陰謀論を信じる人々は社会階層、性別、年齢を問わずに広く存在している」とのことです。つまり、陰謀論は社会全体に深く浸透しており、個々人の視野や信条に大きく影響を及ぼしています。

さらに、ウシンスキー教授は、「陰謀論を全く信じていない人はほとんどいないだろう。少なくとも一つや二つは信じている陰謀論があるはずだ」と指摘します。「その理由は明確だ。世界は無数の陰謀論で溢れており、それら全てについて信じているかどうかを尋ねた場合、何らかの陰謀論については”はい”と答える人が少なからず存在するはずだ」と述べています。

SNS時代が到来!フェイク・デマ・陰謀を信じる人が急増

陰謀論は国境を越え、グローバルな現象となっています。地球平面説のように古くから存在する信念が再燃する一方で、Qアノン(QAnon)のような新しい動きも注目を集めています。これらの陰謀論が広まる背景には、インターネットとSNSの普及が大きく関与しています。

SNSの普及によって情報発信は民主化され、誰でも自身の意見や経験を共有することが可能となりました。これにより、我々は世界中から新鮮な情報を瞬時に得ることが可能になり、多様な視点に触れることができるようになりました。

しかし、一方でこの新たな情報エコシステムには重大なデメリットも存在します。特に、フェイクニュース、デマ、陰謀論が短時間で大量に広まるという現象がこれに該当します。これらの情報は、SNSのアルゴリズムによって広範なユーザーへと推薦され、人々の意見や行動に影響を及ぼすことがあります。

地球平面説の復活

地球平面説は、中世以前に広く信じられていたもので、科学的な進歩によって否定されてきました。しかし、近年、一部の人々が再び地球平面説を支持し始め、その理由の多くは陰謀論に基づいています。彼らは、政府や科学者が地球の真の形を隠していると信じ、SNSで積極的にその主張を広めています。Netflixのドキュメンタリー「Behind the Curve」は、この地球平面説の信者たちを取り上げ、彼らの信念とコミュニティに焦点を当てています。

QAnonの国際的拡散

日本でも、Qアノンに触発された陰謀論がSNSを通じて拡散されています。これは、アメリカの政治に対する関心が高まったこと、そしてインターネットがグローバルな情報交換を容易にしたことが影響していると考えられます。

Qアノンはアメリカ生まれの現象であるものの、その影響は既に全世界に波及しています。Qアノンの中核的な信念は、多くの国の政治情勢に対応する形で「ローカライズ」され、各国の文化や歴史、政治状況に独自の解釈を加えられています。この結果、Qアノンのメッセージは各地で異なる形状を取りながらも、その底流に流れる共通のテーマを保ち続けています。

2020年のアメリカ大統領選挙を契機に、Qアノンは更に大きな注目を集めるようになりました。この選挙において、Qアノンは一部の選挙候補に対する支持を表明し、これによりその影響力が一層明らかになりました。さらに、選挙結果についての一部の主張は、選挙後もアメリカ国内外で広範に共有され、議論を巻き起こしました。

日本でもこの動きは例外ではありませんでした。アメリカの選挙に関して、Qアノンと同様の主張が日本のSNS上で拡散されました。特にTwitterやYouTubeなどのプラットフォームを通じて、Qアノンのメッセージは日本のユーザーにも伝わりました。

このように、デジタルメディアの発展により、陰謀論はもはや国境を越えて広まることが可能となっています。その一方で、この新たな現象に対処するための方法論はまだ十分に確立されていません。そのため、情報リテラシーの向上や批判的な思考の養成が、今後ますます重要となっていくでしょう。

陰謀論の特徴

陰謀論は、基本的に以下のの特徴を持っています。

  1. 秘密裏に計画、実行され、隠蔽されている:陰謀論は通常、政府やその他の強大な組織が、公には明らかにされていない秘密の計画を持っているという考えに基づいています。これは「隠蔽」または「秘密の計画」の概念に関連しており、すべての大事件や社会的な現象は何らかの秘密裏の策略の結果であると見なします。
  2. エリートの陰謀:陰謀論者は通常、政府や企業、富裕層、知識層などの「エリート」が陰謀の背後にいると信じています。これは、パワーを持つ人々が彼らの利益を保護するために秘密の計画を立てているという考えに関連しています。
  3. 他の陰謀論への信念の連鎖:一つの陰謀論を信じる人は、他の陰謀論も信じる可能性が高いです。これは、「システムは対抗するために秘密裏に動いている」という基本的な信念に基づいています。その結果、陰謀論者は多くの異なる陰謀論に引き込まれる可能性があります。

陰謀論が広まる理由は様々ですが、不確実性や恐怖、欠如する情報への需要、または単に物語としての興奮やエンターテイメントとしての価値を求める人々がいるからです。しかし、陰謀論はしばしば誤った情報に基づいており、人々が事実に基づいた意思決定をするのを困難にする可能性があります。したがって、批判的思考スキルの教育と、信頼できる情報源からの情報の入手が重要となります。

自分たちは真実に気づいた「目覚めた人」

陰謀論を信じることで、「自分だけが世の中の真実に気がついてしまった」と感じる高揚感や、「真実に目覚めた」優越感に浸ることができます。

さらに、Qアノンの信者は、多くの既存メディアがQAnonを陰謀論と警告していることを利用しています。つまり、「既存のメディアこそが真実を隠しているのだ」という自分たちの信念が間違いっていない証明にしているのです。信者たちは、メディアがQAnonを否定すればするほど、逆に陰謀論を真実だと思い込んでいきます。

彼らの信念を裏切るものではなく、むしろそれを強固にするものなのです。この逆説的な信念システムは、Qアノンという現象の核心的な特徴の一つと言えます。

そのため陰謀論にハマっているのにも関わらず、自分は「陰謀に気付いている」のだと主張します。

何かよくない出来事が起きると「陰謀のせいだー」

陰謀論は、自己の苦境や不幸を、外部の力、特定のグループ、あるいは正体不明の秘密組織のせいにして、「自分は被害者である」という意識を膨れ上がらせる事ができます。

陰謀論者は、自分自身の振る舞いによって引き起こされた問題すらも、社会や特定のグループの責任に転嫁することが可能になるのです。

この考え方は、「世の中が変なのも、自分の運が悪いのも、陰謀のせい。自分のせいではない」というような感情からくるもので、外部の要因に過度に依存しているためです。

確かに、自己評価やプライドを守りながら、一時的な安心感を得ることはできますが、何の解決にもなっておらず、むしろ現実逃避になっていまします。

なんと特殊部隊SWATのリーダーまでも信者に!?

陰謀論の影響は不平不満が溜まりやすい、社会の底辺だけでなく、さまざまな専門職、さらには法執行機関の高位にまで及んでいます。

特に衝撃的だったのが、米紙「ワシントン・ポスト」が報じたフロリダの特殊部隊SWATのリーダーのケースです。この記事によれば、「SWATチームのリーダーが、マイク・ペンス副大統領と一緒にいる際にQアノンのワッペンを制服に付けていた」ことが発覚し、その結果、この人物は郡保安官事務所から懲戒処分を受け、任務から解かれたとのことです。

この事例は、陰謀論が社会の各層にどれだけ深く浸透しているかを示すと同時に、それが公共の安全を脅かす可能性があることを警告しています。公の役職にある者が陰謀論に影響を受けることで、その人物の判断が曲げられ、彼または彼女が提供するべき公正で無私的なサービスが損なわれる恐れがあるからです。

Proud Boys at World Wide Rally in Raleigh (2021 Mar)

Qアノンの起源と意味

「Q」は、アメリカ合衆国エネルギー省が管理する情報セキュリティークリアランスの最高レベル「Qクリアランス」を指します。Qクリアランスを保持することで、核兵器に関する最高機密情報へのアクセス権が与えられます。つまり、このレベルの情報にアクセスできるのは、最も信頼性が高く、最も厳しい背景調査を通過した個人だけです。

Qクリアランスの名称は、このレベルのセキュリティを保持していると主張するユーザーによって、Qアノン運動の名前の一部として使用されました。しかし、その主張は証明されていませんし、アメリカ政府やエネルギー省からの正式な確認もありません。

ClearanceJobs/YouTube
“Anon”とは?

「Anon(アノン)」は、「anonymous(匿名)」を意味します。これは、インターネット上で個人を特定しない形で情報を共有する文化に由来します。特に、匿名の投稿が可能な掲示板やフォーラムでは、個々の投稿者は「Anon」と呼ばれることがあります。

このことから、「QAnon(Qアノン)」は、「Q」を名乗る匿名の人物(おそらくは複数存在するとされています)や、その人物が共有する情報のフォロワーを指すようになりました。彼らは、Qの投稿を解釈し、広めることで、自分たちが見る「真実」を他人にも知らせようと試みています。

起源は4chan!「嵐の前の静けさ」

QAnonの始まりは、匿名投稿が可能な掲示板「4chan」にさかのぼります。4chanは、元々は日本のインターネット掲示板「2ちゃんねる」からインスピレーションを受けて作られたもので、その海外版とも言えます。

2017年、一人(あるいは複数)の匿名ユーザーが「Q」を名乗り、「嵐の前の静けさ」(Calm Before the Storm)というスレッドを立てて投稿を始めました。「Q」は自身が政府の機密情報にアクセスできる人物であると自称し、様々な予言や暗号めいた情報を掲示板に投稿しました。

このスレッドは「/pol/」という板に立てられました。「/pol/」は、政治議論のための板で、多様な思想を持つ人々が訪れます。しかし、「/pol/」は特に極右思想のユーザーに人気であり、時には過激な議論や行動が起こることもあります。

その後、掲示板「8kun」に書き込み始める

2017年10月、匿名掲示板「4chan」で初めて現れたQは、その後「8kun」へと移動しました。

8kunは、8chanという匿名掲示板の後継となるもので、父親のジム・ワトキンスがオーナーを務めています。8chanは、2019年8月のエルパソ銃乱射事件の際に、犯人が犯行声明を掲示板に投稿したことがきっかけで、オンラインセキュリティ企業からのサービス提供を停止されました。これにより一時的にオフラインとなった8chanですが、約3カ月後に新たに「8kun」として再開しました。

Qアノンの信者たちは、こうした掲示板がQからのメッセージを受け取る重要な場所と考え、これらのプラットフォーム上で活発に情報交換を行っています。その活動はインターネットを超えて現実世界へも影響を及ぼし、様々な社会現象として注目を集めています。

“アノンと宗教団体の関係…保守的な宗教勢力における支持の広がり

Qアノンは、単なるインターネット上の現象にとどまらず、保守的な宗教勢力の間でも支持を集めています。その中には、アメリカだけでなく日本でも活動している宗教団体も含まれています。

その一つが統一教会(現・世界平和統一家庭連合)です。この教会は、韓国の教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)によって設立され、世界中に信者を持つ大規模な宗教団体であり、政治活動にも積極的に関与しています。

また、統一教会から分派したサンクチュアリ教会もQアノンに関与しています。この教会は、文鮮明の7男である文亨進(ムン・ヒョンジン)が率いており、日本では「日本サンクチュアリ協会」という名前で活動しています。

さらに、中国発祥の宗教団体である法輪功も、アメリカでQアノンに関与している団体の一つです。法輪功は、中国政府から弾圧を受けながらも世界中に広がっており、自由や人権の擁護を訴える立場から、Qアノンに共鳴する一部の信者が存在します。

「Qドロップ a.k.a パンくず」陰謀の深みに誘い込む謎の暗号文

Qの投稿は、「ドロップ(drops)」または「パンくず(breadcrumbs)」と呼ばれ、その短い文章と多種多様な解釈が可能な曖昧な表現により、一種のパズルとしてフォロワーの間で注目を集めました。これらの投稿はしばしば固有名詞をイニシャルで示すなどの方法を用いて、暗号のようにメッセージを伝えています。例えば、「HRC」はヒラリー・ロダム・クリントンを、「TKG」は卵かけご飯を指しています。

パズルの解読から見える陰謀世界とカルト

Qが新しい「Qドロップ」が投稿すると、信者たちはこれをパズルのように自分たちで解読をし始め、その奥にあるとされる「真実」を探るために調査を行います。

この一連の行動パターンは、カルトやテロリスト組織が新しいメンバーを募集する際に見られる流れよく似ています。それは、個人が自分自身で活動することを通じて、特定の信念体系に徐々にハマっていくという点です。Qアノンでは、信者たちが同じ幻想を共有し、その世界観を拡散していく中で、一種の共同体が形成されています。

陰謀論の迷宮から抜け出せず…無限に進む再解釈

QAnonの陰謀論は、やっかいなことに否定ができないように構成されています。例えば、陰謀が真実ではないことが発覚したとしても、信者たちは「Qが間違っているのわけではではなく、Qドロップの解読が間違えている」「いや!もっと深い意味がある」と解釈します。そして再び陰謀論の世界に浸かっていきます。

「WWG1WGA」信者たちの団結の象徴のスローガンの意味とは?

QAnonの信者たちがよく使うスローガンに「Where we go one we go all(我々は一致団結して進んでいく)」、略して「WWG1WGA」があります。このフレーズはソーシャルメディアの投稿において頻繁に見られ、Qアノン信者たちの結束の象徴となっています。

このスローガンの起源は、1996年に公開されたアメリカの映画『ホワイトスコール(邦題:白い嵐)』にあります。この映画は、海洋学校の訓練船が嵐で遭難するというストーリーで、船長が「WWG1WGA」のフレーズを用いています。映画のこの部分は、団結して困難な状況を乗り越えるという強いメッセージを持っています。

QAnonの信者たちはこのフレーズを採用することで、「我々のゴールはひとつだ。結束して、みんなでこの嵐を乗り越えよう」という意志の結集を表現しています。ここでの「嵐」とは、一般に混沌や困難を象徴するもので、QAnonの観点からは特にエスタブリッシュメント(既得権益者)や政府の腐敗したシステム、つまり彼らが認識している「ディープステート(DS)」を指しています。

驚愕の現実!多数の人々が陰謀論に影響を受けている深刻な状況

Qアノンの陰謀論はその内容が多種多様で、主にインターネット上で広がっているため、その信者の正確な数を把握することは難しい。しかし、過去の報道や専門家の分析によれば、その数は数十万人から数百万人にも及ぶと推定されています。

具体的には、2021年に行われたある調査では、Qアノンが主張する基本的な陰謀論3つ(政界やメディア、金融界が子供の性的人身売買を行う悪魔崇拝者に操られているとするものなど)に同意する「信者」が全体の14%に達したと報告されています。この調査結果を全米の総人口に換算すると、Qアノン信者は3000万人を超える可能性があります。

これは、QAnonの陰謀論が広範であること、またインターネットを通じて瞬く間に情報が拡散される現代社会の性質を反映していると言えます。

全能の存在としての「ドナルド・トランプ」

QAnonの支持者たちは、トランプ大統領を全能の存在として尊敬しています。彼らにとって、トランプはこの世界に善を取り戻すために神によって選ばれた人物とされています。この見解は、アメリカのエバンジェリカルズ(キリスト教福音主義派)のトランプ論と非常に類似しています。

Donald Trump

トランプ大統領とキリスト教福音主義派「エヴァンジェリカルズ」の関係

エヴァンジェリカルズ(キリスト教福音主義派)は、アメリカ国内に推定1億人というアメリカ最大の政治勢力であり、アメリカの人口の30~35パーセントを占めています。彼らは聖書の教えを絶対視する保守系キリスト教徒であり、宣教活動やロビー活動、草の根の政治運動を通じてアメリカ外交に大きな影響を与えています。

エヴァンジェリカルズは神がユダヤ人にエルサレムを与えたのであり、エルサレムはイスラエルの首都として認められるべきだと主張しています。トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認める宣言を行った際にも、国際的な反発や混乱を引き起こしながらも、エヴァンジェリカルズからの強い支持を受けています。

エヴァンジェリカルズの影響はエルサレム問題だけにとどまらず、アメリカの多くの政策決定、特に外交政策の決定に大きな影響を与えています。彼らを理解することは、アメリカの政治や社会を理解する上で欠かせない要素です。

道徳よりも信念…なぜトランプ大統領を支持し続けたのか?

また、トランプ大統領はエヴァンジェリカルズの支持を大いに活用しています。大統領選挙中には彼らに急接近し、その支持を取り付けることに成功しました。彼らはトランプ候補の道徳性を問わず、キリスト教倫理の復活に役立つと判断し、トランプ大統領を支持し続けています。

エヴァンジェリカルズとQアノンにとっての救世主

Qアノンとエヴァンジェリカルズの両者は、トランプ大統領を神に選ばれた救世主と見なし、その活動や政策を支持しています。これは、社会的・政治的な影響力を持つ両者が、トランプ大統領と彼の政策をどのように評価し、その活動をどのように支持しているかを示しています。

QAnon信者が熱望する「嵐」と「大いなる覚醒」とは?

QAnonの世界観では、「正義vs悪」が戦っているとされています。信者たちは、ドナルド・トランプが正義側に立って密かに悪と戦っていると信じています。QAnonの信者たちは、「嵐」(The Storm)と「大いなる覚醒」(The Great Awakening)と呼ばれる2つの中心的な出来事を待ち望んでいます。

嵐(The Storm)

「嵐」は、QAnon信者によって、世界のエリートや権力者が大量に逮捕され、裁かれるとされる未来の出来事として語られています。彼らは信じているように、これらの権力者は深刻な犯罪、特に子供に対する性的搾取や悪魔崇拝に関与しているとされ、トランプが率いる正義の勢力によってついに制裁されると考えています。

大いなる覚醒(The Great Awakening)

一方、「大いなる覚醒」は、一般の人々が世界の真実に目覚め、エリートや権力者によって操られてきた事実を理解し始めるとされる時期を指します。これは、QAnon信者によって、人類が真実を知り「正義vs悪」の戦いの中で人々が正義側に立つようになる瞬間として期待されています。

Qアノン信者たちは、これらの出来事が近い将来に起こると本気で信じ、自分たちの役割は真実を広め、人々を覚醒させることだと考えています。しかし、これらの信念は根拠のない陰謀論に基づいており、現実的な証拠はありません。

「真実の目覚め」大いなる覚醒によって人々が真実を知り、世界が変革される

Qアノン信者たちは、「大いなる覚醒」(The Great Awakening)を通じて、人々が真実に目覚め、QAnonの陰謀論が正しいと認識することによって、世界が変革されると信じています。彼らは、この「大覚醒」の時代が来ることにより、悪徳や腐敗が一掃され、真の正義と平和が築かれると期待しています。

ユートピア(理想郷)への道

QAnonの信念では、「大いなる覚醒」が起こると、社会はユートピア(理想郷)の時代へと突入するとされます。このユートピアは、公正、平等、真の自由が実現し、人々が悪の勢力から解放されて、幸福と繁栄を享受する場所とされています。彼らは、トランプとQアノン信者たちが代表するとされる正義の勢力が、これらの理想的な変革をもたらす中心的な役割を果たすと信じています。

Qアノンと「大覚醒」の歴史的な意味合い

Qアノン信者は、彼らの目指す「大覚醒」を一種の福音的真実と位置づけています。これは、一般的な誤解や偏見、そして彼らが主張するリベラル派の嘘が明らかにされ、全人類がその真実に目覚めるという、彼らの信じる変革の時期を指します。

アメリカの「大覚醒」の歴史

Qアノンの使用する「大覚醒」の概念は、アメリカの宗教史を反映しています。アメリカでは18世紀と19世紀に「第一次大覚醒」および「第二次大覚醒」なる宗教的なリバイバル(信仰復興)が起こりました。これらの時期にはキリスト教の熱烈な信仰が広まり、社会的、宗教的な変革が引き起こされました。この歴史的な背景から、QAnonはその宗教的な理論に「大覚醒」という名を冠したと考えられます。

Qアノンの「大覚醒」は、歴史的な「大覚醒」とは大きく異なります。QAnonの信者は社会全体が「真実」を認識することで世界が一新されると信じていますが、その「真実」はQAnonが提唱する陰謀論に基づいています。これは歴史的な「大覚醒」が社会や宗教におけるリバイバルを目指したのとは大きく異なります。

中心的思考!ディープステート(影の政府)の概念とその主張その背景

Qアノンの中心的な思考の一つが影の政府(ディープステート・DS・Deep State)という概念です。これは、リベラル派の政治家、官僚、国際主義者などが密かに権力を握り、アメリカや世界を影で操作しているという陰謀論です。

信者たちによれば、気候変動やコロナウイルスのパンデミック、さらにはメディアによるフェイク・ニュースはすべてこの「ディープステート」が実行した陰謀であるとされます。

エリートの行為に関する荒唐無稽な主張

この陰謀論の中にはは、このディープステートを動かしているとされるエリートたちが、少女を誘拐し、その血を飲むという極端で荒唐無稽な主張まで及びます。これは非常に極端な主張であり、証拠は全く提供されていません。

トランプをアルマゲドンにおける指導者として主張

さらにこのディープステートに対する革命を、聖書に記された最終戦争「アルマゲドン」に例えています。彼らは、この「正義vs悪」の戦いの中で、トランプが指導者となると主張しています。

「アメリカを再び偉大に」の意味

トランプ大統領のスローガン「Make America Great Again」は、Qアノンの世界観では、単なる経済的な成功を指すだけではありません。それは、キリスト教的な倫理観をアメリカ社会に復活させ、アメリカを道徳的にも偉大な国にするという意味も含んでいるとされています。

既存メディアの報道をすべて「フェイク」であると見なす傾向

このような極端な陰謀論に囚われると、新聞やテレビなどの既存メディアが報じる情報はすべて「フェイク」であると見なされ、陰謀論者たちの思考は揺るぎないものになります。このような思考を通じて、トランプはアメリカを「再び偉大な国家」にするというQアノンたちの目標に向かうとされています。

Donald Trump

神秘的な数字「17」とQアノンの解釈

Qアノンの陰謀論の中には、数字の「17」が特別な意味を持つという信念が存在します。Qはアルファベットの17番目の文字であるため、Qアノン信者の間では、この数字はコード化されたメッセージの一部であり、Qが存在することの証であるとされています。

この信念は、具体的な事件や状況と結びつけて解釈されます。たとえば、トランプ元大統領が大統領になる前に首都ワシントンを訪れた回数が17回だったとされること、またはアラバマ大学アメリカンフットボール部が全国選手権で優勝した際にホワイトハウスを訪問し、トランプ元大統領に贈られたユニフォームの背番号が17であったといった事例が挙げられます。

これらは偶然の一致である可能性が高いですが、QAnon信者にとっては「真実のサイン」や「愛国者の番号」として解釈されます。

これに加えて、QAnon信者たちは、トランプが数字の「17」を公に使用する際には、それが秘密のメッセージであると捉えます。同様に、彼がピンクのネクタイを着用したときは、それが人身売買に巻き込まれた子供たちが解放されたサインだと解釈します。この解釈は、「コードピンク」という子供の誘拐を象徴する隠語から連想されています。これらの信念は、QAnon信者の間で盛り上がりを見せ、彼らの世界観をさらに強固にしています。

Qアノンと「カエルのぺぺ」のの結びつき

ネットミームは、インターネット上で模倣され、拡散されるキャラクター、画像、行動などを指します。「カエルのぺぺ」は、そのようなネットミームの一つで、特にQアノンの信者たちの間でシンボルとしてよく登場します。

ぺぺは、アメリカのアーティスト、マット・フューリーによって作られたコミック「Boy’s Club」のキャラクターで、元々はユーモラスなネットミームとして人気を博していました。しかし、時間が経つにつれてその使用方法が変化し、極右のインターネットコミュニティによって悪用され、様々なヘイトスピーチのシンボルとして使用されるようになりました

moviecollectionjp/YouYube
ペペの起源とミーム化の始まり

マット・フューリーは1979年に生まれ、自身をシャイなオタク青年と称していました。彼が2005年にネットに発表したマンガ「ボーイズ・クラブ」は、自身と友人たちをモデルにした作品で、主人公のペペとその仲間たちのグダグダな日常を描いていました。この作品は下品な笑いを散りばめた内容で、多くのネットユーザーの共感を得ました。

フューリーは、自分のキャラクターがネット上で一人歩きするようになるとは想像していませんでした。彼が自身の作品であるペペがネット上で急速に有名になるまで、「ミーム」という言葉さえ知らなかったほどです。

しかしその後、ペペがコミック内で発した一言「feels good man(気持ちいいぜ)」が大きな反響を呼びました。あるSNSユーザーがこのセリフを使って筋肉自慢投稿を行ったことで、ペペは一時的なネットミーム、つまりバズりネタになったのです。これが起こったのは2000年代初頭で、まだmyspaceが主流のSNSであり、Instagramがネット世界を制覇する以前の話です。

この頃のマット・フューリーは、自分の作品がこのように拡散されたことを「いい感じ」と受け止め、その動きを静観していました。

「ペペ」のミーム化と闇落ち

2008年ごろから、Myspace、Gaia Online、4chanなどを通じて、ペペはインターネット・ミームとして有名になりました。特に4chanでは、2015年ごろには最も有名なインターネット・ミームのひとつに数えられるほどになりました。4chanは、日本の2ちゃんねるから着想を得た匿名掲示板で、ここでの住民たちは、社会的な制約から自由な感情や思想、発想や冗談を吐き出していました。

ペペはこの環境に適応し、そこで発散されるさまざまな感情を表すカエルへと“進化”してしまいました。「ドヤ顔のペペ」や「怒るペペ」など、ぺぺから進化したミームが続々と登場し、ネットの片隅で罵り合い、時には慰めあっていた日陰者たちのアバターとなっていったのです。

その後、Instagramの登場により個人の投稿が即座にビジネスにつながる時代が到来すると、一部のセレブリティや成功者たちがペペを使用し始めました。しかし、これに対してインセル(非モテ男=不本意な禁欲主義者)ら古参ネット民たちは憤慨しました。彼らの差別心が呼び覚まされ、ペペは再び彼らの怒りのアイコンとして利用され始めました。

二次創作の連鎖(N次創作)により、このミームは醜悪かつ過激なヘイト活動に発展していきました。もっと注目されたいという欲求や、やり場のない不満や怒りは、ネット上で際限なく膨らみ、度を越した誹謗中傷や差別的発言へとつながりました。ペペを使ったそれらの投稿は浅はかで、見ていて本当にがっかりしますが、誰かの強烈な負の感情は、その強烈さ故に私たちを引きつけるというのも事実です。この事例は、インターネットミームの闇の部分を如実に示しています。

2016年アメリカ大統領選挙での「ぺぺ」

ペペのキャラクターの知名度を一気に世界的なものに押し上げたのは、2016年アメリカ大統領候補のドナルド・トランプでした。アメリカ第一主義を掲げたトランプは、ペペが代弁する人々の負の感情を巧みにとらえ、彼らの支持を集めました。

トランプをペペのキャラクターに合成したコラージュがSNSに投稿され、それをトランプ自身がリツイートしたことがきっかけで、ペペはトランプ支持者のシンボルとして機能するようになりました。これは作者の意図に反するものでしたが、それでも選挙戦の最中にペペは広く掲げられました。

トランプ自身もペペ画像をリツイートし、演説で「ぺぺ・トランプ」の真似をするなど、このミームを利用しました。これにより、インターネット上の新興右翼、特に「オルト・ライト(alt-right)」と呼ばれるグループが活発化しました。彼らもペペを使用し、差別思想や陰謀論をばらまいたのです。

ペペの拡散は、政治に無関心な層も巻き込む結果となり、トランプの当選に一役買ったとされています。

ヘイトシンボル…「ぺぺ」が名誉毀損防止同盟の指定

2016年9月、その広がりを見て驚いたのは、アメリカ大統領候補であったヒラリー・クリントンでした。彼女は公式ウェブサイトにて、ペペを人種差別主義者によるヘイトの象徴とみなし、これについて詳細に述べました。

さらに、名誉毀損防止同盟(ADL: Anti-Defamation League)がペペをヘイトシンボルとして指定しました。ADLは、「オリジナルのペペは人種差別的なキャラクターではない」と補足しつつ、その一方でペペが悪用され、人種差別的な意図で使われている現状を指摘しました。

これはペペの作者であるマット・フューリーにとって大きな打撃でした。彼が生み出したキャラクターが、自身の意図とは全く異なる形で利用され、さらにはその名前がヘイトシンボルに関連する形で公に掲載されることとなったのです。

「ぺぺの葬式」の発表…作者のキャラクター愛

ペペのイメージが大きく歪められ、ヘイトシンボルとして認識されるようになったことに対し、作者であるマット・フューリーはその修復に向けた努力を続けました。彼はネット上でキャンペーンを行い、オリジナルのペペの意味と価値を説明し、再びポジティブなキャラクターとして認識されるよう呼びかけてきました。

しかし、これらの努力が効果を挙げることはなく、2017年5月、フューリーは一つの決断を下します。「魂だけでも取り戻す」という思いから、「ぺぺの葬式」を描きました。フューリーが公開したこの短い漫画では、ぺぺが棺に横たわり、彼の仲間たちがその死を悼む様子が描かれています。

彼が生み出し、大切に育ててきたキャラクターが、社会的な問題と結びつけられ、自身の制御を超えて悪用されてしまったことへの悲しみと無力感を、フューリーはこの作品を通じて表現したのかもしれません。しかし、それは彼がぺぺをあきらめたわけではありません。

作者にによるペペの「奪還」とヘイトシンボルへの抵抗

フューリーは、ペペを死なせるという決断を下したものの、キャラクターの奪還を諦めたわけではありませんでした。彼は自身の作品の著作権を守るため、そしてペペをヘイトの象徴とする流れを食い止めるために法的な手段を積極的に活用しました。

特に注目すべきは、彼がオルタナ右翼のアンダーグラウンドサイトThe Daily Stormerに対して起こした訴訟です。フューリーはこのサイトがペペを使用して著作権を侵害していると主張し、2018年7月、サイト上の40以上の記事の取り下げを勝ち取りました。

また、同年3月、フューリーは右派系論者でラジオ番組司会者でもあるアレックス・ジョーンズが保有するニュースメディアInfowarsを提訴。ジョーンズが販売していたペペのポスター販売を停止させることに成功しています。

これらの訴訟活動は、フューリーがペペのイメージ修復を目指す一方で、ヘイトシンボルとしての使用に対して法的に立ち向かう決意を示すものでもありました。

ペペと右翼過激派の危険な結びつき

しかし、2021年1月6日のアメリカ連邦議会議事堂への乱入事件で、ペペが右翼過激派や極右団体と関連付けられる光景が世界に発信されてしまいました。トランプの支持者が集結し、議事堂に乱入したこの事件では、ペペのTシャツやかぶり物を身に着けた人々の姿が目撃されました。

また、アロハシャツを着てライフル銃で武装する極右過激派「ブーガルー」も、ロゴマークにペペをあしらうなど、ペペのイメージを利用していることで知られています。このように、ペペは右翼過激派やオルタナ右翼によりヘイトシンボルとして使用され続けており、その結果、その本来のキャラクターとは異なる印象を一部の人々に与えることとなってしまいました。

『マトリックス』と陰謀論

2021年はトランプ政権の交代とともに陰謀論が一部のホワイトハウスの住人を占拠するに至った年でした。その中で、映画『マトリックス』は陰謀論者にとっての一種のバイブルとなっており、また、自身の力強さや男らしさに憧れる一部の人々にとっての象徴としても機能しています。

錠剤の選択が表す陰謀論者の決断!レッドピルとブルーピルの意味

『マトリックス』に登場する主人公、ネオが青い錠剤か赤い錠剤のどちらを飲むかを選ばせるシーンは特に有名で、その選択は現実と幻想の間で揺れ動く象徴的なものとなっています。青い錠剤を飲めば、すべてが終わり、ベッドで目覚めて自分が信じたいものを自由に信じることができます。一方、赤い錠剤を飲むと、世界の真実、つまり現実を直視することになります。

この選択は、陰謀論者にとって特に重要な意味を持っています。『マトリックス』の赤い錠剤は「現実を直視する」、「真実に目覚める」といった意味合いで使われ、その一方で「青い錠剤を飲む」は「現実から目を逸らす」といった意味合いを持ちます。

こうした錠剤の選択、つまりレッドピル(赤い錠剤)とブルーピル(青い錠剤)の間で揺れ動く選択は、陰謀を信じるか否かという選択のメタファーとして解釈されます。これは陰謀論者たちが自身を抑圧する力、すなわち陰謀を信じるか、信じないかを選ぶ瞬間を象徴しています。

Movieclips/YouTube
レッドピル=共和党=トランプを選ぼう

2020年5月、そのような「レッドピル」思想が更に広範な認識と受け入れられる瞬間が訪れました。実業家でありテスラとスペースXのCEOであるイーロン・マスクがTwitterで「レッドピルを飲もう(Take the red pill)」とツイートしました。そのツイートに対し、当時のアメリカ大統領の娘であるイヴァンカ・トランプが「すでに飲んでいる(Already taken)」と応え、賛同の意を示しました。

この時期、イーロン・マスクは新型コロナウイルスのパンデミック対策としてのロックダウン延長に強く反対する立場を示しており、「アメリカを解放せよ(FREE AMERICA NOW)」といったコメントをTwitterで投稿していました。

マトリックス監督の怒り爆発!

そのようなマスクとイヴァンカ・トランプに対して、『マトリックス』の共同監督であるリリー・ウォシャウスキーはTwitterで「お前らどっちもくたばれ(Fuck both of you)」と言い放つという鋭い反応を見せました。

女性差別の象徴「実は男性が抑圧されている」

アメリカの政治システムでは、国民が直接大統領(政治の最高指導者)を選出します。主要な候補者は通常、保守的な共和党とリベラルな民主党から立候補します。それぞれの党は、色彩によって象徴化され、共和党は赤、民主党は青として知られています。

そこで一部の共和党支持者や反リベラル派は、「レッドピルを飲む」ことを、「民主党(そのイメージカラーは青)の欺瞞から覚醒し、共和党(そのイメージカラーは赤)の真実を受け入れる」と解釈しました。

さらに、この期間中に「レッドピルを飲もう」というフレーズは、「ドナルド・トランプを支持しよう」と解釈されるようにもなりました。トランプは、2016年と2020年の大統領選挙で共和党の候補者でした。

さらに、「レッドピル」というフレーズは、一部の男性優位主義者によっても使われています。彼らは、「レッドピルを飲む」ことを、男女平等の思想を否定し、男性が社会で経験すると彼らが主張する不平等を認識することと解釈しています。このように、「レッドピル」は、多様な意味を持つようになり、一部の人々にとっては政治的な宣言や社会的な覚醒を象徴するフレーズとなりました。

レッドピルの意味が拡散!トランプ支持や男性優位主義との関連を探る

さらに『マトリックス』の公開から20年が経った2019年には、映画の中で描かれる主題や象徴的な要素が再び注目され始めました。特に、トランプ時代の政治状況との関連性についての議論が活発に行われています。

この頃「レッドピルを飲む」という行為が、特にアンチ・リベラルなコミュニティにおいて、社会の主流からは無視されていると主張する「隠された真実」に目覚めることを象徴するようになっていました。

具体的には、「この世界では女性や有色人種が差別されているとされているが、真に抑圧されているのは白人男性である」という視点を持つ人々によって、「レッドピルを飲む」または「Red-Pilled」になるという表現が用いられており、彼らはこの表現を使って、社会の偏見や立場を挑戦し、それに対する自分たちの真実を主張しています。

レッドピルの起源!「メンシウス・モールドバグ」と新反動主義の思想を解剖

メンシウス・モールドバグ(本名:カーティス・ヤーヴィン)というブロガーは、政治的な文脈で初めて「レッドピル」を使った人物として知られています。

彼はその発言と、自ら唱える「新反動主義」(Neoreactionary)の思想で、特にアメリカのオルタナ右翼(Alt-Right)の理論家として一定の影響力を持っています。

新反動主義とは、現代のリベラルな社会秩序や民主主義を否定し、伝統的な階層制度や君主制に戻るべきだと主張する思想です。モールドバグの主張は自由民主主義や人権に対する批判を含んでおり、彼のブログやインターネット上での議論は広範な注目を集めました。

その影響力はドナルド・トランプ前大統領の側近、スティーブ・バノンにも及び、初期のトランプ政権に影響を与えたとされています。モールドバグが2007年に「レッドピル」という言葉を使い始めた時、その意味合いは「社会の主流からは見えない真実」に目覚めるというものでした。この表現はその後、オルタナ右翼やその他の反リベラルなグループによって広く使われるようになり、その中には、社会的なリベラリズムやフェミニズムに対する挑戦的な意味合いを含むものもありました。

「白いウサギを追え」Qアノンにとっての象徴的フレーズ

「”Follow the White Rabbit”(白いウサギを追え)」というフレーズは、元々はルイス・キャロルの物語『不思議の国のアリス』に由来しています。アリスが不思議な国に入るきっかけとなった白いウサギを追いかける、この有名な文句は、後に映画『マトリックス』で再利用され、より深層的な真実を探求することを象徴するものとなりました。

しかしこのフレーズは、アメリカの極右・陰謀論グループ「Qアノン」によってさらに変質しました。「Qアノン」の信者たちは、このフレーズを自身たちの追求する「深層の真実」や、政府やエリート層による陰謀の「兆候」を探し続ける、その行為自体を象徴するスローガンとして用いています。

そして、その「Qアノン」の信者たちは、2020年の大統領選挙における不正投票のデマを広め、その結果、2021年1月6日には議会議事堂に乱入するという暴動を引き起こしました。この出来事は、インターネットの陰謀論が現実の世界で深刻な影響を及ぼすことを示す一例となり、社会全体に警鐘を鳴らす出来事となりました。

小説『Q』陰謀と虚偽の流布の共通点

QAnonの神話の起源は、驚くべきことに、1999年に出版されたイタリアの小説『Q』まで遡ることができます。この小説はルーサー・ブリセット・プロジェクト(LBP)という匿名作家集団によって共同執筆され、30カ国以上で出版されました。日本でも翻訳され、多くの読者に読まれています。

小説『Q』は、宗教改革時代の欧州を舞台に、「Q」の名を持つ秘密工作員の物語を描いています。この「Q」は偽情報や陰謀メッセージを広め、政治の最高権力と機密情報にアクセスできると主張していました。物語は、1517年のドイツの神学者マルティン・ルターが「95か条の論題」をヴィッテンベルク大聖堂の扉に掲示したことから始まり、30年間の宗教戦争を終わらせた1555年の「アウクスブルクの和議」までを描いています。

この小説の「Q」が流布した虚偽の情報は、ヘブライ語で「収集者」を意味するQoheletと署名された手紙を通じて広められました。これは、「QAnon」のQがホワイトハウスの内部事情に精通しているとされ、陰謀論を広める立場と驚くほど似ています。

小説の中では、「Q」はプロテスタントの農民戦士たちを扇動し、テューリンゲンでの戦いに巻き込む一方、それは「Q」自身が仕掛けた罠でもありました。史実では、この戦いで5千人の農民が虐殺されました。これは、QAnonの「Q」が深層国家との戦いに多くの抗議者を巻き込み、民主党のリベラルエリートを追放しようとした状況と共通点を持ちます。

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一五五五年、欧州ではないどこかの街。主人公が密偵Qの遺した手記を読む。「ローマの支配を覆して農民や炭鉱夫のユートピアを建国する」という主人公と同志たちを陰で操り、その夢を崩壊させた宿敵の手記を読みながら、血塗られた闘いの日々と死んでいった仲間を回想する。宗教改革の、主人公の、Qの時代の幕開けだった。全世界で100万部突破!本国で著者の正体はエーコではないかと話題を呼んだ作品。(「BOOK」データベースより)

QAnonへのアノニマスによる宣戦布告

2018年8月5日、インターネット上で活動する国際的なハッカー集団「アノニマス」が、陰謀論で知られる「Qアノン」に宣戦布告を行いました。ツイッターアカウント@YourAnonNewsによって、「QAnon作戦」と名付けられた動画が投稿され、その内容はアノニマスの強い意志を示すものでした。

情報弱者を騙すQアノンの手口に対するアノニマスの怒り

動画の中でアノニマスは、「情報弱者や教育のない人々を利用するQAnonを、このまま黙って放っておくわけにはいかない」と明確に表明しました。アノニマスは異なる人格の集まりで、それぞれが自身の事情を抱えているものの、Qアノン信者たちの、あまりにも荒唐無稽な内容に対する怒りという一点において私たちは団結した、という主張が動画内で語られました。

アノニマスが掲げた戦略の一部は、「Q」の正体を突き止めることです。これにより、QAnonがそのメッセージを広める能力を失うとアノニマスは考えています。したがって、彼らは調査行動を開始し、Qとしての活動を始めたのは誰なのか、現在もQの活動を行っているのは誰なのかを明らかにしようとしています。これは、インターネット上で壮大な「犯人探し」が始まったという形となりました。

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現代アメリカを覆う、Qアノン陰謀論の謎の真実に迫る!大好評の『みんな大好き陰謀論』でユダヤ陰謀論を徹底的に解明して見せた著者が現代社会で隠然たる影響力を持っているQアノンについて見事に解き明かした。これを読めば、現代の陰謀論がよくわかる! なぜ、いつも陰謀論が流行るのか?(「Books」出版書誌データベースより)
【Qアノン陰謀論(0)】ネット掲示板発の陰謀カルチャーに迫る!

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