【戦争プロパガンダ④】サイバープロパガンダを駆使した新時代の戦争『ハイブリッド戦争』
ハイブリッド戦争とは何か?サイバー攻撃や情報操作を駆使し、従来の軍事力に依存しない戦争の新たな形態として注目を集めています。
本記事では、ロシアがエストニアやウクライナ、そして欧州諸国や米国において展開するハイブリッド戦争の実態に迫ります。また、ロシアのプーチン大統領と米国のバイデン大統領との間で起こっている激しい対立にも触れ、現代の国際政治情勢について考察します。
【戦争プロパガンダ③】SNS時代!フェイクニュースが世論を作り上げる『サイバープロパガンダ』
Hybrid Warfare
サイバー空間を駆使した新時代の戦争「ハイブリッド戦争」
ハイブリッド戦は、21世紀の戦争の新たな形態で、従来の軍事力に依存しない戦術を特徴とします。これには、正規軍以外の武装兵力の使用、テロリズム、犯罪、インフラの破壊、サイバー攻撃やディスインフォメーションなどの幅広い手法が含まれます。ハイブリッド戦の目的は、敵を混乱させ、知らず知らずのうちに有利な状況を築くことです。
このように、この戦術は、従来の正規軍同士の武力行使に限定されない戦争の概念を提案し、20世紀の戦争のイメージとは明らかに異なっています。
初めてハイブリッド戦争という概念が登場
フランク・ホフマンは、2006年のイスラエルとヒズボラ(レバノンのイスラム教シーア派武装組織)との戦いを研究し、その戦術を「ハイブリッド戦争」という新しい概念として提唱しました。彼は、従来の軍事行動だけでなく、非正規軍による戦闘も含めた戦争の形態をハイブリッド戦争と定義しました。
この戦争では、ヒズボラは正規軍と非正規軍の戦術を組み合わせ、イスラエル軍に対抗しました。ヒズボラは、ゲリラ戦術やテロリズム、民間人の利用などの非正規戦術を駆使しながら、ロケットや対戦車ミサイルなどの正規軍の兵器も使用しました。また、ヒズボラはメディアや情報戦にも力を入れ、戦局に影響を与える情報操作も行いました。
フランク・ホフマンの提唱したハイブリッド戦争は、21世紀の戦争の新たな形態として広く認識されるようになりました。
アジアにおけるハイブリッド戦争の事例:「中国」
中国は東シナ海や南シナ海での領土主張を強める中で、ハイブリッド戦争の手法を積極的に活用していると見られています。これには、軍事力だけでなく、グレーゾーン戦略や「三戦」(輿論戦、心理戦、法律戦)と呼ばれる戦術も含まれます。中国の戦略は、対立相手を軍事的に挑発せずに領土や権益を確保することを目的としています。
中国人民解放軍政治工作条例において、輿論戦、心理戦、法律戦の重要性が強調されており、これらの戦術を活用することで、相手国の内部を分裂させ、国際世論を操作することを狙っています。また、瓦解工作により、対立相手の統治能力や軍事力を弱体化させることも目的としています。
2017年以降、中国では「制脳権」という言葉が注目されており、これは認知領域における戦いでの勝利を重視する考え方です。情報戦やプロパガンダを用いて、対立相手の意志決定や国民の意識を操作し、自らの立場を有利にすることを目指しています。
中国のハイブリッド戦争の手法は、国際社会における新たな脅威として認識されており、各国は対策を講じる必要があります。これには、情報収集や分析の強化、国際連携の推進、民間との協力などが含まれます。
ハイブリッド戦争先進国!!サイバー大国「ロシア」
ロシアは、ハイブリッド戦争の中でも特にサイバー戦に力を入れているとされています。2013年にロシアのワレリー・ゲラシモフ参謀総長は、ハイブリッド戦争を「宣戦布告なく行われる政治、経済、情報、その他の非軍事的措置を、現地住民の抗議ポテンシャルと結合させた非対称的な軍事行動」と定義しました。
ロシアは、サイバー攻撃や情報操作を通じて対立相手を混乱させ、自らの利益を確保することを目的としています。そのため、推定3万から5万人規模のサイバー戦専門部隊を保有しているとされています。
ロシアのハイブリッド戦争の主軸は諜報機関!
ロシアのハイブリッド戦争は、サイバー攻撃と情報戦・宣伝戦を主軸とし、実戦を避けつつ相手に打撃を与えることを目的としています。サイバー攻撃は、国家支援型の性格が強く、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)、SVR(連邦対外情報庁)、FSB(連邦保安庁)などのロシアの情報機関が実行しているとされています。
GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)
GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)は、ロシアの軍事情報機関であり、正式名称は「ロシア連邦軍参謀本部情報管理局」です。GRUは、ロシア連邦軍の情報収集、分析、報告を行う主要な組織で、その役割は主に軍事情報の収集や偵察、軍事作戦の支援、対外諜報活動にあります。
GRUは、外国軍隊や防衛産業、政治組織などを対象としたヒューミント(人間情報収集)、シギント(信号情報収集)、イメージント(画像情報収集)などの多様な情報収集手法を用いています。
また、近年ではサイバー戦や情報操作にも積極的に関与しているとされています。特に、サイバー攻撃やディスインフォメーションキャンペーンを通じて、敵国の政治や社会に影響を与えようとしています。
SVR(連邦対外情報庁)
SVR(連邦対外情報庁)は、ロシアの対外諜報機関で、正式名称は「ロシア連邦対外情報庁」です。1991年のソビエト連邦の崩壊後に設立され、かつてのソビエト連邦の諜報機関であるKGB(国家保安委員会)の対外諜報部門から独立した組織として発足しました。
SVRの主要な役割は、政治、経済、軍事、科学技術に関する外国情報の収集と分析です。SVRは、ロシアの国益に関わる情報を集め、ロシア政府や軍事組織に提供することで、ロシアの安全保障や対外政策をサポートしています。
SVRは、様々な情報収集手法を用いて活動しており、その中にはヒューミント(人間情報収集)、シギント(信号情報収集)、イメージント(画像情報収集)などが含まれます。また、SVRは、外国政府の内部情報や対立勢力の動向を監視するために、情報工作員やスパイを潜入させることがあります。
FSB(連邦保安庁)
FSB(連邦保安庁)は、ロシアの主要な国内治安・対内諜報機関で、正式名称は「ロシア連邦保安庁」です。FSBは、1991年のソビエト連邦の崩壊後に設立され、KGB(国家保安委員会)の国内治安部門から継承された組織として発足しました。
FSBの主な役割は、ロシア国内の治安維持や対テロ活動、国内の情報収集と分析、対内諜報活動です。FSBは、ロシア国内での犯罪やテロリズム、スパイ活動、外国からの情報工作の防止を目的として、様々な捜査や諜報活動を行っています。
また、FSBはサイバー攻撃やサイバーセキュリティにも関与しており、国内のサイバー犯罪や外国からのサイバー攻撃の防止に取り組んでいます。さらに、FSBは国内のインターネットや通信の監視も行っており、ロシア政府による情報統制の一環として機能しています。
ロシアが旧ソ連圏でハイブリッド戦争の実証実験を開始
ロシアの情報機関は、エストニアやウクライナといった旧ソ連圏を実験場として選んでいます。これらの国々は、地理的にも歴史的にもロシアに近く、ロシアの政治的・軍事的影響力がまだ強い地域です。これにより、ロシアの情報機関にとって、これらの国々は情報活動やハイブリッド戦争を展開するのに適した対象となっています。
特にウクライナでは、2014年のクリミア半島のロシアによる併合や、ウクライナ東部でのロシア支援の反政府勢力との紛争が続いています。ロシアの情報機関は、ウクライナにおいてサイバー攻撃、情報操作、心理戦などのハイブリッド戦争手法を駆使しています。
【青銅の夜】IT立国エストニアへの大規模サイバー攻撃
ロシアは、情報戦やサイバー攻撃、政治工作などの手段を駆使し、世界各地でハイブリッド戦争を仕掛けています。
エストニアもまた、ロシアの情報機関によるサイバー攻撃や情報戦の対象となっています。
エストニアは、20世紀の激動の歴史を歩んできました。近代の歴史を振り返ると、以下のような出来事があります。
- 1940年:ソビエト連邦によってエストニアが併合され、エストニア・ソビエト社会主義共和国が成立しました。
- 1941年:独ソ戦の勃発により、エストニアはナチス・ドイツに占領されました。
- 1944年:第二次世界大戦末期にソビエト連邦によってエストニアが再占領され、再びソ連の一部となりました。
- 1991年:ソビエト連邦の崩壊に伴い、エストニアは独立を回復し、現在のエストニア共和国が成立しました。
エストニアの独立回復後も、ロシア系住民の問題が引き続き存在しています。これは、ソビエト時代にロシアから多くの人々が移住した結果、独立後も多くのロシア系住民がエストニアに残り、言語や文化の違いから摩擦が生じているためです。
さらに、2007年の「タリン解放者の記念碑撤去事件」が、エストニアとロシアの関係を悪化させました。
「タリン解放者の記念碑」
1947年に建立されたタリン解放者の記念碑は、、エストニアの首都タリンに設置されていた第二次世界大戦のソ連兵士を称える高さ2メートルもあるブロンズ像でした。
ロシア人やエストニアに暮らすロシア系住民にとって、この像は第二次世界大戦で勝利を収めた英雄の姿として尊敬されていました。彼らは、ナチス・ドイツによる占領からエストニアを解放したソビエト連邦の勢力を称えています。そのため、像は「エストニア解放の象徴」として位置づけられています。
「英雄 or 占領」ロシアとエストニアの認識の違い
しかし、エストニア独立派の視点から見ると、この像はソビエト連邦によるエストニア占領の象徴であり、その存在はエストニアの独立回復後も痛々しい歴史の痕跡でした。
エストニアは像の撤去を検討
2007年、エストニアは独立から16年が経過したことを受け、ソビエト時代の1947年に建てられた「タリン解放者の記念碑」の撤去を検討し始めました。
撤去の検討が始まったことで、エストニア国内の両派間の意見の対立が激化し、後に大きな国際問題にまで発展することとなります。
像の撤去が決定!これに反発したロシア系住民が暴動
2007年4月27日、エストニアがソビエト時代の「タリン解放者の記念碑」の撤去を決定したことは、大きな波紋を広げました。ロシア系住民にとっては、戦勝の象徴として大切にされていた像の撤去は「歴史の書き換え」と捉えられ、強い反発が生まれました。
暴動がタリンで発生し、「青銅の夜」と呼ばれる騒動にまで発展しました。ロシア人は激怒し、エストニアのロシア大使館も抗議する人々によって包囲されました。
さらに、エストニア政府のWebサイトは同時にサイバー攻撃を受け始めました。
世界中からエストニアに大量のアクセス
2007年4月27日、エストニアは通常とは異なる朝を迎えました。その異変は、大統領府のウェブサイトが異常なアクセスを受けたことから始まりました。世界中から突如として大量のアクセスが集中し、サーバーはその膨大なアクセス量に耐えきれずダウンし、ウェブサイトは使用不能に陥りました。
これは、サイバー攻撃の典型的な手法であるDDoS(分散型サービス妨害)攻撃によるものでした。
世界中のウイルスに感染したPCが、特定の日時を狙いサイバー攻撃
エストニアへのサイバー攻撃は、大規模かつ進化した手法を用いたものでした。攻撃者はボットネットと呼ばれるハイジャックされたコンピュータ群を使用していました。これらのボットに感染したゾンビコンピュータは、感染が拡大することで急速に増加しました。
攻撃者は、C&C(Command & Control)サーバーと呼ばれる司令塔を使って、世界中のボットに指示を出しました。例えば、「○月○日○時に、このURLを攻撃せよ」といった具体的な命令が出されます。そして、決行日時になると、世界中のコンピュータに感染したボットが一斉にターゲットへの攻撃を開始します。
当時、世界屈指のIT立国だった「エストニア」が狙われた事件
2007年のエストニアにおけるサイバー攻撃は、当時すでに電子政府のリーダー的存在であったエストニアに大きな影響を与えました。エストニア政府は、攻撃の可能性を想定してセキュリティ対策を講じていましたが、攻撃は予想以上の激しさで続き、新しいサーバもストレスに耐えかねる状態に陥りました。
攻撃者の特定が困難であり、さまざまな手法が次々と用いられた結果、トラフィックは通常の100~1,000倍に達しました。さらに調査の結果、ロシア語のブロガーやWebサイトがエストニア攻撃を促進する情報を広めていたことが判明し、これを「サイバー暴動」と認識しました。
エストニアのITインフラが整備されていたおかげで、データ盗難は防がれましたが、銀行、メディア、政府サービスのWebサイトなどがDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)を受け、22日間にわたって攻撃が続きました。
これにより、一部のサービスが中断され、いくつかのサービスは完全に停止することとなりました。この事件は、サイバー攻撃の脅威と国家や組織の対策がますます重要になることを示す事例となりました
IT立国の弱点が露呈
エストニアは、電子政府のリーダー的存在としてITインフラに大きく依存しています。そのため、サイバー攻撃によりITインフラがダウンすると、国民がバンキング機能を利用できなくなり、日常生活に必要な商品の購入が困難になるなど、大きな影響を受けます。
また、ネットが主要な情報源であるため、オンライン・メディアが機能しなくなると、テレビやラジオがない状態と同様に情報が得られなくなります。
エストニアを襲ったサイバー攻撃は、その規模と影響から、「テロ」というよりも「戦争」と呼んだほうがふさわしいと専門家は指摘しています。
エストニアの非難にロシア政府は関与を否定
エストニア政府は、サイバー攻撃についてロシアを激しく非難しましたが、ロシア政府はその関与を否定し、「ハッカーがロシア政府のコンピュータに侵入して悪用したのであって、我々は関係ない」と主張しました。
しかし後に、ロシアの民主主義・反ファシスト青年運動組織である「ナーシ」のメンバーが、このサイバー攻撃についてロシア政府の関与を認めました。このメンバーは与党・統一ロシアの幹部補佐だったため、情報を把握していたとされています。
この事実が明るみに出ることで、ロシア政府の信頼性がさらに損なわれることとなり、国際社会での緊張が高まる要因となりました。
この出来事を契機にサイバーセキュリティーを強化!
エストニアは、青銅の夜をきっかけに、サイバーセキュリティの重要性を痛感し、国家レベルでの取り組みを強化することになりました。NATOサイバー防衛センターの誘致や積極的なサイバーセキュリティへの取り組みは、エストニアがその分野のリーダーとして位置づけられるようになりました。
2012年に発表された「サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル」は、サイバー戦に関する国際法の研究と適用に関する指針となっています。
このマニュアルは、サイバー攻撃が国際法上どのように扱われるべきか、また国家がどのような対応策を講じるべきかについて示しており、エストニアがサイバーセキュリティ分野で重要な役割を果たしていることを示しています。
タリンの名が冠されたタリン・マニュアルは、エストニアがNATOのサイバーセキュリティに対する取り組みの象徴的存在であることを強調しています。今後も、エストニアはサイバーセキュリティの分野でのリーダーシップを発揮し続け、国際社会と協力してサイバー攻撃に対抗していくことでしょう。
【ロシア・ジョージア戦争】ハイブリッド戦争の実戦
2007年のエストニアへのサイバー攻撃は、現代戦争におけるサイバー戦の重要性を世界に示す最初の目立つ事例でした。ロシアはこの攻撃で得た知見を活かし、翌年の2008年のロシア・ジョージア戦争において、従来の軍事行動とサイバー攻撃や情報戦を組み合わせたハイブリッド戦争を展開しました。
戦闘とサイバー攻撃を組み合わせた作戦を展開!たった5日でロシアは勝利した
2008年8月に発生したロシア・ジョージア戦争の際、ロシアはサイバー攻撃を用いてジョージアの国家中枢機関を無力化しました。ロシア軍のハッカーによるDDoS(分散サービス妨害)攻撃や悪性ウイルスの影響で、ジョージアの国防省、内務省、外務省のコンピューター機能が完全に麻痺しました。
マスコミやポータルサイトも同様に影響を受け、ジョージア政府と軍首脳部は戦争の指揮や欧米諸国への援助要請を十分に行うことができませんでした。
戦争情報が遮断され、恐怖にとらわれた国民は抵抗することも困難になりました。結果として、ロシア戦闘機の空襲開始からわずか5日後にジョージアは降伏を余儀なくされました。
2011年にもロシアはサイバー攻撃をしかけた
2008年のロシア・ジョージア戦争以降、両国間でサイバー攻撃が繰り返し問題となっていました。2011年初めには、グルジアのニュースサイトがサイバー攻撃を受け、重要情報を盗むマルウェアが国内の約390台のコンピュータに拡散しました。
このマルウェアは、感染したPCのウェブカメラを利用して盗聴する機能も持っており、個人のプライバシーや企業秘密、国家機密に関する情報が漏洩するリスクがありました。このようなサイバー攻撃は、国家間の対立や緊張をさらに高める要因となります。
ここで得たノウハウをウクライナとの戦争に使用した!?
ロシアはジョージアでハイブリッド戦争の練習を行い、2014年のウクライナ危機やクリミア併合において、それをより洗練された形で実施しました。
しかし、国際社会は、特にジョージア戦争の際には、この戦術に対して大きな反応を示さず、ロシアによるハイブリッド戦争の脅威を十分に認識していませんでした。これにより、ロシアはウクライナ危機においても、同様の手法を用いることができました。
デマゴーグ効果を狙い政権転覆を狙う「リサ事件」
リサ事件は、ロシアがデマゴーグ効果を狙って、ドイツ国内の感情を利用したハイブリッド戦争の例です。
デマゴーグとは
デマゴーグは、元々ギリシャ語で「民衆の指導者」を意味し、demos(民衆)とaggos(導く者)の組み合わせで構成されています。しかし、現代ではこの言葉の意味が変化し、民衆の感情や偏見を利用して、誤った主張や約束を行い、理性よりも感情に訴えかける議論を行う指導者を指すようになりました。
デマゴーグとフェイクニュースの違い
デマゴーグとフェイクニュースは、両者とも誤った情報や主張を利用する点で共通していますが、その性質と目的に違いがあります。
- デマゴーグ: デマゴーグは、民衆の感情や偏見を利用して、誤った主張や約束を行い、理性よりも感情に訴えかける議論を行う指導者のことを指します。デマゴーグは、自分の政治的目的や利益を達成するために、社会の不満や不安を煽り、民衆を操ることが目的とされています。デマゴーグ的な指導者は、事実に基づかない情報を広めることで、国や社会を混乱させることがあります。
- フェイクニュース: フェイクニュースは、虚偽や誤った情報が広まる現象や、そのような情報そのものを指します。フェイクニュースは、意図的に作成されることもありますが、誤解や伝聞に基づいて無意識的に広まることもあります。フェイクニュースは、政治的な目的や利益のために広められることがありますが、他にも注目を集めるためや、金銭的利益のために拡散されることもあります。
要するに、デマゴーグは誤った主張や情報を利用する指導者を指し、フェイクニュースはそのような情報自体を指す言葉です。デマゴーグは、フェイクニュースを利用して民衆を操ることがあるため、両者は関連していることがありますが、それぞれ別の概念であることがわかります。
リサ事件ではドイツ国内で数百人規模のデモが発生!
2016年1月23日に報じられたリサ事件は、当初は13歳のロシア系ドイツ人少女が移民に誘拐され、性的暴行を受けたとされていました。ドイツ国内では数百人がデモを行い、リサ少女への支持を示すプラカードを掲げました。
事件そのものが嘘だった!
しかし後になって、リサ少女自身が主張を撤回しました。
ヨーロッパ中にこのニュースが広まったのは、ロシアのデマゴーグがきっかけでした。ドイツ当局が事件の捜査を遅らせているのは、ドイツの移民政策に対する印象が悪化するのを避けたいためだと主張しました。
また、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、この事件がもみ消されつつあると述べることで、事件への関心がさらに高まり、不信感や懸念が広がることになりました。
ドイツの弱体化と政権転覆
「リサ事件」を含め、ロシアはドイツ国内で情報戦を展開しており、その目的はドイツ政府や政権の弱体化や転覆です。この情報戦は、デマゴーグやフェイクニュースを用いて、社会の不満や矛盾を利用し、分断を拡大することで政治的影響力を持とうとするものです。
2017年の総選挙では、ロシア政府に関連するメディアや情報機関によるSNSのディスインフォメーション・キャンペーンが行われ、結果としてロシアと親密な関係にある右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が議席を獲得しました。この選挙結果は、ロシアの情報戦がドイツ国内政治に影響を与えた一例です。
2021年には、ドイツ連邦議会選挙を控えた際に、ドイツ政府はロシアによる標的型サイバー攻撃を受けており、このことが両国間の緊張を高める要因となりました。
ロシアは2014年ウクライナ危機・クリミア併合以降スパイ活動を強化
ロシアは、2014年ウクライナ危機・クリミア併合を背景に、欧州諸国でのスパイ活動を強化しています。特にドイツでは、ロシアは旧ソ連の秘密警察KGBが使用していた破壊活動戦術である「不安定化」と「偽情報」を活用しています。これにより、欧州諸国の社会を内部から分断し、政治的・経済的に不安定にすることを狙っています。
これらの戦術は、ハイブリッド戦争の一部であり、軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせた戦争形態です。
オランダ・イギリスでも情報操作
2016年の英国の欧州連合(EU)離脱国民投票(通称:ブレグジット)に際して、ロシアはSNS上でディスインフォメーション・キャンペーンを展開しました。このキャンペーンでは、英国のEU離脱を支持する情報が拡散され、英国社会に潜在するEUに対する不満や懸念が煽られました。結果的に、英国はEUを離脱する道を選び、これが欧州の結束に大きな影響を与えました。
オランダでは、2016年にウクライナとの連携強化を目指すEU・ウクライナ連合協定への参加を問う国民投票が行われました。この際、ロシアはオランダ国内で反協定キャンペーンを支援し、ウクライナとの協定に対する懸念や不満を煽る情報が拡散されました。最終的に、オランダ国民は協定への参加に反対する結果となりましたが、後にオランダ政府は協定に同意しました。
これらの例からもわかるように、ロシアは欧州諸国の国民投票において、世論操作をおこない、相手国の社会や政治に影響を与えようと試みています。この手法で、今度はアメリカを狙いました。
2016年アメリカ大統領選挙「ヒラリー・クリントンにハッキング」
2016年の米大統領選挙において、ロシアのプーチン大統領は、ヒラリー・クリントン候補を不利にする目的で、民主党のアカウントへの不正侵入とメールのリークを命じたとされています。この疑惑について、米上院情報委員会は3年がかりの調査を行い、その最終結論を出しました。
調査では、トランプ大統領がモスクワと共謀した証拠は見いだされなかったとされていますが、トランプ陣営とロシア側、またロシア政府とつながりのある人物との間で多数のやりとりがあったことが判明しました。さらに、トランプ氏が情報リークを自分の政治的利益に利用しようとしたことも明らかになりました。
一方で、委員会は「トランプ大統領とロシア側が共謀した証拠は見つからなかった」としています。しかし、当時の選挙対策本部長であったポール・マナフォートがトランプ陣営にいたことは、「防諜における深刻な脅威」と指摘されています。
2020年アメリカ大統領選挙「バイデンを陥れるフェイクニュース」
2020年の米大統領選挙では、ロシアがドナルド・トランプを勝たせようと政治工作を行ったとの指摘があり、プーチン大統領がその指示に関与していた可能性も高いとされています。ロシアの工作には、バイデンに不利になるようなフェイクニュースを広めるため、ロシアとつながりのある人物を通じて行われたとされています。
バイデンはプーチンをディスる「プーチンは殺人者だ」
バイデン米大統領は、ロシアのプーチン大統領を「殺人者」と糾弾し、米大統領選挙へのロシアによる干渉に対して報いが必要だと述べました。これは、ABCニュースのインタビューで語られました。
トランプが煽ったフェイクを拡散して議事堂襲撃を引き起こした
バイデン大統領の激しい非難は、ロシアが大統領選期間中に情報機関を通じて「選挙不正が大々的に行われている」との根拠のない情報を拡散させたことに起因しています。これにより、トランプの「選挙は略奪された」という主張を信じた暴徒が米議事堂への乱入事件を引き起こし、6人が犠牲になりました。
プーチン「お互い様だ」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ジョー・バイデン米大統領が彼を「殺人者」と呼んだことに対して、「お互いさまだ」と応じました。プーチン大統領は、人々は他人の中に自分の本質を見いだし、その人物も自分と同じだと考える傾向があると述べました。
さらに、プーチン大統領は78歳のバイデン大統領の健康を祈り、その言葉が皮肉や冗談ではなく、真剣に言っていると明確にしました。
【戦争プロパガンダ④】サイバープロパガンダを駆使した新時代の戦争『ハイブリッド戦争』