SNSが急速に普及する現代において、フェイクニュースは世論形成において新たな脅威となっています。
この現象は「サイバープロパガンダ」と呼ばれ、今もソーシャルメディアを利用して意図的に偽情報を拡散し、人々の認識や行動を操っています。
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Cyber propaganda
インターネット上でのプロパガンダ「サイバープロパガンダ」
サイバープロパガンダは、インターネットを利用して情報を操作し、世論を誘導することを目的とした戦術であり、政治的、経済的、社会的な目的を達成するために使用されます。
インターネットの普及
2010年代以降、インターネットの普及により、情報が瞬時に拡散されるようになり、偽情報の拡散もより容易になりました。
誰もが情報を発信できるようになったため、積極的な工作やプロパガンダはマスメディアに依存しなくても効果を発揮できます。
サイバー空間では、膨大な情報が常に流れており、一般市民はその情報の真偽を確認するのが困難です。
そのため、偽情報が意図的に拡散されることが容易になり、悪意のある情報工作が行われることがあります。
さらに、SNSのアルゴリズムは、ユーザーが関心を持つであろう情報を優先的に表示するため、エコーチャンバー効果が生じやすくなっています。
この効果により、人々は自分の意見に反する情報に触れる機会が減り、偽情報やプロパガンダが拡散されると、それが真実だと信じ込んでしまうことがあります。
サイバープロパガンダに対抗する「カウンタープロパガンダ」
サイバープロパガンダに対処する方法の一つとして、カウンタープロパガンダがあります。
これは、敵のプロパガンダに対抗するために、組織的なキャンペーンを展開し、嘘であることを証明することで、人々の意識を変えることを目的としています。
具体的には以下のような方法が取られます。
- 教育と啓蒙活動: 国民にメディアリテラシーや情報検証スキルを教えることで、偽情報やプロパガンダを見抜く能力を高めます。
- 情報の透明性と信頼性: 政府やメディアは、情報の出典や根拠を明確に示すことで、信頼性を確保し、プロパガンダに対抗します。
- ファクトチェック: 専門家や独立したファクトチェッカーが、プロパガンダや偽情報を検証し、事実と捏造を明確に区別します。
- 対抗メッセージ: プロパガンダに対抗するための正確で信頼性のある情報を提供し、誤解や偏見を払拭します。
- ソーシャルメディアの監視と規制: ソーシャルメディア上で拡散されるプロパガンダや偽情報を監視し、適切な対策を講じます。
カウンタープロパガンダは、政府、メディア、市民社会が連携して取り組むことが必要です。
ただし、カウンタープロパガンダ自体が、独自のプロパガンダにならないように、透明性や公平性を維持することが重要です。
ネットを利用した世論操作「フェイクニュース」
最近では、”Fake News(フェイクニュース)”という単語をよく見かけます。この言葉の意味はそのままで、嘘のニュースを指します。
しかし、最近では、インターネットを利用して広く一般の人々を誘導し、世論を操作するためのサイバープロパガンダ(宣伝工作)手法を指す専門用語として使われることが多くなっています。
フェイクニュースが広がる背景には、いくつかの要因が考えられます。
- インターネットの普及:インターネットが普及することで、誰もが情報を簡単に発信できるようになり、検証が甘い情報や意図的に作られたフェイクニュースが瞬く間に拡散されるようになりました。
- ソーシャルメディアの影響:ソーシャルメディアが人々の情報収集や交流の場として重要な役割を果たすようになると、情報が拡散されるスピードが速まり、フェイクニュースが容易に広まる土壌が整いました。
- 感情的な訴求:フェイクニュースは、人々の感情に訴えかける内容が多く、怒りや恐れなどの感情を煽ることで拡散されやすくなっています。
- クリックベイト:インターネット上の広告収入がクリック数に依存するため、見出しや内容が誇張されたり、捏造されたりした記事がクリックされやすくなり、フェイクニュースが生まれやすい環境ができました。
- バイアスの確認:人々は、自分の意見や信念を裏付ける情報に対して好意的で、逆の情報に対しては否定的になる傾向があります。このため、フェイクニュースは既存の信念や価値観を強化する役割を果たし、広まりやすくなります。
「フェイクニュース」は昔から普通に存在した
戦争や紛争の際に、当事国や関係諸国が意図的なリークやフェイクニュースを用いて世論を誘導することは歴史上、度々行われてきました。
検証が行われないまま速報で伝わるニュース
メディアはニュースや情報を速報性を重視し、現状を報道する傾向が強い。そのため、歴史的な事実やこれまでの経緯についての説明が短時間で簡略化され、多くの場合十分な解説がなされません。
また、メディアは独自の視点や解釈が入ることがあり、報道内容が偏ることもあります。
このような報道の仕方が、政府や関係者による情報操作や世論操作に加担することがあります。速報性が重視される現代メディアでは、十分な検証や確認がなされずに情報が流されることが起こります。
そして後になって、証拠品を遅れて提出するかのような検証ケースが頻発しています。このような状況が、政府や関係者が情報操作や世論操作を容易に行える環境を作っています。
お金があれば誰でも「フェイクニュース」を拡散できる
セキュリティソフトウェア企業であるトレンドマイクロ株式会社が発表した調査によれば、フェイクニュースの作成と拡散には、アンダーグラウンドサービスや悪用され得る正規サービスが使われています。
中国では、コンテンツマーケティングサービスがあり、800ワードまでの記事を100元(約1600円)、1500ワードまでを200元(約3300円)程度で作成することができます。
また、作成された記事をニュースサイトや新聞で発信するサービスもあり、記事掲載は500~1300元(約8200~2万1000円)という価格帯で行われていました。
さらに、ソーシャルメディアもフェイクニュースの拡散に使われています。
ロシアのサイトでは、「Instagram」で1000件の「いいね!」を得るのに1ルーブル~170ルーブル(約2円~310円)、「Twitter」で1000件のフォロワーを得るのに190ルーブル(約340円)といった請負サービスが存在していました。
アンケートやオンライン署名も自由自在
フェイクニュースに加え、インターネット上で行われるアンケートやオンライン署名活動などの結果を操作するクリック詐欺も問題となっています。
ロシアの一部のサイトでは、特定の署名サイトに対する1000票を6000ルーブル(約1万1000円)で購入することができるとされています。
ヤバすぎる・・・。「フェイクニュース」を使い政治に介入
ここ数年の国際政治において、サイバープロパガンダやフェイクニュースが大きな問題となっています。いくつかの事例を挙げると:
- 2016年のアメリカ大統領選挙:ロシアがアメリカ大統領選挙に介入し、フェイクニュースやソーシャルメディア上の工作を通じて特定の候補者を支持するための世論操作が行われました。
- 2017年のフランス大統領選挙:特定の有力候補者を貶める目的で、フェイクニュースや情報流出が織り交ぜられたキャンペーンが行われたと報道されました。
- 2018年のブラジル大統領選挙:フェイクニュースが大量に拡散され、特定の候補者への支持を左右する可能性が指摘されました。
- Brexit(英国のEU離脱):英国で行われたEU離脱の是非を問う国民投票の際には、フェイクニュースや誤った情報が大量に流布され、国民の意思決定に影響を与えたとの指摘があります。
中国の台湾侵攻問題に関連するプロパガンダも、同様の手法で展開されています。
事前に用意された複数のアカウントを使って、あらかじめ準備したツイートやメールを流し、LINEやFacebook、Twitterの投稿を繰り返すことで世論を誘導しようとします。
これらのプロパガンダは、侵攻を中国の内政問題として扱う論調を強調し、国際社会の干渉を排除しようとする目的があると考えられます。
デジタル時代は世論操作のコスパ最高!?
デジタル時代において、世論操作が低コストで広範囲に行われるようになっています。
インターネットやソーシャルメディアの発展により、情報が瞬時に広まり、簡単に多くの人々にアクセスできるようになりました。このため、デジタルプラットフォームを利用して世論を操作する工作が増加しています。
政治家や政府、特定の団体などが、自らの利益や主張を伝えるためにフェイクニュースやプロパガンダを利用することがあります。
デジタル時代では、これらの情報が瞬時に拡散され、低コストで広範囲に影響を与えることが可能です。
2016年の米国大統領選挙では、ロシアが介入し、ドナルド・トランプの当選を支援するための世論操作が行われました。
この世論操作は、ロシアのネットトロール部隊「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」によって実施され、フェイクニュースの拡散などが行われました。
IRAには年間数百万ドルの予算が投入され、米国のインターネット広告には毎月数千ドルが費やされていたとされています。
ロシアだけでなく、現在は少なくとも世界48ヵ国の政府や政党が、同様の工作を行っているとされています。
世論を誘導する「サイバー部隊」
サイバー部隊と呼ばれる組織は、フェイクニュースやソーシャルメディア操作を手がける実行部隊です。
国家レベルで大規模なリソースが投入され、中国やイスラエルなどでは人員や予算規模が大変大きいことが報告されています。
ロシア、北朝鮮、中国などからのサイバー攻撃が世界各地で多発しており、各国が対策を強化しています。
アメリカ軍やイギリス軍は、サイバー部隊を総合安全保障戦略を担う組織に格上げし、サイバーセキュリティに力を入れる動きが活発化しています。
日本の自衛隊も、規模は小さいながらも、サイバー部隊の編成を本格化しているとされています。
サイバープロパガンダやフェイクニュース
フェイクニュースによる被害は、近年深刻化しており、情報の混乱だけでなく、生命や身体に直接的な脅威となる「武器化」の傾向が明らかになっています。
ロビンギャ問題
2017年8月25日に、ロヒンギャの武装勢力が、ミャンマーの治安部隊に対して襲撃を行いました。これをきっかけに、ミャンマー政府は報復行為を行い、ロヒンギャに対する人権侵害が激化しました。
ミャンマーの軍と仏教徒民兵によるロヒンギャへの暴力行為は、集落の焼き討ち、虐殺、性的暴力、拷問など多岐にわたりました。
これらの行為は国際社会から「民族浄化」とも呼ばれるほどの非難を受けました。この暴力により、2017年の8月から12月までの間に、およそ70万人のロヒンギャ難民がバングラデシュへ逃れることとなりました。
ミャンマー軍がフェイクニュース
2018年にFacebookが軍関係者による誤情報の拡散に対処したことを受け、ミャンマー軍部が組織的にフェイクニュースを拡散していたことが報告されました。
軍部や関係者は、Facebook上でフェイクアカウントやページを作成し、これを利用してロヒンギャに対する誤った情報や憎悪を煽る投稿を行っていました。
これらの投稿には、ロヒンギャが他の民族や宗教に対して暴力的であるといった事実無根の主張や、誤った情報を含む「ロヒンギャはテロリストだ」という主張、そして印パ戦争時の写真を「ロヒンギャによる虐殺の様子」として転用するなど、フェイクニュースが含まれていました。
これらの投稿は、一部のミャンマー国民に対してロヒンギャへの恐怖や敵意を煽り、彼らをさらなる差別や迫害の対象にしました。
また、軍部はフェイクニュースを通じて、弾圧行為を正当化し、国際社会からの非難を避ける狙いがあったとされます。
最悪の事態を誘発
このようなフェイクニュースの影響により、一部のミャンマー国民はロヒンギャに対する暴力や迫害が正当化されると信じるようになりました。
同時に、ミャンマー国内の他の民族集団や宗教集団とロヒンギャとの間にも憎悪や不信感が広がり、社会的な分断が深まってしまいました。
この結果、ロヒンギャへの暴力は一層エスカレートし、大量虐殺や強制移住が発生しました。
2018年には、国連人権高等弁務官事務所がFacebookを「ロヒンギャ問題における憎悪と暴力を助長するプラットフォーム」と非難しました。
これを受け、Facebookは軍関係者や彼らが運営するページを削除し、誤情報の拡散を防ぐための対策を強化しました。
難民をさらにフェイクニュースで攻撃
2018年末の時点で、バングラデシュの難民キャンプでは、ロヒンギャ難民のほとんどが帰国を選ばなかった。バングラデシュ政府は難民の意思を尊重し、彼らを無理に帰還させようとはしていませんでした。
しかし、ミャンマー政府系メディアや一部の情報源は、この状況を利用してフェイクニュースを拡散しました。
彼らは「ミャンマー軍が虐殺や放火を行っていない」と主張し、「ロヒンギャ難民が自分たちで村に火を放ち、逃げ出した」という虚偽の情報を流しました。
さらに、ミャンマー政府が帰還を受け入れる用意があるにも関わらず、難民が帰還しないことをロヒンギャの責任だと主張しました。
しかしこれは、ミャンマー政府自身が迫害の加害者であり、難民たちが安全に帰国できない状況を作り出しているという事実を無視している行為です。
ミャンマー軍の歴史改ざん
ミャンマー軍が出版した新しい本が、ロヒンギャ危機の事実を曲げるために、実在した写真を改ざんして使用していると、ロイター通信は報道しています。このような行為は、歴史を書き換えようとする試みとみられています。
例として、ミャンマー軍が公表した「ミャンマーへ侵入してきたロヒンギャのイスラム教徒」とされる記録写真は、実際にはピューリツァー賞を受賞した「ルワンダ大虐殺」の写真であることが判明しました。
このような改ざん写真は、ロヒンギャに対する偏見や敵意を煽ることに繋がり、彼らへの迫害を正当化するために利用される危険性があります。