【ガザの歴史(4)】トランプ大統領がイスラエルを全力援護!一体なぜ!?

トランプ政権下でのアメリカの中東政策は、イスラエルとパレスチナの長年にわたる紛争において、大きな方向転換を見せました。

そして、それは新たな火種を生む結果となりました。

【ガザの歴史(3)】「2014年ガザ侵攻」その日、世界が見逃したもの
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紛争が長く続くパレスチナ・ガザ地区。筆舌に尽くしがたい過酷な環境で生きるガザの人々の深い悲しみと強い怒り。一方で、日本人の私たちと同じような日常と人生がある。「それでも明日は来る」ことは希望なのか、残酷なのか。20年近くパレスチナとその周辺取材を続けているジャーナリストによる入魂のノンフィクション作品。著者撮影によるパレスチナの貴重な映像(約10分)と写真(約100点)を視聴できるクラウドコンテンツが付属。(「BOOK」データベースより)

Donald John Trump

トランプ政権下での米国対パレスチナ政策の転換

Guardian News/YouTube

2017年1月20日、ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)氏が第45代アメリカ大統領として就任し、アメリカ合衆国の対外政策における新たな時代が始まりました。

就任前から「親イスラエル」寄りの動きを見せていたトランプ大統領は、これまでの米国の対パレスチナ政策を大きく変更させ、中東におけるアメリカの役割と立場を再定義しました。

この政策変更は、特にイスラエルとパレスチナの間の緊張関係に影響を及ぼし、数十年にわたる和平プロセスの基盤を揺るがす結果となりました。

トランプ米大統領のイスラエル訪問と抗議活動

2017年5月22日、初の外遊先でサウジアラビアを選択したトランプ米大統領は、続いてイスラエルに入りました。

イスラエル訪問中にエルサレムでネタニヤフ首相と共同記者会見を実施しました。

その中で、トランプ米大統領はイランについて、バラク・オバマ前米大統領の時代にイランが「素晴らしい取引」を引き出したことを指摘し、その結果イランが「生命線と繁栄」を手に入れたと述べました。

しかし、イランがこれに感謝するどころか、テロリストを支援していると強く批判しました。

同日、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸各地では数百人の若者が抗議行動を行いました。

イスラエル軍の検問所には石が投げ込まれ、イスラエル軍は催涙ガスやゴム弾で応戦しました。エルサレム近くのカランディア検問所では少なくとも1人が負傷したと報じられています。

さらにガザ地区では、トランプ米大統領の写真を踏みつけたり、人形を燃やして強い抗議の意思を示す姿もありました。

Associated Press/YouTube

イスラエルに引き続きパレスチナ自治区を訪問

5月23日、2日間の中東訪問最終日となるこの日、トランプ米大統領はイスラエルに続きヨルダン川西岸地区のベツレヘムを訪問、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と会談しました。

「できることは何でもする」

トランプ米大統領は強い意志を表明。アッバス議長は、トランプ大統領の提案を「崇高で実現可能な使命」として歓迎し、和平実現に向けて協力する意向を示しました。

また、トランプ米大統領は記者会見の中で、英国マンチェスターで発生した爆弾攻撃に言及し、「美しく、罪のない多くの若者が、生きて自分の生活を楽しんでいたのに、凶悪な人生の負け犬たちに殺されてしまった」と非難し、犠牲者に哀悼の意を表明しました。

CBS Miami/YouTube

トランプ米大統領によるエルサレム首都認定とその波紋

2017年12月6日、トランプ米大統領はホワイトハウスでの演説において、エルサレムをイスラエルの首都として公式に認めると宣言し、正式に署名を行いました

さらに、その中でテルアビブの米国大使館をエルサレムに移すという衝撃的な発表を行いました。

これにより、約70年間続いていたアメリカの中東政策は大きく転換することになりました。

トランプ大統領はこの決定を、中東和平プロセスを推進するための「遅ればせながらの」正しいステップであると述べました。

Daily Mail/YouTube
対立の対立の核心をえぐるような決定

エルサレムは、紀元前から続く長い歴史があり、イスラエルとパレスチナの対立の核心にあります。

イスラエルはこの発表を「歴史的」として歓迎した一方で、パレスチナを含む多くの国々や国際社会からは、一方的な決定に対して強い非難が起こりました。

トランプ大統領のこの宣言は、これまでの国際社会の見解とは大きく異なったものであり、中東地域だけでなく、全世界に波紋を広げることになりました。

エルサレム首都問題と国際的な分断

「エルサレム(西エルサレム+東エルサレム)」はユダヤ教、イスラム教、キリスト教といった主要な一神教の聖地を擁し、深い宗教的、歴史的意義を持つ都市です。

第三次中東戦争後にイスラエルが占領統治

1967年の第三次中東戦争(6日戦争)を経て、旧市街を含む東エルサレムはイスラエルの統治下に置かれました。

エルサレム首都問題の長い影

1980年7月30日、イスラエル議会はエルサレム基本法を可決し、東エルサレムも含むエルサレム全域を国の首都と一方的に宣言しました。

そしてイスラエルは、エルサレム基本法を理由にエルサレムに自国の法律や行政を適用し、国際社会に対して首都としての地位を主張し始めました。

実際に、現在イスラエルの大統領官邸、議会(クネセト)、最高裁判所など多くの政府機関がエルサレムに置かれており、首都としての機能を果たしています。

イスラエルの一方的な首都宣言

しかし、この一方的な宣言は国連と国際社会からの支持を得られませんでした。

1980年に国連総会は、エルサレム基本法を非難する決議を採択、143カ国の圧倒的多数で可決されました。イスラエルのみが反対し、米国を含む4カ国が棄権しました。

アメリカもやんわりと認めていなかった

その後の和平プロセスにおいて、米国は中東地域での重要な仲介者としての役割を果たしてきましたが、多くの国と同様に、米国もイスラエルの大使館をエルサレムではなくテルアビブに置くことで、エルサレムをイスラエルの首都として認めない立場を維持してきました。

エルサレム政策と「2国家共存構想」

その後、1993年のオスロ合意は、エルサレム問題において「2国家共存構想」を推進する重要な出発点となりました。

この合意は、西エルサレムをイスラエルの首都と認めつつ、東エルサレムを未来に樹立されるパレスチナ国家の首都とする可能性を残していました。

このアプローチは、長年にわたる和平プロセスにおいて、国際社会によって最も支持されてきた解決案です。

歴史的な和平プロセスを無視したトランプ米大統領の決定

しかし、トランプ米大統領(米国)は、エルサレムをイスラエルの首都と公式に認めることを宣言しました。

これは、エルサレムの複雑な歴史と現状、そしてその地位に対する深く根ざした対立を完全に無視するものとであったため、多くの国々から批判されたのです。

そしてこの動きは、長い間、緊張の原因となってきたエルサレムの首都問題に新たな対立の火種を投じてしまい、これまでの和平協議への道をより困難なものにしました。

「2国家共存構想」の支持と現実

トランプ米大統領も、その点については同じ演説の中で触れており、この「2国家共存構想」については引き続き支持しているとし、その実現には双方の合意が必要であると強調しました。

また、この決定はアメリカが和平合意を促進するための強い関与を変えるものではないとも表明し、中東和平への意欲を示しました。

しかし、この言葉とは裏腹に、実際にはこれまでの和平への道のりや、長い間慎重に築かれてきた国際社会の共通のスタンス(2国家共存構想)を無視するものだったのです。

エルサレムへの大使館移転とアメリカの法的ジレンマ

トランプ大統領の決定の裏には、アメリカの法的なジレンマが存在していました。

1995年、アメリカは「エルサレム大使館法(Jerusalem Embassy Act)」を制定し、法的にはエルサレムに大使館を設置することを決定しました。

しかし、実際には1999年の期限までに移転は行われませんでした。

なぜなら、この法律には安全保障上の懸念を理由に大統領が執行を半年ごとに延期することができるという抜け穴が設けられており、歴代大統領はこの条項を利用することでエルサレムへの大使館移転を実施してこなかったのです。

トランプ大統領も当初はこの伝統を引き継ぎ、法執行の延期を行っていました。

しかし、最終的にはエルサレムをイスラエルの首都として公式に認めるという歴史的な決定を下しました。

そしてこの決定に続いて、トランプ大統領は国務省に大使館移転のための官僚主義的な猶予を与える一方で、エルサレムに新しい大使館建物を建設する計画を発表したのです。

アメリカ国内でのジレンマ解決と中東のさらなる混乱

トランプ米大統領の決定は、このどっちつかずの状況に置いてある意味では実際的な解決策だともいえました。

しかし、多くの評論家はエルサレムの首都認定と大使館移転はパレスチナとイスラエルの間の正式な和平には至らないと指摘していました。

実際、この決定はその後の中東の複雑な政治状況をさらに難解なものにし、和平への道に新たな障害を生み出してしまいました。

トランプ米大統領の決定の裏にユダヤ人コミュニティからの金

トランプ米大統領によるエルサレム首都認定は、国内政治的な計算にもとづくものであると広く見られています。

これは、中東地域の不安定化を懸念する声が上がる中で、トランプ大統領はこの決定によって選挙公約を果たし、強固な支持基盤を持つ米国の右派やユダヤ系コミュニティを引きつける目的があったと見られています。

宣言の中で「私は今日、約束を果たした」と述べたトランプ大統領は、エルサレムの首都認定を既成事実として認めたに過ぎず、同時に「正しい行動」として自身の決定を正当化しました。

この動きは、後に共和党ユダヤ人連合(RJC)など、トランプ大統領の主要な支持団体からの賞賛を受けることになり、感謝の広告がニューヨーク・タイムズに掲載されました。

RJCは、トランプ氏や共和党の主要な献金者であるシェルドン・アデルソン氏の支援を受けていることで知られています。

トランプ米大統領が引き起こした現地の分裂

トランプ米大統領によるエルサレム首都認定は、イスラエルとパレスチナ双方から強い反応を引き起こしました。

イスラエル側「歴史的」

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この日を歴史的と位置付け、トランプ大統領への深い感謝を表明しました。

ネタニヤフ首相はツイッターでエルサレムの重要性を強調し、「3000年にわたって我々の希望、夢、祈りの要だ」と述べました。

PBS NewsHour/YouTube
パレスチナ側「危険な結果」

一方で、パレスチナの指導者マフムード・アッバス氏は、エルサレムが「パレスチナ国家の永遠の首都」であると強調しました。

アッバス氏は、トランプ米大統領の発表を「嘆かわしい」と評し、「危険な結果」を警告しており、アラブ諸国の首脳も地域の混乱を招く可能性にも言及していました。

また、この決定により米国はもはや和平プロセスの仲介者としての役割を果たすことはできないとも述べました。

エルサレム首都認定を受けたパレスチナ地区の抗議と衝突

トランプ米大統領によるエルサレム首都認定の発表を受けて、パレスチナのガザ地区ではハマスの呼びかけに応じた抗議デモが発生しました。

ハマスは、「米国施設にとって地獄が始まる」と強い言葉で非難し、その他のパレスチナの政治勢力にも抗議活動への参加を呼びかけました。

そして12月7日には、ヨルダン川西岸のラマラなど主要都市で抗議集会が開催され、パレスチナ人の若者たちがイスラエル軍の検問所に石を投げつけるといった衝突が発生。

これに対してイスラエル軍は、ゴム弾や催涙ガスを使用して鎮圧を図りました。

さらに、ガザ地区の武装組織がイスラエル領内に向けて短距離ロケット弾を連続で発射し、「トランプ米大統領への反撃」との声明を発表しました。

イスラエル軍は報復行為として、戦車で砲弾を発射しました。しかし、この争いで幸いにも大きな被害は出ませんでした。

BBC News/YouTube

世界の指導者たちからのエルサレム首都認定を非難

トランプ米大統領の決定は、世界中で大きな反響を呼び、多くの国のリーダーたちがこの無責任で危険な措置を一斉に非難しました。

その中には、米国の同盟国を含むイスラム諸国からの強い反対の声もありました。

サウジアラビアのサルマン国王は、この決定を「世界中のムスリムに対するあからさまな挑発」と強く非難しました。

また、トルコのイスタンブールでは米国領事館前で抗議デモが行われるなど、ガザ地区だけでなく世界各地で抗議の動きが見られました。

アントニオ・グテレス国連事務総長は、「強い懸念」を示しつつ、「2国家共存構想以外に選択肢はない」と明言。

テリーザ・メイ英首相は、アメリカの決定が地域の平和に貢献しないとし、米国の決定には同意できないと表明しました。

マクロン仏大統領は、フランスが米国の行動を支持しないことを明らかにし、関係者に平静を保つよう呼びかけました。

欧州連合のフェデリカ・モゲリーニ外交・安全保障上級代表も「深刻な懸念」を表明し、トランプ政権の決定に対するヨーロッパの懸念を示しました。

国連安保理での撤回要求決議案の採決と米国の拒否権発動

2017年12月18日、国連安全保障理事会において、アメリカ合衆国によるエルサレム首都認定の撤回を求める決議案が採決されました。

この決議案は、日本を含む14ヵ国の賛成を得ましたが、アメリカが拒否権を行使したため否決されました。

12月21日には国連総会の場でエルサレム首都認定の撤回を求める決議が採択されました。この決議は、賛成128票、反対9票、棄権35票で通過しました。

国連でのこの動きは、アメリカの決定に対する国際社会の強い反対の意思を改めて示すものであり、エルサレム問題に関する世界的な見解の分裂を浮き彫りにしました。

BBC News/YouTube

「帰還の行進」パレスチナ人の抗議デモにイスラエル軍が発砲

2018年3月30日、ガザ地区とイスラエルとの国境沿いの柵でパレスチナ人の抗議活動「帰還の行進」で、イスラエル軍とデモ参加者との間で衝突が発生していました。

帰還の行進では、1948年のイスラエル建国によって追放されたパレスチナ人たちが、自分たちの土地へ帰してほしいと訴えていましたが、イスラエル軍はこの抗議デモに対して容赦無く発砲し、死者を含む多くの負傷者が出ました。

Al Jazeera English/YouTube

緊張が高まる中での米大使館移転式典

このように、パレスチナでの緊張が極限まで高まっていた2018年5月14日に、トランプ米大統領の決定通りアメリカの大使館がエルサレムに移転することになりました。

大使館移転式典には、トランプ米大統領の娘イバンカ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏が出席するなど、国際的な注目を集めるイベントとなりました。

式典の中で、イバンカ氏による大使館の印の除幕と、クシュナー氏の「トランプ大統領は約束を果たす人」という演説は、トランプ政権の決定に対する自信と決意を象徴するものになりました。

イスラエルのネタニヤフ首相は、この移転を歴史的と称賛し、トランプ大統領の決断をエルサレムの歴史を認めるものとして讃えました。

Guardian News/YouTube
米大使館移転の背後にあるトランプ米大統領の政治的支持基盤

このアメリカ大使館の移転についても、エルサレム首都認定と同様に、トランプ米大統領の政治的支持基盤の意向を強く反映した動きとして広く見られています。

実際に、ユダヤ系アメリカ人の右派と保守的な正統派ユダヤ教徒の影響力が、ホワイトハウスでのロビー活動を通じて、この決断に大きな役割を果たしていました。

さらに、アメリカの福音派キリスト教徒コミュニティからの強い支持も見受けられ、マイク・ペンス副大統領などのホワイトハウス内のキリスト教徒によってその意向は強調されました。

このような宗教コミュニティからの支持は、トランプ大統領の決定を後押ししたと見られています。

しかし、この一方的な行動は、中東和平プロセスの最も敏感な問題の一つであるエルサレムの地位に関する交渉において、アメリカがイスラエル側に立つという姿勢を明確にしてしまいました。

平和の希望と現実の矛盾

トランプ米大統領はエルサレムのアメリカ大使館移転式典に寄せたビデオメッセージで、平和への強い希望を表明し、「アメリカは永続的な平和協定を促進するため全力を尽くしている」と述べました。

しかし、実際の出来事は平和という言葉からはかけ離れたものでした。

大使館移転式典と同日、パレスチナ人の壮絶な抗議

アメリカ大使館のエルサレムへの移転式典が行われた同日、ガザ地区とイスラエルの国境沿いでパレスチナ人による大規模な抗議集会が開催され、深刻な暴力衝突が発生しました。

イスラエル軍の実弾使用により、パレスチナ自治政府によると、55人が死亡し、2700人が負傷しました。これは、「2014年ガザ侵攻」以降で最悪の犠牲者数となりました。

この抗議行動は、「帰還大行進」の一環であり、イスラエル建国70周年にあたる日と、パレスチナ人によって「ナクバ」と称される強制移住が始まった日に重なりました。

CBS News/YouTube
イスラエル側が銃撃

イスラエル政府はパレスチナ人の行動を「暴力的な暴動」と表現し、石や発火装置に対して催涙ガスや狙撃兵による銃撃で応戦しました。

パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス首相は、イスラエルによる行動を「虐殺」と非難し、3日間の国民服喪を宣言しました。

さらに、国連人権高等弁務官もイスラエルの発砲行為を「衝撃的」で「甚だしい人権侵害」として強く非難しました。

衝突に対するイスラエルの見解

一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエル軍の行動を自衛のためとして正当化しました。

ネタニヤフ首相は、軍の発砲はハマスに対するものであり、国境を守る義務があるとの立場を強調。

ハマスがイスラエルの主権と市民を脅かす意図を持っており、国境フェンスを突破しようとする動きに対して、イスラエルは断固たる行動を取ると明言しました。

イスラエル国防軍の報道官は、兵士が発砲したのは「テロ活動に関わる者たち」に限定されており、抗議集会の一般参加者に対しては、催涙ガスを含む非致死的な手段を用いて、交戦規定に則って対応していると説明しました。

しかし、この抗議デモは2019年2月までに死者約200人、負傷者6500人以上にものぼる悲劇となっています。

euronews/YouTube

トランプ政権のガザ衝突に対する立場はもちろんイスラエル

トランプ政権は、2018年5月にガザ地区のイスラエルとの境界線で起きた衝突で、多数のパレスチナ人がイスラエル軍の発砲で死傷した事件に関しても、イスラエルの立場を支持しました。

ホワイトハウスは、ガザ地区を実効支配しているイスラム勢力ハマスを厳しく非難し、この衝突を「恐ろしい政治宣伝」と表現し、イスラエルに対する「意図的でシニカルな」挑発行為であるとの公式見解を発表しました。

この発表は、イスラエル軍の行動に自制を求めた欧州諸国とは一線を画しており、アメリカの中東政策におけるイスラエルへの支持の強さを改めて世界に示すものとなりました。

トランプ政権がパレスチナ支援を停止

さらに、トランプ政権はこのような米国の対パレスチナ政策の大幅な転換に対し、パレスチナ側が強い反発を示したことに対して、アメリカの国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の停止を含む、パレスチナへの支援を大幅に削減しました。

UNRWAは1949年に設立され、パレスチナ難民への教育、医療、社会サービスの提供など、基本的な生活支援を行う国連機関です。

アメリカは長年にわたりUNRWAの主要な資金提供国の一つであり、この資金停止はパレスチナ難民をさらなる過酷な状況に追い込むことになりました。

CBC News/YouTube
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「知らない」ではすまされない、世界が注視する“この国”を正しく知るための入門書イスラエル。こんなテーマがほかにあるだろうか?人口1000万に満たない小さな国が世界のトップニュースになるのはなぜか?アメリカのキリスト教福音派はなぜ、イスラエルとトランプを支持するのか?なぜ紛争は繰り返されるのか?そもそも、いったい何が問題なのか?世界で最も複雑で、やっかいで、古くからの紛争と思われるものを正しく理解する方法などあるのだろうか?国際社会の一員として生きていくために、日本人が知っておくべきことが、この一冊に凝縮されている。争いを拡大させているのは、私たちの無知、無関心かもしれない。(「Books」出版書誌データベースより)

Trump approves Israeli settlements.

トランプ米大統領がイスラエルの入植を認める

CBS News/YouTube

2019年3月21日、ドナルド・トランプ米大統領は、イスラエルが1967年の第三次中東戦争でシリアから奪い、1981年に一方的に併合を宣言したゴラン高原について、イスラエル領として認めるべきだという衝撃的な発言をしました。

この発言は、アメリカを含む国際社会が長年にわたり持っていた立場からの著しい転換であり、中東地域の緊張をさらに高めるものになりました。

ゴラン高原の戦略的価値と複雑な歴史

ゴラン高原はイスラエル北東部に位置し、標高約600メートル、面積約1,800平方キロメートルに及ぶ地域です。豊かな雨量と肥沃な土壌を持つこの高原は、古来より農業地として重宝されてきました。

また、その戦略的な位置から、シリアとイスラエルの軍事的に重要な要衝となっています。

国連安保理の複数の決議ではイスラエルにこの占領地からの撤退を要求していますが、イスラエルはこれらの決議に従ってはいません。

1974年には第4次中東戦争の結果、国連安保理決議350号に基づいてゴラン高原に兵力引き離し地域が設置され、UNDOF(国連兵力引き離し監視隊・United Nations Disengagement Observer Force)が展開されました。

この監視軍の存在により、一時的に「もっとも安全な紛争地」と称されたこともあり、日本も1996年から2013年まで同地に自衛隊を派遣しています。

しかし、2011年に勃発したシリア内戦がゴラン高原の状況にも影響を与え、反体制派は高原を利用してシリア軍に対抗し始めました。この時、イスラエルは反体制派への支援を行ったとされています。

最終的に、シリア政府軍は2018年7月までに反体制派をゴラン高原から排除し、8月にはUNDOFがロシア軍の護衛の下で監視活動を再開していました。

その後もイスラエルはゴラン高原に入植を進めており、イスラエルが侵攻した時に脱出しなかった約2万人のアラブ系シリア人と共にこの地域に住んでいます。

Global News/YouTube

トランプ大統領のゴラン高原に関するツイート

トランプ米大統領は、2019年3月21日に自身のツイッターアカウントを通じて、「米国がイスラエルの主権を完全に認める時がきた」とまたもや歴史的な宣言をしました。

さらにゴラン高原が「イスラエルと地域の安定にとって、戦略的にも安全保障面でも重要」と強調し、これまでの国際社会の合意を覆す見解を公表しました。

アメリカの国家安全保障担当のボルトン大統領補佐官も、「我々は偉大な友人であり同盟関係にあるイスラエルを完全に支持する」とツイートしました。

米国のゴラン高原政策の変遷とシリアとの和平交渉

このトランプ米大統領の宣言は、これまでの米国がとってきた立場を180度変更するものでした。

2016年にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がゴラン高原を永久に手放さないと宣言した際、当時のオバマ政権は国連安全保障理事会でイスラエルの姿勢に対する懸念を示す決議に賛成票を投じました。

アメリカが国連の舞台でイスラエルに反対票を投じたのは異例の事態であり、米国内外で大きな注目を集めました。

しかし、シリアはイスラエルがゴラン高原から撤退するまで和平協定を結ぶことを拒否しているため、アメリカが主導した最後の和平交渉は2000年に決裂しました。

その後2008年にはトルコが間接的な協議を仲介しましたが、これも成果を出すことはできませんでした。

このような歴史的背景の中で、今回トランプ米大統領のゴラン高原についての宣言がなされました。

これは、アメリカが初めてイスラエルの侵略とも呼べるこの行動を公式に支持したことを意味しており、中東の地政学における新たな段階に入ることになりました。

イスラエル首相、トランプ大統領のゴラン高原に対する主権認定を歓迎

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ大統領のゴラン高原に対するイスラエルの主権認定を公然と歓迎し、感謝の意を示しました。

ネタニヤフ首相はツイッターで、「イランがシリアを拠点にしてイスラエルの破壊を企てているこの時に、トランプ大統領がゴラン高原に対するイスラエルの主権を明確に認めた」と述べ、この動きをイスラエルの安全保障にとって戦略的に重要なものと位置付けました。

ネタニヤフ首相はまた、トランプとの電話会談でこの決定を「歴史的な偉業」と称え、イスラエルにとって大きな支持を得たことを強調しました。

長らくイランのシリアにおける軍拡に対して警鐘を鳴らし、対イラン空爆の指示を出してきたネタニヤフ首相にとって、アメリカのこの新たな姿勢は、イランに対抗するための国際的な連携をさらに強固にするものでした。

国際社会からの非難

これを受け、アラブ諸国をはじめとする国際社会からの非難が相次ぎました。

シリアのアサド政権は、「可能なあらゆる手段」でゴラン高原を奪還する意志を表明し、アラブ連盟はトランプ米大統領の発言を国際法違反と断じました。

国連事務局長は、イスラエルによる一方的な併合を認めない国連安保理の決議を引き合いに出し、アメリカに方針の見直しと撤回を求めました。EUも同様の姿勢を示しています。

トルコのエルドアン大統領も、ゴラン高原占領の正当化を断固として拒否する立場を明確にし、この問題を国連安保理で取り上げると発表、同国の外相も、この動きが地域内の衝突を悪化させるとして非難の声明を発表しました。

ロシアは中東情勢の不安定化を懸念しており、アメリカ国内の専門家からも、この政策変更が国際法に反するとの指摘が出ています。

トランプ大統領の発言とイスラエル総選挙

実は、このような突然の宣言が出された背景には、ネタニヤフ首相個人の政治的な危機が関係していると見られています。

ネタニヤフ首相は2019年4月9日に迫ったイスラエル総選挙で厳しい戦いが予想される中、複数の汚職疑惑に直面していたのです。

この状況の中で、ネタニヤフ首相はワシントンでトランプ米大統領との会談を控えていました。トランプ米大統領のゴラン高原に関する投稿は、この政治的に非常に敏感な時期に行われました。

しかし、トランプ米大統領はFOXビジネスネットワークの番組に出演し、自らの発言がネタニヤフ首相の選挙キャンペーンを意図的に支援するものではないと明言しました。

「彼が現在、かなり優勢かどうかは分からないが、順調だと聞いている」と述べつつも、「彼の対抗馬も、それが誰であろうと、私の発表を支持するだろう」ともコメントしています。

このトランプ大統領の発言は、イスラエル国内外で様々な解釈を受けており、一部では選挙への影響を指摘する声も上がっていました。

アメリカのゴラン高原に関する主権承認

2019年3月25日、アメリカ合衆国はイスラエルがシリアから奪ったゴラン高原に対する主権を正式に認める歴史的な文書に署名しました。

この署名式は、ホワイトハウスでネタニヤフ首相が同席のもとで行われ、イスラエルのゴラン高原に対する権利を国際的に支持するアメリカの固い姿勢を示しました。

宣言文には、「将来的な和平合意は、シリアや他地域からの脅威からイスラエルを守る必要性を考慮したものでなければならない」とあり、イスラエルの安全保障上の関心を重視しています。

そして、「米国はゴラン高原がイスラエル国の一部であることを承認する」という明確な表現で、アメリカの公式な立場が宣言されました。

トランプ政権のゴラン高原の主権認定

トランプ米大統領は、ホワイトハウスでの署名式において、アメリカとイスラエルの関係が「強力である」と述べ、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を認める宣言書に署名しました。

この宣言は、イスラエルの主権を認めた国としてはアメリカが初めてになりますが、国連安全保障理事会の決議には反するものでした。

ネタニヤフ首相は、この宣言がイスラエルの安全保障にとってかつてないほど重要なタイミングで行われたと述べ、トランプ米大統領に感謝の意を表しました。

そして式典に立ち会ったネタニヤフ首相には、署名に使われたペンが記念として手渡されました。

国際社会の非難

この式典に関して国連報道官は、「ゴラン高原の地位は変わらない」と明言し、トランプ米大統領の決定に対しては国際法に基づく従来の立場を維持することを強調しました。

中東のアラブ諸国も、トランプ大統領の決定を一斉に非難し、この問題が後の国際社会で引き続き議論の的になりました。

Fox News/YouTube
イスラエルに対するロケット攻撃とトランプ大統領の支持

式典の日、イスラエル中部の民家がハマスによって発射されたとされるロケット弾により被害を受けていました。

このことについてもトランプ米大統領は「イスラエルには自国を防衛する権利がある」と強調し、アメリカのイスラエルに対する支持を再表明しました。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相も、この攻撃を決して容認しないという立場を表明し、報復としてイスラエル軍による大規模な攻撃を行う準備があることを示しました。

「トランプ高原」の誕生

2019年6月16日、イスラエル政府は、シリア領内のゴラン高原に「トランプ高原」と名付けた新しい入植地の設立を発表しました。

この決定は、ドナルド・トランプ米大統領が2019年3月にゴラン高原におけるイスラエルの主権を認めたことへの感謝の表れであり、イスラエルのネタニヤフ首相が提案した構想にもとづいています。

また、この決定は、ゴラン高原で開かれた閣僚会議において正式に決定されました。ネタニヤフ首相は「歴史的な日だ」と述べ、「イスラエルにとって素晴らしい友であるトランプ大統領を称賛する」と発言しました。

式典では、「誰もしなかった決断をしてくれた偉大な友人だ」とネタニヤフ首相はトランプ米大統領を称賛。そして、両国の国旗がついた「トランプ高原」と書かれた看板がお披露目されました。

トランプ米大統領自身も同日、この決定に対し「大変光栄だ」とツイッターで表明しました。

この新たな入植地の設立は、住宅や学校などの建設を伴い、イスラエルによる占領地支配の既成事実化が一層進むことを意味するものであり、国際社会から非難を呼ぶことになりました。

TV5MONDE Info/YouTube

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸での入植活動を認める

2019年11月19日、トランプ政権はイスラエルのヨルダン川西岸地区での入植活動に関するアメリカの長年の政策を大きく変更しました。これは、中東和平に向けた取り組みにおいて重要な転換点となりました。

ヨルダン川西岸地区は、1967年の第三次中東戦争以来、イスラエルによって占領されており、その後、ユダヤ人の入植地が建設されてきました。

これまでのアメリカの政策は、この地域での入植活動が国際法に違反し、中東和平プロセスの障害となるというものでした。

しかし、トランプ政権はこの見解を覆し、1978年のカーター政権下での米国務省の法的見解「占領地にある民間人の入植地は国際法に反する」という立場を撤回、「国際法に違反しない」との新たな認識を表明しました。

この決定は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとっては支援となり、同時にトランプ大統領の再選戦略と結びつく政治的動きと見なされました。

国務長官マイク・ポンペオは、「民間の入植活動を国際法と矛盾すると言っても、和平の推進にはなっていない」と述べ、さらに「紛争に司法的な解決はなく、国際法上の議論が平和をもたらすわけではない」という現実を指摘しました。

Voice of America/YouTube
パレスチナ入植地問題

パレスチナ人は、イスラエルによるヨルダン川西岸地区での入植地の拡大を、中東和平への主要な障害と捉えています。

その理由は、入植地の拡張がパレスチナ人コミュニティを分断し、パレスチナ人の土地を分割することにより、パレスチナ国家の実現可能性を著しく低下させるためです。

入植地の存在は、パレスチナの領土の連続性を損ない、独立した国家としての存立を困難にしています。

イスラエルにおける入植地の拡大は、歴代政権下で一貫して進行してきました。1990年代に和平プロセスが最も活発だった時期でさえ、入植地の拡大は止まることがありませんでした。

当時のイスラエル首相ナフタリ・ベネット氏は、元入植者の指導者であり、パレスチナ国家の樹立に強く反対してました。

ベネット元首相の立場は、イスラエル国内での入植支持派の強さを示しています。

実際に、長い間入植問題について、イスラエルとパレスチナの間で真剣な和平交渉が進展していない状況が続いています。

さらに、イスラエルの政治体制は、ヨルダン川西岸地区をユダヤ人の聖書的および歴史的な中心地とみなす入植支持政党によって支配されています。

これにより、パレスチナ人との和平プロセスへの取り組みがさらに複雑化し、解決が難しい状況に陥っています。

ヨルダン川西岸からは強い非難の声が上がる

ヨルダン川西岸地区の統治機関であるパレスチナ解放機構(PLO)のサエブ・エレカット氏は、2019年11月19日にトランプ政権のヨルダン川西岸でのイスラエル入植活動の認識を変更する発表に対して強口反発しました。

エレカット氏は、トランプ政権の発表が国際システムを脅かし、国際法を無視する行為であると非難しました。

エレカット氏は、国際法が強いものが弱者を喰らう”ジャングルの法則”に置き換えられていると批判し、国際社会に対して、アメリカのこの無責任な行動に対応し、それを阻止するための全ての手段を講じることを呼びかけました。

さらに、エレカット氏は、この政策変更が世界の安定、安全、平和に脅威をもたらすものだとも指摘しました。

イスラエルはこの決断を称賛

一方で、イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ政権のヨルダン川西岸地区でのイスラエル入植活動に対するアメリカの新たな立場を強く支持し、2019年11月18日にその決断を称賛する声明を発表しました。

「イスラエルはトランプ大統領、ポンペオ国務長官、そしてアメリカ政府に対し、真実と正義を支持するその揺るぎない姿勢に深く感謝している」と述べました。

またネタニヤフ首相は、アメリカが「歴史的な誤りを正す重要な政策を採択した」と述べ、これを「歴史的な真実を反映するもの」と位置づけた上で、和平を望む全ての信頼できる国々に同様の姿勢を取るよう呼びかけました。

さらに、ユダヤ人はユダヤやサマリア(ヨルダン川西岸の歴史的な名称の一部)の外から来た入植者ではなく、その地域に根ざした歴史と文化的な繋がりを持っていると強調。

ネタニヤフ首相は、「ユダヤ人」という名前自体が、自分たちがユダヤ地域の人々であることを示していると、入植の正当性を主張しました。

読者の皆様へ

トランプ政権のイスラエル寄りの政策は、中東地域における複数の国とコミュニティ間の緊張関係を悪化させ、イスラエルとパレスチナ間の和平への道のりをより困難なものにしてしまいました。

実際に、トランプ氏が米大統領に就任以降、パレスチナでの抗議活動は激化、イスラエル政府による入植活動は急速に増加しています。

和平への道は、これまで以上に遠いものとなり、国際社会はこの困難な状況を克服するための新たなアプローチと解決策を模索する必要に迫られました。

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