食料危機が深刻化する中、将来的には十分な食料を供給できなくなる可能性があると警鐘を鳴らす専門家も多く存在しています。このような状況に対処するためには、地球規模での取り組みが求められています。
今回の記事では、その中でも食品ロスが深刻な問題となる理由やその解決策について詳しく紹介しています。日本を含む世界各国で多くの食品が廃棄されている現状を受けて、個人レベルでの取り組みも必要となっています。
ぜひ、この問題について考え、自分自身ができることを見つけていただければと思います。
【食糧危機⑤】荒れる農地、消える田園風景、日本農業崩壊
Food waste
食料危機はもうすぐそこに。食品ロス問題を知って立ち向かう時
世界には8億1100万人が食料不足に苦しんでおり、そのうち5000万人が深刻な飢餓状態にあります。これは健康に悪影響を与え、死に至る可能性もあるほどの状況です。飢餓とは、栄養が十分でなく、必要な食料を得られない状態を指します。さらに、1年間に5歳未満の子どもで飢餓や栄養不足が原因で亡くなる数は310万人で、子どもの死因の半数以上を占めています。
「食品ロス」食べられるのに捨てる部分
農林水産省では、食べられない部分を含む食品の廃棄を「食品廃棄物」と呼び、食べられる部分の廃棄を「食品ロス」と呼んでいます。「食品廃棄物」は、野菜の芯や魚の骨のような食べられない部分も含まれます。「食品ロス」は、食べられるのに捨てられる部分を指します。「食品廃棄物」は、「食品ロス」よりも広い概念です。
「事業系食品ロス」と「家庭系食品ロス」
「事業系食品ロス」とは、流通段階での廃棄を指し、一方で自宅の食べ残しによる廃棄は「家庭系食品ロス」と呼ばれます。
海外では食品ロスのことを「Food Waste」
「国際連合食糧農業機関」では、食品廃棄物を「Food Loss and Waste」と呼んでいます。「Food Loss」は主に消費者の目に触れる前に発生する損失を、一方「Food Waste」は消費期限切れや食べ残しなどを指します。
足りてるのに…足りない!?食の不均衡
世界の食料生産量は年間約40億トンで、全人口を賄える十分な量ですが、「食の不均衡」が問題です。先進国では食べ残しや賞味期限切れが原因で捨てられ、途上国では貧困や気候変動、紛争などが食料不足を招いています。
世界中で大量の食べ物を絶賛廃棄中!
現在、世界では年間約13億トンの食料が捨てられており、これは生産された食料の約3分の1に相当します。先進国では、作りすぎや賞味期限切れにより消費段階で多くの食料が廃棄されています。一方、途上国では収穫段階での食品ロスが問題となっています。衛生状態の悪さや保管施設の不足が害虫やカビの発生を招き、作物がダメージを受けます。また、貧しい農家では労働力や機械が不足し、収穫が遅れると作物が腐ることがあります。食品ロスは慢性的な貧困、紛争、経済危機とともに飢餓の原因となっており、さらに生産時の水や資源のロスにもつながっています。
農業に打撃!?廃棄時に排出「温室効果ガス問題」
食品ロスの問題は、「食べられるのに捨てるのはもったいない」というだけでなく、飢餓を引き起こす可能性もあります。
例えば、大量の廃棄食材の処理によって温室効果ガスが発生し、地球温暖化が進行します。これが干ばつや洪水などの異常気象を引き起こし、農業に悪影響を与える悪循環が生じます。このため、食品ロスの削減は地球環境や食糧問題の解決にも重要な役割を果たします。
「フライト・シェイム」
「フライト・シェイム」という言葉は、気候変動への懸念から航空産業に対する批判的な意見を表していますが、実際には食品廃棄物の方が気候変動に大きな影響を与えています。特に、穀物類(お米や小麦など)の食品廃棄物は、温室効果ガス排出量が全体の3割以上を占めており、野菜と肉類が続いています。
食品サプライチェーン(農業、収穫・保管、加工・製造、物流、消費)の中で最も温室効果ガス排出量が多いのは消費フェーズで、全体の37%を占めています。大量の水分を含む生ごみは焼却処分にエネルギーが必要で、それが温室効果ガスの排出につながっています。
輸出をする生産国側で飢餓が増加
食品ロスを放置することで、必要以上の食料の輸入が増え、輸出国の資源枯渇や生産国での飢餓が増加する原因となります。すでに世界では十分な食料が生産されているにも関わらず、食品ロスによる食料の不均衡が飢餓の原因となっています。
私たちの国“日本”でも毎日のように食品を大量廃棄
日本では、年間522万トンの食品ロスが発生しており、これは毎日大型トラック(10トン車)約1,430台分に相当します。このうち、事業者(食品産業や飲食店など)からは275万トンが発生しており、規格外品、返品、売れ残り、食べ残しなどが主な要因です。一方、消費者(家庭)からは247万トンが発生しており、食べ残し、手つかずの食品(直接廃棄)、皮の剥きすぎなど(過剰除去)が主な要因となっています。
毎日一人一人がお茶碗一杯分の食べ物を捨てている計算
日本では、国民一人当たりに換算するとお茶碗約1杯分(約113g)の食べ物が毎日捨てられているとされています。これは、食品ロスが大量に発生している現状を示しています。
大量に輸入して大量に廃棄…。さらに音質高がガスを排出
日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2019年度/農林水産省)と低く、多くの食料が輸入に依存しています。輸入された食料は長距離の輸送が必要であり、その過程で温室効果ガスが排出されることになります。これは地球温暖化の要因となっており、環境問題にもつながっています。
賞味期限がきれていないのに廃棄する慣習
食品ロスの問題は、節分商戦の恵方巻きやコンビニのお弁当、飲食店での食べ残し、家庭での賞味期限切れ食材など、さまざまな場面で発生しています。賞味期限という表示制度は、消費者が期限が遠い食品を選ぶ傾向を生み出し、店舗側では賞味期限から逆算した3分の1ルールを適用することで、賞味期限前にもかかわらず廃棄せざるを得ない状況が生まれています。
この問題を解決するために、業界の商慣習である3分の1ルールの緩和が始まっています。イオンやイトーヨーカ堂などの大手企業では、飲料や菓子の納品期限を賞味期限の3分の1から2分の1に延長し、酒類の納品期限を製造後1か月から3か月に延長するなどの取り組みが行われています。
支援量より捨てる量の方が多い国「日本」
日本の年間食品廃棄量は、世界の飢餓に苦しむ人々への食料支援量(2020年で約420万トン)の1.2倍にも相当します。日本で食品ロスが問題となっている一方、世界では4人に1人が深刻な栄養不足に悩んでいます。
日本の中でも深刻な飢餓問題
日本でも飢餓問題が深刻化していることは、社会の認識として十分に理解されていないかもしれませんが、実際に日本でも飢餓問題が年々深刻化しています。
厚生労働省の人口動態調査によれば、2003年には栄養不足で1338人、食糧不足で93人が亡くなっていましたが、2019年には栄養不足が1934人、食糧不足が23人となりました。食糧不足による死者は減少していますが、栄養不足による餓死者は増加しています。
また、世界価値観調査による飢餓経験率の調査では、2010~14年には日本で5.1%だったのが、2017年~2020年には9.2%に増加しています。つまり、約1割の国民が飢餓を経験しています。アメリカでは、飢餓経験率が11.5%から12.5%に増加していますが、増加率は4.1%であり、日本の飢餓経験率の増加傾向がより顕著です。この結果は、日本国内でも飢餓問題が深刻化していることを示しています。
日本の飢餓問題は、生活保護や低所得世帯、高齢者、シングルマザーなどの経済的に厳しい状況に置かれた人々が特に影響を受けることが多く、社会的な格差の問題が関連しています。また、栄養不足や食糧の不足は、健康問題や学力低下、生活の質の低下など、さまざまな悪影響をもたらします。
「食べ物 < 身なり・暮らし」日本人の意識
日本における飢餓問題は、確かに他の要素にお金を使わざるを得ない状況が原因として挙げられます。衣・食・住の中でも「食」に対する意識が低い傾向があり、食費よりも他の費用に優先してお金を使うことが一因となっています。
携帯電話やコンピューターは現代社会において仕事やコミュニケーションの必需品であり、通信費にもお金がかかります。また、住まいや服にお金をかけることで、一見すると周囲の人々と何も変わりません。
このように、日本の飢餓問題の怖さは、周囲の人々との外見や生活スタイルに大きな差がないため、問題が見つけにくいことです。また、本人も自分が飢餓状態にあることに気づきにくいため、問題が長引くことがあります。このような状況は、支援が必要な人々が見過ごされやすく、栄養不足や健康問題が悪化するリスクがあります。
食品を捨てる国で国民が餓死
「食品ロス」問題と「餓死」が同じ国で同時に発生しているのは悲しい現実です。NPO、企業、個人が積極的に取り組んでいるものの、まだ完全な解決には至っていません。
未来の世代により良い環境を提供するためには、私たち一人ひとりが意識を変え、行動を起こすことが求められます。融通の利かないルールや仕組み、権力への忖度を見直し、変革を促すことが大切です。具体的な取り組みとしては、以下のようなことが考えられます。
- 教育:子供たちに食品ロスや飢餓問題について教えることで、彼らが将来的に問題解決に取り組む意識を持つようになります。
- 政策変更:政府が食品ロス削減や飢餓問題に取り組むための政策を立案し、実施することが求められます。これには、食品の廃棄基準の見直しや飢餓に苦しむ人々への支援策などが含まれます。
- 企業の取り組み:企業が社会的責任を果たすために、食品ロス削減や飢餓問題の解決に向けた取り組みを行うことが重要です。例えば、余剰食品の寄付や食品ロスを減らすための商品開発などが考えられます。
- 個人の行動:消費者として、私たちが食品ロスを削減するために意識的な選択を行い、食べ残しを減らす努力をすることが大切です。また、飢餓問題に対して、寄付やボランティア活動を通じて支援を行うことも重要です。
気象変動時代の中で国際社会が問題可決に向けて動く
現在、世界の人口は増加し続けており、2050年には約97億人に達すると予想されています。今後20億人も人口が増えるため、食料生産も増やす必要があります。
しかし、気候変動による洪水や干ばつなどの自然災害が増えているため、生産を増やすことは難しい状況です。食品ロスの削減と飢餓は世界的に大きな問題で、持続可能な開発目標(SDGs)でも、食品ロスを半減させることや飢餓をなくすことが目標になっています。
世界の食料安全保障の主要課題「餓死をゼロ」
国際連合食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を「全ての人がいつでも、健康的な生活に必要な食料を手に入れられる」状況と定義しています。世界で最も重要な食料安全保障の課題は飢餓問題です。
2020年のFAO報告では、栄養不足の人が増え続け、2019年には約6億9千万人以上に達しています。特にアフリカでは、人口の19.1%が栄養不足です。
飢餓問題を解決するには、世界全体での取り組みが必要です。持続可能な開発目標(SDGs)では、「飢餓をゼロに」することを目指し、各国が協力して食料の安定確保、栄養状態の改善、持続可能な農業の推進に取り組んでいます