この記事では、農業政策の変化や需要の低迷によって、日本のコメ農家が直面する困難な状況について取り上げています。
政府は、減反政策の廃止や転作などの政策を通じて、価格安定や農業の持続可能性を目指していますが、一方で、小規模農家が経営難に直面し、大規模農家への集約が進んでいる現状もあります。この記事を通じて、日本の農業問題について深く理解し、持続可能な食糧生産に向けた取り組みについて考えていただければ幸いです。
【食糧危機④】おいしいご飯が当たり前じゃなかった時代を知ろう。忘れ去られた戦後の食糧事情
“Japan’s Farm Policy Secrets”
農業者だけが知っている…。減反政策と耕作放棄地問題
1971年(昭和46年)に日本は減反政策を開始しました。減反政策は、米の生産過剰を抑制するために、政府が農家に対して米の作付け面積を減らすように指導・奨励する政策です。これにより、米の需給バランスを維持し、価格の安定を図ることを目的としています。
日本の減反政策は、1970年代から1980年代にかけて実施され、生産調整が行われました。この政策の背後には、高度経済成長期における国内の食糧自給率の低下や輸入米の増加、食生活の変化が影響していました。政府は、生産過剰による価格下落や農家の所得低下を防ぐために減反政策を実施しました。
休耕田・転作を実施した田んぼの面積に対して補助金
減反政策は、日本政府が農家に対して、休耕田や転作した田の面積に応じて補助金を支払う制度です。この制度によって、政府は生産過剰の抑制と価格安定を目指しています。
要約すると、「日本ではお米が余っているため、お米を作らないでください。ただし、必要に応じてお米を作れるように田んぼは維持しておいてください。その代わり、補助金を支給します」というシステムです。これにより、政府は農家の所得を保護し、食糧自給率の維持や緊急時の対応力を確保しています。
反を減らす=減反
減反政策は、「減らす」+「反」(田んぼの面積の単位)という言葉が組み合わさって名付けられました。政策の目的は、各農家に対して作付けする田んぼの面積(反)を減らす割り当てを行い、米の生産過剰を抑制することです。
農家は減反によって手厚い補助金を獲得できた
減反政策にはいくつかのメリットがあります。
- 収入の安定: 政府の方針に従って作付けを減らすことで、農家は一定の収入を確保できます。生産量や価格が政府によって決定されるため、農家は指示に従うことで生活が安定します。
- 補助金: 減反政策により、水田で米以外の作物を栽培する場合にも補助金が支給されます。麦や大豆などの栽培に対しては、10アールあたり3万5000円の補助金が付与されるなど、収入源として大きな役割を果たしています。
- 加工用・飼料用米の補助: 加工用の米や家畜の飼料用米を生産する場合も、補助金が支給されます。これにより、減反政策を受け入れる農家の支持を獲得しています。
結果的に競争力が低下…。
減反政策にはたくさんメリットがありますが、もちろんデメリットも存在します。
- 経営判断の制約: 減反政策により、農家は政府の指示に従わざるを得なくなり、自らの経営判断で米の生産や他の作物の栽培を行うことが難しくなります。
- やる気の低下: 政府の方針に従うことが前提となるため、農業経営者の自主性や創意工夫が制限され、やる気が削がれる可能性があります。
- 国際競争力の低下: 農業の自由化が進む中で、海外からの米の輸入が増えると、日本の生産者が競争に負けるリスクが高まります。減反政策が長期化することで、生産者の効率化や競争力向上が妨げられる恐れがあります。
減反政策は、一定の所得保障や価格安定をもたらす一方で、農業経営者の自主性や競争力が低下するリスクも抱えています。
放棄された農地「耕作放棄地」が増加
休耕地・休耕田とは、一時的に作物の栽培を休止している田畑を指します。これらの土地は、耕作者がすぐに栽培を再開できる状態で維持されており、所有者は農業を継続する意志を持っています。
耕作放棄地は、休耕地・休耕田と対照的に、所有者が農業を継続する意志がなく、土地が荒れた状態で放置されている田畑を指します。
休耕田がそのまま耕作放棄地になっていくケース
具体定には耕作放棄地は1年以上に渡って作物の栽培がされず、今後も耕作に使われる予定のない土地を指します。
減反政策によって積み上がった休耕田のうち、畑作等に転作されない場合、耕作放棄地となってしまうことが懸念されています。2010年時点での耕作放棄地は、39万ヘクタールに達し、その約25%が農業に適した平地でありながら耕作放棄地となっています。
耕作放棄地は様々な問題を引き起こす!
耕作放棄地になっても、土地所有者の管理責任は消えるわけではありません。また、目に見える変化がすぐに起こらない場合もありますが、耕作放棄地には様々な問題点が関連しています。
- 土地の荒廃: 耕作放棄地が放置されることで、土地が荒れ、肥沃な土壌が失われることがあります。これにより、将来的に農業を再開する際に、土地の回復にコストと時間がかかることがあります。
- 生態系への影響: 耕作放棄地が荒れることで、周辺の生態系に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、雑草の繁茂や害虫・害獣の繁殖が進むことがあります。
- 地域社会への影響: 耕作放棄地が増えることで、地域の景観が悪化したり、集落のつながりが弱まることがあります。また、地価の低下や地域経済の衰退にもつながることがあります。
- 食糧自給率の低下: 耕作放棄地が増えることで、国内の食糧生産が減少し、食糧自給率が低下する可能性があります。これにより、食糧安全保障に悪影響を及ぼすことがあります。
支払いも割高!?高い税率での固定資産税
耕作放棄地にかかる固定資産税は通常の農地よりも約1.8倍高くなります。これは、政府が耕作放棄地の削減や農地の有効活用を促進するために、税制改正を通じてインセンティブを提供しているためです。
もし耕作放棄地を所有している場合、使い道がなくても固定資産税を継続して支払う必要があります。これは、土地所有者にとって大きな負担となります。
耕作放棄地を減少させる取り組み
これは日本政府は、耕作放棄地の削減と農地の有効活用を促進するためです。
耕作放棄地の所有者は土地を再び耕作するか、他の農業経営者に貸し出すか、売却するかといった選択肢に迫られます。これにより、耕作放棄地が減少し、農地が有効に活用されることを目指しています。
Japanese Rice Farmers in Financial Crisis
「作れば作るほど赤字?」コメ農家の現状に迫る
減反政策は農家に安定した収入を提供する一方で、市場競争力の低下や革新的なアプローチが制限されるデメリットがありました。これにより、農家は市場のニーズに応じて生産量や品種を自由に変更することが難しくなりました。また、政策による保護があるため、生産効率の向上や技術革新の取り組みが遅れるという懸念もありました。
この問題を受けて、日本政府は2013年(平成25年)に、減反政策を2018年(平成30年)から廃止することを決定しました。
減反政策によって小規模農家が撤退
減反政策や補助金の廃止により、コメ農家は生産量を増やして収入の拡大を目指すことが期待されます。しかし、供給量が増えることでコメの価格が下落し、コストの高い小規模農家は経営が困難になる可能性があります。その結果、小規模農家が撤退し、農地が大規模農家へ集約されることが予想されます。
小規模農家は農地を貸し出すことで利益を獲得
小規模農家切り捨ての批判もありそうですが、小規模農家が大規模農家に農地を貸し出すことで、地代を受け取ることができます。これにより、小規模農家は一定の収入を得ることが可能となります。
さらに、5ヘクタール以上の経営体に農地を貸し出した農家への財政支援も一つの方法です。このような支援策を通じて、小規模農家が農地維持に協力するインセンティブを提供することができます。
大規模農家が増加「農地集約・集積」
現在、日本のコメ生産者の大規模化が進んでおり、農林水産省によると、15ヘクタール以上の水田で稲作を行う生産者は過去5年で4割増えました。これは、離農者から農地を借り受けるなどして、農地の集約化が進んでいることを示しています。
農地集積・集約化は、農業における高齢化、担い手不足、および耕作放棄地の増加といった問題に対処する効果的な方法です。以下に、それぞれの問題に対する集積・集約化の役割を説明します。
- 農家の高齢化: 農地の集積・集約化により、高齢化した農家は農地を若い担い手や大規模経営者に譲渡・貸し出すことができます。これにより、高齢化した農家が農業を継続する負担を軽減できる一方、担い手が効率的に農地を利用することが可能になります。
- 担い手不足: 農地の集積・集約化により、農業経営が効率化され、担い手が限られた労働力でより広範囲の農地を管理できるようになります。また、大規模経営によって収益性が向上し、新たな担い手が農業に参入しやすくなることが期待されます。
- 耕作放棄地の増加: 農地の集積・集約化が進むことで、耕作放棄地が減少し、農地が有効に活用される可能性が高まります。大規模経営者は、離農者から土地を借り受けることで、放棄された農地を再び活用し、農業生産を拡大することができます。
減反廃止によって生産量が増加!予想通りお米があまる!?
減反政策や、国民の米消費の減少によって作付面積は2017年まで毎年減少していました。しかし、2018年に減反政策が廃止されたことで、作付面積は前年と比べて一気に5,000ha増加しました。高い単価の主食用米を生産し、所得を増やそうとする動きが各地で見られました。その結果、特に主食用米が過剰生産される状況になっています。
※長期的にみれば人口減少などで生産量は減少している
減反政策が廃止されたことで、農家は自分たちの判断で米を作るようになりましたが、人口減少の影響もあり、飼料用を除く米の生産量は減少傾向にあります。2021年の生産量は756万トンで、2000年の947万トンから20%減少しました。
農水省は、減反政策を廃止した後も、主食用米の全国生産量の目安を示し続けています。また、米から他の作物に転作する農家に対して補助金を継続して支給し、主食用米の生産量を抑制する仕組みを維持しています。
様々な要因でお米の消費量は減少傾向が続く
過去数十年間で、日本人の米の消費量が大幅に減少しました。2000年度に1人あたりの年間消費量がおよそ65キロだったのに対し、2020年度には50キロ余りにまで落ち込んでいます。この減少の背後には、以下のような要因があります。
- 食生活の多様化: 西洋の食文化の影響や、外食産業の発展により、日本人の食生活は多様化しています。パンやパスタなどの小麦製品や、異国料理の普及に伴い、米の消費量が減少しています。
- 高齢化と人口減少: 日本の人口は減少傾向にあり、高齢化も進んでいます。高齢者は若年層に比べて食事量が減るため、米の消費量も自然と減少します。
- 健康志向の高まり: 炭水化物や糖質に対する意識が高まり、糖質制限ダイエットが流行しています。これにより、米の代わりに他の食材を選ぶ人が増えています。
お米の価格がピークに比べて約半分に!?
取引価格は、2021年産は近年で最も高かった1994年産に比べて、約半分の価格に下落しました。需要の減少が価格低下につながっています。
米農家倒産の危機
農事組合法人エコファーム舟枝(鯖江市)の瀬戸川善一理事長は、「会社で売り上げが3割下がったら倒産するところがたくさん出てくる。コメ農家は今、そんな状況にある」と指摘しています。「減反廃止などで競争が促されるだけでは、多くのコメ農家は続けられなくなるでしょう。政治家には農業を重視する視点を持ってほしい」と強調しています。
世界情勢が悪化!肥料・燃料などの価格が上昇
肥料や燃料代の高騰は農業に大きな打撃を与えており、東京商工リサーチによれば、2022年の農業の倒産は過去20年間で最多だった2020年の80件に迫っています。11月までの倒産は累計67件で、前年の42件をすでに超え、負債総額は867億400万円と前年の44億9700万円から約19倍に膨らんでいます。
東京商工リサーチは、円安や原油高、飼料高などにより生産コストが上がっても、価格転嫁が十分できないため経営が圧迫されていると指摘しています。情報部の増田和史さんは、「食料自給率を維持するためにも農業振興は日本の命題だが、農業の経営環境は過酷さを増している」と述べています。
増田さんは、今後も倒産や自主的な廃業がさらに増える可能性が高いと予想しており、「生産者に対する補助金などの制度は他の産業よりも充実しているが、農業を守るためにはさらなる支援策が必要ではないか」と指摘しています。
情勢が落ち着いたとしても高いままの可能性も…。
日本の農業は、過去にも肥料価格の高騰に直面しており、今回が初めてではありません。最初の高騰は1974年と1978年のオイルショック、2回目は2008年の世界食料危機です。長期的に肥料価格指数を見ると、高騰が収まった後も、価格は以前の水準に戻らず推移しています。
今後、世界人口が増加し、鉱物資源の有限性が高まることから、今回の肥料価格高騰が落ち着いても、価格は高いままになるでしょう。さらに、地政学リスクや投機マネーの流入が肥料原料の安定供給を脅かすリスクを増大させることが予想されます。
「作るほど赤字」ついにお米を生産することが困難に…。
日本のコメ農家は、「作るほど赤字」という状況に直面しています。人口減少や米離れによる需要の低下、取引価格の低迷、そして減反政策の廃止による競争の激化が、コメ農家の収益を圧迫しています。手数料などで売り上げが減り、種もみや肥料などの必要コストは変わらないため、農家は経営が厳しくなっています。
一方で、農水省は価格を維持するために“転作”を呼びかけている
その中で、農水省はお米の価格を維持するために、「転作」という取り組みを呼びかけており、各産地は作付面積の目安を設定しています。主食用米の需給が予想通り進めば、民間在庫の過剰が解消され、米価が上昇することが期待されています。
転作とは、コメの生産量を抑えるために、一部の田畑を他の作物へと変更することです。これにより、供給過剰を防ぎ、価格の安定化が期待されます。
また、農家には転作することで補助金が支給されるため、収益の改善にも繋がることがあります。このような政策を通じて、農水省はお米の価格維持に努めています。
93%が赤字!?コメ農家が生活ができない状況が発生
コメの価格下落による厳しい状況に加え、肥料や燃料代の高騰で、コメ農家は「三重苦」に直面しています。先行きが見えない状況から、農家の離農が増えることが懸念され、日本農業の基盤が危機にさらされています。
農業関連のシンクタンクによると、肥料価格の高騰が続く場合で、国が値上がり分を補助する対策がなければ、コメ農家の93%が赤字に陥ると試算されています
最悪の事態!?大規模農家はコメの生産を諦め他の作物へ…。小規模農家は断念
売り上げが大幅に減少する中、大規模農家は、収益を確保するために野菜や小麦栽培などへの切り替えを進めています。それに対して、小規模農家では赤字が続き、米の生産を断念する事例も増えてきています。
大規模農家は耕作条件の悪い農地を使わない「耕作放棄地が増える」
農家の高齢化や米価下落などの問題により、小規模農家が離農し、農地が担い手に集積される現象が急速に進んでいます。しかし、担い手経営でも労働力が不足しており、耕作条件が悪い農地は引き継がれず、結果として耕作放棄されることが増えています。
生産者そのものがいなくなる「大量離農時代」
農業の現場で、たくさんの農家が同時にやめる大量離農が始まりました。1995年には201万戸の稲作農家がいましたが、2025年には37万戸、2030年には10万7000戸に減ると予想されています。これは、農家の平均年齢がすでに68歳であり、近い将来に多くの農家が離農することが避けられないためです。
若者がやりたがらない…。深刻な後継者不足
1970年から始まった減反政策は、米の生産過剰を防ぎ、価格を安定させるために行われました。これが耕作放棄地の増加の一因とされていますが、高齢化や後継者不足も大きな原因です。農業の後継者が増えない理由として、日本の農家が世襲制度を取っていることが挙げられます。
初期投資が莫大!そして平均年収が低い仕事
脱サラして農業を始める人もいますが、農業機械の初期費用が高く、若い世代には借金までして農業を始めるのが難しいでしょう。初期費用が高くても収入があれば納得できますが、米農家の初年度売上は平均で230万円程度で、サラリーマンの年収より少ないことが多いです。
さらに、農業にはコストがかかります。平均して690万円程度のコストが発生し、赤字を抱えることになります。このような理由から、若い世代が農業の後継者として参入しにくい状況が続いています。
失われる日本の田園風景
食生活の変化により、日本では米の国内消費量が減少しています。これに伴い、特に米どころで耕作放棄地や休耕田が増え、かつての美しい田園風景が失われつつあります。これらの問題は、地域の風景や環境だけでなく、地域経済や農業の継続性にも影響を与えています。対策として、地域資源の活用や多機能性を持つ農業の推進、新たな収益源の開拓などが検討されています。また、食料自給率の向上や持続可能な農業を実現するために、政府や地域、農業者が協力して取り組むことが重要です。
【食糧危機⑥】「食品ロスと餓死」相反する問題が共存する先進国・日本