現代社会において、食糧危機は深刻な問題となっています。気候変動や食生活の変化によって、世界中で飢餓に苦しむ人々が多く存在しています。私たちが普段当たり前に食べているものが、本当に当たり前であるかを問い直す必要があります。
この記事では、食糧危機の原因や現状について探っていきます。今、私たち一人ひとりができることを考え、この問題に向き合うことが求められています。
Food security
「食料安全保障」
食料安全保障は、人々が持続可能な方法で、安全で栄養価の高い食料を十分に得られることを保証する政策や取り組みで、食料安全保障です。以下の4つの主要な要素から構成されています。
- 食料利用可能性(Availability): 生産、輸入、貯蔵などにより十分な食料が国内で利用可能であること。
- 経済的アクセス(Access): すべての人々が、自分たちの食料ニーズに対応するだけの購買力を持っていること。
- 栄養利用(Utilization): 健康的で栄養価の高い食料が適切に消費され、人々の健康や生活の質が向上すること。
- 安定性(Stability): 上記の3つの要素が持続可能で、短期的および長期的な変動に対処できるようにすること。
食料安全保障を実現するためには、政府、民間企業、非営利団体、農家、消費者など、さまざまなステークホルダーが協力して取り組む必要があります。
政策や取り組みは、食料生産の促進、インフラ整備、貿易政策、教育、研究開発、食料廃棄の削減、貧困削減、気候変動への適応など、多岐にわたります。
まさに食料安全保障は、国家の食料政策の基本理念であると同時に、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも大きく寄与する重要なテーマです。
世界は食糧危機の時代に突入
「食料」は全ての食べ物を指し、一方「食糧」は米や小麦、トウモロコシ、ジャガイモなど、世界的な主食となっている穀物を指します。食糧危機とは、これらの穀物が必要量に達しないほど減少した状況を指します。日本では穀物自給率がわずか29%で、7割以上を輸入に依存しているため、食糧危機は重大な問題となっています。
「人口急増」「異常気象」「パンデミック」「戦争」
現在、世界の食料需要は年々増加しています。アフリカやアジアの人口急増や、中国など新興国の食料需要拡大が主な理由です。一方で、異常気象による干ばつや洪水など、農作物の不作が発生し、食料生産体制に不安があります。
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、食料品の供給網の混乱を引き起こし、農作物や生産資材の価格が上がりました。さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、世界的な穀物生産地であるウクライナからの小麦輸出が滞りました。
その結果、世界の穀物価格が高騰し、アフリカや中東などで食料危機が深刻化しています。
世界各国が輸出を制限して国民を飢えから守る
世界的な食料不安を背景に、20カ国以上(2022年6月時点)が輸出規制を実施し、自国の食料供給確保を優先しています。
ウクライナへのロシアの軍事侵攻以降、食料輸出規制が世界各国で導入されており、食料不足が悪化し、食料価格の高騰が懸念されています。エコノミストからもそのような指摘が出ています。
ほぼ全ての大陸で、小麦、トウモロコシ、食用油、豆類、砂糖などに対して新たな輸出規制や禁輸措置が導入されました。レバノンでは、アイスクリームやビールの輸出すら禁じられています。
世界の主要な食料生産国が次々と輸出規制を打ち出し、自国の食料確保を優先する「自国ファースト」の動きが広がっています。輸出停止や制限を実施した国は26か国に上ります。
Food problems in Japan
危機的!?輸入頼みの先進国「日本」
食料自給率とは、国内で消費される食品がどれくらい国内で生産されているかを示す割合のことです。
先進国の中で圧倒的に低すぎる食料自給率
日本の食料自給率は、主要先進国の中で最低水準であり、危機感を抱く人も多いです。海外依存度が高いため、輸入元国で不作や戦争などの事情が生じると、食料不足に陥ります。
日本で1年間に消費される小麦のうち、国内生産はわずか13%で、残りの87%は輸入に依存しています。食料自給率は、国内で生産される食べ物の割合を示します。
食料自給率は品目ごとに異なり、米は100%ですが、肉類や大豆など外国産が多いものは低水準です。
日本の食料自給率は低下傾向が続き、1965年度のピーク時(73%)から2000年度以降は40%前後で低迷しています。政府は2030年度に食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げていますが、達成は困難な状況です。
「カロリーベース総合食料自給率」「生産額ベース総合食料自給率」
「日本の食料自給率」とは、食料全体において国内でどれだけ生産されているかを示す「総合食料自給率」を指します。総合食料自給率には、「カロリーベース総合食料自給率」と「生産額ベース総合食料自給率」という2つの計算方法があります。
「カロリーベース総合食料自給率」
日本の食料自給率は、「カロリーベース総合食料自給率」という指標で測られます。この指標は、国内で生産された食料が国民のカロリー消費量に対してどれだけ寄与しているかを示すもので、国内の食料安全保障や食料政策の評価に用いられています。
カロリーベース総合食料自給率の計算方法は以下のようになります。
自給率(%) = (国内生産量(カロリー) ÷ 国内需要量(カロリー))× 100
国内生産量とは、日本国内で生産された食料品(農産物、畜産物、水産物など)のカロリー量を指します。国内需要量は、日本国民が消費する食料品のカロリー量を表します。これらの量を用いて、国内生産量が国内需要量に対してどれだけ占めるかをパーセントで表したものが、カロリーベース総合食料自給率です。
この指標によると、日本の食料自給率は、過去数十年間で低下傾向にあり、現在は40%前後で推移しています。この低い自給率は、日本の食料安全保障に懸念を抱える要因の1つとされており、食料輸入に依存するリスクや国内農業の活性化が求められています。
野菜など低カロリーの食料生産を増やしても自給率がそこまで上がらない
カロリーベース総合食料自給率にはいくつかの問題点が存在します。
- 低カロリー食品の評価が低い: 野菜や果物などの低カロリー食品の国内生産量が増えても、カロリーベース総合食料自給率は大きく上がらず、これらの食品が適切に評価されないことが問題とされています。
- 高カロリー食品の評価が高い: 逆に、高カロリー食品(例えば、肉類や乳製品)の国内生産量が増えると、自給率が大きく上がることがあります。しかし、これらの食品の生産には輸入飼料や原料が必要であり、実際の国内資源の活用度が高いとは言えない場合があります。
- 健康面や環境面の評価が欠けている: カロリーベース総合食料自給率は、食品の健康面や環境面の影響を考慮していません。これにより、持続可能性や栄養バランスの観点からは問題のある食品生産が推奨される可能性があります。
これらの問題を克服するために、カロリーベース総合食料自給率以外の指標を用いることが提案されています。例えば、生産額ベースの自給率や、国内生産量と輸入量を考慮した指標などが検討されています。
「生産額ベース総合食料自給率」
生産額ベース総合食料自給率は、国内で生産された食料の生産額が国内需要量に対してどれだけ寄与しているかを示す指標です。カロリーベース総合食料自給率とは異なり、この指標は食品のカロリーではなく、経済的価値を考慮して食料自給率を評価します。
生産額ベース総合食料自給率の計算方法は以下の通りです。
自給率(%) = (国内生産額 ÷ 国内需要額)× 100
国内生産額は、日本国内で生産された食料品(農産物、畜産物、水産物など)の市場価格に基づく総生産額を指します。国内需要額は、日本国民が消費する食料品の市場価格に基づく総需要額を表します。
生産額ベース総合食料自給率は、野菜や果物などの低カロリー食品や高付加価値食品が適切に評価されるという利点があります
市場価格
生産額ベースの食料自給率にもいくつかの問題点が存在します。
- 高価な畜産品や野菜、魚介類の影響が大きい: 生産額ベースの食料自給率は、市場価格に基づいて計算されるため、高価な畜産品や野菜、魚介類の影響が大きくなります。これにより、食料の栄養価や環境への影響を十分に評価できない場合があります。
- 国産品の価格が高いため、生産額ベースの自給率がカロリーベースよりも高くなることが多い: 国内で生産された食料品は、輸入品に比べて一般的に価格が高いため、生産額ベースの自給率はカロリーベースよりも高くなる傾向があります。これは、生産額ベースの自給率が食料安全保障の実態を過大評価している可能性があることを示しています。
- 食料の栄養価を考慮しない: 生産額ベースの食料自給率は、食料のカロリーや栄養価を直接的に考慮していないため、国民の栄養状態や健康に寄与する食品の生産・消費が適切に評価されないことがあります。
これらの問題を克服するために、カロリーベース総合食料自給率と生産額ベース総合食料自給率を組み合わせるだけでなく、他の指標も考慮して食料安全保障を評価することが重要です。例えば、食料の栄養価や環境への影響を考慮した指標や、食料生産の持続可能性を評価する指標などが考慮されるべきです。
日本ではカロリーベース自給率・生産額ベースと自給率もに減少
日本のカロリーベース食料自給率と生産額ベース食料自給率は、過去半世紀で大幅に減少しています。この減少には、食生活の変化:、農業の衰退、輸入食料品の増加など、いくつかの要因が関与しています。
60%以上を輸入に頼る先進国「日本」
食料を掴まれるのは命を握られるのと同じと言われるように、食料自給率(カロリーベース)は日本が先進国中で最低水準の37%(生産額ベースで67%)で、他の国に依存しています。これに対して、アメリカは132%、カナダは266%、オーストラリアは200%、イギリスは65%、イタリアは60%、スイスは51%、フランスは125%、ドイツは86%となっており、特にフランスは30年以上も自給率向上に取り組んできました。
この状況は「食料安全保障」という概念に関連しており、多くの先進国は国内で十分な食料を生産し、その上で輸出も行っているため、同じ先進国である日本の状況は非常に珍しいことです。
自給率の低い日本は世界情勢に大きく左右される
自給率の低下の主な原因は、1980年代前半までの食生活の変化で、米の消費が減り、畜産物の消費が増えたことです。しかし、その後、日本の農業の効率が悪く、国産食品のコストが高くなり、円が強くなったことで輸入食品が急増し、自給率がさらに低下しました。
政府は2010年までに自給率を45%に上げることを目指していますが、たとえ達成しても、食料の半分以上を輸入に依存する現状は変わらないでしょう。日本の食料安全保障は、世界の食料事情に影響を受け続けることになります。
実際、2020年の新型コロナウイルスの影響で、ロシアは小麦輸出を一時規制しました。これは、世界情勢や輸入先国の経済・社会事情、輸送の問題などによって、日本に十分な食料が届かないリスクがあることを示しています。
自給率の低下は食料の値上げの要因に…。
食料輸入による食の安全への懸念が増えており、食品価格の上昇も国民生活に大きな影響を与えています。食料自給率がカロリーで低い日本は、生産国の状況に影響を受けやす、国民の生活基盤を揺るがす事態が進行しています。
さらに、中国や新興国の輸入量増加により、日本の存在感が低下し、輸入に依存する日本は海外勢に「買い負け」することで、食糧危機に陥る可能性があるのです。
貿易大国は過去の栄光!?食料を日本に売ってくれない
「簡単な話です。相手より高いお金を出せばいい。それができない。それが買い負けです」と食品専門商社の商社マンは語っています。かつて経済大国として国際的に評価されていた日本ですが、最近では中国などの新興国に穀物の購入で買い負けるようになってきています。貿易は戦争の様相を見せ、争奪戦が激化しています。
中国やインド、東南アジアの経済発展が顕著であり、高い価格で大量に購入する力があります。コンテナ船も日本経由を避ける傾向にあり、海上運賃も高騰しています。
悪化する日本の「買い負け」
コンテナ船やコンテナそのものも不足しているが、日本にも一応届けられてはいます。ただし、その多くは「以前より高い」価格で届けられています。かつての貿易大国であった日本が取り負け状態に陥ることは、誰も予想しなかったことでしょう。
なぜこうなった?食料自給率が低い理由
日本の食料自給率が低い主な理由は「国土が狭いこと」と「食生活の変化」が大きな要因です。
【原因】「国土が狭い」
日本の農業は集約農業であり、少ない面積で多くの資本を投入しています。一方、アメリカやヨーロッパでは大農法と呼ばれる大規模農業が主流で、少ない人手で大型機械を使用して広い面積を管理し、効率的に農産物を生産しています。この効率性が、アメリカ産の農産物が低コストで提供される要因となっています。
【原因】「食生活の変化」
日本の食料自給率の低下の一因は、戦後の復興に伴う食生活の変化にあります。戦前は、国内で生産される米や野菜を中心とした食事が主流でしたが、戦後は洋風の食生活が広がりました。コメの消費量が減少し、代わりに肉類や油脂類の消費が増加しました。しかし、狭い国土を持つ日本では、それらを十分に生産することが難しく、輸入に依存することになりました。このような食生活の変化が、日本の食料自給率の低下に大きく寄与しました。
さらなる生産力の減少が進行…。農業壊滅の危機
現在、日本の農業は大きな危機に直面しており、農業が壊滅する可能性があるという警告が出ていますが、多くの人がその危機を認識していません。
【原因】「農業の高齢化」
1970年代から農業の高齢化が問題視されてきましたが、現在はさらに高齢化が進み、老齢化が顕著になっています。この農業の高齢化の原因として、後継者不足が挙げられます。
統計によれば、70歳以下の農家では、全体の7割が農作業を自分が中心となって行っていると言われています。後継者が不足しており、手伝ってくれる人もいないため、農作業中の事故が増加しているというのが現状です。
農業従事者は過半数以上が50歳以上「自営・専業での農業従事者は減少が続く」
新規就農者は毎年約5.5万人で推移していますが、そのうち50歳以上の人が約65%を占めており、農業労働者の若返りは進んでいません。一方で、自営・専業の農業労働者は2015年をピークに減少が続いています。
【原因】農業で生計を立てることが困難
農林水産省の統計によれば、農業労働者の約4割が年収300万円未満で、一部の農家は収入が非常に低いことがわかります。また、これは農家一戸あたりの収入であり、複数の家族が暮らしている場合、生活費を賄うのは困難です。
しかし、年収300万円以上を稼いでいる農家は全体の6割、年収1000万円以上を稼いでいる農家は全体の1割、もし成功すれば十分に生活できる可能性もあります。
【原因】若い就農者次々とが辞めていく
新規就農者のうち、若手は毎年約5.3万人で、多くの人が農業に参入しています。しかし、高齢化が進む一方で、一定数の人が農業から離れているため、農業労働者全体の平均年齢は高くなっています。子育てや教育費の確保が難しく、農業での収入が不安定であることが、離農するケースが相次いでいます。
体力勝負の側面も…。
農業は、毎日早朝から仕事が始まり、会社員のように決まった休日がありません。特に、一人農家や家族経営の場合、休みがほとんどないこともあります。また、屋外での活動が多いため、暑い夏や寒い冬でも働かなければならず、日々農作物と向き合う体力が求められます。
資金、収入、体力などの面で厳しい条件を克服できないと、農業を続けることが難しくなり、これが若者の農業離れの原因となっています。
【食糧危機②】江戸時代の食料危機、食料自給率100%でも起こる現実と向き合う