この記事は、日本とブラジルの合同プロジェクトにより、不毛の大地だったセラードが南半球最大の農業地帯に生まれ変わった歴史を辿ります。しかし、その開発によって豊かな草原の50%が失われ、森林伐採や土壌崩壊などの問題が引き起こされたことが明らかになっています。
また、最近の野焼きによる森林の消失には、人間による農地開発による乾燥化や焼畑の加速が背後に存在していることが取り上げられています。農業や環境問題に興味のある方は、ぜひ一読してみてください。
The Brazilian Cerrado
日本の思惑!「なんとか大量の大豆が欲しい」<セラード開発>
1961年、戦後の日本が工業立国を目指した。食糧増産の掛け声のもと大豆の生産に励んだものの、完全自由化に伴い生産が激減した。そのの日本は大豆は輸入に頼ることが多くなった。
大豆を禁輸された日本は海外の大豆生産開拓を開始『セラード開発』
1972年には大豆需給の逼迫を受けた米国の大豆禁輸、いわゆる大豆ショックをきっかけにして、日本はODAによる海外での生産地開拓に力を注ぎました。特にブラジルにおけるセラード開発はその中心的な取り組みの一つでした。
開発途上国への援助!それがODA
ODAとはOfficial Development Assistance(公式開発援助)の略称。
開発途上国への財政支援、技術支援、物資支援などの援助を指す。日本も多くの国にODAを提供し、世界的な役割を果たしている。
田中角栄 首相がブラジルを訪問「セラードの農業開発を合意」
1974年9月には、田中角栄首相がブラジルを訪問し、ガイゼル大統領と両国でのセラード農業開発について合意。
1979年には日本・ブラジル共同のナショナルプロジェクト「日伯セラード農業開発協力事業(プロセール事業)」が開始。これは当初からブラジル政府主導のプロジェクトで、日本が技術や資金面で支援を行ったものだった。田田中角栄首相の訪問が、このプロジェクトに関する交渉の場となり、はじまりとなったと言われている。
ブラジルの不毛の大地「セラード」
セラード地帯は、ブラジル全土の24%を占める、2400万ヘクタールの広大な地域です。かつては土壌や気候の問題から作物が育たず、不毛の大地として知られていました。セラードとはポルトガル語で「閉ざされた」という意味です。
豊かな農地になるポテンシャルを秘めいていた!!
セラードは不毛の大地とされてきましたが、実際には定期的に雨が降り、豊かな自然環境があります。また、生物多様性にも富んでおり、世界でもトップクラスです。
セラードは、ブラジル高原の平坦な地形で、広大な耕地を確保することができました。このような自然環境は、大規模経営や機械化農業に適しており、生産性が高い土地でもありました。
日本の力で大規模な農地に変貌!
日本とブラジルの合同プロジェクトはセラードを希望の農地に変えた。
1979年から開始された「日伯セラード農業開発協力事業(プロセール事業)」は、農業技術の提供や、セラード地帯のインフラ整備、農地改良などが含まれていました。このプロジェクトによってセラード地帯の生産性を大幅に向上させることに成功し、ブラジルの穀物生産を飛躍的に増加させることにつながりました。
ブラジルはかつては穀物を輸入する国でしたが、1980年代にセラード地帯を中心に近代的な穀物農業が実現され、大きく発展しました。セラード地帯では、現在でも大規模な大豆栽培が行われており、ブラジル全体の大豆生産量の約6割を占めると言われています
そしてブラジルは、世界最大の大豆輸出国の一つとなりました。
ブラジルは世界トップクラスの穀物輸出国に!!
穀物生産、畜産、養鶏等が可能になったセラードに後押しされ、ブラジルは穀物輸入国から世界有数の大輸出国になった。そして世界の食料安全保障にも貢献しました。
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それは“緑の革命”と言われた!
セラードでの成功は、ノーマン・ボーローグがノーベル平和賞を受賞した“緑の革命”をなぞらえて、「ブラジル版緑の革命」と呼ばれる。
たった20年ほどで不毛の大地が巨大な農業地帯変わった
20年余りの間に、不毛の大地だったセラードは南半球最大の農業地帯となり、大豆や穀物などの生産が盛んに行われるようになりました。
そして時が経ち…。今ではアマゾン破壊の要因になっている
セラード地帯で緑の革命を行った地域は土壌崩壊が深刻な問題となっている
セラード地域に大量の「化学肥料&石灰」を何度も投入
セラード地域で、農作物を生産するには石灰以外に、化学肥料の大量投入することが必要だった。
土壌崩壊で生産性が低下・気象災害を誘発
化学肥料などを大量投入し続けた結果、土壌が崩壊して生産性が低下、農家経営の圧迫に繋がった。さらに気象災害を誘発、貧困と不作を広げてしまった。
大量の化学肥料での農業では継続していくことが困難
また、化石燃料から作られるこれらの肥料や農薬は、持続可能な農業には適しておらず、環境問題や資源枯渇の問題を引き起こすことも指摘されています。持続可能な農業に向けた取り組みが求められています。
近代的な技術を導入した農園が借金漬け……。
近代的な技術導入によって農業経営者を借金まみれにしてしまった。
農薬の被害が増加し農地そのもの放棄
また、農薬の使用による健康被害や環境汚染も問題視されるようになりました。そのため、一部の農地では農業を継続することが難しくなり、農地の放棄が進んだ。
生産性を上げるために急速な森林伐採
セラード地域での大豆生産に伴い、森林破壊が進んでいる。大豆生産には大量の土地が必要であり、そのためにブラジルの森林が伐採されてしまったのだ。
JICAによると、1970年代後半以降の大規模開発により、不毛の大地が南半球最大の農業地帯に生まれ変わったが、豊かな草原の50%が失われた。Chain Reaction Researchによると、2000~17年の間に大豆の生産量が10%増加し、推定283万ヘクタールの森林が破壊された。
トカンティンスでは2017年に東京都と同じ面積の森林が喪失した。トカンティンスで活動していたのは三菱商事の子会社であるAgrex do Brasilが最大の大豆商社だった。
今も止まらないセラード開発!それは破壊の裏返し
今もセラード開発は継続中だ。日本政府はブラジルの農業開発に取り組んでおり、8月に前農水省がブラジルを訪問し、その開発を支援している。
そして、その開発は今でも続いており、日本政府は前農水省も8月にブラジルを訪問し、農業開発にさらに関わっている。 日本政府はブラジルの農業開発に取り組んでおり、8月に元農水省がブラジルを訪問し、その開発を支援している。
セラードの生態系の破壊は深刻で、ブラジルの環境保護団体によると、3秒ごとに1つのサッカー場分の森林が失われているとも言われています。
豊かな生物多様性を有する自然地域「セラード」の危機
セラードはかつては見捨てられた価値のない草地ではなく、ブラジル高原の中心部に広がる自然植生を有する地域でした。セラードには多様な鳥類や哺乳類、昆虫、植物などの生物が生息し、独自の生態系を形成していました。しかし、開発によって半分以上の面積が失われ、現在は生物多様性の危機に瀕するホットスポットにも指定されている。生態系の破壊は、セラードだけでなく世界中の自然環境に深刻な影響を与えることが指摘されています。
セラード開発がアマゾン森林火災の要因の1つに!?
日本の政府や商社のブラジル開発がアマゾン火災に繋がっているという説がある。
開発のため森林伐採!水源が枯渇して土地が乾燥
セラードでの農業開発が進むことで、アマゾンの水源の1つであるセラードから供給される水が減少し、アマゾン流域の乾燥化が進行する。
セラードはアマゾンの水源であったが、樹木伐採により水源が枯渇し、むき出しの地表によって地下水脈に水がたまらなくなった、そこに大量の水をくみ上げる、さらなる追い打ちをかけらている。
CPTのウィシニエスキー氏は「雨期に川となる場所が川にならなくなった。このまま開発が進めば毎年10の川がなくなる」と切迫する状況を訴えています。
森林を伐採 → 乾燥後に火をつけて焼却
まず、熱帯雨林の開拓では、余分な木を伐採して乾燥させてから焼却して、その後に大豆などの商品作物を栽培する。
開拓した農地はなぜか土地が痩せているため、定期的に焼畑を繰り返す必要があった。
「焼畑」は本来持続可能な農業として知られている
「焼畑農業」は、環境にやさしい持続可能な農業の一つであり、非常に伝統的な方法です。広い森林地帯を伐採して、そこに火を入れて焼き払い、畑の空間を作り出します。その後、灰を肥料として利用して作物を栽培するという方法です。この方法は、地面から木々が芽吹き始め、再生していくため、数年ごとに畑の場所を移動して行うことで持続可能な農業を実現しています。
焼畑の火がアマゾンに“飛び火”
焼畑はアマゾン地域でも行われていますが、これによって森林火災が発生することがあるとされています。焼畑の際に十分な注意が払われない場合、周囲の森林に火が延焼して大規模な火災となることがある。
開発のため牛が追い出される → 牧草地を作るためにアマゾンに“着火
セラードの大豆畑に追い出された牛の放牧地がアマゾンへ侵入することで、アマゾンの森林伐採地域の65%余りが現在、放牧地として利用されている。
このような放牧地の拡大は、熱帯雨林の生態系や生物多様性を脅かし、地球温暖化の原因ともなっています。
楽に牧草地を作る方法!それが火をつけること
ブラジルでは、特に貧困地域の農家たちは、生活のために森林を切り開き家畜の飼料の草を確保しています。伐採よりも簡単なため乾燥した季節に火をつける人もいます。これによって、アマゾンを含むブラジル全域が毎年、大規模な火災に見舞われています。
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アマゾンを直接、農地に変えることは法律で制限されている…それでも
ブラジルでは、アマゾンの原生林を直接、農地に転換することは法律によって大きく制限されています。その法律、森林法は近年、大幅に緩和されてしまったのですが、それでも原生林を直接破壊することは犯罪行為となります。
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火災で燃えてしまった土地は規制の対象外
ただし、火災などで燃えてしまったあとの土地は規制の対象外となっているため、こうした土地が違法に農地に転換されるケースもあります。
農業関係者は野焼きを目撃している
「ボルソナ政権への交代が大きな要因だと思う」と野焼きの現場を目撃した農民は言う。さらに彼らは、「たくさんの仲間が今、野焼きで土地を広げるチャンスだと言っている」と続けた。
大統領はそれを黙認どころかむしろ推奨
ボルソナロ大統領は、アマゾンを重要な経済資源として活用するよう国民に呼びかけている。その結果、農家は耕地や農牧地を拡大するために野焼きや違法伐採を繰り返している。今年は乾燥した気候だったため、火災が延焼しやすかったことも森林の消失を促進した。ブラジル政権が重要視しているのは、肉牛と大豆などの穀物の価格だけだ。
アマゾン森林火災はなるべくしてなっていた
本来なら火災は早い段階で沈静化する南米のアマゾンでの森林火災。それは今、深刻な状況となっている。その火災が起き続けている背後には、人間による農地開発により森林が乾燥し、植生が変化し、焼き畑が加速するというシステムが存在している。