あなたは空を見上げて、突然形成される巨大な雲を目にしたことはありますか?それがスーパーセルかもしれません。
Supercell
「スーパーセル」
「スーパーセル」とは、特殊なタイプの積乱雲で、雲の世界における「王様」とも言える存在です。
セルとは
「セル」という言葉は、気象学において、雲の内部構造を理解するための基本的な単位として用いられています。
積乱雲は、地表近くの暖かく湿った空気が上昇することによって形成されます。この上昇する空気の動きは、雲の内部に強い上昇気流を生じさせ、積乱雲の成長を促します。
積乱雲が成長する際、内部は小さなく区画に分かれます。
この区画は、雲の中心部に位置する強い上昇気流と、その周囲の下降気流によって形成されたものであり、この二つの気流の組み合わせが、積乱雲の複雑な動きと構造を作り出しています。
積乱雲を飛行機や衛星から撮影した写真で見ると、雲の中に無数の区画が確認できます。これが細胞のような模様にみえるため「セル(細胞)」という名称が付けられています。
積乱雲がこのような特有の模様を持つことから、「セル」という名称が付けられています。
スーパーなセル=スーパーセル
通常の積乱雲の中でも特に強力(スーパー)なセルを指して「スーパーセル」と呼びます。
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「スーパーセル」の発生条件
スーパーセルの発生には特定の気象条件が関与しています。以下では、スーパーセルが形成されるための主要な条件を解説します。
大気の不安定性
- 必須条件: スーパーセルの形成には、大気が不安定であることが必要です。
- 不安定の意味: 不安定な大気の状態とは、温度や湿度が上昇気流を引き起こしやすい状態を指します。
積雲の形成
- 暖かく湿った空気の上昇: この条件下では、暖かく湿った空気が上昇し、積雲が形成されます。
- 雲の進化: 上昇した空気が自らも上昇し続ける能力を得ることで、積雲は雄大な積乱雲へと進化します。
水滴と氷の粒の役割
- 水や氷の粒の成長: 上昇気流によって持ち上げられた水滴や氷の粒は、雲の上層で周囲の水蒸気を吸収し、次第に大きくなります。
- 下降気流の生成: これらの重くなった粒は重力によって下層へ落ち、摩擦により下降気流を発生させます。
下降気流と積乱雲の形成
- 下降気流の影響: 下降気流は、一度地面に達した後、横方向に広がります。これによって周囲の空気が持ち上げられ、新たな積乱雲の発生を促します。
- 強い風:強い風により上昇気流と下降気流がうまく分離されることがあり、この分離が積乱雲の組織化を促します。
- 積乱雲の変化: この過程で積乱雲はより複雑な構造を持つようになります。
スーパーセルの誕生
このような過程を経て、積乱雲は徐々に成長し続けやがてスーパーセルと呼ばれる超巨大な積乱雲が誕生することになります。
長時間猛威を奮い続けるスーパーセル
スーパーセルは、通常の積乱雲とは一線を画する特徴を持ち、その結果として非常に長い寿命を持ちます。
一般的に、通常の積乱雲は30分から1時間程度で消滅するのに対し、スーパーセルはその猛威を長時間にわたって奮い続けることができます。
この長寿命の理由は、スーパーセルが持つ独特の気流の構造にあります。
スーパーセルでは、上昇気流が中心部分で発生し、その周囲に沿って下降気流が存在しています。
このように、上昇気流と下降気流が分離・独立して動くため、上昇気流が下降気流に干渉されることが少なくなります。その結果、スーパーセルは長時間にわたってその勢力を維持することが可能になるのです。
さらに、上昇気流と下降気流のうまい分離は、スーパーセルの形状を安定化させ、それがまた寿命を長くする要因となっています。
この安定化された構造により、スーパーセルは他の積乱雲とは異なる、長期間にわたる影響力を持つ特別な存在となります。
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特徴的な形「丸天井」
スーパーセルの一つの顕著な特徴は、「丸天井」(別名:ヴォールト)と呼ばれる独特の形状です。この特徴的な形状は、スーパーセルが持つ強力な上昇気流によって生み出されます。
丸天井の形成過程
- 強力な上昇気流: スーパーセルの上昇気流は非常に強く、この力によって雨粒や雲の粒子が地上に到達する前に高い高度まで運ばれます。
- 降水粒子の少ない領域: この強い上昇気流によって、地上には降水粒子がほとんどない、クリアな領域が形成されます。
丸天井の特徴
- かまぼこ型の天井: 通常の積乱雲とは異なり、スーパーセルは平らな天井ではなく、かまぼこ型、つまりドーム状の天井を持つことがあります。この特徴的な形状が「丸天井」と呼ばれています。
- 豪雨や竜巻との関連: 丸天井は、スーパーセルが引き起こす激しい気象現象、特に豪雨や竜巻と密接に関連しています。この形状によって地上に降り注ぐ雨量が局所的に増加し、豪雨や洪水の原因となることがあります。
- 竜巻の形成への寄与: 丸天井は竜巻の形成にも関わっており、竜巻が発生する際には、通常この丸天井が形成されている領域に近接しています。
このように、スーパーセルの丸天井は、その特徴的な外観だけでなく、関連する強力な気象現象によっても重要な意味を持っています。
近年の日本でも「スーパーセル」が起きている!?
地球温暖化の進行に伴い、日本でも地表付近の温度が暖まり、上空との温度差の増大が見られるため、爆弾低気圧が発生しやすくなっています。
この爆弾低気圧は、短時間での急激な気圧の低下をもたらし、スーパーセルの発生に重要な要素の一つとなります。
気象庁気象研究所室長の加藤輝之氏によると、温暖化が進む今世紀後半には、これまで日本でほとんど観測されなかったスーパーセルの発生が、北海道で3倍に、東北で2倍に増加すると推計されています。
スーパーセルが発生する際には、強い上昇気流や下降気流が生じ、巨大竜巻や雷雨が突然発生することがあり、温暖化が日本にもたらす影響として、スーパーセルの増加が大きな懸念となっています。
Severe Weather
スーパーセルが引き起こす異常気象
スーパーセルは、非常に強い上昇気流や下降気流を伴う積乱雲の一種であり、竜巻や集中豪雨などの異常気象を次々と引き起こすことがあります。
異常な天候状態「シビア・ウェザー」
通常の天候状態とは異なる、極端な天候状態のことを気象用語で「シビア・ウェザー」といいますが、スーパーセルが引き起こす竜巻や集中豪雨などの異常気象も、「シビア・ウェザー」と呼ばれることがあります。
数キロの超強大な渦「メソサイクロン」
スーパーセルの中で発生する「メソサイクロン」は、低気圧性の渦を指す気象用語です。
スーパーセル内での上昇気流と下降気流が分離される際、直径約2~10キロメートル程度のメソサイクロンが形成されることがあります。
この現象の名前は、「メソ」(中間)と「サイクロン」(低気圧)を組み合わせたもので、そのスケールが中程度であることと、低気圧性の回転を伴う特徴を反映しています。
この現象は、強風、大雨、さらには破壊的な竜巻をもたらすことがあり、その影響は広範囲に及ぶことがあります。
様々な雲を作り出す
スーパーセルにおいて、回転する上昇気流域、すなわちメソサイクロンに伴い、ウォールクラウドやテールクラウド、雲底のアーチ雲や乳房雲、雲頂の多毛雲といった特徴的な付随雲が現れることがあります。
これらの付随雲はスーパーセルの構造や動きに関する重要な手がかりを提供し、スーパーセルの発生や進路を予測する上で極めて重要な情報源となります。
不気味すぎる異様な姿「ウォールクラウド(壁雲)」
「ウォールクラウド(壁雲)」は、スーパーセルにおける特徴的な気象現象で、発達した積乱雲の雲底に現れる低く垂れ込めた雲のことを指します。
ウォールクラウはスーパーセルにおいて特に一般的であり、回転する上昇気流域、すなわちメソサイクロンの可視化された形態と見なされています。
危険な気象現象が起こる前触れ
ウォールクラウの出現は竜巻の発生兆候としても知られており、スーパーセルの中で発生する強い上昇気流と下降気流によって形成されます。
ウォールクラウド内では非常に強い上昇流と下降流が発生し、これが大雨、雷、突風、ひょうなどの気象現象を引き起こすことがあります。
特にウォールクラウドが非常に強く発達している場合、強力な竜巻の発生が予想されるため、注意深い観測と適切な警戒が必要です。
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テイルクラウド(尾雲)
テイルクラウドは、スーパーセルに伴う特徴的な付随雲の一つで、その名の通り、雲から横に長く伸びた形状をしています。
気流が乱れている証拠
テイルクラウドの発生は、気流の乱れを表すものであり、テイルクラウドが断片雲として激しく上下動を繰り返している場合、突風や強い降雨などの異常気象が発生する恐れがあります。
また、テイルクラウドが非常に長い場合は、スーパーセルの進路や回転の方向に変化が生じる可能性があるため、早期の警戒が必要です。
巻き込まれたらまず助からない……。絶望的な超巨大竜巻
スーパーセルの中で発生する渦は、竜巻の原因となることがあります。
積乱雲自体が回転することから、これらの渦は竜巻を引き起こす可能性があります。アメリカ合衆国での統計調査によれば、スーパーセル雷雨の約30~50%で竜巻が発生するとされています。
ただし、竜巻が発生するかどうかは、スーパーセルのタイプやその時の環境条件に大きく依存します。
そのため、竜巻の発生確率を正確に予測することは非常に難しく、これは気象学における複雑な問題の一つとされています。
普通に吹き荒れる台風レベル強風
スーパーセルが発生すると、局地的に非常に強い風が吹くことがあります。
特に、竜巻が発生する際や、スーパーセル全体から引き起こされる突風は、一時的に台風並みの強風になることもあります。
しかし、スーパーセルは台風とは異なり、広範囲にわたる影響を与えることはありません。スーパーセルはあくまで局所的な現象であり、その影響範囲は数キロメートルから十数キロメートル程度に限られています。
「ダウンバースト」下降気流が引き起こす突風
「ダウンバースト」とは、スーパーセルを含む積乱雲から急激に降り注ぐ強力な下降気流によって引き起こされる突風の現象を指します。
ダウンバーストでは、地表に達する前に空気が圧縮され、その結果、温度が急上昇して強力な風となり、地上に吹き付けます。
この現象は、建物や人々に大きな被害をもたらすことがあり、特に航空機の離着陸時などには危険な影響を及ぼすことが知られています。
「マクロバースト」
また、ダウンバーストのうち、より小規模なものを「マイクロバースト」と呼びます。
マイクロバーストでも、風速は30メートル/秒以上に達することがあり、その強風は突如として発生するため、予測が難しく、短時間にもかかわらず甚大な影響を与えることがあります。
「ガストフロント」
積乱雲が発達した際、発散する強い下降気流(ダウンバースト)と上昇気流の交差で、「ガストフロント(陣風線や突風前線)」が形成されます。
ガストフロントによる突風は、水平の広がりが竜巻やダウンバーストよりも大きく、数十キロメートル以上に達する場合もあります。
そのため、ガストフロント付近では激しい突風や雨が降り、気温が下がって涼しくなります。また、ガストフロントによって積乱雲が発達することもあります。
嵐の前兆!ドーム型の強大な雲「アーククラウド(アーチ雲)」
ドーム型の強大な雲「アーククラウド」は、スーパーセルによる壁雲や竜巻を発生させる兆候のひとつです。
この雲はアーチ状に形成されることから「アーチ雲」とも呼ばれ、ガストフロントによって形成される特徴的な雲の一種であり、激しい天候現象を引き起こすことがあります。
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中小規模の竜巻ぐらいならどこでも発生「ガストネード」
スーパーセルが発生すると中小規模の竜巻だけでなく、「ガストネード」と呼ばれる突風性の旋風も発生する可能性があります。
ガストネードは直径が数十メートル程度で、短時間で発生し、急激に消えることが特徴です。
中小規模の旋風とはいえ、竜巻と同様に危険な天候現象であり、周囲の環境や建物に被害をもたらすことがあります。
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危険な雨「ゲリラ豪雨」
スーパーセルは非常に強い上昇気流を伴い、局地的かつ激しい降水をもたらすため、ゲリラ豪雨の要因となります。
ゲリラ豪雨は、急激な降雨が短時間で集中するため、道路の排水能力や河川の流量を超えることがあり、水害や土砂災害などの被害が生じることがあります。
また、交通機関や生活インフラのストップ、住宅被害、電気やガスの停止など、生活に大きな影響を与えることもあります。
当たったらまず無事では済まない!巨大な雹が降り注ぐ!
同じく、強い上昇気流を持つため、巨大雹も発生することがあります。このようなスーパーセルは「ヘイルストーム」と呼ばれることもあります。
降り積もった大きな雹は、非常に危険であり、建物や車両に損害を与えるだけでなく、農作物にも被害をもたらすことがあります。
#weatherpicofday : supercell & big hail (one 3 inch diameter stone) near Little City OK 31 March 2008 w/ @richardpwnsner & Shawn Maroney pic.twitter.com/MHLAEAuRtQ
— Simon Brewer (@SimonStormRider) March 31, 2018
Big time hail in The Dominion off I-10 from earlier supercell in NW Bexar County #txwx Pic by Rebecca Peterson pic.twitter.com/2PrFpXjn8T
— Chris Suchan (@ChrisSuchanWOAI) April 13, 2019
ここは地獄か!?おびただしい数の雷
積乱雲は別名雷雲ともよばれ、強い放電活動を行う雲です。超巨大積乱雲であるスーパーセルは、当然それ以上の放電活動が見られ、1つのセルから何万発もの落雷が発生することがあります。
これは、上昇気流と下降気流が強く衝突し、氷の衝突によって電荷が分離されるためです。この強い放電活動は、雷災害の原因となる場合があります。
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この雲を見たらすぐに逃げろ!「乳房雲」
「乳房雲(にゅうぼうぐも)」とは、スーパーセルの底部に現れる特徴的な雲の形状のことで、国際的には「Mammatus(マンマタス)」と呼ばれています。
乳房雲は、スーパーセルの上昇気流と下降気流が衝突することで発生します。
乳房雲が発生すると、大気中の湿気が上昇し、雲が成長していきます。また、乳房雲が発生することで、雷や突風、竜巻などの天気現象が発生する可能性があります。
特にアメリカでは、乳房雲がトルネードの前兆となることが多いため、注意が必要です。
読者の皆様へ
これらの壮大な雲がどのようにして生まれ、私たちの周りでどんな影響を及ぼすのかを理解することは、ただ美しい自然現象を知るだけでなく、私たちの安全にも直結しています。
今後も、スーパーセルのような気象現象に注意を払いながら、自然の驚異と美しさを感じていきましょう。