火星の“火”ではなく“氷”が支配する世界!冷たい星の過酷な生存環境【宇宙】

火星への移住が現実味を帯びてきていますが、火星の過酷な気象条件について知っていますか?平均気温マイナス60度以下、大気圧も非常に低いなど、生命にとって厳しい環境が待ち受けています。この記事では、火星の気象条件や地球との違い、火星探査や植民計画における課題などを解説します。

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NASAの新しい探査車が火星への着陸に成功しました! 中国やUAEの探査機も相次ぎ火星へ到着し、これから火星の探査が加速しそうです。3月号の特集は「魅惑の火星を探る」。最新探査車の詳細なグラフィックほか火星の今がわかる30ページの大特集です。このほか「私は死刑囚だった」「消えるドッグレース」などの特集を掲載。特製付録は太陽系マップです!(「NATIONAL GEOGRAPHIC」データベースより)

Severe weather of Mars

火星は極寒で地獄のような気象!「あまりにも過酷すぎる気象条件」

Approach to Mars

火星、地球の隣にある赤い惑星。最近の宇宙開発の進歩により、火星への移住が現実味を帯びてきている。しかし、火星には我々地球人にとってはあまりにも過酷すぎる気象条件が待ち受けている

火星の極寒!「火の星」の名に反した過酷な気候

火星は、古代ローマ神話における戦いの神にちなんで「火の星」とも呼ばれていますが、実際の火星の気候はその名前に反して非常に寒いです。平均気温は約マイナス60度で、地域や季節によって大きな変動があります。

赤道部の厳しい冬

火星の赤道部でも冬季には、気温が摂氏マイナス100度程度まで下がることがあります。このような寒さの中での生活は、地球人にとっては想像を絶する過酷さです。

極地域の極端な寒さ

火星の極地域では、さらに厳しい気候が待ち受けています。極地域では、気温が摂氏マイナス120度以下にまで下がることもあります。このような極端な寒さの中での生活は、火星移住計画において大きな課題となっています。

空からはドライアイスの雪が降り注ぐ

火星の大気は地球とは異なり、主に二酸化炭素で構成されており、その濃度は約95%にも達します。極地域や冬季には、気温が非常に低くなるため、大気中の二酸化炭素が固化してドライアイスの雪が降ることがあります。

火星のドライアイスの雪は、地表に降り積もることで一時的に氷のカバーが形成されることがあります。この氷のカバーは、春が訪れると再び昇華し、大気中の二酸化炭素に戻ります。この現象は火星の気象や地形に影響を与える要因となっています。

地球と火星の雪の違い

地球の雪は、大気中の水分が凍結してできるもので、水で構成されています。一方、火星の雪はドライアイスでできており、二酸化炭素で構成されています。この違いは、両惑星の大気組成や気象条件の違いに起因しています。

火星の大気はスッカスカ!薄い大気がもたらす過酷な環境と課題

火星の大気は、地球の大気の約1%程度の密度しかありません。そのため、火星では気圧が非常に低く、地球の表面の気圧の約0.6%に相当します。また、火星の大気は95%以上が二酸化炭素で構成されており、酸素は極端に少ないです。

Mars
薄い大気がもたらす過酷な環境

火星の薄い大気は、いくつかの過酷な環境をもたらしています。火星の大気は、地球の大気に比べて密度が低く、大気圧も非常に低いため、火星探査機が着陸する際には、地球のようなパラシュート着陸ではなく、ロケットブースターを使用して着陸する必要があります。

さらに大気が薄いために宇宙からの放射線が直接地表に到達しやすく、火星での生活には放射線対策が必要となります。また、薄い大気のために熱の伝わりが悪く、昼夜の気温差が大きくなることも特徴です。

はるか昔の火星、地球と同じ大気だった!過去の火星環境の謎

火星の現在の大気圧は、地球の大気圧の約1/100に相当する0.006気圧程度であり、非常に薄いものです。しかし、火星探査によって、40億年前には火星の大気圧が地球と同程度の約0.5気圧以上に達していたことが判明しています。

厚い大気が存在した場合、火星の地表はより温暖になり、液体の水が存在しやすくなる可能性があります。これにより、火星にはかつて水が豊富に存在し、川や湖、海が形成されていたとされています。

火星の大気の変化の原因

火星の大気が地球に匹敵する厚さから現在の薄い大気に変化した原因については、いくつかの仮説が提唱されています。その中で、火星の地磁気の喪失や火山活動の減少、大気を宇宙空間に拡散させる太陽風などが考えられています。

NASAの「MAVEN」が明らかにした驚愕の事実

火星の大気が太陽風によって徐々に失われていることが、NASAの火星大気・揮発物・水資源探査機「MAVEN」による最近の研究で明らかになりました。

MAVENによる観測結果から、火星の大気が毎秒100グラムのペースで太陽風によって吹き飛ばされていることが確認されました。この現象は、太陽風に含まれる高速の荷電粒子が火星の大気と衝突することによって発生します。

NASAの研究者によれば、この現象は長期間にわたって続いており、数十億年以上にわたって火星の大気が失われてきたとされています。この大気の喪失は、火星の環境が過去には温暖で水が豊富だったものから現在の乾燥した状態へと変化する要因の一つと考えられています。

NASA Goddard/YouTube

火星の地震「火震」!火星探査機が捉える惑星の活動

火星の地表で発生する地震現象は、「火震」と呼ばれています。火震は、火星の地殻の動きや火山活動、地下のマントルの運動などが原因で発生します。火星の地殻が冷えることで収縮し、地殻内の圧力が上昇することが火震の引き金となることが考えられています。

火震の発見

火星探査機「インサイト」は、火星の地表で地震現象を観測するために設計されており、2018年に火星に到着して以降、多くの火震を検出しています。インサイトは、地震計(SEIS)を用いて、火星の地表で発生する微細な振動を捉えることができます。

2019年に「インサイト」が、2019年に火星の地震、火震を初めて観測しました。地球の地震学者たちがこの発見に沸き立ち、火星研究は新たな時代に突入しました。地震や火震とは、地震波によって地球の内部構造や物理現象を探る地震学の手法であり、火星においても同様の手法が用いられます。インサイトに搭載された地震計が記録したデータから、火星の地震や火震は、地球と同様に地殻の移動や内部の断層などによって引き起こされることがわかりました。

NASA/YouTube
これが火震の音!
NASA Jet Propulsion Laboratory/YouTub

NASAは火星の音を公開しています。これはまず火星の地表をわたる風の音が聞こえ、その後、深い地鳴りのような物音が響く。この音は、火星の地表に2018年12月に設置された地震計がとらえたものであり、初めて火星の地震波の観測でした。

火星の地殻と地震波

火星の地震波は、地球や月の地震波と異なる特徴を持っています。NASAのジェット推進研究所(JPL)によれば、火星の地殻は地球や月の地殻と異なることがわかります。火星の表面には多数のクレーターがあり、地震波が1分程度続くことから、火星の地震波は、月の地震波に近いとされています。一方、地球の地震波は、数秒から数十秒程度で収まることが多いとされています。

毎日のように吹き荒れる“危険な強風”

火星上の風は時速120キロ以上に達することがあり、強風になることがあります。

NASAの火星探査車「キュリオシティ」が観測したデータから、火星の風は時速50キロから60キロ程度の速度で吹き、ハリケーン並みの風速に達することもあることが判明しています。

火星探査機「インサイト」の観測データからも、火星の砂を動かす風がほぼ毎日発生していることが確認されています。

NASA Jet Propulsion Laboratory/YouTube

日常的に起きる塵旋風(ダストデビル)

火星には、ダストデビルと呼ばれる竜巻のような現象が観測されており、火星の乾いた地表で砂や埃を巻き上げる様子が特徴的です。火星の大気は地球の大気よりも薄く、風も比較的強いため、ダストデビルが発生する条件が整いやすいとされています。

ダストデビルの威力とリスク

実は、火星のダストデビルは地球での竜巻やハリケーンと比べると弱いと考えられています。火星の大気密度は地球の大気密度のわずか1%程度であり、そのため風速は地球よりも遅く、風の威力も低いです。

ダストデビルの風による直接的なリスクは低いものの、旋回する砂やちりが体に当たって擦り傷を引き起こすことがあります。また、火星探査機や探査車にもダストデビルが影響を与えることがあり、機器の損傷や視界の悪化などの問題が生じることがあります。

NASA Jet Propulsion Laboratory/YouTube

ダストデビルが誘発する砂嵐(ダストストーム)

ダストデビルが大きな砂嵐へとつながることもあります。時には、火星全体を覆うほどの巨大な砂嵐が発生することもあり、これは「ダストストーム(火星の大規模な砂嵐)」として知られています。があります。

ダストストームは、火星の大気中に浮遊するダストや砂が、強風によって大量に巻き上がり、大気中に漂いながら火星全体を覆う現象です。ダストストームが発生すると、火星の表面が赤みを帯びたり、空が濁ったりして、太陽光が遮られて昼間でも暗くなることがあります。

NASAの火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」が観測したデータによると、火星の大規模な砂嵐は、数カ月にわたって持続することもあり、地球上でのハリケーンに匹敵する強風が吹き荒れることがあります。

National Geographic/YouTube

砂嵐が火星をすっぽりと覆ってしまう「グローバルダストストーム」

火星では年間を通じてダストストームが発生し、日常的な気象現象の一つとして扱われています。時には、数日間で大きなストームに発展することもあり、全球を覆うグローバルダストストームにまで発展することもあります。

火星の大気が非常に薄いため、ダストストームが発生すると太陽光が遮られ、昼間でも暗くなることがあります。

MLive/YouTube

ダストタワー(塵の塊)

火星では、ダストタワーと呼ばれる巨大な塵の柱が立ち上る現象が観測されています。

ダストタワーの発生メカニズム

ダストタワーは、火星の地表から数キロメートルもの高さに達する塵の柱で構成されています。発生のメカニズムは、太陽光によって地表が加熱されることで、地表の空気が上昇し、砂や塵を巻き上げることにより形成されます。火星の薄い大気と強い日射によって、ダストタワーが発生しやすい環境が整っています。

ダストタワーは、火星の表面で数時間から数日間続くことがあります。規模もさまざまで、幅数十メートルから数キロメートル、高さは数キロメートルに達することがあります。

ダストタワーは普段の火星でも観測される現象ですが、大規模な砂嵐の時にはより頻繁に発生しやすくなることが知られています。2018年の火星砂嵐では、大気中の塵が80キロメートルもの高度まで達するダストタワーが複数観測され、地球からの観測でも大規模な塵の層が火星全体を覆う様子が確認されました。

ダストタワーと火星の水蒸気の関係と水の喪失に寄与する現象

ダストタワーは、火星の大気中の水蒸気を上層まで運び上げる役割を果たしています。水蒸気は、ダストタワーの内部で上昇する気流に乗って高度数十キロメートルの高度まで運ばれます。

上層まで運ばれた水蒸気は、太陽光によって分解されて水素と酸素に分かれます。この過程は光分解(photodissociation)と呼ばれ、火星の薄い大気の上層で特に顕著に起こります。

分解された水素は、軽いため火星の重力で保持することが難しく、大気圏外へと失われてしまいます。これによって、火星の大気中の水分が少しずつ減少していくことになります。

ダストタワーによって上層まで運ばれた水蒸気が光分解を経て水素が失われるこのプロセスは、何億年も続いたことが考えられています。これが、火星の地表から多くの水が失われた原因のひとつとされています。

火星で人類が生きるため

このような過酷な火星環境で人類が生きるためには、以下のような対策や技術が必要となります。

居住用のシェルター

極寒の気温や放射線、ダストストームから保護するため、適切に断熱され、気密性が高いシェルターを建設する必要があります。地下や火星の溶岩洞窟を利用することで、自然環境を活用した居住スペースを確保することも考えられます。

酸素供給

星の大気はほとんどが二酸化炭素であり、人間が呼吸できる酸素がほとんどありません。酸素を生成するために、水や二酸化炭素から酸素を分離する技術が必要です。また、植物を栽培することで、酸素の再生産も行うことができます。

水の確保

水は、飲料水や衛生用途、植物の栽培に必要です。火星の地下に存在する氷を探査し、水を得ることが考えられます。また、再生可能な水循環システムを導入することで、使用済み水を浄化して再利用することが重要です。

食料生産

食料は、火星での長期滞在や自給自足を目指す上で重要です。火星の土壌を利用して、植物の栽培や宇宙食の開発が求められます。

エネルギー供給

火星での生活には、電力が必要です。太陽光発電や原子力発電、燃料電池などのエネルギー供給手段を確立することが重要です。

通信システム

地球と火星の間で、安定した通信環境を確保することが必要です。通信衛星の設置やデータ転送速度の向上が求められます。

心理的健康の維持

長期滞在に伴うストレスや孤立感を軽減するため、精神的健康を維持する方法や、地球との連絡手段、娯楽施設の整備が重要です。

火星での人類の生活に向けた技術と課題

これらの対策や技術が整備されることで、過酷な火星環境での人類の生活が可能になります。しかし、火星での定住や植民計画は、多くの技術的課題や資源、コスト面の問題を抱えており、実現には長い時間がかかると考えられます。また、火星探査や植民計画は国際的な協力が不可欠であり、各国や民間企業が連携して技術開発や資源の共有を行うことが重要です。

最後に、火星での持続可能な生活のためには、地球での環境保護や資源管理の経験を活かし、火星の環境を守る取り組みも求められます。環境破壊を最小限に抑える技術や、火星の資源を効果的に利用する方法を開発することが、人類が火星で長期的に生活するために重要な要素となります

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