夜空に浮かぶ幻想的な光が、あなたを誘う。それは、蛍の光。一度は誰もが見たことがあるであろうその美しさには、心が奪われるものがあります。しかし、かつては恐怖の対象とされていた蛍。その歴史と、現代における魅力に迫ってみましょう。
Firefly light
昔は怖がられていた!?”ホタルノヒカリ”
ホタルは昔から怖がられている存在でもありました。夜に明かりを放つ不思議な生き物であるため、幽霊や悪霊などと混同され、恐怖の対象とされることもありました。
腐った草から生まれた生きもの
古くは、ホタルは「朽ち草」「腐草」「草化」などと呼ばれ、腐った草が蒸れることでホタルになると考えられていました。このため、芒種の次候には「腐草為蛍」という季語があります。
「腐草為蛍」とは、古代中国の暦において、6月11日から始まる芒種の次候の季語で、直訳すると「腐った草が蛍になる」という意味になります。この季語は、腐った草が蒸れることで蛍が発生することを表しており、ホタルの季節の始まりを告げるものとされています。日本でもこの季節には、ホタルが飛び始める地域があり、多くの人々がホタル観賞に訪れる季節となっています。
七十二候ではいま「腐草為蛍」。
— α-STATION FM KYOTO (@fmkyoto) June 12, 2016
「物思へば沢の蛍も我が身より
あくがれいづる魂かとぞみる」
貴船の蛍岩にて和泉式部が詠んだ和歌です。 pic.twitter.com/EYt00rZGZU
七十二候
腐草為蛍は「七十二候」のひとつで、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」の次候にあたります。七十二候は、古代中国の暦の中で、季節の移り変わりを表現するために考案されたもので、二十四節気のさらに細かい区切りとして、季節や気象、動植物の成長などを表しています。
腐草為蛍は、夏至(二十四節気のひとつ)の前後に見られる、腐った草からホタルが発生する様子を表現した候です。日本にも、この七十二候が伝わっており、季節の変化や自然の移ろいを感じる指標として広く親しまれています。
古来の日本では邪神扱い?
「日本書紀」には、「彼地多有蛍火之光神及蠅聲邪神」という一文があります。これは、「その土地にはホタルのような光を放つ神がいると信じられており、また蝿の羽音のような騒音を発する邪神もいるとされる」という意味であり、ホタル自体が不気味なものとして扱われていたわけではありません。ただし、当時の人々はホタルの光を神秘的なものとして捉えていたことが伺えます。
その光の由来は「堕天使 ルシファー」?
ホタルの発光には、ルシフェリンとルシフェラーゼという物質の化学反応が関与しています。具体的には、ルシフェリンと呼ばれる物質が、ルシフェラーゼという酵素によって酸化され、その過程でエネルギーが放出されて発光します。ホタルの発光は、求愛行動や捕食者を威嚇するためのものとされています。
ルシフェラーゼという名前は、光を生み出す酵素の一種であることから、「光をもたらすもの」という意味で付けられました。一部の文献では、「ルシフェリン」と共に悪魔的なイメージが付与されていますが、科学的な用語であることから、悪魔的な意味合いはありません。
時間と共に光の評価が変わっていった
蛍は、時代がたつにつれて神秘的な美しさに注目されるようになり、その儚さから「恋」や「霊魂」に例えられるようになりました。その結果、夏の風物詩となりました。最初は恐れられていた蛍でしたが、今ではその美しさが認められています。
唱歌:蛍の光
平安時代の初期には、ホタルが恐れられる存在であったとされていますが、その後、漢詩文化の影響で、ホタルの光が風情あるものとして詠まれるようになりました。
中国の歴史書には「蛍雪の功」という故事が出てきますが、これは貧しい家庭の少年が、ホタルの光や雪の明るさをたよりに、夜に勉学を熱心に行ったというものです。
これが、平安時代の初期に漢詩文の影響を受けて、恐れの対象から風情ある光への転換が盛んに学ばれたと考えられています。そして、その象徴として卒業式でよく歌われる「蛍の光」もこの故事からきています。