「源氏」と「平家」が輝く夜、夏の始まりを告げる神秘の光【ホタルの雑学】

「源氏」と「平家」という名前は、日本の古い武士の家系を連想させますが、実はホタルの世界にもこの名前が存在します。それが、ゲンジボタルとヘイケボタルです。

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あるときは愛のために、またあるときは殺して食べるために…煌めくホタルたちの可憐な姿からは想像もできない、生死をかけた骨肉の争いや、ドラマチックな一生がここにある。(「BOOK」データベースより)

Japanese firefly 

日本のホタルは世界的にも珍しい!

みてみTV/YouTube

「ホタル(蛍る)」は昆虫の一種で、日本の夏の風物詩の一つです。夜になると、体内に持つ発光器官(光る部分)を点滅させて光を放ちます。

暗い場所で見ると、ホタルが飛んでいる様子は非常に幻想的で美しく、日本の文学や詩歌、歌にもしばしば登場し、日本文化に根付いた存在となっています。

陸生ホタルと水生ホタル

世界中に2000種類以上いるといわれているホタルですが、大まかに分けると、「陸生ホタル類」と「水生ホタル類」の2種類に分類することが出来ます。

陸生ホタルは幼虫の時に地上、すなわち森の中や草むらに過ごしています。それに対して、水生ホタルは幼虫の時を水中の中で過ごします。

水生ホタルは世界でもたった5種類

世界中にいるホタルのほとんどは陸生のもので、水生のものは世界でも5種類しか観測されておらず、希少性の高いホタルとしても知られています。

さらに、水生のホタルには陸生のホタルには見られない独特の生態や発光の仕組みがあるため、注目を集めています。

例えば、日本に生息する水生のホタル「ヘイケボタル」は、幼虫時代を水中で過ごし、光を出す部位が胸部ではなく腹部にあるなど、陸生のホタルとは異なる特徴を持っています。

また、南アメリカに生息する水生のホタル「シンシア・リコンスティタ」は、発光能力を失ったオスが、メスの光を模倣して誘惑することが知られ、水生のホタルのそれぞれの特徴は興味深いものになっています。

日本に生育する3種類の水生ホタル

日本には46種類のホタルが生息していますが、一般的に私たちがホタルと言えば「ゲンジボタル」、「ヘイケボタル」のことを指します。

さらに、「クメジマボタル」を含めたこの3種類のホタルはすべて水生ホタルです。世界に5種類しか観測されていない水生ホタルが、ここ日本には3種類も生息しているのは驚くべきことです。

また、スジグロボタルという成虫の時に水辺に生息する陸生のホタルもいます。このことから、スジグロボタルは半水生とされています。

ゲンジボタルとヘイケボタルの光

日本のゲンジボタルとヘイケボタルは、幼虫期から成虫期まで光り続けることで知られ、日本の文化や生態系にとって重要な存在とされています。

これは、世界でも類を見ない特異性であり、その他の多くの種類のホタルは、成虫になるまで光らなかったり、成虫になってからしか光りません。

Minoru Kimoto/YouTube

「ゲンジボタル」

ゲンジボタルは、日本固有のホタルであり、大型で光も強いことから、古くから最も知られているホタルの一つです。幼虫期を水中で過ごし、成虫になると陸上に上がって発光しながら飛翔します。

ゲンジボタルは、体長が2.5cmほどで、平均的にヘイケボタルよりも大型です。

NI SHI/YouTube
幼虫の頃のエサは巻貝「カワニナ」

ゲンジボタルの幼虫は、主にカワニナという水生の巻貝を食べています。カワニナは、ホタルが生息する水の質に影響を与えるため、ホタルとともに環境保全の対象となっています。

ゲンジボタルの幼虫は、カワニナを捕食することで成長し、成虫になると陸上に上がって発光しながら飛翔します。ゲンジボタルは成虫になると口が退化するため、葉っぱについた夜露を飲むだけで生活を維持しています。

ゲンジボタルの光

ゲンジボタルは背面前胸に十字形の模様があるのが特徴で、この模様が明るく輝くことがあります。

この十字形の模様は、光る器官である光器と呼ばれる部位があるために現れるもので、個体によって模様が異なることがあります。

また、ゲンジボタルは、夏の夜に川や水辺の周辺でよく見られるホタルであり、その光り方も独特で、一瞬だけ輝く点滅光を放つことが多いです。

ゲンジボタルのオスは、メスの光らない一つ目の節も光ることがあるため、オスの方がより強い光を放っています夜に飛び交っているホタルの大半がオスで、メスは木や草に止まって小さな光を出しています。

光り方でメッセージを伝える

ホタルの光は、プロポーズのための光、刺激された時の光、敵を驚かせるための光など、さまざまな目的で使われています。

さらに、個々のホタルによって光り方が異なっており、光交信を通じて、自分と同じ種類のオス・メスであることを確認しています。

面白い事に、東日本のホタルは、ゆっくりとした4秒周期の光を放ち、関西のホタルは、せっかちな2秒周期の光を放つことが分かっています。

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環境汚染により生息域が減少

かつて全国各地の清流や河川沿いに、多くの名所が設けられ、人々に親しまれていました。しかし、現在では、都市化や農地の拡大、水質汚染などにより、ゲンジボタルが生息する環境が破壊されつつあります。

また、灯りや騒音など、人間の生活環境によっても、ゲンジボタルの生息に悪影響を与えることがあります。

そのため、ゲンジボタルの生息地を守るために、各地で保護活動が行われています。例えば、河川の改修や環境整備、光害対策などが進められ、ゲンジボタルが生息できる環境が整備されています。

また、ゲンジボタルの飼育や放流なども行われ、ゲンジボタルの保全活動が進められています。

生きるためには水が綺麗すぎてもダメ!?

一方でゲンジボタルは、水があまりにもきれい過ぎる場所では定着しないとされています。これは、きれいすぎる水は水温が低くなり、ゲンジボタルの主な餌であるカワニナが生息しにくくなるためだと考えられています。

ゲンジボタルが生息する水域は、ある程度の汚れや植生があることが望ましいとされています。また、ゲンジボタルが生息する場所では、水の流れが適度にあることも重要です。

ゲンジボタルを見るための最適な場所と時期

ゲンジボタルは、全国各地に生息していますが、特に、山口県の長門市や福岡県の朝倉市など、数多くのゲンジボタルが生息する場所があります。

これらの生息地は、文化的・科学的価値が高いことから、国の天然記念物に指定されています。

ゲンジボタルの発生時期は、気温や環境条件によって異なりますが、一般的には5月下旬から6月下旬までが見られます。

また、光を放つ時間帯は、日暮れの時刻によって遅くなりますが、6月上旬では午後8時頃から光り始めることが多いです。メスはオスよりも発生が遅れ、通常は4〜5日ほど遅れて現れるとされています。

MDFIDF/YouTube

「ヘイケボタル」

ヘイケボタルもゲンジボタルと並び、日本を代表するホタルの一種です。

体色が赤褐色で、体長はゲンジボタルよりもやや小さいのが特徴です。

ゲンジボタルの胸部には十字模様があり、その上部に+(プラス)の形をした模様が見られまが、ヘイケボタルの胸部には横棒があり、その上部に−(マイナス)の形をした模様があるため、ゲンジボタルと見分けることができます。

ただし、胸部の模様が目立たない場合や、個体差がある場合もあるため、他の特徴も踏まえて見分ける必要があります。

MDFIDF/YouTube
幼虫の頃「カワニナ」以外も食べる

ヘイケボタルは、ゲンジボタルと比べて幅広い食性を持っており、カワニナ以外にも、ウグイスカワニナやナミカワニナなど、淡水性の巻貝ならばほとんどの種類を食べます。

ヘイケボタルの光

ヘイケボタルのオスは、腹の先の方にある二つの体節を光らせますが、メスは、一つの体節のみを光らせるため、見分けることができます。

また、点灯時間は1秒前後で、オスとメスで発光間隔が異なり、オスの方が長くなる傾向があります。

ゲンジボタルよりも弱い光を放つ

光の強さに関しては個体差や環境条件によって異なるため、一概に比較することはできませんが、一般的には、ゲンジボタルの方が光が強く、ヘイケボタルの方が光が弱いとされています。

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ヘイケボタルを見るための最適な場所と時期

ヘイケボタルもゲンジボタルと同じく全国地各地で見ることができます、ただし、ゲンジボタルと比べて、流れの緩やかな水路や田んぼなど、静水域に生息することが多いとされています。

また、北海道や寒冷地にも生息することが知られており、ゲンジボタルよりも寒冷な環境に適応しているとされています。

一方で、都市部でも生息が確認されており、下水道の完備などが原因で水質が改善され、都会でも生き残れる強い生命力を持つホタルとして注目されています。

ゲンジボタルの後を引き継ぐ様に光を放つ

ゲンジボタルの発生時期が終わると、ヘイケボタルの発生時期が始まります。ゲンジボタルは5月下旬から6月下旬に発生するのに対して、ヘイケボタルは6月下旬から7月上旬にかけて発生する傾向があります。

最適な見頃は、ヘイケボタルが発生する地域や生息地の気候や環境によって変化しますが、夜間の薄明かりが見えるくらいの日没後から夜中くらいまでが一般的です。

Yoshihito Furukawa/YouTube

「源氏と平家」日本の歴史を感じる二つの光

ゲンジボタル、ヘイケボタルのそれぞれの漢字表記は、源氏蛍、平家蛍となっており、この名前が付けられた理由について、いくつかの説があります。

それは、それぞれ源氏物語と平家物語に登場する、源氏と平家から名前が付けられたとされるものです。

源頼政の幽霊

例えば、ゲンジボタル(源氏蛍)は、源頼政が平家との戦いに破れ、宇治平等院にて討ち死にした後、亡霊がホタルとなって戦い続けたという伝説から名付けられたという説。

源氏と平家の力関係

他の説では、平安時代に源氏と平家の二つの勢力が対立しているのを見ていた庶民の間で、「体が大きい方を源氏、相対する方を平家」と呼ぶようになり、その通称が広まりったという説もあります。

ただし、これらの説は伝承や口承の要素が強く、史実としては確証されたものではありません。ホタルの名前には、それぞれの地域で異なる由来がある場合があるため、一概に説明することはできません。

日本の歴史を彩る輝き

物語の中では、源氏蛍は源氏物語の中で、夜の宮中で源氏と紫の上の出会いの場面で登場し、平家蛍は平家物語の中で、藤原秀衡が平家追討を始める前夜に登場します。

また、源氏蛍と平家蛍の名前には、地域によって異なる呼び名があるとされています。

例えば、山口県では「高野蛍」と呼ばれており、広島県では「徳川蛍」と呼ばれているようです。これらの呼び名には、それぞれの地域での独自の由来や伝承があるとされています。

読者の皆様へ

ゲンジボタルの光は源氏のように、優雅で洗練された美しさを、ヘイケボタルの光は平家のように、困難に立ち向かう情熱と勇気を感じることができます。

そして、この二つの光は儚くも美しく季節を彩り、日本の風景に深い感動と魅力を与えてくれています。

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あるときは愛のために、またあるときは殺して食べるために…煌めくホタルたちの可憐な姿からは想像もできない、生死をかけた骨肉の争いや、ドラマチックな一生がここにある。(「BOOK」データベースより)

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