「大気の状態が不安定」って何?積乱雲の発生メカニズムを徹底解説【気象】

天候予報でよく聞く「大気の状態が不安定」という言葉。しかし、この表現の意味や、どのような状況で積乱雲が発生するのか、具体的にはよく分からないことが多いと思います。この記事では、大気の状態が不安定とは何か、そして積乱雲がどのように発生するのかを徹底解説します。

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Cumulonimbus

積乱雲

imagewerks motion/YouTube

積乱雲(積雨雲とも呼ばれる)は、雨や雷雨を伴う大きな雲のことで、学術名は「カミュロニンバス」(Cumulonimbus)です。山岳地帯や高地などに見られる特殊な雲で、形状が乱雲のようになっているため、積乱雲と呼ばれています。

激しい上昇気流

簡単に言えば積乱雲とは、強い上昇流があり、その条件で雲が成長し、さらに強い雨が降る現象であると言えます。

雲の中では激しい対流が起こり、幾つもの上昇気流が存在します。それらの上昇気流を見ると、積乱雲の中には小さな雲の固まり(セル)が上昇していくのを見ることができます。

普通の雲は。地球の大気は重力により圧迫されているため、わずかにしか上下方向に動くことができませんが。積乱雲は、地球の大気の中でも鉛直方向に激しい運動をする唯一の雲です。

Cumulonimbus/Vimeo
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誕生の条件「大気の状態が不安定」

積乱雲は、大気の状態が不安定であることが必要条件の一つです。

大気の状態が不安定とは、気温や湿度の変化が激しく、空気の上昇や下降が起こりやすい状況を指します。これにより、雲が発生しやすくなり、天候が急変することがあります。一般的に、暖かく湿った空気が地表にある場合や、上空の寒冷な空気が近づく場合に、大気が不安定になることが多いです。

上昇気流によって積乱雲が発達

積乱雲は、大気の状態が不安定で発生することが多く、その発生メカニズムは以下のようになります。

  1. 対流の発生 地表の暖かい空気が上昇し、それによって対流が発生します。これは、地表が太陽の熱を受けて温められることで、暖かい空気が上昇しやすくなるためです。
  2. 空気の冷却と水蒸気の凝結 上昇する暖かい空気は、高度が上がるにつれて冷却されます。これにより、空気中の水蒸気が飽和し、凝結して雲ができます。積乱雲は、この過程で発生する雲の一種です。
  3. 積乱雲の成長 対流によって上昇した空気は、さらに高度が上がることで、より強い対流が発生します。これにより、積乱雲が急速に成長し、大きく発展します。積乱雲が発達すると、雷や豪雨、突風などの激しい天候現象が発生することがあります。

大都市の場合には、冷房などで建物から出される熱や、アスファルトの反射熱が上昇気流を生み、積乱雲を発生させるケースもみられます。

また、積乱雲が成長するにつれて、上昇気流がより強くなり、雲の上部が拡散してかなとこ型に広がることもあります。

ウェザーニュース/YouTube

積乱雲の前段階!雲が積み重なった「積雲」

積乱雲の前段階として「積雲」が発生することがあります。

学術名のキュムラス (Cumulus) は、ラテン語の「cumulus」(積み重ねる)に由来する言葉で、積雲のことを指します。積雲は、上昇気流によって形成される綿菓子のような雲であり、雲が積み重なっているように見えることから、この名前が付けられました。キュムラスは、晴れた日によく見られる雲の一つであり、天気の変化を予測するためにも重要な指標となっています。

別名綿雲

上昇気流によって発生する綿菓子のような雲であり、晴れた日に発生しやすく、その形から別名綿雲(わたぐも)とも呼ばれています。

積雲(綿雲)も積乱雲と同様に、上部がモコモコしていて形が変わりやすく、成長していくにつれて上に向かって拡大していくため、かなとこ型に広がることもあります。一方、雲底は平たくほとんど上下しないのが特徴で、上昇気流が弱いために雲が支えられているということもあります。

内部は、雲粒の密度が高く、光が通りにくいため、日光が当たった時の明暗がくっきりと表れることがあります。ただし、積雲(綿雲)は積乱雲と比べて非常に浅く、水蒸気量が少ないため、非常に濃い雲ではなく、明るいときには白く美しい形をしていることが多いです。

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さらに成長「雄大積雲」

積雲は一般的に雲底の高さが2000m前後で、小さなものは数百メートル程度と低く、大きなものでも2000m程度が一般的です。しかし、気象条件が良好な場合や積乱雲に発展する場合には、雲の上部が拡散してかなとこ型に広がり、高さが10000mを超えることもあります。このような、高く大きな積雲を特に「雄大積雲」と呼びます。

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最終形態「積乱雲」

上空に寒気が流れ込んで大気が不安定になると、積雲が垂直に成長します。積雲が成長し続けると、頭頂部が隆起し始め、その頂上部に水滴や氷の結晶が集まって積乱雲を形成します。

積乱雲の種類はカテゴリー約3つ

積乱雲は大きく分けて、シングルセル、マルチセル、スーパーセルの3つに分類されます。

シングルセル(1つの積乱雲)

シングルセルは、一つの積乱雲が成長して発達し、一定時間で消滅するタイプの積乱雲です。一般的に、積乱雲が形成されたら、急速に成長し、その後、上昇気流が減速して雲が崩れ、雨が降り出します。

特に夏の夕立は、このシングルセル型積乱雲によって発生することが多いです。雲の形も、初めは小さな山のような形から始まり、急速に成長して、モコモコとした雲になります。そして、急な雨や雷を伴って発生し、15分から1時間程度で消えます。

Hunter Anderson/YouTube
マルチセル(複数の積乱雲群)

マルチセルは、複数の積乱雲が近接して存在し、同時に成長しながら、一定時間をかけて消滅する積乱雲です。マルチセルは、各セルが発生して成長するため、シングルセルに比べて雨が降る時間が長く、ゲリラ豪雨になることがあります。また、マルチセル型積乱雲は、風向きが変わると積乱雲の移動方向も変わるため、予測が困難な場合があります。

Martin McKenna/YouTube
【最大級の危険】スーパーセル(超巨大積乱雲)

スーパーセルは、非常に大型の積乱雲で、非常に強い上昇気流と強い回転を持っています。スーパーセルは、非常に強い雨や風、竜巻を伴うことがあり、非常に危険な天候現象として知られています。

shu o/YouTube
上昇気流と下降気流が別の位置に…。

スーパーセルは、非常に強力な上昇気流によって形成されます。この上昇気流は、鉛直方向に傾いており、上昇気流の場と下降気流の場が別々に存在するため、長時間にわたって積乱雲を維持することができます。

過去には、日本国内でもスーパーセルが発生し、大きな被害をもたらした例があります。

ANNnewsCH/YouTube

積乱雲の役割と災害

積乱雲は、大気の循環に重要な役割を果たします。水蒸気を持ち上げ、凝縮させることで雲を形成し、上昇気流を引き起こします。の上昇気流が大気を動かし、気象条件を変化させる。

KyodoNews/YouTube
雲の中には大量の水!危険な豪雨災害

積乱雲に含まれる水の量は非常に膨大で、時にはドラム缶1000万本分にも達すると言われています。これらが雨滴になり、降水として地上に落ちると、短時間で大量の雨が降り注ぐことになります。

1つの積乱雲の寿命は1時間程度であり、もたらす降雨量も数十ミリ程度が一般的です。そのため、局地的な大雨が発生する場合には、1つの積乱雲が原因となっていることがあります。

一方、長時間にわたって100ミリ以上の雨を降らす場合には、複数の積乱雲が組織化しなければなりません。複数の積乱雲が発生し、それらが合体して一つの巨大な積乱雲を形成することで、長時間にわたって大量の雨を降らすことができます。

山間部での土砂災害

積乱雲による集中豪雨が山間部で発生すると、急峻な地形の影響で土砂災害が引き起こされやすくなります。大量の降雨によって、山肌が浸食され、土石流や地滑りが発生するリスクが高まります。

川の増水や洪水

積乱雲による集中豪雨は、短時間での大量降水が川に流れ込み、急激に水位が上昇します。これにより、川が氾濫し、洪水が発生することがあります。また、堤防の決壊や浸水被害も引き起こされることがあります。

都市部での浸水被害

都市部では、集中豪雨が降ると、排水機能が追いつかず、道路の冠水や地下施設の浸水が発生することがあります。都市部の高い人口密度やインフラの集中により、浸水被害が広範囲に及ぶリスクが高まります。

「雷」は積乱雲が引き起こす現象

雷は、積乱雲内で発生する大気中の放電現象で、雷雲は、雷を伴った積乱雲のことを指し、雷を伴わない積乱雲とは区別されます。

積乱雲内では、上昇気流によって水蒸気が凝縮して雨粒が形成される際に、荷電が発生します。雲内部の水滴や氷粒が帯電し、プラスとマイナスに分かれます。荷電状態が過剰となると、雲と地表との間に大気中の放電現象が起こり、雷が発生します。この際には、プラスとマイナスの間に電流が流れることで、発光や爆発的な音が発生します。

雷は、積乱雲から発生し、その位置次第で海面、平野、山岳など、場所を選ばずに落ちることがあります。ただし、周囲より高いものに落ちやすいという特徴があります。

これは、雷が落ちる際には、荷電した雲と地表や物体の間に静電気的な力が働くため、周囲よりも高い場所にある物体の方が、雷を引き寄せやすいからです。具体的には、高い建物や山頂、高い木などが雷を引き寄せやすくなります。

そのため、山岳地帯では雷による事故や災害が発生することがあります。

DotsonPLUS/Vimeo
氷が雷を誘発

積乱雲の頂上付近の気温は-40℃近くで、雲を構成している小さな氷のかけら、つまり氷晶が、雷を発生させる原因の一つとなっています。

もちろん、積乱雲の頂上付近の気温が低いだけでは雷が発生するわけではありません。氷晶が雷を発生させるには、他のいくつかの要素が必要となります。

特に、積乱雲内部の風の動きは、雷発生のキーとなる要素の一つです。

ANNnewsCH/YouTube
冷やされた水・氷が落下!下降気流が発生

積乱雲の中では、水蒸気が上昇気流によって上昇し、上層で冷やされることで水滴や氷晶が形成されます。これらの水滴や氷晶は、周囲の水蒸気を吸収して成長し、次第に大きく、重くなります。そして、重力の影響によって下層へと落ち始めます。

この時、粒は周囲の空気を引きずり下ろし、下降気流を発生させます。下降気流は、積乱雲の内側で上昇気流と対抗し、積乱雲の形成を助けます。

上昇気流の水・氷とぶつかり静電気が発生

この時、積乱雲内部では、下降気流と上昇気流が複雑に交錯しており、下層からの上昇気流も依然として存在しています。このため、下降気流によって下へ落ちていく成長した水滴や氷晶と、上昇気流によって上がってくる小さな水滴や氷晶がぶつかり合い、摩擦が生じ、その摩擦により静電気が発生。

小さい氷はプラスの電気、大きい氷はマイナスの電気を持っていて、地上ではプラスの電気となります。

静電気がある程度溜まると、今度はマイナスからプラスに向かって一気に電気が流れます。

このときに、地面と雲の間の電流の通り道が光って見えるのが「稲妻」で、この時に、発生する衝撃波の音が雷鳴となります。

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「まるで龍の巣」人智を超えた力の魅力と危険性

積乱雲は、危険な豪雨災害や気象現象を引き起こす一方で、その雄大で美しい姿から「龍の巣」とも称されることがあり、風景や芸術作品などにも描かれることがあります。積乱雲の独特な形状や雄大なスケールは、多くの人々を魅了しています。

ただし、その美しさに見とれるあまり、危険な天候や気象現象に巻き込まれないよう、常に天候予報や警報に注意を払い、適切な対策を講じることが大切です。

ANNnewsCH/YouTube
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