今回は、話題の音楽ユニット「YOASOBI(ヨアソビ)」についてご紹介いたします。彼らは、物語を音楽に変えることをコンセプトに掲げ、そのストーリー性豊かな楽曲が多くの人々に支持されています。
また、彼らの制作過程では初音ミクを採用しており、ボーカロイド文化とJ-POPの融合を象徴しています。
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Ayase & ikura
「YOASOBI」
かつてインターネット上で大きな人気を集めていた「ボカロ」音楽、すなわちボーカロイドを用いた音楽は、現在ではJ-POPシーンに大きな影響を与えて続けています。
YOASOBIはその最たる例で、彼らの楽曲はボーカロイドを使った音楽の特徴を持ちながらも、一般のリスナーにも受け入れられるようなポップなアプローチが取り入れられています。その結果、ボーカロイド音楽の魅力をより多くの人々に広めることに成功し、J-POPの一部として定着しました。
このように、ボカロ音楽がJ-POPのメインストリームに影響を与えることで、新たな音楽ジャンルやアーティストが登場し続けており、ボーカロイドを活用した音楽がこれからも進化し続けることでしょう。
音楽ユニット「YOASOBI」
YOASOBIは2019年10月に結成された日本の音楽ユニットで、音楽クリエイターのAyaseとシンガーソングライターのikura(幾田りら)の2人組で活動しています。彼らの音楽はTikTokをきっかけに人気が広がり、特に若者を中心に支持されています。
その結果、YouTubeでは多くのカバー動画が投稿され、「歌ってみた」などのコンテンツが注目を集めています。
また、YOASOBIはTwitterなどのSNSを積極的に活用し、ファンとのコミュニケーションや情報発信を通じて認知度を高めています。彼らの楽曲は、コンポーザーであるAyaseのポップで多彩なアレンジと、ikuraの透明感ある歌声が魅力となっており、幅広い層から支持されている音楽ユニットです。
世界の音楽チャートにもランクインする人気アーティスト!
YOASOBIのデビュー曲「夜に駆ける」は、2019年11月に公開され、公開直後から急速に注目を集めました。現在ではストリーミングで1億回再生を突破し、Billboard Japan Hot 100やオリコン週間合算シングルランキングで1位を獲得。
また、Spotifyの「バイラルトップ50(グローバル)」でも6位にランクインし、アジア各国のバイラルチャートでも高評価を受けました。特にTikTokでは関連動画再生数が約3億回にのぼるなど、その人気は絶大です。
2020年5月にリリースされた「ハルジオン」や7月にリリースされた「たぶん」も、LINE MUSIC邦楽TOP100で1位を獲得し、各所で注目を集めました。同年の大晦日にはNHK紅白歌合戦に初出場し、その年を締めくくりました。
2021年もYOASOBIの勢いは止まらず、アニメ『BEASTARS』のオープニング・テーマソング「怪物」や、情報番組『めざましテレビ』のテーマソング「もう少しだけ」など、数々のタイアップ楽曲を発表。
彼らの音楽には「小説を音楽にする」というコンセプトがあり、原作に基づいた多彩な楽曲を提供しています。
原作小説集はベストセラーになり、アニメーションミュージックビデオも数億回の再生回数を記録。Ayaseとikuraはテレビやラジオにも度々出演し、その親しみやすいキャラクターでヒットチャートの常連となりました。
また、2021年12月には初の有観客ライブを武道館で開催し、その人気を拡大。同年のTOP10には「夜に駆ける」「群青」「怪物」の3曲がランクインし、その活躍は目覚ましいものがあります。
ボカロP「Ayase」
Ayaseは1994年4月4日生まれの山口県出身の音楽クリエイターです。彼は「ボーカロイド」という音声合成ソフトを使って楽曲を作成し、動画共有サイトに投稿する「ボカロP」としても活動しています。彼の成功は、テレビ番組や芸能事務所といった従来の方法とは異なる新たな地平からスターが生まれる時代の象徴とも言えます。
幼少期はピアニストを目指していた
幼少期にはピアニストを目指し、昨年のショパンコンクールで4位となった小林愛実氏と同じ先生に師事していました。周囲からも期待される存在であったにもかかわらず、中学時代にピアノ留学を勧められたことが原因で、彼はピアノを辞めてしまいます。しかし、その後も音楽への情熱は失われなかった。
バンド「Davingi」として活動!
Ayaseは、中学2年生くらいのとき、EXILEやaikoなどのJ-POPアーティストに触れ、歌が好きだと気付きました。次第に歌手になりたいという気持ちが芽生え、音楽で生計を立てたいと考えるようになりました。彼は小さい頃からピアノの課題曲や流行りの曲、独自のメロディーを歌っており、周囲からも「歌を歌うことが好きだね」と言われていました。
14歳のとき、彼は両親に歌手になりたいと伝えましたが、両親は「勉強しなさい!学校に行きなさい!」と反応しました。当時のAyaseは、ちょっとした反抗期で、音楽を理由に学校に行かないことを正当化しようとしていました。
そして16歳の時に福岡でバンド活動を始めました。曲作りやライブ活動を通じて、真剣に音楽を追求していることが徐々に伝わり、両親にも支援してもらえるようになりました。
今では、彼の楽曲がチャートで1位になったり、再生回数が何万回突破したといった情報が、彼が伝えるよりも先に両親から連絡が来ることもあるそうです。Ayaseはそんな環境で音楽を続けられることに感謝しています。このエピソードから、Ayaseが音楽に対する情熱と才能を持っていたことが伺えます。
夢を追いかけ上京するも体調を崩し活動休止
その後、Ayaseのバンドは2017年に東京に拠点を移しました。
Ayaseは当時の自分を振り返り、6歳から9年間、バンドのボーカルとして歌い続けていたが「ひたすら調子に乗っていた」と表現し、「誰にも負けるわけない」という強い自信を持っていたと話しています。
ただし、「どうやったら売れる?」「どうやったら人に見てもらえる?」ということに対してあまり考えていなかったと言います。
結局、Ayaseが体調を崩したことが原因でバンドは活動休止に入りました。
バンドを休止した時期に見出したのがボカロ!
Ayaseは、自身が率いていたバンドが活動休止になった後の2018年12月、ボカロ曲「先天性アサルトガール」を動画共有サイトに投稿し、ボカロPとしてデビューしました。バンドの挫折がきっかけで、彼はボーカロイドを使った楽曲制作に目を向けました。
当時24歳だったAyaseは、体調を崩してバンド活動を休止しなければならなくなりました。それまで毎月3、4本のライブをこなしていた彼にとって、突然の空白期間は大きな虚無感と絶望感を生み出しました。
しかし、彼は音楽を諦めきれず、ボーカロイドを使った曲制作を始めました。妹が好きだったボカロの曲を聴いたことがきっかけで、彼は一人で曲を作ることができるボーカロイドに目を向け、初音ミクのソフトを購入しました。
Ayaseは、バンド活動が経験としては財産だったものの、「しっかり失敗をしたな」という自覚があったと語ります。彼は絶望感の中でボーカロイドに出会い、それが今の彼につながる大きな転機となりました。
YOASOBIの始まりの楽曲!「ラストリゾート」
2019年4月30日に公開された楽曲「ラストリゾート」は、Ayaseの運命を大きく変えることになりました。クールなピアノで紡がれるお洒落な旋律とダークな歌詞が多くのボカロファンの心を捉え、一躍話題の楽曲となりました。この楽曲で自身初の殿堂入りを達成し、以降Ayaseは次々と人気楽曲を生み出すようになります。
平成最終日、新曲投稿しました。
— Ayase (@Ayase_0404) April 30, 2019
よろしくお願い致します。
ラストリゾート / 初音ミク
今回は佐々米さん(@SasaG_yd)に絵を描いていただきました。
最高すぎる絵をありがとうございます。
「歩き疲れたところで終わりにしようか」
niconico → https://t.co/6IbSIrTbNW pic.twitter.com/MgBw6CmMG5
こいつで10万叩き出すって言って、
— Ayase (@Ayase_0404) July 13, 2019
平成最後にぶん投げたラストリゾートが
10万再生超えました。
僕史上初です。嬉しいです。
本当にありがとう…!
時代を跨いでここまで来れた、
次は100万再生目指して精進します、ので、
これからもどうぞ末永く
よろしくお願いします…!💎 pic.twitter.com/ui3JrK9xUF
この曲をきっかけにYOASOBIを結成に繋がる!
2019年4月にリリースした「ラストリゾート」という曲が、Ayaseが現在所属するYOASOBIのスタッフに声をかけられるきっかけとなった。
以前はボーカロイドのプロデューサーとして活動していたが、創作意欲はあったものの注目されることはなく、不安定な心境に陥っていた。その時、自分自身が所属していたバンドが解散してしまい、不安な気持ちから「もしバンドで成功できなかったらどうしよう」と考えていた。
そんな時に制作したのが「ラストリゾート」であり、平成最後の日にリリースし、令和に入ってからは新たな気持ちで前進しようと思っていた。この楽曲を通じて自分の気持ちを整理することができたとAyaseは語っている。
そして、この曲が結果的にYOASOBIのスタッフに目に留まり、彼らとの出会いのきっかけとなった。
「夜に駆ける」発表!
2019年11月にリリースされたYOASOBIのファーストシングル「夜に駆ける」は、Billboard Japan総合ソングチャート「HOT100」で2020年の年間1位を獲得した。Ayaseは、この成功について、「物理的にお金がなくて生活できない、バンドが売れないといった試練はたくさんあるが、YOASOBIを始めたことが彼の中で一番の試練だった」と語っている。
彼は以前、バンド活動をしており、9年間バンド活動をしていたが、失敗してしまった経験を持っていた。バンドが成功していたら、YOASOBIをやっていなかったとも考えられるとAyaseは話している。
彼にとって、バンド活動が失敗したことで、無駄なプライドを捨てられたという経験があり、それがYOASOBIを始めるきっかけになったとも語っている。
「ラストリゾート」は、Ayase自身が精神的に追い詰められていたときに書かれた楽曲であり、「夜に駆ける」は自殺願望のある少女から少し距離を置いた視点で書かれた楽曲である。彼は、シリアスなテーマであればあるほど、曲調をキャッチーなものにし、グロテスクな表現は避けたいと考えている。
しかし、内包されたえぐみにはある種の美しさを感じるとも語っており、聴く人には、ダークなものを感じさせる表現に覆われた、ぞわっとするような感覚を楽しんでほしいとも語っている。
人気のアーティスト「Ayase」
「ラストリゾート」は、切なさと哀愁を帯びたメロディーと考察を掻き立てる歌詞で人気を博し、2019年4月にリリースされた後、YouTubeで1,200万回再生を突破した。最新曲「シネマ」は、2021年5月に発表され、500万回以上再生されている。
Ayaseは、ボーカロイド楽曲を自身で歌唱するセルフカバーにも定評があり、「幽霊東京」は1,600万回、「夜撫でるメノウ」も900万回再生を突破している。彼の楽曲は、聴く人の心に深く刻まれるような感情を表現することで、多くの人々の支持を集めている。
さまざまなアーティストへの楽曲提供!!
ボカロPのAyaseは、YOASOBIのコンポーザーとしてだけでなく、他の多くのアーティストにも楽曲を提供しています。彼が手掛けた楽曲には、LiSAとUruのコラボレーション曲「再会」、Hey! Say! JUMPの「千夜一夜」、森七菜の「深海」などがあります。
シンガー「iKura a.k.a 幾田りら」
2000年9月25日生まれの東京都出身のikuraは、音楽好きな両親のもとで育ちました。幼少期から音楽に親しんで育ち、自然と歌手を目指すようになりました。中学時代には路上ライブを始め、独自の音楽活動を展開していきました。
シンガーソングライター・幾田りらとして活動する一方で、YOASOBIのボーカルikuraとしても人気を集めています。さらに、アコースティック・セッション・ユニット「ぷらそにか」にも参加しています。
2019年11月16日には、セカンドミニアルバム『Jukebox』をリリースしました。また、Google PixelのCMで「(THEY LONG TO BE) Close to you」のカバー歌唱や、東京海上日動あんしん生命のCMでの歌唱なども務め、その美しい歌声が話題となっています。
「幾田りら」としても幅広く活動!
2022年は、上野樹里主演ドラマ『持続可能な恋ですか?』の主題歌「レンズ」を書き下ろし、また東京スカパラダイスオーケストラの楽曲「Free Free Free」への参加で話題を集めました。
YOASOBIのボーカル・ikuraとしても活躍する幾田りらの新曲「JUMP」が、2022年11月20日(日)に配信リリースされ、フジテレビ系テレビ番組「FIFAワールドカップ カタール2022」のテーマソングに決定しました。
幾田は実は3歳までアメリカ・シカゴで過ごした帰国子女で、父親の影響で音楽に親しんでいました。小学校6年生の頃には既に作詞作曲を手がけるようになり、その才能を発揮していました。
アニメ映画「竜とそばかすの姫」では声優も!
幾田りらさんはボーカルとして目覚ましい活躍を見せていますが、それだけではなく、2021年公開のアニメ映画『竜とそばかすの姫』では声優としても活動しています。彼女は主人公の親友、別役弘香の声を演じました。幾田さんの地声もとても可愛らしく、多くの視聴者から「地声も可愛すぎる!」と話題になりました。
【🟥第71回NHK紅白歌合戦出場決定🔥】
— YOASOBI (@YOASOBI_staff) December 23, 2020
たくさんのご期待の声、本当にありがとうございます。遅ればせながら、紅組の一員として参戦させていただきます。
いただいたエールを力に変え、初の生パフォーマンス、新人らしく精いっぱい臨みます。どうか見守っていただけたら嬉しいです。#YOASOBI紅白 pic.twitter.com/vm3qyHKkKA
YOASOBIの由来は「夜の顔」
YOASOBIというユニット名は、彼らがそれぞれのソロ活動を続ける中で、交差する部分がYOASOBIだという考えからきているようです。彼らはそれぞれのソロ活動を昼の顔と捉え、YOASOBIを夜の顔として位置づけています。この合流地点において、様々なチャレンジや試みができるという遊び心も込められているとのことです。
「小説を音楽にする」特徴的な制作スタイル
YOASOBIの最大の特徴は、まさに「小説を音楽にする」という独特のアプローチです。これまで多くの歌手やグループは、歌詞に世界観を込めることでストーリー性を表現してきましたが、YOASOBIの場合は先に小説が存在し、それを音楽に変換していくという独自の方法を採用しています。
このようなアプローチにより、小説のストーリーが基盤となって楽曲が作られ、さらにその楽曲をもとに映像が制作されます。このため、小説を先に読んだ人には歌詞や映像のディティールが鮮明に伝わりますし、逆に楽曲を先に聴いた人は、小説を読むことで曲の背景を深く理解することができます。
この物語と音楽が深く絡み合うことが、YOASOBIの大きな魅力となっており、多くのファンに支持されている理由の一つです。
原作小説から音楽が生まれる魅力について、Ayaseさんは、曲と小説の間を行き来しながら、それらの関連性やつながりを探る楽しみがあり、物語を多角的かつ立体的に楽しめると説明しています。また、没入度も高くなると感じています。
ikuraさんも、楽曲、ミュージックビデオ、小説などから物語を体験できることで、リスナーが作品に参加し、自分の解釈で余白を埋める楽しさがあると話しています。彼ら自身も、小説から音楽を作り、歌を乗せる過程で、それぞれの思いが加わり、濃密な作品ができると感じているようです。
仮音源は初音ミク!
シンガーソングライターであるikuraとのレコーディング方法は独特で、楽器を使わずにパソコンで音楽制作を行うAyaseさんは、パソコンの可能性が無限大であることを強調しています。彼はギターが弾けないものの、パソコンでギター音を作成できると説明しています。
Ayaseさんは自宅で、歌が入れば完成となる状態まで楽曲を作成し、その作業はノートパソコン一台で完結しています。また、ikuraに渡す仮音源ではボーカロイドの初音ミクを使用し、これによってメロディーを一番乗せやすい形で渡せていると説明しています。
ikuraも、初音ミクを使った音源は塗り絵の線だけが引かれた感じで、どのように仕上げるか自分で考えられる点が彼女にとってやりやすいと感じています。
「YOASOBI」誕生ストーリー
Ayaseとikuraによるこのユニットは、もともとソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する、小説とイラストを中心とした投稿サイト「monogatary.com」から誕生しました。
投稿サイト「monogatary.com」
「monogatary.com」は、2017年10月にスタートしたストーリーエンタテインメントプラットフォームで、日替わりのお題に合わせた小説をユーザーが投稿できるサービスです。
このサイトは、「魔法のiらんど」や「小説家になろう」などの他の小説投稿サイトとは異なり、投稿された作品を原作として、書籍化だけでなく、音楽、映画、アニメ、ゲームなどのさまざまな表現メディアでコンテンツ化することができます。
その最初の成功例が、小説『タナトスの誘惑』(星野舞夜)を原作とした楽曲「夜に駆ける」でブレイクしたYOASOBIというわけです。このプロジェクトは、monogatary.comのポテンシャルを示す大きな成果となりました。
YOASABIの発案者「屋代陽平」
『monogatary.com』は、ユーザーが日替わりのお題に合わせて小説を投稿するプラットフォームです。屋代陽平がこのサービスの企画を立ち上げ、運営でも中心的な役割を担っています。
きっかけは2014年、屋代陽平は当時所属していたソニー・ミュージックマーケティング(SMM)で新規プロジェクトの募集があった際、上司と共に「小説投稿サイト」を企画しました。
しかし、音楽マーケティングを主体とするSMMという会社にはビジネスモデルが合わず、企画はペンディングになりました。その後、2015年にソニーミュージックグループ全体で新規事業プログラムが立ち上がり、同じく「小説投稿サイト」を企画した上司から再び応募を勧められました。
この新規事業プログラムは現在「EnterLab.(エンタラボ)」という名前で続いており、そこで採用され、現在の事業化に至りました。この経緯が、『monogatary.com』の成り立ちとなっています。
小説を楽曲化するアーティストを作りたい
「モノコン2018」は、『monogatary.com』で行われたコンテストで、投稿された小説を基にした楽曲が作成されました。その楽曲がアニソンシンガーhalcaによって歌われたことが、一つのきっかけとなりました。これにより、小説投稿サイトから音楽への展開が始まり、さらなる可能性が広がったことが分かります。
YOASOBIのA&R「山本秀哉」
YOASOBI誕生の背後には、もう一人の重要な人物がいます。それは、屋代の同期で、ソニー・ミュージックレーベルズ第3レーベルグループエピックレコードジャパンの山本秀哉です。
屋代は、小説の楽曲化の企画を進めるにあたり、山本さんに一緒に取り組んでみないかと提案しました。現在、山本さんはYOASOBIのA&R(アーティスト&レパートリー)を務めており、ユニットの成功に大きく貢献しています。
二人で始めたプロジェクト!!!
2019年にソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平と山本秀哉は、「小説を音楽にする」ユニットを結成するために、小さなプロジェクトを静かにスタートしました。
屋代は、最初にこの話を持ちかけたのは2019年の1月だったと述べています。前年の「モノコン2018」で、募集した小説を楽曲化し、シンガーのhalcaが歌唱する企画を行っていましたが、これは単体の企画でした。そこで、次はこのコンセプトをもとに新しいユニットをゼロから作ろうと考えました。
山本は、「monogatary.com」の「モノコン2019」が面白い企画だと思ったものの、当初は具体的なビジョンがなく、どんなアーティストでどんな曲にするのかが決まっていなかったと語っています。しかし、楽曲化の動きが本格化し、まずは曲を作る人から探すことになりました。ボカロPの中で注目していたAyaseに声をかけることになり、これがYOASOBI結成のきっかけとなりました。ちなみに、Ayaseとのファーストコンタクトはインスタ(Instagram)のDMだったと話しています。
作曲家にボカロP「Ayase」が参加!
屋代陽平はたくさんの候補者の中から偶然Ayaseの『ラストリゾート』という曲を見つけ、その素晴らしさに惹かれ、山本秀哉にもリンクを送りました。
山本は、小説を音楽にする際、さまざまなジャンルの作品があるため、幅広い曲を作れる人が良いと考えました。Ayaseさんは『ラストリゾート』以外にも多彩な曲をアップしており、柔軟に対応してくれると思いました。
彼らが後日Ayaseに会い、企画を説明すると、Ayaseはすぐに「ぜひ、僕で良ければお願いします」と言ってくれて、彼らは嬉しかったです。
しかし、AyaseはインスタのDMでの連絡に驚きました。「なんだ、この怪しい誘いは?」と思ったという。TwitterのDMであれば良かったと笑っています。
最初に「小説を音楽にする」というコンセプトを聞いたとき、Ayaseは、「小説を楽曲にする、ありそうだけどないか」という感じで受け止めました。
彼自身がそれまで小説をあまり読まないタイプで、今まで読んだ小説の数も少なかったため、ソングライターとして原作が存在するというのは面白そうだと感じました。しかし、彼は「簡単そうだけど、実際はとても難しいだろう」とも考え、最初は挑戦的な取り組みだと捉えていました。
当時、声をかけてくれたスタッフもまだ具体的な計画が詰められていない状態でしたが、チームでどのように進めていくかを話し合ううちに、徐々にプロジェクトの輪郭が明確になっていったと述べています。
ボーカルに「ikura(幾田りら)」が参加!
コンポーザーが決まった後、次にボーカルを探すために、3人でグループLINEを作成し、さまざまな候補を検討しました。有名無名問わず、多くのシンガーのリンクをAyaseに送り、最終的にソニーミュージックのSD(新人開発・発掘セクション)で育成契約をしていた幾田りら(ikura)に目が止まりました。
ikuraは、2019年7月に東京海上日動あんしん生命のCMでスキマスイッチのヒット曲「全力少年」をカバーし、その歌声に注目が集まっていました。
当時のikuraは、「小説を音楽にするユニット」というコンセプトが最初はあまり想像できなかったと言いますが、AyaseがボカロPとして出していた曲を聴いて、彼が素晴らしい曲を書く人だと感じ、ぜひ一緒にやりたいと思ったそうです。
もともとシンガー・ソングライターとして活動していたikuraは、それとは別にYOASOBIのボーカルでもあるという二面性が面白いと感じました。
4人でプロジェクトをスタート……。その先には難関すぎる小説の楽曲化
4人が揃ったものの、屋代氏は「長期的なプランはなかったし、相性が悪かったらすぐに“解散”するつもりだった」と振り返ります。
そんな中、「夜に駆ける」の制作が本格化しました。しかし、星野舞夜の『タナトスの誘惑』が原作となるこの曲は、Ayaseいわく「その後にYOASOBIとして作ってきたものを含めても、一番時間がかかった」とのことです。
最初はテーマソングを作る予定でしたが、途中で原作小説を音楽で表現するべきだという考えに変わりました。原作の物語や核になる部分を分解して音楽として再構築する方法論にたどり着いたものの、試行錯誤が続きました。
結果として、ポップな雰囲気の中にぞっとする瞬間が内包されている作りになり、よりダークさが引き立つと判断されました。
曲作りについて山本は、「ユニット名が決まる前から曲は作り始めました。『タナトスの誘惑』を読んでもらって、暫定でこれをイメージしながらデモを作っていった。かなりやり直しをしてもらったりはしました」と語ります。
屋代はAyaseの才能を「思ったことを得意な形でアウトプットする回路が優れている人間だと思います」と評価しています。「小説を音楽にする」というコンセプトは、主題歌やテーマソングを作るだけではなく、小説の要素を咀嚼し、自分がそのテーマと登場人物で音楽を作るというものでした。
ikuraはあるインタビューで、「小説を音楽に組み替えてアウトプットする」と語っています。彼女は物語の主人公の感情になりきることを試みました。
4人はグループLINEを使って、屋代氏が「思考停止するくらい」と表現するほど、何時間にもわたって議論を交わしました。約3カ月かけて原作の星野舞夜作「タナトスの誘惑」をもとに歌詞を作り上げていきました。
デビュー曲「夜に駆ける」が誕生!!
4人は、無我夢中で楽曲制作を行い、ついに2019年11月16日にデビューシングル「夜に駆ける」のミュージックビデオをYouTubeで公開しました。
この曲は「タナトスの誘惑」という物語がベースで、飛び降り自殺を図る少女と彼女に一目惚れする男性の物語が描かれています。このビデオは、監督藍にいなによって制作され、再生回数は現在2500万回を突破しています。
アニメタッチと写実的な表現の間の抽象的な映像が、彼らが求める新鮮さと小説のイメージを表現しています。彼らはデビューシングルのヒットには自信があったものの、これほど多くの人に届くとは予想していませんでした。タイミングや状況がうまく重なった結果だと考えています。
その後も、彼らは「群青」「怪物」といったヒット曲をリリースし、人気を確立しています。4人の関係性は変わらず、引き続きグループ内でアイデアや構想を共有し、小説を音楽にするというコンセプトで作品を制作しています。
屋代は、毎月1000冊以上の小説を読み、次のヒット曲のインスピレーションを探しています。
YOASOBIは「夜好性」のアイコン的存在!
YOASOBIは、バンド「ずっと真夜中でいいのに。」や音楽ユニット「ヨルシカ」と共に、多くのリスナーから好まれています。これら3組のユニットは、すべての名前に「夜」という言葉が含まれていることから、「夜好性」と呼ばれることがあります。夜好性のリスナーは、夜をテーマにした音楽や、夜の雰囲気を楽しむことを好む傾向があります。YOASOBIは、この夜好性の中でも特に、そのアイコン的存在となっています。彼らの音楽は、独特の世界観とともに、多くの人々に夜の魅力を伝えているのです。
未曾有のコロナ禍で人気を集めたアーティスト!「夜好性」 ── 初音ミクとめぐるJ-POPとボーカロイドの歴史⑦