ハンドパンは、鉄板を溶接して作られた打楽器で、リズム、メロディー、ハーモニーの三大要素を兼ね備え、演奏者が自由自在に表現することができます。また、製造には高度な技術と熟練した職人の手作業が必要であり、製造メーカーが少なく入手が困難な状況にあります。
この記事では、ハンドパンの奏法や製造方法、世界中での人気や日本での普及状況について詳しく解説しています。また、スティールパンとの関連性や、PANArt社によって製造されたHangの歴史についても触れています。ハンドパンに興味のある方や、音楽好きな方は必見の内容です。
Hand Pan
ハンドパン
ハンドパンは、鉄板を溶接して作られた打楽器で、直径45〜60cmほどの大きな円盤のような形をしています。
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まさにオールインワン!音色を奏でる打楽器
中央に突起があり、そこに沿って楽器の表面に多数の凹みを作っています。演奏者は手で演奏し、柔らかく豊かな音色が特徴です。ハンドパンは、世界中で人気があり、瞑想やヨガなどのリラックスした環境での演奏から、現代音楽やポップスなどのバンド演奏まで、さまざまなシーンで使われています。
その音は全てプレイヤー次第!
ハンドパンは、リズム、メロディー、ハーモニーの音楽の三大要素を兼ね備えているため、演奏者はこれらの要素を自由自在に使い、独特の音楽世界を表現することができます。また、ハンドパンの奏法は、厳密な決まりがないため、演奏者によって異なる奏法が生まれ、音色が多彩になります。
加えて、ハンドパンメーカーによっても音色が異なるため、同じ曲でも演奏者や楽器によって全く別な音楽世界が生まれることがあります。これが、ハンドパンの魅力のひとつでもあります。
【特徴】音階が固定されている
ハンドパンは、中が空洞であるため、共鳴によって独特の伸びと倍音が生じます。ハンドパンの最も低い音は、中央のドーム状の突起部分(Ding)であり、これは一般的にベース音として使用されます。
ハンドパンの周囲には、多数の凹みがあり、これらの凹みを叩くことで、異なる高さの音を奏でることができます。ハンドパンは、その不思議な音色から、多くの人々に愛されています。
複数のハンドパンを使わないといけないケースも…
一般的に12個の音を奏でることができる音階が固定されており、演奏者はその音階内で演奏を行います。ハンドパンには、表面にある凹みの数が異なるものがあり、通常9個や13個、14個のものがあります。凹みの数が多いほど、音域が広がるため、複数のハンドパンを使い分けることで、より豊かな音楽表現が可能となります。
世界中で増え続けるハンドパン演奏者
ハンドパンは、世界中で人気が高まっており、プレイヤー数は増加し続けています。現在、世界で約25,000人〜35,000人のプレイヤーが存在し、所有者のみを含めると約50,000人〜70,000人いるとされています。日本では、ハンドパンの普及が比較的新しいため、おおよそのプレイヤー数は70〜100人以下と言われています。所有者を含めると、約300人と見積もられています。しかし、日本でもハンドパンの人気は高まっており、今後も増加することが期待されています。
日本ではたった1社だけが製造!「SONOBE」
ハンドパンは手作りによる作製が必要であり、倍音の仕組みを理解していなければ作ることができません。
ハンドパンの製造には、製造メーカーによって異なる方法がありますが、基本的には金属板をお盆型に加工し、その後、凹みを作って音程を調整していきます。一般的に、ハンドパンの周囲にある凹みをTonefield(トーンフィールド)と呼び、真ん中にある突起部分をDing(ディング)と呼びます。
これらの凹みと突起部分の形状や大きさ、厚み、材質などによって、音色が変わります。ハンドパンの製造には、高度な技術と熟練した職人の手作業が欠かせず、多くのメーカーが手作業で行っています。
そのため、製造メーカーが少なく、入手が困難な状況にあります。日本国内でも、ハンドパンの製造メーカーは極めて限られており、国内で製造されたハンドパンを入手することは非常に困難で、国内で唯一ハンドパンを製造しているメーカーは、東京都大田区にある『SONOBE』。
History of Hand Pan
ルーツはスティールパン!?「ハンドパンの歴史」
ハンドパンのルーツをたどると、スティールパンに行き着きます。
スティールパンは、トリニダード・トバゴ共和国で、ドラム缶を元に作られた楽器で、1930年代から1940年代にかけて、奴隷制度の影響を受けた社会的背景から生まれました。スティールパンは、その後、世界中に広がっていきました。
スイスで初めてスティールパンが制作される
スティールパンはヨーロッパでもヒット。1965年には、スイスの音楽家が演奏するため、スイスで初めてのスチールパンが作られました。
当時、スティールパン演奏者として知られていたのが、スイスのFelix Rohner (フェリックス・ローナー)です。
彼は、トリニダード・トバゴのスティールパンに魅了され、スイスでスティールパンの演奏活動を始めました。その後、スチールパンの製作にも取り組み始め、1980年代には、独自の製法でスティールパンの製作を始め、1990年には「PanArt」という楽器会社を設立しました。
インドの伝統的な打楽器「ガダム」と融合!「HANG」の誕生
1999年に、世界中を回っていた音楽家であり、スイス人パーカッショニストのレト・ウェーバーが、PANArtの作業場を訪れた際、スティールパンと組みあわえて、ガタムように手で演奏できる新しい楽器のアイデアを思いつきました。
ガタムは、南インドのカルナータカ地方の伝統的な壺型の打楽器で、粘土を素材として作られ、広く口が細い壺状をしている。手で指や手のひらで叩くことで音を出し、クラシック音楽や民俗音楽で広く使われ、重低音から高音まで幅広い音域を持つ。
そして、2001年に最初のハンドパン「ハング(Hang)」が誕生しました。ハングという名前は、スイス・ベルン地方の方言で「手」を意味する言葉に由来しています。また、PANArt社がハングのデザインや製造に関する知的財産権を保有しており、商標登録された名称である「Hang」はPANArt社の登録商標となっています。
職人の手作業なため需要が追いつかず出回らなかった
ハングの製造や販売は当初、PANArt社が小規模な工房で手作りで行っていたため、生産量は非常に限られており、需要に追いつかない状況が長く続いていました。また、ハングの製造プロセスは非常に緻密で、職人による手作業が中心であるため、製造には時間と手間がかかります。そのため、ハングを手に入れるためには、PANArt社の工房を訪れて直接購入するか、中古市場で手に入れることが一般的でした。
類似品?が続々と登場!
2006年に放送されたPANArtに関するテレビ取材が、Hangの製法の一部を明らかにしたことで、Hangに似た楽器が世界中で模倣されるようになりました。この取材は、特にインターネットを通じて広く知られるようになりました。その後、多くの楽器メーカーが、Hangに類似した楽器を製造し始めました。
2007年秋、アメリカのPantheon Steel®社は、Hangの代替品としてのHaloをウェブ上で発表しました。Haloは、PANArtと同じく、鋼鉄を使用した打楽器で、軽いタッチで演奏することができます。Haloは、PANArtのHangと同様に、独自の音色を持ち、世界中の多くのミュージシャンによって演奏されています。
初期の楽器「Hang」が製造停止
PANArtは、2013年にHangの製造を停止しました。PANArtは、Hangが総合的な芸術作品であるという哲学に基づき、製造数を制限し、ハンドパンに対する深い敬意を持っていました。しかし、Hangが人気を集めるにつれて、製品に対する需要が高まり、PANArtは製造を続けることが困難になり製造を止めることを決定しました。現在、Hangは非常に希少な楽器となっており、価格が高騰する傾向にあります。
それは次第に「ハンドパン」と言われるようになった。
PANArt社が商標を取得していたため、「ハング(Hang)」という名称は他社が使用することができませんでした。そのため、メーカーによって「ハングドラム」「パンタム」「パンドラム」など、様々な名称で呼ばれるようになりました。
しかし、次第に「ハンドパン」という名称が一般的になってきました。この名称は、Hangに似た楽器が手で演奏されることから、Hand(手)とPAN(PANArtに由来する)を組み合わせたものです。
Afroton®のCaisa、BellArt®のBells、Pantheon Steel®のHalo、Metal Sounds®のSpacedrumは、最初期のハンドパンのメーカーの代表的なものとして挙げられます。
これらのメーカーはの楽器は、PANArt社よりも価格が安く、入手が容易であることから、多くの人々によって演奏されるようになりました。
ハンドパンが正式に定義
2009年にはフォーラムサイトhandpan.orgが現れ、ハンドパンという名称がその定義とともに定着していきました。このサイトは、ハンドパンの演奏技術や製造方法、イベント情報などを共有する場として、ハンドパン愛好家やメーカーの間で広く知られるようになりました。
handpan.orgでは、ハンドパンとは、1つまたは複数の鋼鉄の鉄板を組み合わせた楽器であり、手で演奏されることが特徴であると定義されています。また、ハンドパンの音色や演奏感についての情報交換や、ハンドパン関連のイベント情報なども掲載され、ハンドパンコミュニティの発展に大きな役割を果たしました。
そして世界へ!
現在、ハンドパンは世界中で注目を集め、その音に魅了された人が多く存在します。近年では、ハンドパンの製作者、プレイヤー、所有者の数が急速に増加しているとされています。2019年の調査によると、世界中に約150のハンドパン製作会社が存在し、個人製作者も約250から300社いると言われています。
このように、ハンドパンの人気は世界的に広がっており、多くの人々が演奏や製作に興味を持っています。ハンドパンは、音楽性だけでなく、瞑想やリラックスなど、様々な用途にも使われるようになっています。今後も、さらなる普及が期待される楽器の一つです。