音楽界に革命をもたらしたジャンルの一つであるチップチューン。そのルーツを辿ると、ある一人の才能あふれる音楽家にたどり着くことになるでしょう。彼の名前は、hallyこと田中治久。
この記事では、日本のチップチューンの第一人者である田中治久(hally)について紹介しています。彼は古いパソコンやゲーム機の音源を利用して作られる音楽ジャンルであるチップチューンにおいて、作曲家、主宰者、ライターなど多岐にわたって活躍してきました。また、彼が主宰するレーベルやサイトによって、チップチューンの普及や新たなアーティストの発掘・育成にも貢献しています。
今回は、この素晴らしい音楽家に焦点を当て、彼がチップチューン界にどのように影響を与えたのかを探っていきましょう。
Haruhisa “Hally” Tanaka
田中治久(hally)
チップチューンは、古いパソコンやゲーム機の音源を利用して作成された音楽ジャンルで、8ビットや16ビットのサウンドチップを用いた独特のサウンドが特徴です。このジャンルは、ビデオゲームの黎明期から存在し、その後の音楽シーンにも大きな影響を与えました。
田中治久(hally)の活動
田中治久(hally)は、日本におけるチップチューンの第一人者として知られています。彼は1980年代後半から活動を始め、ビデオゲームの音楽制作を中心に数々の名作ゲームのBGMを手がけてきました。
作編曲家として様々なゲームや音楽作品にチップチューン楽曲を提供しています。彼の才能は幅広く認められており、その作品は多くのファンから愛されています。彼の楽曲は、チップチューンの独特な魅力を体現しており、ジャンルの発展に大きく寄与しています。
ライブ活動も精力的に行っており、チップチューンのパフォーマンスを通じてファンと繋がることを楽しんでいます。彼のライブは、観客にとって独特のエネルギーと共感を与えるものであり、チップチューンの魅力をより広く伝える手段となっています。
日本で初のネットレーベル「カミシモレコーズ」
田中治久(hally)は、1990年代から国内初のネットレーベル「カミシモレコーズ」を主宰しています。このレーベルは、チップチューンやエレクトロニカなどの音楽ジャンルに特化したインディペンデントなレーベルです。
カミシモレコーズはネットを通じて音楽を無料で配信することにより、より多くの人々にチップチューンの魅力を伝えることに成功しました。また、新進気鋭のアーティストやクリエイターたちにチャンスを提供し、彼らの才能を発掘・育成する役割も果たしています。
チップチューンを広めるため!個人サイト「VORC」
2001年にライター活動を開始した田中治久(hally)は、個人サイト「VORC」をオープンしました。
VORCは、チップチューンの普及に大きく貢献し、多くのファンやアーティストに影響を与えました。このサイトでは、チップチューンに関する最新情報や作品紹介、インタビューやイベント情報などを提供しており、ジャンルの発展と普及に一役買っています。また、VORCは国内外のチップチューンアーティストとの交流の場ともなっており、シーンの発展に寄与しています。
「VORC Records」からTM NETWORKのトリビュート・アルバム
「8-BIT PROPHET – TM Network Tribute Generated by Chiptune + Vocaloid」は、チップチューンとボーカロイドを組み合わせた、TM NETWORKのトリビュートアルバムです。このアルバムは、8-BITサウンド専門のレーベル、VORC Recordsからリリースされました。
このアルバムでは、チップチューンのアーティストたちが、TM NETWORKの楽曲を8ビット音源で再構築し、ボーカロイドが歌唱を担当しています。チップチューンとボーカロイドという独特な組み合わせにより、TM NETWORKの楽曲が新たな魅力を引き出されています。
「8-BIT PROPHET」は、チップチューンとボーカロイドの融合という斬新な試みとして、音楽ファンやTM NETWORKファンから注目されました。また、アルバムの発表は、チップチューンやボーカロイドといった異なる音楽ジャンルの可能性を広げ、他のアーティストたちにも影響を与えたとされています。
ゲームのルーツを深掘り!ブログ「classic 8-bit/16-bit topics」
2004年頃から、田中治久(hally)はゲーム音楽のルーツ研究だけでなく、ゲームそのもののルーツ研究にも着手しました。彼はブログ「classic 8-bit/16-bit topics」で、アタリショック研究や近代ゲーム発展史など、未踏の領域に関する数々の先駆的な発表を行いました。
アタリショックとは
アタリショックは、1980年代初頭にアメリカのビデオゲーム業界で発生した大規模な経済的な崩壊のことを指します。1982年から1985年にかけて、ビデオゲーム業界は急激な衰退を経験し、その影響は世界中のゲーム業界にも波及しました。アタリショックの名前は、当時の業界をリードしていたアメリカのゲーム会社「アタリ」に由来しています。
アタリショックの原因
アタリショックの原因はいくつかありますが、主な要因として以下のものが挙げられます。
- 市場の飽和:1980年代初頭、ビデオゲーム市場は急激な成長を遂げており、多くのメーカーが参入しました。しかし、市場の飽和によって競争が激化し、消費者の需要に見合わないソフトが大量に出回りました。
- 品質の低下:市場競争の激化により、多くのメーカーは開発期間や予算を削減して開発を急ぎました。その結果、品質の低いゲームソフトが市場に溢れ、消費者の信頼を失いました。
- 家庭用ゲーム機の台頭:1980年代初頭、家庭用ゲーム機が普及し始め、アーケードゲームの人気が低下しました。家庭用ゲーム機は、家庭で手軽にゲームが楽しめることから消費者の関心を集めました。
アタリショックの影響
アタリショックの影響は、ゲーム業界全体に及びました。多くのゲームメーカーや開発会社が倒産し、アタリ自体も売却されることになりました。しかし、1985年に任天堂がファミリーコンピュータ(NES)をアメリカで発売すると、業界は徐々に回復し始めました。アタリショックは、ゲーム業界における品質管理の重要性や市場戦略の見直しを教訓として、後の業界発展に寄与しました。
田中治久(hally)の研究は、このような歴史的な出来事を詳細に調査し、ゲーム業界の発展や変遷を理解するための貴重な情報を提供しています。
【EGG MUSIC】ゲーム音楽専門配信サイト
2006年から2009年にかけて、田中治久(hally)は現在世界唯一のゲーム音楽専門配信サイト「EGG MUSIC」をプロデュースしました。
EGG MUSICは、ゲーム音楽の歴史を保存し、後世に伝えることを目的としたサイトで、6000曲以上のゲーム音源が配信されており、その中には懐かしのファミコン音楽や、幻のアーケードゲーム音楽など、レアな音源も含まれています。また、サイトでは、作曲家のインタビューや、音楽制作に関する舞台裏の情報も提供されています。
EGG MUSICは、ゲーム音楽ファンにとって貴重なリソースとなり、ゲーム音楽の文化を後世に伝えるために重要な役割を果たしました。また、このサイトの存在は、ゲーム音楽に対する関心を高め、ゲーム音楽の普及に一役買っています。田中治久(hally)のEGG MUSICに対する情熱は、ゲーム音楽ファンの心をつかみ、このジャンルの魅力を広めることに成功しました。
PSYVARIAR “THE MIX”に参加
PSYVARIAR “THE MIX”は、アーケードゲーム「PSYVARIAR」のサウンドトラックをリミックスしたアルバムです。田中治久(hally)は、このアルバムに参加し、独自のチップチューンスタイルで「PSYVARIAR」の楽曲をリミックスしました。
PSYVARIAR “THE MIX”への参加は、田中治久(hally)にとって、ゲーム音楽のリミックスやアレンジにおいてもその才能を発揮する機会となりました。彼のリミックスは、チップチューンの魅力を広めるだけでなく、ゲーム音楽全般に対する興味や注目を高める役割を果たしました。また、アルバムへの参加は、彼のアーティストとしての地位をより一層確立させることにもつながりました。
田中治久が見つけた音楽的成長
この頃、田中治久(hally)が1990年代に運営していたカミシモ・レコーズが10年ほど前に活動を停止し、彼自身はその時期を黒歴史と捉えていました。
今回の楽曲と向き合う中で、田中治久は「まだ何かやり残したことがあるような」という気持ちが強まり、再びカミシモ・スタイルで音楽制作に取り組むことを決意しました。結果として、彼が作り上げたのは「なんちゃってジャズハウス」と称するものでしたが、音の深みという点では、当時では達成できなかった境地に到達できたと感じています。
この経験は、田中治久にとって自身の音楽的成長や過去の活動を見つめ直すきっかけとなりました。
情報サイト「CHIP UNION」立ち上げに協力
2012年から、田中治久(hally)はチップチューンの情報サイト「CHIP UNION」の創設に協力しました。
チップチューン・8-bitカルチャーのポータルサイト「CHIP UNION」
「CHIP UNION(チップ・ユニオン)」は、「より多くの人々にチップチューンの面白さを知ってもらいたい」という想いを元に発足されたポータルサイトです。新しい文化として大きな可能性を秘める音楽ジャンル「チップチューン」に関する話題を中心に、他のサイトではまだ取り上げられていない良質な音楽、アート、プロジェクトなどを発掘し、発信しています。また、シーンの発展を目指して様々な取り組みを行っています。
CHIP UNIONでは以下のような活動を行っています。
- チップチューンのアーティスト紹介
- イベント情報の提供
- 新譜リリース情報の掲載
- チップチューンや8-bitカルチャーに関連するアートやプロジェクトの紹介
CHIP UNIONは、チップチューン愛好家やアーティストたちが情報を共有し、交流する場として機能しています。このポータルサイトは、チップチューンの普及に一役買い、ジャンルの魅力をより多くの人々に伝えることに貢献しています。さらに、チップチューンコミュニティの発展を促進し、新たな才能やプロジェクトを発掘・支援する役割も担っています。
『チップチューンのすべて』(誠文堂新光社)
2017年に、田中治久(hally)はチップチューンに関する活動の集大成ともいえる書籍『チップチューンのすべて』(誠文堂新光社)を上梓しました。
この本は、チップチューンの歴史やその魅力、制作方法、アーティストや作品など、幅広い内容を網羅しています。さらに、田中治久自身の知見や経験をもとにした解説やエピソードが豊富に盛り込まれており、チップチューンファンにとっては貴重な一冊となっています。
書籍の意義と影響
『チップチューンのすべて』は、チップチューン界のパイオニアである田中治久の手によって書かれたことで、信頼性と深みのある情報が提供されています。また、チップチューンに興味を持つ人や音楽制作に関心のある人に対して、ジャンルへの理解を深めることができる良質な教材としても機能しています。
この書籍は、チップチューンの魅力をより多くの人々に伝えることに貢献し、ジャンルの普及や発展に繋がっています。また、田中治久の活動や経験を紹介することで、次世代のチップチューンアーティストにとっても刺激となる一冊となっています。
5/11新刊『チップチューンのすべて All About Chiptune』誠文堂新光社(978-4-416-61621-5)田中治久(hally)著 入荷◆「話題書」コーナーにて展開中! チップチューンをゲーム音楽史の観点から再評価、日本のビデオゲームカルチャーの変遷を振り返る pic.twitter.com/jcMDpZypzu
— 書泉ブックタワーコンピュータ書【短縮営業中_11:00~20:00】 (@shosen_bt_pc) May 11, 2017
5/8~発売予定『チップチューンのすべて』の見本誌が到着。思っていた以上の厚みと重みに自分でも驚いてしまいました。執筆にご協力いただいた皆様のお力添えあってこそです。感謝。 pic.twitter.com/8T74tKKf7x
— hally (VORC) (@hallyvorc) May 3, 2017
【書籍】「ゲーム音楽ディスクガイド」1&2
『ゲーム音楽ディスクガイド』1と2は、40数年にわたるゲーム音楽の歴史や作品を深く掘り下げた2冊の書籍です。田中”hally”治久が執筆者の一人であり、全体監修も務めています。これらの書籍は、ゲーム音楽ファンにとっては貴重な情報源となっています。
【『ゲーム音楽ディスクガイド1』概要】
『ゲーム音楽ディスクガイド Diggin’ In The Discs』は、ゲーム音楽の歴史やその魅力、制作方法、アーティストや作品など、幅広い内容を網羅しています。数々のゲーム音楽の歴史やアーティスト、作品について詳しく解説されており、読者に対してその全体像を理解しやすく提供しています。
【『ゲーム音楽ディスクガイド2』概要】
『ゲーム音楽ディスクガイド2 Diggin’ Beyond The Discs』は、『ゲーム音楽ディスクガイド』の続編として、さらに多くのゲーム音楽に関する情報や作品を紹介しています。この書籍では、新たに発掘された情報や作品についても取り上げられており、読者がゲーム音楽の歴史をさらに深く探求することができます。
シリーズの意義と影響
『ゲーム音楽ディスクガイド』1と2は、ゲーム音楽の歴史や裾野を俯瞰し、整理することで、読者に対してその全体像を理解しやすく提供しています。また、数々の作品やアーティストの情報が掲載されていることで、ゲーム音楽の研究や評価に役立つ資料としても機能しています。このシリーズは、ゲーム音楽の魅力をより多くの人々に伝えることに貢献し、ジャンルの普及や発展に繋がっています。
取材終わり、次の取材まで待ち時間3時間なので、頂いた本をチラ読み。ゲーム音楽ディスクガイド。ゲーム音楽の本を出すんですと言われて、届いた実物はかなりの情報量。ゲームのサントラ盤をこんなにまとめた本はないと思う。よく調べたな〜と? pic.twitter.com/RvuNcLbZEW
— Koji Nakamura ナカコー (@iLLTTER) June 4, 2019
ゲーム音楽にフォーカスした新連載が今月からスタート!hally氏を筆頭に書籍『ゲーム音楽ディスクガイド』のライター陣が参加https://t.co/ztMPMy1dFT pic.twitter.com/o6UiOx9Lks
— IGN Japan (@IGNJapan) February 9, 2021
Red BullのDiggin’ In The Cartsに参加
Red Bullのプロジェクト「Diggin’ In The Carts」は、世界中のゲーム音楽の歴史や文化に焦点を当てたプロジェクトです。このプロジェクトでは、ウェブシリーズ、ラジオ番組、コンサートイベント、そしてリリースされるアルバムなど、様々なメディアを通じてゲーム音楽を紹介しています。
田中治久(hally)もこのプロジェクトに参加しており、彼の豊富な知識と経験がゲーム音楽の研究や紹介に活かされています。彼の参加によって、日本のチップチューンやゲーム音楽の文化がより多くの人々に伝わることにつながり、ジャンルの普及や発展に繋がっています。
Diggin in the Cartsを軸に「電子音楽としての日本初期ゲーム音楽」について考察したFACTの記事(英語)。取材や助言などで僕も少し協力しております。 https://t.co/d7aigXo2om
— hally (VORC) (@hallyvorc) June 4, 2018
【イベント】DIGGIN’ IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭
「DIGGIN’ IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭」は、Red Bullがプロデュースするゲーム音楽のライブイベントで、ワールドツアーの一部として開催されました。このイベントでは、ゲーム音楽の巨匠たちが一堂に会し、ライブセットを披露しました。
デトロイトテクノやシカゴハウスに影響を受けた『ベア・ナックル』シリーズのサウンドの生みの親である古代祐三と川島基宏がスペシャルユニットとして出演しました。また、東京公演には、『MOTHER1』『MOTHER2』『メトロイド』『バルーンファイト』『スーパーマリオランド』などの音楽で知られるChip Tanaka、ゲームボーイ・トラックメイカーのQuarta 330、カルト的人気を持つゲーム「LSD」を手がけたOsamu Satoが登場しました。
そして、チップチューンの第一人者である田中治久(hally)も、ゲーム音楽界を代表する仲間たちと共にライブイベントに出演しました。このようなイベントを通じて、ゲーム音楽の魅力がより広く伝わり、ファンや新しいアーティストたちにインスピレーションを与えました。
チップチューンの普及や発展に尽力し、次世代へ文化を伝える情熱と才能
このように田中治久(hally)は、チップチューン界のパイオニアとして、その歴史や文化を次世代に伝えるために尽力してきました。彼の情熱と才能は、チップチューンの普及や発展に大きな影響を与え、多くの人々にその魅力を広めることに成功しました。
彼は、様々なプロジェクトやイベントに参加することで、ゲーム音楽やチップチューンの文化を国内外に紹介しています。これからも、田中治久(hally)の活動がチップチューン界に大きな影響を与え続け、新たなファンやアーティストたちにインスピレーションを与えることでしょう。彼の活動に注目し、チップチューンの世界がどのように進化していくのか、楽しみに待ちましょう。