エレクトリックピアノの代名詞的存在であるフェンダー・ローズ。その起源は、第二次世界大戦中の戦場で負傷した兵士たちを癒すために開発された音楽療法用の楽器です。その優しく癒しの効果がある音色は、今でも多くのミュージシャンや音楽愛好家に愛されています。
デジタルシンセサイザーの台頭により、1980年代にはRhodesの生産台数は減少していましたが、唯一無二のサウンドは今でも世界中のジャンルで活躍しています。
また、Rhodesの音色を忠実に再現するためのサンプリング音源やプラグインシンセサイザーも多数リリースされ、コレクターや愛好家の間でも人気があります。今回は、フェンダー・ローズの魅力について、その歴史と現在に至るまでの変遷を紹介します。
Fender Rhodes
「フェンダー・ローズ」
フェンダーローズは1970年代には特にジャズやファンク、ソウルミュージックなどのジャンルで広く使われました。その温かみがあるウォームなトーンと、柔らかくリラックスした雰囲気が、多くの人々に「癒やしのサウンド」として知られています。
老舗ギターメーカー「Fender」のピアノ
「フェンダー・ローズ」は、フェンダー社が製造・販売する電子ピアノの代表機種の一つです。この楽器は、フェンダー社がギターで培ってきた技術やデザインを取り入れ、鍵盤楽器に応用したもので、非常に高品質な音色を持つことが特徴です。
「フェンダー・ローズ」の名前は、フェンダー社のギターにも使われている「ストラトキャスター(Stratocaster)」や「テレキャスター(Telecaster)」などのモデル名に由来していると考えられます。
この名前が示す通り、「フェンダー・ローズ」は、ギターのようなスタイリッシュなデザインを持ち、モダンな音色を生み出すことができます。そのため、多くのミュージシャンに愛され、エレクトリック・ピアノの代表的な機種の一つとして知られています。
THE エレクトリックピアノ
エレクトリックピアノの代名詞的存在であり、多くの音楽家に愛されています。
現代のシンセサイザーや音源には、Rhodes/ローズピアノの音色を模したものが多数収録されており、広く使われています。また、Rhodes/ローズピアノの本物を聴く機会もあります。古くから愛され続けるRhodes/ローズピアノは、現代の音楽シーンでも根強い人気を持っています。
その音色は様々な有名アーティストに愛された
クリーミーなオルガンとチラチラと揺れるチャイムの中間のような電気音響サウンドは、多くのアーティストに愛され、長い時間をかけてユビキタスな存在になりました。
主にハモンドオルガンやローズピアノを用いた、ジャズやロックの音楽シーンで使用されてきました。特に、Bill Evans、Herbie Hancock、Chick Corea、Ray Manzarek(The Doors)、Donald Fagen(Steely Dan)、John Paul Jones(Led Zeppelin)など、数多くの著名なアーティストたちに起用され、そのサウンドは多くのファンに親しまれました。
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映画「ブルース・ブラザース 」では象徴的なシーンで登場
映画「ブルース・ブラザース」の中で、レイ・チャールズがレイ楽器店の主人として登場し、ローズ・ピアノを演奏するシーンがあります。このシーンは、レイ・チャールズ自身がローズ・ピアノを愛用していたことに由来しており、映画の中でもその音色がフィーチャーされました。レイ・チャールズは、ローズ・ピアノの音色が自分の音楽スタイルにぴったりだと感じていたようです。そのため、彼が演奏する音楽の中でも、ローズ・ピアノの音色が頻繁に登場することがあります。
Fender Rhodes History
「戦場の兵士を癒すため……」フェンダーローズ誕生秘話
フェンダー・ローズは、ハロルド・ローズ博士が第2次世界大戦中に戦場の兵士を癒すために発明したエレクトリックピアノが始まりだ。
時代は第二次世界大戦!「ハロルド・ローズ」がアメリカ陸軍に入隊
ハロルド・ローズ(Harold Rhodes)は、1910年生まれのアメリカのピアニスト、発明家、教育者です。
ローズは、若い頃からピアノに熱心に取り組んでおり、地元の教師として働いた後、第二次世界大戦中にアメリカ陸軍航空隊に入隊しました。
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野戦病院で見たのは傷つき疲弊した兵士の姿
「もし彼らに音楽を教えることができたら、痛みを少しでも忘れることができるかもしれないし、怪我痛みを一時的にでも忘れる事ができるかもしれない」
彼は、野戦病院で足を失ったり、酷く傷ついた兵士たちを多く目にし、彼らに音楽を教えることで、回復を促すことができるのではないかと考えました。
「ベッドでも弾けるように」コンパクトピアノを開発!!
ハロルド・ローズは、音楽療法用の楽器としてエレクトリックピアノを開発しました。ローズが最初に開発したエレクトリックピアノは、航空機の部品を使用、アルミニウム製の鍵盤を備えた軽量で頑丈な楽器であり、負傷した兵士たちがベッドの上で演奏することができるように設計されていました。その音色は優しく、癒しの効果があるとされています。
「The Xylette」
「The Xylette」は、ハロルド・ローズが開発した楽器で、鉄琴に似たキーボードを備えています。この楽器は、子供たちがピアノの演奏を学ぶのに適したものとして、また音楽療法の分野で使用されることを目的として設計されました。
米軍は、負傷兵がベッドサイドで弾けるコンパクトなピアノとして「The Xylette」を採用し、傷病兵のために12,000台以上が生産されたとされています。
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戦後はピアノを使ってビジネスをスタート!
ハロルド・ローズは、戦後に軍を退役した後、次の人生のステップを考える必要がありました。そこで、自分が開発した小型のピアノを学校に販売することで生計を立てることを思いつき、ローズ・ピアノ・コーポレーションを設立し、エレクトリックピアノの製造に取り組みました。
Fender Rhodesの原型「Rhodes Pre-Piano」発表
ハロルド・ローズは、1946年のNAMMショーにエレクトリックピアノのプロトタイプを出展したことが知られています。この楽器は、「Rhodes Pre-Piano」と呼ばれ、3オクターブの鍵盤が装備され、トーンバーをハンマーで叩くという、後に発売される名機Fender Rhodesの基本となる構造を備えていました。
学校教育のためにピアノと椅子を一体化
彼は、金属製のパイプアングルのスタンドに電気ピアノと椅子(ベンチ)を一体化して、学校に販売。
この一体型のスタンドには、真空管のアンプとスピーカーが内蔵されていたため、演奏者はコードをつなぐだけで、すぐに演奏を始めることができました。また、スタンドには楽譜台も付属しており、学校の音楽教室において、簡単に設置・移動ができるようになっていました。これは後のRhodesピアノの原型になった。
この販売戦略は大成功を収め、多くの学校でローズピアノが導入されることとなり、音楽教育の分野で大きな影響力を持つようになりました。
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名機「Fender Rhodes」誕生!!
ハロルド・ローズは、エレキギターの製造で有名なFender社の創業者であるLeo Fenderと協力し、1959年にFender Rhodesを発表しました。
Leo Fenderは、エレクトリックギターの分野で大きな成功を収めていたことから、ローズとの協力により、Fender Rhodesの開発に取り組みました。この楽器は、当時のエレクトリックピアノの中でも特に優れたサウンドとプレイアビリティを備えており、多くのミュージシャンたちから高い評価を得ることになりました。
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CBS社に買収され、名前を「Rhodes」に変更
1965年にCBS InstrumentsがFenderを買収、それでもハロルド・ローズはコンサルタントとして残り、Fender Rhodesの開発に尽力しました。初期のモデルは、「Fender Rhodes」というブランド名で販売されていましたが、フェンダー社がCBSに買収された後、ブランド名は「Rhodes」となりました。
余談だが、日本では初期には「ローデス」とも呼ばれていましたが、現在では「ローズ」で統一されています。
CBS社が引き継ぎ一気に世の中に広まっていった!!
1965年にCBS社がFender社を買収したことで、Fender Rhodesの製造もCBS社に引き継がれました。CBS社は、Rhodes Pianoの製造・販売を拡大し、ポップミュージックやロックミュージックでの人気も高まることとなりました。
特に、1970年代に入ると、Fender Rhodesのサウンドは多くのロックやジャズ・ミュージシャンたちに取り入れられ、その音色が多くの曲に使用されるようになりました。例えば、Stevie Wonderの「Superstition」やHerbie Hancockの「Chameleon」、Led Zeppelinの「Stairway to Heaven」など、数多くの名曲にFender Rhodesの音が使われています。
別の会社のローズが発売!?「ARP社のRhodes」
アメリカ・マサチューセッツを拠点とする会社に、創業者の1人であるAlan Robert Pearlman氏の頭文字を取って名づけられたARP Instruments社という名前の会社があります。
ARP社が製造したシンセサイザーには、Rhodesという名前を冠したモデルがいくつかあります。例えば、Rhodes ChromaやRhodes Chroma Polarisなどがあります。しかし、これらの製品はFender RhodesやRhodes Pianoとは異なり、エレクトリックピアノではなくシンセサイザーです。
Rhodes Chromaは、アメリカン・プロ・ツアーで使用されたことで有名で、多くのアーティストたちによって愛用されました。しかし、ARP社の倒産によってRhodes Chromaの生産は中断さてしまった。
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APS社のエンジニア達がRhodes社に入社「Rhodes Chroma 」発表
Rhodes Chromaは、ARP社が開発したポリフォニック・アナログ・シンセサイザーで、1982年に発売されました。ARP社のエンジニアたちがRhodes Chromaの開発を引き継ぎ、Fender/Rhodes社に所属していたことがその背景にあります。Rhodes Chromaは、8つのボイス・ポリフォニーを持ち、パッチ・メモリーがあり、ソフトシンセサイザーにはないウォームでファットな音色が特徴でした。当時、最も進んだ技術を採用したシンセサイザーの一つとして評価されています。
さらにRhodes Chroma Polarisは、Rhodes Chromaの後継機種として1984年に発売され、Rhodes Chromaと同様にアナログ・シンセサイザーとして多くのファンに愛されました。
Rhodes社が倒産!Roland社が商標「Rhodes」を獲得
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Rhodesの商標が再びハロルド・ローズに戻る
1997年にロルド・ローズはジョセフ・ブランドステッターの支援を受けて、Rhodes音楽機器の商標を再度取得しました。しかし、その後も彼は健康上の問題などから新しいRhodesピアノの製造には関われなかったとされています。
ジョセフがRhodesの商標を取得「Rhodes Music Corpration」設立!
ハロルド・ローズの死後、支援をしていたジョセフ・ブランドステッターがローズの商標を取得し、2005年に新生ローズミュージックコーポレーションが設立されました。同社は現在もエレクトリック・ピアノの製造・販売を行っています。
デジタルシンセサイザーのの発売でRhodesが減少
1980年代半ばにはデジタルシンセサイザーの台頭によって、Rhodesの生産台数は減少しました。
唯一無二のそのサウンドは今も愛されている
しかし、Rhodesの独特なサウンドはその後も多くのミュージシャンや音楽愛好家に愛され続け、2000年代以降にはRhodesの再評価が進んでいます。
特にジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップのシーンで使用され続けています。また、Rhodesの音色を忠実に再現するためのサンプリング音源や、Rhodesのサウンドをエミュレートしたプラグインシンセサイザーも多数リリースされており、今でもRhodesの音色は世界中の音楽シーンで活躍しています。
そして、ヴィンテージ楽器としても高価格で取引されることがあり、コレクターや愛好家の間でも人気があります。