レトロゲーム機に使われた音源チップを活用して作られるチップチューンは、ファミコンやMSXなどのレトロゲーム機に代表される独特の音色が魅力です。その独特の音色を聴いていると、懐かしい気持ちになります。
現代でも多くのアーティストに愛されているチップチューンは、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。また、現代ではDAWを用いたプロダクションや、エフェクトやフィルターを駆使した音楽制作が可能となっており、より幅広い表現が可能になっています。本記事では、チップチューンの魅力や歴史、現代における進化などについて詳しく解説しています。
Chiptune
レトロゲームの魅力と独特なサウンド!?「チップチューン」
チップチューンとは、8ビットや16ビットのコンピュータやレトロゲームに使用された音楽のことを指します。このジャンルは、1980年代から1990年代にかけて人気を博し、独特のサウンドと制約の中で生み出される創造性によって、今日に至るまで多くのファンを魅了しているジャンルの一つです。
レトロゲームの魅力と独特なサウンド
レトロゲームの魅力は、そのシンプルなグラフィック、直感的なゲームプレイ、そして独特なサウンドにあります。多くの人々にとって、レトロゲームは懐かしい思い出や幼少期を思い出させる存在であり、現代の高度な技術とは異なる独自の魅力を持っています。
独特なサウンドは、レトロゲームの大きな魅力の一つです。8ビットや16ビットの音源チップが生み出すシンプルな波形と限られた音色が、独特の音楽スタイルを生んでいます。このサウンドは、レトロゲームの世界観や雰囲気を強化する役割を果たし、プレイヤーにゲームに没頭させる効果があります。
このようなレトロゲームの魅力と独特なサウンドは、現代のゲームや音楽シーンにも影響を与えており、レトロゲーム風のデザインや音楽を取り入れた新作が登場することがあります。
レトロゲーム音楽から始まり、芸術や多様な音楽ジャンルへ
チップチューンという言葉は、レトロなゲーム音楽のテイストをそのまま持ってきたような音楽でありながら、ゲーム音楽ではない不思議なものを指す際に使われています。また、チップチューンは単なるジャンルとしてだけでなく、文化や芸術としても捉えられることがあります。
2006年には、チップチューンが世界的に注目を集めるようになり、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で上映されたドキュメンタリー映画「8-bit」や、ブルックリンで開催されたチップチューンの祭典「Blip Festival 2006」など、さまざまなイベントが開催されました。これらのイベントは、チップチューンが単なる音楽のジャンルではなく、文化や芸術の一部として認められるようになってきたことを示しています。
さらに、チップチューンは多くのジャンルと融合しやすく、様々なスタイルの音楽が生まれています。
別名「ピコピコ音」
チップチューンは、ピコピコ音をメインとした音楽とも表現することができます。ピコピコサウンドは、チップチューンの特徴的なサウンドであり、そのシンプルな波形や独特な音色から生まれる、明るく陽気な音楽を指します。
ピコピコ音は、PCエンジンのCD-ROM2システムやメガドライブなど、より高品質な音源チップを搭載したレトロゲーム機を使って制作された音楽に特徴的なサウンドです。これらの音源チップは、細かい波形を組み合わせることで、さまざまな表現が可能であり、その結果、独特の明るく陽気な音楽が生まれます。
「ピコピコ音」の起源とコンピューターゲーム文化への影響
「ピコピコ音」という表現は、コンピューターゲームの効果音やBGMを表す擬声語として使用されています。その起源ははっきりしていませんが、インベーダーゲームやスペースインベーダーなどのシューティングゲームの効果音を表すために使われていたとされています。また、「ピコピコ」という表現は、コントローラーのボタンをピコピコ押す様子から来ているとも考えられます。
コンシューマーゲーム機が普及し始めた頃、多くのゲームでコントローラーのボタンを素早く押すことが求められたため、ボタンをピコピコと押す様子がイメージされ、それが擬声語として広まった可能性があります。どちらの説も定かではありませんが、いずれにせよ、「ピコピコ音」という表現は、コンピューターゲームに欠かせない特徴的な音を表すために広く用いられています。
「8bit風サウンド」としても知られている
最近では、「ピコピコ音」の代わりに「8bit風サウンド」という表現が用いられることもあります。これは、8ビットコンピューターやゲーム機のシンプルな波形と限られた音色が特徴的なサウンドであり、チップチューン音楽やレトロゲームの世界観を表現するのに適した言葉となっています。
8bit風サウンドの由来
8bit風サウンドの由来は、1980年代に登場したファミリーコンピューターや当時のパソコンが使用していた8ビットCPUに起因しています。8ビットCPUは、データを8ビット単位で処理することができるため、情報処理の能力が限られていました。そのため、これらの機器で使用される音源チップも、8ビットのデータ幅に制約されていたのです。
8ビット音源チップは、シンプルな波形と限られた音色を持っていましたが、それらを組み合わせることで、多彩なメロディーやリズムを表現することが可能でした。このため、ファミリーコンピューターや当時のパソコンで生み出された音楽は、独特の質感を持っており、後に「8bit風サウンド」と呼ばれるようになりました。
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チップチューンの歴史
1980年代のゲーム機やコンピュータは、チップチューンやレトロゲーム音楽の発端となりました。特に、Commodore 64やNintendo Entertainment System(ファミリーコンピュータ)などの機種は、その音源チップの制約の中で独特な音楽が生み出され、後のチップチューンシーンに多大な影響を与えています。
Commodore 64は、1982年に発売されたパソコンで、その音源チップSID(Sound Interface Device)は、3つのボイスを同時に再生できることから、当時としては革新的でした。このSIDチップを駆使して、多くのゲーム音楽やデモシーン作品が制作されました。その独特なサウンドは、今もなおチップチューンファンに愛されています。
一方、Nintendo Entertainment System(NES、日本ではファミリーコンピュータとして知られる)は、1983年に発売された家庭用ゲーム機で、2つのパルス波、1つの三角波、1つのノイズチャンネルを持つ音源チップを搭載していました。この音源チップの制約の中で、ゲーム開発者たちは独創的な音楽を生み出し、そのサウンドは後のチップチューンシーンに大きな影響を与えました。
デモシーンとチップチューンの深いつながり
デモシーンは、1980年代から1990年代にかけて、コンピューターグラフィックスや音楽を駆使して、非常に限定されたハードウェア上で驚くべき作品を制作する技術者やアーティストたちのコミュニティです。デモシーンは、チップチューンやレトロゲーム音楽に多大な影響を与えています。
デモシーンの参加者たちは、往々にして自分たちの技術を競い合い、限られたリソースの中で最大限のパフォーマンスを引き出すことを目指していました。そのため、彼らは独自のプログラミング技術やトリックを開発し、音楽制作にもそれらの技術を活用しました。チップチューンは、デモシーンにおいても重要な要素の一つであり、独自のサウンドやスタイルが生み出されました。
デモシーンの影響によって、チップチューンはさらに進化し、今日のような独特の音楽ジャンルへと発展しました。デモシーンが生んだ技術やアイデアは、現代のチップチューン制作者にも引き継がれ、さまざまな音楽やアート作品に取り入れられています。デモシーンは、チップチューンやレトロゲーム音楽の発展において、非常に重要な役割を果たしてきたと言えるでしょう。
「8bit風」と「16bit風」チップチューンのジャンル分類の難しさ
チップチューンのジャンル分けは非常に難しい問題です。それは、過去のコンピューターやゲーム機の音源チップの性能や特性によって、音楽の表現方法に違いがあるためです。
1982年に登場したシャープのPC-8801とPC-9801シリーズは、16ビットパソコンとして有名でしたが、初期の機種は「ピコピコ音」しか鳴らせず、音楽制作には制約があったと言われています。これは、一部の16ビットパソコンにおいても、音源チップの性能が限られていたため、当時の主流は「ピコピコ音」となり、チップチューンを「8bit風」と「16bit風」にジャンル分けするのが困難でした。
チップチューンのジャンルを「8bit風」とするのか「16bit風」とするのか、明確に切り分けることは非常に難しいと言われています。音楽制作者やファンの間でも、ジャンルの定義について議論が続いています。また、最近では、より高品質な音源チップを用いたチップチューンも制作されるようになってきており、より細かくジャンルを分ける必要性も生じています。
しかしながら、現実的には、チップチューンのジャンルを細かく分類することは困難であり、一般的には「8bit風」という表現がよく用いられています。
音源チップの進化と音楽文化への影響
音源チップは、様々な電子機器において音声生成に重要な役割を果たしています。このチップの開発は、音楽制作やゲーム業界において大きな影響を与えました。音源チップの登場により、従来の大きなシンセサイザーや音響機器に代わって、より小型で手頃な価格の電子機器が普及しました。
さらに、音源チップを搭載したデバイスは、よりリアルな音質や多彩な音色を提供することができるようになりました。
代表的な音源チップの種類として、PSG音源、FM音源、PCM音源などがあります。
PSG音源チップ (Programmable Sound Generator)
音源チップは当初、ビデオゲームの効果音やBGMの制作のために開発されました。機能や性能を最小限に抑えられており、性能面では市販のシンセサイザーに比べて非力でした。同時発音数や音色の種類も限られており、矩形波などの剥き出しの電子音が主流でした。このような状況下に生まれた最初の音源チップのひとつがAY-3-8910だった。
AY-3-8910は、1978年にアメリカのGeneral Instrument社によって開発されたPSG (Programmable Sound Generator) 音源チップとしても知られています。このチップは、矩形波が3音とノイズが1音の合計4音の同時発音が可能でした。また、ハードウェアの性能制約により、音色やエフェクトのバリエーションは限られていましたが、その制約の中で独特の音楽や効果音が生み出されました。
AY-3-8910は、多くの8ビットパソコンやゲーム機に搭載され、1980年代のビデオゲームやコンピューター音楽の発展に大きく貢献しました。主な使用例として、アムストラッドCPC、シンクレアZXスペクトラム、MSX、アタリST、インテレビジョンなどが挙げられます。
AY-3-8910の成功は、他の企業にもPSG音源チップ開発のモチベーションを与え、競合製品が開発されるきっかけとなりました。
FM音源チップ(Frequency Modulation synthesis)
FM(Frequency Modulation synthesis)音源チップは、周波数変調合成という音声合成技術を利用した音源です。この技術は、元々1970年代にジョン・チャウニング(John Chowning)によって開発されました。FM音源は、一つの音(キャリア波)の周波数を別の音(モジュレータ波)で変調することで、複雑な音色を生成します。FM音源は、独特の鋭い音や豊かなハーモニクスを持つ音色を生み出すことができます。
1980年代に入ると、日本のヤマハがFM音源技術を採用し、一連の音源チップやシンセサイザーを開発しました。その中でも最も有名なのが、1983年に発売されたヤマハDX7シンセサイザーです。DX7は、FM音源技術を使った最初のデジタルシンセサイザーであり、その独特な音色と表現力が多くのミュージシャンに支持されました。
FM音源は、ビデオゲームやパソコンの音楽制作にも大きな影響を与えました。1980年代から1990年代にかけて、ヤマハのFM音源チップが多くのゲーム機やパソコンに搭載されました。代表的なものに、セガのメガドライブ(Genesis)やNECのPC-88/98シリーズ、MSX2などがあります。
FM音源によって生成される音色は、PSG音源や波形メモリ音源に比べてより豊かで複雑であり、ゲーム音楽やコンピューター音楽の表現力を飛躍的に向上させました。
PCM音源 (Pulse Code Modulation)
PCM(Pulse Code Modulation)音源チップは、アナログ音声信号をデジタルデータに変換する技術を利用した音源です。PCM音源は、アナログ音声信号を一定の間隔でサンプリングし、それぞれのサンプル値をデジタルデータに変換することで、音声を再現します。この方法により、録音された音や楽器の音色をそのまま再現することができます。
PCM音源は、1980年代後半から1990年代にかけて、ビデオゲームやパソコンの音楽制作において大きな影響を与えました。これは、PCM音源がリアルな音色や生音の再現が可能であるため、ゲーム音楽やコンピュータ音楽の表現力を飛躍的に向上させたからです。また、PCM音源は、シンセサイザーや電子楽器にも広く採用され、音楽制作全般に寄与しました。
代表的なPCM音源搭載のゲーム機には、任天堂のスーパーファミコン(Super Nintendo Entertainment System, SNES)やソニーのプレイステーション(PlayStation)などがあります。これらのゲーム機では、PCM音源を使用した効果音やBGMが広く採用され、ゲームの没入感を高めることに成功しました。
PCM音源は、デジタルオーディオ技術の進歩に伴い、さらに高品質な音声再生が可能となりました。現在では、CDやデジタルオーディオファイルの標準的なフォーマットとして広く利用されています。
Wavetable音源
Wavetable音源は、デジタル音源の一種で、事前に録音された波形データ(ウェーブテーブル)を用いて音を生成する方法です。ウェーブテーブルは、多くの場合、短いサンプル音声を含んでおり、それらを組み合わせて音色や音程を変更することができます。Wavetable音源は、PCM音源やFM音源とは異なるアプローチをとっており、特にリアルな楽器の音色の再現に優れているとされています。
Wavetable音源の代表的な例としては、1990年代にパソコンで広く使われたGravis Ultrasound(GUS)や、Creative LabsのSound Blasterシリーズに搭載されたEMU8000チップが挙げられます。これらの音源チップは、当時のコンピュータ音楽制作やゲームのBGMに大きな影響を与えました。
また、MIDIシーケンサーやソフトウェアシンセサイザーにもWavetable音源が採用されており、現代の音楽制作においてもWavetable音源は重要な役割を果たしています。最近では、VSTプラグインやデジタルオーディオワークステーション(DAW)にもWavetable音源が組み込まれており、音楽制作の現場で幅広く利用されています。
PSG音源とFM音源の特徴と表現力の違い
チップチューンで一般的に使用される音源チップのPSG音源やFM音源は、3つの同時発音を使って、パルス波、三角波、ノイズなどの波形を発生させ、組み合わせることができます。
PSG音源(Programmable Sound Generator)は、矩形波やノイズ波などのシンプルな波形を生成し、それらを組み合わせて音楽や効果音を作り出します。PSG音源は、同時発音数が限られているものの、波形の周波数や音量を制御することで、多彩な音を表現することができました。
一方、FM音源(Frequency Modulation synthesis)は、周波数変調を利用した音声合成方式で、より複雑な波形を生成することができます。FM音源は、複数のオシレータ(波形生成器)を組み合わせることで、豊かな音色やテクスチャを持つ音を作り出すことが可能でした。そのため、FM音源はPSG音源に比べて音楽制作においてより表現力が高いとされています。
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— AKIBA PC Hotline! (@watch_akiba) August 20, 2017
今日は「#パソコン記念日」。1979年の今日、NECがPC-8001を発売。弊社はその2年後の1981年にFM-8を発売し、シャープとNECに加えてもらい当時は「パソコン御三家」とも呼ばれました。FM-8はFM-7、FM-77などを経て、FM TOWNSへと引き継がれました。 pic.twitter.com/0oueZ8odXd
— 富士通(株)FUJITSU Japan (@FujitsuOfficial) September 27, 2017
「パルス波」
パルス波は、PSG音源において主要な音色として使用されることが多く、「ピコピコ音」として知られています。
パルス波のduty比を変化させることで、音色が異なる複数の音を生成することができ、これにより独特の音楽表現が可能になります。
12.5%、25%、50%、75%の4つのduty比は、波形の高い部分(オン)と低い部分(オフ)の割合を示しています。duty比が12.5%の場合、波形が高い部分(オン)が全体の12.5%で、低い部分(オフ)が87.5%を占めます。これにより、短い音や明るい音が生まれます。一方、75%のduty比では、波形の高い部分(オン)が全体の75%で、低い部分(オフ)が25%となり、より長い音や暗い音が生まれます。
「三角波」
三角波は、チップチューン音楽でよく使われる波形の一つで、滑らかで明るい音色が特徴です。パルス波と比較して、より滑らかで自然な音色を持ち、低音域での使用に適しています。
三角波は、チップチューン音楽でバスラインやメロディーの補完に使用されることが多く、パルス波と組み合わせることで、音楽の幅が広がります。また、三角波は、その特性上、リバーブやディレイといったエフェクトがかかったような音色になることがあります。これにより、音楽に深みや空間感を与えることができるため、チップチューン作曲家によって好んで使われます。
三角波が持つ懐かしさや温かみは、特にレトロゲーム音楽において重要な要素であり、多くの人々に愛される理由の一つです。
「矩形波」
矩形波は、チップチューン音楽やレトロゲーム音楽で非常に一般的な波形であり、ピコピコした音色が特徴です。矩形波は、パルス波とも呼ばれ、その波形の形状から名前がつけられています。
矩形波のパルス幅(duty比)を調整することで、音色を変化させることができます。例えば、12.5%、25%、50%、75%の4つのduty比が一般的で、それぞれのduty比で異なる音色が得られます。これにより、独特の電子音を生み出し、音楽や効果音に独特の個性を与えることができます。
マリオのジャンプ音やメトロイドの敵キャラクターの出現音など、矩形波を使用した音楽や効果音は、8ビットゲームの音楽において非常に象徴的であり、シンプルでキャッチーな音色が多くの人々に愛されています。矩形波は、チップチューン音楽やレトロゲーム音楽の魅力の一部を形作っています。
矩形波・三角波・ノイズの組み合わせ
ファミコン(Nintendo Entertainment System / NES)の音源チップは、パルス波(矩形波)2チャンネル、三角波1チャンネル、ノイズ波1チャンネル、そしてデルタ変調(DPCM)チャンネルという構成でした。これらの波形を組み合わせることで、ゲーム音楽や効果音が生成されます。
エンベロープは、音の強さや減衰速度を制御する機能で、ファミコンの音源チップでは、パルス波とノイズ波にエンベロープが用意されていました。これにより、音量の変化や減衰効果をつけることができます。
ファミコンの音源出力はモノラルであり、ステレオではないため、左右のチャンネルに分けて音を出力することはできませんでした。しかし、それでも、各波形の特徴を活かした独特なサウンドが生まれました。
例えば、ドラゴンクエストのテーマ曲では、パルス波と三角波が組み合わされて、エピックな冒険の雰囲気を醸し出しています。また、階段を下りる音などは、ノイズ波を使用することで、リアルな効果音が表現されています。これらの例からも、8ビット時代のファミコン音源が持つ独特なサウンドが分かりやすく感じられるでしょう。
8ビット音源チップによるドラム音の模倣と制約
8ビット音源チップでは、リアルなドラム音の再現には限界があります。しかし、ノイズ波や他の波形を使用し、エフェクトやフィルターを組み合わせることで、ドラム音を模倣することは可能です。これにより、リズムやビートを表現することができます。
例えば、ノイズ波を使用してスネアドラムのような音を作り出したり、パルス波や三角波を利用してキックドラムやシンバルのような音を模倣することができます。また、音源チップのエンベロープや周波数を調整することで、音色や音の持続時間を変化させることも可能です。
ただし、8ビット音源チップでリアルなドラム音を再現することは、技術的な制約があるため、完全に現実的な音を出すことは難しいです。しかし、これらの制約を逆手にとって、独特なサウンドや雰囲気を作り出すことができるため、チップチューンやレトロゲーム音楽の魅力のひとつとなっています。
コナミが独自開発!「SCC音源チップ(Sound Creative Chip)」
SCC(Sound Creative Chip)は、コナミが開発した音源チップで、MSX用のゲームカートリッジに搭載されていました。この音源チップは、5つの独立した音源チャンネルを備えており、32バイトの波形メモリを持つことが特徴です。これにより、ユーザーは独自の波形を定義して、独特の音色や効果音を生成することができます。
PSGとの互換性もあり、SCCを使用した曲は、独特のスペイシーな音色や、ダイナミックな音楽表現が可能でした。これにより、MSXのゲーム音楽シーンに大きな影響を与え、多くの名曲が生まれました。例えば、「グラディウス2」や「スナッチャー」など、コナミのMSXゲームのサウンドトラックは、SCCを使用した印象的な楽曲で知られています。
現在でも、SCCを用いたレトロゲーム音楽は愛され続けており、音楽ファンやレトロゲーム愛好家によって収集されています。また、SCCを搭載したMSXのゲームソフトは、希少価値があり、高値で取引されることもあります。
1980年代の家庭用コンピューターブームをけん引した共通規格
1980年代におけるMSX規格パソコンのブームは、コンピュータ技術の発展と家庭向け製品の普及に大きく貢献しました。MSXパソコンは、マイクロソフトとアスキーが定めた共通規格のもと、さまざまなメーカーから発売され、低価格で手軽に使えるホームコンピューターとして人気を博しました。
80年代に人気を博した低価格PCの魅力と衰退
MSXパソコンは、ゲームに特化したファミコンとは異なり、プログラミングや文書作成など、幅広い用途に利用されました。また、ROMカセットによるゲームが豊富で、KONAMIをはじめとする有名ゲームメーカーから多くの名作がリリースされました。これらのゲームは、当時の子供たちにとって大きな魅力であり、MSXパソコンは多くのファンを獲得しました。
しかし、1980年代後半には、PC-9801やX68000などの16ビットパソコンが登場し、高性能で拡張性のある製品が次々と市場に投入されました。これにより、MSXパソコンのシェアは徐々に縮小し、最終的には衰退していきました。
それでも、MSXパソコンは、多くの人々の心に残る思い出の製品として、現在でも熱狂的なファンが存在しています。
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進化を続けるチップチューンの世界
チップチューンは、その独特の魅力から、現代の音楽シーンでも活躍しています。近年では、チップチューンを用いたエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)や、ロック、ポップスなどのジャンルに取り入れられています。また、チップチューン専門の音楽フェスティバルやイベントが開催され、多くのファンが集まっています。
チップチューンの進化と歴史
チップチューンは、1980年代の初頭から現在に至るまで、数々の進化を遂げてきました。
- 音源チップの進化:初期のチップチューンは、限られた音色や同時発音数で作曲する必要がありましたが、FM音源やPCM音源などの新たな音源チップが登場し、音楽表現の幅が広がりました。
- DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の登場:DAWを使うことで、チップチューン作曲者は、効率的に楽曲を制作できるようになりました。また、DAWにより、異なる音源チップやシンセサイザーを組み合わせて楽曲を制作することが容易になりました。
- ソフトウェアシンセサイザーの発展:VST(Virtual Studio Technology)プラグインなどのソフトウェアシンセサイザーが登場し、リアルタイムでチップチューンのサウンドを再現することができるようになりました。これにより、従来のハードウェア音源チップを使用する必要がなくなり、アクセシビリティが向上しました。
- ジャンルのクロスオーバー:チップチューンは、他の音楽ジャンルと組み合わせることで、新たな音楽スタイルが生まれました。例えば、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)、ロック、ポップなどのジャンルと融合し、チップチューンの持つ独特の魅力をより多くのリスナーに届けることができるようになりました。
- コミュニティの発展:インターネットの普及により、チップチューン作曲者やファンが世界中でつながることが可能になりました。オンラインでのコラボレーションや情報交換が活発化し、チップチューンの技術や表現方法がさらに進化していきました。
これらの進化により、チップチューンは現在でも多くのリスナーに愛されており、その魅力は広がり続けています。
異なるアプローチで制作される世界のアーティストたち
チップチューンシーンには世界中に多くの才能にあふれたアーティストが存在し、それぞれ異なるスタイルやアプローチで音楽を制作しています。
Anamanaguchi
アメリカのチップチューンバンドで、NESやゲームボーイを使った8ビットサウンドと、現代的なエレクトロニックやロックの要素を融合させた独自のサウンドを持っています。彼らはゲーム『Scott Pilgrim vs. The World: The Game』のサウンドトラックも手がけました。
Sabrepulse
イギリスのチップチューンアーティストで、ゲームボーイを使用したエネルギッシュでダンサブルなサウンドが特徴です。彼の音楽は、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)やドラムンベースの要素も取り入れています。
Chipzel
アイルランド出身のチップチューンアーティストで、ゲームボーイを用いたエネルギッシュでメロディアスなサウンドが魅力です。彼女は、インディーゲーム『Super Hexagon』や『Dicey Dungeons』のサウンドトラックを手がけたことでも知られています。
YMCK
日本のチップチューンバンドで、ファミコン音源をベースにしたジャズやポップスの要素を取り入れた独特のサウンドを持っています。彼らの楽曲は、レトロゲームの雰囲気を彷彿とさせるキャッチーでメロディアスなものが多いです。
Disasterpeace
アメリカのチップチューンアーティストで、映画やゲームのサウンドトラックを数多く手がけています。彼の音楽は、緻密でドラマティックなアレンジが特徴で、ゲーム『Fez』や映画『It Follows』のサウンドトラックで高い評価を受けています。
愛され続けるチップチューン
このようにチップチューンは、レトロゲーム機や古典的な音源チップによって生み出される独特の音色や魅力によって、多くの人々に愛され続けています。
このジャンルは、その独特の魅力を持ちながらも、常に進化し続けており、現代の音楽制作技術や手法とも融合して新たな表現が生まれています。こうしたチップチューンの魅力は、現代の音楽シーンにおいても多くのファンやアーティストに影響を与えており、その歴史とともにこれからも続いていくことでしょう。
最後に、チップチューンの世界に興味を持った方は、是非「Diggin’ In The Carts」ドキュメンタリーシリーズやコンピレーションアルバムをチェックしてみてください。
ドキュメンタリー「Diggin’ In The Carts」
「Diggin’ In The Carts」は、Red Bull Music Academyが制作したドキュメンタリーシリーズで、日本のビデオゲーム音楽の歴史とその影響に焦点を当てています。タイトルには「Carts(ゲームカセット)をDigる(掘り探す)」という意味が込められています。
このシリーズでは、1980年代から1990年代にかけての8ビットおよび16ビットゲームの黄金期に制作されたゲームミュージックが、世界の音楽シーンにどのような影響を与えたかを探求しています。
ドキュメンタリーでは、日本の著名なゲームミュージックコンポーザー(例:植松伸夫、古代祐三、岩田匡治など)や、世界中の音楽プロデューサー、アーティストたち(例:Flying Lotus、Anamanaguchi、Doseoneなど)が登場し、インタビューを通じて彼らの作品や影響を語っています。
また、シリーズでは、日本のゲームミュージックが世界中の音楽ジャンル(エレクトロニック・ダンス・ミュージック、ヒップホップ、チップチューンなど)に与えた影響についても言及されており、当時のゲームミュージックが現代の音楽シーンに与えたインパクトを理解することができます。
「Diggin’ In The Carts」は、ゲームミュージックのファンや音楽愛好家にとって興味深い視点で、当時のゲームミュージックの歴史や進化、そしてその音楽が現代のクリエイターたちに与える影響を紹介しています。このドキュメンタリーシリーズは、YouTubeやRed Bull Music Academyのウェブサイトで視聴することができます。
コンピアルバム発売!
「Diggin’ In The Carts」は、ドキュメンタリーシリーズの成功を受けて、2017年にコンピレーションアルバムをリリースしました。このアルバムは、ドキュメンタリーシリーズで取り上げられたゲーム音楽コンポーザーたちの楽曲を収録しています。ゲーム音楽の歴史に触れたいファンや、チップチューンに興味を持つ音楽愛好家にとって、貴重な音源となっています。
アルバムには、田中宏和、古代祐三、植松伸夫をはじめとする著名なゲーム音楽コンポーザーたちの楽曲が収録されており、さまざまなゲームタイトルやプラットフォームで制作された音楽を堪能することができます。また、アルバムにはオリジナルトラックだけでなく、一部の曲には現代のアーティストによるリミックスやアレンジが収録されていることも特徴です。
「Diggin’ In The Carts」のコンピレーションアルバムは、音楽史の中でも特に革新的だった8ビットと16ビットのゲーム音楽の精鋭を網羅しており、その歴史的価値と音楽的魅力を改めて認識することができます。