1995年に発売され、今も多くの人々に愛され続ける名作RPG「クロノ・トリガー」。当時としては斬新な多重エンディングやタイムトラベルを取り入れたストーリー展開、美麗なグラフィック、そして豪華声優陣による演技など、その業績は数多くのゲームファンや批評家から高く評価されています。
この記事では、クロノ・トリガーがなぜ長年に渡って多くの人々に愛され続けるのか、その魅力を探ってみたいと思います。
Chrono Trigger
「あの頃、未来への希望があった。」名作RPG「クロノ・トリガー」の魅力
1995年3月11日にスクウェア(現:スクウェア・エニックス)からスーパーファミコン用ソフト『クロノ・トリガー』が発売されました。
発売当時から非常に高い評価を受け、日本だけでなく世界中のゲームファンに支持される作品となりました。美しいグラフィック、心に残る音楽、個性豊かなキャラクターたちが織りなす物語は、今でも多くの人々に愛され続けています。
様々なハードに移植!!
『クロノ・トリガー』は、その人気と普遍性から様々なプラットフォームに移植されています。
- プレイステーション版(1999年):アニメーションムービーが追加され、ストーリーがより鮮やかに描かれました。
- ニンテンドーDS版(2008年):2画面対応による操作性の向上や新規イベントが追加され、さらに充実した内容となっています。
- Wiiバーチャルコンソール版(2011年):Wii向けに配信されましたが、「Wiiショッピングチャンネル」終了に伴い配信終了しています。
- スマートフォン版(2011年):iPhone・iOS版が12月9日に、Android版が12月22日に配信されました。タッチ操作によるプレイが可能で、移動時に便利なプラットフォームです。
- Steam版(2018年2月):PC向けに発売された移植作品で、グラフィックの高解像度化や、Steam版独自の実績機能が追加されています。
これらの移植・リメイク版により、『クロノ・トリガー』は多くのプレイヤーにアクセスしやすくなり、その名作の魅力が新たな世代にも引き継がれています。
「平成のゲームで最高の1本」
2019年5月16日の週刊ファミ通増刊号では、平成時代を振り返る特集が実施され、その中で平成時代に発売されたゲームタイトルから、ゲームファンが最も心に残った1本を選出するアンケート“平成のゲーム 最高の1本”の投票結果が発表されました。
その結果、7158票中230票を集めた『クロノ・トリガー』がランキング1位に輝きました。
アンケートに寄せられたコメントでは、「ストーリー、シナリオ、音楽すべてが今でも色褪せない名作(30代・男性)」や、「クロノ(主人公)たちと時を超えて旅をした思い出は一生忘れられない(30代・女性)」など、30代を中心に圧倒的な支持を受けていました。
このニュースが話題となり、Twitterでトレンド入りするほど『クロノ・トリガー』が再び注目されました。多くのユーザーがファミ通アンケートで選ばれた「平成のゲーム 最高の1本」に賛同し、その根強い人気を改めて示しています。
平成最後の日に、“平成のゲーム 最高の1本”7100人以上が選んだTOP10をWebでも発表!
— ファミ通.com (@famitsu) April 30, 2019
多数の思い出コメントの中から厳選したものもご紹介。ゲームにまつわる思い出は、ハンカチ必須です!
詳しくはこちら。https://t.co/VlMNe37zHS pic.twitter.com/qXrqTLV9Ai
歴史上で最も偉大なゲームTOP100
『クロノ・トリガー』は、その高い評価と人気から、ゲームメディアやウェブサイトでのランキングでも頻繁に上位にランクインされています。その一例として、IGN本家が発表した「THE TOP 100 RPGS OF ALL TIME」では、クロノ・トリガーがベストRPGに選ばれました。
IGNは世界的なゲーム情報サイトであり、そのランキングは多くのゲームファンに影響を与えるものです。『クロノ・トリガー』がベストRPGに選ばれたことは、その名作の地位をさらに確固たるものにしています。
当時のゲーム開発スーパースターが集結!「ドリームチーム」
当時、スクウェアとエニックスが合併することはまったく考えられていない時代でした。スクウェアは『FF』シリーズ以外にも様々なRPGを手がけており、『ロマンシング サ・ガ』シリーズや『ライブ・ア・ライブ』などをリリースしていました。
さらに、『クロノ・トリガー』の発売後には、『バハムートラグーン』『ルドラの秘宝』『トレジャーハンターG』といった作品も展開し、RPG黄金期を力強く支えていました。
そんな群雄割拠の時代に、新規IPとして登場した『クロノ・トリガー』が注目を集めた理由は、まず豪華なクリエイター陣にあります。『FF』を世にはなった坂口博信氏と、『ドラクエ』を生み出した堀井雄二氏が、『クロノ・トリガー』の開発に参加。
また、「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」などの人気作品を持ち、『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインも多数手がけている鳥山明氏が、本作のメインキャラクターをデザインしています。
RPG界の2大タイトル『FF』『ドラクエ』のクリエイター陣が新作RPGに集結することで、ゲームファンの関心が高まりました。
また、この3人が注目されがちですが、北瀬佳範氏や時田貴司氏、加藤正人氏など、今のゲーム業界を牽引する面々も数多く本作に携わっており、まさに“ドリームチーム”な布陣によって『クロノ・トリガー』は生み出されました。
魅力的なキャラクター
クロノ・トリガー』のキャラクターたちは、鳥山明氏によってデザインされ、独自の個性と魅力を持っています。仲間になるキャラクターは以下のような面々です。
- クロノ:主人公であり、熱血で勇敢な少年。カタナを武器とし、雷を操る技を持ちます。
- マール:ヒロインであり、本名はナディア。王家のお姫様で、弓を武器にし、回復魔法を使うことができます。
- ルッカ:クロノの幼馴染であり、天才発明家。銃を武器にし、火を操る技を持ちます。
- カエル:その名の通り、カエルの姿をした騎士。かつては人間だったが、魔術により姿が変えられた。剣を武器にし、水を操る技を持ちます。
- ロボ:未来世界から来た機械のロボット。強力な腕力と、雷や回復能力を持ちます。
- エイラ:古代時代の部族のリーダーであり、強力な格闘技を使いこなす。自然の力を操る技を持ちます。
- マギウス:当初は敵キャラクターだが、後に仲間に加わる。魔術師であり、闇の力を操る技を持ちます。
これらのキャラクターたちは、独特なデザインと個性により、一度見たら忘れられない印象を与えます。また、彼らのバックストーリーや成長が物語の中で描かれることで、プレイヤーはより深く彼らに感情移入することができ、物語を楽しむことができます。
時空を超える!壮大すぎるストーリー
『クロノ・トリガー』は、その名の通り、「時の引き金」という意味を持っています。
リーネ広場で開かれたガルディア王国千年祭の最中、我らの若きヒーロー、クロノがマールという少女に偶然出会う。一緒にお祭りを探索することにした二人は、間もなく、クロノの長年の友人ルッカの最新の発明であるテレポッドの展示会場に辿り着いた。怖いもの知らずで、自信に満ちたマールは進んでその実験台となった。しかし、予期せぬ機能不良によって、次元の狭間に猛スピードで投げ込まれる。マールのペンダントを掴んだクロノは、勇敢にもその後を追う。しかし、彼の前に出現した世界は4世紀も前のものだった。忘れ去れた過去、遠い未来、そして時の最果てに至るまでの旅。この星の未来を救うための壮大なクエストが、今、再び歴史を刻んでいく・・・
クロノ・トリガーのSteam版が登場!/Steam Community
制作に関わった北瀬佳範は当時のことを振り返り
制作に関わった北瀬佳範は当時のことを振り返り、クロノ・トリガーの開発において、坂口さんはシナリオに関して特にこだわりを見せていました。最初に提案されたシナリオでは、タイムパラドックスの結果、異なる時間軸のマールと過ごすことになるという設定がありました。しかし、坂口さんは同じ人間でも異なる時間軸にいる限りは「別の人間」とする設定に反対し、歴史を改変したとしても元の時間に戻ったらプレイヤーが知っているマールに戻るべきだと主張しました。
北瀬は、坂口がキャラクターに徹底的にこだわる姿勢に感銘を受けました。マスターアップ直前でも、キャラクターに厚みを持たせるために追加エピソードを作るように指示があり、時田はマール、北瀬はルッカのエピソードを担当しました。
坂口は、最後の調味料が非常に重要であると語り、切羽詰まった状況で作り手の生きざまが表れることが、面白いものになる要因だと述べました。一方で、ユーザーから見ればストーリーは決められた設定ありきで作られているように見えるかもしれませんが、実際は必ずしもそうではないと語っています。
北瀬佳範は、坂口さんの手法に学び、キャラクターが薄いと感じたら何かを加えるべきだと考えるようになったと言います。
ドラクエとFFの融合
『クロノ・トリガー』の主人公クロノが基本的に喋らない理由は、プレイヤーが主人公に感情移入しやすくするためです。このアプローチは、『ドラゴンクエスト』シリーズなどの他のRPGでも採用されており、主人公が無口であることで、プレイヤーは自分自身がゲームの世界に入り込んでいると感じやすくなります。
主人公が喋らないことで、プレイヤーはストーリーやゲーム内での出来事に対して、自分自身の意見や感情を持ちやすくなります。また、主人公がゲーム内で選択肢を提示される場合も、プレイヤーが自分の意志で選ぶことができるため、より没入感を高めることができます。このような設定は、プレイヤーがゲームに深く関与することを促し、物語をより楽しむことができるようになります。
開発チームでクロノ・トリガー合宿
当時のスクウェアのグラフィックが前面に出た画面と『ドラクエ』っぽいプレイ感覚が特徴です。また、このゲームは海外でも人気が高く、開発当時は『DQVI』のスケジュールと重なっていたため、大変な作業だったと語ります。
あるメディアののインタビュー記事では、最初の合宿が六本木の全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)で行われたことも明かされています。堀井さんは合宿の豪華さに驚き、スクウェアの資金力を感じたと述べていますが、坂口さんは特別に大御所の堀井さんをお迎えするためにグレードを上げたと説明しています。
また、インタビューでは、ラスボスの設定が非常に重要であり、最初に決めるべきだと堀井さんが語っています。ラスボスの目的によって主人公たちの行動が決まるため、堀井さんはこの点に強いこだわりを持っていると言います。
「アクティブタイムバトル Ver.2」FFの系譜を感じる戦闘システム
『クロノ・トリガー』の戦闘システムである「ATB(アクティブタイムバトル)Ver2」は、『ファイナルファンタジー』シリーズのアクティブタイムバトルシステムをベースに、位置関係を加味した新しい要素が加わっています。このシステムでは、キャラクターと敵の位置が戦術的な意味を持ち、特定の技や魔法は一部の敵や味方にしか効果がない場合があります。
また、キャラクター同士の連携技が導入されており、クロノとカエルの「エックス斬り」のように、特定のキャラクター同士がタイミングよく技を組み合わせることで、強力な攻撃を繰り出すことができます。これにより、バトルがより戦術的で緊迫感のあるものになっています。
『クロノ・トリガー』のATB Ver2システムは、当時のRPGに新しい風を吹き込む革新的な要素であり、プレイヤーに独自の戦略を立てる楽しさを提供しました。
マルチエンディング
『クロノ・トリガー』は、当時としては珍しいマルチエンディングのシステムを採用していました。ラヴォスとの戦いのタイミングやゲームの進行状況によって、様々なエンディングが用意されており、プレイヤーには異なる物語の結末を楽しむことができます。
「強くてニューゲーム」
また、ゲームをクリアすると「強くてニューゲーム」が解禁され、強化された状態でゲームを最初からプレイすることができます。これにより、プレイヤーはより効率的に様々なエンディングを追求することができ、物語の裏設定や隠された要素を発見する楽しみがあります
歴史に名を残す名曲の数々を手がけたのが「光田康典」
楽曲担当は数々のゲーム・アニメ作品を手がけている光田康典です。
彼は、スクウェア(現スクウェア・エニックス)在籍時に、わずか23歳で『クロノ・トリガー』のBGMを手がけ、その卓越した音楽制作スキルでゲーム業界に衝撃を与えました。なんと『クロノ・トリガー』は実質デビュー作でした
光田康典はその音楽性で他のゲームと差別化を図りたいと考えていました。当時のゲーム音楽はオーケストラやポップス、8ビット系の音が主流でしたが、スーパーファミコンの制約の中で、ジャズ的要素やテンション・コードを取り入れて独自のサウンドを作り上げました。
しかし、制限がある中で凝ったサウンドを実現するのは難しいと語り、特に効果音も8トラックにカウントされるため、消えてしまう音が出てきて、曲の雰囲気が変わることがあると述べています。
光田康典は消える音に対しても問題ない、なぜなら自分が作るメロディがテンションをなぞることが多いため、メロディがあればテンション感は失われないと考えた。これが他のRPGとは違った手法やサウンドにつながったんだと振り返りっていました。
週刊少年ジャンプの影響!!
『クロノ・トリガー』は、ドリームプロジェクトとして開始され、堀井雄二(『ドラゴンクエスト』シリーズ)、坂口博信(『ファイナルファンタジー』シリーズ)、鳥山明(『ドラゴンボール』などの漫画家)という、当時の大物ゲームクリエイターたちがタッグを組んで制作されました。このプロジェクトは、当時のエニックス(現スクウェア・エニックス)と合併前のスクウェアが共同で開発し、『週刊少年ジャンプ』が全盛期を迎えていた時期に企画された作品でした。
また、堀井雄二がジャンプに掲載されていたTVゲーム紹介コーナー「ファミコン神拳」でライターを務めていたことからも、ジャンプの影響を強く受けていたことが伺えます。発売前からこの豪華なクリエイター陣が大々的にアピールされており、当時のゲーム業界やファンにとっては期待感が高まるプロジェクトでした。これにより、『クロノ・トリガー』は『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』の要素が融合した、非常に注目度の高い作品となりました
仕掛け人!?伝説のジャンプ編集長「鳥嶋和彦」
鳥嶋和彦は、「伝説のジャンプ編集者」として広く知られています。彼はもともと月刊PLAYBOY日本版で小説の編集を目指して集英社に入社しましたが、意に反してジャンプ編集部に配属されました。マンガに馴染みがなかった鳥嶋は、手塚治虫やちばてつやの名作を研究し、マンガ編集の技術を身につけました。
編集者としての才能を発揮し、3年目には新人マンガ賞の落選原稿の中から無名の新人・鳥山明を見つけ出し、彼と共に「ドクタースランプ」を生み出しました。500枚ものボツ原稿を乗り越えたこのギャグマンガは大ヒットを記録し、鳥嶋自身も作品の悪役・ドクターマシリトとして登場しています。その後も鳥山とのコラボレーションで「ドラゴンボール」が誕生し、世界規模で大成功を収め、鳥山明の名声を不動のものとしました。
鳥嶋はその後も才能を見いだし続け、恋愛マンガ「電影少女」の作者・桂正和を発掘したり、ゲーム業界の主要人物と繋がり、国民的ゲーム「ドラゴンクエスト」の誕生に一役買うなど、マンガ編集者の枠を超えた幅広い活躍を見せていました。彼の多才な才能と情熱は、数々のヒット作とその背後にあるクリエイターたちの成功を支える原動力となりました。
創世記のエニックスとの関わり
創世記のエニックスとの出会いについて、鳥嶋は次のように語っています。
当時、自身(鳥嶋和彦)が担当していたパソコンゲーム特集では売上に苦労していました。そんな中、千田氏(※千田夏光氏、エニックスの創設者)が持ち込んできた企画が、ゲームソフトのコンテストで、優勝賞金100万円を設けるというものでした。しかし、その時のエニックスはまだ公営住宅の申し込み代行業を行っていた会社で、パソコンソフトの問屋卸業に乗り出したばかりでした。
千田は、その賞金をかけて各出版社に協賛をお願いして回っていたところ、鳥嶋のもとにも持ち込まれました。既にNHKが協賛していたと思われるその企画は、鳥嶋にとってちょうどパソコン特集の次の展開を考える良いタイミングでした。そこで彼は千田に対し、「ジャンプの独占で協賛をやるから、他の雑誌には一切持ち込まないでくれ」と言い、エニックスとの協力関係が始まりました。
ジャンプにファミコン情報の企画を導入!
当時の鳥嶋和彦は、「マガジン」ではなく「コロコロ」に焦点を当てるよう主張していました。80年代になると、彼の提案で「ジャンプ」に定期的にファミコン情報を掲載した袋とじ企画が導入されました。これは、「サンデー」や「マガジン」と違い、「ジャンプ」はアイドルグラビアを載せず、記事ページも少なかったため、鳥嶋の企画は「ジャンプ」的には異端とされていました。
しかしこの決断は正解でした。
鳥嶋は、ライターだった堀井雄二氏と共にファミコンゲームの裏技を暴露する「ファミコン神拳」を作成し、堀井が制作していた『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインに、自身が担当していた鳥山明を起用することになりました。これは広く知られた事実です。
「Dr.スランプ」がヒットし始めた頃、週刊プレイボーイから取材依頼があり、その時のライターが後に「桃太郎電鉄」を生み出すさくまあきら氏でした。鳥嶋は彼と親しくなり、その繋がりから堀井雄二とも知り合いました。鳥嶋は社外のライターを積極的に起用し、「ジャンプ放送局」や「ファミコン神拳」などを誕生させました。
しかし、当初は社外の人間を使うことに同僚から反発がありました。アンケートが外に漏れることを懸念していましたが、結局、会議室で作業を行い、編集部内には入れないという条件で企画が通りました。アンケートで高評価を得ることで反対意見はなくなりましたが、「漫画だけやっていればいいのに、エネルギーのムダだ。バカなことやってる」という陰口は聞こえてきました。
Vジャンプの創刊編集長
鳥嶋の力により、「ジャンプ」はさらに進化を遂げました。1989年から『ドラクエ』の外伝的マンガ『ダイの大冒険』が連載されました。さらに1993年には、ゲーム情報誌とマンガ誌の組み合わせである「Vジャンプ」を企画し、初代編集長に就任しました。
1996年には『週刊少年ジャンプ』に戻り、編集長として新人育成やメディアミックス化を指揮。『遊☆戯☆王』(1996-2004)、『ONE PIECE』(1997-)、『NARUTO -ナルト-』(1999-2014)などのヒット作を生み出しました。
その後、メディアミックス展開の手腕が評価され、ライツ事業部長および週刊・月刊・Vのジャンプ三誌を統括する第3編集部長を兼務しました。
その後も、集英社専務取締役を経て、現在は株式会社白泉社の顧問として活躍しています。鳥嶋の多岐にわたる活躍は、「伝説のジャンプ編集者」としての評価を確立し、日本のマンガ・ゲーム業界に多大な影響を与えています。
Vジャンプの創世記…。何か強力な一本が必要だった
Vジャンプ創刊当初、強力な何かが必要でした。
「このままでは堀井の才能の無駄遣いになる」
当時、鳥嶋は、ドラゴンクエストシリーズの1、2、3が成功し、堀井雄二が優秀なゲームクリエイターとして評価されていたことを認識していました。
しかし、シリーズが4、5と進むにつれて、ドラゴンクエストがゲームとして行き詰まっていくように感じました。鳥嶋は、堀井が自身の成功体験から抜け出せず、ゲームの成功に囚われていると感じてたのです。
通常であれば、漫画の編集者のように、ゲームのプロデューサーやディレクターが新しい方向性を見つけ出し、壁を突破するアシストをするはずでした。そういう意味で、鳥嶋はドラゴンクエストのプロデューサーである千田に対して、何度もアドバイスを提供していました。
「このままでは堀井の才能の無駄遣いになる」と考えていた鳥嶋は、千田にその旨を伝えましたが、千田は編集者や作家を育てることができなかった人物だったためか、その話は受け入れられませんでした。
堀井雄二(ドラクエ)とスクウェア(FF)を引っ付ける
鳥嶋は堀井に新しい可能性を切り開いてほしかったと考えており、そのためにシナリオを堀井が担当し、プログラムやビジュアルに関しては当時一流だったスクウェア(坂口氏のところ)と組むことを提案しました。
また、鳥山明も中世の物語だけではなく、様々なキャラクターや悪役、メカなどを描きたいと考えていました。坂口はそのアイデアを聞いて興味を持ち、このプロジェクトに動き出しました。
こうしてクロノトリガーが生まれました。鳥山明が描きたかった、ロボットや怪獣など、ドラゴンクエストでは描かれていない要素も次々と登場していきました。
仕掛け人の鳥嶋は、この新しいプロジェクトに対する野心や邪心があったと言っています。
Vジャンプとコラボ
鳥嶋和彦は、Vジャンプで新しい一本を立ち上げて、新しい名刺を作りたいと考えていました。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーは週刊少年ジャンプで取り扱われていたものだったので、クロノトリガーをVジャンプでメインにすることで新しい旗を立てることができると考えていました。
「ドラクエ+FF=ナンバーワン」Vジャンプの目玉がクロノトリガー!ダメならドラクエから鳥山明を引き抜く
鳥嶋は、「ドラゴンクエスト+ファイナルファンタジー=ナンバーワン」という切り口で予定稿を用意し、千田にもファックスで送りました。
しかし、千田から「勘弁してくれ」という返事が来たにもかかわらず、鳥嶋は強行突破しました。「もう出ちゃったものだから」と言い、話し合いを試みましたが、結局千田氏からはOKがもらえませんでした。
もし本当にダメな時は「いざとなったらドラゴンクエストから鳥山明を引く」という言葉を用意していたと鳥嶋は言っていました。
初めは仲良くなかった??鳥嶋和彦が坂口博信を呼び出してディスる(笑)
FFの生みの親である坂口博信と鳥嶋和彦の出会いは、『ファイナルファンタジーIII』(FFIII)の発売当時にさかのぼります。鳥嶋から話がしたいと呼び出された坂口氏は、その席でキャラクターが立っていないというダメ出しを受けました。
しかし、坂口氏はこれを単純な文句として捉えず、鳥嶋の言葉を真剣に受け止め、100%吸収しようと考えました。
FINAL FANTASY IVは却下
坂口は、鳥嶋からの指摘を受けて、キャラクターについてずっと考え続けました。『ファイナルファンタジーIV』ではある程度キャラクターが立たせることができたと感じており、これは鳥嶋との会議室での話のおかげだと述べています。
しかし、『FFIV』を編集部に持って行った際には、まだ扱ってもらえず、「まだだな」と言われたそうです。
FINAL FANTASY Vからはタイアップ!
鳥嶋は、『ファイナルファンタジーV』から『ドラゴンクエスト』のようなタイアップを試みましたが、それがうまくウケなかったと語ります。
彼は、『ドラゴンクエスト』が鳥山明の絵があることでキャッチーだったと指摘しています。一方、当時の『ファイナルファンタジー』は天野喜んの絵だったものの、ジャンプではウケなかったといいます。
ここで新たな手法を取り入れる!未完の状態で見せる!
結果として、『FFV』の売上は前作の2.5倍になりましたが、最初の誌面での人気は厳しかったため、鳥嶋と坂口はゲームに映画のスチールの考え方を取り入れることにしました。
つまり、ゲームがまだ完成していない段階で中途半端に見せるのではなく、いきなりキービジュアルを作りこんで見せ、その後にゲームを作り込んでいく方法を取り入れました。これが、現在のゲーム記事の出し方の始まりとなりました。
これを徹底的に実施したソフト!それが『クロノ・トリガー』
鳥嶋は、その方法を徹底的に実践したのが『クロノ・トリガー』だと語っています。まずは鳥山明さんが各シーンの絵を描き、それに合わせてスクウェアがゲーム画面を作り、ゲームがそれを縫うように制作されました。
ただし、鳥嶋は、今の鳥山さんにはあの時の絵が描けないだろうと述べ、鳥山さんの才能が全盛期だったことが重要だったと指摘しています。
トリガーの続編!?「クロノ・クロス」
1999年11月18日に発売されたプレイステーション用ソフト『クロノ・クロス』は、名作RPG『クロノ・トリガー』の後継作品として、二つの世界をまたぐ壮大な冒険を描いています。
本作では、40名以上の仲間が登場し、プレイヤーの行動や選択肢によってさまざまな仲間と共に冒険を楽しむことができます。
パラレルワールド
物語の核となる時間へのアプローチは、『クロノ・トリガー』のタイムトラベル型とは異なり、『クロノ・クロス』では異なる展開をたどるパラレルワールドを行き来する形式を採用しています。これにより、『クロノ・クロス』は『クロノ・トリガー』とは明確に異なる刺激を提供しています。
同じ世界観を持ちながらも、前作の要素をそのまま継承せず、独自性を追求した本作は、新たな可能性に挑戦したことが作品の様々な部分に現れています。
クロノ・トリガーとの繋がり
『クロノ・トリガー』と『クロノ・クロス』の関係は、シナリオが複雑で一見わかりづらいものの、両作品をプレイして深く考察することで、密接な関係があることが理解できます。また、ゲーム内では明らかにされない謎や設定が多く存在し、それらは関連書籍でのみ公開されています。
トリガーとクロスの間のゲーム「ラジカル・ドリマーズ –盗めない宝石-」
『ラジカル・ドリーマーズ』は、1996年2月3日にスーパーファミコンの「サテラビュー」専用ソフトとして誕生しました。
サテラビューは任天堂が提供していたスーパーファミコン向け衛星データ放送の受信端末で、衛星データ放送によるソフト配信が終了すると入手手段が途絶えるため、中古市場では本作のデータ入りメモリーパックが高騰しています。
本作には7つのシナリオが用意されており、「kid 盗めない宝石」編は『クロノ・クロス』の原型となっています。このシナリオでは、貴族の屋敷に潜入して秘宝を盗むストーリーテリングのもと、ラジカル・ドリーマーズ一行の活躍やキッドと宿敵「ヤマネコ大君」の因縁が描かれています。
さらに、『クロノ・トリガー』の登場キャラクター「ルッカ」がキッドの成育に深く関わっており、「クロノ」や「マール」といったメインキャラクターの存在も垣間見ることができます。
『ラジカル・ドリーマーズ』のメインシナリオが『クロノ・クロス』の原案になったことは、主人公のセルジュがそのまま『クロノ・クロス』でも主役を務めていることから明らかです。
本作は、スクウェア(現スクウェア・エニックス)が手掛けたスーパーファミコンの名作『クロノ・トリガー』の正式な続編であり、加藤正人氏(脚本/演出)や光田康典氏(音楽)といったスタッフも同作から引き続き開発に参加しています。
幻に終わったさらなる続編「クロノブレイク」
『クロノ・ブレイク(CHRONO BREAK)』は、2002年頃にスクウェア(現スクウェア・エニックス)によって日本、欧州、米国で登録された商標名でしたが、現在はすべて失効しています。
2006年にGame Spotのインタビューで、坂口博信氏が新たなクロノシリーズの制作に前向きな姿勢を示すなど、本格的な続編の開発への期待が高まりました。
しかし、その後は開発が公に発表されることなく、続編を開発すると思われていた1999年発売の『クロノ・クロス』の開発チームからもスクウェア・エニックスを離れていくスタッフが増えていきました。結局のところ、続編と思われていた『クロノ・ブレイク』の名前は、現在も日の目を見ていません。
ただし、『クロノ・ブレイク』は2017年にも話題となり、『クロノ・トリガー』でディレクションを担当した時田貴司氏がIGNのインタビューで、『ファイナルファンタジー レジェンズ 時空ノ水晶』は『クロノ・ブレイク』のオリジナルコンセプトをベースに作っていると答えています。
これにより、少なくとも一部のコンセプトは別の作品に生まれ変わった形で実現されていると言えますが、『クロノ・ブレイク』としての続編は現時点では存在していません。
ファンが続編を作っていた!「クロノ・リザレクション」
『Chrono Trigger: Resurrection』は、非公式のリメイクプロジェクトであり、ファンによって製作が進められていました。しかし、2004年9月6日に製作停止が発表されました。これは、『クロノ・トリガー』の著作権を持つスクウェア・エニックスから、製作の中止を求められたためです。
著作権侵害の問題や商業利用の懸念があるため、非公式のリメイクや続編はしばしば開発元や権利者から中止要請が出されることがあります。それにより、『Chrono Trigger: Resurrection』のようなプロジェクトは、結果として実現しないまま終わってしまうことが多いのです。
ファンの手によって『クロノ・ブレイク」トレイラーが完成!
幻の『クロノ・ブレイク』に対するファンの期待と愛情は依然として根強く、『Owlboy』の開発者Simon S. Andersenは独自に制作したトレイラーを発表しました。彼の努力や技術力が詰まったトレイラーは、クオリティが非常に高く、ゲームへの敬意と愛情が感じられます。
今もファンはクロノの新作を心待ちにしている!
『クロノ・クロス』の発売から20年近く経った現在でも、『クロノ・ブレイク』のような新作への期待や興味はファンの間で続いており、このトレイラーがその願望や情熱を象徴しています。残念ながら、実際の開発が進行していないことを考慮すると、幻の作品として語り継がれることが続くでしょう。しかし、このようなファンアートや独自制作のトレイラーが、クロノシリーズへの愛を示す素晴らしい表現であり、この作品が人々の心にどれほど響いているかを物語っています。