100年以上前の日露戦争時代、愛媛県松山市の二之丸史跡庭園で、日本とロシアの国境を超えた愛の物語が生まれました。この物語は後世に伝わり、二之丸史跡庭園は恋愛スポットとして知られるようになり、今でも若いカップルに人気を集めています。
物語の主人公であるコステンコ中尉と竹場ナカ看護師の愛の物語は、国境を超えた愛の力を象徴するものとして現代に蘇り、多くの人々を魅了しています。また、この物語をもとに作られたミュージカル「誓いのコイン」は大ヒットとなり、愛媛県内の「恋人の聖地」にも認定されました。
この記事では、松山市や愛媛県の歴史や文化、そして愛媛県出身の山県有朋などの近代日本を代表する人物たちについても紹介されています。日露戦争時代の松山市の様子を描いた映画「ソローキンの見た桜」も取り上げられ、物語の魅力をさらに深めています。
The Prisoner of Sakura
「ロミオとジュリエット」ソローキンの見た桜
日露戦争時代、100年以上前の松山城はまさに歴史の舞台でした。当時、日本とロシアの国境を越えた愛の物語が生まれ、そのエピソードが後世に伝わっていきました。
この物語が広まるにつれて、二之丸史跡庭園は恋愛にちなんだ場所として知られるようになり、現在では恋愛スポットとして若いカップルに人気を集めています。
一枚のルーブル金貨
昭和59年から3年間にわたり二之丸で行われた文化財の発掘調査が、恋愛スポットとしての二之丸史跡庭園の脚光を浴びるきっかけとなりました。発掘調査で巨大な井戸と多くの庭戍病院関係の物品が出土し、関係者を驚かせたことが話題となりました。
2010年にこれらの物品の整理が行われた際、1枚の帝政ロシア時代の10ルーブル金貨が発見され、その金貨に名前が刻まれていることが判明しました。
二人の名前が刻まれていた
この10ルーブル金貨に刻まれていたのは、日露戦争で捕虜となったロシア軍人「コステンコ ミハイル」の名前と、「タチバ ナカ」という文字でした。
コステンコ中尉
ミハイル・コステンコ中尉は、ロシア陸軍第3東部シベリア砲兵旅団に所属していた人物で、絵画が趣味であったことが知られています。彼が描いた水彩画が松山の人々に贈られ、そのエピソードが後世に伝わっていることから、彼と地元の人々との交流があったことが伺えます。
コステンコ中尉は足を負傷しており、当時、二之丸史跡庭園のある場所に存在していた衛戍病院(旧陸軍病院)に入院していました。衛戍病院は日露戦争時に傷病兵や捕虜の治療を行うための施設であり、彼はそこで治療や看護を受けていたとされています。
女性看護婦「竹場ナカ」
金貨に刻まれた「タケバナカ」について、最初は男性の名前だと考えられていましたが、その後の調査で細い下書きから「チ」ではなく「ケ」と読めることが判明しました。
さらに、「タケバナカ」という人物がいなかったかどうか調べた結果、1904年の海南新聞に「竹場ナカ」という宇和島出身の女性看護師が衛戍病院でロシア人捕虜を収容し、働いていたことが判明しました。
100年以上前のラブストーリーが復活!
金貨の直径は23ミリで、上部にはペンダントとして加工された跡が残っています。これから考えると、コステンコ中尉が竹場ナカ看護師にプレゼントしたものであると推測されます。その後、2人が再会を誓って100年以上前に井戸に投げ込んだのではないかというロマンチックな物語が浮かび上がりました。
この金貨を巡るコステンコ中尉と竹場ナカ看護師のラブストーリーは、国境を超えた愛の力を象徴するものとして現代に蘇り、多くの人々を魅了しました。
当時敵国同士だった2人は離れ離れになってしまう
二人の恋の物語は、1904年春からコステンコ少尉の足の怪我が回復し、彼が静岡に移送される1914年12月までの出来事でした。
当時、敵国であったロシア兵との交際は禁じられていたため、コステンコ・ミハイルは静岡の収容所へ移されました。一方、竹場ナカも衛戍病院の看護師を解嘱され、二人は離れ離れになってしまいました。
コステンコ中尉はその後ロシアに帰国し、1928年に米国で47歳で亡くなりました。一方、竹場ナカ看護師は1975年に亡くなったことがわかっています。
彼らは生涯の中で再会することは叶わなかったものの、二人の国境を越えた恋愛物語は現代に伝わり続けています。二之丸史跡庭園が恋人たちの聖地として認定されるきっかけとなったこの物語は、多くの人々に愛と希望を与え、今もなお語り継がれています。
「坊っちゃん劇場」誓いのコイン
東温市の「坊っちゃん劇場」は、コステンコ中尉と竹場ナカ看護師の秘話をもとに、2011年にミュージカル「誓いのコイン」を創作しました。約1年間にわたって上演され、戦争や革命に翻弄される国境を超えた愛の物語が人々の心を捉えました。
このミュージカルは非常に大きな成功を収め、翌年にはロシアのモスクワやオレンブルグでも公演されるほどの大ヒットとなりました。コステンコ中尉と竹場ナカ看護師の物語は、劇場を通じてさらに多くの人々に伝わり、国境を越えた愛の力を象徴する物語として、多くの心を動かし続けています。
日露戦争で捕虜になったロシア人将校と日本人看護婦の悲恋を描いた愛媛県東温市の「坊ちゃん劇場」オリジナルミュージカル「誓いのコイン」が14日、モスクワで上演。将校ニコライを演じた四宮貴久さんや看護婦田島サチ役の滝香織さんらが熱演。 http://t.co/KCBxXK8c
— 関根和弘/Kazuhiro SEKINE (@usausa_sekine) September 15, 2012
この作品は2年前、松山中心部の病院跡地から、1枚の10ルーブル金貨が発見されたことがきっかけで制作されました。金貨には捕虜の名前と日本人看護婦の名前がカタカナで刻んでありました。写真はロシア人捕虜が看護婦に金貨を渡すシーンです http://t.co/U7It5Goa
— 関根和弘/Kazuhiro SEKINE (@usausa_sekine) September 15, 2012
原作は2004年のラジオドラマ
この物語の原作はラジオドラマ「~松山ロシア人捕虜収容所外伝~ソローキンの見た桜」として、2004年に南海放送が制作しました(原作:田中和彦社長)。この作品は、第1回日本放送文化大賞ラジオ・グランプリを受賞するなど、高い評価を受けました。
制作当時は創作であったストーリーが、後に金貨の発掘によってリアリティを持つようになりました。
「恋人の聖地」
ミュージカル「誓いのコイン」の人気に伴い、二之丸史跡庭園も注目されるようになり、特に若いカップルから人気を集めました。NPO法人・地域活性化支援センター(静岡市)が主催する「恋人の聖地プロジェクト」に松山市が2013年6月に申請し、同年10月1日に「恋人の聖地」に認定されました。愛媛県内では4ヶ所目、松山市内では初の認定となりました。
御影石のハート形のモニュメントが設置され、ハートの中にはラブロマンスの証である「金貨」が埋め込まれています。2013年11月2日(土)には、認定記念モニュメント除幕式が行われ、西条市の高田直樹さん・真央さん夫妻がゲストとして参加し、幕を引きました。さらに、除幕式の後、高田さんご夫妻による大井戸へのコイン投入が行われました。
これらのイベントにより、松山城二之丸史跡庭園は恋人たちが訪れる聖地として定着し、多くのカップルに愛される場所となっています。
見つかった金貨は坂の上の雲ミュージアムに展示!
戦時下で生まれたロマンスの証ともいえるこの金貨は、現在松山市にある「坂の上の雲ミュージアム」に展示されています。多くの人々がこの金貨を通して、コステンコ中尉と竹場ナカ看護師の心温まる愛の物語を知ることができます。この金貨の存在は、愛情の力が国境や時代を越えることを示す象徴として、訪れる人々に感動と勇気を与えています。
坂の上の雲ミュージアム
坂の上の雲ミュージアムは、愛媛県松山市にある歴史と文学に関する博物館です。2007年に開館し、名前は作家・司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』に由来しています。
この小説は、日本が近代化を進め、国際的な地位を確立するために奮闘した時代を描いており、主人公の一人である愛媛県出身の山県有朋を中心に、その時代の日本の歴史や文化を紹介しています。
ミュージアムでは、山県有朋や松方正義、乃木希典などの近代日本を代表する人物たちに焦点を当て、彼らの功績やその時代の歴史・文化を展示しています。
また、コステンコ中尉と竹場ナカ看護師の金貨をはじめとしたさまざまな資料も展示されており、歴史に興味のある人々には大変魅力的な場所となっています。
松山市内にある松山城や道後温泉といった観光名所に近いため、観光客にも人気のスポットです。また、ミュージアムには司馬遼太郎の作品や日露戦争に関する展示もあり、文学や歴史に興味のある方にも楽しめる内容となっています。
日本とロシア合作!!映画「ソローキンの見た桜」
「ソローキンの見た桜」は、日露戦争時代にロシア人捕虜が日本に収容されていた松山の様子を描いた物語をもとにした映画です。
この映画は、日本とロシアの共同制作により実現しました。物語は、2004年に南海放送が制作したラジオドラマ「~松山ロシア人捕虜収容所外伝~ソローキンの見た桜」(原作:田中和彦社長)に基づいています。
映画では、日露戦争時に捕虜となったロシア兵のソローキンが松山市の捕虜収容所に送られ、そこで日本人たちと交流を持ちながら、日本の文化や風習に触れる様子が描かれています。また、捕虜収容所で出会った仲間たちとともに、戦争を越えた友情を築いていくストーリーが展開されます。
『ソローキンの見た桜』では、ヒロイン役の阿部純子さんが現代のテレビディレクター・桜子と、日露戦争時代の看護師・ゆいの1人2役を演じています。イッセー尾形さんが捕虜収容所の所長役を、ロシア演劇界の大御所アレクサンドル・ドモガロフさんが捕虜になった大佐役を演じており、豪華なキャストが揃っています。
阿部さんは、当時の日記を読んで、捕虜たちが手厚く扱われていたことに驚きました。また、松山市にあるロシア兵墓地を訪れ、そこが綺麗に掃除されていることから、当時生きていた人々の思いが現在まで続いていることを実感したと話しています。
この映画は、国や文化の違いを越えた人間同士の交流と理解を描いており、観る者に心温まる感動を与える作品となっています。また、日露戦争の歴史的背景を基にしながらも、普遍的なテーマである人間のつながりや愛を扱っているため、多くの国や文化の人々に親しみやすい作品です。
ロシアの映画祭に出品!!
『ソローキンの見た桜』は、2019年3月に公開された日露合作映画で、第41回モスクワ国際映画祭に正式出品されました。この作品は、日露戦争時代に松山市のロシア人捕虜収容所での出来事を基にしており、戦争を越えた人間同士の友情や愛を描いています。
第12回オレンブルク国際映画祭のコンペティション部門では、「観客グランプリ特別賞」を受賞し、多くの評価を受けました。その後、2019年10月23日にBlu-rayとDVDが発売され、さらに2020年7月30日にはロシアでも公開が始まりました。
この映画は、国や文化の違いを越えた人間同士の交流や理解を描いており、多くの観客に心温まる感動を与えています。
「マツヤマの桜」ロシア国営テレビがドキュメンタリー撮影で来日
平成30年度(2018年度)の総務省「放送コンテンツ海外展開強化事業」により、南海放送が制作したテレビ番組『マツヤマの桜』がロシア全土で放送されることになりました。
この番組は、日露戦争中の松山にあった「ロシア兵捕虜収容所」にまつわる人間愛を題材にした映画「ソローキンの見た桜」をもとに制作され、現代の松山(日本)とロシアに新たな交流を生み出すことを目的としています。
番組では、映画に出演したロシアの名優アレクサンドル・ドモガロフ氏がロシア兵墓地、松山城、道後温泉など、ロシア兵捕虜たちが訪れた場所を巡り、「何故、松山の人達がロシア兵捕虜を大切にしたか?」という疑問をロシア人の視点で解明していきます。
ロシア国営1st TV(第1チャンネル)によれば、日本で制作されたテレビドキュメンタリー番組が放送されるのは史上初で、この番組が今後の松山・ロシア交流の大きなきっかけとなることが期待されています。