【世界のスラム街】ケニアのキベラに匹敵する第2のスラム《ムクル・クワ・ンジェンガ》

この記事では、ケニアの首都ナイロビに位置するムクル・スラムに焦点を当て、その厳しい現実を探求します。ナイロビのスラム地区は、南アフリカ共和国のソウェトに次いでアフリカ第2の規模を持ち、さまざまな問題を抱えています。記事では、土やトタンで作られた仮設の建物からコンクリート製の恒久的な建物まで、異なるタイプの住居が混在する様子や、ごみの処理の欠如、有毒な廃棄物の問題などを取り上げます

さらに、水道や電力の供給不足、衛生状況の悪さ、教育の課題なども詳細に解説します。この記事を通じて、ムクル・スラムの人々が直面する困難な状況について深く理解し、問題の解決に向けた意識を高めることを目指しています。

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インド、フィリピン、ペルー、グアテマラ、エジプト、ケニア、ウガンダ――そのスラムに潜む、希望、貧困、性、子どもと老人、疫病、安寧、犯罪、幸福…。 スラムは富以外のあらゆるものを内包して、まるで生命体のように際限なく成長していく。 世界中のスラム街を鮮烈に撮り下ろした衝撃の写真集。(「紀伊國屋書店」データベースより)

Mukuru Kwa Njenga

ムクル・クワ・ンジェンガ

Africa Uncensored/YouTube

ケニアの首都ナイロビは、南アフリカ共和国のソウェトに次いでアフリカ第2の規模のスラムを抱えています。その中でも一番大きなスラムがキベラ・スラムであり、二番目に大きなスラムが「ムクル・クワ・ンジェンガ(ムクル・スラム)」です。

ナイロビのごみ山の上に広がる人々の街

ムクル・スラムは、ナイロビの東南部、工場地帯に隣接する地域に広がり、約60万の人々が生活しています。このスラムはナイロビの3大スラムの一つとして知られ、”ムクル”という名前はキクユ語で”ダンプサイト”を意味します。この名前は、スラムがごみの山の上に形成された街であることに由来しています。

ムクル・スラムの住居と暮らしの実態

一般的にナイロビのスラムと言えば、土やトタンで作られた仮設の建物が立ち並ぶ市街地を指しますが、ムクル・スラムにはこのような“スラム”だけでなく、コンクリート製の恒久的な建物が立ち並ぶ“都市的な”市街地も混在しています。

それでも、住居としては1~2階建てのトタンの長屋が一般的で、10~30世帯、すなわち40~120人がひとつの長屋で生活しています。家賃は比較的安く、他のスラムよりも若者が多く住んでいます。

スラムの働き手と若者の現実

住民の多くは隣接する工場で働くか、男性であれば建設現場の日雇い労働者や警備員、女性であればスラムの南に位置する住宅地区(エステート)で家政婦として働いています。

しかし、一方で、仕事がない若者も多く、日中は「ベース」と呼ばれる場所でたむろしています。ムクル・スラムではエイズやドラッグ問題も深刻で、これらの問題は生活環境の改善とともに解決が求められています。

川への投棄がもたらす環境汚染と水源の脅威

Nation/YouTube

ムクル・スラムでは、ごみの回収はほとんど行われておらず、その大半がそのまま川に流されてしまいます。特に深刻な問題として、ケニアが毎年約4,000万リットルの新油から約1,300万リットルの使用済み油を生産し、この大量の有毒な廃棄物の多くが、保管や安全な処分を欠いて下水道に投棄されるか、道路建設の材料として使用されています。

さらに憂慮すべきは、この危険な廃棄物のほとんどが、ナイロビのムクル・スラムを流れるゴン川など、多くのスラムコミュニティが依存する川に投棄されています。これらの川は、ムクル・スラムだけでなく、他の多くのスラムコミュニティの水源となっており、ゴン川だけでも約5,000世帯、推定50,000人の人々に水を供給しているとされています。

非合法な水道・電気供給と住民の日常的な課題

ムクル・スラムの住民たちはインフラの整備が不十分な状況に置かれ、それを補うために非合法的な方法で電気や水道を確保しています。

公共蛇口の不足と非合法な水供給からの脱却

スラム内には公共の蛇口が設置されていますが、その数が不足しており、一つの蛇口を550人が共有しているとされています。水道料金も高く、他の都市地域に比べて約9倍となっています。これは上水道が整備されていないためで、生活に必要な水は買うものとなっています。

水道会社の水道管に無断でパイプをつなぎ、水を導水してきた業者が、20Lの容器1杯あたり5ケニア・シリング(約5円)で水を販売しています。こうした状況を改善するため、市当局はトークン投入式の自動販売機を設置することを進めています。

非合法な電力供給と停電の頻発による生活への影響

電気についても同様で、電力会社から無断で電気を引っ張ってきて各戸につなぎ、その料金を徴収して生計を立てる業者が存在します。しかし、サービスレベルは低く、頻繁に停電するため、灯油で使えるランタンやローソクが必要とされます。筆者がムクル・スラムに住んでいた半年間、電気がずっと点いていた日は一日もなかったとのことです。

電力会社がスラム内に電柱を設置し、電線を張り巡らせた後でも、地元業者が自分たちの仕事がなくなることを恐れ、電力会社の電線を切って回っているという報告があります。電力会社から正規に電気を購入すれば安くて安定したサービスが得られるとはいえ、一部の住民の妨害によって多くの住民が影響を受けています。

このように、ムクル・スラムの生活は、公共インフラの不足とそれに伴う非合法的な手段での生活必需品の確保、そしてそれによる問題が日常化しています

超絶狭い空間での共同生活

ムクル・クワ・ンジェンガの土地は法的には民間の個人や企業が所有していますが、実際に建物を建設し部屋を賃貸しているのは、法的な土地所有権を持たない「ストラクチャ・オーナー」(オーナー)です。一般的な建物は11戸の中廊下型の集合住宅で、ユニット同士が道路以外の三面でぎゅうぎゅう詰めに建てられているため、部屋に外部に向けた窓はなく、すべての窓と玄関ドアは廊下に面しています。

各部屋のサイズは約3×3m、つまり約9平方メートルで、この限られたスペースに一部屋につき家族7~8人が生活する場合もあります。これは非常に過密な状態といえます。

また、各部屋には独立したキッチンがなく、水はタンクで購入し、七輪を使って調理を行います。

公衆衛生の悪化とトイレビジネスの存在

Yu Yamakami/YouTube

ムクル・スラムでは、トイレは共同使用で、道路側に3つの個室が並んでいることが一般的です。これらの中には、一つが水浴び場に利用されている場合もあります。トイレはいわゆるピット(穴)型で、地面に掘られたセメントで固められた穴に排泄物を溜めていく方式です。

しかし、これらのトイレは非常に不快な状態にあることが多く、強烈な臭いやゴキブリ、蜘蛛といった害虫により使用するのが困難です。また、トイレには電気がないため、昼間でも暗く、夜間には真っ暗になります。

このような環境は、病原菌の繁殖につながり、下痢やコレラ、腸チフスなどの感染症の発生源となります。特に5歳未満の子供たちは、下痢症により命を落とすリスクが高く、WHOによると、南アジアやアフリカを中心に世界で年間約76万人の子供が下痢症で亡くなっています。これは肺炎に次ぐ死因となっています。

フライング・トイレットと衛生問題

さらに、治安の悪さや雨天時にトイレに行くためには外に出なければならないという理由から、一部の人々はビニール袋に排泄物を入れて外に投げ捨てる行為を行っています。これは「フライング・トイレット」と呼ばれ、衛生状態の悪化を助長しています。

ビジネスとしての排泄物回収と衛生状態の維持

ムクル・スラムの長屋のオーナーは、トイレの穴が排泄物でいっぱいになると、汚物回収業者を手配して排泄物を処理してもらいます。通常、男性2人組の業者がタイヤ付きの手押し車にドラム缶を載せて現れ、スコップを使って穴から汚物を取り出し、ドラム缶に移します。

業者は回収した排泄物をマンホールから下水管に流したり、川に捨てたりして処理します。このサービスには、200リットルのドラム缶1杯あたり250~500ケニア・シリング(1ケニア・シリング=約1円)の料金がかかります。料金に幅があるのは、汚物の回収場所から廃棄場所までの距離や道路状況によって変わるためです。遠い距離や細い道、ぬかるんだ道など、道の状態が悪い場合は料金が高くなります。

汚物回収業者にとっては、これがビジネスであり、労働の負荷に応じてサービス料金を設定しています。このようなサービスは、スラム地域での衛生状態を維持するために重要であり、現地の住民にとっては必要不可欠なものとなっています。

パブリック・トイレとビジネス

長屋にトイレがない住人や学校の子供たちはパブリック・トイレを使用します。商店街で働いている人や外出中の通行人なども同様にパブリック・トイレを利用します。大人の使用料は一回あたり5ケニア・シリング、子どもは2ケニア・シリングというのが一般的な価格です。また、月極の契約も提供されています。

パブリック・トイレは、オーナーによって設置・管理・維持が行われます。オーナーはトイレを設置し、日々掃除を行い、壊れたときは修理をし、汚物が溜まったら汚物回収業者を手配します。初期費用を回収し、メンテナンス費用をまかなうために、使用料を徴収しています。つまり、パブリック・トイレの提供もまたビジネスとして運営されているのです。

「チャンガー」ナイロビの密造酒問題と人々への深刻な影響

ナイロビのムクル地区では、密造酒による被害が報道されています。病院に運ばれる人の数は日ごとに増え、これまでに113名が死亡し、400名以上が入院しています。命を救われても失明するケースもあります。この密造酒「チャンガー」には、有毒なメタノール(メチルアルコール)が含まれていることが原因です。

チャンガーによる被害はケニア国内で初めてではなく、都市部や農村部を問わず販売されており、毎年何百人もの犠牲者が出ています。

密造酒は違法ですが、取り締まりが甘く、警察官が口止め料として飲んでいるケースもあるため、白昼堂々と売られています。密造酒は安価であり、コップ1杯が10ケニア・シリング(約15円)で販売されていることから、「クミクミ」とも呼ばれています。一方、ミルクティーは1杯6ケニア・シリング、ビールは1本50ケニア・シリングです。スラム地区では、「クミクミ」は安く、おいしく、悩みを忘れさせる効果があるとされ、日常的に飲まれています。

しかし、密造酒の危険性を知らない人も多く、被害者の家族は「たった10ケニア・シリングで命を落とした」と悲痛な声を上げています。

公立学校不足と地域資源の活用による「ノンフォーマルスクール」の台頭

ナイロビという大都市でありながら、公立学校の供給は不十分で、特にムクルスラム地区(人口約7万人)では公立学校は6校しか存在していません。この公立学校不足を埋める形でノンフォーマルスクールが台頭しています。

ノンフォーマルスクールとは、国の施設基準を満たしておらず、教育省の認可を受けていない学校のことを指します。

ノンフォーマルスクールは、社会開発省から「自助努力団体」として認可を受けているものの、この認可は施設の整備状況や教育内容については考慮されていません。そのため、質の保証は困難で、学校間での教育の質に差があることがあります。

ムクル・スラムのノンフォーマルスクールの取り組み

ムクルスラム地区には少なくとも70校のノンフォーマルスクールが存在し、多くの学校は地元の子どもを集め、賃貸住宅の一部を教室にすることで始まります。地元の非政府団体(NGO)であるメルシー・ムクルが運営する4つの小学校には合わせて約7000人の生徒が通っています。

しかしながら、これらの学校は資源が限られており、トイレや校庭を持つことができず、地域のトイレを有料で借りたり、路地や空き地を校庭として使っています。また、給食の提供がないため、子どもたちは昼休みに自宅に帰って食事を取る必要があります。これらの学校は地域の資源を活用することで運営が可能となり、学校空間を地域に広げることで成り立っています。

学習の機会を提供し、進学の道を拓く

これらの学校は公式の認可を受けていないかもしれませんが、それでも地域の子どもたちに学習の機会を提供しています。

その一方で、ケニアの教育制度では、ノンフォーマルスクールの生徒もKCPE(Kenya Certificate of Primary Education)の受験資格を得ることができます。KCPEは小学校卒業のための試験であり、これに合格するとSecondary School(高等学校)に進学する道が開かれます。これは、公立学校に通うことができない子どもたちにとっても、一定の教育水準を達成し、さらなる教育の機会を得るための重要な手段となっています。

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