ラゴスはアフリカ最大の都市であり、その中でもマココ地区はラゴス最大のスラムの一つとして知られています。15~20万人が住むこのスラム地区は、ラグーン上に建てられた簡易住宅が密集し、公式には存在しないとされています。
マココ地区の住民たちは、限られたリソースを駆使して生活を営み、洪水やインフラの問題にも立ち向かっています。しかし、政府はこの地区を取り壊し、近代的なビジネス都市に変革しようとしており、スラム住民と政府との間で衝突が絶えません。この記事では、アフリカのスラム地区であるマココの実情や、都市化が進む中での問題点について紹介しています。
Makoko
ナイジェリア
ナイジェリアは西アフリカに位置する国で、現在の人口は約1.8億人ですが、その人口は急速に増加しています。2019年の推定人口は約2億人で、今後も増加傾向が続くとされています。2050年には約4億人に達すると予想されており、それによりナイジェリアは世界第5位の人口規模を誇る国となるでしょう。
ナイジェリアは、人口増加が続く一方で、経済格差と貧困の問題に直面しています。2019年時点で約2億人の人口がいる中で、8,000万人が貧困線以下の生活を送っており、政府が定める国内貧困線に対する貧困率は64%と高い水準にあります。
国内の貧困問題は、教育、医療、雇用、インフラなどの不十分さによって悪化しています。また、地域間の格差も大きく、特に北部地域では貧困が深刻化しています。このような状況は、社会不安や犯罪の増加、過激派組織の台頭など、さまざまな問題を引き起こしています。
ナイジェリア政府は、貧困削減や経済成長を目指し、様々な政策を実施していますが、これまでの成果は限定的であり、国際社会の支援が引き続き求められています
ナイジェリアの貧困人口がインドを抜いて世界最多
ナイジェリアはアフリカ最大の石油生産国であり、石油収入が国の主要な財源となっています。しかし、石油収入に頼る経済構造が、政府の財政に大きな問題を引き起こしています。石油価格の変動や産業の非効率性、そして腐敗の問題などが、国の財政を圧迫しているのです。
ブルッキングス研究所の報告によれば、ナイジェリアの国の総収入の半分以上が公債の返済に充てられており、これが国内の貧困問題の悪化につながっています。極度の貧困人口に関しては、同研究所が昨年報告したところによれば、ナイジェリアはインドを抜いて世界最多となっています。
強盗、殺人、誘拐などが日常的に発生
食事にも困るような生活を送る人々が多いことで、社会の不安定さや犯罪が増加しているのです。強盗、殺人、誘拐などの犯罪が日常的に発生し、これが外国人や在留日本人にも影響しています。90年代には1,000人いた在留日本人も、現在では約30人に減少しています。
ストリートチルドレンの問題も深刻で、ラゴス市内だけで10万人がいると言われています。彼らの多くは、悲惨な状況に置かれています。男子の場合、マフィアの手下として麻薬の密売に利用されることが多く、女子の場合は買春者に売り飛ばされることが多いとされています。
政治家による不正蓄財が200億円以上
ナイジェリアでは、腐敗が政治家や政府機関に広がっており、これが国内の社会や経済問題の一因となっています。政治家の不正蓄財は、他国を上回るほどの規模で、州知事の資産が200億円前後、元大統領の資産が兆円単位であるとされています。
また、報道によれば、上院議員の歳費が2億円、議長の歳費が6億円であるといわれており、これがインフラ整備の遅れに繋がっています。道路の悪化や電力供給の不安定さは、国民の生活に大きな影響を与えています。
7割の人々が1日1ドル以下で暮らす大都会「ラゴス」
ナイジェリアはアフリカ最大の人口と経済規模を誇っており、経済の中心地であるラゴスは人口約1,600万人のメガシティとなっています。ラゴスは、国際的な商業の中心地であり、グローバル企業が進出しているほか、超大型開発プロジェクトが進行中です。これにより、ラゴスの成長は急速に進んでおり、国内および国際的な経済活動の重要な拠点となっています。
ラゴス市は、ナイジェリアの経済成長の中心地でありながら、貧困問題が深刻です。約7割の人々が1日1ドル以下で暮らす貧困層に属しています。全国から仕事や機会を求めて人や資金が流れ込む一方で、急速な人口増加が犯罪率の上昇に繋がっています。
80年代のクーデター以降、ラゴスはアフリカ全土でも治安が悪いことで有名で、貧富の差が拡がり、スラム街の拡大に歯止めがかからない状態が続いています。
坂本龍一が「Riot In Lagos」という曲を作ったことも、この現実を象徴しています。
ラゴスの危険な生活環境『マッドマックス』のような世界
ラゴスの治安の悪さや困難な生活環境は、市民にとって大きな懸念事項です。23歳のソフトウェア開発者ティミさんは、「ここは『マッドマックス(Mad Max)』みたいな世界だ。頭脳明晰じゃないと、けがすることになる」と述べており、日常生活における危険性を感じています。ティミさんの弟でラゴス大学で電気工学を学ぶタデさん(19)も、携帯電話を取り出すだけで危険な状況になることがあり、泥棒がハエのように寄ってくると語っています。
これらの証言は、ラゴス市民が直面する治安の問題や生活の困難さを示しています。
世界最大の海上スラム「マココ」
ラゴスは、サハラ以南アフリカ最大の都市で、人口1500万人を抱えています。その中でもマココ地区は、ラゴス最大のスラムの一つで、「アフリカのベネチア」とも揶揄されることがあります。
マココ地区は、ラグーン(潟湖)上に建てられた簡易住宅が密集しており、住民は日々の衣食住を満たすために何とか仕事を見つけて生活しています。子どもたちは裸足でドブの中を駆けずり回り、日本人から見ると典型的な「貧しい生活」を送っていると言えます。マココ地区の状況は、イギリスのテレビ局BBCがナイジェリアの三大スラム特集で取り上げるほど、見た目にもわかりやすいスラムです。
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東京ディズニーランドと同規模の巨大なスラム
マココ(Makoko)は、ナイジェリアの旧首都ラゴスの海沿いにある大規模なスラムで、15~20万人が住んでいるとされています。マココはファヴェーラのようなスラムで、住民自身の手で建てられた簡易住宅が密集しています。
マココは海上部分と埋め立てられた陸地部分からなっており、地方や隣国からの貧困層が引き寄せられています。このスラム地区の面積は約50ヘクタールと推定されており、東京ディズニーランドと同規模です。
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地名の由来は「マホホの儀式」
マココという名前は、初代酋長の孫によると、集落で重い罪を犯した者を罰する儀式「マホホ」に由来しているとされています。マホホの儀式では、罪人を舟に縛り付け、周りの者たちがドラムを叩きながら罪人の名前を連呼して辱め、コミュニティから追放するというものです。
このインパクトある儀式のために、周辺の住民からは「マホホの儀式を行う水上集落」として認識されました。そして、「マホホ」が次第に「マココ」に転じていき、最終的にそのまま地名になったとされています。このように、マココという名前は、独特で強烈な成り立ちを持っています。
「法的所有権なし」で公式認定されず…。マココの住民たちが直面する問題
マココという街は、公式には存在しないとされています。人口は推定で30万人とも言われていますが、正確な数は誰も知りません。住民たちが暮らす、今にも倒壊しそうな家々は、この街の開発計画や地図には登場しません。
スラム地区であるマココは、都市計画や地図作成の際に無視されることが多いため、その存在が公式に認められていないと言われています。また、スラム地区は法的な土地所有権がない場合が多く、住民が土地や住居に対する権利を持っていないことも、マココが公式に認められない理由の一つです。
公式に認められた居住地ではないため、基本的なインフラ設備が整っていません。上下水道のような水道設備がなく、住民たちは清潔な飲料水を確保するために苦労しています。また、多くの家庭では電気やガスが利用できず、生活のために炭やろうそくを使わざるを得ません。
家々は木の板で作られており、隙間も多く、家の中で小さな物を落とすと、海中に紛れ込んでしまうことがあります。これは、衛生面や安全面での問題を引き起こし、住民たちの生活にさらなる困難をもたらします。
マココの住民は基本的なインフラや公共サービスへのアクセスが制限され、貧困や生活の困難に直面しているのです。
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居場所を失った人々が海の上に街を建設
ラゴスは、ほぼU字型に入江を取り囲むような都市で、その中心に巨大な内海があります。近年、何百万という人々がこの都市に流入し、その結果土地が不足して都市の周縁部にどんどん居住区が拡大していきました。
かつてはのどかな漁村が広がっていた沿岸部も開発が進み、多くの人々が行き場を失いました。彼らは次第にマココと呼ばれる町に集まり始め、やがて世界最大の水上スラム街を形成することとなりました。
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マココの日常風景
マココの日常は、近くで捕れた小魚を焼く煙が立ちこめる光景が特徴的です。木製のボートに乗って揺られる住民たちは、狭い水路を行き交い、学校や自宅に向かいます。また、飲料水を載せたボートをこぐ子どもや日用品を売る女性、海で遊ぶ子どもたちの姿があります。
テクノロジーの普及が遅れており、先進国のような誰もがパソコンやスマートフォンを所持する暮らしとは程遠い状況です。しかし、大変な状況であっても、住民たちは何とか生活する術を見出しています。彼らは、手元にある素材を活用して、家やボートなどの生活必需品を作り出しています。
住民たちは、限られたリソースを駆使して生活を営んでいます。自然の恵みを最大限に活用し、魚や薪を使って食事を調理し、木材や廃材で家やボートを建造しています。このような工夫と生活力は、マココの住民たちが困難な状況にも耐え抜く力の源となっています。
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マココの住む民「エグン族の歴史」
マココに暮らす多くの住民は、エグン族という少数派民族です。一方、ナイジェリアの市街地に住む大多数はヨルバ族で構成されています。エグン族はもともと、ベナンやナイジェリアなどの水辺に住んでいた民族で、水上生活に長けていました。彼らは魚を捕る技術に優れており、マココでは様々な種類の魚が取れます。また、彼らは伝統的な漁法を守りながら、持続可能な漁業を行っていることも特徴です。
エグン族の移住とラゴス・ラグーンへの定住
豊かな漁場を求めて、エグン族は何度も移住を繰り返しました。彼らは船で移動し、魚がよく取れる水辺で暮らしていたのです。最終的に、エグン族はナイジェリアのラゴス・ラグーンにたどり着き、マココという水上集落を築くことになります。
植民地時代と国境線の影響
フランスとイギリスが植民地支配を行っていた時代、国境線が引かれましたが、マココの住民たちの生活には大きな変化は訪れませんでした。彼らは今でもベナンとナイジェリアを自由に行き来し、国境を越える際には、ナイジェリアでは「私はナイジェリア人だ」と言い、ベナンでは「私はベナン人だ」と主張してパスポートを見せずに国境を越えています。
国境を超える歴史
エグン族の魚民たちは、歴史的に何百年も国境線が存在しない状態で、自由に行き来していました。しかし、国境線が引かれることにより、人々がマココに移住することが違法となりました。このため、政府はマココを認めがたく、空白地帯として扱われることが多いです。
国境問題とマココの住民のアイデンティティ
マココの住民たちは、国境問題により民族や国家のアイデンティティが曖昧になっています。彼らはヨルバ族やエグン族など、さまざまな民族が混在しており、ナイジェリアとベナンの国境地帯で暮らしているため、国籍も明確ではありません。この状況は、マココ住民にとって大きな課題となっています。
マココ地区の貧困とインフラ問題
マココ地区はナイジェリア最大の貧困地区とされており、ラグーンに面していることから水害が深刻な問題となっています。雨季には町中がひどい洪水に見舞われ、住民たちは大変な苦労を強いられます。
カヌーを利用した移動と洪水の影響
マココでは、道路などのインフラが整っておらず、移動手段は基本的にカヌーが主となります。雨が降るとすぐに洪水が発生し、家が浸水することがあります。このため、子どもたちが学校に通えないことも少なくありません。
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教育へのアクセスの制約
洪水やインフラの問題により、マココの子どもたちは思うように学校に通えないことがあります。これは、彼らの教育や将来の機会に大きな影響を与えています。教育へのアクセスの改善が求められています。
過酷な環境で生きる子供たち
マココ地区では、女性1人当たり5~6人の子どもを生むことが平均的で、全体では数万人から数十万人が暮らしているとされています。また、一夫多妻が一般的であり、男性が複数の妻と子どもを持っていることが珍しくありません。
一部の男性たちは、職につかず、稼いだお金をすべて酒につぎ込むことがあるため、家族を抑圧した状況で生活させています。このような背景から、妻たちは抑圧された環境で生活せざるを得ないことがあります。
親の家事や家業の手伝いのために学校を休む子どもたちが多く、教育の機会が制限されています。また、14歳で妊娠してしまう少女や識字すらできない子どもたちも存在します。
多くの少女たちは、自分たちが得意なのは子どもを産むことだけだと思い込んでいます。これは、教育や将来の機会が限られた環境で育っていることが影響しています。
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国境なき医師団の病院開設
マココ地区などの過密状態の地域では、住民たちは生活の困難さに直面し、医師にかかる経済的な余裕がほとんどありません。さらに、公立病院が遠くにあるため、医療アクセスが制限されています。
このような状況を受けて、国際NGOである国境なき医師団(MSF)が病院を開院しました。MSFの病院には、早朝から長蛇の列ができるほど、住民たちの医療ニーズが高いことが伺えます。
一方で、周辺の病院では医師が滅多に現れず、設備がぼろぼろの状態です。そのため、患者がMSFの病院に流れてしまい、周辺病院の医師たちは「MSFのせいで患者が減った」と不満を漏らすことがあります。
沈まない学校の建設「マココ・フローティング・システム」
マココのスラムの半分は雨が降ると建物が浸水してしまうが、この問題を解決するためにオランダの建築デザイン事務所「NLÉ」が取り組んでいる。同事務所は世界中の都市開発やコミュニティデザインを手掛け、ナイジェリア人建築家Kunlé Adeyemiが代表を務めている。
彼は世界の主要都市の80%以上が水辺に位置し、特にアジアとアフリカに多く存在するため、海面上昇や洪水対策が必要だと主張している。そこで、洪水にも対応できる「マココ・フローティング・システム(Makoko Floating School)」を建設。水に浮かぶこの珍しい建築物は、「トリプル・デッカー」と呼ばれ、水位が上がっても浸水せず、快適な空間が維持できる。
マココのスラムでは、各階が約100平方メートルの「マココ・フローティング・スクール」が最大の公共空間となっており、その規模も注目を集めている。
2011年からプロジェクトを開始!
2011年にラゴスのマココ地区で始まったマココ・フローティング・システム(MFS)は、木造のピラミッド型で、プラスチック製の樽で浮上させたプラットフォーム上に3年間で建設され、1年間使用された後、正式に開校した。生徒たちはカヌーで通学し、雨季に豪雨で授業に支障が出たため、授業場所を移動していた。
次の展開へ!
しかし、2016年に暴風雨でマココ・フローティング・スクールは破壊された。それでも、MFSは世界展開が予定されており、水上都市の新しい可能性を示唆している。建築家クンレ・アデイエミ氏は、水上学校の設計をもとにミンデロに「音楽のハブ」を作成。木造で3つの浮体構造物があり、2つはライブパフォーマンス用、3つ目は最新のレコーディングスタジオとなっている。このような概念を利用して、ラゴスの水域問題も解決できるかもしれない。
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持続可能な都市開発への課題と解決策
ラゴスのスラム地区では、地方から都市部へ移住してきた人々が貧しい環境の中で柔軟かつたくましく生活しています。しかし、政府はラゴスを近代的なビジネス都市に変革しようと「メガシティ計画」を立ち上げ、スラムの撤去や不法居住者の排除を進めています。この計画の実行部隊としてタスクフォースが結成されており、スラム住民と政府との間で衝突が絶えません。
地元政府は景観改善などを理由に一部のスラムを取り壊していますが、新たな人々の流入は止まっていません。このような状況は、経済格差の拡大や都市化が進む中で、適切な住宅供給やインフラ整備が追いつかない現実を反映しています。
スラム撤去だけでなく、持続可能な都市開発や住宅政策、教育や医療へのアクセス向上など、根本的な問題に取り組むことが必要です。政府と地域住民が協力して、スラム地区の改善と住民の生活向上を目指すことが求められています。