「ハカの真実」ラグビーの先にあるマオリ文化とニュージーランドのアイデンティティ

ラグビーの試合の前にニュージーランド代表チームが披露するハカは、世界中の多くの人々にとって、この踊りの最も目立つ例の一つでしょう。しかし、ハカはラグビーのスタジアムだけのものではありません。

これは、マオリ族、ニュージーランドの先住民にとって何世紀にもわたる歴史と文化的重要性を持つものであり、彼らのアイデンティティの中心となる存在です。ハカは、挑戦や歓迎、祝賀や追悼、そして物語や神話を伝えるためのものとして伝統的に使用されてきました。

この記事では、ハカがただのエンターテインメントやスポーツの一部ではなく、ニュージーランドの魂として、そしてマオリ文化の核心としてどのように存在しているのかを探る旅に出ます。

「オールブラックスとハカ」マオリの伝統が生む絶対的な強さの秘密【ラグビー】
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世界最強のチームは、いかにしてできたのか。チームづくりから選手の育成、歴史や文化まで。その全てを詳らかにする!(「BOOK」データベースより)

NZ Maori

ニュージーランドの心、マオリの魂

Contiki/YouTube

ニュージーランドの文化や歴史を語る際、多くの人々が思い浮かべるのは、ラグビーチーム「オールブラックス」が試合前に披露する「ハカ」でしょう。しかし、ハカはただのスポーツの伝統やパフォーマンスではありません。それはマオリの文化の核心であり、その歴史、価値、そして情熱を表現するものです。

女子ラグビーとハカ

ラグビーはニュージーランドの国技とも言えるスポーツですが、この国のラグビーカルチャーは男子チーム「オールブラックス」だけにとどまりません。女子代表チーム「ブラックファーンズ(Black Fern)」もまた、国際舞台での成功と、その試合前に披露するハカで知られています。

チームの歴史とハカ

「ブラックファーンズ」は女子ラグビー界での強豪として、多くの国際試合でその実力を証明してきました。そして試合前のハカは、チームの結束力やニュージーランドのマオリ文化への誇りを象徴しています。

印象的なハカの瞬間

  • 2017年:女子ラグビーワールドカップ優勝後、感動的なハカを披露し、その情熱とプライドを世界に示しました。
  • 2022年:ワールドカップ決勝戦前には「Ko Ūhia Mai(知らしめよう)」というハカを行い、その後の試合で見事なプレイを見せました。
  • 2022年:ブラックファーンズは初めて日本戦でハカを披露し、日本のファンや選手たちもその力強さに感動しました。
  • 2023年:新しい年を迎え、その年初めての試合でハカを行い、再びその結束力を示しました。
ハカの特徴

ブラックファーンズが行うハカは、オールブラックスとの類似点も多いですが、女子チーム独自の動きやリズム、そして情熱が込められています。これは、マオリ文化の中でも女性の役割や力を表現していると言えるでしょう。

ワールドラグビー 日本チャンネル/YouTube

車椅子ラグビーとハカ

ラグビーはニュージーランドの国の象徴ともいえるスポーツですが、これは通常のラグビーだけではなく、車椅子ラグビー、特にウィールブラックス(Wheel Blacks)にも当てはまります。彼らもまた、試合前にハカを披露し、ニュージーランドのマオリ文化の価値を表現しています。

オールブラックスとウィールブラックスのハカの違い

  1. 実行者の違い: ウィールブラックスのハカは車椅子アスリートによって行われることが特徴的です。一方、オールブラックスはフィールド上で立った状態でハカを披露します。
  2. 動きの適応: 車椅子のアスリートはその動きを彼らの体力や車椅子の動きに合わせて適応させています。これにより、ハカの伝統的な動きが異なる方法で表現されることがあります。
  3. 独自性: ウィールブラックスのハカには、チームのアイデンティティや価値観を反映した独自の歌詞や動きが取り入れられています。これは、彼らの困難や挑戦、そしてそれを乗り越える強さと誇りを象徴しています。
  4. バージョンの多様性: オールブラックスのハカにはさまざまなバージョンがあり、特定の機会や対戦相手に合わせて適応することができます。
Orlando Sentinel/YouTube
映画『マーダーボール』とウィールブラックスのハカ

映画『マーダーボール』の中で、ニュージーランドの車椅子ラグビーチーム、ウィールブラックスが試合前にハカを披露するシーンがあります。

この映画は、2004年のパラリンピックに向けてカナダとアメリカのチーム間のライバル関係を中心に撮影されたドキュメンタリー作品で、身体的に障害のあるアスリートたちが車椅子ラグビーをプレイする姿を描いています。

また、スポーツや彼らの生活、そして障害を持つアスリートとしての経験についてチームが議論する様子を

映画『マーダーボール(Murderball)』にはウィールブラックスが試合前ハカを披露する様子がおさめられている。

『マーダーボール』は、2005年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画で、身体的に障害のあるアスリートたちが車椅子ラグビーをプレイする姿を描いています。この映画は、2004年のパラリンピックに向けてカナダとアメリカのチーム間のライバル関係を中心に物語が展開します。映画は、スポーツ、彼らの生活、そして障害を持つアスリートとしての経験についてチームが議論する様子を追います。

Klokline Cinema/YouTube

熱き魂の舞!多様なスポーツでのハカ!!

ニュージーランドでは、ラグビー以外の様々なスポーツでもハカを演じることがあります。

バスケットボールとハカ

バスケットボール代表のトールブラックス(Tall Blacks)は試合前に、「強く立ちなさい」を意味する「Tū Kaha(スタンド・ストロング)」というハカを行っています。

歴史的な瞬間

2014年:FIBAバスケットボールワールドカップでアメリカとの試合前にハカを披露しました。
2023年:FIBAバスケットボールワールドカップでアメリカとの試合前にハカを行いました。


「トゥ・カハ」

ニュージーランドのバスケットボール、特にトールブラックスは、スポーツ界の巨人としてはまだ若い存在です。アメリカ、スペイン、アルゼンチン、オーストラリア、そして多くのヨーロッパ諸国といった国々には長いバスケットボールの歴史と実績があります。しかし、トールブラックスはその特有の方法で、独自のアイデンティティと価値を持っています。それは、マオリの伝統と文化、そしてトゥ・カハを中心に構築されています。

トゥ・カハの中での質問「He aha tatau e tu tonu ai?(最強の嵐に立ち向かう方法はありますか?)」や、その答え、「He pakiaka, toi Ariki, toi Uru tapu,(ルーツによる強さ、選手の力と文化、そして結びつくツル)」といったフレーズは、単なる言葉を超えてトールブラックスの心の中に深く響くものです。

それはチームの団結、伝統、そしてマオリとしてのアイデンティティの源を表しています。この伝統は、チームが直面するあらゆる挑戦や困難を乗り越えるための動力となり、選手らに不屈のエネルギーを与えます。

ニュージーランド人にとって、トゥ・カハは単にパフォーマンスやエンターテインメントというわけではありません。それは国のアイデンティティ、過去の歴史、そして先祖への尊敬と繋がりを象徴するものです。

トゥ・カハを通して、トールブラックスは自らをニュージーランドの代表として戦い、国民のサポートと結束を呼びかけています。これは、共に立ち上がり、共に戦うというニュージーランド人の真の精神を体現しているのです。

FIBA – バスケットボールチャンネル/YouTube
アイスホッケーとハカ

ニュージーランド代表のルアイスホッケーチーム、アイスブラックスは、試合の前にハカを披露することで有名です。この伝統はトールブラックスやオールブラックスなどの他のスポーツチームと同様、ニュージーランドのマオリ文化を表現し、尊敬と力を示す象徴として行われています。

  • 2013年:アイスブラックスが試合の前にハカを披露したことは、注目の的となりました。この行動は、アイスホッケーの国際的な舞台でニュージーランドの独自のアイデンティティと文化を示す手段として行われました。
  • 2015年:ニュージーランドU20代表アイスホッケーチームは、南アフリカとの試合前にハカを行いました。若い選手たちがこの伝統を守り続けることは、
Jafet Soto/YouTube
野球とハカ

野球のニュージーランド代表チームも、国際的なトーナメントや試合でハカを披露して、チームの結束を示し、相手チームや観客に自国の文化と誇りを示しています。

2015年 U-21野球ワールドカップ

ニュージーランドのU-21代表は、ワールドカップの試合前にハカを披露しました。このパフォーマンスは、チームの結束を強化し、選手たちに試合への熱意とエネルギーをもたらしました。

WBSC/YouTube

2016年 U-15野球ワールドカップ

U-15のニュージーランド代表も、ワールドカップの舞台でハカを披露しました。これは、選手たちの文化的な誇りとアイデンティティを強調し、彼らの結束感と友情を深めるためのものでした。

WBSC/YouTube

2016 WBC予選

2016年、ニュージーランド野球代表チームは、シドニー、オーストラリアで開催されたワールドベースボールクラシック予選でハカを披露しました。このパフォーマンスは文化的な誇りとアイデンティティの強力な表現であり、選手たちの結束と友情の感覚を醸成しました。

TJ Smudger/YouTube

2017 WBC予選

ニュージーランドの代表チームは、この大会の予選イベントで伝統的なマオリのダンスやチャレンジを行いました。これにより、チームは自分たちの文化と伝統に敬意を表して、対戦相手や観客にその力と誇りを示しました。

JapanBall/YouTube

2022年 WBC予選

最も最近の例として、ニュージーランドの代表チームは、パナマでの予選試合でハカを披露しました。この伝統的なマオリの踊りは、チームの精神を高め、ニュージーランドの誇りとアイデンティティを国際的な舞台で発揮するためのものでした。

JapanBall/YouTube
男子ソフトボールとハカ

ニュージーランドの男子ソフトボールチームのブラックソックスも、試合前のルーティンとしてハカを取り入れています。

2009年 WBSC男子ソフトボールワールドカップ

この年の決勝戦前にオーストラリアとの対戦で、ブラックソックスはハカを堂々と披露しました。この感動的なパフォーマンスは、チームの結束を高め、相手チームや観客に彼らの決意を示しました。

Chermai/YouTube

2009年 ISFソフトボールワールドチャンピオンシップ

この年も、試合前にブラックソックスはハカを披露しました。彼らのハカは、試合に向けた集中を高め、チームの絆を強化する役割を果たしています。

Chermai/YouTube

2019年 WBSC男子ソフトボールワールドチャンピオンシップ

ブラックソックスは、この大会でも試合前にハカを行いました。チームの伝統として定着しているこのハカは、彼らのアイデンティティとプライドを体現しています。

WBSC/YouTube
女子ソフトボールとハカ

ニュージーランド女子ソフトボール代表チーム、通称「ホワイトソックス」は、その強固な結束とチームスピリットを示すため、ハカを試合前に披露しています。

1. 2016年 女子ソフトボールワールドチャンピオンシップ:ホワイトソックスのハカのパフォーマンスは、この年の大会で特に注目を集めました。

2. 2023年 Top Gun Invitational:米国カンザス州ショーニーで開催された今大会で、ニュージーランドのU18代表チーム(ジュニアホワイトソックス)が、コロラド・スターズとの初戦の前にハカを披露しました。

WBSC/YouTube

まだまだある!多様なスポーツの舞台で舞う!

ニュージーランドは、マオリの伝統であるハカをスポーツの舞台に持ち込むことで、数々の記憶に残る瞬間を作り上げています。2022年のバーミンガムでのコモンウェルスゲームズは、その最良の例といえるでしょう。

ネットボールとハカ

ネットボールの試合でイングランドを55対48で下したシルバー・ファーンズは、その勝利を祝してファンの前でハカを披露しました。彼女たちの情熱と喜びは、ハカの動きと声によって完璧に表現されました。

Sky Sport NZ/YouTube
混合ダブルススカッシュとハカ

ジョエル・キングとポール・コルが金メダルを獲得したことを祝して、ニュージーランド代表チームと観衆のキウイファンが一体となって感動的なハカを披露しました。

Sky Sport NZ/YouTube
競泳とハカ

競泳の50mバタフライで銅メダルを獲得したキャメロン・グレイは、その快挙を祝してハカを披露しました。水上のアスリートとしての彼の達成は、この特別な瞬間によってさらに記憶に残るものとなりました。

Sky Sport NZ/YouTube
ラグビー男子・女子が一緒に踊るハカ

ニュージーランドの男子と女子ラグビーセブンズ代表チームは、両チームが銅メダルを獲得したことを祝って、ハカを一緒に披露しました。このユニークな組み合わせたハカは、男子と女子のチームが一体となって戦ったことの象徴として、多くのファンの心を打ちました。

Sky Sport NZ/YouTube
ハカのやりすぎ!?問題視されたことも・・・。

このようにスポーツの舞台でのハカに関しては、これに対してはやりすぎという批判が上がりました。ニュージーランドのテレビ司会者であるヘイリー・ホルトはあらゆるニュージーランドの代表チームがハカをやろうとすることを批判しています。国際アイスホッケー連盟が会場でのハカ禁止を検討したこともありました。

しかし、その禁止は2017年に解除され、ハカは現在もニュージーランドのスポーツチームによって披露されています。この禁止は、ハカ自体に関する論争や批判とは関係がなく、むしろニュージーランドのアイスホッケーチームがハカの使用に関する争いが起きたことに起因していました。

学校とハカ

ハカは、その強烈なパフォーマンスと深い意味合いから、スポーツの舞台だけでなく、多様な場面でマオリ文化を祝うために披露されます。

例えばニュージーランドの学校でのハカ(School Haka)は、スポーツイベント、集会、またはその他の特別な機会で披露されます。

スポーツイベントでの演出

多くの学校は、ラグビーやその他のスポーツイベントでハカを披露します。これは、チームの連帯感を高めるとともに、対戦相手や観客に対する力強いメッセージを送るためのものです。ハカは、試合の前に行われることが多く、試合の雰囲気を高める役割も果たしています。

RugbyPass/YouTube

学校の特別なイベントでの演出

新学年の始まり、卒業式、文化祭などの学校の特別なイベントでハカを披露することは、そのイベントをより記憶に残るものとして、また、学校のコミュニティ全体としての結束を強化する手段としています。

PNBHS/YouTube
laul344/YouTube
「伝統と革新の融合」

学校のさまざまなイベントや行事でのハカのパフォーマンスは、その場の雰囲気やテーマに合わせて調整されることがよくあります。これにより、ハカはその場の特定の目的や意味に合わせて適応されることができます。

動きの単純化

初心者や若い生徒を対象とした学校でのハカでは、一般的に複雑な動きをなるべく単純にしています。これはハカの意味や強度を低下させるものではなく、より多くの生徒が参加できるようにするためのものです。

オリジナルのハカ

多くの学校が独自のハカを開発する過程で、その学校のミッション、ビジョン、そしてコミュニティの特色を取り入れています。これにより、学校のハカは、単なる伝統的なパフォーマンスではなく、その学校のアイデンティティの一部として受け取られるようになりました。

KHON2 News/YouTube

他のジャンルとの組み合わせ

ヒップホップやコンテンポラリーダンスのような現代的な要素を取り入れることで、ハカは多様性を持ち、より幅広い観客に魅力的になります。特に若い世代の生徒たちは、これらの組み合わせによってハカを新しい視点から楽しむことができます。

マオリ以外のパフォーマーの参加と文化研究

ニュージーランドの多文化的な背景を反映して、多くの学校ではマオリ以外の生徒もハカのパフォーマンスに参加しています。これにより、ハカは多文化的なコンテクストでの文化交流の手段としても機能しています

また、学校やコミュニティでのワークショップでは、ハカを中心としてマオリ文化の研究が行われることがよくあります。参加者は、ハカを通じて、マオリの歴史、伝統、価値観に触れる機会を持つことができます。

コミュニティとの結びつきの強化

さらに、ハカは、学生、教員、そしてコミュニティ全体との結びつきを強化する手段としても機能しています。ハカを通じて、学生たちは自分たちの文化遺産やコミュニティの価値観に対する誇りを感じることができます。

ハカの種類とその意味

ニュージーランドの地域によってはスタイルが異なるハカも存在するため、1つだけではありません。ハカは単なる民族舞踊ではなく、社会的な機能を持つダンスとしての役割があります。

ニュージーランドでは、ハカ=威嚇・挑発という意味合いだけではないようだ。一般的な民族舞踊として、相手に敬意や感謝の現れとして、結婚式や葬儀の場でもハカは披露されます。

ハカは異なるスタイルがあり、それぞれ独自の特徴と動きを持つ伝統的なマオリ族の儀式の踊りです。以下はいくつかの異なるタイプのハカです。

戦争のハカ

戦争のハカ(War Haka)は、ニュージーランドのマオリ族が戦場において行ってきた伝統的なパフォーマンスです。戦士たちが戦闘の前に行うこのハカは、その力強さと情熱的な動きで知られています。

このハカの目的は二つありました。第一に、自分たちの戦士たちの士気を高め、彼らを戦いのために精神的にも肉体的にも準備すること。そして第二に、敵に対して自分たちの力と勇気を示し、彼らを威嚇することでした。

このパフォーマンスの中での強烈な咆哮、舌を突き出す動作、リズミカルな体当たりは、マオリ戦士たちの勇気と力を象徴するものとして、他の部族や敵に対して圧倒的な印象を与えることを意図していました。また、これらの動作は戦士たち自身の戦闘への意気込みや、部族の誇りと結束を高める役割も果たしていました。

現代のニュージーランドでは、戦争のハカは歴史や文化の一部として尊重されており、特定の儀式や記念行事で行われることもあります。これはマオリ文化の重要な伝統の一つとして、今もなお受け継がれているものです。

evidancenews7/YouTube
歓迎のハカ

歓迎のハカ(Welcome Haka)は、ニュージーランドのマオリ文化において、ゲストや訪問者を心温かく迎え入れるための伝統的なパフォーマンスです。これはコミュニティや集団が新しいメンバーや訪問者に対して、敬意を持って、彼らを受け入れる準備ができていることを示すためのものです。

歓迎のハカの動きは、通常のハカよりもゆっくりとしていて、詠唱はメロディアスで歓迎の気持ちを伝えるものとなっています。これは、ゲストがその場所やコミュニティに安全に感じることを確実にするためのものです。

このハカの際には、コミュニティのメンバーやリーダーが主導して行われ、参加する人々は共通の目的と感謝の気持ちを共有します。歓迎のハカは、特定のイベントや式典、あるいは特別なゲストの訪問時に行われることが多いです。この伝統は、マオリ文化の中心的な価値の一つである「マナキタンガ」、すなわち「客人を歓迎する」ことを反映しています。

The Mom Trotter/YouTube
Stuff/YouTube
No Comment TV/YouTube
挑戦のハカ

挑戦のハカ(challenge haka)は、対戦相手に対して挑戦したり、自己の力を示すために演じられるハカの一種です。これは優越性を主張し、相手を威嚇する手段です。挑戦のハカは攻撃的な動きと大声で力強い詠唱が特徴です。

ハカは通常、グループで演じられ、部族の誇り、力、団結を示すパフォーマンスとなります。ハカは踊り、歌、詠唱を組み合わせた複雑なパフォーマンスであり、その文化的な意義と影響は古代から現代のスポーツイベントや結婚式などさまざまな場面で受け継がれ、保持されています。

ハカは伝統的に、戦場で戦士を戦いに精神的にも物理的にも準備するための儀式の一環として、また和平に集まる際にも演じられたとされています。現代でもハカは式典や祝賀の際にゲストを讃え、その場の重要性を示すために使用され、また対戦相手に対して挑戦するためにも利用されています。

Herculean Alliance/YouTube
結婚のハカ

結婚式のハカ(Wedding Haka)は、新しい人生のスタートとしての夫婦の絆を祝うための伝統的なマオリのパフォーマンスです。これは結婚式の一部として行われることが増えてきた近年のトレンドでもあり、新郎新婦に対する深い愛とサポートを表現するための非常に感動的な方法として注目を浴びています。

このハカは、その本来の形とは異なり、ゆっくりとした動きとロマンチックな詠唱が特徴的です。これにより、結婚式の雰囲気にマッチした、より優雅で温かいパフォーマンスが実現されています。

マオリ文化の伝統的なハカは、しばしば男性のみによって行われるものとして知られています。しかし、結婚式のハカでは、この慣習が変わりつつあります。花嫁はもちろん、花嫁付添人やその他の女性のゲストも、花婿やその他の男性ゲストと一緒にこの特別なパフォーマンスに参加することができるのです。このようにして、結婚式のハカは、愛と結束の象徴として、参加者全員による共有の瞬間として捉えられています。

葬儀のハカ

葬儀のハカ(Funeral Haka)は、亡くなった人への最後の敬意として、また生存している家族や友人へのサポートを表現するための伝統的なマオリのパフォーマンスです。このハカは、深い悲しみと尊敬の気持ちを伝えるための非常に強力な方法として、多くの人々に受け入れられています。

一般的なハカとは異なり、葬儀のハカは、その特定の状況と感情を反映するために、よりゆっくりとした動きと、悲しみや哀悼の気持ちを表現する詠唱が特徴的です。このハカは、亡くなった人の人生を讃え、その死を受け入れ、家族やコミュニティの絆を再確認するためのものです。

多くの場合、葬儀のハカは、亡くなった人が生前に所属していたグループやコミュニティによって行われます。これは、その人への敬意を示すと同時に、生きている人々が団結し、一緒に悲しみを乗り越えていく力を見つける手助けとなるものです。

RNZ/YouTube
Rapana Films/YouTube
NZ Defence Force/YouTube
先生への感動的なハカでの追悼

ニュージーランドのパーマストンノース・ボーイズ・ハイスクールで教鞭をとっていたドーソン・タハナ・タマテア先生は、2015年7月20日に惜しまれつつ亡くなりました。

彼の亡くなるというニュースは、学校全体を大きく動揺させました。しかし、その悲しみの中で、学校の生徒たちは一つになり、彼のための特別な追悼色を計画しました。

学校の正門に、1,700人もの生徒たちが整然と立ち並びました。生徒らの目的は、亡くなった先生を乗せた霊柩車の通過を見届けること、そして彼に敬意を表するための「ハカ」を披露することでした。ハカは、伝統的には戦闘の前に行われるマオリの戦闘舞踏であり、相手に力を見せつけ、敵を威嚇するためのものです。しかし、時が経つにつれ、ハカは祝賀や迎賓のための舞としても行われるようになりました。

タマテア先生は、数学や体育だけでなく、ハカの重要性と美しさを生徒たちに教えていました。そして、彼の葬儀の日、生徒たちは彼がかつて教えたこの踊りを、敬意と愛を込めて披露しました。その様子は、生徒たちの声や動きに強く感じられました。生徒らは、敬愛する先生への賛辞として、そして学校の文化的遺産を称えるために、力強いハカを行いました。

学校側は、この感動的な瞬間をキャッチし、YouTubeやFacebookに投稿しました。そのビデオは瞬く間にバイラルとなり、世界中から注目と賞賛を浴びました。それは、生徒たちが情熱とエネルギーを持ってハカを披露する姿、そして彼らの教師への深い尊敬と愛情が伝わってくるからです。

PNBHS/YouTube

政治の舞台でのハカ

ハカは、政治の舞台でも披露されることがあります。

2021年5月、ニュージーランド議会は、マオリ党の共同党首ラウィリ・ワイティティのハカの披露を目の当たりにしました。これは、政治的な舞台でのハカの使用という意味で、非常に象徴的な出来事でした。

ワイティティは、野党がマオリの医療に関する見解を通じて、人種差別的なメッセージを広めていると主張しました。彼の言葉は、先住民であるタンガタ・フェヌアへの直近の人種差別的な言動を非難するものでした。彼はまた、「先住民の権利と意見に関する場合、それらの意見はその先住民のものでなければならない」と明確にしました。

議長であるトレバー・マラードから座るように指示された際、ワイティティは部屋の中央に立ち、力強くハカを披露しました。このハカの表現は、マオリの文化的アイデンティティ、誇り、そして団結を強く象徴していました。

この出来事は、ニュージーランド、特にマオリ社会におけるハカの重要性を再確認しました。ハカは単なる舞踏以上のものであり、文化的な背景や歴史的な意義、そして現代の社会や政治的状況においての意義を持っています。ラウィリ・ワイティティのハカの披露は、政治的な議論や紛争の中でのマオリの声を力強く表現する一つの方法として、その重要性を示しました。

NowThis News/YouTube

社会への問題提起とハカ

ハカは伝統的にマオリ文化の一部として、戦闘や儀式の際に踊られてきましたが、近年、特に若いマオリの人々は、現代の社会的、政治的な問題に対する反応としてハカを使用することが増えています。ハカは力強いエネルギーと感情を伴う動作で、それが現代の問題や事象において強烈なメッセージを伝えるのに役立っています。

「2019年 モスク銃撃事件の反応」

2019年、ニュージーランドクライストチャーチで発生したモスクでの銃撃事件は、多くの人々を深く傷つけました。この悲劇の後、ニュージーランド全土の学生たちが集まり、犠牲者とその家族への支持と愛を示すためにハカを踊りました。このハカは、犠牲者への敬意と哀悼の意を表現するとともに、コミュニティの絆とマオリのアイデンティティを強調しました。

学生たちが公共の場でハカを披露することで、国全体の団結とマオリ文化の力を示すことができました。このような公共の場でのハカのパフォーマンスは、困難な時期において、ニュージーランドの人々が一致団結する力を持っていることを示す強力なシンボルとなりました。

PBS NewsHour/YouTube

女性・子供向けのハカ

ハカはマオリ文化の根幹をなすもので、それは単に戦闘の儀式や歓迎の舞だけでなく、コミュニティや一族のアイデンティティ、歴史、伝説を伝える手段としても用いられてきました。近年、ハカの進化と多様性が増しており、特に女性や子供を対象とした新しいハカが創作されています。

女性と子供向けのハカの特徴

女性や子供向けのハカは、伝統的なハカとは異なる特徴やテーマを持っています。これらは、家族や愛、成長、支援、コミュニティの絆など、より日常的かつ親しみやすいテーマに焦点を当てることが多いです。

文化イベントや競技大会では、これらのハカが演じられることで、マオリ文化の多様性と包括性が強調されます。若い世代や女性がハカを踊ることで、彼らもまたマオリの伝統とアイデンティティを継承していることが示されるのです。

男性と女性のハカのスタイルの違い

ハカのスタイルは性別によって異なることがあります。一般的に、男性のハカは力強く、戦士の精神や勇気を強調するものが多いです。そのため、男性は膝を曲げて低い姿勢を取りながら、広い構えでハカを踊ることが一般的です。

一方、女性のハカは、より優雅で感情豊かなものが多いです。女性は足を肩幅に開いてまっすぐな姿勢でハカを踊ることが一般的です。このスタイルは、女性の役割や感性、コミュニティ内での重要性を反映しています。

このように、ハカは時代とともに進化し続けており、現代のニュージーランド社会の多様性と変化を反映しています。ハカは、マオリ文化が現代のコンテキストでどのように生き続けているかを示す鮮明な例となっています。

Moonah Arts Centre MAC/YouTube

コンテストとハカ

ハカはニュージーランドのマオリ文化の一部として受け継がれてきた伝統的な戦闘舞踏であり、その歴史や背景には深い意味が込められています。近年では、この伝統的な舞踏を祝うコンテストが開催されるようになりました。コンテストはハカの技術や表現力を競う場となっています。

外見上、ハカは一連の動きや声の出し方が似ているように見えるかもしれませんが、実際にはその中には多くの細かい違いや独自性が存在します。コンテストでの評価は以下のような点を基に行われます:

  1. 動き:ハカにおける動きは力強さやエネルギーを伝えるためのものです。動きの正確さや一貫性、そしてエネルギーの伝達方法は重要な評価ポイントとなります。
  2. 発音と声の出し方:ハカは特定の言葉やフレーズを伴って行われるため、正確な発音は必須です。さらに、声の出し方や音の強さ、高さも評価の対象となります。
  3. 感情表現:ハカはただの踊りではなく、その背景には戦士の勇気や部族の誇りなど、深い感情や意味が込められています。そのため、感情の深さや真実性をどれだけ伝えられるかも重要な評価基準です。

ハカのコンテストでは、これらの要素がどれだけ調和しているか、そしてその全体がどれだけ感動的に伝わるかがキーとなります。ハカは、音、動き、言葉が組み合わさった複雑なアートフォームであり、その深さと複雑さはコンテストを通してさらに明らかにされます。

Westlake Boys High School/YouTube

エンターテインメントとハカ

映画やテレビ、アニメーションなどのエンターテインメント分野では、ハカはその強烈なエネルギーと文化的意味合いを持つ要素として取り入れられることが多く、視聴者に感動や共感を与えるための強力なツールとして使用されています。

ジェイソン・モモアのハカ

『アクアマン』のジェイソン・モモアは、彼のポリネシアンのルーツに敬意を表するため、映画のプレミアでハカを披露しました。彼のこの行為は、多くの人々にハカの意味と重要性を再認識させる結果となりました。

hollywoodstreams/YouTube
ドウェイン・ジョンソンのハカ

ドウェイン “ザ・ロック”・ジョンソンは、自らのサモアンの背景を持ち、『ワイルド・スピード ICE BREAK』においてハカを通じて文化的アイデンティティを強調しました。彼のキャラクターがハカを演じることで、スポーツと伝統の間の結びつきや、一体感と力を強調することができました。

Movieclips/YouTube
短編映画『The Haka』

『The Haka』は、ハカの力とその背後にある意味を中心にした短編映画です。第一次世界大戦中の心温まる実話を基に、ハカがどのように人々を結びつけ、違いを超えて心を一つにするかを描いています。

izakariah/YouTube
アニメーション「モアナと伝説の海」

ディズニーの「モアナと伝説の海」は、太平洋の伝説や文化を背景にした物語で、キャラクターのマウイがハカを披露するシーンがあります。このシーンは、マオリ文化を広い視聴者層に紹介すると同時に、ハカが持つ力と情熱を強調しています。

Movie World/YouTube
世界中が注目するマオリ文化の力

ハカは、マオリ文化の象徴としてだけでなく、エンターテインメントの中で感情やメッセージを伝える手段としても活用されています。それにより、ハカという伝統が世界中の人々に知られ、尊重される機会が増えています。

ハカの普遍性と尊重

ハカは、マオリ文化の中心となる伝統的な踊りであり、今日では多くの人々がその力強さと情熱を共有しています。この踊りは、その起源や背後にある意味を尊重しながら行われる限り、年齢や性別、出身を問わず、広く受け入れられています。

ハカがより多くの人々に知られるようになった今、マオリの伝統や文化を尊重し、正確に伝えることがますます重要になっています。ハカを学ぶ際、その歴史や意味、文化的背景を理解することで、踊りが持つ真の価値やエネルギーを共有することができます。

ハカの文化や伝統が次の世代へと続くためには、新しい形やスタイルのハカが作り出されることも重要です。女性や子供たちが参加し、それぞれのハカを演じることで、この伝統は未来へとつながっていくでしょう。

最後に、ハカは単なる踊りではありません。それは人々を結びつける力、過去と未来、祖先とのつながり、そしてマオリ文化の誇りを表現する手段です。正しく尊重し、その価値を理解することで、ハカはこれからもその魅力と意義を保ち続けることでしょう。

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