【世界のスラム街】バンコクの最大最古!高層ビルに囲まれた秘密の街《クロントイ・スラム》

バンコクにある最大かつ最古のスラム、クロントイ・スラム。その人口は12万人とも14万人とも言われ、正確な数は不明ながら、移民や難民、流浪者などが集まる場所でもある。周囲は高層ビルやモダンな建物に囲まれ、タイの経済の中心地であるスクンビット地区と対照的な存在だ。

この記事では、クロントイ・スラムの歴史や現在の様子、そして住民たちの生活環境について詳しく紹介しています。タイ社会の格差問題が浮き彫りになるクロントイ・スラムの魅力に迫ります。

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約10万人が暮らすタイ最大の人口密集地域「クロントイ・スラム」。住民たちの暮らしを丁寧に切り取った写真集。(「BOOK」データベースより)

Khlong Toey Slum

クロントイ・スラム

Coconuts TV/YouTube

クロントイ・スラムは、タイのバンコクにある最大かつ最古のスラムのひとつです。

このスラムには約12万人が住んでいると言われている。ただし、IDを所持していない人々も多く、その数は14万人を超えるとも言われています。このため、正確な人口は把握されていません。また、クロントイ・スラムは出入りが激しく、移民や難民、流浪者などが集まる場所でもあります。

場所は中心部から6kmに位置するクロントイ港の隣で、周囲が高速道路や団地、高層ビルやモダンな建物に囲まれているため、クロントイスラムがスラムであることに気づかない人も多い。

格差のコントラスト

日本人の駐在員と家族が多く住む、クンビット地区から近く、それでいて対照的な存在であることから、両者の対比が浮き彫りになっています。スクンビット地区はタイの経済の中心地であり、高級ホテルやショッピングモール、レストランなどが立ち並んでいます。一方、クロントイ・スラムは貧困層が多く住んでおり、多くの人々が劣悪な環境で生活を余儀なくされています。このような対比から、タイ社会の格差問題が浮き彫りになっているといえます。

クロントイの由来は植物

クロンはタイ語で運河を意味し、トーイは竹の葉に似た植物で、当時のクロントイはトーイの葉が生い茂る湿地帯に位置していたことから名付けられました。クロントイスラムはかつては湿地帯であり、洪水が多発していたことから、運河が発達し、漁業や水運が盛んでした。しかし、その後の都市化や工業化により、水質汚染が進み、現在では漁業も衰退しています。

クロントイ地区

クロントイ地区は直径1.5kmほどの大きさ(面積は約2.2km2)で、内40%が国有地として港湾局が所有している。

クロントイスラムとは「26地区の湾内エリアの総称」

コミュニティは港内地区26カ所、港外地区17カ所の合計43カ所の地区に分かれている。港内地区のうち、クロントイスラムと呼ばれるエリアは約530ライ(1ライ=0.16ha)に約14,050世帯、65,000人が集中的に暮らしている。

家賃は300バーツ程度と比較的安く、そのため特に工場団地に近いエリアでは人口が密集している。また、家を建てると即座に売却されるため、安定的な職業がないため、1軒の家に4~5人がシェアし安価な家賃で暮らすのが主流となっている。

道端にゴミが投棄される劣悪な環境

軒を連ねる平屋建ての建物が、道幅1㍍に住民が入り交じり、慣れた様子で互いにぶつかることなく行き交う。安価な露店や家の玄関が開けっぱなし。全裸の子どもや上半身裸の男性の姿も目立つ。また、下水道や生活ゴミの焼却習慣がなく、ゴミが投棄されたままになる。各家々の電線も整理されておらず、漏電から火事が頻繁に発生している。

そこには寺が2ヶ所、火葬場と納骨堂も整備されているが、納骨堂は経済的に裕福な人に使われている。さらにネット通販などの発達により、スラム内の市場も廃れてきている。

このスラム在住というだけで子どもが虐められたり、就職差別にあったりするなどの状況もある。

Viral Press/YouTube

バンコクで一番危険なエリア

クロントイスラムには、日雇いの労働者だけでなく、貧困層の住民や難民、移民など、さまざまな背景を持つ人々が住んでいます。また、一部の住民が麻薬を使用しているとされており、犯罪も発生しているため、治安の悪さが問題視されています。

DUCK DIGI RECORD/YouTube

頻発する火災

クロントイ・スラムでの火災発生件数が増えた背景には、土地開発計画の噂が関係しているという指摘があります。1993年から1995年にかけては、バンコク市内でオフィスビルやコンドミニアムの建設が進み、クロントイ・スラムでも同様の計画が進められていたとされています。

この状況下で、クロントイ・スラムでの火災発生件数が増加し、放火が疑われるケースもあったと報じられていますまた、98年〜02年にかけては、覚せい剤中毒者が酩酊して夜中に火災が発生するケースも多かったが、近年もまた火災が発生している。

ルーツはクロントイ港の建設

クロントイ地区は、バンコク中心部から東南に位置し、チャオプラヤー川に沿うクロントイ港の港湾工事の進展とともに形成されてきました。

span Image/YouTube
a.k.a バンコク港

バンコク港は、タイの首都バンコクにある主要な海港で、タイ港湾局(Port Authority of Thailand)によって管理されています。クロントイ地区に隣接しているため、クロントイ港とも呼ばれています。

バンコク港は、タイの国際貿易や輸送に重要な役割を果たしており、多くの貨物船やコンテナ船が出入りしています。

クロントイ港建設のために日雇い労働者が殺到

港湾局はクロントイ港の建設に必要な用地としては10%以下しか使用せず、港湾施設以外の空き地は貧しい農民や労働者を集めるために使用されました。政府は全国から出稼ぎ者を呼び寄せ、港湾建設に必要な労働力を確保しました。こうして形成されたスラムは、次第に拡大していきます。

日雇い労働者が住んでいたエリアが次第にスラム化

政府は出稼ぎ者を空き地に住まわせていました。さらに港周辺の公有地は、比較的安い地価であるため、貧しい人々や日雇い労働者などが住居を求めて集まり、質素な家が密集したスラムが形成されていった。

最初は数十世帯であったのが徐々に増えていき、1991年には世帯数が6,000以上に及びました。住宅や暮らし、子どもたちの教育に対する政府の手当てなどはないままに出稼ぎ労働者とその家族の数が増え続けたため、今の「クロントイ・スラム」になってしまった

クロントイの住民たちの生活

クロントイに住む人々の多くは、かつては港湾で働いていた労働者でしたが、港の分散化や機械化により失業し、インフォーマル・セクター(非公式の経済活動)の仕事に転じました。

彼らは主に日雇い業、屋台やタクシードライバー、港湾での積荷の下ろし作業などで生計を立てています。また、廃材の中でリサイクルが可能な木材やアルミを拾い集めて企業に売ったり、車の部品や新聞を拾って売っている人々もいます。

近年では、スラムの人々が主導で行うコミュニティ・ツーリズムも盛んになってきています。

グローバル化!?住民の1割はカンボジア人

最近では、バンコクにおいてカンボジアやミャンマーからの出稼ぎ労働者が増え、クロントイ・スラムでもカンボジアなどからの移民労働者が増加しています。

地区によっては、住民の約1割を占めるほどです。彼らは主に港の荷役や建設現場、清掃、メイド、港湾労働者、建設現場で働く人、など様々な仕事に就いています。長年ここ暮らし、自分で雑貨店や飲食店、屋台を経営する人もいます。

しかし、ラームさん(27歳)のように、家族四人で狭い部屋に住んでいる住民もいるのが現状です。彼女は日給300バーツ(約1,000円)でメイドとして働いていましたが、最近は仕事が見つからないと言っています。また、港湾労働者の夫(31歳)も同程度の日給を得ていますが、仕事がない日もあるため、家計は厳しい状況にあると言えます。

スラムの子ども達の教育のため「1日1バーツ学校」

1968年、ウンソンタム家のプラコーン(現在は改名してミンポン)、プラティープ姉妹は、スラムの子どもたちに教育を提供するために「1日1バーツ学校」という私塾を設立しました。

Foundation for slum childcare/YouTube
「プラティープ・ウンソンタム・秦」

プラティープ・ウンソンタム・秦は、1952年にタイのクロントイスラムに生まれ、幼少期から路上で物売りをして生計を立てていました。しかし、彼女は教育こそが生活を大きく変える原動力であると確信し、姉のミンポン(旧名:プラコーン)とともに1968年に「1日1バーツ学校」と呼ばれる私塾を開きました。

親たちからは一日に10円にあたる1バーツを出してもらい、子どもたちに読み書きを教えるだけでなく、問題に取り組むための結束力を養うことを目指しました。彼女の活動は、マスコミや大学の研究を通じて広く知れ渡り、スラムの問題に対する関心を高めることにつながりました

「ラモン・マグサイサイ賞」

プラティープ先生は1978年8月31日、クロントイスラムにおける「一日一バーツ学校」などの取り組みが認められ、アジアのノーベル賞といわれる「ラモン・マグサイサイ賞」(社会福祉部門)を受賞しました。その奨励金2万ドル(当時のレートで402,500バーツ)を基金として「ドゥアン・プラティープ財団」を設立し、理事長にクリアンサック首相(当時)を迎えました。

「ドゥアン・プラティープ財団」設立

クロントイ地区では、数多くのNGOがスラム改善活動に取り組んでいます。その中でも、最も古くから活動しているNGOの1つが「ドゥアン・プラティープ財団」です。この財団は、クロントイ地区の子どもたちの教育支援や福祉活動、環境改善活動などを行っており、スラム住民たちからも信頼されています。また、同財団の活動は、タイ国内だけでなく国際的な支援も得ています。

スラムの各地に幼稚園を設立

ドゥアン・プラティープ財団は、スラム改善活動として、最初の5年間に以下のような事業を展開しました。

  • スラム内に15か所の幼稚園を設立
  • スラム住民の登録や子どもの出生証明調査、国の登録管理局との連携
  • 奨学金を支給する教育里親事業部の設置
  • 立ち退きを命じられた住民への支援
  • 子どもたちへの給食支援
  • スラム内の上水道や電気設置支援
  • 麻薬犯罪から子どもを守る支援

これらの事業によって、スラム内の子どもたちに教育機会を提供し、健全な生活環境の整備、生活支援を行っています。また、麻薬犯罪から子どもを守る支援も行っており、スラム内の犯罪被害を減らすことにも貢献しています。

プラティープ幼稚園が受け入れた園児は10,000人以上であり、その教育はタイ政府教育省からも高い評価を受けています。2015年には、「園児教育の質が高い」と表彰されました。

「スラムチャイルドケア-財団」設立

プラティープ・ウンソンタム・秦は、1980年に「ロックフェラー賞」を受賞し、受賞金を元に「スラムチャイルドケア-財団」を設立しました。このセンターでは、共働きの両親や家庭内に問題がある子どもたち(0歳から3歳まで)を預かり、安全で健康的な環境の下で育成することを目的としています。

不法だから仕方ない?スラムの住人たちに強制撤去の危機が迫る

クロントイスラムは、タイの首都バンコク市内にある地域で、過去に複数の場所で立ち退きを経験しており、現在の場所は3つ目の場所となります。

クロントイ・スラムの住民たちは、港湾局との対立に直面しています。多くの住民が港湾の土地を不法占拠しており、港湾局が拡大計画を進めることで住民たちの居住地が脅かされることになっています。当初は無秩序にバラックが建ち並び、湿地の上に板きれの道が敷かれていましたが、住民たちは強制撤去の脅威に直面し、これに対して闘ってきました。

スラムは再開発され景色が一変していく

再開発によってスラム地区の景観は変わり、土地分有事業の進展で日本の下町のような街並みに生まれ変わり、セブンイレブンも出店しています。路地裏には花や緑も増え、支援団体が別のスラムで設立した図書館からは、外交官として活躍する人物が生まれるなど、変化が見られます。

しかしながら、依然としてスラム地区に住むことは偏見や差別の対象になることがあります。タクシーは行き先を告げると乗車拒否が日常茶飯事であり、子どもたちはスラム地区外のタイの学校に通っていても、住んでいる場所を隠さなければならない状況が続いています。

スラム地区に住んでいることが知られると、学校で友人を失う可能性など、日常生活に影響を与える問題が続いています。

「都市の浄化」クロントイ・スラムはもうすぐ消える

軍政は、都市の浄化を掲げてインフラ整備を強化し、屋台の撤去を進めるほか、クロントイについても住民の反対を押し切って再開発計画を急ぐ方針とみられる。

この政策により、こうした状況の中で、クロントイスラムが解体され、住民は近隣に建てられる予定の25階建のアパートメントに移住させられる予定となっている。しかし、これには多数の問題があり、家を持っている者は移住の権利があっても間借りしている賃貸生活者は移住の権利がないことや、既に長年の生活で出来上がっているスラムの中のコミュニティが分断される恐れなど、さまざまな懸念がある。

スラムは消えたとしても本質的な問題が山積み

財団を運営しているプラティープは「『スマートシティー』というきれいな開発計画の実態は住民のためというよりは、大企業や投資家のための計画であり、住民は高層マンションに移れるが仕事は保証されない」と述べている。

クロントイスラムでは政府や非政府組織の支援や住民達の結束により、少しずつ改善が見られているものの、抱える問題は山積みである。生活環境面ももちろん、教育面でも課題は多い。小学校への就学率は 98%となっているが、家庭問題や本人の学習意欲が無い為に途中で退学する子どもが約 20%いる。また性行為の乱れや喫煙・飲酒なども問題となっている。

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約10万人が暮らすタイ最大の人口密集地域「クロントイ・スラム」。住民たちの暮らしを丁寧に切り取った写真集。(「BOOK」データベースより)

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