【世界のスラム街】微笑みの国は超格差国家!?バンコクのスモーキーマウンテン《テープラクサー》

バンコクのスラム地区であるテープラクサー地区は、24,000平方メートルの敷地に約700人が暮らし、ゴミの集積地として知られています。この地区には、粗末な家が所狭しと立ち並び、入口には腐敗臭とハエが漂っています。

住民たちは厳しい生活環境に立ち向かいながら、賃金が出来高制でリサイクル業を通じて生計を立てています。記事では、バンコクが発展する一方で、スラム地区に住む人々の貧困や格差問題にも対策が求められていることが示されています。

興味深いバンコクの現実を知りたい方、貧困問題や社会問題に関心のある方には必見の記事です。

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東洋最大のスラム、マニラ市郊外のゴミ捨て場、スモーキー・マウンテン。劣悪な環境下で生きる人々を描くドキュメンタリー。家族のためゴミを拾う子供たちを6年間にわたってフィルムに収めた作品。「TSUTAYA」データベースより)

Thailand’s poverty

超格差国家タイの貧困問題

Economics AltSimplified/YouTube

1980年代初頭にタイの民主主義制度が安定したことで、経済は急速に成長しました。民間部門による開発が拡大し、商業銀行からの開発向け融資が容易に利用できるようになり、社会基盤整備事業が全国的に展開されました。

バンコク都市圏の拡大、中産階級の成長、サービス部門の拡大に伴い、民間の不動産市場も急成長しました。タイの一人当たりの国内総生産(GDP)は、東南アジアではシンガポールとマレーシアに次いで高い水準にあります。

しかし、この経済成長によってタイの国民全員の生活水準が向上したわけではありません。急速な変化に伴って社会にさまざまな歪みが生じました。

世界トップクラス!超格差社会!!

タイは確かに格差社会として知られており、所得格差が広がっていることが懸念されています。クレディ・スイスの2018年の推計によれば、タイでは上位1%の富裕層が持つ富が全体の約67%を占めており、対象40カ国中で最も格差が大きい国でした。ロシアやインド、インドネシアなど、財閥支配が強い国と比べても、タイは格差が顕著です。

Al Jazeera English/YouTube

「首都(バンコク)」と「その他(農村地域)」の二極化

約100年前から外国系企業を受け入れるようになったタイは、工業化によって社会構造が二分化しました。工業化の中心地であるバンコクとその周辺は急速に発展し、経済活動が盛んな都市型社会層が形成されました。

一方で、農村地区では作物が収入源となる従来の農村型社会層が続いており、タイ国内において二極化が進行しています。

Longneck Village
貧困層はほとんどが農村

世界銀行によると、2013年時点でタイの貧困層約730万人のうち、8割以上が農村部に暮らしています。タイの総人口は約6,800万人であり、経済活動が盛んな都市型社会層に属する人々は、バンコクの人口約820万人を含む約1,800万人程度です。

そのため、タイの人口の過半数以上は農村型社会で生活していることになります。このような状況から、タイでは農村部と都市部の格差が大きく、経済発展の恩恵が十分に届いていないことが示されています。

CNA/YouTube
バンコクに富が集中

タイでは富裕層のほとんどがバンコクに集中しています。これにより、農村部と都市部との間で所得格差が拡大しており、タイは貧富の差が大きい国として知られています。

Bangkok 2012
タイの富の約半分がバンコクに!!

タイの名目GDPは約4,000億ドルで、日本のおよそ10分の1程度であり、その約半数がバンコクに集中しています。タイでは、バンコクに人材、物資、資金、情報などの国の経営資源が集中し、極端な偏在が生じています。

その結果、農村部や地方は成長の原資を失い、バンコクとは異なる成長を提供する「第二の都市」や代替案を持つことができませんでした。バンコクは、国家の経営資源をブラックホールのように吸収してしまったと言えます。

この状況は、タイ国内の地域間格差や貧富の差を拡大させる要因となっています。

「なんとかしよう…」政府は多種多様な対策をとるが

タイ政府は、バンコク及び周辺部への一極集中する投資を地方に分散させるため、投資優遇措置の差別化や基盤インフラ・工業団地などの整備、地方に産業集積を作る取り組みを行っています。また、政府主導による地方経済対策も実施しているものの、目立った効果は現れていません。

バンコクと農村の経済格差は拡大する一方で、これが「農村を地盤とするタクシン元首相支持派」と「バンコクを基盤とし、既得権益を握るエリート層」というタイ政治の対立構造を作り出す原因となりました。両者の対立が2014年のクーデターにつながり、現在のプラユット軍事政権が誕生しました。

バンコクの突出した発展は、タイの国内対立や政治紛争の原因となり、2010年に発生した市内中心での本格的な戦闘を引き起こすなど、バンコクの発展自体も制約されるようになっています。

子供の教育格差

1960年代からタイは教育開発の本格的な時代に入りましたが、特に農村とバンコク首都圏の就学率の格差が問題となっていました。例えば、1985年にはバンコクの中学校就学率が9割を超えていたのに対し、全国就学率は90年代初頭でも4割程度にとどまっていました。

2003年の教育省教育委員会の統計によると、大学進学率は35.8%でしたが、この数値は主に都市部での動向です。タイの学校は国立学校・私立学校で構成されており、地方自治体が設置した学校は存在しないため(バンコク都を除く)、農村部では学校が少なかったり、設備が不十分な状況が続いています。

豊かなはずのバンコクの中でも貧困が広がっている

首都バンコク市内では、駅や公共の場で物乞いをして生計を立てている家族や、小さな子供が路上で物品を売っている姿が見られることがあります。これは、貧困や格差が依然としてタイ社会の問題であり、都市部でさえもその影響が広がっていることを示しています。

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スラムを歩いて直視したこれが世界の現実だ!タイ、インド、ケニア、ウガンダ、エジプト…60ヶ国以上を歩いた著者が世界のスラム街に迫る(「BOOK」データベースより)

Poor in Bangkok

首都バンコクの格差問題

CRAIG SCHULER/YouTube

バンコクは、近代的な高層ビルが立ち並び、巨大なショッピングモールやワールドクラスのラグジュアリーホテルが点在する国際都市です。タイ経済の中心地として、「東南アジアのハブ」とも称され、世界中から注目を集めています。

証券取引所や主要金融機関が集まり、500を超える上場企業の本拠地がバンコクにあります。さらに、観光業はタイ経済の重要な分野であり、国内総生産(GDP)の約5%を占めています。

バンコクは、観光客やビジネスマンにとって、アジア地域で重要な都市となっており、タイの発展や国際的なつながりに大きく寄与しています。

強大な人口を誇る大都会

バンコク都の面積は約1,568平方キロメートルで、50の行政区に分かれています。現在、およそ800万人がバンコクに住んでいるとされていますが、戸籍移動がほとんど行われないため、実際の人口はさらに多いと推測されています。

タイ人だけでなく、外国人駐在員や隣国からの移民も含めると、バンコクは1000万人都市とも言われています。このように、バンコクはタイ最大の都市であり、多様な人々が暮らす国際都市となっています。

Bangkok

バンコクの格差

タイでは、所得格差は都市と農村間だけでなく、都市内部でも大きな問題となっています。特にバンコク首都圏では、世帯月平均所得を5分位に区分すると、最も所得の高い第5五分位層が全体の約半分を占めています。このことから、バンコク内部でも所得格差が大きいことがわかります。

さらに、保有資産の格差も大きな問題となっており、金融資産においても顕著です。例えば、100万バーツ(約300万円)を超える金融資産を持つ世帯の割合は4.7%である一方で、1万バーツ未満(約3万円未満)の金融資産を持つ世帯数は29.2%と高くなっています。

バンコクにもスラムが……。

バンコクでは、高層ビルや華やかなショッピングセンターが立ち並ぶ一方で、密集した低層住宅が形成するスラム地区も広がっています。これは、経済格差が拡大し、都市内部での貧困が深刻化していることを示しています。

過去には、タイの経済格差は主に農村部と都市部の間で指摘されていましたが、近年は都市内部での格差がさらに目立つようになっています。これは、都市部での経済成長が一部の富裕層に偏り、一部の住民が高い生活水準を享受する一方で、多くの住民が貧困の中で生活していることを示しています。

都市内部の経済格差が拡大する背景には、教育、雇用、住宅などの社会資源へのアクセスの不平等があるとされています。

バンコクの発展とスラムの切ってもきれない歴史

バンコクは16世紀から貿易の中心地として発展し始め、インド、ヨーロッパ、中国、琉球といった国々との交易が盛んになりました。18世紀後半には、チャクリー王家によって王都として建設され、チャオプラヤー川下流域での政治・経済の中心都市として成長しました。

19世紀に入ると、特に中国との貿易が発展し、中国からの労働者の移住も増加しました。この結果、19世紀後半には急速に移民がバンコクに流入し、都市の領域が拡大するようになりました。

都市の拡大に対応するため、バンコクの為政者は公衆道路の建設や運河の開削に取り組みました。また、市民は公衆道路に接続する小路やチャオプラヤー川に繋がる運河を建設しました。

戦後の経済発展を支えたのが農村の労働者

1960年代にバンコクは工業化が進み、労働力の需要が高まりました。一方で農村部では農業開発が進んではいましたが、商品経済の浸透に伴って消費支出が増加しました。農村部の家庭にとって、消費支出の増加は家計負担となり、その収入を補うために労働力が必要とされました。

この結果、農村部から余剰労働力がバンコクへと流入しました。都市部で働くことによって、家計を支えるための収入を得ることができました。また、バンコクでの労働力需要も満たすことができたため、都市と農村部の双方にとって利益がある状況が生まれました。

1960年代にバンコクは工業化が進み、労働力の需要が高まりました。一方で農村部では農業開発が進んではいましたが、商品経済の浸透に伴って消費支出が増加しました。農村部の家庭にとって、消費支出の増加は家計負担となり、その収入を補うために労働力が必要とされました。

この結果、農村部から余剰労働力がバンコクへと流入しました。都市部で働くことによって、家計を支えるための収入を得ることができました。また、バンコクでの労働力需要も満たすことができたため、都市と農村部の双方にとって利益がある状況が生まれました。

人口拡大で住む場所が不足!スラムが広がっていく

バンコクへの労働者の流入は、都市部で急速な人口拡大を引き起こしましたが、彼らに購入可能な住宅は絶対的に不足し、雇用先も限られていました。

その結果、多くの人々が正式な土地契約がないままに、線路や運河沿いにある寺院やバンコク都、公共機関が所有する公有地に住み始め、バンコクには都市スラムが形成されていきました。

1970年代前半には、不法占拠による住居とその集落の数がピークに達し、バンコクには2,000を超えるスラムが存在しました。これに対処するため、中央政府と地方自治体は、強制撤去を行いスラムの増加を防ぐ試みを開始しました。1980年代は、強制撤去によるスラム排除の時期とも言えます。

しかし、強制撤去を受けたスラム住民は、周辺のスラムや親類を頼ってバンコク都内の別のスラムへと吸収されていったため、スラム問題の根本的な解決には至りませんでした。

5人中1人がスラムの住人

バンコクのスラムは、約200万人が暮らし、都市の人口の4~5人に1人がスラム人口であるとされています。これはタイの格差社会と貧困の象徴であり、富裕層と貧困層の間で教育の格差も固定化し、富の格差の固定化につながっています。

スラム地域では、ベニヤやトタンなどの古材で造られた狭小な家が密集し、インフラ整備が不十分で生活環境が改善されていません。このような環境の中で、親の麻薬中毒や犯罪が子どもたちに影響を与え、麻薬や犯罪に染まりやすくなります。

また、学校を中途退学する子どもも多く、親自身も教育の必要性を理解していないケースが多いため、教育の格差が広がります。さらに、低賃金で過酷な労働環境が、窃盗などの犯罪の原因となっています。

貧困層にとっては生きるためのスラム街

スラム街は、村出身で土地を持たない貧しい人々にとって、生計を立てるために必要な場所です。タイの発展の歴史の中で、これらの人々は都市へ安価な労働力を提供し、経済成長を支える存在となっていました。スラムは、住みやすい場所ではありませんが、雇用機会があるため多くの人々が集まります。

スラムの中もグローバル化

また、近年では隣接するカンボジア、ミャンマー、ラオス、マレーシアからの出稼ぎ労働者も増えてきており、その多くがスラム街で集団生活を強いられています。これらの出稼ぎ労働者もまた、タイ経済を支える労働力の一部となっています。

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インド、フィリピン、ペルー、グアテマラ、エジプト、ケニア、ウガンダ――そのスラムに潜む、希望、貧困、性、子どもと老人、疫病、安寧、犯罪、幸福…。 スラムは富以外のあらゆるものを内包して、まるで生命体のように際限なく成長していく。 世界中のスラム街を鮮烈に撮り下ろした衝撃の写真集。(「紀伊國屋書店」データベースより)

Onnut Waste Disposal Plant

バンコク版スモーキーマウンテン「テープラクサー地区」

Yoshiaki Seto/YouTube

オンヌット地区は、バンコクの一部で、大通りから路地の奥へ進むとテープラクサー地区があります。この地区は、「ゴミ山のスラム」として知られています。ここでは、環境や衛生条件が厳しい中で多くの人々が生活しています。

Thai Garbage Truck

日本人に人気!?「オンヌット」地区

オンヌットエリアは、バンコクの急成長している地域のひとつで、近年、日本人をはじめとする外国人居住者が増えてきています。このエリアは、バンコクの穴場観光スポットとして人気が高まっており、オンヌット駅周辺には見どころがたくさんあります。

開発が進んでいることから、駅前には大きなショッピングモールがオープンし、ショッピングや食事を楽しむことができます。

一方で、地元の魅力を引き続き楽しめる格安のタイマッサージ店や美味しいB級グルメのお店も健在です。これらの要素が組み合わさって、オンヌットエリアは新旧が混在する魅力的な雰囲気を持っています。

観光客には、地元のマーケットやカフェ、バーや屋台料理など、タイの日常を体験できるスポットもおすすめです。オンヌットエリアは、バンコクでの滞在をより充実させるための絶好の場所と言えるでしょう。

TJ Channel Thailand/YouTube

バンコクのゴミ集積場

テープラクサー地区は、バンコクのゴミの集積地となっており、収集車が次々とゴミを運び込んでいます。このスラム地区は約24,000平方メートルの敷地に粗末な家がひしめき合い、約700人が密集して暮らしています。スラムの広さは東京ドームの半分ほどに匹敵します。

入口付近には、清掃車から降ろされたばかりの黒いゴミ袋の山があり、強烈な腐敗臭とハエがたちこめています。狭い路地を抜けると、トタン板や板切れで作られた簡素な家々が所狭しと立ち並んでいます。

それでも、家賃は一ヶ月におおよそ1,000バーツ前後とされています。地面にはゴミが積もっており、歩く際に足がふわりと浮く感覚があります。

バンコクの「スモーキーマウンテン」

1980年代には、バンコクの「スモーキー・マウンテン」として知られていたテープラクサー地区。現在では整備が進み、煙や積み上げられたゴミの山はなくなっています。しかし、ゴミの分別施設などが存在し、その周辺には約200世帯が暮らしています。

住民たちは、リサイクル可能な缶や瓶、ペットボトル、金属類を分別して小遣い稼ぎに励んでいます。賃金は出来高制で、一日平均300バーツ前後を稼いでいます。働いているのは、大半がミャンマー人で、伝統的な顔料のタナカを顔に塗っているため、一目で見分けがつきます。

ミャンマー人が多数住むスラム

テープラクサー地区には、20社のごみ分別業者が存在し、未分別のゴミからペットボトルなどのプラスチック製品を回収し、チップに加工して中国に輸出しています。経営者はいずれもタイ人であり、その下で働くのはミャンマー人労働者です。

タイ人は過酷な仕事を敬遠し、長続きしない傾向があります。地元の非政府組織(NGO)関係者は、「好調なタイ経済を底辺で支えているのは移民労働者だ」と語っています。これは、タイ経済の発展において、移民労働者が重要な役割を果たしていることを示しています。

移民の労働者

1980年代から外資系企業の進出によりタイでは工業化が進み、タイ人の労働力が製造業に流れました。

その代わりとして、ミャンマーやカンボジアからの移民労働者がタイの労働市場に参入し、建設土木、水産業、農業などの分野で最低賃金で働くことになりました。タイ政府も事実上、移民労働者の受け入れを推進してきました。

タイには少なくとも300万人のミャンマー人労働者がいるとされ、外国人労働者の中で最も多いです。次に多いのはカンボジア人で、100万人以上が働いているとされています。これら低賃金で働く移民労働者は、タイ経済にとって欠かせない存在です。

労働者にとっては、母国よりも高賃金を得られるため、不法滞在も後を絶たず、タイ人が嫌がる不衛生な環境や危険な重労働を引き受けることになります。例えば、首都バンコク郊外のゴミ処理場では、強烈な悪臭の中でミャンマー人労働者が働いています。

子供の労働と教育問題

テープラクサー地区には、ミャンマー人向けの学校がなく、そのため子どもたちは教育を受ける機会がありません。一方で、深刻な問題も発生しています。移民の子どもたちは学校に通えず、代わりに大人たちと一緒に働いて日給200バーツ程度をもらっています。

子どもたちが学校に通わず、大人と一緒に働いて低賃金で労働を強いられている状況は、彼らの将来の生活や機会を奪うことになっています。

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東洋最大のスラム、マニラ市郊外のゴミ捨て場、スモーキー・マウンテン。劣悪な環境下で生きる人々を描くドキュメンタリー。家族のためゴミを拾う子供たちを6年間にわたってフィルムに収めた作品。「TSUTAYA」データベースより)

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