この記事では、日本におけるアンダークラスの始まりや、バブル期の非正規労働者の拡大、現代におけるアンダークラスの増加など、アンダークラスに関する様々な問題について解説しています。また、教育格差や犯罪率の増加など、アンダークラスが引き起こす社会問題にも触れています。
さらに、アンダークラスが存在する背景には、単純に資本主義社会が悪いということではなく、経済格差の原因は複雑であることを指摘しています。この記事を読むことで、アンダークラスについて深く理解し、社会問題を考える上での参考になるでしょう。
社会の隙間に生きる人々、最下層アンダークラスの現実を知る《資本主義(5)》
History of Under class
日本におけるアンダークラスの歴史と現状
日本の「アンダークラス」の始まりは明確に定義されているわけではありませんが、一般的には江戸時代末期から明治時代初期にかけて、農村から都市への人口移動が急速に進み、都市部において社会的に弱い立場に置かれた人々が増加したことが、アンダークラスの始まりとされています。
明治時代以降も、貧困層や労働者階級、雇用されていない者、非正規雇用労働者など、社会的弱者の存在は続いています。ただし、近年では格差が拡大する中で、新たなアンダークラスの形成が指摘されるようになっています。
バブル経済とアンダークラスの出現
アンダークラスが増え始めたのは、1980年代末のバブル経済期からとされています。
バブル経済期には、日本の経済が急速に成長し、株価や不動産価格が異常に高騰しました。この時期、経済的繁栄が続く中で、過剰投資や消費が行われました。
高級住宅や高級車、ゴルフ会員権などの豪華な商品が売れ、テーマパークが各地に開業し、スキーブームが起きるなど、消費が活発化しました。大学生カップルでさえも高級ホテルでデートし、高級ブランドのアクセサリーが売れ、接待交際費も大盤振る舞い、高級レストランは連日満席でした。
さらにこの時代は、それまで貧しい生活を送っていた人々にも一時的な富が訪れました。
バブル経済と企業の人件費削減がもたらした形態
バブル期における経済成長は、企業にとって繁栄の時代でしたが、同時に競争が激化し、コスト削減の必要性が高まりました。企業は需要に応じて労働力を増やす必要があったものの、コスト削減を図るために正規雇用に比べて人件費が安い非正規雇用を拡大しました。
パート・アルバイトの非正規労働者が増加
1985年から1990年の間に、正規労働者の増加は145万人にとどまりましたが、非正規労働者は226万人も増加しました。この時期は、バブル経済が進行し、企業は人件費の削減を目指して非正規労働者を積極的に採用する傾向がありました。
その結果、男性の非正規労働者も増加しました。定年後の再雇用を含め、企業で働く男性非正規労働者の典型は、パート・アルバイトや嘱託・契約社員といった形態で働く人々でした。特に、パート・アルバイトの数が嘱託・契約社員の数を上回るようになり、非正規雇用が一般的になっていきました。
あえて非正規雇用を選んだ若者たち!「フリーター」の誕生
従来は一時期に限定されていた非正規雇用が、新卒の若者たちにも広がりました。このような若者たちは「フリーター」と呼ばれるようになりました。フリーターとは、フリー(自由)とアルバイト(仕事)を組み合わせた言葉で、正規雇用ではなく、アルバイトやパートタイムの仕事を続ける若者たちを指します。
フリーターが登場した当初は、自由な時間を確保するために働く若者たちに対して、肯定的なイメージがありました。これは、彼らが自分の時間を使って趣味やスキルアップに励み、自己実現を追求するというライフスタイルを選択していると捉えられていたためです。
しかし、経済状況の悪化や労働市場の変化に伴い、フリーターは選択ではなく、正規雇用が見つからずに非正規雇用に就かざるを得ない若者たちの現実を象徴するようになっていきます。
バブル崩壊によって正規雇用の道が困難になった
バブル崩壊後、景気が低迷し、企業はさらにコスト削減を追求しました。その結果、非正規雇用の拡大が進み、正社員の採用数は減少しました。この状況は、フリーターや非正規雇用者にとって、正社員への転身が困難なものになりました。
正規雇用への転職が難しいことで、フリーターや非正規雇用者は安定した雇用や所得を得る機会を逃し、生活の困窮に陥るリスクが高まりました。また、長期にわたって非正規雇用で働くことで、キャリア形成が難しくなり、将来の年金や福祉が十分に受けられない問題も生じています。
非正規労働者のスキルアップの困難性とその背景
非正規労働者がスキルアップする機会が少ないとされる理由はいくつかありますが、その一つに、時間や金をかけてスキルアップしても、特にメリットがないと考えていることが挙げられます。これは、以下のような理由からです。
- 雇用形態が不安定であるため、将来の収入やキャリアに対する期待が低く、スキルアップへの投資がリターンを得られないと考える。
- 非正規労働者は、正規労働者に比べて職場での研修や教育制度が提供されることが少なく、自己研鑽の機会が限られている。
- スキルアップが評価されず、賃金や昇進につながらないことがあるため、努力が報われないと感じる。
企業側の能力開発投資のメリットの無さ
企業側から見ると、非正規労働者は雇用期間が短く、低賃金で働くことが一般的です。そのため、企業は非正規労働者に対して能力開発に投資する必要性を低く感じることがあります。
そのため、非正規労働者は、正規労働者と比較して能力の向上やキャリアアップの機会が制限されることが多く、長期的なキャリア形成に不利な状況に置かれることがあります。また、非正規労働者は一定期間ごとに雇用契約が更新されるかどうかが不確定なため、生活に不安定さが生じることもあります。
非正規雇用の悪循環、閉ざされた正社員への道
これは深刻な問題になっています。多くの場合、フリーターや非正規雇用者は正社員への道が閉ざされ、一生涯にわたって非正規雇用で働くことが現実となっています。
日本の企業は、特に30代以上の中途退職者やフリーター経験者を正社員雇用することが少なく、彼らが正規雇用に転じる機会が限られています。
かつての若いフリーターたちはそのまま中高年になった…。
かつてフリーターとして働いていた若者たちが年を重ね、中高年層になっても非正規労働者として働くことが続いています。彼らは低い年収や不安定な雇用状況、不十分な福利厚生に悩まされ、将来に対する不安を抱えています。このような状況は、日本の社会的不安を増幅させています。
非正規労働者のアンダークラス化が加速する
90年代半ばまで非正規労働者の中心は、家計補助的なパート主婦であり、男性の非正規労働者は比較的少なかったのですが、時代が経つにつれてその数は増えています。バブル時代のフリーター第1世代やその後の世代が現在のアンダークラスを構成しており、2018年時点で約930万人に上っています。
橋本教授(早稲田大学人間科学学術院)によれば、アンダークラスは今後も増加し、2025年には1000万人を超える可能性があります。また、アンダークラスの多くが子供を持たず、一代限りの人が多いため、中間層の子供たちが新たにアンダークラスに流れ込む可能性が高いとしています。
他人事じゃない!?誰もがアンダークラスになる可能性
今や、普通の中高年男性も非正規労働者になることがある。
その理由は、貯金や年金収入の不足、家族の病気や介護などで貯蓄を失い、定年退職後に職を求める人が増えているためです。再雇用制度を活用して企業に復帰することもありますが、その場合でも非正規雇用が選ばれることが多いとされています。
これは、中高年男性が再就職しやすい職種が非正規雇用であることが多く、企業側も高齢者雇用に対する不安やコスト面の問題から、非正規雇用を選択することが多いためです。
新中間階級や正規労働者階級に属していても、病気や親の介護などで一度会社を辞めてしまうと、アンダークラスから再出発しなければいけないケースも少なくありません。
将来的な「生活保護受給者」予備軍となる?
生活保護は、国や地方自治体が生活困窮者に対して提供する最後のセーフティネットです。アンダークラスの多くが老後に生活保護を受けざるを得ない状況は、社会全体の問題となっています。
就職氷河期の影響で非正規雇用者や無業者が増えたことにより、老後に生活保護を受ける人々も増加することが予想されます。その費用は膨大で、一説によれば17.7兆円から19.3兆円に達すると言われています。
生活保護削減の波紋、アンダークラスに打撃を与える深刻な問題
日本政府が2018年10月から3年かけて生活保護費を段階的に減額することを決定した背景には、財政の健全化を図る目的があります。しかし、この減額によって最大で5%の減額幅となり、67%の生活保護世帯が影響を受けることになりました。これにより、アンダークラスの人々はさらに厳しい生活を強いられることが懸念されます。
対処しなければ、未来が危ぶまれる
このまま格差の拡大が放置され続けると、日本社会に様々な問題が発生します。以下にいくつかの潜在的な弊害を挙げます。
- 人口減少・高齢化の加速: 経済的な困難から結婚や出産を避ける若者が増えることで、出生率が低下し、人口減少と高齢化が加速します。
- 教育格差の拡大: 経済的な困難が子どもの教育環境に影響を与えることで、教育格差が拡大し、将来の人材不足や社会の二極化が進む恐れがあります。
- 社会保障費の増加: 貧困や医療アクセスの問題が深刻化することで、医療費や生活保護費などの社会保障費が増加します。
- 犯罪率の上昇: 経済的な困難や不安定な生活環境が、犯罪率の上昇や不安定な社会につながることがあります。
- 社会の分断: 格差が拡大することで、富裕層と貧困層の間の溝が深まり、社会の分断や対立が生じる可能性があります。
生きるための選択、違法行為に訴えざるを得ない人々。
この中でも特に問題となっているのが犯罪率の増加です。
犯罪率の増加や社会問題が深刻化している背景には、過酷なアンダークラスで生活している人々が、自分たちの生活を維持するためには、時に違法行為に訴えざるを得ないと感じることがあるためです。
例えば高齢者による犯罪や万引きの増加は、生活保護が十分に提供されていないことや、退職後の再就職が難しいことが原因となっています。
経済的な困難や生活の不安定さが、犯罪や抑うつ症状、家庭内の問題などにつながることがあります。日本の子どもの貧困比率が高いことや、子ども虐待死が減少していないことは、格差や貧困が次世代にも影響を与えることを示しています。無差別殺傷事件の犯人が若者や貧困層に多いことは、経済的な不安や精神的なストレスが犯罪につながることを示しています。
資本主義社会におけるアンダークラスの存在と原因
資本主義社会におけるアンダークラスの存在や責任の所在は、多くの要因が複雑に絡み合っているため、一概に特定の場所に求めることは難しいです。以下に、アンダークラスに関連する主な要因を挙げます。
資本主義社会とアンダークラス
資本主義社会では、競争が存在し、個人の努力や選択が結果に反映されることがあります。しかし、経済格差が拡大し、アンダークラスが存在するのは、単純に資本主義社会が悪いわけではありません。社会構造や政策、個人の選択など多くの要因が重なっているため、根本的な原因を特定することは難しいです。
自己責任論の限界
自己責任論は、個人の努力や選択が経済状況や社会的地位に影響を与えると主張する考え方ですが、アンダークラスに対して自己責任論だけを適用することは難しいです。彼らが直面する問題は、複雑な社会構造や政策の問題が絡んでおり、個人の努力だけでは解決できないことが多いです。
競争とアンダークラス
競争は、商品やサービスの質や価格の向上を促し、消費者にとっては利益をもたらします。しかし、競争によって生じる格差が大きくなりすぎると、社会全体に悪影響を与える可能性があります。競争を完全に排除することは困難ですが、社会的弱者に対する支援策を強化し、格差の縮小を図ることが重要です。
格差の原因と対策
経済格差の原因は多岐にわたりますが、お金持ちや資本家が経済格差を拡大する原因の一つではありますが、必ずしも全ての原因ではありません。労働法制度や税制の不公平性、格差拡大につながるグローバル化なども原因として挙げられます。格差を縮小するためには、様々な対策が必要となります。
格差問題に向き合うために私たちができること
以上のように、格差拡大は様々な要因が絡み合っているため、単純な解決策は存在しません。政治的な解決策や経済的な取り組みが必要とされますが、それらには様々な利害関係や意見の相違があるため、容易には実現できないでしょう。また、社会全体の価値観や文化も格差問題に影響を与えていることも忘れてはいけません。ですが、そのような困難な状況であっても、私たち一人ひとりが、少しでもその問題に向き合い、解決するための取り組みを行うことが重要です。
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