明治時代から始まった日本の学校システム、義務教育が労働者育成所と呼ばれる理由《資本主義(3)》

本記事では、資本主義社会における学校教育の役割や、その限界と課題について解説します。学校教育が労働力の育成に重要な役割を果たしている一方で、個々の生徒の才能や創造性を十分に伸ばすことができず、一律的なカリキュラムを提供することが課題となっています。

また、現代社会における急速な技能の変化や文化の多様化により、学校教育が全ての生徒に適切な教育を提供することが難しくなっています。本記事を通じて、学校教育が直面する課題や、より柔軟で個別のニーズに応じた教育が求められていることについて考えてみましょう。

「資本家」or「労働者」? 資本主義社会における成功と安定の選択《資本主義(2)》
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一九九〇年代に、若者の仕事は大きく変貌した。非正規社員の増加、不安定な雇用、劣悪な賃金…。なぜ若年労働者ばかりが、過酷な就労環境に甘んじなければならないのか。それは、戦後日本において「教育の職業的意義」が軽視され、学校で職業能力を形成する機会が失われてきたことと密接な関係がある。本書では、教育学、社会学、運動論のさまざまな議論を整理しながら、“適応”と“抵抗”の両面を備えた「教育の職業的意義」をさぐっていく。「柔軟な専門性」という原理によって、遮断された教育と社会とにもういちど架橋し、教育という一隅から日本社会の再編に取り組む。(「BOOK」データベースより)

Japanese industrial revolution

学校教育の目的と資本主義

軍艦島アーカイブス/YouTube

資本主義の成長に伴い、学校教育は労働力の質を向上させる役割を担うようになりました。教育は、労働者に必要な知識や技能を提供することで、資本主義社会における競争力を向上させることを目的としています。労働者が習得すべき知識や技能は、労働市場で求められるものと密接に関連しており、労働者の価値はそのスキルや知識によって決まります。

資本主義社会では、学歴が収入や地位に大きな影響を与えることが一般的です。高い学歴を持つ人々は、より良い職に就く可能性が高く、経済的な成功を収めることが期待されます。このような状況のもとで、学校教育は労働者のスキルセットを向上させ、競争力を高めるための重要な手段となります。

しかし、学校教育は資本主義社会のニーズに応じて進化してきました。現代の労働市場では、単に専門知識を持つだけでは十分ではなく、創造力や柔軟性、チームワークなどのスキルも重要視されています。これらのスキルを持つ労働者は、変化に対応しやすく、新しい価値を創出できるとされています。

学校教育は、労働者が資本主義社会で成功するために必要な知識と技能を提供することを目指していますが、同時に、個々の能力や才能を伸ばすことも重要です。資本主義のもとでの教育改革は、労働市場のニーズに応じたカリキュラムの開発や、個々の学生が自己実現できる教育環境の整備を目指しています。

学校が労働者を育成する方法

学校は資本主義社会において労働者を育成するためのさまざまな方法を採用しています。

基本的な知識と技能の習得

学校では、読み書きや計算などの基本的な知識や技能を教えることで、生徒が社会で必要とされる最低限のスキルを身につけることができます。これにより、労働者は職業に就く際の基礎を築くことができます。

専門知識の獲得

学校では、専門的な知識を教えることで、生徒が特定の分野で働くためのスキルを習得できるようになります。例えば、医学や工学などの専門的な職業に就くためには、高度な知識と技術が求められます。

社会的スキルの育成

学校では、チームワークやコミュニケーション能力などの社会的スキルを育成することが重要です。これらのスキルは、職場での人間関係や協力を円滑に進めるために必要とされます。

考え方や問題解決能力の向上

学校では、批判的思考や創造性、問題解決能力などの重要なスキルを養います。これにより、労働者は変化する状況に適応し、効率的に仕事をこなすことができます。

就業に向けた準備

学校では、インターンシップや職業訓練プログラムを通じて、生徒が実際の職場での経験を積む機会を提供します。これにより、生徒は労働市場に適応し、自分のキャリアを築くための基礎を身につけることができます。

労働市場に適応するための学校教育

これらの方法を通じて、学校は資本主義社会で求められる労働者を育成しています。労働者が持つべき知識や技能は常に変化しているため、学校教育もそれに応じて進化し続ける必要があります。

日本の産業革命と近代化に伴う労働教育

明治時代(1868-1912年)において、日本は急速な産業革命を経験しました。幕末の鎖国政策から近代化への転換が求められる中、日本は、西洋の技術や制度を導入し、経済・社会の近代化を目指しました。この時期、日本は鉄道、製鉄、造船、繊維などの基幹産業を育て、国際競争力を高めました。

急速な産業革命により、労働者のスキルや知識が求められるようになりました。新しい技術や職種の導入に伴い、従来の職人制度から労働者階級への移行が始まりました。このため、労働者教育が重要な役割を果たすようになりました。

明治時代の労働者教育の取り組み

明治政府は、労働者教育を推進するために、さまざまな施策を実施しました。

教育制度の創設

明治政府は、西欧諸国の教育制度を参考にしながら、国民全体に普及する近代的な教育制度を創設しました。1872年には、学制が制定され、義務教育制度が導入されました。これにより、男女ともに小学校教育を受けることが義務付けられ、一定の読み書きや算術の能力を持つ労働者が増えました。

技術教育の重視

産業革命が進む中で、新しい技術や知識の習得が重要となりました。官営工場や企業が独自の職業教育を行い、技術者や職工を養成しました。また、専門学校や高等学校も設立され、専門技術者の育成が進められました。これにより、新しい技術や産業に対応できる労働者が育成され、産業革命の進展を支えました。

西洋式の教育制度の導入

日本は、産業革命と近代化を進めるために西洋の先進国をモデルにしました。そのため、西洋式の教育制度が導入され、新しい教科や教授法が取り入れられました。これにより、国民は西洋の科学技術や経済知識を習得し、日本の産業革命と近代化を支えることができました。

女性教育の拡大

産業革命と近代化の進展に伴い、女性労働力の需要も増加しました。これに対応して、女性教育も拡大され、女子学校が設立され、女性の社会進出が促されました。

留学生制度

政府は、欧米への留学生を派遣し、西洋の技術や知識を学ばせることで、日本の産業発展を促進しました。帰国後、彼らは技術者や教育者として活躍し、労働者教育に貢献しました。

産業革命と近代化に対応し、技術と知識の向上に貢献してきた

これらの変化により、日本の教育制度は産業革命と近代化に対応し、国民の技術や知識の向上に貢献しました。その結果、日本の経済成長や産業発展が促進され、国際競争力を持つ産業が育成されました。

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産業革命以降の資本主義社会における教育問題

産業革命以降の資本主義社会では、国力の増大が見られましたが、その反面、労働者には大きな犠牲が求められることとなりました。工場労働者として働く人々は、個人の才能やスキルを発揮する機会が減少し、規格化された労働が求められるようになりました。この状況は、教育制度にも影響を与え、規格化された労働者を育成することが目標とされました。

昭和の学校
個人のスキルや才能は不必要?労働者の育成制度

19世紀半ば以降の資本主義社会では、教育制度の整備や普及が進められ、労働力の育成に力が入れられました。しかし、このような教育制度は、個人の自由な発想や才能を十分に尊重しないものであり、人間の本来持っている能力や可能性が抑圧されることがありました。

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義務教育は労働育成所としてスタート

日本では、明治5年(1872年)の学制から義務教育が始まり、その後、戦後の教育基本法の制定によって、義務教育が確立されました。現在では、小学校から中学校までの9年間が義務教育とされており、高等教育の普及も進んでいます。

産業革命以前は、教育は富裕層や特定の階層に限定されていましたが、産業革命によって労働者の需要が急増し、一般庶民にも教育が必要とされるようになりました。その時代の義務教育は、工業化によって発生した社会問題や労働者のニーズに応えるためのものであり、学校は労働者育成所だったとも言えます。

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経営者のためのビジネス教育より忠実な労働者育成

学校教育では、生徒たちに学校のルールを守り、先生の言うことをきちんと聞くことが求められます。これは、現場監督の命令に逆らわない、忠実な労働者の育成に繋がります。その時代の義務教育は、経営者のためのビジネス教育はあまりおこなわれず、工場で指示された仕事を文句ひとつ言わずに黙々と働くことが評価されていました。

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「集団性と同調圧力による個性の抑圧」

学校教育では、集団的な価値観や社会的ルールを身につけることが重視され、同調圧力や集団性が美化される傾向があります。個性や個人主義はあまり重要視されません。

例えば学校にあるチャイムです。授業開始のチャイムが鳴れば、生徒は席につく。そこでは自分にとってまったく興味のない授業でも、次のチャイムが鳴るまで我慢して座り続つづける。どれだけお腹が空いていたとしても、給食の時間という定められた時間の中でしか食べることは許されない。そして、クラスの皆と一緒に決められた時間内に食べ切らないといけない。

このように「時間通りに行動」「集団行動」の2つは義務教育の基本的なルールと言えます。

CH Doramin/YouTube
社会で必要な知識を学ぶ機会が少ない教育システムの問題点

一方で、労働者のための労働法や社会に出て必要な契約に関する教育はほとんど教えられません。しかし、これらの知識は社会に出て働く際に非常に重要となります。労働法は労働者の権利や雇用主の責任を定めており、契約はビジネスや個人間の取引で基本的なルールを設定します。これらの知識が不足していると、労働者が不利益を被ることがあります。

労働者としての幸福を考える社会システム

多くの人が、どんな会社に入って何の仕事をするかを考えることが重要だと考えますが、これは自分がどんな「労働者」になるかということでもあります。学校教育では、税金の仕組みなどについても何も考えなくてもよいシステムが整っています。家庭教育でも、一生懸命勉強して良い学校に入り、安定した会社に就職し、出世することが最高の幸せだと子供たちに教えられます。

Studying for examination.
「優秀な労働者」が人生の目標

結果として、優秀な労働者になり、自分の労働力を資本家に評価してもらい、お金と交換することが人生の目標となってしまうことがあります。

資本主義社会における学校教育の限界と課題

学校教育は多くの人々に基本的な知識や技能を提供する役割を果たしていますが、その限界と課題も存在します。

一つの大きな限界は、学校教育が従来の資本主義社会における労働者育成を主目的としているため、個々の生徒の才能や創造性を十分に伸ばすことが難しいという点です。これにより、生徒たちは自分たちの可能性を最大限に発揮できず、社会全体の創造性や革新性も損なわれることがあります。

また、学校教育は一律的なカリキュラムを提供するため、生徒たちの個別のニーズや興味に応じた柔軟な教育が行われにくいという課題もあります。特に、現代社会では多様な価値観や文化が共存し、情報技術の発展によって知識や技能の変化が加速しているため、学校教育がすべての生徒に適切な教育を提供することは難しくなっています。

さらに、教育の成果を評価するための試験やテストが、生徒たちの学力や能力の全てを測ることができず、一部の知識や技能のみが過度に重視される傾向があります。これにより、試験やテストに過度に焦点を当てた教育が行われ、生徒たちの幅広い知識や技能の育成が疎かにされることがあります。

これらの限界と課題に対処するためには、学校教育の目的や内容を見直し、個々の生徒の才能や創造性を重視した教育を実現することが求められます。また、柔軟で多様なカリキュラムを提供し、生徒たちの個別のニーズや興味に応じた教育を行うことも重要です。さらに、試験やテストに依存しない多面的な評価方法を導入し、生徒たちの幅広い知識や技能の育成を促すことが必要です。

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一九九〇年代に、若者の仕事は大きく変貌した。非正規社員の増加、不安定な雇用、劣悪な賃金…。なぜ若年労働者ばかりが、過酷な就労環境に甘んじなければならないのか。それは、戦後日本において「教育の職業的意義」が軽視され、学校で職業能力を形成する機会が失われてきたことと密接な関係がある。本書では、教育学、社会学、運動論のさまざまな議論を整理しながら、“適応”と“抵抗”の両面を備えた「教育の職業的意義」をさぐっていく。「柔軟な専門性」という原理によって、遮断された教育と社会とにもういちど架橋し、教育という一隅から日本社会の再編に取り組む。(「BOOK」データベースより)
「休むのはずるい」「楽に稼ぐのはずるい」労働者マインドを抜け出して、新しい可能性を見つけよう。《資本主義(4)》

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