本記事は、裕福な国々が環境保護を語りながら、自国のプラスチック廃棄物を貧しい国々に輸出している実態について述べています。プラスチック製品が広く利用される理由や、適切な廃棄方法の不足による環境汚染の問題なども解説しています。
また、中国政府が資源ごみの輸入を大幅に制限したことにより、東南アジア諸国にプラスチックごみが流入し、健康被害の問題が深刻化している現状についても触れています。最後に、日本がプラスチックごみの処理体制を見直すなど、各国の取り組みについても紹介しています。
大量生産・大量消費・大量廃棄がもたらす環境問題と公害問題《資本主義(9)》
Export garbage
裕福な国は貧しい国にゴミを押し付け始めた
裕福な国々は、環境保護を語りながら、自分たちが排出するゴミを貧しい国々に大量に輸出してきました。これは経済成長や都市化が進むことで、自国で発生するゴミの量が急増し、国内で処理出来る能力を超える事態が発生したためです。それに対処するための方法の一つがゴミの輸出でした。
貧しい国では環境基準が緩く、廃棄物処理のコストが安い。裕福な国からのゴミ輸入は、一時的な収入源として魅力的に映るが、適切な処理が行われず、環境や人々の健康に悪影響を及ぼすリスクが高まっている。
特に問題視されているのが、プラスチック廃棄物や有害物質を含む電子廃棄物の不法投棄です。
プラスチック製品の利便性と環境問題のジレンマ
プラスチック製品は私たちの生活において欠かせない存在となっています。
プラスチックは、軽量で丈夫であり、低コストで大量生産が可能であるため、現在、世界中で年間約3億トンのプラスチック製品が生産されており、ペットボトルやレジ袋だけでなく、家電製品、車の部品、建築資材、衣服や家具の一部など、多様な製品に使用されています。
プラスチックは軽量で、耐久性があり、多様な用途に使用できることから、多くの製品や包装材料に取り入れられています。
特に、20世紀の中頃からはじまった、大量生産と大量消費が進む資本主義社会において、プラスチック製品はそのコストパフォーマンスの高さから、広く利用されるようになりました。
環境破壊の原因となるプラスチックゴミ
プラスチック製品の普及がもたらす環境への影響は深刻であり、無視することはできません。自然界で分解されるまでに数百年を要するプラスチックは、不適切な廃棄方法やリサイクルの不足により、地球上に大量に蓄積されています。
- プラスチック生産と化石燃料の消費:プラスチック製品の生産は、原料として石油や天然ガスなどの化石燃料を大量に消費しています。これは地球規模での石油の枯渇やエネルギー資源の過剰消費につながる可能性があります。化石燃料の消費による二酸化炭素排出も、気候変動の悪化に寄与しています。
- プラスチック廃棄物処理の問題点:プラスチック廃棄物処理においても、環境への悪影響が指摘されています。プラスチック製品を焼却することで発生する二酸化炭素や有害物質は、大気汚染や地球温暖化を悪化させる要因となります。
海洋におけるプラスチック汚染の深刻度とその影響
また、廃棄物として捨てられたプラスチックが海洋に流れ込むことで、海洋生態系に深刻な影響を与えています。微細なプラスチック粒子は魚や海洋生物に摂取され、食物連鎖を通じて私たちの食卓にもたらされる恐れがあります。
このようなプラスチックゴミは年間約1億3,000万トンも発生しているとされています。
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日本におけるプラスチック廃棄物処理の現状
日本では年間約900万トンのプラスチック廃棄物が発生しており、廃棄物処理技術が発展していることから、プラスチックごみの有効利用率は8割を超えています。しかし、プラスチック製品の焼却による熱回収やリサイクル名目での海外輸出に依存している問題が指摘されています。
焼却による熱回収とその課題
焼却による熱回収は、プラスチック製品を燃やして発生する熱を利用して発電する方法です。この方法はエネルギーの有効利用を図る一方で、有害物質の排出や二酸化炭素の増加が懸念されています。
焼却による熱回収は、プラスチック製品を燃やして発生する熱を利用して発電する方法です。この方法はエネルギーの有効利用を図る一方で、有害物質の排出や二酸化炭素の増加が懸念されています。
プラスチック廃棄物の海外輸出と環境汚染
2019年には、日本から約90万トンのプラスチックごみが海外に「リサイクル資源」として輸出されましたが、輸出先での適切なリサイクルが行われないことや、不適切な廃棄方法で処理されることが環境汚染を引き起こすケースがあると指摘されています。輸出される廃プラスチックには、リサイクルに適さない品質のものが含まれており、輸出先での適切な処理が難しくなっています。
プラスチック廃棄物輸出の規制と改善策
日本から輸出されるプラスチック廃棄物が環境汚染を引き起こすケースがある要因として、選別や分別の不十分さ、汚染や品質の問題、海外のリサイクル工場の設備や技術の不足が挙げられます。また、プラスチック製品の需要増加や多様化に伴い、リサイクル施設の能力を超えることや処理が難しくなることが課題となっています。
かつて“世界のゴミ箱”と言われた国「中国」
1980年代から中国は、日本、欧米諸国などから廃プラスチックや古紙などの資源ごみを大量に輸入していました。中国国内で適切な分別・加工を行い、新たな製品の原料として再利用することが一般的でした。これにより、中国は世界最大のリサイクル加工国として発展し、資源の有効利用を推進していました。
しかし、これらの輸入資源ごみには、品質の悪いものや適切に分別されていないものも含まれていたことから、環境汚染やリサイクル処理能力を超える問題が発生しました。これを受けて、2018年に中国政府は「国家剣盾2018」政策を発表し、資源ごみの輸入を大幅に制限することを決定しました。この結果、世界各国は中国以外の国への資源ごみ輸出を模索するようになり、資源ごみの国際的な取り扱いが大きく変化しました。
中国のプラスチック廃棄物輸入量とその影響
1988年から2016年までの間に、中国は2.2億トンのプラスチック廃棄物を輸入し、世界全体の約7割を占めていました。2017年には、日本から中国への廃プラスチック輸出量は約140万トンに達しました。
しかし、2017年に中国政府が資源ごみの輸入規制を発表したことで、日本をはじめ多くの国が廃プラスチックの輸出に制限を受けることになりました。このため、日本の廃プラスチックの処理方法に関しても、新たな取り組みが模索されるようになっています。
中国の資源ごみ輸入禁止政策
2018年から、中国は環境への悪影響や健康被害の問題を理由に、24品目の廃棄物の輸入を禁止する政策を開始しました。この政策は、廃プラスチックや古紙、スチールスクラップ、廃鉄、ゴムなどの廃棄物の輸入を制限するもので、輸入が認められる廃棄物の品目も厳しく制限されることになりました。この政策により、資源ごみを輸出していた国々は、新たな処理方法や輸出先を模索することを余儀なくされました。
東南アジア諸国へのプラスチック廃棄物輸出の増加
中国の資源ごみ輸入禁止政策により、先進諸国は急場しのぎで東南アジア諸国に廃プラスチックの輸出先を変更しました。マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシアなどの東南アジア諸国では、プラスチックごみの輸入量が急増し、環境汚染や健康被害の問題が深刻化しています。
ミンカイ村、プラスチックごみで埋もれる
ベトナムのミンカイ村は、プラスチックごみで埋もれていると報告されています。村はハノイから車で1時間の場所にあり、プラスチックごみのリサイクルが主な産業ですが、近年プラスチックごみが増加し、適切な処理方法が確保されていないため、村はプラスチックごみで埋もれる状況となっています。
ベトナムへのプラスチックごみの流入
中国が2017年にプラスチックごみの輸入を禁止したことで、東南アジア諸国にプラスチックごみが流入し、ベトナムにも大量に輸入されました。2018年の最初の6か月には、日本はベトナムに最も多くのごみを輸出した国の1つであり、総量は約410万トンでした。
ベトナム政府のプラスチックごみ対策
ベトナム政府のプラスチックごみ対策 本文26: ベトナム政府はプラスチックごみの問題に取り組む方針を打ち出し、プラスチックごみの使用量削減や分別、リサイクル技術向上などが求められています。また、村などでの適切なプラスチックごみの処理方法の確保も重要な課題となっています。
廃棄物処理専門家の意見
日本の廃棄物処理専門家は、リサイクル村について住民の健康被害や環境汚染が懸念されると指摘しつつ、このような受け皿があることでベトナムではリサイクル資源が資源として流通し、ごみが増えるのを防いでいるとの見解を示しています。
違法なプラスチックごみ輸入
プラスチックごみの中には、日本から違法に輸入されているものもあります。リサイクルできない不純物を2%を超えて含む場合は違法とされています。また、分別が不十分で汚染されたプラスチックごみも問題視されています。
インターポールによる犯罪調査
インターポールは、加盟国の捜査情報をもとにプラスチックごみに関する犯罪を調査し、違法な輸出や受け入れが急増していることを指摘しています。違法なプラスチックごみの輸出や受け入れは、環境に悪影響を与えるだけでなく、国際法に違反することにもなります。
東南アジア諸国でのプラスチックごみ処理の苦慮
進国が東南アジア諸国にプラスチックごみを輸出するようになったことで、東南アジア諸国ではプラスチックごみの処理に苦慮しています。特にマレーシアやインドネシアでは、環境汚染や健康被害が深刻化しています。
強制的なプラスチックごみの送り返し
マレーシアやインドネシアなどの東南アジア諸国では、不適切なプラスチックごみの輸入を防止するために、強制的に送り返す動きが相次いでいます。このような状況を受け、環境や人々の健康を守るための国際的な取り組みが求められています。
マレーシア、違法プラスチックごみを13富裕国に送り返す
マレーシアは、違法なプラスチックごみの輸入に対して強い姿勢を示し、13の富裕国に対して3737トンのプラスチックごみを送り返しました。違法なプラスチックごみ輸入が急増したマレーシアでは、十分な処理施設がなく、大気汚染の深刻化が問題となっています。
送り返された廃プラスチックごみの適切な処理が求められる
マレーシアで送り返された廃プラスチックごみは、国内の200以上の工場から回収されたものも含まれており、その後の適切な処理が求められています。これにより、環境や人々の健康を守るための国際的な取り組みが一層重要になっています。
バーゼル条約で汚染された廃プラスチックの規制が決定
2019年のバーゼル条約の国際会議で、汚染された廃プラスチックを規制対象にすることが決定されました。これにより、プラスチックの大量消費国が、廃棄物を他国に押しつけることが難しくなりました。
プラスチックごみの発生量削減と国内リサイクルが求められる
締約国は、プラスチックごみの発生量削減と国内リサイクル処理能力の強化を目指しています。日本では、環境省がプラスチックごみの処理体制を見直し、各自治体でも分別やリサイクルに関する取り組みが進んでいます。企業や消費者も、プラスチック使用量の削減やリサイクルに取り組むことが求められます。
今後、持続可能なプラスチックの使用と廃棄に向けて、国際的な取り組みが進むことが期待されます。これにより、環境への悪影響を減らすことができ、より持続可能な社会を実現することが可能になります。
紙面【総合】有害廃棄物の輸出入を制限する「バーゼル条約」の締約国会議は、汚れた廃プラスチックを規制の対象に加える改正条約を採択した。廃プラスチックの国内処理を増やすことが急務。ほか 詳しくは本日(5月12日付)東京新聞朝刊にて pic.twitter.com/kd78GdfCkz
— 東京新聞ほっとWeb オフィシャル (@tokyohotweb) May 11, 2019
https://t.co/vwnJCSCujD 有害廃棄物の国境を越えた移動を規制する #バーゼル条約 に、汚れた廃プラスチックを加えることが決まりました。背景には、#プラスチックごみ の海洋汚染問題などがあります。フォトギャラリーでどうぞ。(諫) #マイクロプラスチック #plasticgarbage pic.twitter.com/rJdrgzyd6l
— 朝日新聞 映像報道部 (@asahi_photo) May 20, 2019
アメリカはバーゼル条約に調印せず
ラスチックゴミの世界最大の輸出元である欧州連合(EU)と比べ、国単位ではアメリカが最大の輸出国となっています。しかし、アメリカはバーゼル条約に調印していません。
アメリカはOECD理事会のガイドラインに従っている
アメリカは、バーゼル条約に批准していないものの、OECD(経済協力開発機構)理事会の輸出入に関するガイドラインを設定しています。このガイドラインにより、リサイクルが目的である場合、アメリカを含む非加盟国からのプラスチックごみの輸入が可能となっています。この制度を通じて、アメリカはプラスチックごみの取り扱いに関する国際的な取り組みに一定の配慮を示しています。